説明

定常波による気体成分の濃縮法

【課題】 化学的性質を利用して濃縮する事が困難だが、分子量が異なる混合気体の構成成分を濃縮する方法は技術的に高度で高価な材料を使用したり、機械的に複雑であり故障に対し脆弱性が有り、多大なエネルギーの消費を要し効率も充分でなかった。
【解決手段】分子量の異なる気体成分が混在している場合、圧力変動と圧力勾配が有ると分子量の小さい気体分子の方が分子量の大きい気体分子より圧力勾配の低圧側に流れ易く、分子量の大きい気体分子ほど圧力勾配の高圧側に取り残され易くなる。又、高圧な状態より低圧な状態の方が拡散し易い。
この原理を利用して、分子量の異なる気体成分から成る混合気体に音波による定常波で圧力変動と圧力勾配を発生させ、それを利用して分子量の異なる混合気体成分を成分別に濃縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子量の異なる成分から成る混合気体を、音波による定常波を利用して、構成する分子量の異なる気体成分別に物理的に濃縮する気体成分濃縮法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来化学的性質を利用して濃縮する事が困難だが、分子量が異なる混合気体の構成成分を濃縮する方法は、遠心分離法、ガス拡散法などが使われてきた。
【0003】
音波による定常波を利用する方法については単に固形粒子を集める為に利用するだけであり(例えば特許文献1参照)気体成分の濃縮法として利用される事は無かった。
【0004】
【特許文献1】 特開2009−288060
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来使われてきた方法は技術的に高度で高価な材料を使用したり、機械的に複雑であり故障に対し脆弱性が有り、多大なエネルギーの消費を要し効率も充分でない点を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
気体分子の拡散係数は気体分子の密度即ち圧力に反比例し、分子量が大きく重い気体分子より分子量が小さく軽い気体分子ほど拡散係数は大きい。密度勾配即ち圧力勾配が存在すると重い気体分子より軽い気体分子の方が拡散係数は大きく速く拡散する。
【0007】
容器内の圧力が低く気体分子密度が小さい状態では、気体分子は自由に運動して平均自由行程は大きく拡散し易いが、容器内の圧力が高く気体分子密度が高い状態では気体分子間の衝突は頻繁になり平均自由行程は短くなり拡散速度は遅くなる。
【0008】
通常分子量の異なる気体分子で構成されている混合気体は相互拡散作用により容器の中では気体成分は均一な割合で存在している。
【0009】
しかし容器の中に気体密度の偏在である圧力勾配が有ると圧力勾配を無くす様に圧力の高い方から低い方に拡散が起きるが、分子量が異なる気体分子が混在すると分子量の大きさにより拡散速度が異なる為短い時間では圧力勾配の中の圧力の低い部分には分子量が小さい拡散速度の速い軽い気体分子が速く拡散して集まり易く、圧力勾配の中の圧力の高い部分には分子量が大きい拡散速度の遅い重い気体分子が残り易くなり構成成分の存在する割合は不均一になる。此の傾向は容器内の圧力が低く圧力勾配の圧力差が大きく拡散係数の差が大きい気体分子ほど顕著に起こり易く逆の場合は起こりにくい。
【0010】
本発明はこの原理を利用して、分子量の異なる気体成分から成る混合気体に音波による定常波で圧力変動と圧力勾配を発生させ、その圧力変動と圧力勾配を利用して分子量の異なる混合気体成分を成分毎に濃縮するものである。
【0011】
今、閉じた剛性のある内部が滑らかで太さが同一である管の中に分子量が異なる物質から成る混合気体を入れ、強力な音源から管の直径に対し充分に長い波長で中の混合気体を振動させる。
【0012】
図1において、発振器2から導線3を通じて振動板4を振動させて濃縮管1の中に音波を送り、反射板位置調整器6で反射板5の位置を調整して反射板5と振動版4との間の距離及び音波の波長を混合気体7の性質と温度、圧力に合わせ適したものに調整して濃縮管1の中の混合気体7に定常波8を発生させる。
【0013】
濃縮管1の中の混合気体には気体分子が比較的動かない、言い換えると気体圧力が激しく変動する節Aと気体分子が激しく移動する、言い換えると気体圧力の変動の少ない腹Bの部分が出来る。
【0014】
図1は定常波の状態を表すが、便宜上縦波である気体分子の変位の量を濃縮管1の中心線に直角に取った型で半周期の時間差のある瞬間の2つの状態を重ねて表示している。
【0015】
図2は上記の同じ状態を気体分子の圧力変動を基準に表示したものである。気体分子の変位の最も激しい腹Bでは圧力変動は無く、変位の無い節Aでは圧力変動は最も激しい。
【0016】
図3は図2の圧力変動の無い節bから圧力変動の最も激しい腹aまで4分の1波長分だけを取り出したものである。イは腹aで気体の圧力が高く気体分子密度が最大になった瞬間であり、ロは半周期後腹aで気体の圧力が低く気体分子密度が最小になった瞬間である。
【0017】
最初、混合気体を構成する分子量の異なる気体成分の混合比率は、初期圧力状態の濃縮管1の中で均一に存在している。定常波が発生した状態になると濃縮管1の中の圧力の同一性はくずれ濃縮管1の中で圧力の激しい変動が生じる。
【0018】
初期圧力状態から図3のロの状態になると、ロの状態では気体の分子密度が小さく平均自由行程が充分取れるので、圧力勾配のため気体分子の分子量が小さく拡散係数が大きい気体分子ほど、気体分子の分子量が大きく拡散係数が小さい気体分子より腹aに比較的速く拡散して多く集まる。
【0019】
時間が経過してくるに従って定常波の音圧によって腹aの圧力は上昇してくる。初期圧力を通り越してイの状態に近づくにつれ腹aの近くでは気体分子は高密度になり分子同志の衝突が頻繁になり気体分子の拡散速度は小さくなる。
【0020】
拡散係数は密度に反比例するので圧力が高い状態では圧力が低い状態に比べ拡散しにくい。従って腹aに多く集まった軽い気体分子は圧力の低い時ほどには拡散しにくいので、短い時間では初期圧力状態のような濃縮管1の中で分子量の異なる気体分子が均一に存在する状態になる程までは拡散は起こらず腹aの近くにそのまま偏在して気体成分の不均一が生じる。
【0021】
つまり圧力勾配が有る状態の下では初期圧力より低圧の間は軽い気体分子は腹aの方により多く集まるが、1周期の短い時間の間では、初期圧力より高圧な状態になっても相互拡散作用によって両方の気体分子が均一に混在した元の状態までには戻らない。
【0022】
此の現象は気体の分子量の差が大きいほど顕著である。また1周期の間ではこの圧力変動と圧力勾配による気体分子の偏在はわずかであるが、気体成分の性質に似合った初期圧力、温度、周波数を適切に選び必要な時間をかけて繰り返し圧力変動と圧力勾配を与えているうちに段々と偏在の程度は高くなってきて、気体分子は気体成分毎に濃縮されてくる。
【0023】
本発明は此の原理を利用して分子量の異なる物質から成る混合気体の成分を成分毎に濃縮するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は従来の方法と異なり機械的に駆動する構成要素が少ない為、故障に対しては耐性が高くメンテナンスも簡単であり駆動エネルギーも少なくて良い。音源は濃縮管1の中に設けるか管端に設けた薄膜の外から発生させても良く混合気体の漏洩の恐れは無く対象とする混合気体の性質は選ばない。構成する装置も特殊な材質は不要なシンプルな構造であり安価でメンテナンスやランニングコストも少なくてすむ。高温高圧下でも駆動可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0025】
図4は実施例の一例を示す。混合気体の供給管Dから供給された混合気体は上記に示した様にして濃縮管の中で定常波により重い気体成分と軽い気体成分に濃縮される。その濃縮された気体成分を夫々の取出し管C及びEにより取出す。
【0026】
図4では2種類の気体成分から成る混合気体であり定常波の1波長分を例示しているが、分子量に差が有れば多種類の混合気体でも良く、また濃縮管1を長くして多数の定常波の波長毎に同様の装置を設ける事で同時に多量に濃縮を行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
前述の如く本発明は分子量の差の有る混合気体のときに特に効率的であるが、分子量の差が少ない場合でも図5に概念を系統図として単純化して1例を示す様に、1段階では少しの濃縮率でも多段階で連続的に濃縮すれば充分実用的な濃縮程度を得る事が出来て産業上有効に利用可能である。
【0028】
装置に使用する材料、音源、動力等いずれも現在の産業で使用されている材質で充分であり装置の構築に何等の問題は無い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】気体分子の変位量を基準にした定常波を示す断面図
【図2】気体分子密度の変化を基準にした定常波を示す断面図
【図3】気体分子密度の変化を基準にした定常波の4分の1波長の部分図
【図4】濃縮管の具体例を示す断面図
【図5】多段階で連続的に濃縮する場合の簡単な系統図
【符号の説明】
【0030】
1 濃縮管
2 発振器
3 導線
4 振動板
5 反射板
6 反射板位置調整器
7 混合気体
8 定常波
A 定常波の気体分子の変位の節の部分
B 定常波の気体分子の変位の腹の部分
C 重い気体成分が濃縮された混合気体の取出し管
D 混合気体の供給管
E 重い気体成分が減損された混合気体の取出し管
F 1段目で重い気体成分が減損された2段目の供給管
G 1段目で重い気体成分が濃縮された3段目の供給管
H 2段目で重い気体成分が濃縮され1段目の供給管に連結された2段目の取出し管
I 3段目で重い気体成分が減損され1段目の供給管に連結された3段目の取出し管
J 2段目で重い気体成分が減損された混合気体の取出し管
K 3段目で重い気体成分が濃縮された混合気体の取出し管
a 定常波の分子密度の腹の部分
b 定常波の分子密度の節の部分
イ 腹aで気体分子密度が最大になった瞬間の4分の1波長の定常波
ロ 腹aで気体分子密度が最小になった瞬間の4分の1波長の定常波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の気密容器の中に入れた分子量の異なる気体成分から成る混合気体の中に音波による定常波を発生させ、その定常波による圧力変動と圧力勾配を利用して、構成する気体成分を成分別に濃縮する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate