定着装置及び画像形成装置
【課題】本発明は、被転写材(用紙)のサイズに対応して第1領域(通紙領域)と第2領域(非通紙領域)とにおける加熱回転ベルトの発熱量を調整することができると共に、定着装置の熱容量を小さくすることができ且つ大型化を抑制することができる定着装置を提供すること。
【解決手段】誘導コイル71と、磁界浸透深さよりも薄い発熱層を有する加熱回転ベルト9aと、加熱回転ベルト9aの内面に当接する受圧部材92と、加圧回転体9bと、磁性体コア部72であって、加熱回転ベルト9aの内面に当接して加熱回転ベルト9aを位置決めすると共に加熱回転ベルト9aの回転をガイドする円筒状の可動ガイド部77であって、回転可能に構成される磁束遮蔽部材79と、磁束遮蔽部材79を支持する支持部材78とを有する可動ガイド部77と、を有する磁性体コア部72と、を備える。
【解決手段】誘導コイル71と、磁界浸透深さよりも薄い発熱層を有する加熱回転ベルト9aと、加熱回転ベルト9aの内面に当接する受圧部材92と、加圧回転体9bと、磁性体コア部72であって、加熱回転ベルト9aの内面に当接して加熱回転ベルト9aを位置決めすると共に加熱回転ベルト9aの回転をガイドする円筒状の可動ガイド部77であって、回転可能に構成される磁束遮蔽部材79と、磁束遮蔽部材79を支持する支持部材78とを有する可動ガイド部77と、を有する磁性体コア部72と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及びこれを備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置においては、熱容量を小さくすることができるベルト方式を備えた定着装置が注目されている。また、近年、急速加熱や高効率加熱の可能性をもった電磁誘導加熱(IH;induction heating)方式が注目されている。
【0003】
電磁誘導加熱方式の定着装置においては、定着装置に搬送(通紙)される被転写材としての用紙の長さ(用紙の搬送方向に垂直な方向の用紙の幅:通紙幅)に合わせて、用紙が定着装置の定着ニップに搬送される時に用紙が通過する通紙領域(第1領域)の外側の領域(非通紙領域、第2領域)の温度が過度に上昇することを抑制するために、非通紙領域と通紙領域とにおける加熱回転体の発熱量を調整することができる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、電磁誘導加熱方式の定着装置において、整磁合金層を有する金属ローラとして構成される加熱ローラ(加熱回転体)と、加熱ローラの内部に配置される誘導コイルと、を備える定着装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2に記載されている定着装置は、用紙が通過しないことで温度が上昇した非通紙領域において、整磁合金層がキュリー温度以上になった場合に整磁合金層の磁性を失わせることで、用紙の各サイズの通紙幅に応じて非通紙領域における加熱回転ベルトの温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−26246号公報
【特許文献2】特開2004−151470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載される定着装置においては、加熱回転ベルトの外部には、加熱回転ベルトの発熱量を調整するための磁束遮蔽部材が移動可能に配置されている。そのため、定着装置が大型化する可能性があった。
【0007】
また、特許文献2に記載される定着装置の加熱ローラの整磁金属層は、所定厚さよりも厚くする必要がある。そのため、定着装置の熱容量が大きくなる可能性があった。
【0008】
従って、用紙の各サイズに対応して非通紙領域と通紙領域とにおける加熱回転体の発熱量を調整することが可能であると共に、熱容量を小さくすることができ且つ大型化を抑制することができる定着装置が望まれている。
【0009】
本発明は、被転写材(用紙)のサイズに対応して第1領域(通紙領域)と第2領域(非通紙領域)とにおける加熱回転ベルトの発熱量を調整することができると共に、定着装置の熱容量を小さくすることができ且つ大型化を抑制することができる定着装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記定着装置を備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、所定の電流により磁束を発生させる誘導コイルと、前記誘導コイルにより発生された磁束が通る領域に配置される加熱回転ベルトであって、磁界浸透深さよりも薄い発熱層を有する加熱回転ベルトと、前記加熱回転ベルトの内部に配置され、該加熱回転ベルトの内面に当接する受圧部材と、前記加熱回転ベルトに対向して配置される加圧回転体と、前記受圧部材と前記加圧回転体とにより前記加熱回転ベルトを挟み込んで形成され、シート状の被転写材を挟み込むと共に該シート状の被転写材を搬送する定着ニップと、前記誘導コイルにおける内周縁の内側と外周縁の外側とを通り該誘導コイルを囲むように周回する磁路を形成する磁性体コア部であって、前記加熱回転ベルトの内部に前記加熱回転ベルトの内面に当接して配置され、前記加熱回転ベルトを位置決めすると共に前記加熱回転ベルトの回転をガイドする可動ガイド部であって、磁束を低減させ又は遮蔽する遮蔽位置と、磁束を低減せず又は遮蔽しない非遮蔽位置とに位置されるように回転可能に構成される磁束遮蔽部材と、前記磁束遮蔽部材を支持する支持部材とを有する可動ガイド部と、を有する磁性体コア部と、を備える定着装置に関する。
【0011】
また、前記磁性体コア部は、前記誘導コイルを挟んで前記加熱回転ベルトの外面に対向する1又は複数の第1コア部を有することが好ましい。
【0012】
また、前記磁性体コア部は、前記誘導コイルの内周縁の近傍に配置され、前記誘導コイルを挟まずに前記加熱回転ベルトの外面に対向する第1対向面を有する第2コア部を有することが好ましい。
【0013】
また、前記磁性体コア部は、前記誘導コイルの外周縁の近傍に配置され、前記誘導コイルを挟まずに前記加熱回転ベルトの外面に対向する第2対向面を有する第3コア部を有することが好ましい。
【0014】
また、前記支持部材は、磁性体コアを主体として構成されることが好ましい。
【0015】
また、前記可動ガイド部は、前記磁束遮蔽部材及び前記支持部材を覆うように配置される摩擦係数が低い第1低摩擦材を有することが好ましい。
【0016】
また、前記第1低摩擦材は、断熱性を有することが好ましい。
【0017】
また、前記加熱回転ベルトの内面には、摩擦係数が低い第2低摩擦材が配置されることが好ましい。
【0018】
また、前記加熱回転ベルトの外面に形成され、前記被転写材が前記定着ニップに搬送される場合における前記所定の被転写材が通過する領域である第1領域と、前記加熱回転ベルトの外面に形成され、前記第1領域から見て前記被転写材の搬送方向に直交する方向である直交方向の外側の領域である第2領域と、を備え、前記磁束遮蔽部材は、前記可動ガイド部における前記第2領域に対応する位置に形成されることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、表面に静電潜像が形成される1又は複数の像担持体と、前記1又は複数の像担持体に形成された静電潜像をトナー画像として現像する現像器と、前記像担持体に形成されたトナー画像を直接的又は間接的にシート状の被転写材に転写する転写部と、前記定着装置と、を備える画像形成装置に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被転写材(用紙)のサイズに対応して第1領域(通紙領域)と第2領域(非通紙領域)とにおける加熱回転ベルトの発熱量を調整することができると共に、熱容量を小さくすることができ且つ大型化を抑制することができる定着装置を提供することができる。
また、本発明によれば、前記定着装置を備える画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態のプリンタ1の各構成要素の配置を説明するための図である。
【図2】本実施形態のプリンタ1の定着装置9の各構成要素を説明するための断面図である。
【図3】図2に示す定着装置9を用紙Tの搬送方向D1から視た図である。
【図4】本実施形態のプリンタ1の内部コア部78と磁束遮蔽部材79との位置関係を用紙Tの搬送方向D1から視た概念図である。
【図5】本実施形態のプリンタ1の磁束遮蔽部材79の形状を示す図である。
【図6A】内部コア部78が非遮蔽位置に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。
【図6B】内部コア部78が遮蔽位置(第1遮蔽位置)に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。
【図6C】内部コア部78が遮蔽位置(第2遮蔽位置)に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1により、本実施形態における画像形成装置としてのプリンタ1の全体構造を説明する。図1は、本発明の一実施形態のプリンタ1の各構成要素の配置を説明するための図である。
【0023】
図1に示すように、一実施形態における画像形成装置としてのプリンタ1は、装置本体Mと、画像情報に基づいてシート状の被転写材としての用紙Tにトナー画像を形成する画像形成部GKと、用紙Tを画像形成部GKに給紙すると共にトナー画像が形成された用紙Tを排紙する給排紙部KHとを有する。
装置本体Mの外形は、筐体としてのケース体BDにより構成される。
【0024】
図1に示すように、画像形成部GKは、像担持体(感光体)としての感光体ドラム2と、帯電部10と、露光ユニットとしてのレーザスキャナユニット4と、現像器16と、トナーカートリッジ5と、トナー供給部6と、ドラムクリーニング部11と、除電器12と、転写部としての転写ローラ8と、定着装置9とを備える。
【0025】
図1に示すように、給排紙部KHは、給紙カセット52と、用紙Tの搬送路Lと、レジストローラ対80と、排紙部50とを備える。
【0026】
以下、画像形成部GK及び給排紙部KHの各構成について詳細に説明する。
まず、画像形成部GKについて説明する。
画像形成部GKにおいては、感光体ドラム2の表面に沿って順に、上流側から下流側に順に、帯電部10による帯電、レーザスキャナユニット4による露光、現像器16による現像、転写ローラ8による転写、除電器12による除電、及びドラムクリーニング部11によるクリーニングが行われる。
【0027】
感光体ドラム2は、円筒形状の部材からなり、感光体又は像担持体として機能する。感光体ドラム2は、搬送路Lにおける用紙Tの搬送方向に対して直交する方向に延びる回転軸を中心に、図1に示した矢印の方向に回転可能に配置される。感光体ドラム2の表面には、静電潜像が形成され得る。
【0028】
帯電部10は、感光体ドラム2の表面に対向して配置される。帯電部10は、感光体ドラム2の表面を一様に負(マイナス極性)又は正(プラス極性)に帯電させる。
【0029】
レーザスキャナユニット4は、露光ユニットとして機能するものであり、感光体ドラム2の表面から離間して配置される。
【0030】
レーザスキャナユニット4は、PC(パーソナルコンピュータ)等の外部機器から入力された画像情報に基づいて、感光体ドラム2の表面を走査露光することで感光体ドラム2の表面に静電潜像を形成することができる。
【0031】
現像器16は、感光体ドラム2に対応して設けられ、感光体ドラム2の表面に対向して配置される。現像器16は、感光体ドラム2に形成された静電潜像を単色(通常はブラック)のトナーを用いて現像して、単色のトナー画像を感光体ドラム2の表面に形成する。現像器16は、感光体ドラム2の表面に対向配置された現像ローラ17、トナー攪拌用の攪拌ローラ18等を有して構成される。
【0032】
トナーカートリッジ5は、現像器16に対応して設けられており、現像器16に対して供給されるトナーを収容する。
【0033】
トナー供給部6は、トナーカートリッジ5及び現像器16に対応して設けられており、トナーカートリッジ5に収容されたトナーを現像器16に対して供給する。
【0034】
転写ローラ8は、感光体ドラム2の表面に形成されたトナー画像を用紙Tに転写させる。転写ローラ8は、感光体ドラム2に対して当接した状態で回転可能に構成される。
【0035】
感光体ドラム2と転写ローラ8との間には、転写ニップNが形成される。転写ニップNにおいて、感光体ドラム2に形成されたトナー画像が用紙Tに転写される。
除電器12は、感光体ドラム2の表面に対向して配置される。
ドラムクリーニング部11は、感光体ドラム2の表面に対向して配置される。
【0036】
定着装置9は、用紙Tに転写されたトナー画像を構成するトナーを溶融及び加圧して、用紙Tに定着させる。
定着装置9の詳細については後述する。
【0037】
次に、給排紙部KHについて説明する。
図1に示すように、装置本体Mの下部には、用紙Tを収容する1個の給紙カセット52が配置される。給紙カセット52には、用紙Tが載置される載置板60が配置される。載置板60に載置された用紙Tは、カセット給紙部51により搬送路Lに送り出される。カセット給紙部51は、載置板60上の用紙Tを取り出すための前送りコロ61と、用紙Tを1枚ずつ搬送路Lに送り出すための給紙ローラ対63とからなる重送防止機構を備える。
【0038】
装置本体Mの上部には、排紙部50が設けられる。排紙部50は、第3ローラ対53により用紙Tを装置本体Mの外部に排紙する。排紙部50の詳細については後述する。
【0039】
用紙Tを搬送する搬送路Lは、カセット給紙部51から転写ニップNまでの第1搬送路L1と、転写ニップNから定着装置9までの第2搬送路L2と、定着装置9から排紙部50までの第3搬送路L3と、第3搬送路L3を上流側から下流側へ搬送する用紙を、表裏反転させて第1搬送路L1に戻す戻し搬送路Lbとを備える。
【0040】
また、第1搬送路L1の途中には、第1合流部P1が設けられている。第3搬送路L3の途中には、第1分岐部Q1が設けられている。
【0041】
第1搬送路L1の途中(詳細には、第1合流部P1と転写ローラ8との間)には、用紙Tを検出するためのセンサ(不図示)と、用紙Tのスキュー(斜め給紙)補正や画像形成部GKにおけるトナー画像の形成と用紙Tの搬送のタイミングを合わせるためのレジストローラ対80とが配置される。
【0042】
第3搬送路L3の用紙搬送方向側の端部には、排紙部50が形成される。排紙部50は、装置本体Mの上部に配置される。排紙部50は、第3搬送路L3を搬送される用紙Tを第3ローラ対53によって装置本体Mの外部に排紙する。
【0043】
排紙部50における開口側には、排紙集積部M1が形成される。排紙集積部M1は、装置本体Mにおける上面(外面)に形成される。
なお、各搬送路の所定位置には用紙検出用のセンサ(不図示)が配置される。
【0044】
次に、本実施形態のプリンタ1の特徴部分である定着装置9に係る構成について詳細に説明する。図2は、本実施形態のプリンタ1の定着装置9の各構成要素を説明するための断面図である。図3は、図2に示す定着装置9を用紙Tの搬送方向D1から視た図である。図4は、本実施形態のプリンタ1の内部コア部78と磁束遮蔽部材79との位置関係を用紙Tの搬送方向D1から視た概念図である。図5は、本実施形態のプリンタ1の磁束遮蔽部材79の形状を示す図である。図6Aは、内部コア部78が非遮蔽位置に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。図6Bは、内部コア部78が遮蔽位置(第1遮蔽位置)に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。図6Cは、内部コア部78が遮蔽位置(第2遮蔽位置)に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。
【0045】
図2に示すように、定着装置9は、加熱回転ベルト9aと、加熱回転ベルト9aに圧接(当接)される加圧回転体9bと、加熱ユニット70と、受圧部材92と、複数の温度センサ95と、を備える。
【0046】
加熱回転ベルト9aは、環状(無端ベルト状)に形成される。加熱回転ベルト9aは、熱容量が低いベルトにより形成される。加熱回転ベルト9aは、第1周方向R1に回転可能に構成される。本実施形態においては、第1周方向R1に直交する方向D2を「用紙幅方向D2」ともいう。加熱回転ベルト9aは、後述する加熱ユニット70を用いることで、電磁誘導を利用した電磁誘導加熱(IH;induction heating)により発熱される。
加熱回転ベルト9aは、後述する加熱ユニット70の誘導コイル71により発生された磁束が通る領域に配置される。
【0047】
加熱回転ベルト9aの内部には、後述する受圧部材92と、後述する可動ガイド部77とが配置される。加熱回転ベルト9aは、所定の張力が付与された状態で、可動ガイド部77と、受圧部材92とに掛け渡される。
【0048】
加熱回転ベルト9aの内周面(内面)には、後述する加圧ローラ9b側(加熱回転ベルト9aの内部の垂直方向の下方側)において受圧部材92が当接すると共に、後述するセンターコア部73側(加熱回転ベルト9aの内部の垂直方向の上方側)において可動ガイド部77が当接する。
【0049】
また、加熱回転ベルト9aの内周面には、第2低摩擦材としての潤滑剤(不図示)が塗布(配置)される。本実施形態においては、潤滑剤は、摩擦係数が低いグリスである。
受圧部材92及び可動ガイド部77については後述する。
【0050】
本実施形態においては、加熱回転ベルト9aは、基材がニッケル等の強磁性材料により形成された発熱層としての磁性金属層を主体として構成される。加熱回転ベルト9aの磁性金属層は、磁界浸透深さよりも薄く構成される。
【0051】
加熱回転ベルト9aは、後述する加熱ユニット70の誘導コイル71により発生された磁束が通る領域に配置されることで、加熱ユニット70の誘導コイル71により発生される磁束の磁路を形成する。
【0052】
ここで、磁界浸透深さについて説明する。
磁界浸透深さとは、渦電流密度の値が加熱回転ベルト9aの磁性金属層の表面の値の1/e(e:自然対数の底)になる加熱回転ベルト9aの磁性金属層の表面からの深さをいう。渦電流は、磁性金属層の表面からの深さが磁界浸透深さよりも深い位置においては、ほとんど流れないといえる。
【0053】
磁界浸透深さは、次の式で表される。
δ=503√(ρ/fμ)
(δ:磁界浸透深さ、ρ:電気抵抗率、f:周波数、μ:比透磁率)
例えば、加熱回転ベルト9aの磁性金属層としてニッケルを用いた場合、周波数fが30kHzである所定の電流を誘導コイル71に流した場合、ニッケルの電気抵抗率ρが6.80×10−8Ω・m、比透磁率μが300であるので、磁界浸透深さδは43.7μmとなる。
【0054】
磁性金属層が磁界浸透深さ以上の厚さの場合には、磁性金属層の表面から磁界浸透深さよりも深い位置においては、渦電流は、ほとんど流れない。これにより、誘導コイル71により発生された磁束は、磁界浸透深さよりも深い位置には達しない。従って、誘導コイル71により発生された磁束は、磁性金属層を突き抜けずに、加熱回転ベルト9aの磁性金属層に沿って導かれる。
【0055】
一方、磁性金属層の厚さが磁界浸透深さよりも薄い場合には、誘導コイル71により発生された磁束は、加熱回転ベルト9aの磁性金属層を突き抜ける。そして、加熱回転ベルト9aを突き抜けない磁束は、加熱回転ベルト9aの磁性金属層に沿って導かれる。加熱回転ベルト9aの磁性金属層を突き抜ける磁束の量は、磁性金属層の厚さが磁界浸透深さに比べて薄いほど多くなる。
加熱回転ベルト9aの磁性金属層の厚さは、磁界浸透深さよりも薄い範囲内で、適宜設定される。
【0056】
本実施形態においては、加熱回転ベルト9aの磁性金属層の厚さは、磁界浸透深さが43.7μmであるのに対して、40μmであり、誘導コイル71によって発生された磁束の約50%の磁束が加熱回転ベルト9aが突き抜けるように設定されている。
【0057】
加熱回転ベルト9aには、加熱回転ベルト9aを突き抜けずに加熱回転ベルト9aを通る磁束により、電磁誘導によって渦電流(誘導電流)が発生する。加熱回転ベルト9aには、渦電流が流れることで、加熱回転ベルト9aが有する電気抵抗によりジュール熱が発生する。このように、加熱回転ベルト9aは、後述する加熱ユニット70によって電磁誘導を利用した電磁誘導加熱(IH)により発熱される。
【0058】
加圧回転体9bとしての加圧ローラ9bは、円筒状に形成される。加圧ローラ9bは、加熱回転ベルト9aの垂直方向下方側に加熱回転ベルト9aに対向して配置される。加圧ローラ9bは、用紙幅方向D2に平行な第1回転軸J1を中心に、加圧ローラ9bの周方向である第2周方向R2に回転可能に構成される。加圧ローラ9bは、第1回転軸J1方向に延びるように形成される。
【0059】
加圧ローラ9bは、その外周面が、加熱回転ベルト9aの外周面(外面)に当接するように配置される。加圧ローラ9bは、加熱回転ベルト9aを介して受圧部材92(後述)を押圧するように配置される。加圧ローラ9bは、受圧部材92と加熱回転ベルト9aの一部を挟み込んで、加熱回転ベルト9aと定着ニップFを形成する。定着ニップFは、用紙Tを挟み込むと共に、用紙Tを搬送する。
【0060】
加圧ローラ9bは、加圧ローラ本体941と、第1回転軸J1と同軸の軸部材942(図3参照)と、を有する。加圧ローラ本体941は、円筒状の金属部材と、金属部材の外周面に形成される弾性層と、弾性層の外周面に形成される離型層と、を有する。
【0061】
加圧ローラ9bの軸部材942には、加圧ローラ9bを回転駆動させる回転駆動部(不図示)が接続される。この回転駆動部により、加圧ローラ9bがに所定速度で回転駆動されると共に、加圧ローラ9bの回転に従動して、加圧ローラ9bの外周面に当接する加熱回転ベルト9aが回転される。
【0062】
受圧部材92は、加熱回転ベルト9aの内部に配置される。受圧部材92は、加熱回転ベルト9aの内部の加圧ローラ9b側において、加熱回転ベルト9aの内周面に当接する。受圧部材92は、用紙幅方向D2に長く延びて形成される。
受圧部材92は、加熱回転ベルト9aを加圧ローラ9bとの間に挟み込んで、加熱回転ベルト9aと加圧ローラ9bとの間に定着ニップFを形成する。
受圧部材92は、加熱回転ベルト9aの内周面に摺動しながら接触する。
【0063】
定着ニップFに搬送される用紙Tは、定着装置9の通紙領域(第1領域)内を通過して搬送された場合に、トナー画像が定着される。「通紙領域」(第1領域)とは、定着ニップFに搬送される用紙Tが加熱回転ベルト9aと加圧ローラ9bとに挟まれて通過する領域のことである。また、用紙Tが定着ニップFに搬送される場合における通紙領域よりも外側の領域である用紙Tが通過しない領域を「非通紙領域」(第2領域)ともいう。
【0064】
図3に示すように、用紙幅方向D2における最大長さの用紙Tが定着ニップFに搬送される場合における通紙領域として、最大通紙領域901を設定する。最大通紙領域901は、プリンタ1ごとにそれぞれ設定される。
【0065】
具体的には、加熱回転ベルト9aの外周面には、加熱回転ベルト9aにおける最大通紙領域901として、加熱側最大通紙領域901aが形成(設定)される。加圧ローラ9bの外周面には、加熱回転ベルト9aの加熱側最大通紙領域901aに対応して、加圧回転体9bにおける最大通紙領域901として、加圧側最大通紙領域901bが形成(設定)される。加熱側最大通紙領域901aにおける用紙幅方向D2に平行な方向の長さを、「最大通紙幅W1」という。
【0066】
また、用紙幅方向D2における最小長さの用紙Tが定着ニップFに搬送される場合における用紙Tが通過する通紙領域として、最小通紙領域903を設定する。
具体的には、加熱回転ベルト9aの外周面には、加熱回転ベルト9aにおける最小通紙領域903として、加熱側最小通紙領域903aが形成(設定)される。加圧ローラ9bの外周面には、加熱回転ベルト9aの加熱側最小通紙領域903aに対応して、加圧側最小領域903bが形成(設定)される。加熱側最小通紙領域903aにおける用紙幅方向D2に平行な方向の長さを、「最小通紙幅W3」という。
【0067】
また、本実施形態の定着装置9においては、用紙幅方向D2における長さが最大長さよりも短く且つ最小長さ(最小幅)よりも長い長さである中間長さ(中間幅)の用紙Tが定着ニップFに搬送される場合における用紙Tが通過する通紙領域として、中間通紙領域902(加熱側中間通紙領域902a、加圧側中間領域902b)を設定する。加熱側中間通紙領域902aにおける用紙幅方向D2に平行な方向の長さを、「中間通紙幅W2」という。
なお、用紙Tの通紙領域は、これに制限されず、各サイズの用紙Tに対応して適宜設定することができる。
【0068】
加熱ユニット70について説明する。図2及び図3に示すように、加熱ユニット70は、誘導コイル71と、磁性体コア部72と、を備える。誘導コイル71は、加熱回転ベルト9aの外周面から所定距離だけ離間すると共に、加熱回転ベルト9aの外周面に沿って配置される。誘導コイル71は、平面視(図2及び図3における上方から視た場合)において、用紙幅方向D2に長い形状に線材を巻き回して形成される。
誘導コイル71は、用紙幅方向D2において加熱回転ベルト9aの長さよりも長く形成される。
【0069】
誘導コイル71は、銅製のリッツ線の線材を巻き回して形成される。誘導コイル71は、加熱回転ベルト9aの垂直方向の上方側の略半周の外周面に対向して配置される。
【0070】
図2及び図3に示すように、誘導コイル71は、用紙幅方向D2に延びるように形成される中央領域718を囲むように線材を巻き回して形成される。
【0071】
本実施形態においては、誘導コイル71は、耐熱性の樹脂材料により形成された支持部材(図示せず)の上に、線材が巻き回されて固定される。
【0072】
誘導コイル71は、不図示の誘導加熱用回路部に接続される。誘導コイル71には、誘導加熱用回路部から所定周波数の所定の交流電流が印加される。誘導コイル71は、誘導加熱用回路部から交流電流が印加されることにより、加熱回転ベルト9aを発熱させるための磁束を発生させる。例えば、誘導コイル71には、周波数が30kHz程度の交流電流が印加される。
【0073】
誘導コイル71により発生された磁束は、加熱回転ベルト9a及び磁性体コア部72(後述)により形成された磁束の経路である磁路に導かれる。
【0074】
磁路は、誘導コイル71により発生された磁束が周回方向R3に周回するように、加熱回転ベルト9a及び磁性体コア部72(後述)により形成される。周回方向R3とは、誘導コイル71の内周縁711Aの内側と外周縁711Bの外側とを通り誘導コイル71の線材の部分を囲むように周回する方向である。誘導コイル71により発生された磁束は、磁路を通過する。
【0075】
誘導コイル71により発生される磁束は、誘導加熱用回路部(不図示)から所定周波数の交流電流が印加されるため、交流電流のプラス又はマイナスへの周期的な変動により、その大きさ及び方向が変化する。加熱回転ベルト9aには、この磁束の変化により誘導電流(渦電流)が発生する。
【0076】
磁性体コア部72は、図2に示すように、周回方向R3に周回する磁路を形成する。磁性体コア部72は、誘導コイル71により発生される磁束が通る領域に配置されると共に、強磁性材料を主体として形成されるため、誘導コイル71により発生される磁束の経路である磁路を形成する。
【0077】
磁性体コア部72は、上部コア部75と、第3コア部としての一対のサイドコア部76、76と、可動ガイド部77とを有する。また、可動ガイド部77は、支持部材としての内部コア部78と、磁束遮蔽部材79とを有する。上部コア部75、サイドコア部76及び内部コア部78は、例えば、フェライト粉末を焼結して成形される強磁性材料からなるフェライト製の磁性体コアを主体として構成される。
【0078】
上部コア部75は、第2コア部としてのセンターコア部73と、複数の第1コア部としての複数対のアーチコア部74とにより一体的に形成される。
センターコア部73は、用紙幅方向D2に視た場合に、加熱回転ベルト9aの垂直方向の上方側(中央領域718の近傍)において、加熱回転ベルト9aの用紙Tの搬送方向D1の略中央に配置される。
【0079】
複数対のアーチコア部74は、センターコア部73に対して、搬送方向D1の下流側及び上流側に対をなしてそれぞれ配置される。センターコア部73及び複数対のアーチコア部74、74は、用紙幅方向D2の所定位置において、磁路の周回方向R3に沿って連続して一体的に並んで形成される。
【0080】
センターコア部73は、図6Aに示すように、磁路の周回方向R3において、後述するアーチコア部74と加熱回転ベルト9aとの間の磁路と、後述するアーチコア部74と内部コア部78との間の磁路とを形成する。センターコア部73は、中央領域718の近傍(誘導コイル71の内周縁711Aに配置される線材の近傍)に配置される。
【0081】
センターコア部73は、加熱回転ベルト9aの外周面から所定距離だけ離間して加熱回転ベルト9aの外周面に対向する。センターコア部73は、誘導コイル71の線材の部分を挟まずに加熱回転ベルト9aの外周面に対向する第1対向面731を有する。
【0082】
また、図3に示すように、センターコア部73は、用紙幅方向D2に長い略直方体形状に形成される。センターコア部73は、用紙幅方向D2において、最大長さの用紙Tの最大通紙幅W1よりも長く形成される。
【0083】
複数対のアーチコア部74、74それぞれは、センターコア部73の上方側から搬送方向D1の上流側及び下流側それぞれに延びるように形成される。
複数対のアーチコア部74、74それぞれは、図2に示すように、磁路の周回方向R3において、誘導コイル71に対して加熱回転ベルト9aとは反対側(誘導コイル71の外側)の磁路を形成する。
【0084】
複数対のアーチコア部74、74それぞれは、誘導コイル71の線材の部分を挟んで加熱回転ベルト9aの外周面に対向して配置される。複数対のアーチコア部74、74は、用紙Tの搬送方向D1の下流側及び上流側に対をなして配置される。複数対のアーチコア部74、74それぞれは、加熱回転ベルト9aの周方向に沿うように延びるアーチ状に形成される。アーチコア部74は、水平部742と、傾斜部743とを有する。
【0085】
また、複数のアーチコア部74それぞれは、図3に示すように、用紙幅方向D2に所定距離だけ離間して配置される。
複数のアーチコア部74それぞれは、用紙幅方向D2に離間して周回方向R3において周回する複数の磁路を形成する。
【0086】
一対のサイドコア部76、76それぞれは、図2に示すように、磁路の周回方向R3において、加熱回転ベルト9a及び内部コア部78(後述)それぞれとアーチコア部74との間における磁路(図6Aから図6C参照)を形成する。一対のサイドコア部76、76それぞれは、磁路の周回方向R3において、複数対のアーチコア部74、74それぞれに並んで配置される。
【0087】
一対のサイドコア部76、76それぞれは、誘導コイル71の外周縁711Bの近傍に配置される。一対のサイドコア部76、76それぞれは、加熱回転ベルト9aの外周面から所定距離だけ離間して加熱回転ベルト9aの外周面に対向して配置される。一対のサイドコア部76、76それぞれは、誘導コイル71における線材の部分を挟まずに加熱回転ベルト9aの外周面に対向する第2対向面761を有する。また、一対のサイドコア部76、76それぞれは、用紙幅方向D2に長い略直方体形状に形成される。
一対のサイドコア部76、76それぞれは、図3に示すように、用紙幅方向D2において、最大通紙領域901に対応する領域よりも長く形成される。
【0088】
可動ガイド部77は、図2に示すように、加熱回転ベルト9aの内部のセンターコア部73側(垂直方向の上方側)の内周面に当接して配置される。可動ガイド部77は、用紙幅方向D2に長い円筒状に形成される。可動ガイド部77は、図3に示すように、用紙幅方向D2において、最大長さの用紙Tの最大通紙幅W1よりも長く形成される。
【0089】
可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aの内周面に当接することで、加熱回転ベルト9aと誘導コイル71との距離を一定に保つように、加熱回転ベルト9aを位置決めする。また、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aの回転軌道を維持するように加熱回転ベルト9aの回転をガイドする。
【0090】
可動ガイド部77は、支持部材としての内部コア部78と、磁束遮蔽部材79と、第1低摩擦材としての低摩擦シート771と、を有する。
内部コア部78は、加熱回転ベルト9aの内部の磁路の周回方向R3において、センターコア部73及びサイドコア部76と並んで配置され、センターコア部73と後述するサイドコア部76との間における磁路(図6Aから図6C参照)を形成する。
【0091】
内部コア部78は、加熱回転ベルト9aを挟んでセンターコア部73の第1対向面731及びサイドコア部76の第2対向面761に対向する。
【0092】
また、図2から図4に示すように、内部コア部78は、用紙幅方向D2と平行な可動回転軸としての内部コア回転軸J2を中心に回転可能に構成される。
内部コア部78は、図4に示すように、内部コア回転軸J2方向(用紙幅方向D2)に長い円筒状に形成される。内部コア部78は、用紙幅方向D2において、最大長さの用紙Tの最大通紙幅W1よりも長く形成される。
【0093】
内部コア部78は、図4に示すように、用紙幅方向D2において、加熱側最大通紙領域901aに対応する最大通紙領域対応領域781と、加熱側最小通紙領域903aに対応する最小通紙領域対応領域783と、加熱側中間通紙領域902aに対応する中間通紙領域対応領域782と、を有する。
内部コア部78は、内部コアシャフト785に支持される。
【0094】
磁束遮蔽部材79は、内部コア部78に支持される。磁束遮蔽部材79は、内部コア部78の外周面の一部を覆うように配置される。磁束遮蔽部材79は、内部コア部78の外周面(外面)に沿って取り付けられている。磁束遮蔽部材79は、薄板状に形成され、全体として円弧状に湾曲している。
【0095】
磁束遮蔽部材79は、非磁性体材料であり、且つ、導電率が高い導電部材により形成される。磁束遮蔽部材79としては、例えば、無酸素銅などが用いられる。
【0096】
磁束遮蔽部材79は、その面に垂直な磁束が貫通することによる誘導電流で、貫通した磁束に対して逆方向の磁束を発生させる。そして、磁束遮蔽部材79は、錯交磁束(垂直な貫通磁束)をキャンセルする方向の磁束を発生させることで磁路を通過する磁束を低減させ又は遮蔽する。
【0097】
図4に示すように、磁束遮蔽部材79は、内部コア部78の用紙幅方向D2において離間して配置される2つの遮蔽板791、791を有する。
なお、以下の説明において、2つの遮蔽板791、791については、2つの遮蔽板791、791が同じ構成であるため、一方の遮蔽板791について説明する場合がある。
【0098】
図5に示すように、遮蔽板791は、用紙幅方向D2における各用紙Tの非通紙領域の長さに対応した用紙幅方向D2に所定の長さを有する階段状に形成される。
遮蔽板791は、最大非通紙領域遮蔽部分792と、最小非通紙領域遮蔽部分793と、中間非通紙領域遮蔽部分794とを有する。最大非通紙領域遮蔽部分792、最小非通紙領域遮蔽部分793及び中間非通紙領域遮蔽部分794は、内部コア部78の周方向において並んで連続して配置される。
最大非通紙領域遮蔽部分792は、内部コア部78の外周面において、最大通紙領域対応領域781の外側の領域(最大通紙領域901の外側の領域に対応する領域)を覆うように用紙幅方向D2に長く延びて配置される。
【0099】
最小非通紙領域遮蔽部分793は、内部コア部78の外周面において、最小通紙領域対応領域783の外側の領域(最小通紙領域903の外側の領域に対応する領域)を覆うように用紙幅方向D2に長く延びて配置される。
【0100】
中間非通紙領域遮蔽部分794は、内部コア部78の外周面において、中間通紙領域対応領域782の外側の領域(中間通紙領域902の外側の領域に対応する領域)を覆うように用紙幅方向D2に長く延びて配置される。
【0101】
図6Aから図6Cに示すように、内部コア部78は、磁束遮蔽部材79を、センターコア部73の第1対向面731及びサイドコア部76の第2対向面761のいずれにも対向せずに誘導コイル71が発生させた磁束を低減せず又は遮蔽しない非遮蔽位置(図6A参照)と、磁束遮蔽部材79がセンターコア部73の第1対向面731又はサイドコア部76の第2対向面761に対向して誘導コイル71が発生させた磁束を低減させ又は遮蔽する遮蔽位置(図6B又は図6C参照)と、に位置されるように内部コア回転軸J2を中心に回転可能に構成される。
【0102】
図6Bに示すように、磁束遮蔽部材79の遮蔽位置において、磁束遮蔽部材79がセンターコア部73の第1対向面731に対向する位置を第1遮蔽位置という。また、図6Cに示すように、磁束遮蔽部材79の遮蔽位置において、磁束遮蔽部材79がサイドコア部76の第2対向面761に対向する位置を第2遮蔽位置という。
【0103】
図6B及び図6Cに示すように、内部コア部78が回転することにより、磁束遮蔽部材79が第1遮蔽位置又は第2遮蔽位置(遮蔽位置)に位置する場合には、磁束遮蔽部材79は、センターコア部73とサイドコア部76との間を通過する誘導コイル71が発生させた磁束を低減させ又は遮蔽する。磁束遮蔽部材79の第1遮蔽位置(図6B参照)は、第2遮蔽位置(図6C参照)よりも多くの量の磁束を低減又は遮蔽することができる。
【0104】
一方、図6Aに示すように、磁束遮蔽部材79が加圧ローラ9b側を向く位置(非遮蔽位置)に位置した場合には、磁束遮蔽部材79は、センターコア部73の第1対向面731及びサイドコア部76の第2対向面761のいずれにも対向しない位置に位置される。これにより、磁束遮蔽部材79は、誘導コイル71が発生させた磁束を低減せず又は遮蔽しない。
【0105】
低摩擦シート711は、摩擦係数が低い材料で形成されると共に、断熱性を有する。
低摩擦シート771は、可動ガイド部77の外周面を覆うように配置される。つまり、低摩擦シート771は、磁束遮蔽部材79の外面及び内部コア部78の外周面を覆うように配置される。
【0106】
また、低摩擦シート711は、耐熱性を有すると共に断熱性を有する材料により形成される。また、低摩擦シート711は、熱伝導性が低い材料により形成される。また、低摩擦シート771は、厚さが薄いシートにより形成されることが好ましい。
本実施形態においては、低摩擦シート771は、PTFEを含有させたガラス繊維により形成されたガラスクロスシートにより構成される。
【0107】
内部コア部78、磁束遮蔽部材79及び低摩擦シート771は、内部コア部78の内側に固定された内部コアシャフト785が内部コア回転部155により回転駆動されることで一体的に回転される。内部コア回転部155は、回転駆動部158を有する。
【0108】
内部コア回転部155は、不図示の内部コア回転制御部により、プリンタ1に受け付けられた用紙Tのサイズに関する情報であるサイズ情報に基づいて、不図示の記憶部に記憶される情報を参照して、内部コア回転部155を制御する。例えば、記憶部には、用紙Tのサイズ情報に対応する内部コア部78の基準位置からの回転角度が記憶される。これにより、用紙サイズ(用紙幅)に応じて、用紙Tの非通紙領域において磁路を通過する磁束を低減又は遮蔽する。
【0109】
温度センサ95は、加熱回転ベルト9aの外周面の温度を検知する。温度センサ95は、加熱回転ベルト9aの外周面に対向して非接触の状態で配置される。
【0110】
次に、本実施形態の定着装置9を含むプリンタ1の動作について説明する。
まず、プリンタ1の受け付け部(不図示)は、プリンタ1の電源がONの状態において、例えばプリンタ1の外部に配置されている操作部(不図示)が操作されたことに基づいて発生する画像形成指示情報を受け付ける。
【0111】
受け付け部に受け付けられた用紙Tのサイズ情報に基づいて、磁束遮蔽部材79を、非遮蔽位置(図6A参照)、第1遮蔽位置(図6B参照)又は第2遮蔽位置(図6C参照)に位置させるように、内部コア部78を回転させる、又は、内部コア部78を回転させずに回転位置を維持する。
例えば、中間通紙幅W2を有する中間サイズの用紙T(例えば、A4サイズ縦の用紙T)を印刷する印刷命令を受け付けた場合には、記憶部(不図示)を参照して内部コア回転部155を制御する。
【0112】
そのため、内部コア回転制御部は、A4サイズ縦の用紙Tの通紙領域の外側の領域に対応して配置される磁束遮蔽部材79の中間非通紙領域遮蔽部分794(図5参照)をセンターコア部73の第1対向面731に対向する第1遮蔽位置(図6B参照)に位置させると共に、A4サイズ縦の用紙Tの通紙領域の内側の領域において磁束遮蔽部材79を非遮蔽位置(図6A参照)に位置させる。
【0113】
次に、プリンタ1は、印刷動作を開始する。
【0114】
そして、駆動制御部への電力の供給が開始されると、回転駆動部(不図示)により加圧ローラ9bが回転駆動される。加圧ローラ9bの回転駆動に伴って加熱回転ベルト9aは、従動して回転される。
【0115】
次に、定着装置9は、発熱動作を開始する。
これにより、誘導コイル71には、誘導加熱用回路部(不図示)から交流電流が印加される。誘導コイル71は、加熱回転ベルト9aを発熱させるための磁束を発生させる。
【0116】
誘導コイル71により発生された磁束は、一部が加熱回転ベルト9aを突き抜けて内部コア部78に導かれ、加熱回転ベルト9aを突き抜けない磁束が加熱回転ベルト9aへ導かれる。
加熱回転ベルト9aに導かれた磁束及び内部コア部78に導かれた磁束は、加熱回転ベルト9a及び内部コア部78それぞれを通り、サイドコア部76において合流される。
【0117】
そして、磁路を通過する磁束の大きさと方向が変化することにより、加熱回転ベルト9aの垂直方向の上方側の部分には、電磁誘導により渦電流(誘導電流)が発生する。加熱回転ベルト9aには、渦電流が流れることで、加熱回転ベルト9aが有する電気抵抗によりジュール熱が発生する。
【0118】
各サイズの用紙Tの非通紙領域においては、図6Bに示すように、誘導コイル71により発生されて加熱回転ベルト9aを突き抜けた磁束は、内部経路R3Bにおいて、内部コア部78に達する前に、磁束遮蔽部材79を通過する。これにより、磁束遮蔽部材79は、その面に垂直な磁束が貫通することによる誘導電流によって貫通磁束とは逆方向の向きの磁束を発生させる。
【0119】
そして、磁束遮蔽部材79は、錯交磁束(垂直な貫通磁束)をキャンセルする方向の磁束を発生させることで磁路を通過する磁束を低減させ又は遮蔽する。そのため、内部経路R3Bにおいて、内部コア部78を通過する磁束は、低減され又は遮蔽される。
【0120】
これにより、内部コア部78の内部経路R3Bを通る磁束の量は、磁束遮蔽部材79がない場合よりも減少する。そして、サイドコア部76には、磁束遮蔽部材79により低減され又は遮蔽された内部コア部78を通る磁束が合流している。したがって、磁束遮蔽部材79が第1遮蔽位置に位置する場合のサイドコア部76及び加熱回転ベルト9aを通る磁束の量は、用紙Tの非通紙領域において、磁束遮蔽部材79が非遮蔽位置に位置する場合よりも減少している。
【0121】
次に、加熱回転ベルト9aの回転により、加熱回転ベルト9aの電磁誘導加熱(IH)により発熱された部分は、定着装置9の加熱回転ベルト9aと加圧ローラ9bとにより形成される定着ニップFに向けて順次移動される。定着装置9は、定着ニップFにおいて、所定の温度になるように、誘導加熱用回路部(不図示)を制御している。
【0122】
そして、トナー画像が形成された用紙Tは、定着装置9の定着ニップFに導入される。そして、定着ニップFにおいて、トナーが溶融し、トナーが用紙Tに定着される。
本実施形態における定着装置9によれば、用紙Tの各サイズに対応して、非通紙領域において誘導コイル71が発生させた磁束を低減させ又は遮蔽するため、非通紙領域における加熱回転ベルト9aの過度の温度上昇を低減することができる。
【0123】
ここで、加熱回転ベルト9aには、センターコア部73側において、可動ガイド部77が当接している。そのため、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aの回転軌道を維持するように加熱回転ベルト9aの回転をガイドしている。これにより、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aの回転を安定させることができる。
【0124】
更に、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aの内周面に当接することで、加熱回転ベルト9aの垂直方向の上方側の部分を位置決めしている。これにより、加熱回転ベルト9aを通る磁束が安定して、加熱回転ベルト9aの発熱分布を安定させることができる。
【0125】
このように、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aを位置決めすると共に加熱回転ベルト9aの回転をガイドする機能と、各サイズの用紙Tの非通紙領域において磁束を低減させ又は遮蔽する機能とを兼ねている。そのため、定着装置9の大型化を抑制することができる。
【0126】
また、可動ガイド部77は、摩擦係数が低いと共に断熱性を有する低摩擦シート771に覆われている。そのため、加熱回転ベルト9aと可動ガイド部77との間の摩擦抵抗が低減されて、摺動性が良好となる。加熱回転ベルト9aの内周面には、潤滑剤としてのグリスが塗布されているため、加熱回転ベルト9aと可動ガイド部77とは、摺動性がより良好となる。
【0127】
また、低摩擦シート771は、断熱性を有する。そのため、可動ガイド部77と加熱回転ベルト9aとの間の熱伝達が低減される。これにより、定着装置9の熱容量を小さくすることができる。
【0128】
また、低摩擦シート771は、厚さが薄く形成される。そのため、内部コア部78は、センターコア部73及びサイドコア部76の近くに配置される。これにより、磁界(磁束)の結合度が高くなり、加熱回転ベルト9aを効率よく発熱させることができる。
【0129】
本実施形態のプリンタ1によれば、例えば、次のような効果が奏される。
本実施形態のプリンタ1においては、加熱回転ベルト9aは、磁界浸透深さよりも薄い磁性金属層を有する。そのため、誘導コイル71により発生された磁束は、加熱回転ベルト9aを突き抜けて加熱回転ベルト9aの内部に達する磁束と、加熱回転ベルト9aを通る磁束とに分岐される。これにより、磁束遮蔽部材79は、各サイズの用紙Tの非通紙領域において磁束を低減させ又は遮蔽することができる。従って、用紙Tの非通紙領域において、加熱回転ベルト9aの温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0130】
また、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aを位置決めすると共に加熱回転ベルト9aの回転をガイドする機能と、各サイズの用紙Tの非通紙領域において磁束を低減させ又は遮蔽する機能とを兼ねている。これにより、各サイズの用紙Tの非通紙領域における磁束を低減させ又は遮蔽する部材を、加熱回転ベルト9aの外部に配置する必要性がなくなる。従って、定着装置9の大型化を抑制することができる。
【0131】
また、加熱回転ベルト9aは、熱容量が低いベルトにより構成される。そのため、定着装置9の熱容量を小さくすることができる。そのため、ウォームアップ時間を短縮することができる。これにより、電力の消費を抑制することができる。
【0132】
また、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aを位置決めすると共に加熱回転ベルト9aの回転をガイドする。そのため、加熱回転ベルト9aを安定して回転させる。これにより、加熱回転ベルト9aを通る磁束が安定して、加熱回転ベルト9aの発熱分布を一定にさせることができる。
【0133】
また、本実施形態のプリンタ1においては、内部コア部78は、通紙領域において磁路を構成する。これにより、内部コア部78は、加熱回転ベルト9aの内部を通過する磁束を導いて磁束を集中させて強い磁界を形成させる。これにより、加熱回転ベルト9aを効率よく発熱させることができる。
【0134】
また、磁束遮蔽部材79により内部コア部78を遮蔽した場合と遮蔽しない場合とにおいて、加熱ユニット70の磁界の強弱に差を設けることができる。これにより、通紙領域と非通紙領域とにおいて、加熱回転ベルト9aの発熱量を効率的に調整することができる。
【0135】
また、本実施形態のプリンタ1においては、可動ガイド部77は、摩擦係数が低い低摩擦シート771を有する。そのため、加熱回転ベルト9aと可動ガイド部77との間の摺動性が向上する。
【0136】
また、本実施形態のプリンタ1においては、低摩擦シート771は、断熱性を有する。そのため、加熱回転ベルト9aが低熱容量であることが維持されることで、定着装置9の熱容量を小さくすることができる。
【0137】
また、本実施形態のプリンタ1においては、加熱回転ベルト9aの内周面には、摩擦係数が低い潤滑剤が塗布される。そのため、加熱回転ベルト9aの摺動性が一層向上する。
【0138】
また、本実施形態のプリンタ1においては、各サイズの用紙Tに対応して、非通紙領域に対応する位置に磁束遮蔽部材79を遮蔽位置に位置させることで、非通紙領域において加熱回転ベルト9aの温度が過度に上昇されることを低減することができる。
【0139】
以上、好適な実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されることなく種々の形態で実施することができる。
【0140】
例えば、前述の実施形態においては、磁性体コア部72は、センターコア部73と、複数対のアーチコア部74と、一対のサイドコア部76とを有して構成されているが、これに制限されない。例えば、磁性体コア部72は、センターコア部73、複数対のアーチコア部74及び一対のサイドコア部76をいずれも有さずに構成されていてもよいし、センターコア部73、複数対のアーチコア部74及び一対のサイドコア部76のいずれかを有して構成されていても、センターコア部73、複数対のアーチコア部74及び一対のサイドコア部76のいずれか2つを有して構成されていてもよい。
【0141】
また、前述の実施形態においては、内部コア部78は、磁性体コアを主体として構成しているが、これに制限されない。内部コア部78に代えて、磁性体コアにより構成されない支持部材であってもよい。
【0142】
また、前述の実施形態においては、加熱回転ベルト9aは、磁性金属層を主体として構成されているが、これに制限されない。加熱回転ベルト9aは、非磁性金属層を主体として構成されてもよい。加熱回転ベルト9aが非磁性金属層を主体として構成される場合には、誘導コイル71により発生された磁束の全部は、加熱回転ベルト9aを突き抜ける。そして、加熱回転ベルト9aは、その磁束が突き抜けた部分の非磁性金属層において誘導加熱により発熱可能である。
【0143】
また、前述の実施形態においては、第1低摩擦材771をガラスクロスシートにより構成したが、これに制限されない。例えば、第1低摩擦材を、PFAチューブや、耐熱樹脂製のリブ部材等を用いて接触面積を低減させることにより加熱回転ベルト9aとの摩擦を小さくするような部材であってもよい。
【0144】
また、前述の実施形態においては、第2低摩擦材を潤滑剤により構成したが、これに制限されない。例えば、第2低摩擦材を摩擦係数が低いシートにより構成してもよい。
【0145】
本発明の画像形成装置の種類は、特に限定がなく、プリンタ以外に、コピー機、ファクシミリ、又はこれらの複合機などであってもよい。
シート状の被転写材は、用紙に制限されず、例えば、フィルムシートであってもよい。
【符号の説明】
【0146】
1……プリンタ(画像形成装置)、2……感光体ドラム(像担持体)、8……転写ローラ(転写部)、9……定着装置、9a……加熱回転ベルト、9b……加圧回転体、加圧ローラ、16……現像器、71……誘導コイル、72……磁性体コア部、73……センターコア部(第2コア部)、74……アーチコア部(第1コア部)、76……サイドコア部(第3コア部)、77……可動ガイド部、78……内部コア部(支持部材)、79……磁束遮蔽部材、92……受圧部材、711A……内周縁、711B……外周縁、731……第1対向面、761……第2対向面、771……低摩擦シート(第1低摩擦材)、D2……用紙幅方向(直交方向)、F……定着ニップ、R1……第1周方向、R2……第2周方向、R3……周回方向、T……用紙(被転写材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及びこれを備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置においては、熱容量を小さくすることができるベルト方式を備えた定着装置が注目されている。また、近年、急速加熱や高効率加熱の可能性をもった電磁誘導加熱(IH;induction heating)方式が注目されている。
【0003】
電磁誘導加熱方式の定着装置においては、定着装置に搬送(通紙)される被転写材としての用紙の長さ(用紙の搬送方向に垂直な方向の用紙の幅:通紙幅)に合わせて、用紙が定着装置の定着ニップに搬送される時に用紙が通過する通紙領域(第1領域)の外側の領域(非通紙領域、第2領域)の温度が過度に上昇することを抑制するために、非通紙領域と通紙領域とにおける加熱回転体の発熱量を調整することができる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、電磁誘導加熱方式の定着装置において、整磁合金層を有する金属ローラとして構成される加熱ローラ(加熱回転体)と、加熱ローラの内部に配置される誘導コイルと、を備える定着装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2に記載されている定着装置は、用紙が通過しないことで温度が上昇した非通紙領域において、整磁合金層がキュリー温度以上になった場合に整磁合金層の磁性を失わせることで、用紙の各サイズの通紙幅に応じて非通紙領域における加熱回転ベルトの温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−26246号公報
【特許文献2】特開2004−151470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載される定着装置においては、加熱回転ベルトの外部には、加熱回転ベルトの発熱量を調整するための磁束遮蔽部材が移動可能に配置されている。そのため、定着装置が大型化する可能性があった。
【0007】
また、特許文献2に記載される定着装置の加熱ローラの整磁金属層は、所定厚さよりも厚くする必要がある。そのため、定着装置の熱容量が大きくなる可能性があった。
【0008】
従って、用紙の各サイズに対応して非通紙領域と通紙領域とにおける加熱回転体の発熱量を調整することが可能であると共に、熱容量を小さくすることができ且つ大型化を抑制することができる定着装置が望まれている。
【0009】
本発明は、被転写材(用紙)のサイズに対応して第1領域(通紙領域)と第2領域(非通紙領域)とにおける加熱回転ベルトの発熱量を調整することができると共に、定着装置の熱容量を小さくすることができ且つ大型化を抑制することができる定着装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記定着装置を備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、所定の電流により磁束を発生させる誘導コイルと、前記誘導コイルにより発生された磁束が通る領域に配置される加熱回転ベルトであって、磁界浸透深さよりも薄い発熱層を有する加熱回転ベルトと、前記加熱回転ベルトの内部に配置され、該加熱回転ベルトの内面に当接する受圧部材と、前記加熱回転ベルトに対向して配置される加圧回転体と、前記受圧部材と前記加圧回転体とにより前記加熱回転ベルトを挟み込んで形成され、シート状の被転写材を挟み込むと共に該シート状の被転写材を搬送する定着ニップと、前記誘導コイルにおける内周縁の内側と外周縁の外側とを通り該誘導コイルを囲むように周回する磁路を形成する磁性体コア部であって、前記加熱回転ベルトの内部に前記加熱回転ベルトの内面に当接して配置され、前記加熱回転ベルトを位置決めすると共に前記加熱回転ベルトの回転をガイドする可動ガイド部であって、磁束を低減させ又は遮蔽する遮蔽位置と、磁束を低減せず又は遮蔽しない非遮蔽位置とに位置されるように回転可能に構成される磁束遮蔽部材と、前記磁束遮蔽部材を支持する支持部材とを有する可動ガイド部と、を有する磁性体コア部と、を備える定着装置に関する。
【0011】
また、前記磁性体コア部は、前記誘導コイルを挟んで前記加熱回転ベルトの外面に対向する1又は複数の第1コア部を有することが好ましい。
【0012】
また、前記磁性体コア部は、前記誘導コイルの内周縁の近傍に配置され、前記誘導コイルを挟まずに前記加熱回転ベルトの外面に対向する第1対向面を有する第2コア部を有することが好ましい。
【0013】
また、前記磁性体コア部は、前記誘導コイルの外周縁の近傍に配置され、前記誘導コイルを挟まずに前記加熱回転ベルトの外面に対向する第2対向面を有する第3コア部を有することが好ましい。
【0014】
また、前記支持部材は、磁性体コアを主体として構成されることが好ましい。
【0015】
また、前記可動ガイド部は、前記磁束遮蔽部材及び前記支持部材を覆うように配置される摩擦係数が低い第1低摩擦材を有することが好ましい。
【0016】
また、前記第1低摩擦材は、断熱性を有することが好ましい。
【0017】
また、前記加熱回転ベルトの内面には、摩擦係数が低い第2低摩擦材が配置されることが好ましい。
【0018】
また、前記加熱回転ベルトの外面に形成され、前記被転写材が前記定着ニップに搬送される場合における前記所定の被転写材が通過する領域である第1領域と、前記加熱回転ベルトの外面に形成され、前記第1領域から見て前記被転写材の搬送方向に直交する方向である直交方向の外側の領域である第2領域と、を備え、前記磁束遮蔽部材は、前記可動ガイド部における前記第2領域に対応する位置に形成されることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、表面に静電潜像が形成される1又は複数の像担持体と、前記1又は複数の像担持体に形成された静電潜像をトナー画像として現像する現像器と、前記像担持体に形成されたトナー画像を直接的又は間接的にシート状の被転写材に転写する転写部と、前記定着装置と、を備える画像形成装置に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被転写材(用紙)のサイズに対応して第1領域(通紙領域)と第2領域(非通紙領域)とにおける加熱回転ベルトの発熱量を調整することができると共に、熱容量を小さくすることができ且つ大型化を抑制することができる定着装置を提供することができる。
また、本発明によれば、前記定着装置を備える画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態のプリンタ1の各構成要素の配置を説明するための図である。
【図2】本実施形態のプリンタ1の定着装置9の各構成要素を説明するための断面図である。
【図3】図2に示す定着装置9を用紙Tの搬送方向D1から視た図である。
【図4】本実施形態のプリンタ1の内部コア部78と磁束遮蔽部材79との位置関係を用紙Tの搬送方向D1から視た概念図である。
【図5】本実施形態のプリンタ1の磁束遮蔽部材79の形状を示す図である。
【図6A】内部コア部78が非遮蔽位置に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。
【図6B】内部コア部78が遮蔽位置(第1遮蔽位置)に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。
【図6C】内部コア部78が遮蔽位置(第2遮蔽位置)に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1により、本実施形態における画像形成装置としてのプリンタ1の全体構造を説明する。図1は、本発明の一実施形態のプリンタ1の各構成要素の配置を説明するための図である。
【0023】
図1に示すように、一実施形態における画像形成装置としてのプリンタ1は、装置本体Mと、画像情報に基づいてシート状の被転写材としての用紙Tにトナー画像を形成する画像形成部GKと、用紙Tを画像形成部GKに給紙すると共にトナー画像が形成された用紙Tを排紙する給排紙部KHとを有する。
装置本体Mの外形は、筐体としてのケース体BDにより構成される。
【0024】
図1に示すように、画像形成部GKは、像担持体(感光体)としての感光体ドラム2と、帯電部10と、露光ユニットとしてのレーザスキャナユニット4と、現像器16と、トナーカートリッジ5と、トナー供給部6と、ドラムクリーニング部11と、除電器12と、転写部としての転写ローラ8と、定着装置9とを備える。
【0025】
図1に示すように、給排紙部KHは、給紙カセット52と、用紙Tの搬送路Lと、レジストローラ対80と、排紙部50とを備える。
【0026】
以下、画像形成部GK及び給排紙部KHの各構成について詳細に説明する。
まず、画像形成部GKについて説明する。
画像形成部GKにおいては、感光体ドラム2の表面に沿って順に、上流側から下流側に順に、帯電部10による帯電、レーザスキャナユニット4による露光、現像器16による現像、転写ローラ8による転写、除電器12による除電、及びドラムクリーニング部11によるクリーニングが行われる。
【0027】
感光体ドラム2は、円筒形状の部材からなり、感光体又は像担持体として機能する。感光体ドラム2は、搬送路Lにおける用紙Tの搬送方向に対して直交する方向に延びる回転軸を中心に、図1に示した矢印の方向に回転可能に配置される。感光体ドラム2の表面には、静電潜像が形成され得る。
【0028】
帯電部10は、感光体ドラム2の表面に対向して配置される。帯電部10は、感光体ドラム2の表面を一様に負(マイナス極性)又は正(プラス極性)に帯電させる。
【0029】
レーザスキャナユニット4は、露光ユニットとして機能するものであり、感光体ドラム2の表面から離間して配置される。
【0030】
レーザスキャナユニット4は、PC(パーソナルコンピュータ)等の外部機器から入力された画像情報に基づいて、感光体ドラム2の表面を走査露光することで感光体ドラム2の表面に静電潜像を形成することができる。
【0031】
現像器16は、感光体ドラム2に対応して設けられ、感光体ドラム2の表面に対向して配置される。現像器16は、感光体ドラム2に形成された静電潜像を単色(通常はブラック)のトナーを用いて現像して、単色のトナー画像を感光体ドラム2の表面に形成する。現像器16は、感光体ドラム2の表面に対向配置された現像ローラ17、トナー攪拌用の攪拌ローラ18等を有して構成される。
【0032】
トナーカートリッジ5は、現像器16に対応して設けられており、現像器16に対して供給されるトナーを収容する。
【0033】
トナー供給部6は、トナーカートリッジ5及び現像器16に対応して設けられており、トナーカートリッジ5に収容されたトナーを現像器16に対して供給する。
【0034】
転写ローラ8は、感光体ドラム2の表面に形成されたトナー画像を用紙Tに転写させる。転写ローラ8は、感光体ドラム2に対して当接した状態で回転可能に構成される。
【0035】
感光体ドラム2と転写ローラ8との間には、転写ニップNが形成される。転写ニップNにおいて、感光体ドラム2に形成されたトナー画像が用紙Tに転写される。
除電器12は、感光体ドラム2の表面に対向して配置される。
ドラムクリーニング部11は、感光体ドラム2の表面に対向して配置される。
【0036】
定着装置9は、用紙Tに転写されたトナー画像を構成するトナーを溶融及び加圧して、用紙Tに定着させる。
定着装置9の詳細については後述する。
【0037】
次に、給排紙部KHについて説明する。
図1に示すように、装置本体Mの下部には、用紙Tを収容する1個の給紙カセット52が配置される。給紙カセット52には、用紙Tが載置される載置板60が配置される。載置板60に載置された用紙Tは、カセット給紙部51により搬送路Lに送り出される。カセット給紙部51は、載置板60上の用紙Tを取り出すための前送りコロ61と、用紙Tを1枚ずつ搬送路Lに送り出すための給紙ローラ対63とからなる重送防止機構を備える。
【0038】
装置本体Mの上部には、排紙部50が設けられる。排紙部50は、第3ローラ対53により用紙Tを装置本体Mの外部に排紙する。排紙部50の詳細については後述する。
【0039】
用紙Tを搬送する搬送路Lは、カセット給紙部51から転写ニップNまでの第1搬送路L1と、転写ニップNから定着装置9までの第2搬送路L2と、定着装置9から排紙部50までの第3搬送路L3と、第3搬送路L3を上流側から下流側へ搬送する用紙を、表裏反転させて第1搬送路L1に戻す戻し搬送路Lbとを備える。
【0040】
また、第1搬送路L1の途中には、第1合流部P1が設けられている。第3搬送路L3の途中には、第1分岐部Q1が設けられている。
【0041】
第1搬送路L1の途中(詳細には、第1合流部P1と転写ローラ8との間)には、用紙Tを検出するためのセンサ(不図示)と、用紙Tのスキュー(斜め給紙)補正や画像形成部GKにおけるトナー画像の形成と用紙Tの搬送のタイミングを合わせるためのレジストローラ対80とが配置される。
【0042】
第3搬送路L3の用紙搬送方向側の端部には、排紙部50が形成される。排紙部50は、装置本体Mの上部に配置される。排紙部50は、第3搬送路L3を搬送される用紙Tを第3ローラ対53によって装置本体Mの外部に排紙する。
【0043】
排紙部50における開口側には、排紙集積部M1が形成される。排紙集積部M1は、装置本体Mにおける上面(外面)に形成される。
なお、各搬送路の所定位置には用紙検出用のセンサ(不図示)が配置される。
【0044】
次に、本実施形態のプリンタ1の特徴部分である定着装置9に係る構成について詳細に説明する。図2は、本実施形態のプリンタ1の定着装置9の各構成要素を説明するための断面図である。図3は、図2に示す定着装置9を用紙Tの搬送方向D1から視た図である。図4は、本実施形態のプリンタ1の内部コア部78と磁束遮蔽部材79との位置関係を用紙Tの搬送方向D1から視た概念図である。図5は、本実施形態のプリンタ1の磁束遮蔽部材79の形状を示す図である。図6Aは、内部コア部78が非遮蔽位置に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。図6Bは、内部コア部78が遮蔽位置(第1遮蔽位置)に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。図6Cは、内部コア部78が遮蔽位置(第2遮蔽位置)に位置する場合において、周回方向R3における磁路を通過する磁束について説明するための図である。
【0045】
図2に示すように、定着装置9は、加熱回転ベルト9aと、加熱回転ベルト9aに圧接(当接)される加圧回転体9bと、加熱ユニット70と、受圧部材92と、複数の温度センサ95と、を備える。
【0046】
加熱回転ベルト9aは、環状(無端ベルト状)に形成される。加熱回転ベルト9aは、熱容量が低いベルトにより形成される。加熱回転ベルト9aは、第1周方向R1に回転可能に構成される。本実施形態においては、第1周方向R1に直交する方向D2を「用紙幅方向D2」ともいう。加熱回転ベルト9aは、後述する加熱ユニット70を用いることで、電磁誘導を利用した電磁誘導加熱(IH;induction heating)により発熱される。
加熱回転ベルト9aは、後述する加熱ユニット70の誘導コイル71により発生された磁束が通る領域に配置される。
【0047】
加熱回転ベルト9aの内部には、後述する受圧部材92と、後述する可動ガイド部77とが配置される。加熱回転ベルト9aは、所定の張力が付与された状態で、可動ガイド部77と、受圧部材92とに掛け渡される。
【0048】
加熱回転ベルト9aの内周面(内面)には、後述する加圧ローラ9b側(加熱回転ベルト9aの内部の垂直方向の下方側)において受圧部材92が当接すると共に、後述するセンターコア部73側(加熱回転ベルト9aの内部の垂直方向の上方側)において可動ガイド部77が当接する。
【0049】
また、加熱回転ベルト9aの内周面には、第2低摩擦材としての潤滑剤(不図示)が塗布(配置)される。本実施形態においては、潤滑剤は、摩擦係数が低いグリスである。
受圧部材92及び可動ガイド部77については後述する。
【0050】
本実施形態においては、加熱回転ベルト9aは、基材がニッケル等の強磁性材料により形成された発熱層としての磁性金属層を主体として構成される。加熱回転ベルト9aの磁性金属層は、磁界浸透深さよりも薄く構成される。
【0051】
加熱回転ベルト9aは、後述する加熱ユニット70の誘導コイル71により発生された磁束が通る領域に配置されることで、加熱ユニット70の誘導コイル71により発生される磁束の磁路を形成する。
【0052】
ここで、磁界浸透深さについて説明する。
磁界浸透深さとは、渦電流密度の値が加熱回転ベルト9aの磁性金属層の表面の値の1/e(e:自然対数の底)になる加熱回転ベルト9aの磁性金属層の表面からの深さをいう。渦電流は、磁性金属層の表面からの深さが磁界浸透深さよりも深い位置においては、ほとんど流れないといえる。
【0053】
磁界浸透深さは、次の式で表される。
δ=503√(ρ/fμ)
(δ:磁界浸透深さ、ρ:電気抵抗率、f:周波数、μ:比透磁率)
例えば、加熱回転ベルト9aの磁性金属層としてニッケルを用いた場合、周波数fが30kHzである所定の電流を誘導コイル71に流した場合、ニッケルの電気抵抗率ρが6.80×10−8Ω・m、比透磁率μが300であるので、磁界浸透深さδは43.7μmとなる。
【0054】
磁性金属層が磁界浸透深さ以上の厚さの場合には、磁性金属層の表面から磁界浸透深さよりも深い位置においては、渦電流は、ほとんど流れない。これにより、誘導コイル71により発生された磁束は、磁界浸透深さよりも深い位置には達しない。従って、誘導コイル71により発生された磁束は、磁性金属層を突き抜けずに、加熱回転ベルト9aの磁性金属層に沿って導かれる。
【0055】
一方、磁性金属層の厚さが磁界浸透深さよりも薄い場合には、誘導コイル71により発生された磁束は、加熱回転ベルト9aの磁性金属層を突き抜ける。そして、加熱回転ベルト9aを突き抜けない磁束は、加熱回転ベルト9aの磁性金属層に沿って導かれる。加熱回転ベルト9aの磁性金属層を突き抜ける磁束の量は、磁性金属層の厚さが磁界浸透深さに比べて薄いほど多くなる。
加熱回転ベルト9aの磁性金属層の厚さは、磁界浸透深さよりも薄い範囲内で、適宜設定される。
【0056】
本実施形態においては、加熱回転ベルト9aの磁性金属層の厚さは、磁界浸透深さが43.7μmであるのに対して、40μmであり、誘導コイル71によって発生された磁束の約50%の磁束が加熱回転ベルト9aが突き抜けるように設定されている。
【0057】
加熱回転ベルト9aには、加熱回転ベルト9aを突き抜けずに加熱回転ベルト9aを通る磁束により、電磁誘導によって渦電流(誘導電流)が発生する。加熱回転ベルト9aには、渦電流が流れることで、加熱回転ベルト9aが有する電気抵抗によりジュール熱が発生する。このように、加熱回転ベルト9aは、後述する加熱ユニット70によって電磁誘導を利用した電磁誘導加熱(IH)により発熱される。
【0058】
加圧回転体9bとしての加圧ローラ9bは、円筒状に形成される。加圧ローラ9bは、加熱回転ベルト9aの垂直方向下方側に加熱回転ベルト9aに対向して配置される。加圧ローラ9bは、用紙幅方向D2に平行な第1回転軸J1を中心に、加圧ローラ9bの周方向である第2周方向R2に回転可能に構成される。加圧ローラ9bは、第1回転軸J1方向に延びるように形成される。
【0059】
加圧ローラ9bは、その外周面が、加熱回転ベルト9aの外周面(外面)に当接するように配置される。加圧ローラ9bは、加熱回転ベルト9aを介して受圧部材92(後述)を押圧するように配置される。加圧ローラ9bは、受圧部材92と加熱回転ベルト9aの一部を挟み込んで、加熱回転ベルト9aと定着ニップFを形成する。定着ニップFは、用紙Tを挟み込むと共に、用紙Tを搬送する。
【0060】
加圧ローラ9bは、加圧ローラ本体941と、第1回転軸J1と同軸の軸部材942(図3参照)と、を有する。加圧ローラ本体941は、円筒状の金属部材と、金属部材の外周面に形成される弾性層と、弾性層の外周面に形成される離型層と、を有する。
【0061】
加圧ローラ9bの軸部材942には、加圧ローラ9bを回転駆動させる回転駆動部(不図示)が接続される。この回転駆動部により、加圧ローラ9bがに所定速度で回転駆動されると共に、加圧ローラ9bの回転に従動して、加圧ローラ9bの外周面に当接する加熱回転ベルト9aが回転される。
【0062】
受圧部材92は、加熱回転ベルト9aの内部に配置される。受圧部材92は、加熱回転ベルト9aの内部の加圧ローラ9b側において、加熱回転ベルト9aの内周面に当接する。受圧部材92は、用紙幅方向D2に長く延びて形成される。
受圧部材92は、加熱回転ベルト9aを加圧ローラ9bとの間に挟み込んで、加熱回転ベルト9aと加圧ローラ9bとの間に定着ニップFを形成する。
受圧部材92は、加熱回転ベルト9aの内周面に摺動しながら接触する。
【0063】
定着ニップFに搬送される用紙Tは、定着装置9の通紙領域(第1領域)内を通過して搬送された場合に、トナー画像が定着される。「通紙領域」(第1領域)とは、定着ニップFに搬送される用紙Tが加熱回転ベルト9aと加圧ローラ9bとに挟まれて通過する領域のことである。また、用紙Tが定着ニップFに搬送される場合における通紙領域よりも外側の領域である用紙Tが通過しない領域を「非通紙領域」(第2領域)ともいう。
【0064】
図3に示すように、用紙幅方向D2における最大長さの用紙Tが定着ニップFに搬送される場合における通紙領域として、最大通紙領域901を設定する。最大通紙領域901は、プリンタ1ごとにそれぞれ設定される。
【0065】
具体的には、加熱回転ベルト9aの外周面には、加熱回転ベルト9aにおける最大通紙領域901として、加熱側最大通紙領域901aが形成(設定)される。加圧ローラ9bの外周面には、加熱回転ベルト9aの加熱側最大通紙領域901aに対応して、加圧回転体9bにおける最大通紙領域901として、加圧側最大通紙領域901bが形成(設定)される。加熱側最大通紙領域901aにおける用紙幅方向D2に平行な方向の長さを、「最大通紙幅W1」という。
【0066】
また、用紙幅方向D2における最小長さの用紙Tが定着ニップFに搬送される場合における用紙Tが通過する通紙領域として、最小通紙領域903を設定する。
具体的には、加熱回転ベルト9aの外周面には、加熱回転ベルト9aにおける最小通紙領域903として、加熱側最小通紙領域903aが形成(設定)される。加圧ローラ9bの外周面には、加熱回転ベルト9aの加熱側最小通紙領域903aに対応して、加圧側最小領域903bが形成(設定)される。加熱側最小通紙領域903aにおける用紙幅方向D2に平行な方向の長さを、「最小通紙幅W3」という。
【0067】
また、本実施形態の定着装置9においては、用紙幅方向D2における長さが最大長さよりも短く且つ最小長さ(最小幅)よりも長い長さである中間長さ(中間幅)の用紙Tが定着ニップFに搬送される場合における用紙Tが通過する通紙領域として、中間通紙領域902(加熱側中間通紙領域902a、加圧側中間領域902b)を設定する。加熱側中間通紙領域902aにおける用紙幅方向D2に平行な方向の長さを、「中間通紙幅W2」という。
なお、用紙Tの通紙領域は、これに制限されず、各サイズの用紙Tに対応して適宜設定することができる。
【0068】
加熱ユニット70について説明する。図2及び図3に示すように、加熱ユニット70は、誘導コイル71と、磁性体コア部72と、を備える。誘導コイル71は、加熱回転ベルト9aの外周面から所定距離だけ離間すると共に、加熱回転ベルト9aの外周面に沿って配置される。誘導コイル71は、平面視(図2及び図3における上方から視た場合)において、用紙幅方向D2に長い形状に線材を巻き回して形成される。
誘導コイル71は、用紙幅方向D2において加熱回転ベルト9aの長さよりも長く形成される。
【0069】
誘導コイル71は、銅製のリッツ線の線材を巻き回して形成される。誘導コイル71は、加熱回転ベルト9aの垂直方向の上方側の略半周の外周面に対向して配置される。
【0070】
図2及び図3に示すように、誘導コイル71は、用紙幅方向D2に延びるように形成される中央領域718を囲むように線材を巻き回して形成される。
【0071】
本実施形態においては、誘導コイル71は、耐熱性の樹脂材料により形成された支持部材(図示せず)の上に、線材が巻き回されて固定される。
【0072】
誘導コイル71は、不図示の誘導加熱用回路部に接続される。誘導コイル71には、誘導加熱用回路部から所定周波数の所定の交流電流が印加される。誘導コイル71は、誘導加熱用回路部から交流電流が印加されることにより、加熱回転ベルト9aを発熱させるための磁束を発生させる。例えば、誘導コイル71には、周波数が30kHz程度の交流電流が印加される。
【0073】
誘導コイル71により発生された磁束は、加熱回転ベルト9a及び磁性体コア部72(後述)により形成された磁束の経路である磁路に導かれる。
【0074】
磁路は、誘導コイル71により発生された磁束が周回方向R3に周回するように、加熱回転ベルト9a及び磁性体コア部72(後述)により形成される。周回方向R3とは、誘導コイル71の内周縁711Aの内側と外周縁711Bの外側とを通り誘導コイル71の線材の部分を囲むように周回する方向である。誘導コイル71により発生された磁束は、磁路を通過する。
【0075】
誘導コイル71により発生される磁束は、誘導加熱用回路部(不図示)から所定周波数の交流電流が印加されるため、交流電流のプラス又はマイナスへの周期的な変動により、その大きさ及び方向が変化する。加熱回転ベルト9aには、この磁束の変化により誘導電流(渦電流)が発生する。
【0076】
磁性体コア部72は、図2に示すように、周回方向R3に周回する磁路を形成する。磁性体コア部72は、誘導コイル71により発生される磁束が通る領域に配置されると共に、強磁性材料を主体として形成されるため、誘導コイル71により発生される磁束の経路である磁路を形成する。
【0077】
磁性体コア部72は、上部コア部75と、第3コア部としての一対のサイドコア部76、76と、可動ガイド部77とを有する。また、可動ガイド部77は、支持部材としての内部コア部78と、磁束遮蔽部材79とを有する。上部コア部75、サイドコア部76及び内部コア部78は、例えば、フェライト粉末を焼結して成形される強磁性材料からなるフェライト製の磁性体コアを主体として構成される。
【0078】
上部コア部75は、第2コア部としてのセンターコア部73と、複数の第1コア部としての複数対のアーチコア部74とにより一体的に形成される。
センターコア部73は、用紙幅方向D2に視た場合に、加熱回転ベルト9aの垂直方向の上方側(中央領域718の近傍)において、加熱回転ベルト9aの用紙Tの搬送方向D1の略中央に配置される。
【0079】
複数対のアーチコア部74は、センターコア部73に対して、搬送方向D1の下流側及び上流側に対をなしてそれぞれ配置される。センターコア部73及び複数対のアーチコア部74、74は、用紙幅方向D2の所定位置において、磁路の周回方向R3に沿って連続して一体的に並んで形成される。
【0080】
センターコア部73は、図6Aに示すように、磁路の周回方向R3において、後述するアーチコア部74と加熱回転ベルト9aとの間の磁路と、後述するアーチコア部74と内部コア部78との間の磁路とを形成する。センターコア部73は、中央領域718の近傍(誘導コイル71の内周縁711Aに配置される線材の近傍)に配置される。
【0081】
センターコア部73は、加熱回転ベルト9aの外周面から所定距離だけ離間して加熱回転ベルト9aの外周面に対向する。センターコア部73は、誘導コイル71の線材の部分を挟まずに加熱回転ベルト9aの外周面に対向する第1対向面731を有する。
【0082】
また、図3に示すように、センターコア部73は、用紙幅方向D2に長い略直方体形状に形成される。センターコア部73は、用紙幅方向D2において、最大長さの用紙Tの最大通紙幅W1よりも長く形成される。
【0083】
複数対のアーチコア部74、74それぞれは、センターコア部73の上方側から搬送方向D1の上流側及び下流側それぞれに延びるように形成される。
複数対のアーチコア部74、74それぞれは、図2に示すように、磁路の周回方向R3において、誘導コイル71に対して加熱回転ベルト9aとは反対側(誘導コイル71の外側)の磁路を形成する。
【0084】
複数対のアーチコア部74、74それぞれは、誘導コイル71の線材の部分を挟んで加熱回転ベルト9aの外周面に対向して配置される。複数対のアーチコア部74、74は、用紙Tの搬送方向D1の下流側及び上流側に対をなして配置される。複数対のアーチコア部74、74それぞれは、加熱回転ベルト9aの周方向に沿うように延びるアーチ状に形成される。アーチコア部74は、水平部742と、傾斜部743とを有する。
【0085】
また、複数のアーチコア部74それぞれは、図3に示すように、用紙幅方向D2に所定距離だけ離間して配置される。
複数のアーチコア部74それぞれは、用紙幅方向D2に離間して周回方向R3において周回する複数の磁路を形成する。
【0086】
一対のサイドコア部76、76それぞれは、図2に示すように、磁路の周回方向R3において、加熱回転ベルト9a及び内部コア部78(後述)それぞれとアーチコア部74との間における磁路(図6Aから図6C参照)を形成する。一対のサイドコア部76、76それぞれは、磁路の周回方向R3において、複数対のアーチコア部74、74それぞれに並んで配置される。
【0087】
一対のサイドコア部76、76それぞれは、誘導コイル71の外周縁711Bの近傍に配置される。一対のサイドコア部76、76それぞれは、加熱回転ベルト9aの外周面から所定距離だけ離間して加熱回転ベルト9aの外周面に対向して配置される。一対のサイドコア部76、76それぞれは、誘導コイル71における線材の部分を挟まずに加熱回転ベルト9aの外周面に対向する第2対向面761を有する。また、一対のサイドコア部76、76それぞれは、用紙幅方向D2に長い略直方体形状に形成される。
一対のサイドコア部76、76それぞれは、図3に示すように、用紙幅方向D2において、最大通紙領域901に対応する領域よりも長く形成される。
【0088】
可動ガイド部77は、図2に示すように、加熱回転ベルト9aの内部のセンターコア部73側(垂直方向の上方側)の内周面に当接して配置される。可動ガイド部77は、用紙幅方向D2に長い円筒状に形成される。可動ガイド部77は、図3に示すように、用紙幅方向D2において、最大長さの用紙Tの最大通紙幅W1よりも長く形成される。
【0089】
可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aの内周面に当接することで、加熱回転ベルト9aと誘導コイル71との距離を一定に保つように、加熱回転ベルト9aを位置決めする。また、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aの回転軌道を維持するように加熱回転ベルト9aの回転をガイドする。
【0090】
可動ガイド部77は、支持部材としての内部コア部78と、磁束遮蔽部材79と、第1低摩擦材としての低摩擦シート771と、を有する。
内部コア部78は、加熱回転ベルト9aの内部の磁路の周回方向R3において、センターコア部73及びサイドコア部76と並んで配置され、センターコア部73と後述するサイドコア部76との間における磁路(図6Aから図6C参照)を形成する。
【0091】
内部コア部78は、加熱回転ベルト9aを挟んでセンターコア部73の第1対向面731及びサイドコア部76の第2対向面761に対向する。
【0092】
また、図2から図4に示すように、内部コア部78は、用紙幅方向D2と平行な可動回転軸としての内部コア回転軸J2を中心に回転可能に構成される。
内部コア部78は、図4に示すように、内部コア回転軸J2方向(用紙幅方向D2)に長い円筒状に形成される。内部コア部78は、用紙幅方向D2において、最大長さの用紙Tの最大通紙幅W1よりも長く形成される。
【0093】
内部コア部78は、図4に示すように、用紙幅方向D2において、加熱側最大通紙領域901aに対応する最大通紙領域対応領域781と、加熱側最小通紙領域903aに対応する最小通紙領域対応領域783と、加熱側中間通紙領域902aに対応する中間通紙領域対応領域782と、を有する。
内部コア部78は、内部コアシャフト785に支持される。
【0094】
磁束遮蔽部材79は、内部コア部78に支持される。磁束遮蔽部材79は、内部コア部78の外周面の一部を覆うように配置される。磁束遮蔽部材79は、内部コア部78の外周面(外面)に沿って取り付けられている。磁束遮蔽部材79は、薄板状に形成され、全体として円弧状に湾曲している。
【0095】
磁束遮蔽部材79は、非磁性体材料であり、且つ、導電率が高い導電部材により形成される。磁束遮蔽部材79としては、例えば、無酸素銅などが用いられる。
【0096】
磁束遮蔽部材79は、その面に垂直な磁束が貫通することによる誘導電流で、貫通した磁束に対して逆方向の磁束を発生させる。そして、磁束遮蔽部材79は、錯交磁束(垂直な貫通磁束)をキャンセルする方向の磁束を発生させることで磁路を通過する磁束を低減させ又は遮蔽する。
【0097】
図4に示すように、磁束遮蔽部材79は、内部コア部78の用紙幅方向D2において離間して配置される2つの遮蔽板791、791を有する。
なお、以下の説明において、2つの遮蔽板791、791については、2つの遮蔽板791、791が同じ構成であるため、一方の遮蔽板791について説明する場合がある。
【0098】
図5に示すように、遮蔽板791は、用紙幅方向D2における各用紙Tの非通紙領域の長さに対応した用紙幅方向D2に所定の長さを有する階段状に形成される。
遮蔽板791は、最大非通紙領域遮蔽部分792と、最小非通紙領域遮蔽部分793と、中間非通紙領域遮蔽部分794とを有する。最大非通紙領域遮蔽部分792、最小非通紙領域遮蔽部分793及び中間非通紙領域遮蔽部分794は、内部コア部78の周方向において並んで連続して配置される。
最大非通紙領域遮蔽部分792は、内部コア部78の外周面において、最大通紙領域対応領域781の外側の領域(最大通紙領域901の外側の領域に対応する領域)を覆うように用紙幅方向D2に長く延びて配置される。
【0099】
最小非通紙領域遮蔽部分793は、内部コア部78の外周面において、最小通紙領域対応領域783の外側の領域(最小通紙領域903の外側の領域に対応する領域)を覆うように用紙幅方向D2に長く延びて配置される。
【0100】
中間非通紙領域遮蔽部分794は、内部コア部78の外周面において、中間通紙領域対応領域782の外側の領域(中間通紙領域902の外側の領域に対応する領域)を覆うように用紙幅方向D2に長く延びて配置される。
【0101】
図6Aから図6Cに示すように、内部コア部78は、磁束遮蔽部材79を、センターコア部73の第1対向面731及びサイドコア部76の第2対向面761のいずれにも対向せずに誘導コイル71が発生させた磁束を低減せず又は遮蔽しない非遮蔽位置(図6A参照)と、磁束遮蔽部材79がセンターコア部73の第1対向面731又はサイドコア部76の第2対向面761に対向して誘導コイル71が発生させた磁束を低減させ又は遮蔽する遮蔽位置(図6B又は図6C参照)と、に位置されるように内部コア回転軸J2を中心に回転可能に構成される。
【0102】
図6Bに示すように、磁束遮蔽部材79の遮蔽位置において、磁束遮蔽部材79がセンターコア部73の第1対向面731に対向する位置を第1遮蔽位置という。また、図6Cに示すように、磁束遮蔽部材79の遮蔽位置において、磁束遮蔽部材79がサイドコア部76の第2対向面761に対向する位置を第2遮蔽位置という。
【0103】
図6B及び図6Cに示すように、内部コア部78が回転することにより、磁束遮蔽部材79が第1遮蔽位置又は第2遮蔽位置(遮蔽位置)に位置する場合には、磁束遮蔽部材79は、センターコア部73とサイドコア部76との間を通過する誘導コイル71が発生させた磁束を低減させ又は遮蔽する。磁束遮蔽部材79の第1遮蔽位置(図6B参照)は、第2遮蔽位置(図6C参照)よりも多くの量の磁束を低減又は遮蔽することができる。
【0104】
一方、図6Aに示すように、磁束遮蔽部材79が加圧ローラ9b側を向く位置(非遮蔽位置)に位置した場合には、磁束遮蔽部材79は、センターコア部73の第1対向面731及びサイドコア部76の第2対向面761のいずれにも対向しない位置に位置される。これにより、磁束遮蔽部材79は、誘導コイル71が発生させた磁束を低減せず又は遮蔽しない。
【0105】
低摩擦シート711は、摩擦係数が低い材料で形成されると共に、断熱性を有する。
低摩擦シート771は、可動ガイド部77の外周面を覆うように配置される。つまり、低摩擦シート771は、磁束遮蔽部材79の外面及び内部コア部78の外周面を覆うように配置される。
【0106】
また、低摩擦シート711は、耐熱性を有すると共に断熱性を有する材料により形成される。また、低摩擦シート711は、熱伝導性が低い材料により形成される。また、低摩擦シート771は、厚さが薄いシートにより形成されることが好ましい。
本実施形態においては、低摩擦シート771は、PTFEを含有させたガラス繊維により形成されたガラスクロスシートにより構成される。
【0107】
内部コア部78、磁束遮蔽部材79及び低摩擦シート771は、内部コア部78の内側に固定された内部コアシャフト785が内部コア回転部155により回転駆動されることで一体的に回転される。内部コア回転部155は、回転駆動部158を有する。
【0108】
内部コア回転部155は、不図示の内部コア回転制御部により、プリンタ1に受け付けられた用紙Tのサイズに関する情報であるサイズ情報に基づいて、不図示の記憶部に記憶される情報を参照して、内部コア回転部155を制御する。例えば、記憶部には、用紙Tのサイズ情報に対応する内部コア部78の基準位置からの回転角度が記憶される。これにより、用紙サイズ(用紙幅)に応じて、用紙Tの非通紙領域において磁路を通過する磁束を低減又は遮蔽する。
【0109】
温度センサ95は、加熱回転ベルト9aの外周面の温度を検知する。温度センサ95は、加熱回転ベルト9aの外周面に対向して非接触の状態で配置される。
【0110】
次に、本実施形態の定着装置9を含むプリンタ1の動作について説明する。
まず、プリンタ1の受け付け部(不図示)は、プリンタ1の電源がONの状態において、例えばプリンタ1の外部に配置されている操作部(不図示)が操作されたことに基づいて発生する画像形成指示情報を受け付ける。
【0111】
受け付け部に受け付けられた用紙Tのサイズ情報に基づいて、磁束遮蔽部材79を、非遮蔽位置(図6A参照)、第1遮蔽位置(図6B参照)又は第2遮蔽位置(図6C参照)に位置させるように、内部コア部78を回転させる、又は、内部コア部78を回転させずに回転位置を維持する。
例えば、中間通紙幅W2を有する中間サイズの用紙T(例えば、A4サイズ縦の用紙T)を印刷する印刷命令を受け付けた場合には、記憶部(不図示)を参照して内部コア回転部155を制御する。
【0112】
そのため、内部コア回転制御部は、A4サイズ縦の用紙Tの通紙領域の外側の領域に対応して配置される磁束遮蔽部材79の中間非通紙領域遮蔽部分794(図5参照)をセンターコア部73の第1対向面731に対向する第1遮蔽位置(図6B参照)に位置させると共に、A4サイズ縦の用紙Tの通紙領域の内側の領域において磁束遮蔽部材79を非遮蔽位置(図6A参照)に位置させる。
【0113】
次に、プリンタ1は、印刷動作を開始する。
【0114】
そして、駆動制御部への電力の供給が開始されると、回転駆動部(不図示)により加圧ローラ9bが回転駆動される。加圧ローラ9bの回転駆動に伴って加熱回転ベルト9aは、従動して回転される。
【0115】
次に、定着装置9は、発熱動作を開始する。
これにより、誘導コイル71には、誘導加熱用回路部(不図示)から交流電流が印加される。誘導コイル71は、加熱回転ベルト9aを発熱させるための磁束を発生させる。
【0116】
誘導コイル71により発生された磁束は、一部が加熱回転ベルト9aを突き抜けて内部コア部78に導かれ、加熱回転ベルト9aを突き抜けない磁束が加熱回転ベルト9aへ導かれる。
加熱回転ベルト9aに導かれた磁束及び内部コア部78に導かれた磁束は、加熱回転ベルト9a及び内部コア部78それぞれを通り、サイドコア部76において合流される。
【0117】
そして、磁路を通過する磁束の大きさと方向が変化することにより、加熱回転ベルト9aの垂直方向の上方側の部分には、電磁誘導により渦電流(誘導電流)が発生する。加熱回転ベルト9aには、渦電流が流れることで、加熱回転ベルト9aが有する電気抵抗によりジュール熱が発生する。
【0118】
各サイズの用紙Tの非通紙領域においては、図6Bに示すように、誘導コイル71により発生されて加熱回転ベルト9aを突き抜けた磁束は、内部経路R3Bにおいて、内部コア部78に達する前に、磁束遮蔽部材79を通過する。これにより、磁束遮蔽部材79は、その面に垂直な磁束が貫通することによる誘導電流によって貫通磁束とは逆方向の向きの磁束を発生させる。
【0119】
そして、磁束遮蔽部材79は、錯交磁束(垂直な貫通磁束)をキャンセルする方向の磁束を発生させることで磁路を通過する磁束を低減させ又は遮蔽する。そのため、内部経路R3Bにおいて、内部コア部78を通過する磁束は、低減され又は遮蔽される。
【0120】
これにより、内部コア部78の内部経路R3Bを通る磁束の量は、磁束遮蔽部材79がない場合よりも減少する。そして、サイドコア部76には、磁束遮蔽部材79により低減され又は遮蔽された内部コア部78を通る磁束が合流している。したがって、磁束遮蔽部材79が第1遮蔽位置に位置する場合のサイドコア部76及び加熱回転ベルト9aを通る磁束の量は、用紙Tの非通紙領域において、磁束遮蔽部材79が非遮蔽位置に位置する場合よりも減少している。
【0121】
次に、加熱回転ベルト9aの回転により、加熱回転ベルト9aの電磁誘導加熱(IH)により発熱された部分は、定着装置9の加熱回転ベルト9aと加圧ローラ9bとにより形成される定着ニップFに向けて順次移動される。定着装置9は、定着ニップFにおいて、所定の温度になるように、誘導加熱用回路部(不図示)を制御している。
【0122】
そして、トナー画像が形成された用紙Tは、定着装置9の定着ニップFに導入される。そして、定着ニップFにおいて、トナーが溶融し、トナーが用紙Tに定着される。
本実施形態における定着装置9によれば、用紙Tの各サイズに対応して、非通紙領域において誘導コイル71が発生させた磁束を低減させ又は遮蔽するため、非通紙領域における加熱回転ベルト9aの過度の温度上昇を低減することができる。
【0123】
ここで、加熱回転ベルト9aには、センターコア部73側において、可動ガイド部77が当接している。そのため、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aの回転軌道を維持するように加熱回転ベルト9aの回転をガイドしている。これにより、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aの回転を安定させることができる。
【0124】
更に、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aの内周面に当接することで、加熱回転ベルト9aの垂直方向の上方側の部分を位置決めしている。これにより、加熱回転ベルト9aを通る磁束が安定して、加熱回転ベルト9aの発熱分布を安定させることができる。
【0125】
このように、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aを位置決めすると共に加熱回転ベルト9aの回転をガイドする機能と、各サイズの用紙Tの非通紙領域において磁束を低減させ又は遮蔽する機能とを兼ねている。そのため、定着装置9の大型化を抑制することができる。
【0126】
また、可動ガイド部77は、摩擦係数が低いと共に断熱性を有する低摩擦シート771に覆われている。そのため、加熱回転ベルト9aと可動ガイド部77との間の摩擦抵抗が低減されて、摺動性が良好となる。加熱回転ベルト9aの内周面には、潤滑剤としてのグリスが塗布されているため、加熱回転ベルト9aと可動ガイド部77とは、摺動性がより良好となる。
【0127】
また、低摩擦シート771は、断熱性を有する。そのため、可動ガイド部77と加熱回転ベルト9aとの間の熱伝達が低減される。これにより、定着装置9の熱容量を小さくすることができる。
【0128】
また、低摩擦シート771は、厚さが薄く形成される。そのため、内部コア部78は、センターコア部73及びサイドコア部76の近くに配置される。これにより、磁界(磁束)の結合度が高くなり、加熱回転ベルト9aを効率よく発熱させることができる。
【0129】
本実施形態のプリンタ1によれば、例えば、次のような効果が奏される。
本実施形態のプリンタ1においては、加熱回転ベルト9aは、磁界浸透深さよりも薄い磁性金属層を有する。そのため、誘導コイル71により発生された磁束は、加熱回転ベルト9aを突き抜けて加熱回転ベルト9aの内部に達する磁束と、加熱回転ベルト9aを通る磁束とに分岐される。これにより、磁束遮蔽部材79は、各サイズの用紙Tの非通紙領域において磁束を低減させ又は遮蔽することができる。従って、用紙Tの非通紙領域において、加熱回転ベルト9aの温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0130】
また、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aを位置決めすると共に加熱回転ベルト9aの回転をガイドする機能と、各サイズの用紙Tの非通紙領域において磁束を低減させ又は遮蔽する機能とを兼ねている。これにより、各サイズの用紙Tの非通紙領域における磁束を低減させ又は遮蔽する部材を、加熱回転ベルト9aの外部に配置する必要性がなくなる。従って、定着装置9の大型化を抑制することができる。
【0131】
また、加熱回転ベルト9aは、熱容量が低いベルトにより構成される。そのため、定着装置9の熱容量を小さくすることができる。そのため、ウォームアップ時間を短縮することができる。これにより、電力の消費を抑制することができる。
【0132】
また、可動ガイド部77は、加熱回転ベルト9aを位置決めすると共に加熱回転ベルト9aの回転をガイドする。そのため、加熱回転ベルト9aを安定して回転させる。これにより、加熱回転ベルト9aを通る磁束が安定して、加熱回転ベルト9aの発熱分布を一定にさせることができる。
【0133】
また、本実施形態のプリンタ1においては、内部コア部78は、通紙領域において磁路を構成する。これにより、内部コア部78は、加熱回転ベルト9aの内部を通過する磁束を導いて磁束を集中させて強い磁界を形成させる。これにより、加熱回転ベルト9aを効率よく発熱させることができる。
【0134】
また、磁束遮蔽部材79により内部コア部78を遮蔽した場合と遮蔽しない場合とにおいて、加熱ユニット70の磁界の強弱に差を設けることができる。これにより、通紙領域と非通紙領域とにおいて、加熱回転ベルト9aの発熱量を効率的に調整することができる。
【0135】
また、本実施形態のプリンタ1においては、可動ガイド部77は、摩擦係数が低い低摩擦シート771を有する。そのため、加熱回転ベルト9aと可動ガイド部77との間の摺動性が向上する。
【0136】
また、本実施形態のプリンタ1においては、低摩擦シート771は、断熱性を有する。そのため、加熱回転ベルト9aが低熱容量であることが維持されることで、定着装置9の熱容量を小さくすることができる。
【0137】
また、本実施形態のプリンタ1においては、加熱回転ベルト9aの内周面には、摩擦係数が低い潤滑剤が塗布される。そのため、加熱回転ベルト9aの摺動性が一層向上する。
【0138】
また、本実施形態のプリンタ1においては、各サイズの用紙Tに対応して、非通紙領域に対応する位置に磁束遮蔽部材79を遮蔽位置に位置させることで、非通紙領域において加熱回転ベルト9aの温度が過度に上昇されることを低減することができる。
【0139】
以上、好適な実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されることなく種々の形態で実施することができる。
【0140】
例えば、前述の実施形態においては、磁性体コア部72は、センターコア部73と、複数対のアーチコア部74と、一対のサイドコア部76とを有して構成されているが、これに制限されない。例えば、磁性体コア部72は、センターコア部73、複数対のアーチコア部74及び一対のサイドコア部76をいずれも有さずに構成されていてもよいし、センターコア部73、複数対のアーチコア部74及び一対のサイドコア部76のいずれかを有して構成されていても、センターコア部73、複数対のアーチコア部74及び一対のサイドコア部76のいずれか2つを有して構成されていてもよい。
【0141】
また、前述の実施形態においては、内部コア部78は、磁性体コアを主体として構成しているが、これに制限されない。内部コア部78に代えて、磁性体コアにより構成されない支持部材であってもよい。
【0142】
また、前述の実施形態においては、加熱回転ベルト9aは、磁性金属層を主体として構成されているが、これに制限されない。加熱回転ベルト9aは、非磁性金属層を主体として構成されてもよい。加熱回転ベルト9aが非磁性金属層を主体として構成される場合には、誘導コイル71により発生された磁束の全部は、加熱回転ベルト9aを突き抜ける。そして、加熱回転ベルト9aは、その磁束が突き抜けた部分の非磁性金属層において誘導加熱により発熱可能である。
【0143】
また、前述の実施形態においては、第1低摩擦材771をガラスクロスシートにより構成したが、これに制限されない。例えば、第1低摩擦材を、PFAチューブや、耐熱樹脂製のリブ部材等を用いて接触面積を低減させることにより加熱回転ベルト9aとの摩擦を小さくするような部材であってもよい。
【0144】
また、前述の実施形態においては、第2低摩擦材を潤滑剤により構成したが、これに制限されない。例えば、第2低摩擦材を摩擦係数が低いシートにより構成してもよい。
【0145】
本発明の画像形成装置の種類は、特に限定がなく、プリンタ以外に、コピー機、ファクシミリ、又はこれらの複合機などであってもよい。
シート状の被転写材は、用紙に制限されず、例えば、フィルムシートであってもよい。
【符号の説明】
【0146】
1……プリンタ(画像形成装置)、2……感光体ドラム(像担持体)、8……転写ローラ(転写部)、9……定着装置、9a……加熱回転ベルト、9b……加圧回転体、加圧ローラ、16……現像器、71……誘導コイル、72……磁性体コア部、73……センターコア部(第2コア部)、74……アーチコア部(第1コア部)、76……サイドコア部(第3コア部)、77……可動ガイド部、78……内部コア部(支持部材)、79……磁束遮蔽部材、92……受圧部材、711A……内周縁、711B……外周縁、731……第1対向面、761……第2対向面、771……低摩擦シート(第1低摩擦材)、D2……用紙幅方向(直交方向)、F……定着ニップ、R1……第1周方向、R2……第2周方向、R3……周回方向、T……用紙(被転写材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電流により磁束を発生させる誘導コイルと、
前記誘導コイルにより発生された磁束が通る領域に配置される加熱回転ベルトであって、磁界浸透深さよりも薄い発熱層を有する加熱回転ベルトと、
前記加熱回転ベルトの内部に配置され、該加熱回転ベルトの内面に当接する受圧部材と、
前記加熱回転ベルトに対向して配置される加圧回転体と、
前記受圧部材と前記加圧回転体とにより前記加熱回転ベルトを挟み込んで形成され、シート状の被転写材を挟み込むと共に該シート状の被転写材を搬送する定着ニップと、
前記誘導コイルにおける内周縁の内側と外周縁の外側とを通り該誘導コイルを囲むように周回する磁路を形成する磁性体コア部であって、
前記加熱回転ベルトの内部に前記加熱回転ベルトの内面に当接して配置され、前記加熱回転ベルトを位置決めすると共に前記加熱回転ベルトの回転をガイドする可動ガイド部であって、磁束を低減させ又は遮蔽する遮蔽位置と、磁束を低減せず又は遮蔽しない非遮蔽位置とに位置されるように回転可能に構成される磁束遮蔽部材と、前記磁束遮蔽部材を支持する支持部材とを有する可動ガイド部と、を有する磁性体コア部と、を備える
定着装置。
【請求項2】
前記磁性体コア部は、前記誘導コイルを挟んで前記加熱回転ベルトの外面に対向する1又は複数の第1コア部を有する
請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記磁性体コア部は、前記誘導コイルの内周縁の近傍に配置され、前記誘導コイルを挟まずに前記加熱回転ベルトの外面に対向する第1対向面を有する第2コア部を有する
請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記磁性体コア部は、前記誘導コイルの外周縁の近傍に配置され、前記誘導コイルを挟まずに前記加熱回転ベルトの外面に対向する第2対向面を有する第3コア部を有する
請求項1から3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記支持部材は、磁性体コアを主体として構成される
請求項1から4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記可動ガイド部は、前記磁束遮蔽部材及び前記支持部材を覆うように配置される摩擦係数が低い第1低摩擦材を有する
請求項1から5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記第1低摩擦材は、断熱性を有する
請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記加熱回転ベルトの内面には、摩擦係数が低い第2低摩擦材が配置される
請求項1から7のいずれかに記載の定着装置。
【請求項9】
前記加熱回転ベルトの外面に形成され、前記被転写材が前記定着ニップに搬送される場合における前記所定の被転写材が通過する領域である第1領域と、
前記加熱回転ベルトの外面に形成され、前記第1領域から見て前記被転写材の搬送方向に直交する方向である直交方向の外側の領域である第2領域と、を備え、
前記磁束遮蔽部材は、前記可動ガイド部における前記第2領域に対応する位置に形成される
請求項1から8のいずれかに記載の定着装置。
【請求項10】
表面に静電潜像が形成される1又は複数の像担持体と、
前記1又は複数の像担持体に形成された静電潜像をトナー画像として現像する現像器と、
前記像担持体に形成されたトナー画像を直接的又は間接的にシート状の被転写材に転写する転写部と、
請求項1から9のいずれかに記載の定着装置と、を備える
画像形成装置。
【請求項1】
所定の電流により磁束を発生させる誘導コイルと、
前記誘導コイルにより発生された磁束が通る領域に配置される加熱回転ベルトであって、磁界浸透深さよりも薄い発熱層を有する加熱回転ベルトと、
前記加熱回転ベルトの内部に配置され、該加熱回転ベルトの内面に当接する受圧部材と、
前記加熱回転ベルトに対向して配置される加圧回転体と、
前記受圧部材と前記加圧回転体とにより前記加熱回転ベルトを挟み込んで形成され、シート状の被転写材を挟み込むと共に該シート状の被転写材を搬送する定着ニップと、
前記誘導コイルにおける内周縁の内側と外周縁の外側とを通り該誘導コイルを囲むように周回する磁路を形成する磁性体コア部であって、
前記加熱回転ベルトの内部に前記加熱回転ベルトの内面に当接して配置され、前記加熱回転ベルトを位置決めすると共に前記加熱回転ベルトの回転をガイドする可動ガイド部であって、磁束を低減させ又は遮蔽する遮蔽位置と、磁束を低減せず又は遮蔽しない非遮蔽位置とに位置されるように回転可能に構成される磁束遮蔽部材と、前記磁束遮蔽部材を支持する支持部材とを有する可動ガイド部と、を有する磁性体コア部と、を備える
定着装置。
【請求項2】
前記磁性体コア部は、前記誘導コイルを挟んで前記加熱回転ベルトの外面に対向する1又は複数の第1コア部を有する
請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記磁性体コア部は、前記誘導コイルの内周縁の近傍に配置され、前記誘導コイルを挟まずに前記加熱回転ベルトの外面に対向する第1対向面を有する第2コア部を有する
請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記磁性体コア部は、前記誘導コイルの外周縁の近傍に配置され、前記誘導コイルを挟まずに前記加熱回転ベルトの外面に対向する第2対向面を有する第3コア部を有する
請求項1から3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記支持部材は、磁性体コアを主体として構成される
請求項1から4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記可動ガイド部は、前記磁束遮蔽部材及び前記支持部材を覆うように配置される摩擦係数が低い第1低摩擦材を有する
請求項1から5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記第1低摩擦材は、断熱性を有する
請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記加熱回転ベルトの内面には、摩擦係数が低い第2低摩擦材が配置される
請求項1から7のいずれかに記載の定着装置。
【請求項9】
前記加熱回転ベルトの外面に形成され、前記被転写材が前記定着ニップに搬送される場合における前記所定の被転写材が通過する領域である第1領域と、
前記加熱回転ベルトの外面に形成され、前記第1領域から見て前記被転写材の搬送方向に直交する方向である直交方向の外側の領域である第2領域と、を備え、
前記磁束遮蔽部材は、前記可動ガイド部における前記第2領域に対応する位置に形成される
請求項1から8のいずれかに記載の定着装置。
【請求項10】
表面に静電潜像が形成される1又は複数の像担持体と、
前記1又は複数の像担持体に形成された静電潜像をトナー画像として現像する現像器と、
前記像担持体に形成されたトナー画像を直接的又は間接的にシート状の被転写材に転写する転写部と、
請求項1から9のいずれかに記載の定着装置と、を備える
画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【公開番号】特開2012−93412(P2012−93412A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238344(P2010−238344)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】
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