説明

定量潅水による育苗・栽培方法

【課題】培地の吸水性、保水性の特性の変化にかかわらず、湛水による潅水後の残留水の量を一定量に設定し、過剰な潅水量による植物体の徒長発生を防ぎ、植物体の均一な性状及び生育が得られる定量潅水による育苗・栽培方法を提供する。
【解決手段】植物体Bを植え込んだポット1を出し入れ可能に納める潅水容器3を予め設定された容量とし、この潅水容器3に定量の潅水用液体Cを入れ、この潅水容器3内に苗を植え込んだポット1を挿入し、定量の潅水用液体Cに浸すことによって余剰の潅水用液体Cを排水し、残った定量の潅水用液体で潅水することによって植物体Bの生長を均一化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、単独のポットやセルトレイのポットに植え込んだ播種、実生苗、接木苗及び栄養繁殖用苗等の植物体の育成及び栽培において、培地特性に左右されないで潅水量を定量化することで、植物体の性状及び生育を均一にする定量潅水による育苗・栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、植物体の育苗や栽培における水管理は、潅水と乾燥の繰り返しで行われ、これが根系を形成する上で重要となるが、圃場移植を前提とした育苗では、特に乾燥過程が重要となる。
【0003】
また、培地の保水性や吸水性に関係なく、潅水を均一化するには満水で湛水することにより可能となることが知られている。
【0004】
しかし満水による湛水によって潅水を行った場合、培地に対して潅水量を一定にできることになるが、湛水状態で植物体が必要とする水量以上にある場合は、温度が高く、光が暗い条件下では苗が徒長してしまう。
【0005】
即ち、自然光栽培などの夜間において、培地中に潅水用液体が過剰に残っている場合、水分を必要以上に吸収することでひょろひょろ苗になってしまい、これを防ぐには、昼間の間に培地内の水分を少なくしておくことが重要であり、一日に使われる水量は、季節により異なる蒸発散量に支配される。
【0006】
そのため、潅水量を調整する必要があるが、湛水における浸水水位を調整すると、潅水量を減らすことができるが、潅水用液体で満たされていない培地の上部では毛管作用で潅水量にバラツキが生じることになり、植物体の性状及び生育が不均一になると共に、徒長の発生を効果的に防ぐことができないという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、培地の吸水性、保水性の特性の変化にかかわらず、ポットの底面から簡単に潅水できる原理に着目し、湛水による潅水後の残留水の量を一日の消費量になるよう一定量に設定し、過剰な潅水量による植物体の徒長発生を防ぎ、植物体の均一な性状及び生育が得られる定量潅水による育苗・栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような課題を解決するため、この発明は、植物体を植え込んだポットを出し入れ可能に納める潅水容器を予め設定された容量とし、この潅水容器に定量の潅水用液体を入れ、この潅水容器内に植物体を植え込んだポットを挿入し、定量の潅水用液体に浸すことによって潅水を行う構成を採用したものである。
【0009】
上記植物体を植え込んだポットは多数のポットが平面的に並んで連なるセルトレイのポットであり、前記ポットを出し入れ可能に納める潅水容器は、このセルトレイの各ポットごとに個々に独立し、各潅水容器に定量の潅水用液体を入れ、この潅水容器内に植物体を植え込んだポットを挿入して定量の潅水用液体に浸すことによって潅水を行い、セルトレイの中央部に位置するポットの潅水容器は、セルトレイの周辺部に位置するポットの潅水容器よりも容量が少なく設定しておく構造とすることができる。
【0010】
また、上記潅水容器内に潅水用液体を満水に充填し、この満水状態で潅水容器内にポットを挿入して培地が湛水することにより、ポットの培地特性に応じて余剰潅水用液体を排水させ、培地の湛水状態で残留潅水用液体の量が培地特性に関係なく定量になるよう潅水容器の容量を設定するようにしてもよい。
【0011】
ここで、上記ポットの培地に対する潅水において、満水の潅水容器に対してポットを挿入して底面の孔から潅水すると、培地の乾いて軽いポットは沈降速度が遅く、培地が湿って重いポットは沈降速度が速くなる。この原理からポットの沈む量と潅水容器から零れる排水量が比例関係となり、乾いて軽いポットは培地に対する潅水量が多く、湿って重いポットは潅水量が少なくなることで、潅水容器に対してポットが完全に納まれば、培地の乾燥度合いに関係なく、各ポットに対して一定量の潅水用液体を潅水量として揃えることができる。
【0012】
何れの場合でも、培地が吸水する過程でポットは深く沈み、潅水容器内の必要以上の水は溢れて排水されることになるので、ポットが潅水容器内へ完全に収まることで、潅水容器内にはポットの周囲に一定量の潅水用液体が残ることになり、従って、最終的には、培地の乾燥度合いに関係なく、一定量の潅水量として揃えることができ、また、揃える潅水用液体の量は、潅水容器のサイズとポット自体の浮力で決めることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、潅水容器を予め設定された容量とし、この潅水容器に定量の潅水用液体を入れ、この潅水容器内に植物体を植え込んだポットを挿入して定量の潅水用液体に浸すことによって潅水を行うようにしたので、ポットが潅水容器内へ完全に沈むことで、潅水容器内にはポットの周囲に一定量の水が残ることになり、従って、培地の乾燥度合いに関係なく、一定量の潅水量として揃えることができ、植物体の性状及び生育が均一になると共に、余分な潅水を防ぐことで徒長の発生を効果的に防ぐことができる。
【0014】
また、セルトレイの各ポットごとに上記潅水容器を個々に独立させ、セルトレイの中央部に位置するポットの潅水容器を、セルトレイの周辺部に位置するポットの潅水容器よりも容量が少なく設定したので、セルトレイの中央部と周辺部に位置する各ポットの乾燥進行の変化を均一化することができ、これによってセルトレイ全体における植物体の育成の均一化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図示のように、この発明の育苗・栽培方法は、ポット1内の培地Aに植え込んだ植物体Bを育苗・栽培する場合に、水、あるいは肥料.薬液等の入った水である潅水用液体Cが定量充填された潅水容器3を用いて潅水をポット1の下部の孔1aから底面潅水によって行うと共に、培地Aの吸水性、保水性の特性の変化にかかわらず、定量潅水を行い、植物体Bの徒長発生を防ぎ、植物体Bの均一な性状及び生育が得られるようにするものである。
【0017】
ここで、ポット1は、図示のような、多数のポット1が縦と横に連なる構造を有するセルトレイ2のポットを例示しているが、独立した単独のポットでもよく、また、植物体Bとは、播種、実生苗、接木苗及び栄養繁殖用苗等である。
【0018】
上記潅水容器3は、植物体Bを植え込んだポット1が上部から出し入れ可能に納まると共に、一定量の潅水用液体Cを収納するように予め設定された容量を有し、この潅水容器3に定量の潅水用液体Cを入れ、この潅水容器3内に植物体Bを植え込んだポット1を挿入し、このポット1を潅水用液体Cに浸すことによって潅水を行い、培地Aの乾燥度合いに対応した潅水が行われながら、ポット1が潅水容器3内へ完全に沈み込んで余剰水が排出されることで、潅水容器3内にはポット1の周囲に一定量の潅水用液体Cが残ることになり、従って、培地Aの乾燥度合いに関係なく、各ポット1に対して一定量の潅水用液体Cを潅水量として揃えることができる。
【0019】
図1(a)乃至図2(e)は、潅水を自動化するための装置を示し、セルトレイ2を水平状態に支持するフレーム4を外側容器5内に収納し、このフレーム4にフロート6を設けると共にガイド7によって上下に昇降動するよう保持し、前記外側容器5内でセルトレイ2の下部に、各ポット1ごとに内部が区切られた潅水容器3が水平に設置されている。
【0020】
この潅水容器3は、セルトレイ2の各ポット1ごとに独立し、図1(a)のように、フレーム4が下降位置にあるとき、セルトレイ2のポット1は対応する潅水容器3内に収まるようになっている。
【0021】
図1(a)のように、各ポット1の培地Aに植物体Bを植え込んだセルトレイ2をフレーム4で水平に支持した状態で、図1(b)のように、外側容器5内に水、あるいは肥料、薬液等の入った水からなる潅水用液体Cを注入すると、液面の上昇と共にフロート6との作用でフレーム4とこれに支持されたセルトレイ2が上昇し、図1(c)のように、外側容器5内に注入した潅水用液体Cの液面が潅水容器3の上縁に達すると、潅水容器3内に潅水用液体Cが流入して満水状態になる。
【0022】
この状態で、図2(d)のように、外側容器5内の潅水用液体Cを排出すると、液面の低下と共にフレームとこれが支持したセルトレイ2が下降し、ポット1が対応する潅水容器3内の潅水用液体C上に載り、下部の孔1aから培地Aに潅水用液体Cが吸水されることで、ポット1は潅水用液体Cに培地の乾燥状態に対応した速度で沈降していき、下降したセルトレイ2のポット1が対応する潅水容器3内に沈降して収まると、外側容器5内の潅水用液体Cは、余剰となる量が潅水容器3から溢れて排出され、ポット1の外周と潅水容器3の内周の空間に一定量の潅水用液体Cが残ることになる。
【0023】
上記ポット1が対応する潅水容器3内に沈降して収まるとき、培地Aが吸水する過程でポット1は深く沈み、この満水状態で潅水容器3内にポット1を沈降させて培地Aが湛水することにより潅水が行われ、潅水容器3内の必要以上の潅水用液体Cは溢れて排水されることになるので、ポット1が潅水容器3内へ完全に沈むことで、潅水容器3内にはポット1の周囲に一定量の潅水用液体Cが残ることになり、従って、最終的には、培地の乾燥度合いに関係なく、一定量の潅水用液体Cを以後の潅水量として揃えることができる。
【0024】
図3は、培地Aの性状と潅水量が一定に揃う原理を示し、潅水容器3に対してセルトレイ2のポット1をガイド8で昇降自在に保持し、ポット1が潅水容器3内の潅水用液体Cへ沈む場合に、図3(a)のように、軽くて水分の少ない培地Aの場合、ポット1は潅水用液体Cに少ししか沈まず、培地Aは潅水用液体Cを多く吸引しながらゆっくりと下降し、満水状態にある潅水用液体Cを潅水容器3の外部に流出させる量が少なく、また、湿って重い培地Aの場合は、図3(b)のように、ポット1が潅水用液体Cに最初から深くまで沈んで満水状態にある潅水用液体Cを潅水容器3の外部に多く流出させ、従って、最終的には、図3(c)のように、潅水容器3内にポット1が完全に納まれば、ポット1が潅水容器3内へ完全に沈んで余剰水が流出されることで、潅水容器3内にはポット1の周囲に一定量の潅水用液体Cが残ることになり、これによって培地Aの乾燥度合いに関係なく潅水用液体Cを一定の潅水量として揃えることができる。
【0025】
上記潅水容器3によって揃える潅水用液体Cの量は、潅水容器3のサイズとポット1自体の浮力で決めることができる。
【0026】
ところで、多数のポット1が縦と横に連なる構造を有するセルトレイ2においては、中央部に位置するポット1の培地Aよりも周辺部に位置するポット1の培地Aが乾燥しやすく、これが原因で各ポット1に植え込んだ植物体Bの生育が中央部で徒長して蒲鉾状になるため、中央部ポット1と周辺部ポット1では潅水量に差を設けるようにするのが好ましい。
【0027】
図4(a)と(b)はその具体的な例を示し、潅水容器3に対してセルトレイ2のポット1をガイド8で昇降自在に保持し、中央部に位置するポット1の角形潅水容器3の一辺の長さD1と、周辺部に位置するポット1の潅水容器3の一辺D2を、D1<D2の関係に設定し、中央部に位置するポット1の潅水容器3における貯水量を少なく、周辺部に位置するポット1の潅水容器3における貯水量を多くすることにより、中央部と周辺部に位置するポット1で潅水用液体Cの量に差を設け、これによって中央部の植物体が徒長して全体が蒲鉾状になるのを防ぐことができる。
【0028】
また、図4のように、一辺の長さが等しいか上記のようにD1<D2の関係にある中央部と周辺部の潅水容器3において、図4(b)において図示では高さを同一としたが、中央部の潅水容器3の高さH1と周辺部の潅水容器3の高さH2をH1>H2の関係に設定してもよく、高さH1とH2の設定は、潅水容器3の上部に孔を設けることによって得ることができる。
【0029】
この発明の育苗方法は、植物体Bを植え込んだポット1内の培地Aを潅水するため、潅水容器3内に潅水用液体Cを満水に充填し、この満水状態で潅水容器3内にポット1を沈降させて培地が湛水することにより、ポット1の培地特性に応じて余剰潅水用液体Cを潅水容器3から排水させ、培地Aの湛水状態で残留する潅水用液体Cの量が培地特性に関係なく定量にする。
【0030】
上記のように、培地Aの湛水状態で残留潅水用液体Cの量を定量にすれば、昼間の間に培地A内の水分を少なくしておくことができるので、自然光栽培などの夜間において、植物体Bが水分を必要以上に吸収することがなく、植物体Bの徒長発生を防ぐことができる。
【0031】
また、セルトレイ2においては、中央部ポット1の培地Aよりも周辺部ポット1の培地Aが乾燥しやすいため、中央部ポット1と周辺部ポット1では潅水量に差を設けるようにすると、各ポット1の潅水条件が揃うことになり、植え込んだ植物体Bの生育が中央部で徒長して全体が蒲鉾状になるのを防ぐことができ、これによって植物体Bの生育と栽培が均一化する。
【0032】
なお、ここで提案した育苗・栽培方法は、図示のようなセルトレイ2のポット1における培地の潅水に限定されるものではなく、植物体を植え込んだ単独のポットに対する培地の潅水も上記と同様に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の定量潅水による育苗・栽培方法の実施に用いる潅水を自動化するための装置を示し、(a)は空の潅水容器内にポットが納まった潅水完了の状態を示す縦断正面図、(b)は外側容器に潅水用液体を注水した状態を示す縦断正面図、(c)は潅水容器内に潅水用液体が充填された状態を示す縦断正面図
【図2】(d)は外側容器に潅水用液体を排水することによってポットが下降する状態を示す縦断正面図、(e)は潅水容器内にポットが納まった潅水状態を示す縦断面図
【図3】培地の性状と潅水量が一定に揃う原理を示し、(a)は軽くて水分の少ない培地のポットが潅水用液体に沈む状態を示す縦断正面図、(b)は重くて水分の多い培地のポットが潅水用液体に沈む状態を示す縦断正面図、(c)は培地の乾燥度合いに関係なく潅水用液体を一定の潅水量として揃えることができる状態を示す縦断正面図
【図4】セルトレイの中央部に位置するポットと周辺部に位置するポットに植え込んだ植物体の生育が中央部で徒長して蒲鉾状になるのを防ぐ方法を実施する装置を示し、(a)は平面図、(b)は(a)の矢印b−b線での縦断側面図
【符号の説明】
【0034】
1 ポット
2 セルトレイ
3 潅水容器
4 フレーム
5 外側容器
6 フロート
7 ガイド
8 ガイド
A 培地
B 植物体
C 潅水用液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体を植え込んだポットを出し入れ可能に納める潅水容器を予め設定された容量とし、この潅水容器に定量の潅水用液体を入れ、この潅水容器内に植物体を植え込んだポットを挿入し、定量の潅水用液体に浸すことによって潅水を行う定量潅水による育苗・栽培方法。
【請求項2】
植物体を植え込んだポットは多数のポットが平面的に並んで連なるセルトレイのポットであり、前記ポットを出し入れ可能に納める潅水容器は、このセルトレイの各ポットごとに個々に独立し、各潅水容器に定量の潅水用液体を入れ、この潅水容器内に植物体を植え込んだポットを挿入して定量の潅水用液体に浸すことによって潅水を行い、セルトレイの中央部に位置するポットの潅水容器は、セルトレイの周辺部に位置するポットの潅水容器よりも容量が少なく設定しておく定量潅水による育苗・栽培方法。
【請求項3】
上記潅水容器内に潅水用液体を満水に充填し、この満水状態で潅水容器内にポットを挿入して培地が湛水することにより、ポットの培地特性に応じて余剰潅水用液体を排水させ、培地の湛水状態で残留潅水用液体の量が培地特性に関係なく定量になるよう潅水容器の容量を設定した請求項1又は2に記載の定量潅水による育苗・栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−178307(P2008−178307A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12641(P2007−12641)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(594156020)エスペックミック株式会社 (10)