説明

安定化された農薬固形製剤組成物

【課題】有効成分化合物の保存安定性が優れた農薬固形製剤組成物、及び、農薬固形製剤を提供する。
【解決手段】(a)有効成分化合物が4−アセトキシ−6−tert−ブチル−2,3−ジメチル−8−フルオロキノリン)、(b)鉱物質担体と、(c)尿素、グリコール類又はその誘導体、エポキシ化油のうちから選ばれる少なくとも1種以上の添加剤とを含有することを特徴とする、農薬固形製剤組成物、及び、農薬固形製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)有効成分化合物(4−アセトキシ−6−tert−ブチル−2,3−ジメチル−8−フルオロキノリン)が安定化された農薬固形製剤組成物、又は、農薬固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
農薬固形製剤は有効成分、増量剤、物理性改良剤(流動化剤、ドリフト防止剤、分散剤、湿潤剤)、結合剤等の補助剤を基本組成として、粉剤、顆粒水和剤、水和剤、微粒剤Fまたは粒剤といった剤形に製剤化される。農薬固形製剤に通常用いられる鉱物質担体は、増量剤として用いられ、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、珪藻土、ゼオライト、ベントナイト、酸性白土、活性白土、アタパルガスクレー、ホワイトカーボン、二酸化チタン等が挙げられる。
農薬として、少量の有効成分を広い圃場に的確かつ経済的に施用するためには、有効成分に適した剤形と担体として用いる増量剤の選択が重要である。一般的には、増量剤として鉱物質が用いられ、中でもクレーが広く使用されている。
しかしながら、増量剤としてクレーを選択して調製した(a)有効成分化合物(4−アセトキシ−6−tert−ブチル−2,3−ジメチル−8−フルオロキノリン)(以下、化合物Aと表記する)を含有する農薬固形製剤組成物を保存すると有効成分は、経時的に分解が著しく、商品開発上の問題が生じた。したがって、化合物Aの保存安定性の優れた製剤技術が求められた。とりわけ、化合物Aと鉱物質担体との配合において保存安定性/接触安定性の優れた製剤が求められている。
安定化を向上させるために、従来の技術として以下の文献が開示されている。エポキシ化油との配合に関しては特許文献1、2(特開平08-104603、特開昭63-23806)が開示されている。しかし、活性成分がスルホニルウレア系除草活性成分であり、本願の化合物Aとは構造的にも物性面でも異なり、また化合物Aへの利用の示唆もない。また、特許文献3(特開2003-292409)においては多価アルコールによる安定化の開示がある。先と同じく、有効成分がシメコナゾールであり本願化合物Aとは構造的にも物性面でも異なり、化合物Aへの利用の示唆もない。また、いずれも尿素を添加剤とし用いることの示唆もない。尿素については、化合物Aを始め、有効成分と鉱物質との配合の保存安定化/接触安定化を目的として、尿素を添加した農薬固形製剤の配合については開示されていない。
【特許文献1】特開平08-104603
【特許文献2】特開昭63-23806
【特許文献3】特開2003-292409
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記化合物Aの安定化された農薬固形製剤組成物、及び、農薬固形製剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等はこの様な状況に鑑み、鋭意検討した結果、化合物Aと増量剤(とりわけ鉱物質)及び、特定の添加剤とともに配合することにより化合物Aの活性軽減をきたすことなく、保存安定性/接触安定性の優れた、化合物Aの安定化された農薬固形製剤組成物、及び、農薬固形製剤を見出すことができた。
本発明は、(a)化合物A、及び、(b)鉱物質担体と、(c)尿素、グリコール類又はその誘導体、エポキシ化油のうちから選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有することを特徴とする農薬固形製剤組成物を提供するものである。また、前記農薬固形製剤が粉剤、水和剤、顆粒水和剤、微粒剤Fまたは粒剤である。さらに、前記において、(a)化合物A以外の殺菌成分、殺虫成分、又は、除草成分の有効成分化合物をさらに含有する農薬固形製剤である。
【発明の効果】
【0005】
(a)有効成分である化合物Aと、増量剤である(b)鉱物質、及び、(c)添加剤とともに配合することにより、化合物Aの保存安定性/接触安定性の優れた農薬固形製剤組成物を見出すことができた。さらには、(c)の添加剤として尿素を用いることでさらに安定性が向上することも見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、(a)化合物A、及び、(b)鉱物質担体を含有する農薬固形製剤組成物に、(c)添加剤である尿素、グリコール類、又は、その誘導体、及び/又は、エポキシ化油から選ばれる1種以上の添加剤を併用することを特徴とする農薬固形製剤を提供することを目的としている。
本発明において、(a)有効成分である化合物Aは、(4−アセトキシ−6−tert−ブチル−2,3−ジメチル−8−フルオロキノリン)である。化合物Aの含有量は粉剤、微粒剤F及び粒剤で0.1 〜 5 重量部、水和剤及び顆粒水和剤で1 〜60 重量部であるが、これに限定されるものではない。
【0007】
用いられる(b)鉱物質とはクレー、タルク、炭酸カルシウム、珪藻土、ゼオライト、ベントナイト、酸性白土、活性白土、アタパルガスクレー、ホワイトカーボン、二酸化チタン等が挙げられる。好ましくは、クレー、炭酸カルシウム、ゼオライト、ホワイトカーボンなどが挙げられる。鉱物質は1種または2種以上を組み合わせて用いることが出来る。例えば、クレーと前記鉱物質の組み合わせ、好ましくはクレーとホワイトカーボンなどが挙げられるがこれに限定されるものではない。
鉱物質の含有量は粉剤、微粒剤F及び粒剤で50 〜99 重量部、水和剤及び顆粒水和剤で30 〜95 重量部である。
【0008】
(c)添加剤としては、尿素、グリコール類またはその誘導体、エポキシ化油などが挙げられる。好ましくは尿素である。尿素は、製造面、コスト面、及び、操作性が良いことからも好ましい。また、1)尿素とグリコール類またはその誘導体、2)尿素とエポキシ化油、3)尿素、グリコール類またはその誘導体とエポキシ化油などの組み合わせも好ましいが、これに限定されるものではない。
用いられる添加剤の含有量は、通常、製剤中に0.1 〜50 重量部、好ましくは0.2 〜20 重量部である。
【0009】
グリコール類またはその誘導体としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、これらのモノアルキルエーテル、ジアルキルエーテル、グリセリンエーテル等のエチレングリコール誘導体が挙げられる。又、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、これらのモノアルキルエーテル、ジアルキルエーテル、グリセリンエーテル等のプロピレングリコール誘導体、或いは、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体、ランダム共重合体、それらのモノアルキルエーテル、ジアルキルエーテル、グリセリンエーテル等のヒドロキシアルキルエーテル等を挙げることができる。好ましくは、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、及び、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールのモノアルキルエーテルなどが挙げられる。
用いられるグリコール類またはその誘導体は、通常、製剤中に0.1 〜3 重量部であり、好ましくは0.1 〜1 重量部である。
【0010】
エポキシ化油としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化菜種油等のエポキシ化植物油が挙げられる。好ましくは、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などである。
用いられるエポキシ化油は、通常、製剤中に0.1 〜3 重量部、好ましくは0.1 〜1 重量部である。
【0011】
本発明の農薬固形製剤は、必要に応じて、化合物A以外の農薬活性成分を1種またはそれ以上含有できる。農薬活性成分としては、化合物Aと同様、水稲用に処理が可能なものが望ましく、殺菌成分、殺虫成分及び除草成分のいずれであってもよい。このような化合物としては、次のようなものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
殺菌成分としては、例えば、イソプロチオラン、ピロキロン、トリシクラゾール、カルプロパミド、ジクロシメット、フェノキサニル、カスガマイシン、オキソリニック酸、ストレプトマイシン、フェリムゾン、フサライド、アゾキシストロビン、メトミノストロビン、オリザストロビン、チフルザミド、フラメトピル、フルトラニル、ペンシクロン、フェナリモル、シメコナゾール、オキスポコナゾール、チアジニル、アシベンゾラル-S-メチル又はプロベナゾール、バリダマイシン、ジクロメジン、又は、メプロニル等を挙げることができる。
【0013】
殺虫成分としては、ジノテフラン、エトフェンプロックス、エチプロール、クロチアニジン、シラフルオフェン、ピリダベン、イミダクロプリド、チアクロプリド、アセタミプリド、チオメトキサム、ニテンピラム、フィプロニル、カルタップ、ブプロフェジン、メトキシフェノジド、ベンフラカルブ、ベンスルタップ、マラソン、フェニトロチオン、BPMC又はスピノシン等を挙げることができる。
【0014】
除草成分としては、メフェナセット、ダイムロン、ベンタゾン、プロメトリン、ベンスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチル、イマゾスルフロン、シハロホップブチル、オキサジクロメホン、フェントラザミド、クロメプロップ、アニロホス、ベンゾビシクロン、カフェンストロール、ペントキサゾン、インダノファン、DCMU、リニュロン、又は、トリフルラリン等を挙げることができる。
【0015】
本発明において、製剤の調製方法は、混合、粉砕工程が基本である。混合工程において、各成分の添加順序は特に限定されるものではないが、例えばA法:化合物A、クレー及び尿素から成る固体成分を混合、粉砕しておき、そこに別途調製しておいた液体成分他の残部を混合する方法、B法:全ての成分を一括混合し、粉砕する方法がある。
本発明において、粉剤、微粒剤F及び粒剤では有効成分含有量が低いため、農薬活性成分である原体を濃粉として調製し、混合効率よく添加する方法を採用してもよい。
用いられる粉砕機は、通常、農薬活性成分の粉砕に用いられる粉砕機であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ハンマーミルやジェットミルである。
本発明の農薬固形製剤としては、粉剤、水和剤、顆粒水和剤、微粒剤Fまたは粒剤が挙げられる。粉剤、DL粉剤、粒剤及び微粒剤Fは、そのまま直接散布により施用し、顆粒水和剤及び水和剤は水で任意の割合に希釈し、懸濁液散布により施用する。
【0016】
以下に実施例、比較例及び試験例を具体的に記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
実施例1〜14につき、下記表1に記載した配合成分及び比率で、混合粉砕することにより農薬固形製剤組成物を得た。
【0018】
実施例15
DLクレー(浅田製粉社製)87.5重量部、粉砕処理した尿素0.5重量部、エポキシ化大豆油(商品名ニューカルゲン800,竹本油脂社製)0.3重量部、炭酸カルシウム10.0重量部及びホワイトカーボン(商品名カープレックス#80D,デグサジャパン社製)0.1重量部をカッターミキサーで混合した。これに粉砕処理した化合物A1.6重量部を添加し、カッターミキサー及びV型混合機で混合し、粉剤を得た。
【0019】

比較例1
化合物A・・・2重量部
クレー(DLクレー,浅田製粉社製)・・・98重量部

比較例2
化合物A・・・2重量部
クレー(DLクレー,フバサミクレー社製)・・・98重量部

比較例3
化合物A・・・2重量部
クレー(一般クレー,トドロキ産業社製)・・・98重量部

比較例4
化合物A・・・2重量部
タルク(局方品グレード,宮澤薬品社製)・・・98重量部

比較例5
化合物A・・・2重量部
炭酸カルシウム(試薬グレード,純正化学社製)・・・98重量部

比較例6
化合物A・・・2重量部
ナトリウムベントナイト(商品名クニゲルV1,クニミネ鉱業社製)・・・98重量部

比較例7
化合物A・・・2重量部
ホワイトカーボン(商品名カープレックス#1120,デグサジャパン社製)・・・98重量部

比較例8
化合物A・・・2重量部
ホワイトカーボン(商品名カープレックス#80,デグサジャパン社製)・・・98重量部

比較例9
化合物A・・・2重量部
ステアリン酸カルシウム(試薬グレード,和光純薬工業社製)・・・98重量部

比較例10
化合物A・・・2重量部
アタパルジャイト(商品名アタゲル#50,エンゲルハード社製)・・・98重量部

比較例11
化合物A・・・1重量部
カオリン(商品名カオリンASP400P,エンゲルハード社製)・・・99重量部

比較例12
化合物A・・・1重量部
活性白土(商品名ニッカナイトS-200,日本活性白土社製)・・・99重量部

比較例13
化合物A・・・1重量部
牡蠣殻粉(セイコー産業社)・・・99重量部

比較例14
化合物A・・・1重量部
クレー(DLクレー,昭和鉱業社製)・・・99重量部

比較例15
化合物A・・・1重量部
珪藻土(商品名ラジオライト#500,昭和化学工業社製)・・・99重量

比較例16
化合物A・・・1重量部
シルト(シルト#500,丸中白土社製)・・・99重量部

上記に記載したそれぞれの鉱物質担体に化合物Aを添加し、乳鉢内で混合粉砕することにより農薬固形製剤組成物を得た。
【0020】
試験例1 経時変化1
実施例1〜14及び比較例1〜17で調製した農薬固形製剤組成物を各々ガラス容器に入れ、40℃、相対湿度75%で2週間 〜2箇月間保存した。化合物Aの含量を液体クロマトグラフィーにより求め、分解率を算出し、その結果を表2に示した。実施例1〜14は、比較例1〜17に比べ、化合物Aの分解が格段に抑えられていた。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
試験例2 経時変化2
実施例15で製造した粉剤をクラフト加工紙袋に入れ、50℃で1箇月間、40℃、相対湿度75%で1〜2箇月間及び25℃、相対湿度60%で3箇月間保存した。化合物Aの含量を液体クロマトグラフィーにより求め、分解率を算出し、その結果を表3に示した。実施例15は全ての比較例に比べ、化合物Aの分解が格段に抑えられており、保存安定性の優れた粉剤であった。
【0024】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)有効成分化合物(4−アセトキシ−6−tert−ブチル−2,3−ジメチル−8−フルオロキノリン)、(b)鉱物質担体と、(c)尿素、グリコール類又はその誘導体、エポキシ化油のうちから選ばれる少なくとも1種以上の添加剤とを含有することを特徴とする農薬固形製剤組成物。
【請求項2】
(c)の添加剤が尿素である請求項1記載の農薬固形製剤組成物。
【請求項3】
(c)の添加剤として尿素以外に、(c)の添加剤を1種以上を含有することを特徴とする請求項2の農薬固形製剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の農薬固形製剤組成物を含んでなる農薬固形製剤。
【請求項5】
農薬固形製剤が、粉剤、水和剤、顆粒水和剤、微粒剤Fまたは粒剤である請求項4に記載の農薬固形製剤。
【請求項6】
(a)有効成分化合物(4−アセトキシ−6−tert−ブチル−2,3−ジメチル−8−フルオロキノリン)以外に、(d)殺菌成分、殺虫成分又は除草成分の有効成分化合物をさらに含んでなる請求項1〜5のいずれか一項記載の農薬固形製剤組成物、又は、農薬固形製剤。


【公開番号】特開2009−155234(P2009−155234A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333412(P2007−333412)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】