説明

室内処理方法及び処理装置

【課題】二酸化塩素ガスを必要とする現場で、ガス濃度の局部的上昇による爆発を招くことなく安全に、効率的かつ簡易的に、二酸化塩素ガスを発生する。
【解決手段】開放容器内に配置される亜塩素酸ナトリウム及び酸を含む溶液中の亜塩素酸ナトリウム及び酸の両者の少なくとも一方について、該両者の反応によって発生する二酸化塩素ガスの前記開放容器内における局部的濃度が10%を超えない量を計量すること、計量された前記一方を含む前記溶液を前記容器内に配置すること、該容器の外部から前記溶液を50℃から95℃の範囲で加熱し、これにより、前記反応を促進させ、該反応を所定時間内に終了させる、室内の脱臭、殺菌又は滅菌のための処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内の脱臭又は微生物の殺菌若しくは滅菌のために二酸化塩素ガスを用いる室内処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
室内の有害化学物質の分解除去及び殺菌等に、亜塩素酸塩と無機又は有機の酸とを含む水溶液から発生する二酸化塩素ガスを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術によれば、容器に収容された前記水溶液は、毛細管現象を利用した蒸発芯により、前記容器内から室内へ向けて吸い上げられる。前記水溶液は蒸発芯によって吸い上げられる過程で、該蒸発芯を取り巻く加熱手段により暖められ、前記水溶液中の亜塩素酸塩及び酸の反応による塩素ガスの発生が促進されることから、前記容器の放出口から安定的に二酸化塩素ガスが室内に放出される。
【0003】
ところで、二酸化塩素ガスの使用では、人体に対する安全性を確保するために、厳格な規定があり、例えば米国産業衛生専門家会議(ACGIH)によれば、二酸化塩素については、15分以下の短時間暴露限界(TLV−STEL)として、0.3ppm、1日8時間及び1週間に40時間の労働時間の加重平均濃度(TLV−TWA)として、0.1ppmがそれぞれの許容濃度として決められている。したがって、ACGIHによるTLV−STELを参照すると、二酸化塩素ガス濃度が300ppbの環境下では、最長で15分間の人の存在が許容されるに過ぎない。
【0004】
このため、前記した二酸化塩素ガス発生装置を用いた脱臭あるいは殺菌では、安全性の確保のために、所定の時間を超える前に二酸化塩素ガスの放出を止める必要がある。ところが、単に、加熱手段による加熱を停止しても、前記水溶液の反応による二酸化ガスの発生自体を停止させることはできない。そこで、二酸化塩素ガスの室内への放出を止めるためには、例えば容器の放出口を閉鎖する必要がある。
【0005】
しかし、容器の放出口を閉鎖しても、この閉鎖された容器内での二酸化塩素ガスの発生反応は進行する。そのため、放出口の閉鎖後の時間の経過に伴って、容器内の閉鎖空間での二酸化塩素ガスの容積濃度が高まり、そのモル濃度が10%を超えると、爆発を生じるおそれがある。
【0006】
そのため、このような亜塩素酸塩及び酸を含む水溶液から発生する二酸化塩素ガスを用いて安全かつ効率的に室内を脱臭、殺菌又は滅菌処理する方法及び装置が望まれていた。また、人が滞在する室内空間では、臭気や菌は平均してある値を下回れば良いわけではなく、ある箇所では少なく、別の箇所で鼻につくあるいは菌が繁殖しているといった偏在は、結果的に要求品質を満たしていないとの評価となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、二酸化塩素ガスを必要とする現場で、二酸化塩素ガス濃度の局部的上昇による爆発を招くことなく安全に、しかも効率的かつ簡易的に、二酸化塩素ガスを発生する方法及び装置を提供することにある。さらに、本発明の目的は、前記した提供にあたり、より少ないガス量で室内の全体をほぼ均質な空気質で満たし得る装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、亜塩素酸塩及び酸を含む水溶液中での二酸化塩素ガスの発生反応は、原料である亜塩素酸塩及び酸の少なくともいずれか一方の消耗によって終了することに着目し、所定の時間の経過後に容器内の反応が自然に終了するように、容器内に供給される亜塩素酸塩及び酸の少なくとも一方の原料を所定量に計量して制限しておくことを基本原理とする。
【0009】
この基本原理に基づく本発明は、亜塩素酸ナトリウム及び酸の両者の反応によって発生する二酸化塩素ガスを用いて室内を殺菌、滅菌又は脱臭する処理方法であって、処理対象の室内容積に応じて、二酸化塩素ガスを発生させるための亜塩素酸ナトリウム及び酸を含む混合液を供給すべき開放容器内で、亜塩素酸ナトリウム及び酸の両者のいずれか一方について、両者の反応により発生する二酸化塩素ガスの前記開放容器内での局部的濃度(モル濃度)が10%を超えない量を計量し、計量された前記一方を含む両者を前記容器内に供給すること、前記容器の外部から該容器内の混合液を50℃から95℃の範囲で加熱し、これにより前記反応を促進して該反応を所定時間内に終了させることを含む。
【0010】
無風下であっても、容器内に供給される亜塩素酸ナトリウムが10g以下であれば、容器の形状や大小に拘わらず、また、酸性液の量の増減に拘わらず、該容器内での局所濃度が10%を超えることを防止することができる。したがって、この局所濃度の増大による爆発を生じること無く、前記反応を終了させることができる。また、前記加熱手段による反応の促進により、効率的に前記反応を促進することができるので、二酸化塩素ガスを用いた脱臭、殺菌又は滅菌のような室内処理を迅速に行うことができる。これにより、二酸化塩素ガスを用いて安全かつ効率的な室内処理が可能となる。
【0011】
亜塩素酸ナトリウムを10g以下とする根拠は次のとおりである。
【0012】
二酸化塩素ガスの分子量は68であり、空気のそれは29であることから、カップ状容器内で発生した二酸化塩素ガスは、該容器の底部に沈下する傾向がある。このため、容器の底部で二酸化塩素ガスの濃度が約10%を越えると、引火性を示さない爆発の虞が生じる。しかしながら、例えば、市販の紙コップのような容器では、後述するように、亜塩素酸ナトリウムの粉末12の重量が約10gを越えなければ、容器内で二酸化塩素ガス濃度を局部的にも10%未満とすることができ、これにより爆発をほぼ確実に防止できることが実験の結果、確認できた。
【0013】
この実験には、市販の180ccの容量の紙コップ容器内に亜塩素酸ナトリウムの粉末を配置し、該粉末の重量をパラメータにして、前記容器内に重量濃度が40%〜60%のリンゴ酸水溶液を亜塩素酸ナトリウムの粉末に対する比重比が2:5となるように注入し、爆発の有無を確認した。
【0014】
この実験によれば、前記容器14内が無風状態では、亜塩素酸ナトリウムの粉末の重量が10gを越えると、爆発を生じることがあり、20gを越えるとその頻度が高まることが判明した。すなわち、亜塩素酸ナトリウムの粉末の重量が10gを大きく越えない所定量とすることにより、前記容器内の底部での二酸化塩素ガス濃度がたとえ局部的であっても、10%以下に保持でき、カップ状容器内での爆発の危険性を大きく低減することができることが判明した。また、亜塩素酸ナトリウムの粉末の重量を10g以下とすることにより、爆発の危険を確実に防止できることが判明した。これは、カップ状容器の底面積が極端に小さくならない限り、該カップ状容器の容量の如何に拘わらない。なぜならば、爆発は、主として局所的な濃度増大を起因とするからである。
【0015】
亜塩素酸ナトリウム水溶液のために、亜塩素酸ナトリウム粉末を用いるができる。本発明を室内の例えば脱臭目的に使用するとき、1.5mg×脱臭対象部屋容積m以上で10g未満の亜塩素酸ナトリウム粉末を用いることができる。もちろん、酸性溶液も亜塩素酸ナトリウム粉末との化学反応式の係数から、反応するモル数の割合に応じた量を計量して、前記容器内に供給することが望ましい。また、亜塩素酸ナトリウム粉末を計量することに代えて、該亜塩素酸ナトリウム粉末の10gと反応するモル数の割合に応じた量の酸性溶液を計量することができる。
【0016】
室内処理の目的に応じた計量により、前記した前記容器内に供給された亜塩素酸ナトリウム水溶液及び酸性溶液の前記した反応による局所濃度の増大を招くことなく、効果的に処理目的を達成することができる。
【0017】
前記加熱手段の加熱により、前記容器内の溶液中の水分は、約5分を超えかつ約20分未満の間に蒸発するように加熱手段による加熱温度を設定することが望ましい。これにより、より効果的かつ迅速な室内処理が可能となる。
【0018】
処理対象の室内は、処理中、密閉状態で相対湿度を約50%RH以上に保持することが望ましく、これにより脱臭効果を高めることができる。
【0019】
前記酸性液として、塩酸や硫酸を用いることができるが、例えばリンゴ酸、クエン酸あるいは酢酸のような食用有機酸を用いることが、安全かつ容易に取り扱える点で有利である。
【0020】
前記酸性液のpH値は、確実かつ迅速な反応を得る上で、3以下とすることが望ましい。
【0021】
前記容器は、非透水性処理が施された耐熱紙又は金属で形成されたカップ状容器を用いることができる。容器の材質は、加熱に供されることから、伝熱性が良いという観点では、金属が好ましい。他方、ホテルの客室のように同時に、複数または多数箇所で消毒や消臭を行う場合には、使い捨てにして容器洗浄の手間を省くという観点で、耐熱紙が好ましい。
【0022】
前記容器内の水分が蒸発により消失した後、前記室内空気を循環濾過する活性炭フィルタ付き送風器を作動させることにより、前記室内の残留二酸化塩素ガスを除去することが望ましい。
【0023】
本発明に係る前記方法は、本発明に係る処理装置を用いて好適に行うことができる。本発明に係る前記処理装置は、上端開放の容器と、該容器内に配置されるべき溶液であって、亜塩素酸ナトリウム及び酸を含み、該亜塩素酸ナトリウム及び酸の両者の少なくとも一方について、該両者の反応によって発生する二酸化塩素ガスの前記開放容器内における局部的濃度が10%を超えない量に計量された溶液と、前記容器内の底部に配置され、前記溶液を50℃から95℃の範囲で加熱する加熱手段とを含み、該加熱手段により前記反応が促進され該反応が所定時間内に終了することを特徴とする。
【0024】
前記加熱手段は、前記容器内の水分を蒸発により消失させ、これにより、前記反応が所定時間内に終了する。
【0025】
前記加熱手段は、例えばコイル状の電熱線とすることができる。この電熱線は、例えば前記容器の底部に配置することができ、また前記容器の周壁部を取り巻いて配置し、さらに当該電熱線の外方を取り巻いて断熱材で覆うことができる。
【0026】
さらに、前記加熱手段及び前記容器を収容するハウジングであって前記容器の開放端を雰囲気に露出させ、前記開放端の外周に空気噴出口が形成されたハウジングと、該ハウジング内に配置され前記空気噴出口から上方へ向けての空気流を生成する送風器とを設けることができる。この送風器から前記ハウジング内に供給される送風が前記空気噴出口を経て処理対象室内を上昇し、この上昇流に伴って前記容器の開放端から放出される二酸化塩素ガスを前記室内に効果的に分散させることができる。
【0027】
前記送風器は、空気取り入れ口及び空気排出口を有し、前記空気取り入れ口は前記ハウジング内での効果的な空気流を生成する上で、該ハウジングの外方に開放させることが望ましい。また、前記空気排出口は、前記ハウジングの前記容器の下方で、該容器の外周を経て前記空気噴出口へ向けての空気流を生成すべく方向付けることができる。二酸化塩素ガスは空気より重いという性質があり、室内に二酸化塩素ガスを拡散させるには、該二酸化塩素ガスを天井面などの室内上部に搬送することが望ましく、室内の全体を二酸化塩素ガスを含む均質な空気質で満たすために、前記した送風器を設けることが有利である。
【0028】
前記ハウジングに前記容器を載せる棚を設けることができ、該棚と前記容器との間に断熱板を配置し、該断熱板と前記容器との間に前記加熱手段として電熱ヒータを配置することができる。前記棚は、前記送風器の空気流が前記加熱手段に直接向けられることを防止することにより、前記空気流による前記加熱手段の加熱効果の低減を防止する。また前記断熱板は、前記加熱手段による熱エネルギーの前記棚への伝導を抑制することにより、前記加熱手段による加熱効果の低減を抑制する。
【0029】
前記送風器の前記空気排出口を前記棚の下方で該棚の下面に向けて開放させることができ、これにより、前記空気噴出口からの上昇空気流を効果的に発生することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、前記したように、前記容器内の二酸化塩素ガスの局所濃度の増大による爆発を生じること無く、二酸化塩素ガスの発生反応を促進して所定の時間内に終了させることができるので、二酸化塩素ガスを用いた脱臭、殺菌又は滅菌のような室内処理を迅速に安全かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る室内処理方法に用いる処理装置を概略的に示す断面図であり、
【図2】図1に示した処理装置を用いた実験装置を模式的に示す説明図であり、
【図3】図2に示した実験装置によって得られたデータを、加熱温度をパラメータとして、二酸化塩素ガス発生開始からの経過時間と二酸化塩素濃度との関係で示すグラフであり、
【図4】本発明に係る室内処理方法を喫煙臭の脱臭に適用したときの二酸化塩素ガス発生開始からの経過時間と二酸化塩素濃度との関係を示すグラフであり、
【図5】本発明に係る室内処理方法を香水臭の脱臭に適用したときの二酸化塩素ガス発生開始からの経過時間と、二酸化塩素濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明が特徴とするところは、図示の実施例に沿っての以下の説明により、さらに明らかとなろう。
【0033】
図1には、本発明に係る室内処理方法を実施する装置が全体に符号10で示されている。本発明に係る室内処理装置10は、例えば矩形のハウジング12と、該ハウジング内に収容される上端開放の容器14及び送風器16とを含む。ハウジング12は、上端開放の矩形の筐体12aと、該筐体内の開放端に配置される蓋12bとを有する。蓋12bには容器14の開放端14aの縁部から間隔をおいて該縁部を受け入れる例えば矩形の開口18が設けられている。容器14の開放端14aは、蓋12bと同一面上にあっても良く、また蓋12bの面よりもわずかに高い面あるいは低い面に位置させることができる。また、容器14は、後述する溶液の調合後に、開口18からハウジング12内に降ろし入れることができる。ハウジング12として、例えば、300mm、200mm及び200mmの縦(L)、横(W)及び高さ(H)の各寸法を有するものが使用された。この例に限らず、適宜、種々の形状及び寸法のハウジング12を用いることができる。
【0034】
ハウジング12内には、容器14を載せる棚20が形成されている。棚20は、後述する送風器の空気排出口と対向し、該空気排出口に接したと仮定すれば該空気排出口をすべて覆うに十分な面積及び平面形状を有する。棚20上には断熱板22が配置されている。この断熱板22上には、例えばタイマー付きの電熱ヒータからなる加熱手段24が配置されている。容器14は、その底部が加熱手段24上に載るように配置されている。これにより、容器14の開放端14aの縁部が蓋12bの開口18の近傍で該開口縁部から間隔を置くように、容器14は棚20上に保持されている。
【0035】
電熱ヒータからなる加熱手段24を前記したように容器14の底部に配置することに代えて、例えばコイル状の電熱線からなる加熱手段を容器14の周壁部を取り巻いて配置し、さらに当該電熱線の外方を取り巻いて断熱材で覆うことができる。これらの加熱手段は、容器14が平型か立筒型かによって使い分けることができる。前者であれば容器14の底部に配置し、後者であれば、容器14の周壁部を取り巻いて前記加熱手段を配置することが考えられる。加熱手段の配置は、溶液を集中的に加熱できる配置が望ましい。また、加熱手段は、上記のように容器14の外側に配置することに代えて容器内に設け、溶液に浸漬する形態も採用できる。この場合、熱の効率的利用の点から、容器14の下部が上部よりも低温になるので、前記加熱手段は、前記したように、容器14の下部に組み込むことが好ましい。
【0036】
また、容器14の外側に加熱手段を設ける場合では、該加熱手段の設置箇所に層状の断熱材をサンドイッチ状に挟み込んだ積層構造とすることもできる。
【0037】
容器14は、例えば厚さ寸法が0.3mmのステンレススティール材またはアルミニウム材で形成され、30mm×30mmの矩形底面及び高さが30mmの矩形カップである。
【0038】
この容器14には、それぞれ亜塩素酸溶液26及び食用有機酸であるリンゴ酸粉末を溶解した酸性液28が供給される。
【0039】
亜塩素酸溶液26及び酸性液28の反応により二酸化塩素ガスが発生する反応は、従来よく知られており、亜塩素酸溶液とリンゴ酸との反応は次式のとおりである。
【0040】
4NaClO2+4HOOC-CH(OH)-CH2-COOH+O2 → 4NaOOC-CH(OH)-CH2-COOH+4ClO2+2H2O
【0041】
本発明に係る方法では、例えば部屋の脱臭のために、亜塩素酸溶液26中の亜塩素酸ナトリウムの粉末量が、1.5mg×対象とする部屋の容積m以上でありかつ10g以下となる範囲で、脱臭対象に応じた所定量に計量される。
【0042】
例えば、部屋容積が18mのホテル客室での喫煙着臭の脱臭目的では、4ccの蒸留水に0.0275gの亜塩素酸ナトリウム粉末を溶解して形成された亜塩素酸溶液26が用いられ、同じく4ccの蒸留水に0.11gのリンゴ酸粉末を溶解して形成された酸性液28が用いられた。
【0043】
このように、計量される亜塩素酸ナトリウムの量を10g以下とすることにより、無風下であっても、また加熱に拘わらず、容器14内での二酸化塩素ガスの局所的濃度が爆発を引き起こす臨界値を超えることを確実に防止できた。このことは、本明細書の段落0011ないし0014に記載し、先の特願2008−85890号の明細書でも明らかにしたとおりである。
【0044】
また、加熱手段24による容器14内の混合液(26及び28)の加熱により、二酸化塩素ガスの発生反応を促進することができる。
【0045】
さらに、送風器16による送風効果によって、容器14の開放端14aから放出される二酸化塩素ガスを効果的に脱臭対象室内に分散させることができる。
【0046】
すなわち、送風器16は、その空気取り入れ口16aを筐体12aの外方に開放し、空気排出口16bを棚20の下方で該棚に向けて開放する。このため、空気排出口16bからの空気流30は、棚20によって該棚の縁部に向けられ、該縁部を回り込み、さらに容器14の外周を経て、開放端14aと蓋12bの開口18との間隙から上方へ向けて吹き出す。また、送風器16は、その空気取り入れ口16a及び該空気取り入れ口に接続されるハウジング内ダクトを経てハウジング12の外方から空気を取り入れるので、前記した空気流30に乱れが生じることなく、この乱れによる送風器16の送風効果の低減が防止される。さらに、気化した二酸化塩素ガスが放出される容器14の開放端14aの縁部を取り巻く該縁部の周囲に空気噴出口が形成されていることから、二酸化塩素ガスは上向きの誘引空気流に同伴して搬送される。
【0047】
したがって、容器14内で発生した二酸化塩素ガスは、開放端14aと蓋12bの開口18との間から空気流30に連行されて、効果的に前記対象室内に分散する。
【0048】
また、部屋に設けられるエアコンディショナの運転状態(該エアコンディショナの熱交換器に熱媒体を流通させることなく送風のみ送風モードを含む)で、前記送風器16を作動させることにより、空気の流動により、二酸化塩素ガスをより効果的に拡散させることができる。
【0049】
送風器16として、その駆動源に、1.3phpの電動モータが用いられ、風量が2.4m/分の能力を示すものが用いられた。送風器16として、これに限らず種々の能力を示すものを用いることができる。
【0050】
加熱手段24の広さよりも十分に広い面積を有する棚20を用いることにより、棚20を回り込んだ空気流が加熱手段24の熱量を大きく奪うことを防止することができ、加熱手段24の加熱効果を損なうことなく、二酸化塩素ガスを効果的に室内に分散させることができる。
【0051】
さらに、加熱手段24と棚20との間に挿入された断熱板22は、加熱手段24から棚20への熱伝導を遮断することにより、加熱手段24による加熱効果を相対的に高める作用をなす。
【0052】
前記した室内処理装置10を用いた本発明の方法によれば、前記した加熱による反応の促進により、容器14内の計量された混合液の反応が迅速に進行する。また、前記した亜塩素酸溶液26中の亜塩素ナトリウムの計量により、この反応の進行中に容器14内の二酸化塩素ガス濃度が10%を超えることはない。したがって、二酸化塩素ガス濃度の局部的上昇による爆発を生じることなく、反応が進行し、計量された反応材料の消耗によって反応が終了するまで、効果的に二酸化塩素ガスが脱臭対象室内に分散される。
【0053】
図2に示されているように、本発明の室内処理装置10を用いて、二酸化塩素ガス濃度と、二酸化塩素ガス発生反応の開始からの経過時間との関係が求められた。すなわち、部屋容積が18mのホテル客室32に、4ccの蒸留水に0.0275gの亜塩素酸ナトリウムを溶解して形成された亜塩素酸溶液26と、4ccの蒸留水に0.11gのリンゴ酸を溶解して形成された酸性液28とが室内処理装置10の容器14に供給された。ただし、この実験では、ハウジング12及び送風器16は用いられず、図示しないエアコンディショナを冷暖房無しの送風のみのモードで作動させて室内空気を循環させ、これにより、室内への二酸化塩素ガスの流動拡散を図った。
【0054】
客室32内は、図示しない空調装置により20℃に保持され、湿度センサ34a及び制御器34bを有する加湿器34により、客室32内の湿度は60%RHに保持された。この環境下で、加熱手段24に組み込まれた熱電対からなる温度センサ24aからの検知信号に基づいて、容器14内の加熱温度が制御された。また、客室32内の二酸化塩素ガスの濃度測定は、ガス排出チューブ36a及びガス吸引チューブ36bを経て客室32に接続された二酸化塩素濃度計36によって行われた。この二酸化塩素濃度計36には、株式会社ジェイ エム エスから購入した同社のモデルIS4330−1000bが用いられた。
【0055】
実験は、前記した加熱温度をパラメータとして、二酸化塩素ガス発生反応の開始からの経過時間t(分)と、客室32内の二酸化塩素ガス濃度(ppb)との関係を求めた。この実験結果が、図3のグラフに示されている。該グラフの横軸は、経過時間t(分)を示し、その縦軸は二酸化塩素ガス濃度(ppb)を示す。
【0056】
図3のグラフの特性線38aは、加熱温度が30℃の結果を示す。以下、同様に特性線38bは40℃、特性線38cは50℃、特性線38dは60℃、特性線38eは70℃、特性線38fは80℃、特性線38gは90℃、特性線38hは95℃、特性線38iは100℃の各測定結果を示す。
【0057】
図3のグラフから明らかなように、50℃を超える加熱温度により、それ以下の加熱温度による温度特性よりも急激な立ち上がり特性を得ることができ、また20分以内に二酸化塩素ガス濃度のピークが見られる。したがって、比較的短時間で効率的な脱臭効果を得るには、50℃を超える加熱温度が適切であると言える。この点は、多数の客室を脱臭処理する必要のあるホテル等を対象とする上で、極めて重要である。また、100℃では、容器14内の水分が急激に蒸発することから、100℃での加熱は避けることが好ましい。
【0058】
さらに、密閉空間で、物体表面に付着した臭気発生物質の脱臭あるいは物体表面に付着した微生物の殺菌又は滅菌に、二酸化塩素ガスを利用する場合、つぎの2点が重要になる。
【0059】
(1)脱臭、殺菌あるいは滅菌の効果の大きさは、5分間持続するある一定値以上の二酸化塩素ガス濃度の大きさによって決まる。例えば、ホテル客室内のベッドやカーテンに付着した喫煙臭を二酸化塩素ガスで脱臭しようとする場合、100ppb以上の二酸化塩素ガス濃度が5分間継続することが必要であった。また、ホテル客室内のベッドやカーテンに付着した香水臭を二酸化塩素ガスで脱臭しようとする場合、1ppm以上の二酸化塩素ガス濃度が5分間継続することが必要であった。
【0060】
(2)脱臭や滅菌の作業効率を高めるためには、ある一定値以上の二酸化塩素ガス濃度の5分間の持続は、ガス発生からできるだけ早い時間に現れることが必須である。ホテル客室の喫煙着臭の脱臭であれば、チェックイン可能な脱臭済みの客室数を限られた時間内に準備するため、1室当たりの脱臭操作を例えば20分間以内に完了する必要がある。目安として、二酸化塩素濃度のピーク値も20分間以内に現われることが必要となる。
【0061】
以上のような点から、容器14内の前記溶液の加熱温度は50℃から95℃の間で、容器14内の水分が約5分を超えかつ約20分未満の間に蒸発するように、すなわち反応が終了するように、加熱することが望ましい。
【0062】
悪臭防止法では、臭気の強度を人の官能試験によって次表のように分類している。
【0063】
表1 6段階臭気強度

【0064】
18mのシングルルームで1時間おきに1本のタバコを吸い、これを3回繰り返した(3時間で3本のたばこ煙の放出)後、ベッドカバーに染み付いた喫煙臭を表1に従って判定した結果、臭気強度は3であった。
【0065】
表2は、室温20℃、加熱温度60℃、相対湿度60%RHにおいて、二酸化塩素ピーク濃度が40ppb、60ppb、80ppb、100ppb、150ppbのそれぞれについて、亜塩素酸ナトリウム及びリンゴ酸の使用量を二酸化塩素濃度に比例して使用した場合の官能試験の結果である。
【0066】

【0067】
すなわち図2のグラフ中の60℃の加熱温度を示す特性線38dで示されている例では、140ppbのピーク濃度が得られたが、表2に示されているように、例えば、100ppbのピーク濃度を得るには、薬品使用量を5/7とする、つまり0.0196g(0.0275g×5/7)の亜塩素酸ナトリウムを4ccの蒸留水に溶解した亜塩素酸溶液26と、0.0786gのリンゴ酸粉末を4ccの蒸留水に溶解した酸性液28との混合液が用いられる。
【0068】
それぞれの濃度の持続時間は、図2の特性線38dの場合とほぼ一致した。この結果、臭気強度3の喫煙臭の脱臭には、少なくとも100ppb以上の値の二酸化塩素ガスピーク濃度が必要なことが明らかになった。
【0069】
さらに、二酸化塩素ガスピーク濃度が150ppbの場合について、表2を求めた場合と同等の喫煙着臭の脱臭効果を相対湿度%RHのみを変えて測定した結果を表3に示す。
【0070】

【0071】
表3によれば、相対湿度が50%RH未満の場合、臭気強度はせいぜい3から2に低下するに過ぎないが、相対湿度が50%RH以上では、臭気強度は3から1ないし3から0に低下した。
【0072】
さらに、香水の着臭について同様の脱臭効果の試験を行った。亜塩素酸ナトリウムとリンゴ酸の使用量を喫煙臭の着臭除去の場合の10倍とした。濃度の影響、湿度の影響を調べた結果、50%RH以上の相対湿度が望ましく、その場合、少なくとも1ppm以上の二酸化塩素ピーク濃度が必要なことが明らかになった。
【0073】
以上のことから、本発明の室内処理装置10を用いた処理方法では、少なくとも脱臭対象の部屋の相対湿度を50%RH以上に保持することが好ましい。
【0074】
図4は、ホテルの39mのシングルルームの喫煙脱臭についての実測した二酸化塩素ガス濃度と、経過時間との関係を示すグラフである。0.06gの亜塩素酸ナトリウムを3ccの蒸留水に溶融して形成された亜塩素酸溶液26と、0.18gのリンゴ酸粉末を3ccの蒸留水に溶融して形成された酸性液28が容器14に配置され、二酸化塩素ガスが発生された。室内の相対湿度は60%RHに保持され、この測定では、送風器16が作動された。また加熱手段24による加熱温度は70℃に設定された。
【0075】
図3によれば、15分後には、室内の二酸化塩素ガス濃度は、が100ppb未満となっている。このことから、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)による前記した加重平均濃度(TLV−TWA)では、100ppbが許容濃度として決められていることに鑑み、15分後には人が入室してもその安全性が補償されることが理解できよう。
【0076】
また、前記容器内の水分が蒸発により消失した後、前記室内空気を循環濾過する活性炭フィルタ付き送風器を作動させることにより、前記室内の二酸化塩素ガスを除去することが望ましい。これにより、より確実に残留二酸化塩素ガスによる健康への影響を排除することができる。
【0077】
図5は、ホテルの39mのシングルルームの香水脱臭について、図3のグラフから予想される二酸化塩素ガス濃度と、経過時間との関係を示すグラフである。このグラフによれば、処理開始から約18分後には、二酸化塩素ガス濃度が300ppb以下になる。したがって、処理開始から少なくとも20分以降であれば、TLV-STELの安全基準が満たされると考えられる
【0078】
前記したところでは、亜塩素酸ナトリウム粉末及び酸粉末の両者を計量した例について説明したが、亜塩素酸ナトリウム及び酸の各原液を用いることができる。この場合も、二酸化塩素ガスの容器内での局部濃度が10%を超えないように、両材料のいずれか一方を計量すれば、その計量された材料の消耗によって二酸化塩素ガスの発生反応が終了するので、本願発明の効果を達成することが可能となる。
【0079】
前記酸として、塩酸や硫酸を用いることができるが、前記したリンゴ酸の他、クエン酸、硝石酸、フマル酸、コハク酸、グルコン酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、フィチン酸、アスコルビン酸のような食品添加物として認められている食用酸あるいはこれらの混合物を用いることができる。これらの酸性液のpH値は、確実かつ迅速な反応を得る上で、3以下とすることが望ましい。
【0080】
前記したところでは、ステンレス スチールやアルミニウムの容器を用いた例について説明した。この金属製容器に代えて、非透水性処理が施された耐熱紙のような非透水性材料からなるカップ状容器を用いることができる。このカップ状容器は、菓子のベーキングなどに利用される素材であり、市場で容易に入手することができ、用済み後に廃棄するに便利である。また、前述の金属容器に内側に接して前記耐熱紙等を納めても良い。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、上記実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない限り、種々に変更することができる。
【符号の説明】
【0082】
10 室内処理装置
12 ハウジング
14 容器
16 送風器
16a 送風器の空気取り入れ口
16b 送風器の空気排出口
18 ハウジングの開口
20 棚
22 断熱板
24 加熱手段(電熱ヒータ)
26 亜塩素酸溶液
28 酸性液
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特開2006−290717号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜塩素酸ナトリウム及び酸の反応によって発生する二酸化塩素ガスを用いて室内を脱臭し又は室内の微生物を殺菌あるいは滅菌する室内処理方法であって、
開放容器内に配置されるべき亜塩素酸ナトリウム及び酸を含む溶液中の亜塩素酸ナトリウム及び酸の両者の少なくとも一方について、該両者の反応によって発生する二酸化塩素ガスの前記開放容器内における局部的濃度が10%を超えない量を計量すること、計量された前記一方を含む前記溶液を前記容器内に配置すること、該容器の外部から前記溶液を50℃から95℃の範囲で加熱し、これにより前記反応を促進し、該反応を所定時間内に終了させることを含む室内処理方法。
【請求項2】
前記亜塩素酸ナトリウムには、亜塩素酸ナトリウム水溶液が用いられ、前記酸として酸性液が用いられ、前記両液は混合液として前記容器内に供給され、前記亜塩素酸ナトリウム溶液は、該溶液中の亜塩素酸ナトリウムが、1.5mg×脱臭対象部屋容積m以上で10g未満の量に計量された亜塩素酸ナトリウム粉末を水で溶かした溶液である、請求項1に記載の室内処理方法。
【請求項3】
前記加熱手段の加熱により、前記容器内の溶液中の水分は、約5分を超えかつ約20分未満の間に蒸発する、請求項2に記載の室内処理方法。
【請求項4】
前記室内は密閉状態で相対湿度が約50%RH以上に保持された状態に維持される、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の室内処理方法。
【請求項5】
前記酸性液は、pH値が3以下の食用酸である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の室内処理方法。
【請求項6】
前記容器は、非透水性処理が施された耐熱紙又は金属で形成されたカップ状容器である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の室内処理方法。
【請求項7】
さらに、前記容器内の水分が蒸発により消失した後、前記室内空気を循環濾過する活性炭フィルタ付き送風器を作動させることにより、前記室内の二酸化塩素ガスを除去する、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の室内処理方法。
【請求項8】
亜塩素酸ナトリウム及び酸の反応によって発生する二酸化塩素ガスを用いて室内を脱臭し又は室内の微生物を殺菌あるいは滅菌する室内処理装置であって、
上端開放の容器と、
該容器内に配置されるべき溶液であって亜塩素酸ナトリウム及び酸を含み、該亜塩素酸ナトリウム及び酸の両者の少なくとも一方について、該両者の反応によって発生する二酸化塩素ガスの前記開放容器内における局部的濃度が10%を超えない量に計量された溶液と、
前記容器に配置され、前記溶液を50℃から95℃の範囲で加熱して前記容器内の水分を蒸発により消失させる加熱手段とを含み、該加熱手段により、前記反応が促進され該反応が所定の時間内に終了する、室内処理装置。
【請求項9】
さらに、前記加熱手段及び前記容器を収容するハウジングであって前記容器の開放端を雰囲気に露出させ、前記開放端の外周に空気噴出口が形成されたハウジングと、該ハウジング内に配置され前記空気噴出口から上方へ向けての空気流を生成する送風器とを含む、請求項8に記載の室内処理装置。
【請求項10】
前記送風器は、空気取り入れ口及び空気排出口を有し、前記空気取り入れ口は前記ハウジングの外方に開放し、前記空気排出口は、前記ハウジングの前記容器の下方で、該容器の外周を経て前記空気噴出口へ向けての空気流を生成すべく方向付けられている、請求項9に記載の室内処理装置。
【請求項11】
前記ハウジングには前記容器を載せる棚が設けられ、該棚と前記容器との間には断熱板が配置され、該断熱板と前記容器との間に前記加熱手段として電熱ヒータが配置されている、請求項10に記載の室内処理装置。
【請求項12】
前記送風器の空気排出口は前記棚の下方で該棚の下面に向けて開放する、請求項11に記載の室内処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−207539(P2010−207539A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60146(P2009−60146)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】