説明

実質的に同一のメタボロームを有する動物集団の提供および分析方法

【課題】 信頼しうるメタボローム研究および信頼しうる分析に適した実質的に同一のメタボロームを有する動物集団の提供。
【解決手段】 本発明は、実質的に同一のメタボロームを有する動物集団を得るための方法であって、実質的に同一齢の動物集団を編成し、以下の収容条件:(i)一定の温度、(ii)一定の湿度、(iii)該動物集団の動物の物理的分離、(iv)任意量の給餌(ここで、供給する食物は化学物質混入物も微生物混入物も実質的に含有しない)、(v)任意量の飲料液(ここで、該飲料液は化学物質混入物も微生物混入物も実質的に含有しない)、(vi)一定の照明期間の下で順化に十分な期間にわたり該動物集団を飼育し、該期間の後で該動物集団を得ることを含む方法に関する。さらに、本発明は、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物の特定のための方法、またはそのような化合物に関するマーカーを特定するための方法に関する。さらに、本発明は、動物集団の少なくとも1動物からのサンプルを代謝的に分析することを含む、そのような化合物またはそのマーカーを特定するための方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に同一のメタボロームを有する動物集団を得るための方法であって、実質的に同一齢の動物集団を編成し、以下の収容条件:(i)一定の温度、(ii)一定の湿度、(iii)該動物集団の動物の物理的分離、(iv)任意量の給餌(ここで、供給する食物は化学物質混入物も微生物混入物も実質的に含有しない)、(v)任意量の飲料液(ここで、該飲料液は化学物質混入物も微生物混入物も実質的に含有しない)、(vi)一定の照明期間の下で順化に十分な期間にわたり該動物集団を飼育し、該期間の後で該動物集団を得ることを含む方法に関する。さらに、本発明は、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物の特定のための方法、またはそのような化合物に関するマーカーを特定するための方法に関する。さらに、本発明は、動物集団の少なくとも1動物からのサンプルを代謝的に分析することを含む、そのような化合物またはそのマーカーを特定するための方法を含む。
【背景技術】
【0002】
生物の表現型分析の最新技術は、とりわけ、該生物の全ゲノムの分析(ゲノミクスと称される)、タンパク質の総体の分析(プロテオミクスと称される)およびRNA転写産物の総体の分析を含む。ごく最近、表現型分析のこれらの基本技術は、生物の代謝産物の総体であるメタボロームの分析により完全なものとなった。この分析はメタボロミクスまたは時にはメタボノミクスと称される。メタボロミクスは、特定の時点および特定の環境条件下における生物の細胞または体液中の全ての低分子量化合物(すなわち、代謝産物)の定性的および定量的決定と定義されうる。メタボロミクスの利点は、外因性因子によりもたらされる効果が、プロテオームまたは更にはゲノムにおける生じうる変化よりも通常は遥かに早く現れる代謝変化により直ちにモニターされうることである。
【0003】
生物のメタボロームの分析のための種々の技術が既に記載されている。これらの技術には、例えば、所望により液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーまたはHPLCのようなクロマトグラフィー分離技術と組合されうる、質量分析、NMR、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法およびフレームイオン化検出(FID)が含まれる。これらの技術は、生物の大集団の、それらのメタボロームの組成における変動に関するハイスループットスクリーニングを可能にする。すなわち、それらは代謝表現型の決定を可能にする。生物の代謝表現型は、ある時点におけるその代謝産物の総体(メタボローム)であり、その遺伝的構成成分と該生物の生体環境との複雑な相互作用の結果である。したがって、生物の集団の個体におけるメタボロームにおける相違は、ゲノムにおける相違によってだけではなく、代謝活性に影響を及ぼす環境因子によっても引き起こされうる。したがって、メタボロームは、生物のゲノム、転写またはプロテオームに影響を及ぼさない外因性因子の効果でさえも直ちに決定することを可能にする。例えば、毒性化合物は生物に有害であるが、必ずしも該生物のゲノムにおける変化を引き起こすわけではない。
【0004】
現在のところ、認められている他の主要な表現型分析と比較した場合のメタボロミクスにおける欠点は、先行技術における代謝研究に使用される生物、特に動物が、研究の開始時に共通のメタボロームを有さないことである。ゲノミクスにおいては、例えば、実質的に同一のゲノムを有する集団が最先端のクローニング技術により容易に提供されうる。一方、最適化条件下での毒性化合物または薬物のような外因性因子の代謝的影響を検出することが非常に望ましいであろう。実質的に同一のメタボロームを有する動物を確保するための技術は、信頼しうる且つ効率的なメタボローム分析のための基礎である。それに対する要求があるにもかかわらず、そのような技術は未だ記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、前記の要求を満たすための方法の提供、すなわち、信頼しうるメタボローム研究および信頼しうる分析に適した実質的に同一のメタボロームを有する動物集団の提供として理解されるに違いない。該技術的課題は、特許請求の範囲において特徴づけられており以下の説明に記載されている実施形態により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明は、実質的に同一のメタボロームを有する動物集団を得るための方法であって、
a)実質的に同一齢の動物集団を編成し、
b)以下の収容条件:
i)一定の温度、
ii)一定の湿度、
iii)該動物集団の動物の物理的分離、
iv)任意量の給餌、ここで、供給する食物は化学物質混入物も微生物混入物も実質的に含有しない、
v)任意量の飲料液、ここで、該飲料液は化学物質混入物も微生物混入物も実質的に含有しない、
vi)一定の照明期間
の下で順化に十分な第1期間にわたり工程a)の動物集団を飼育し、
c)第1期間の後で工程b)の動物集団を得ることを含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書中で用いる「得るための方法」なる語は、好ましくは、動物の身体の治療方法を含まない。特に、本明細書中で言及される方法は、他の生理的条件下で飼育された動物と比較して、いずれの疾患または障害の医学的治療または療法にも適しておらず、また、該動物集団の動物の全身健康状態の改善または維持(飼育)にも適さない。さらに、該用語は、いずれの育種(繁殖)技術自体をも含まない。
【0008】
「動物集団」なる語は複数の動物を意味する。本明細書中で用いる複数の動物は、性別、用量および時点ごとの少なくとも2、好ましくは5〜120、より好ましくは5〜25の動物よりなる、動物の群である。動物集団の動物は同じ種のものであり、好ましくは同じ系統のものである。本発明の方法において使用する好ましい動物は、哺乳動物、より好ましくはげっ歯類、最も好ましくはラットまたはマウスである。本発明の方法にラットを使用する場合、これらのラットがウィスター(wistar)(CrlGlxBrlHan: Wi)ラット(Charles River, USA)であることが更に好ましい。他の好ましいラット系統としては以下のものが挙げられる: BDIX系統; BDIX/CrCrl, BDIX/OrlCrl, Brown Norway系統; BN/CrlCrlj, BN/Crl, BN/OrlCrl, BN/OrlCrl, BN/SsNHsdMcwiCrl, Buffalo系統; BUF/CrCrl; Fischer系統, F344/DuCrl, F344/DuCrlCrlj, F344/IcoCrl, F344/DuCrl, SASCO Fischer系統, F344/NCrl; Copenhagen系統, COP/CrCrl, COP/NCrl; Cotton系統, COT/NCrl; Dahl/SS系統, SS/JrHsdMcwiCrl; Fawn Hooded系統, FHH/EurMcwiCrl; GK系統, GK/Crlj; Lewis系統, LEW/CrlCrl; LEW/Crl; Noble系統, NBL/CrlCrl; SHR系統, SHR/NCrlCrlj, SHR/NCrl, SHR/NCrl; WAG系統, WAG/RijCrl; Wistar Furth系統, WF/CrCrl, WF/IcoCrl; WKY系統, WKY/NCrl, WKY/NCrlCrlj, WKY/NIcoCrl; ZDF系統, ZDF/Crl-Leprfa, ZDF/Crl-Leprfa; CD系統, Crl:CD(SD), Crlj:CD(SD), Crl:CD(SD), Crl:CD(SD); SASCO SD系統, Crl:SD; OFA系統, Crl:OFA(SD), Crl:OFA(SD)-hr; DIO系統, Crl:CD(SD)DR; DR系統, Crl:CD(SD)DR; Donryu系統, Crlj:DON; LEC系統, Crlj:LEC; Wistar系統, Crlj:WI, Crl:WI; Wistar Han系統, Crl:WI(Han), Crl:WI(Han), Crl:WI (Han), Crl:WI(Han); Wistar WU系統, Crl:WI(WU)、あるいは交雑育種または遺伝的操作により前記系統から誘導された任意の系統。前記系統は当技術分野でよく知られており、例えばCharles River, USAまたはHarlan, USAを介して商業的に入手可能である。本発明の方法にマウスを使用する場合、該マウスがC57BL/GNCrlマウス(Charles River, USA)であることが好ましい。他の好ましいマウス系統には以下のものが挙げられる: CD-1系統, Crlj:CD1(ICR), Crl:CD1(ICR), Crl:CD1(ICR), Crl:CD1(ICR), Crl:CD1(ICR); CF-1系統, Crl:CF1, Crl:OF1; CFW系統, Crl:CFW(SW); NMRI系統, Crl:NMRI, Crl:NMRI (Han); PGP系統, Crl:CF1-Abcb1a; SKH1系統, Crl:SKH1-hr , Crl:SKH1-hr; SKH2 系統, Crl:SKH2-hr; A/J系統, A/J; 129系統, 129S2/SvPasCrl, 129S2/SvPasCrl; 129/S1/Sv-p+Tyr+KitSI-J/Crl, 129/s1/svlmJ; AKR系統, AKR/NCrl; BALB/c系統, BALB/cAnNCrlCrlj, BALB/CAnNCrl, BALB/cByJ; C3H系統, C3H/HeJCrl, C3H/HeNCrlCrlj, C3H/HeNcrl, C3H/HeOuJ; C57BL/6系統, C57BL/6JCrl, C57BL/6J, C57BL/6JCrl, C57BL/6NCrlCrlj, C57BL/6NCrl, C57BL/6J, C57BL/6JCrl, C57BL/6J; C57BL/10系統, C57BL/10JCrl, C5
7BL/10JCrl; CBA系統, CBA/CaCrl, CBA/J, CBA/JNCrlj, CBA/JNCrljCrlg; CB17系統, CB17/IcrCrl; DBA/1系統, DBA/1JCRL, DBA/1JNCrlj, DBA/1NIcoCrl; DBA/2系統, DBA/2J, DBA/2NCrlCrlj, DBA/2NCrl, DBA/2JCrl; FVB系統, FVB/NCrl; NC系統, NC/NgaTndCrlj; NOD系統, NOD/LtJCrl; SJL系統, SJL/JOrlCrl, SJL/JOrl/CrlCrlj, SJL/J, SJL/JCrl; B6C3F1系統, B6C3F1/Crl, B6C3F1/Crlj; B6CBAF1系統, B6CBAF1/Crl, B6CBAF1/J, B6CBAF1/Crl; BDF1 (B6D2F1)系統, B6D2F1/Crl, B6D2F1/J, B6D2F1/Crlj; B6SJLF1系統, B6SJLF1/J; C3D2F1系統, C3D2F1/Crl; CDF1 (CD2F1)系統, CD2F1/Crl, CD2F1/Crlj, CD2F1/Crl; CBAB6F1系統, CBAB6F1/Crl; CB6F1系統, CB6F1/Crl; NMRCF1系統, NMRCF1/Crl、あるいは交雑育種または遺伝的操作により前記系統から誘導された任意の系統。前記系統は当技術分野でよく知られており、例えばCharles River, USAまたはHarlan, USAを介して商業的に入手可能である。他の好ましい動物はイヌである。好ましいイヌには、ビーグル、より好ましくはビーグル系統HsdRdg:DOBEまたはHsdHFr:DOBE、あるいは交雑育種または遺伝的操作により前記系統から誘導された任意の系統が含まれる。前記系統は当技術分野でよく知られており、例えばHarlan, USAから購入可能である。他の好ましいビーグルは近交系由来のものであり、BASF AG, Germanyから購入可能である。しかし、使用する動物は前記動物に限定されず、更に、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、魚類、鳥類および昆虫、例えばショウジョウバエ(drosophila)よりなる群から選択されうる。
【0009】
本明細書中で用いる「メタボローム」なる語は、細胞、組織、器官または全動物における代謝産物の総体を意味する。代謝産物は、好ましくは、小分子化合物、例えば、代謝経路の酵素の基質、そのような経路の中間体、または代謝経路により得られる産物である。好ましくは、該経路には少なくとも、クエン酸回路、呼吸鎖、光合成、光呼吸、解糖系、糖新生、ヘキソース一リン酸経路、酸化的ペントースリン酸経路、脂肪酸の産生およびβ酸化、尿素回路、アミノ酸生合成経路、タンパク質分解経路、例えばプロテアソーム分解、アミノ酸分解経路、脂質、ポリケチド(例えば、フラボノイドおよびイソフラボノイドを含む)、イソプレノイド(例えば、テルペン、ステロール、ステロイド、カロテノイド、キサントフィルを含む)、炭水化物、フェニルプロパノイドおよび誘導体、アルカロイド、ベンゼノイド、インドール、インドール-硫黄化合物、ポルフィリン、アントシアニン、ホルモン、ビタミン、補因子、例えば補欠分子族または電子伝達体、リグニン、グルコシノラート、プリン、ピリミジン、ヌクレオシド、ヌクレオチドおよび関連分子、例えばtRNA、マイクロRNA(microRNA)(miRNA)またはmRNAの生合成または分解が含まれる。したがって、小分子化合物代謝産物は、好ましくは、以下のクラスの化合物から構成される:アルコール、アルカン、アルケン、アルキン、芳香族化合物、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、アミン、イミン、アミド、シアニド、アミノ酸、ペプチド、チオール、チオエステル、リン酸エステル、硫酸エステル、チオエーテル、スルホキシド、エーテル、または前記化合物の組合せ若しくは誘導体。代謝産物のうちの小分子は、正常な全ての機能、器官機能または動物の成長、発生もしくは健康に必要な一次代謝産物でありうる。また、小分子代謝産物は更に、必須の生態学的機能を有する二次代謝産物、例えば、生物がその環境に適応するのを可能にする代謝産物を含む。さらに、代謝産物は前記の一次および二次代謝産物に限定されず、人工的小分子化合物を更に含む。該人工的小分子化合物は、前記の一次または二次代謝産物ではない、生物に投与された又は生物により取り込まれた外的に与えられた小分子に由来するものである。例えば、人工的小分子化合物は動物の代謝経路により薬物から得られた代謝産物でありうる。また、代謝産物には更に、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド、例えばRNAまたはDNAが含まれうる。より好ましくは、代謝産物は50 Da(ダルトン)〜30,000 Da、最も好ましくは30,000 Da未満、20,000 Da未満、15,000 Da未満、10,000 Da未満、8,000 Da未満、7,000 Da未満、6,000 Da未満、5,000 Da未満、4,000 Da未満、3,000 Da未満、2,000 Da未満、1,000 Da未満、500 Da未満、300 Da未満、200 Da未満、100 Da未満の分子量を有する。しかし、好ましくは、代謝産物は少なくとも50 Daの分子量を有する。最も好ましくは、本発明の代謝産物は50 Da〜1,500 Daの分子量を有する。
【0010】
「実質的に同一のメタボローム」なる語は、本発明の方法により得られる動物集団の全個体が、(i)該集団の各個体のメタボロームにおける実質的に同一の代謝産物の存在および(ii)該動物集団の個体のそれぞれに関して実質的に同一の該代謝産物の量をもたらす、同調した代謝活性を有することを意味する。好ましくは、本明細書中で用いる同調した代謝活性は、該動物のメタボロームに影響を及ぼす全ての代謝経路が、実質的に同一の時点で、実質的に同一の細胞、組織または器官において活性であること、全ての動物における遺伝子発現レベルが実質的に同一であること、および人工的小分子が、実質的に同一の量で、全ての動物に利用可能であることを意味する。代謝産物量は、ある限界内で該動物集団の個体間で変動しうると理解されるべきである。同一代謝産物が、本発明で言及されている動物集団の個体における実質的に同一の量で存在するかどうかは、種々の定性的および/または定量的化合物分析技術により決定されうる。これらの技術には、質量分析(MS)、フーリエ変換イオン共鳴(FT-IR)分光法またはFIDのような化合物の分析技術と組合された化合物の分離のためのクロマトグラフィー技術が含まれるが、これに限定されるものではない。本発明において好ましいのは、質量分析と組合された液体およびガスクロマトグラフィー(LC-MSおよびGC-MS)を使用することによる代謝産物の定量的および/または定性的測定である。そのような好ましい方法の詳細は後記で説明する。好ましくは、動物集団は、これらの技術の1つにより得られた質量スペクトルが実質的に同一であるならば、実質的に同一のメタボロームを有する。該質量スペクトルは、例えば市販のピークアノテーションアルゴリズム、例えばChemStation(Agilent Technologies, USA)、Analyst(MDS SCIEX, Canada)またはAMDIS(NIST, USA)により検出可能な全ての主要ピークが、実質的に同一のクロマトグラフィー保持時間において全てのスペクトルにおいて出現しているならば、実質的に同一である。前記のとおり、それらが統計的に有意な相違をもたらさないならば、僅かな変動は許容される。本発明において変動が僅かであるかどうかは、当業者によく知られた適当な統計アルゴリズム、例えば主成分分析(PCA)または偏最小二乗検定(partial least square test)(PLS)により決定されうる。好ましくは、該動物集団の動物の実質的に同一のメタボロームは多変量解析(例えば、PCA)または階層型クラスタリングにおいて一緒に決定されうる。
【0011】
本明細書中で用いる「編成」なる語は、任意の起源の動物を選択して、本発明の方法に付される動物集団を確立することを意味する。したがって、該動物は、同一の母動物の後代または異なる母動物の後代でありうる。1個の母動物の単一の後代を起源動物として使用する場合、該動物集団を編成するために全後代を使用することが可能であり、あるいは該後代の、選択した動物を使用することが可能である。ここで用いる編成は該動物の齢に関して行われる。すなわち、後記で詳細に説明するとおり、該集団の全ての個体は実質的に同一齢を有するものとする。しかし、体重、性別、全体的外観(例えば、一見して健常な動物のみが選択されうる)のような他の特性も考慮されうる。
【0012】
「実質的に同一齢」なる語は、該動物が、類似した発生状態を有することを意味する。例えば、該動物は胚、幼体、成体でありうる。本発明の方法で使用する動物の好ましい齢は、幼時段階、好ましくは若い幼児段階の齢である。該動物集団の動物は、好ましくは、X±n日(ここで、Xは、動物集団の想定される齢であり、nは、1〜5日の整数から選ばれ、より好ましくはnは1日である)の範囲を伴う齢を有する。言い換えれば、該集団の或る与えられた動物は該動物集団の動物の平均齢より多くとも1日老齢または若齢である。最も好ましくは、該集団の全ての動物は齢Xの動物である。そのような動物は、1つの出産の後代(すなわち同腹子)である又は同じ日に異なる個体から生まれた動物で編成することにより得られる。胚を使用する場合には、実質的に同一齢とはそれらの発生段階に関するものであると理解されるべきである。種々の種からの胚の発生段階は、当技術分野でよく知られた技術により決定されうる。それらは、例えば受精の時点に基づいて計算されうる。さらに、個々の胚は、公知の形態学的特徴により発生的に段階分けされうる。さらに、胚を使用する場合には、該胚を含有する妊娠母体は本明細書に記載の条件下で飼育されるものと更に理解されるべきである。
【0013】
本発明の方法における動物としてラットまたはマウスを使用する場合には、該動物は齢X±1日(ここで、Xは、10〜100日の整数、より好ましくは20〜80日の整数から選ばれ、最も好ましくは、Xは生後63、64または65日である)のものであることが好ましい。最も好ましくは、Xは生後64日である。本発明の方法における動物としてイヌを使用する場合には、Xは、好ましくは、生後6ヶ月である。
【0014】
本発明の方法において用いる「飼育(keeping)」なる語は、該動物集団の動物に適用される個々の収容、給餌、飲水および環境条件を意味する。OECD Guideline For The Testing Of Chemicals No: 407に記載の条件下で動物を飼育することが好ましい。さらに、個々の条件を以下に記載する。
【0015】
i)該動物集団の全動物は、同一の一定温度の下で飼育される。動物にストレスとならない、本発明の実施のための温度を選択することに注意すべきである。好ましくは、温度は20〜24±2℃、より好ましくは22±2℃、最も好ましくは22、23または24℃であるべきである。
【0016】
ii)さらに、該動物集団の全動物は、同一の一定湿度の下で飼育される。湿度は少なくとも30%であるべきであるが、70%を超えるべきではない。しかし、稀な例外的な状況(例えば、部屋または檻の清掃中)においては、湿度は70%をも超えうる。好ましくは、湿度は50〜60%である。
【0017】
iii)該動物集団の動物の物理的分離も本発明の方法に重要であることが判明している。したがって、該動物集団の各動物は別々の空間(例えば、別々の檻)内で飼育されなければならない。
【0018】
iv)該動物集団の動物は任意量で給餌される。使用する食物(餌)は化学薬品(chemical)混入物も微生物混入物も実質的に含有しないものでなければならない。適用される規準はFed. Reg. Vol. 44, No. 91, May 09, 1979, p. 27354に規定されている。最も好ましくは、細菌のような微生物混入物は食物1g当たり5×105細胞未満である。そのような食物はGround Klibaマウス/ラット維持食「GLP」食としてProvimi Kliba SA Kaiseraugst(Switzerland)から購入可能である。
【0019】
v)該動物集団の動物には任意量の飲料液を供給する。好ましくは、該液は水である。しかし、水に基づく他の液体も使用されうる。そのような液体は、例えば、該動物に必要な栄養、ビタミンまたはミネラルを含みうる。飲料液として水を使用する場合には、該水は、European Drinking Water Directive 98/83/EGに規定されている化学薬品(chemical)混入物および微生物混入物を含有しないものとする。
【0020】
vi)最後に、該動物集団の各動物は同一の一定の照明期間に付されなければならない。一定の照明は、好ましくは、人工照明(通常の太陽スペクトル)により達成される。照明期間は12時間の明期およびそれに続く12時間の暗期である。ついで該照明期間を再開する。好ましい照明期間は、例えば、6:00から18:00までの12時間の明期および18:00から6:00までの12時間の暗期である。
【0021】
前記の収容条件は、物理的に分離された動物を含む檻の一般的収容空間を用いることにより、該動物に適用されうる。該一般的収容空間は動物用の部屋または家でありうる。該集団の全動物を同一の部屋において飼育することにより、一定の湿度、温度および照明期間が、該部屋全体または家全体のこれらのパラメーターを調節することにより容易に達成されうる。該パラメーターの調節は、好ましくは、自動化により補助され、該パラメーターは絶えずモニタリングされる。
【0022】
「順化に十分な第1期間」なる語においては、該動物集団の動物は、該動物が順化し実質的に同一のメタボロームを有するよう、前記の個々の収容条件下、該動物の代謝活性の同調を可能にする期間にわたり飼育されなければならないと理解されるべきである。特に、第1期間は、該集団の全個体が同一の概日リズム、摂食リズムまたは安静期/運動期に順応するのを可能にするのに十分な長さのものとする。さらに、第1期間は、各動物が、湿度および温度のような適用環境条件に応答してその生化学的および生理的パラメーターを調節するのを可能にするものとする。好ましくは、第1期間は5〜10日、より好ましくは6〜8日、最も好ましくは7日の長さを有する。
【0023】
本発明の根底をなす研究において、驚くべきことに、実質的に同一のメタボロームを有する動物集団が本発明の方法により得られうることが見出された。しかし、該方法により得られる優れた結果は、前記の収容条件および該動物集団の編成のための基準(すなわち、該動物集団の動物の年齢に関する編成)の厳格な遵守に基づくものである。後者の点は特に驚くべきものである。なぜなら、OECD Guideline No: 407(前掲)には、分析目的に動物を選択または編成する際には体重または性別に関して留意すべきだと記載されているからである。好都合なことに、本発明の方法を使用することにより、比較メタボロミクスに適用されうる動物集団を得ることが可能である。メタボロームが実質的に同一であるため、例えば化合物の毒性作用の信頼しうる且つ効率的な研究を行うこと、または薬物または薬物候補のような化合物の作用様式を決定することが可能である。さらに、本発明の方法は既存の動物施設内で容易に実施可能であり、したがって費用効果的である。
【0024】
本発明の方法はまた、
a)請求項1記載の方法の工程を用いて動物集団を得、
b)動物のメタボロームに影響を及ぼす疑いのある化合物を該動物集団に投与し
c)工程b)の動物集団のメタボロームを分析することを含む、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物の特定のための方法を含む。
【0025】
本明細書中で用いる「特定(identification)」なる語は、本発明の方法が、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物の特定またはスクリーニングに適用されることを意味する。したがって、該方法は、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物の特定を可能にするデータを与えると予想される。そのようなデータは、後記で詳細に説明する、動物のメタボロームを分析するための種々の技術により得られうる。データは生データまたは加工データの形態でありうる。好ましくは、生データの形態のメタボローム分析の結果を、参照(reference)から得た対応データと比較する。したがって、本発明の方法において用いる特定は追加的工程を要しうると理解されるべきである。しかし、これらの追加的工程は、前記または後記のものを含む比較分析におけるよく知られた技術に関するものである。さらに、本明細書中で用いる特定は、好ましくは、動物のメタボロームに対する効果を惹起する該化合物の特性の特定を含み、これは原則として該効果の種類または作用様式には無関係である。さらに、該用語は更に、好ましくは、惹起される効果の種類、事象、厳密な作用様式の特定を含む。したがって、本発明の方法は、化合物の或る作用様式または化合物により影響される特定の代謝経路を特定するためにも使用されうる。より好ましくは、前記および後記の特定方法はを行うために使用されうる。
【0026】
「動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物」なる語は全クラスの化合物を含む。好ましくは、ここで用いる化合物は小分子化合物、ペプチド、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドである。本発明において言及されている小分子には、低分子量、好ましくは30,000 kDa未満の分子量、より好ましくは20,000 Da、10,000 Da、8,000 Da、5,000 Da、3,000 Da、2,000 Da、1,000 Daまたは500 Da未満の分子量を有する無機および有機分子が含まれる。最も好ましくは、該化合物は、毒性化合物、栄養素、栄養薬効化合物または治療活性化合物(すなわち、薬物)であると疑われるものである。本発明における薬物は動物に対する治療効果を有する。すなわち、それは医学的状態を治療または改善する。該医学的状態は動物の疾患または障害または健康阻害でありうる。改善または治療は該疾患、障害または阻害の症状の出現または度合によりモニタリングされうる。本発明における薬物には、in vivoで治療活性薬に変換される薬物前駆体、および薬物であると疑われる化合物、すなわち薬物候補体も含まれる。本発明の方法において使用するペプチドまたはポリペプチドには、天然に存在するペプチドおよびポリペプチドならびに人工的なペプチドおよびポリペプチドが含まれる。天然に存在するペプチドおよびポリペプチドは、植物、動物、真菌、細菌またはウイルスを含むあらゆる種類の生物から得られうる。人工的なペプチドまたはポリペプチドは、例えばランダムペプチド合成技術により得られうる。本発明において使用する好ましいペプチドまたはポリペプチドは、本発明の動物における代謝活性または代謝経路に直接的または間接的に影響を及ぼすものである。より好ましくは、該ポリペプチドまたはペプチドは治療上の価値を有するものであり、例えばペプチドホルモン、増殖因子、生存因子、サイトカイン、該ポリペプチドに対する受容体、抗体またはその生物学的に活性なフラグメントである。本発明の方法において使用するポリヌクレオチドはRNAまたはDNA分子である。好ましくは、該ポリヌクレオチドは、代謝活性または代謝経路に直接的または間接的に影響を及ぼすペプチドまたはポリペプチドをコードしている。例えば、適当なポリヌクレオチドは、酵素、好ましくは代謝経路の酵素、前記のペプチドまたはポリペプチド、あるいは前記ペプチドまたはポリペプチドの発現を調節するペプチドまたはポリペプチド、例えば転写因子をコードしうる。さらに、本発明の方法において化合物として使用するポリヌクレオチドは、遺伝子発現(すなわち、転写または翻訳)を妨げるポリヌクレオチド、例えばアンチセンスRNA分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはRNA干渉技術(RNAi)において使用する小干渉性(small interfering)RNA(siRNA)でありうる。
【0027】
本発明に記載の化合物は、動物のメタボロームに影響を及ぼすそれらの能力に関してスクリーニングされる。したがって、本発明における化合物は、投与されると、動物のメタボロームの組成を改変する。動物のメタボロームに対する該効果は定性的または定量的効果でありうる。本明細書中で用いるメタボロームに対する定性的効果は、該化合物の投与後に該動物のメタボロームの代謝産物の少なくとも1つが存在しない又は追加的な代謝産物の少なくとも1つが存在することを意味する。本発明において用いる定量的効果は、該化合物の投与後に代謝産物の少なくとも1つの量が改変される、すなわち増加または減少することを意味する。動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物は該動物の細胞、組織または器官の生物学的機能にも影響を及ぼすことがあり、解毒、健康の改善、健康の阻害または障害をもたらしうると理解されるべきである。
【0028】
本明細書中で用いる「投与」なる語は、該化合物を該動物の全身に供給しうる全ての技術を含む。さらに、該用語は、潜在的な標的組織または器官のような作用推定部位に該化合物を運搬するための技術、すなわち局所投与を含む。本発明において投与する化合物は、適当な担体、例えば医薬担体、賦形剤および/また希釈剤を更に含む組成物中に含まれうる。よく知られた希釈剤の具体例には、リン酸緩衝食塩水、水、エマルション、例えば油/水エマルション、種々のタイプの湿潤剤、無菌溶液などが含まれる。該化合物または前記の適当な組成物の投与は、種々の方法、例えば静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所、皮内、鼻腔内または気管支内投与により行われうる。好ましくは、投与は経口投与により達成される。最も好ましくは、該化合物を飲料液または食物に混合する。適当な治療および投与計画は当業者によく知られており、好ましい治療および投与計画は実施例に記載されている。好ましくは、該試験動物集団(すなわち、該化合物が投与される動物集団)の動物を雄の少なくとも1つの群および雌の少なくとも1つの群ならびに少なくとも1つの高用量投与群および少なくとも1つの低用量投与群に細分する。
【0029】
本発明において用いる「メタボロームを分析(する)」なる語は、メタボロームを定量的または定性的に分析するための技術を意味する。第1工程において、メタボロームの該定性的または定量的分析はメタボロームの組成(すなわち、代謝産物)を定性的および定量的に決定することを含む。メタボロームを定性的に分析するための手段および方法は、メタボロームに含まれる代謝産物の存在または非存在を決定しうるものを含む。メタボロームを定量的に分析するための手段および方法は、該代謝産物の量を決定するものを含む。代謝産物の存在または非存在および量を決定し定性的および定量的分析の組合せを可能にしうる手段および方法が存在すると理解されるべきである。さらに、本発明の方法においては、メタボロームの全代謝産物を決定することは必ずしも要求されない。むしろ、メタボロームの分析は、特徴的であると判明している代謝産物の一部の量の存在または非存在、予め決められた組合せの代謝産物またはメタボロームに関する代謝プロファイルを決定することにより行われうる。特徴的な又は予め決められた代謝産物は既知の代謝産物およびいわゆる既知の未知体(known unknowns)を含む。後者のものは、それらのシグナル(例えば、質量スペクトルにおけるもの)から知られているに過ぎない代謝産物である。しかし、該既知未知体の化学的性質は厳密には知られていない。本明細書中で用いる代謝プロファイルは或るメタボロームのあらゆる種類の特有の識別子に関するものである。メタボロームの定性的または定量的分析は、好ましくは、化合物の分析技術を用いることにより行われる。化合物のそのような決定のための適当な装置は当技術分野でよく知られている。好ましくは、質量分析、特に、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)、直接注入質量分析またはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR-MS)、キャピラリー電気泳動質量分析(CE-MS)、高速液体クロマトグラフィー共役質量分析(HPLC-MS)、四重極質量分析、任意の連続共役質量分析、例えばMS-MSまたはMS-MS-MS、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)、熱分解質量分析(Py-MS)、イオン移動度質量分析または飛行時間型質量分析(TOF)が用いられる。最も好ましくは、後記で詳細に説明するとおり、LC-MSおよび/またはGC-MSが用いられる。該技術は例えばNissen, Journal of Chromatography A, 703, 1995: 37-57、US 4,540,884またはUS 5,397,894(それらの開示内容を参照により本明細書に組み入れることとする)に開示されている。質量分析技術の代わりに又はそれに加えて、以下の技術が化合物決定に用いられうる:核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴イメージング(MRI)、フーリエ変換赤外分析(FT-IR)、紫外線(UV)分光法、屈折率(RI)、蛍光検出、放射化学的検出、電気化学的検出、光散乱(LS)、分散ラマン分光法またはフレームイオン化検出(FID)。これらの技術は当業者によく知られており、それ以上の手間を伴うことなく適用されうる。
【0030】
もう1つの工程において、本明細書中で用いるメタボロームの分析は、好ましくは、代謝産物、代謝産物の量または代謝プロファイルの、対応する参照との比較を含む。該参照は、動物のメタボロームに影響を及ぼす疑いのある化合物が投与されていない動物集団のメタボローム分析から誘導することが可能であり、この参照動物集団は、その他の点では同一の様態で処理されたものであることが好ましい。本発明における比較のための他の適当な参照は、メタボロームに影響を及ぼすことが知られている化合物が投与された動物のメタボローム分析から誘導されうる。そのような化合物は、毒性である又は既知作用様式により治療的に活性である化合物でありうる。したがって、メタボロームに影響を及ぼすことが知られている前記化合物で処理された動物を参照として使用することにより、新規化合物がメタボローム全般にに対する効果を有するかどうかが決定されうるばかりでなく、該新規化合物が毒性効果を惹起するかどうか又は或る作用様式により治療的に活性でありうるかどうか又は少なくともそれを行う可能性を有するかどうかも決定されうる。好ましくは、前記参照のメタボローム分析から得られたデータは適当なデータベースの形態で保存され提供される。さらに、新規化合物に関する本発明の方法により行われたメタボローム分析のデータも他の新規化合物に関する参照として用いられることが可能であり、同様に更なる分析のために該データベースにより保存され提供される。本明細書中で用いる比較は、メタボロームの分析により得られた生データ、または該生データから誘導された任意の種類の加工データの比較を含む。データ比較のための適当な手段および方法は当技術分野でよく知られており、例えば、主成分分析(PCA)または偏最小二乗検定(partial least square test)(PLS)を包含する。原則として、前記のとおりの代謝産物、その量または代謝プロファイルが、異なる動物または決定時点の間で有意に異なるかどうかの決定を可能にする任意の統計的検定が、本明細書に記載の比較を行うのに適している。前記相違は、一般に、パターン認識アルゴリズム、統計的検定アルゴリズムおよび/または多変量アルゴリズム、例えば主成分分析(PCA)、単純成分分析(Simple Component Analysis)(SCA)、独立成分分析(ICA)、主成分回帰(PCR)、偏最小二乗検定(Partial Least Square)(PLS)、PLS判別分析(PLS-DA)、サポートベクトルマシン(SVM)、ニューラルネットワーク、ベイジアンネットワーク、ベイジアン学習ネットワーク、相互情報量、バックプロパゲーション・ネットワーク(Backpropagation Network)、対称Feed-Forwardネットワーク、自己組織化マップ(SOM)、遺伝的アルゴリズム、階層型またはk平均クラスタリング、分散分析、Studentのt検定、Kruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定、Tukey-Kramer検定またはHsuのベスト(Best)検定により決定されうる。前記のデータ加工(データ処理)は、好ましくは、データ妥当性検査工程を含みうる。該データ妥当性検査工程においては、矛盾するデータは更なる分析から除外される。矛盾するデータは、メタボロームの組成の定性的または定量的決定中に技術的な問題を引き起こしうる。したがって、決定のために用いられる装置の技術的パラメータは絶えずモニタリングされ、適当なデータベースとしてデータ妥当性検査のために提供されることが想定される。該データの更なる妥当性検査は、データセットの各測定値またはパラメーターを統計的に評価する内部妥当性検査手段により達成されうる。例えば、メタボロームを分析するために質量分析を用いる場合には、ピークを含む生データセットを得る。該ピークは、保持時間範囲、強度範囲および質量対電荷(m/z)比範囲よりなる三次元空間内の或る位置に出現する。該ピークのそれぞれはピーク妥当性検査アルゴリズム、例えばChemStation(Agilent Technologies, USA)、Analyst(MDS SCIEX, Canada)またはAMDIS(NIST, USA)により評価され証明されうる。
【0031】
さらに、データ妥当性検査のために動物関連または収容関連データが考慮されうる。例えば、収容条件が変動する場合には、該動物集団の動物のメタボロームは不利な影響を受けうる。しかし、そのような不利な影響を受けた、動物のメタボロームは、偽陽性または陰性結果を招きうる。したがって、後記で詳細に説明するとおり、動物関連または収容関連データをもモニタリングし、データ妥当性検査中にこれらのデータを考慮することが好ましい。
【0032】
さらに、データ加工は、好ましくは、内部参照に関する生データの正規化を含む。例えば、既知代謝産物に帰属されうるピークは、該動物集団の個体のメタボロームに関するデータセット内の未知代謝産物に関するピークを例えばシグナル強度に関して正規化するために用いられうる。
【0033】
また、データ加工は更に、データを数値形態に変換することにより、および/または該データを共通の単位の形態に変換することにより、および/または該データの次元を減少させることにより、統一性のあるデータを取得することを要求されうる。該データは更に、サンプルまたは動物に関する情報がそれに割り当てられるよう統合されうる。そのような統一性のあるデータを取得するための適当な手段および方法はWO 03/046798(その開示を参照により本明細書に組み入れることとする)に開示されている。
【0034】
前記のデータ加工工程および比較は、好ましくは、自動化により、例えば、コンピューター装置上で実行される適当なコンピュータープログラムにより補助される。該コンピューター装置は、好ましくは、本発明において言及されている種々のデータベースに機能的に連結される。したがって、1つの実施形態においては、本発明はまた、本発明の方法により得られた結果を含むデータベースまたはデータベースのシステムに関する。より好ましくは、そのようなデータベースまたはデータベースのシステムは、生物のメタボロームに影響を及ぼす疑いのある化合物、例えば毒性化合物または治療活性化合物(すなわち、薬物)により惹起されたメタボロームに関する情報を含む。したがって、該データベースは、新規薬物または毒性化合物をメタボロームにより反映されるそれらの作用様式により特定することを目的としたスクリーニングアッセイのための手段(参照データベース)として使用されうる。
【0035】
メタボロームの分析は、化合物がそのエフェクター細胞、組織または器官内に進入するのを可能にするのに十分な期間(すなわち、インキュベーション時間)の後で行われると理解されるべきである。言い換えれば、該分析は、該化合物が生物利用可能(バイオアベイラブル)になった後で行われるべきである。該化合物の化学的性質に応じて、当業者は、どれくらいの期間が該化合物の生物利用能(バイオアベイラビリティ)に十分なのかを認識するであろう。そのような期間は予備実験においても定められうるであろう。例えば、類似または同一の化学的性質を有する化合物を、検出可能な標識に連結させることが可能である。ついで該標識化合物を動物に投与する。被検エフェクター細胞、組織または器官において該標識が検出可能になるまでの時間を決定し、本発明の方法のためのインキュベーション期間として用いる。
【0036】
また、メタボロームの分析は、好ましくは、サンプルを該動物集団の各動物から採取し、前記のとおりに更に分析することを含む。適当なサンプルには、該動物の細胞、組織または器官、あるいは血液、血漿、血清、尿、脊髄液などの体液が含まれる。そのようなサンプルの採取方法は当技術分野でよく知られている。適当な技術には、血液採取、生検、髄液採取、細胞選別などが含まれる。サンプル採取のための好ましい計画が実施例に記載されている。サンプルは前処理に付されうる。そのような前処理には、メタボローム分析に適さない生物学的物質の酵素消化、ある代謝産物をサンプルから得るための抽出操作、サンプルの分画、例えば代謝産物の極性および/または無極性画分を得るための分画、あるいは(例えば、クロマトグラフィーの前の)代謝産物の誘導体化が含まれる。該前処理技術は当技術分野でよく知られており、それ以上の手間を伴うことなく当業者により適用されうる。
【0037】
好都合にも、本発明の動物集団の提供により、メタボロームの信頼しうる比較分析が行われうる。本発明の方法によるそのような信頼しうる分析の結果として、薬物発見および毒物学的評価が加速されるであろう。好ましくは、化合物の作用様式に関する代謝データ(すなわち、メタボロームの定性的および定量的組成または代謝プロファイルに関するデータ)または毒性化合物もしくは薬物の投与を反映する代謝データを含むデータベースを得る。該データベースの代謝データは、メタボロームに影響を及ぼす疑いのある他の化合物のスクリーニングに本発明の方法を使用する場合の参照として使用されうる。各スクリーニングは、作用様式に関する、より包括的な見解をもたらすと予想される。さらに、該代謝データ(参照データ)との比較により、毒性化合物または治療活性化合物が迅速に特定されうる。好ましくは、本発明の方法はハイスループット形態で行われる。
【0038】
本発明の方法の好ましい実施形態においては、該動物集団は、工程b)においてメタボロームに影響を及ぼす疑いのある化合物を該動物集団に投与した後の第2期間にわたり、前記の収容条件下で飼育される。
【0039】
より好ましくは、工程c)の分析は第2期間中に少なくとも1回または第2期間中に少なくとも3回行われ、第2およびいずれかの更なる分析は、前分析以降に経過した期間の2倍の期間の後で行われる。最も好ましくは、第1分析は工程b)における化合物の投与の7日後に行われる。
【0040】
中間的な時点を含む、急性効果から長期効果までの時間範囲にわたり、メタボロームを評価することが有利であることが、本発明の根底をなす研究において見出された。したがって、本発明は研究中の反復測定を許容する。したがって、動物の分析は、好ましくは、第2期間中に少なくとも1回、好ましくは2回、最も好ましくは少なくとも3回行われる。分析のための時点は、早期急性効果および慢性または長期的効果を含むよう選択される。分析のための適当な時点は、それ以上の手間を伴うことなく、分析される動物に応じて当業者により決定されうる。特に、ラットまたはマウス集団のようなげっ歯類動物集団を使用する場合には、前分析以降に経過した期間の2倍の期間の後で第2およびいずれかの更なる分析が行われる、分析の時間経過が好ましい。すなわち、第1分析を化合物の投与の7日後に行う場合、投与の14日後に第2分析を行ない、投与の28日後に第3分析を行なう。好ましくは、血液のような体液サンプルを分析することにより分析を行う場合には、血液採取前の約16〜20時間の絶食(すなわち、食物の供給中止)期間にわたり該動物集団の動物を飼育することが好ましい。さらに、一定の時間帯における分析の実施は、該動物集団の動物の例えば概日リズムにより引き起こされうる代謝変化の相殺を可能にする。したがって、すべての分析に関して一定の時間帯内および一定の時間帯において血液採取および分析を行うのが好ましい。好ましくは、サンプル採取を含む分析を午前7:30から10:30までの間に行う。さらに、本発明の方法は、血液メタボロームの分析に加えて更に、該動物集団の動物の異なる器官または体液のメタボロームの更なる研究を含みうる。
【0041】
さらに、メタボローム研究に加えて、該方法は、メタボロームに無関係な更なる研究を含みうる。特に、代謝分析が完了した後、該動物集団の各動物を病理学的に研究することが想定される。該研究は、身体の外部表面、すべての開口部、頭蓋、胸郭および腹腔およびそれらの内容物の注意深い検査を含む該動物の剖検を含む。さらに、肝臓、腎臓、副腎、精巣、精巣上体、胸腺、脾臓、脳および心臓の病理学的分析を、例えばGuideline No. 407(前掲)に記載されているとおりに適宜行うものとする。さらに、好ましくは以下に記載のとおりに組織病理学的検査を行うものとする。
【0042】
組織検査および意図される後続の組織病理学的検査の両方のために以下の組織を最も適当な固定媒体中に保存すべきである:すべての肉眼的病変、脳(大脳、小脳および橋を含む代表的領域)、脊髄、胃、小腸および大腸(パイエル板を含む)、肝臓、腎臓、副腎、脾臓、心臓、胸腺、甲状腺、気管および肺(固定による膨張およびそれに続く液浸により保存)、生殖腺、付属性器(例えば、子宮、前立腺)、膀胱、リンパ節(好ましくは、投与経路を含む1つのリンパ節および全身作用に相応する投与経路の遠位のもう1つのリンパ節)、好ましくは筋肉に密接に接近している末梢神経(坐骨神経またはけい骨)、および骨髄の断片(あるいは新鮮なマウントされた骨髄吸引物)。臨床的所見および他の所見が、追加的な組織の検査の必要性を示唆しうる。また、試験化合物の既知特性に基づき標的器官となりうるとみなされる任意の器官も保存すべきである。
【0043】
さらに、該動物集団の動物の血液学的および生化学的パラメーターを決定(測定)することも好ましい。該動物集団の動物のそれぞれについて病理学ならびに血液学的および生化学的パラメーターに関するデータを動物関連データとして適当なデータベース内に保存することが好ましい。保存されたデータは、好ましくは、メタボロームの分析により得られた代謝データの評価および/またはデータ加工(データ処理)のために使用される。本発明の方法の好ましい実施形態においては、この動物関連データの考慮は偽陽性または偽陰性結果の回避を可能にする。なぜなら、動物集団におけるそれらの対応物と比較して異常な病理学、血液学または異常な生化学的パラメーターを示す動物はデータ加工中のデータ評価から除外されうるからである。さらに、体重、食物消費、飲料液消費および臨床的徴候、ならびに該動物を前記の第1および第2期間にわたり飼育した場合に生じた考えられうる異常に関する動物関連データを含めることが更に好ましい。
【0044】
したがって、本発明の方法のもう1つの好ましい実施形態においては、該方法は更に、体重、食物消費、飲料液消費および臨床的徴候をモニタリングすることを含む。該モニタリングは、より好ましくは、自動化により補助されうる。体重、食物消費、飲料液消費および臨床的徴候に関するモニタリングデータは、該動物集団の動物のそれぞれについてデータベース内に集められる。
【0045】
さらに、前記を考慮して、本発明の方法は、好ましくは、該動物集団の各動物に関する異常をモニタリングすることを含む。本明細書中で用いる「異常」なる語は、飼育スタッフにより容易に検出されうる異常(すなわち、医師によるモニタリングを通常は要さない異常)を意味する。より好ましくは、該異常は自動的にモニタリングされ、該モニタリングから得られたデータは該動物集団の各個体についてデータベース内で保存される。
【0046】
前記のとおり、本発明の方法の好ましい実施形態においては、該分析は、該動物集団のメタボロームを参照を比較することを含む。
【0047】
より好ましくは、比較は、該動物集団の動物のメタボロームの代謝プロファイルを得、該プロファイルを参照と比較することを含む。最も好ましくは、代謝プロファイルにおける相違が、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関する指標である。この最も好ましい実施形態における参照は、未処理動物から誘導された代謝プロファイルであると理解されるべきである。
【0048】
「代謝プロファイル」なる語は、該動物集団の動物の各メタボロームに関する分析中に特定のフィンガープリント(指紋)が確定されることを意味する。該代謝プロファイルは、本発明の方法により動物またはそのサンプルから得られた少なくとも1つのシグナル(例えば、質量スペクトルにおけるピーク)から誘導されうる。より好ましくは、代謝プロファイルは複数のそのようなシグナルから誘導される。該シグナルは単一の代謝産物または複数の代謝産物から得られうる。一次シグナルは前記の適当な技術により更に加工されうると理解されるべきである。好ましくは、少なくとも1つの、時間により分離される分離技術、および少なくとも1つの、質量により分離される分離技術を用いることにより、三次元データセットを得る。そのようなデータセットは、例えば前記のクロマトグラフィー共役質量分析から得られうるであろう。そのような三次元データセットは、通常のピーク決定アルゴリズム、例えばChemStationまたはAMDIS(これらは該三次元データセットにおける極大および/または極小の特異的検出を可能にする)により分析されうる。このようにして抽出された極大および極小は、動物集団の或る動物メタボロームに関する特異的代謝プロファイルであろう。また、抽出されたシグナル(例えば、該ピークの極大または極小)は更に、それぞれの時間および質量の関数としての特徴的な値へと加工されうる。前記技術により得られた代謝プロファイルは、好ましくは、次元的に減少し従って統計的検定(例えば、主成分分析(PCA)または偏最小二乗検定(PLS))によりお互いと容易に比較されうるデータセットからなると理解されるべきである。試験動物(すなわち、動物のメタボロームに影響を及ぼす疑いのある化合物を得た動物)および参照のメタボロームの代謝プロファイルにおける相違は、該化合物が該試験動物において代謝変化を実際に誘導するという指標である。しかし、前記のとおり、これは必ずしも、メタボロームの定量的組成(すなわち、存在する化合物の数)が変化することを意味するものではない。代謝プロファイルにおける変化は、メタボロームの、変化した定量的組成(すなわち、存在する化合物の量が変化していること)の指標でもありうる。より好ましくは、該代謝プロファイルは、既知薬物、プロドラッグもしくは毒性化合物またはそれらの作用様式に関する参照プロファイルを有するデータベースに含まれる代謝プロファイルと比較されうる。好都合なことに、本発明の方法はこのように、薬物および薬物候補に関するスクリーニング操作をより時間効率的に行うことを可能にする。なぜなら、該化合物の毒性作用または有害作用が薬物開発の早期段階で決定されうるからである。さらに、毒性事象の発現開始が代謝プロファイルの変化によりモニタリング可能であるため、毒性試験が時間効率的に容易に行われうる。特に、これは、即座の作用ではなく長期的な毒性作用を惹起する化合物の場合に好都合である。
【0049】
動物のメタボロームにおける相違または変化は、既知または未知の化学的性質の特定の代謝産物を代謝プロファイルと比較することにより分析されうると理解されるべきである。
【0050】
したがって、本発明の方法のもう1つの好ましい実施形態においては、比較は、該動物集団のメタボロームの代謝産物の少なくとも1つを参照と比較することを含む。最も好ましくは、そのような少なくとも1つの代謝産物における相違が、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関する指標である。この最も好ましい実施形態における参照は、未処理動物から誘導された代謝プロファイルであると理解されるべきである。
【0051】
本発明の方法のもう1つの好ましい実施形態においては、前記を考慮して、該化合物は、毒性であると疑われる化合物または薬物であると疑われる化合物である。
【0052】
本発明は更に、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関するマーカーを特定するための方法に関するものであり、該方法は、前記の本発明の方法の工程、および該メタボロームの分析に基づいて該化合物に関するマーカーを得る追加的工程を含む。本発明の方法の好ましい実施形態においては、該マーカーは、参照と比べて変化した該動物集団の代謝プロファイルである。最も好ましくは、該マーカーは、化合物の毒性、化合物の作用様式または化合物の治療活性を示す。
【0053】
さらに、本発明は、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物を特定するための方法を含み、該方法は、該メタボロームに影響を及ぼす疑いのある化合物が投与された動物集団の少なくとも1動物からのサンプルを代謝的に分析することを含み、ここで、該動物集団は、該化合物の投与の前および後に、前記の収容条件下で飼育されたものである。
【0054】
本明細書中で用いる「代謝的に分析(する)」なる語は、好ましくは、動物のメタボロームを分析するための前記の全ての手段、方法および実施形態を含む。
【0055】
本明細書中で用いる「サンプル」なる語は、被検動物から得られた生物学的物質のサンプルを含む。適当なサンプル源は前記で既に説明されている。
【0056】
本発明の方法の好ましい実施形態においては、該分析は、該動物集団の動物のサンプルからのメタボロームを参照と比較することを含む。
【0057】
より好ましくは、比較は、該動物集団の動物のサンプルに関する代謝プロファイルを得、該プロファイルを参照と比較することを含む。最も好ましくは、代謝プロファイルにおける相違が、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関する指標である。この好ましい実施形態における参照は、未処理動物から誘導された代謝プロファイルであると理解されるべきである。
【0058】
また、より好ましくは、比較は、該動物集団の動物のサンプルからのメタボロームの代謝産物の少なくとも1つを参照と比較することを含む。最も好ましくは、最も好ましくは、そのような少なくとも1つの代謝産物における相違が、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関する指標である。この最も好ましい実施形態における参照は、未処理動物から誘導された代謝プロファイルであると理解されるべきである。
【0059】
また、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関するマーカーを特定するための方法であって、前記方法(サンプルに基づくもの)の工程、および該メタボロームの分析に基づいてマーカーを得る追加工程を含む方法も本発明に含まれる。
【0060】
本発明の該方法の好ましい実施形態においては、該マーカーは代謝プロファイルであるか、または参照と比較して変化した、該動物集団の動物のサンプルのメタボロームからの少なくとも1つの代謝産物である。最も好ましくは、該マーカーは、化合物の毒性、化合物の作用様式および化合物の治療活性を示す。
【0061】
以下の実施例により本発明を例示するが、これらの実施例は専ら例示目的であるに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0062】
動物の飼育
CrlGlxBrlHan:Wi系統の63〜65日齢のラットをCharles River, Sulzfeld, Germanyから購入した。各動物は耳刺青により連続的に標識されている。以下の収容条件下で動物を飼育した。
【0063】
空気条件:温度20〜24℃、湿度30〜70%
逸脱している場合にはそれを記録した。
照明期間:6.00から18.00時までの12時間の明期、18.00から6.00時まで12時間の暗期
檻のタイプ:針金製の檻, タイプDK III, BECKER & Co., Castrop-Rauxel, Germany
檻当たりの動物の数:1.
食餌のタイプ:Provimi Kliba SA, Kaiseraugst (Switzerland)により供給される破砕Klibaマウス/ラット飼育食“GLP”食、任意量
給水:任意量の飲料水
順化:7日間の順化期間;動物は該研究の環境条件および該食餌に慣らした。
【実施例2】
【0064】
試験化合物の代謝研究
雄および雌のwistarラットをランダム化し、投与期間の開始前にそれらの体重に基づいて用量群に割り当てた。表1に示す以下の計画に従い、該動物を高用量および低用量レベルの5つの異なる試験化合物で処理した。
【表1】

【0065】
表2に示す以下の時間計画に示すとおりに血液採取を行った。
【表2】

【0066】
実験中、瀕死の動物および死亡した動物に関する検査を月曜から金曜までは1日2回ならびに日曜、土曜および祭日には1日1回行った。該動物を臨床的な異常徴候に関して毎日検査する。各動物ごとに異常および変化を記録する。食物消費を研究第6日、第13日、第20日および第27日に測定した。全体的観察において飲料水消費を毎日調べた。動物をランダム化するために、投与期間の開始前に体重を測定した。投与期間中、研究第0日、第6日、第13日、第20日および第27日に体重を測定した。体重および食物消費に関する個々の値に基づいて試験物質の平均1日摂取量を計算した。Dunnet検定を用いて平均および標準偏差を計算した。
【0067】
血液採取を以下のとおりに行った。
剖検または血液採取の前に、約16〜20時間にわたり食物の供給を中止した(絶食期間)。血液採取は午前7:30から10:30までの間に行った。イソフルランで麻酔された動物の眼窩後(retroorbital)静脈叢から血液を採取した。各動物から1mlの血液を、抗凝血剤としてのEDTA(10μlの10%溶液)を含有するプラスチックチューブ内に集める。該血液サンプルを遠心分離する。各サンプルの血漿を分離し、別のプラスチックチューブに移す。沈殿した赤血球を0.9% NaClで3回洗浄し、無菌蒸留水(Ampuwa(登録商標), Fresenius, Bad Homburg, Germany)で1mlまで満たして、赤血球を溶血させる。該溶血血液サンプル(40μlの溶血血液 + 160μlの1.5% NaCl)において自動分析器(ADVIA 120, Bayer AG, Fernwald, Germany)でヘモグロビンを測定する。血液、血漿および溶血血液をサンプル採取し、元のエッペンドルフチューブ内で保存する。該サンプルの輸送および調製は、氷で冷やしながら行う。サンプル調製の終了時に、すべてのサンプルを純粋窒素雰囲気で重層し、「パラフィルム(Parafilm)M」で密封し、該サンプルの更なる遂行(例えば、発送)まで-80℃(窒素雰囲気下)で保存する。
【0068】
該実験の完了後、各動物に関する臨床病理を判定した。このために、研究の最後まで生存した全ての動物をイソフラン麻酔下での断頭により(最終的な血液採取が想定される場合)またはCO2麻酔により犠死させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に同一のメタボロームを有する動物集団を得るための方法であって、
a)実質的に同一齢のネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、魚類、鳥類および昆虫からなる群より選択される動物集団を編成し、
b)以下の収容条件:
i)一定の温度、
ii)一定の湿度、
iii)該動物集団の動物の物理的分離、
iv)任意量の給餌、ここで、供給する食物は化学薬品混入物も微生物混入物も実質的に含有しない、
v)任意量の飲料液、ここで、該飲料液は化学薬品混入物も微生物混入物も実質的に含有しない、
vi)一定の照明期間
の下で順化に十分な第1期間にわたり工程a)の動物集団を飼育し、
c)第1期間の後で工程b)の動物集団を得ることを含んでなる方法。
【請求項2】
該齢がX±1日(ここで、Xは該集団の想定される齢である)の範囲内である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
a)請求項1記載の方法の工程を用いて動物集団を得、
b)動物のメタボロームに影響を及ぼす疑いのある化合物を該動物集団に投与し
c)工程b)の動物集団のメタボロームを分析することを含んでなる、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物の特定のための方法。
【請求項4】
毒性であると疑われる化合物を工程b)において該動物集団に投与した後の第2期間にわたり該動物集団を請求項1記載の収容条件下で飼育する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
工程c)の分析を第2期間中に少なくとも1回行う、請求項4記載の方法。
【請求項6】
工程c)の分析を第2期間中に少なくとも3回行い、ここで、第2およびいずれかの更なる分析を、前分析以降に経過した期間の2倍の期間の後で行う、請求項4記載の方法。
【請求項7】
第1分析を工程b)における該化合物の投与の7日後に行う、請求項6記載の方法。
【請求項8】
該動物集団の体重、食物消費、飲料液消費および臨床的徴候をモニタリングすることを更に含む、請求項3〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
該動物集団の各動物に関する異常をモニタリングすることを更に含む、請求項3〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
分析が、該動物集団のメタボロームを参照(reference)と比較することを含む、請求項3〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
比較が、該動物集団の動物のメタボロームに関する代謝プロファイルを得、該プロファイルを参照と比較することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
該代謝プロファイルにおける相違が、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関する指標である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
比較が、該動物集団の動物のメタボロームの代謝産物の少なくとも1つを参照と比較することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの代謝産物における相違が、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関する指標である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
該化合物が、毒性であると疑われる化合物または薬物であると疑われる化合物である、請求項3〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関するマーカーを特定するための方法であって、請求項3〜15のいずれか1項記載の方法の工程、および該メタボロームの分析に基づいて該化合物に関するマーカーを得る追加的工程を含んでなる方法。
【請求項17】
該マーカーが代謝プロファイルである、または参照と比べて変化した該動物集団の動物の代謝産物の少なくとも1つである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
該マーカーが化合物の毒性、化合物の作用様式または化合物の治療活性を示す、請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物を特定するための方法であって、動物のメタボロームに影響を及ぼす疑いのある化合物が投与された動物集団の少なくとも1動物からのサンプルを代謝的に分析することを含み、ここで、該動物集団が、該化合物の投与の前および後に、請求項1記載の収容条件下で飼育されたものである、方法。
【請求項20】
該分析が、該動物集団の動物のサンプルからのメタボロームを参照と比較することを含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
比較が、該動物集団の動物のサンプルに関する代謝プロファイルを得、該プロファイルを参照と比較することを含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
該代謝プロファイルにおける相違が、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関する指標である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
比較が、動物集団のサンプルからのメタボロームの代謝産物の少なくとも1つを参照と比較することを含む、請求項20記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つの代謝産物における相違が、動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関する指標である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
該化合物が毒性化合物または薬物である、請求項19〜24のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
動物のメタボロームに影響を及ぼす化合物に関するマーカーを特定するための方法であって、請求項19〜24のいずれか1項記載の方法の工程、および該メタボロームの分析に基づいて該マーカーを得る追加的工程を含んでなる方法。
【請求項27】
該マーカーが代謝プロファイルである、または参照と比べて変化した該動物集団の動物のサンプルのメタボロームからの少なくとも1つの代謝産物である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
該マーカーが化合物の毒性、化合物の作用様式または化合物の治療活性を示す、請求項26または27記載の方法。

【公開番号】特開2012−179057(P2012−179057A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−116244(P2012−116244)
【出願日】平成24年5月22日(2012.5.22)
【分割の表示】特願2008−523297(P2008−523297)の分割
【原出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】