説明

実験用小動物飼育容器

【課題】 医薬品の投与あるいは体液回収のためのチューブが接続された実験用小動物が飼育容器の中で拘束されることなく自由に動き回り、かつチューブが絡みついたり、食いちぎることのない飼育容器に関する。
【解決手段】 容器本体(11)及び着脱自在の蓋部(12)から構成され、ケージで飼育されるマウス(21)には体液を回収するためのカニュラーチューブ(22)を接続し、ケージの蓋(12)には台車(13)が移動できるレール(12a)および(12b)が設けられ、これらの台車には自在に動作するジョイント(23)が固定され、カニュラーチューブの一端は、これらに接続され、もう一方は体液を回収するための容器(25)に接続され、マウスは餌あるいは水が入った容器(31)から栄養を補給しながら快適な環境下で飼育する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実験用小型哺乳動物、例えば医薬研究用マウスなどを快適な環境下で飼育する実験用小動物飼育容器に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の開発において、ラットやマウスによる治療効果の確認・生体への影響を確認することは日常的に行われている。これらの小動物には医薬品を投与したり体液を回収するためにチューブ(以下、カニュラーチューブと呼ぶ)が接続状態で飼育される場合があるが、この状態がラットやマウスにとっては快適でなく、適正な薬事効果が得られなかったりストレスにより別の代謝が起こる。
【0003】
実験用小動物は一般に透明樹脂製の容器(ケージ)で飼育されるが、特にラットやマウスなどを使った動物実験で、これらの動物の頸部に取り付けたカテーテルにカニュラーチューブを接続した状態で飼育する場合、ラットやマウスが動き回る度にカニュラーチューブが絡みつき、これがストレスとなって、チューブを噛みちぎるなどの問題がある。この対策の一として図7に示すようなフリームービング装置を備えた飼育容器が使用されている。
【0004】
この装置では、透明樹脂製の容器(51)に取り付け台(52)を取り付け、この台座にバランス調製器具(53)及びバランスアーム(54)をセットする。次いでフリームービングワイヤー(55)をカニュラーシーベル(56)に固定し、カニュラーシーベルをバランスアームに固定する。この時バランスアームの傾き加減を調製する。一方、ラットの頸部に首輪を取り付け外れないように固定する。ラットの頸背部から導入したバイパスにコネクターチューブを接続・配管しカニュラーシーベルに接続するコネクターチューブと弛まない程度の長さに切断し固定する。
【0005】
この装置を用いることによりバランスアームとフリームービングワイヤーが動物の素早い動きに敏速に対応するため、長時間通常に近い生理的条件下で実験することが出来るが、重りでバランスさせる機構のため、体重の少ないマウスに適用するとバランスの調製が難しく正常に飼育することが極めて難しいという問題がある。
【0006】
また、ラットに取り付けた血液採取チューブがラットに絡んだり、また噛み切られないようにチューブを滑車に巻き、その一端に取り付けた重りの張力でラットが飼育容器内を動き回っても弛むことがない血液採取装置が公表されているが、これも重りとのバランス調製が難しくマウスのように体重が軽い動物の飼育には適していない。(例えば、特許文献1のように。)
【特許文献1】特開2004−041389号公報
【0007】
このほか体重が軽いマウスに適さない理由として、使用するカニュラーチューブ自体が硬くて柔軟性に乏しいためマウスが自由に動けない。また、動作によってマウスが弾き飛ばされたりする。更に、マウスの動きに追従するときの抵抗が大きく、このためマウスはストレスを感じ適正なデータを得ることができない。 また、容器内の清掃のため、マウスごとアームをケージから取り外す場合があるが、動き回るマウスをつなげた状態では難しい。また、マウスを取り扱う場合、首輪が外れる場合もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような従来技術の問題点に着目してなされたもので、その骨子は実験用小動物が飼育容器の中で拘束されないで自由に且つ軽く動けること、またカニュラーチューブが絡みつくことなく、外れない、切れない、傷まないこと、更に飼育及び生体実験が効率良く行える実験用小動物飼育容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、容器本体及び着脱自在の蓋部から構成される実験用小動物飼育容器において、前記蓋部にコの字型の溝及び実験用小動物の動きに追従して動作する台車が設けられ、該台車には動くジョイントが固定され、該ジョイントには一端を実験用小動物に取り付けたチューブが接続されてなる実験用小動物飼育容器である。
【0010】
前記実験用小動物飼育容器において、蓋部の長手方向に台車が動作するレールが設けられ、該レールの両端は車止めが設けられ、また蓋部の台車に固定されるジョイントが自在に動き且つ接続したチューブが回転するスイーベルジョイントが望ましい。このジョイントと実験用小動物に接続されたチューブが容易に脱着でき、更に実験用小動物に接続されたチューブには、柔軟なポリウレタンチューブと保護コイルの二重構造で構成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明による飼育容器は、蓋の部分に軽く動く台車を設け、カニュラーチューブをその台車に取り付けているため、マウスが自由に動き回ることができる。
また、カニュラーチューブの台車への取り付け部には揺動機構を設けているため、マウスの激しい動きにも対応できチューブが絡まることがない。
更にカニュラーチューブには極細い軟質な材料を採用し、コイルスプリングを外装した二重構造にしたため、マウスが噛んでも損傷することがない。
【0012】
また、飼育容器の蓋部に、コの字型の溝を設け、カニュラーチューブが繋がったままマウスが容易に取り出せるようにしたため、手術や日常のケアー性が格段に向上する。
また、このことで、飼育されている実験用小動物が快適に動き回ることにより、ストレス障害が回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図1〜図5を用いて本発明の実施の形態に係る実験用小動物飼育容器(以下、単に飼育容器という)を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施例の飼育容器は、容器本体(以下、ケージという)と着脱自在の蓋部で構成され、この蓋部にはコの字型の溝と実験用小動物(以下、マウスという)の動きに追従して動作する台車が設けられている。更に台車にはマウスの動きに追従して自在に回転あるいは動くジョイントが取り付けられ、このジョイントには一端がマウスに接続されたチューブが取り付けられている。
【0014】
以下、実施の形態について詳しく説明する。なお共通の部分は同じ符号を使用している。図1において(11)は透明樹脂製のケージ、(12)はケージの蓋であり、この蓋には軽く動く台車(13)が取り付けてある。図1で示されている(31)はケージ(11)で飼育されているマウス(21)に餌あるいは水を与える容器である。
【0015】
ケージの蓋(12)は、図2に示すようにステンレス鋼製の丸棒を任意の間隔に接合した構造であり、その上部にはレール(12a)及び(12b)が接合され、台車(13)の車輪(13a)はこのレール(12a)および(12b)上を動く。台車(13)には自在に動くジョイント(23)が固定され、その両端にはカニュラーチューブ(22)およびシリコンチューブ(24)が接続されている。
【0016】
また、このジョイント(23)は、台車(13)が移動する方向に追従して動くように懸吊されており、ジョイント(23)の一端に接続されているカニュラーチューブ(22)は、ジョイント部で自在に回転出来る構造になっている。ケージ(11)で飼育されているマウス(21)の分泌物等はカニュラーチューブ(22)からジョイント(23)を介してシリコンチューブ(24)を経由し採取瓶(25)に回収される。
【0017】
図3は、台車(13)の構造と固定されたジョイント(23)の断面図を示したもので、(A)は台車(13)の移動方向を正面から見た図で、(B)は側面から見た図である。
さらに、図3において(13a)はジョイント(23)を懸吊するためのバーである。
懸吊されたジョイント(23)には、それぞれカニュラーチューブ(22)、シリコンチューブ(24)が接続されているが、マウス(21)が接続されているカニュラーチューブ(22)は台車(13)の移動方向に振り子のように動く構造になっている。
【0018】
図3の側面から見た図(B)はこの状態を示している。ジョイント(23)の上下両端にはそれぞれチューブが接続されているが、ジョイントの内部はマウス(21)から排泄される分泌物が流れやすいように貫通孔(23a)が開いた構造になっており、液漏れは特殊シール(図示せず)により防止されている。
【0019】
図4は、ステンレス鋼製の丸棒を任意の間隔に接合したケージ蓋の構造を示す斜視図で(A)は全体を示す図、(B)はコの字型の溝を設けた部分を示す拡大図である。
ケージで飼育されるマウス(図示されていない)には、カニュラーチューブ(22)が接続されているが、ケージ蓋にはコの字型の溝が設けられているため、カニュラーチューブ(22)は拡大図(B)に矢印で示すように移動が可能であり、カニュラーチューブ(22)に接続されたマウスをケージから容易に取り出すことが出来る。
【0020】
図5は、カニュラーチューブを一部切り欠き内部の構造を示した断面図である。
カニュラーチューブ(22)は、柔軟なポリウレタンチューブ(22b)と圧縮コイルバネ(22a)の二重構造からなるものが使われる。飼育中のマウスから分泌物を回収する場合は、分泌圧力によって体外に押し出されるがそのためには柔らかさと容積が少ない極細のチューブが好ましい。また、コイルは軽くて柔軟性があり且つマウスに食いちぎられないような強さを持つものが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明による飼育容器を用いた具体例として、SCIDマウスの胆汁排泄試験での実施例を挙げ、以下に説明する。
径2mmのステンレス鋼丸棒で、約10mmの等間隔に溶接接合したケージの上蓋(約270mm×150mm)(12)にプラスチック製の軽快に動作する車輪(13b)4個を持つ台車(約40mm×60mm)(13)を載せ、更に自在に動く約10g程度のジョイント(23)を懸吊した蓋(12)を作成した。
【0022】
一方、SCIDマウス(体重20.88g)(21)の胆嚢に胆汁を採取する細管を差し込み、これにカニュラーチューブ(チューブ内径が1.2mm)(22)を接続して、その一端を本発明容器の台車(13)に設けられたジョイント(23)と接続した。
【0023】
カニュラーチューブ(22)を接続したSCIDマウス(21)を透明プラスチック製のケージ(約260mm×160mm×140mm)(11)に入れ、上蓋(12)をして、ジョイントのもう一方はシリコンチューブ(24)を接続し、更にシリコンチューブ(24)の端は胆汁の採取容器(25)に接続した。
【0024】
この状態でSCIDマウス(21)から排出される胆汁量を1時間毎に測定した。53時間連続で胆汁を採取した積算を図6の曲線(A)で示す。
尚、本発明容器でSCIDマウス(21)を飼育している間、SCIDマウス(21)の動きに追従してカニュラーチューブ(22)を接続した台車が(13)軽快、且つスムースに動き、また、カニュラーチューブ(22)がマウス(21)に絡むことなく動き回る様子が確認された。
【比較例】
【0025】
四肢をテープで台に固定した拘束状態でのSCIDマウス(21)から胆汁を回収した例を図6の(B)に示す。
4時間までは問題なく採取出来たが5時間目には一部血液が混入し、以降は胆汁が殆ど回収されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例を示す実験用小動物飼育容器の概略図である。
【図2】本発明によるケージ蓋の一実施例を示す一部欠截斜視図である。
【図3】本発明による一実施例を示し、(A)はケージ蓋に設けられたレールと台車、(B)は台車に固定されたジョイントのそれぞれ断面図である。
【図4】本発明によるケージ蓋の斜視図であり、(A)は全体図、(B)は一部拡大図である。
【図5】本発明によるカニュラーチューブの一実施例を示す一部欠截断面図である。
【図6】本発明によるSCIDマウスを用いた胆汁排泄試験の実施例結果と比較例結果を示すグラフ図である。
【図7】従来例のフリームービング装置を備えた飼育容器の説明図である。
【符号の説明】
【0027】
11 ケージ
12 ケージ蓋
12a、12b 台車移動レール
13 台車
13a ジョイント懸吊棒
13b 車輪
14 台車止め
21 実験用小動物
22 カニュラチューブ
22a 圧縮バネコイル
22b チューブ
23 ジョイント
23a ジョイント接続
24 シリコンチューブ
25 分泌物回収容器
31 餌容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体及び着脱自在の蓋部から構成される実験用小動物飼育容器において、前記蓋部にコの字型の溝、及び実験用小動物の動きに追従して動作する台車を設け、該台車には自在に動くジョイントが固定され、該ジョイントには一端を実験用小動物に取り付けたチューブが接続されてなることを特徴とする実験用小動物飼育容器。
【請求項2】
前記蓋部には長手方向に台車が動作するレールが設けられ、該レールの両端は車止めが設けられていることを特徴とする請求項1記載の実験用小動物飼育容器。
【請求項3】
前記第1において、台車に固定されるジョイントが自在に動くスイーベルジョイントであり、実験用小動物に接続されたチューブの一端が容易に接続できることを特徴とする実験用小動物飼育容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−325420(P2006−325420A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149768(P2005−149768)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000211064)中外テクノス株式会社 (9)
【出願人】(503449018)株式会社フェニックスバイオ (7)
【Fターム(参考)】