説明

安定化されたポリエン−ポリチオール系硬化性樹脂組成物

【課題】液体状態での保存安定性が良く、幅広い配合比率で使用可能なポリエン−ポリチオール系光硬化性樹脂組成物の提供。
【解決手段】チオール化合物と、不飽和二重結合基を2個以上有するエチレン性不飽和二重結合含有化合物と、一般式(1)


(式中、R5〜R8は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、R5〜R8のうち少なくとも2つはヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基である。)
で示される化合物を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版やカラープルーフ、カラーフィルタ、ソルダーレジスト、光硬化インクなどの分野に使用することのできる保存安定性が改善されたポリエン−ポリチオール系光硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性樹脂組成物は、印刷版やカラープルーフ、カラーフィルタ、ソルダーレジスト、光硬化インクなど様々な方面で用いられている。特に近年、これらの用途を含め環境問題、省エネルギー、作業安全性、生産コスト等の観点から光硬化性樹脂組成物の最たる特徴である常温硬化性・即乾性・無溶剤等が注目され、感光性組成物について数多く研究、開発が進められている。カラーフィルタの開発では生産性の向上や高精細化を目的としてカラーフィルタ用顔料分散型レジストの検討が進められている。また、カラープルーフや印刷版では製版の高速化・高精細化を目的として開発が進められている。また、プリント基板のためのソルダーレジストも検討されている。
【0003】
これらの用途において光硬化系樹脂組成物に対する要求は高まっており、より低いエネルギーで硬化するもの、より速く硬化するもの、より精細なパターンを形成できるもの、より深い硬化深度を持つもの、より保存性能の高いものが求められている。光硬化系樹脂組成物は主に、光重合開始剤組成物と、重合反応により硬化するエチレン性不飽和結合を有する化合物及び各種添加物とから構成され、用途に応じて様々な種類のものが用いられる。
【0004】
これら光硬化性組成物には、高感度、高密着性などの理由から、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプロプロピオネート)(商品名:QX40,三菱化学(株)製)などのチオール化合物が使用されている。
しかし、チオール化合物を用いた光硬化性樹脂組成物は高感度である反面、反応性が高過ぎるために保存安定性が犠牲になるという問題があった。
【0005】
特開2010−024255号公報(特許文献1)には、分子内に3個以上のエチレン性不飽和基を有するウレタン(メタ)アクリレート系化合物、チオール化合物及びシリカを含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が記載されており、塗膜硬度や硬化性に優れることを示しているが、保存安定性については検討されていない。
【0006】
特開2009−051936号公報(特許文献2)には、ジエン化合物とメルカプト基を含有する有機シラン化合物を反応して得られる化合物(A)と、チオール化合物(B)を含有する硬化性組成物が開示され、良好な硬化性を有し、かつ貯蔵安定性に優れた硬化物が提供されることが記載されているが、長期の保存安定性を得るには不十分なものであった。
【0007】
特開2008−184514号公報(特許文献3)には、アルコキシシラン類を加水分解及び縮合して得られる縮合物と、二級チオール基を有する化合物を含有する紫外線硬化性樹脂組成物が記載されているが、保存安定性の評価が室温で30日間と温和な条件で行われており、高温で長期の保存安定性を得るには不十分なものであった。
【0008】
特表平8−504879号公報(特許文献4)には、安定化システムを有するチオール−エン組成物が開示され、該安定化システムの選択肢の一つとして、4−メトキシフェノール、ハイドロキノン、ハイドロキノンのモノアルキルエステル、ベンゾキノン、ナフトキノン等の遊離ラジカル捕集剤を用いることが記載されている。さらに、好適な遊離ラジカル捕集剤は、4−メトキシフェノールであることが記載されているが、実用化するにあたり、4−メトキシフェノールやナフトキノンでは安定化効果は低く、高温で長期の保存安定性を得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−024255号公報
【特許文献2】特開2009−051936号公報
【特許文献3】特開2008−184514号公報
【特許文献4】特表平8−504879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、高感度で、保存安定性に優れ、かつポリエン、ポリチオールの幅広い配合比率で使用可能な光硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、チオール化合物と、エチレン性不飽和二重結合含有化合物と、安定剤として特定のナフタレン骨格を有する化合物とを含有する光硬化性樹脂組成物により、ポリエン−ポリチオール系光硬化性樹脂組成物の特徴である光硬化時の高感度特性を維持したまま、保存中のエン−チオール反応を抑制してゲル化を防止し、良好な保存安定性を得ることが可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[10]に記載のポリエン−ポリチオール系光硬化性樹脂組成物に関する。
[1] チオール化合物と、不飽和二重結合基を2個以上有するエチレン性不飽和二重結合含有化合物と、一般式(1)
【化1】

(式中、R5〜R8は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、R5〜R8のうち少なくとも2つはヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基である。)
で示される化合物を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
[2] 前記一般式(1)で示される化合物中のR5〜R8が各々独立して、水素原子、メチル基、ヒドロキシル基またはメトキシ基を表し、R5〜R8のうち少なくとも2つがヒドロキシル基またはメトキシ基である前記[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
[3] 前記一般式(1)で示される化合物が、4−メトキシ−1−ナフトール、1,4−ジメトキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4−メトキシ−2−メチル−1−ナフトール、4−メトキシ−3−メチル−1−ナフトール、1,4−ジメトキシ−2−メチルナフタレン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,2−ジヒドロキシ−4−メトキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシ−4−メトキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシ−2−メトキシナフタレン、1,4−ジメトキシ−2−ナフトール、及び1,4−ジヒドロキシ−2−メチルナフタレンから選ばれる、1種または2種以上の化合物である前記[1]または[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
[4] 前記一般式(1)で示される化合物が、4−メトキシ−1−ナフトールである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[5] 前記一般式(1)で示される化合物の含有量が、チオール化合物とエチレン性不飽和二重結合含有化合物の総質量に対して、1〜20000wtppmである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[6] 前記チオール化合物が一般式(2)
【化2】

(式中、R1及びR2は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10の芳香族基を表し、mは0〜2の整数であり、nは0または1である。)
で示される基を2個以上有するチオール化合物であり、前記エチレン性不飽和二重結合含有化合物が一般式(3)
【化3】

(式中、R3及びR4は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10の芳香族基を表す。)
で示される基を2個以上有するエチレン性不飽和二重結合含有化合物である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[7] 前記一般式(2)で示される基中のR1及びR2の一方が、炭素数1〜10のアルキル基を表し、他方が水素原子を表す前記[6]に記載の硬化性樹脂組成物。
[8] 前記チオール化合物が、一般式(4)
【化4】

(式中、R1、R2、m、及びnは上記と同義である。)
で示されるメルカプト基含有カルボン酸と多官能アルコールとのエステル化合物である前記[1]〜[7]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[9] 前記多官能アルコールが、分岐していてもよい炭素数2〜10のアルキレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ノルボルネンジメタノール、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)フェニル]プロパン、水素化ビスフェノールA、4,4’−(9−フルオレニリデン)ビス(2−フェノキシエタノール)及びトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートから選ばれる化合物である前記[8]に記載の硬化性樹脂組成物。
[10] 前記一般式(3)で示される基を2個以上有するエチレン性不飽和二重結合含有化合物が、アクリル、メタクリル、ビニル及びアリル化合物から選択される1種以上の反応性二重結合を有する化合物である前記[6]に記載の硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエン−ポリチオール系光硬化性樹脂組成物は、非常に優れた保存安定性を有し、安定剤の添加によっても組成物の反応性が阻害されることなく、ポリエン、ポリチオールの幅広い配合比率で使用可能なことから、印刷版やカラープルーフ、カラーフィルタ、ソルダーレジスト、光硬化インクなど多方面の用途において有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
本発明に用いるチオール化合物は−SH基を有する化合物であり、好ましくは−SH基を2個以上有する化合物であり、より好ましくは−SH基を2〜4個有する化合物である。
本発明に用いるチオール化合物は特に限定されないが、好ましくは一般式(2)
【化5】

で示される基を2個以上有するチオール化合物である。
【0015】
上記一般式(2)中、R1及びR2は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10の芳香族基を表す。
【0016】
1及びR2が表す炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0017】
1及びR2が表す炭素数6〜10の芳香族基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、エチルフェニル基、1,3,5−トリメチルフェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0018】
mは0〜2の整数を表し、好ましくは0または1である。
nは0または1を表し、好ましくは0である。
さらに、m+nは1が好ましい。
【0019】
本発明に用いるチオール化合物としては、R1及びR2のうち、少なくとも一方が炭素数1〜10のアルキル基である、2級または3級チオール化合物が好ましい。さらに、光感度や保存安定性を望む範囲に調整する等の観点から、R1及びR2の一方が水素原子であり、他方が炭素数1〜10のアルキル基である2級チオール化合物がより好ましい。
【0020】
本発明に用いるチオール化合物としては、一般式(4)
【化6】

で示されるメルカプト基含有カルボン酸と多官能アルコールとのエステル化合物が好ましい。
上記一般式(4)中、R1、R2、m、及びnは上記と同義である。
【0021】
多官能アルコールとは、ヒドロキシル基を2個以上有する化合物のことである。
多官能アルコールの具体例としては、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの分岐していてもよい炭素数2〜10のアルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ノルボルネンジメタノール、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)フェニル]プロパン、水素化ビスフェノールA、4,4’−(9−フルオレニリデン)ビス(2−フェノキシエタノール)及びトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートが挙げられる。
【0022】
好ましい多官能アルコールは、2〜4官能のアルコールであり、より好ましくは1,4−ブタンジオール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンである。
【0023】
本発明に用いるチオール化合物の具体例としては、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−プロピレングリコール(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトブチレート)、1,2−プロピレングリコール(3−メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチレート)、エチレングリコールビス(2−メルカプトイソブチレート)、1,2−プロピレングリコールビス(2−メルカプトイソブチレート)またはトリメチロールプロパントリス(2−メルカプトイソブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ビスフェノールAビス(3−メルカプトプロピオネート)、ビスフェノールAビス(3−メルカプトブチレート)、トリフェノールメタントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリフェノールメタントリス(3−メルカプトブチレート)が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。少ない露光量で硬化しやすく、かつ本発明により得られる安定性の効果が大きいなどの理由から、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタンを好ましく用いることができる。
【0024】
本発明に用いるチオール化合物は、市販品として容易に入手することもできる。市販品として入手可能なチオール化合物は、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(商品名:QX40,三菱化学(株)製)、商品名:QE−340M,東レ・ファインケミカル(株)製、エーテル系一級チオール(商品名:カップキュア3−800,コグニス(Cognis)社製)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン(商品名:カレンズMT BD1,昭和電工(株)製)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(商品名:カレンズMT PE1,昭和電工(株)製)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(商品名:カレンズMT NR1,昭和電工(株)製)等である。
【0025】
本発明に用いるエチレン性不飽和結合を有する化合物は、一般式(3)
【化7】

で示される基を2個以上有するエチレン性不飽和二重結合含有化合物である。
上記一般式(3)中、R3及びR4は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10の芳香族基を表す。
【0026】
3及びR4が表す炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0027】
3及びR4が表す炭素数6〜10の芳香族基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、エチルフェニル基、1,3,5−トリメチルフェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0028】
本発明に用いるエチレン性不飽和結合を有する化合物は、一般にモノマーやオリゴマーと呼ばれるものであり、ラジカル重合(または架橋)反応により硬化可能な化合物である。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加トリ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールプロピレンオキサイド付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、トリアリルイソシアヌレート、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、トリフェノールメタンアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。露光感度及び硬化後の諸耐性から多官能(メタ)アクリル系モノマーが好ましい。これらエチレン性不飽和結合を有する化合物は、単独または2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、「(メタ)アクリレート」とは、「メタクリレート」、「アクリレート」のいずれをも意味する。
【0029】
本発明では、保存時の重合を防止する目的で安定化剤を添加する。安定化剤を添加しない場合には、反応性の高いポリエン−ポリチオール系硬化性樹脂組成物の保存安定性が得られない。
【0030】
本発明では安定化剤として、一般式(1)
【化8】

で示される化合物を使用する。
上記一般式(1)中、R5〜R8は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。
【0031】
5〜R8が表す炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0032】
5〜R8が表す炭素数1〜3のアルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、iso−プロポキシ基が挙げられ、好ましくはメトキシ基である。
5〜R8のうち少なくとも2つはヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基であり、より好ましくはR5〜R8のうちの2つがヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基である。
【0033】
一般式(1)で示される化合物としては、ヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基が1,4位、2,3位、または1,2位にある化合物がラジカル共鳴構造をとることができるため好ましい。上記化合物は芳香族性を示し、化合物単体の安定性も高いためである。化合物入手の観点から、置換位置は1,4位がより好ましい。
【0034】
具体例としては、4−メトキシ−1−ナフトール、1,4−ジメトキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4−メトキシ−2−メチル−1−ナフトール、4−メトキシ−3−メチル−1−ナフトール、1,4−ジメトキシ−2−メチルナフタレン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,2−ジヒドロキシ−4−メトキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシ−4−メトキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシ−2−メトキシナフタレン、1,4−ジメトキシ−2−ナフトール、1,4−ジヒドロキシ−2−メチルナフタレンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも4−メトキシ−1−ナフトール、1,4−ジヒドロキシナフタレンが、組成物の保存安定性及び反応性の観点からより好ましい。
【0035】
チオール化合物とエチレン性不飽和二重結合含有化合物の配合比率は特に限定されないが、エチレン性不飽和二重結合含有化合物のC=C二重結合基総量に対して、チオール化合物のチオール基総量のモル比が、0.0001〜1であることが好ましく、0.001〜0.5であることがより好ましく、0.01〜0.1であることがさらに好ましい。
【0036】
安定化剤の量は、チオール化合物とエチレン性不飽和二重結合含有化合物の総質量に対して、1〜20000wtppmが好ましく、10〜10000wtppmがより好ましく、50〜5000wtppmがさらに好ましい。一級チオール化合物に比べて反応性の低い、二級または三級チオール化合物の場合には、1〜2000wtppmが好ましく、10〜1000wtppmがより好ましく、50〜500wtppmがさらに好ましい。また、一級チオール化合物の場合には、10〜20000wtppmが好ましく、100〜10000wtppmがより好ましく、500〜5000wtppmがさらに好ましい。安定化剤の量が1wtppmより少ないと安定化効果が十分でなく保存中にゲル化し、安定化剤の量が20000wtppmより多いと光硬化時の硬化性が悪化する傾向がある。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の硬化性樹脂組成物を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0038】
[保存安定性試験]
実施例1:
ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(PE1,昭和電工(株)製,SH当量139g/eq)5.9gと、トリメチロールプロパントリアクリレート(ライトアクリレートTMPA,共栄社化学(株)製,C=C二重結合当量99g/eq)4.1gを、エチレン性不飽和二重結合含有化合物のC=C二重結合基総量に対して、チオール化合物のチオール基のモル比が1となるように混合した。さらに安定化剤として、4−メトキシ−1−ナフトール(東京化成工業(株)製)を0.02g(2000wtppm)添加した。この組成物を60℃に加熱し、ゲル化するまでの日数を測定したところ、120日間ゲル化しなかった。
ゲル化の判定方法は保存している瓶を傾けて、堆積物が目視されればゲル化と判断した。
【0039】
実施例2:
4−メトキシ−1−ナフトールを0.003g(300wtppm)使用したこと以外は、実施例1と同様の安定性試験を行ったところ、90日以上ゲル化しなかった。
【0040】
実施例3:
4−メトキシ−1−ナフトールを用いる代わりに、1,4−ジヒドロキシナフタレンを0.02g(2000wtppm)使用したこと以外は、実施例1と同様の安定性試験を行ったところ、30日以上ゲル化しなかった。
【0041】
比較例1〜8:
4−メトキシ−1−ナフトールの代わりに、安定化剤として表1に示す2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル−p−クレゾール)(比較例1)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(比較例2)、4−メトキシフェノール(比較例3)、メチルヒドロキノン(比較例4)、フェノチアジン(比較例5)、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩(比較例6)、及び2,2,6,6−テトラメチルピペリジンー1−オキシル(比較例7)を0.02g(2000wtppm)添加するか、安定化剤を使用しない(比較例8)こと以外は、実施例1と同様の安定性試験を行った。その結果を表1に示す。表中、「○」は「ゲル化せず」、「×」は「ゲル化」、「−」は「未測定」を意味する。
【0042】
【表1】

【0043】
[アクリル反応率の測定]
実施例4:
ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(PE1)を5.9gとトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPA)を4.1g、エチレン性不飽和二重結合含有化合物のC=C二重結合基総量に対して、チオール化合物のチオール基総量のモル比が1となるように混合した。安定化剤として、4−メトキシ−1−ナフトールを0.003g(300wtppm)添加した。さらにラジカル開始剤として、IRG184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を0.1g添加した。これをNaCl板に膜厚30μmで塗布した後、露光量360mJ/cm2照射してフィルムを成形した。そのフィルムのアクリル反応率を測定した。測定方法はFT−IRを用いて、アクリル基のピークである810cm-1の面積変化率により、アクリルの反応率を測定した。その結果、アクリル反応率は94%であった。
【0044】
比較例9:
実施例4の4−メトキシ−1−ナフトールを添加しないこと以外は同じ方法にて、アクリル反応率を測定した。その結果、アクリル反応率は92%であり、実施例4と同程度であった。
【0045】
[PE1とTMPAとの配合比率と保存安定性の関係]
実施例5〜11:
表2に示すように、PE1とTMPAを配合比率を変えて混合し、さらに安定化剤として4−メトキシ−1−ナフトールを添加して、40℃にて安定性試験を行った。安定性試験及びゲル化の判定は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。表中、「○」は「ゲル化せず」、「×」は「ゲル化」、「−」は「未測定」を意味する。
【0046】
【表2】

【0047】
実施例12〜14、比較例10〜12:
表3に示すように、PE1とTMPAを配合比率を変えて混合し、さらに安定化剤として4−メトキシ−1−ナフトールを添加した。この組成物を80℃に加熱して、ゲル化するまでの日数を測定した。表中、「○」は「ゲル化せず」、「×」は「ゲル化」、「−」は「未測定」を意味する。ゲル化の判定は実施例1と同様に行った。
【0048】
【表3】

【0049】
[PE1とTMPとの配合比率と保存安定性の関係]
実施例15〜18、比較例13〜16:
表4に示すように、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(PE1)と、トリメチロールプロパントリメタクリレート(ライトエステルTMP,共栄社化学(株)製,C=C二重結合当量113g/eq)(TMP)との配合比率を変えて添加、混合し、さらに安定化剤として、4−メトキシ−1−ナフトール(東京化成工業(株)製)を添加して、40℃にて安定性試験を行った。安定性試験及びゲル化の判定は実施例1と同様に行った。結果を表4に示す。表中、「○」は「ゲル化せず」、「×」は「ゲル化」、「−」は「未測定」を意味する。
【0050】
【表4】

【0051】
実施例19〜21、比較例17〜19:
表5に示すように、PE1とTMPを配合比率を変えて混合し、安定化剤として4−メトキシ−1−ナフトールを添加した。この組成物を80℃に加熱して、安定性試験を行った。この組成物の混合直後の初期粘度と1日後の粘度を測定した結果を表5に示す。粘度は、E型回転粘度計(デジタルレオメータ型式DV−III ULTRA、BROOKFIELD社製)を使い、半径24mm、角度3°のCP−41型コーンプレート型センサを使って回転数0.5〜30rpm(粘度によって変える)にて、25.0℃での粘度を測定した。表中、「×」は「ゲル化」、数値は「粘度」を意味する。
【0052】
【表5】

【0053】
[PE1とTAICとの配合比率と保存安定性の関係]
実施例22〜24、比較例20〜22:
表6に示すように、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(PE1)と、トリアリルイソシアヌレート(TAIC,東京化成工業(株)製,C=C二重結合当量83g/eq)(TAIC)との配合比率を変えて添加混合し、さらに安定化剤として、4−メトキシ−1−ナフトール(東京化成工業(株)製)を添加して、40℃にて安定性試験を行った。安定性試験及びゲル化の判定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。表中、「○」は「ゲル化せず」、「×」は「ゲル化」、「−」は「未測定」を意味する。
【0054】
【表6】

【0055】
実施例25〜27、比較例23〜25:
表7に示すように、PE1とTAICを配合比率を変えて混合し、安定化剤として4−メトキシ−1−ナフトールを添加した。この組成物を80℃に加熱して、安定性試験を行った。この組成物の混合直後の初期粘度と14日と40日後の粘度を測定した。粘度は、E型回転粘度計(デジタルレオメータ型式DV−III ULTRA、BROOKFIELD社製)を使い、半径24mm、角度3°のCP−41型コーンプレート型センサを使って回転数0.5〜30rpm(粘度によって変える)にて、25.0℃での粘度を測定した。表中、数値は「粘度」を意味する。
【0056】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のポリエン−ポリチオール系光硬化性樹脂組成物は、高感度で、かつ非常に優れた保存安定性を有し、印刷版やカラープルーフ、カラーフィルタ、ソルダーレジスト、光硬化インクなど多方面の用途において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール化合物と、不飽和二重結合基を2個以上有するエチレン性不飽和二重結合含有化合物と、一般式(1)
【化1】

(式中、R5〜R8は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、R5〜R8のうち少なくとも2つはヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基である。)
で示される化合物を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)で示される化合物中のR5〜R8が各々独立して、水素原子、メチル基、ヒドロキシル基またはメトキシ基を表し、R5〜R8のうち少なくとも2つがヒドロキシル基またはメトキシ基である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)で示される化合物が、4−メトキシ−1−ナフトール、1,4−ジメトキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4−メトキシ−2−メチル−1−ナフトール、4−メトキシ−3−メチル−1−ナフトール、1,4−ジメトキシ−2−メチルナフタレン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,2−ジヒドロキシ−4−メトキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシ−4−メトキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシ−2−メトキシナフタレン、1,4−ジメトキシ−2−ナフトール、及び1,4−ジヒドロキシ−2−メチルナフタレンから選ばれる、1種または2種以上の化合物である請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)で示される化合物が、4−メトキシ−1−ナフトールである請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)で示される化合物の含有量が、チオール化合物とエチレン性不飽和二重結合含有化合物の総質量に対して、1〜20000wtppmである請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記チオール化合物が一般式(2)
【化2】

(式中、R1及びR2は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10の芳香族基を表し、mは0〜2の整数であり、nは0または1である。)
で示される基を2個以上有するチオール化合物であり、前記エチレン性不飽和二重結合含有化合物が一般式(3)
【化3】

(式中、R3及びR4は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10の芳香族基を表す。)
で示される基を2個以上有するエチレン性不飽和二重結合含有化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記一般式(2)で示される基中のR1及びR2の一方が、炭素数1〜10のアルキル基を表し、他方が水素原子を表す請求項6に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記チオール化合物が、一般式(4)
【化4】

(式中、R1、R2、m、及びnは上記と同義である。)
で示されるメルカプト基含有カルボン酸と多官能アルコールとのエステル化合物である請求項1〜7のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記多官能アルコールが、分岐していてもよい炭素数2〜10のアルキレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ノルボルネンジメタノール、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエチルオキシ)フェニル]プロパン、水素化ビスフェノールA、4,4’−(9−フルオレニリデン)ビス(2−フェノキシエタノール)及びトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートから選ばれる化合物である請求項8に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記一般式(3)で示される基を2個以上有するエチレン性不飽和二重結合含有化合物が、アクリル、メタクリル、ビニル及びアリル化合物から選択される1種以上の反応性二重結合を有する化合物である請求項6に記載の硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−17448(P2012−17448A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17827(P2011−17827)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】