説明

室内履物

【課題】 見栄えが良く、製造効率に優れかつ加工精度にバラツキが生じ難い下面・周面表皮を備えた室内履物を提供する。
【解決手段】 室内履物1は、中物芯3を袋状表皮4で被覆してなる底2と、袋状表皮に縫着されたアッパー5とを備える。中底表皮41とともに袋状表皮を構成する下面・周面表皮42が、表皮材421とその上に積層された合成樹脂基材422とよりなりかつ周縁部にプレス成形によって形成された立上り部42Aを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内履物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の室内履物として、中物芯を袋状表皮で被覆してなる底と、袋状表皮に縫着されたアッパーとを備え、中物芯は、ヒール部の厚みがそれより前方部分の厚みよりも大きくなされており、袋状表皮が、中物芯の上面を覆う中底表皮と中物芯の下面および周面を覆う下面・周面表皮とを縫着することにより形成されているものが知られている。この室内履物において、下面・周面表皮は、通常、合成皮革等の表皮材よりなるが、中物芯の周面に沿わせるために、表皮材の数箇所にV形の切り込みを入れてその両縁を引き寄せて縦縫いすることによって周縁部が立ち上がるように形成されていた(例えば、下記の特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記の室内履物の場合、下面・周面表皮の周面部に縦の縫い目が現れるため、それによって見栄えが損なわれるという問題があった。また、上記の室内履物は、下面・周面表皮の周縁部の立上げ加工が縫製によって行われていたので、作業効率に劣る上、加工精度にバラツキが生じ易く、特に、前記縫い目の下端部が接地面まで達してしまうと該部分が使用に伴って擦り切れることがあり、また、同下端部が外方に膨らんでしまうと床面に傷が付き易いという問題があった。
【特許文献1】実公平3−13201号公報
【発明の開示】
【0004】
本発明の目的は、見栄えが良く、製造効率に優れかつ加工精度にバラツキが生じ難い下面・周面表皮を備えた室内履物を提供することにある。
【0005】
本発明による第1の室内履物は、中物芯を袋状表皮で被覆してなる底と、袋状表皮に縫着されたアッパーとを備え、中物芯は、ヒール部の厚みがそれより前方部分の厚みよりも大きくなされており、袋状表皮が、中物芯の上面を覆う中底表皮と中物芯の下面および周面を覆う下面・周面表皮とを縫着することにより形成されているものにおいて、下面・周面表皮が、表皮材とその上に積層された合成樹脂基材とよりなりかつ周縁部のうち少なくとも中底芯のヒール部に対応する部分にプレス成形によって形成された立上り部を有していることを特徴としている。
【0006】
上記第1の室内履物によれば、下面・周面表皮が表皮材と合成樹脂基材との積層体からなり、かつ該表皮の周縁部のうち少なくとも中底芯のヒール部に対応する部分にプレス成形により立上り部が形成されているので、下面・周面表皮の周面部には従来技術のような縦の縫い目は現れず、見栄えが良い上、製造効率に優れていて加工精度にバラツキが生じず、縫い目の下端部が擦り切れたり床面を傷付けるといった問題も起こらない。つまり、本発明によれば、工業製品のような優れた外観と品質を備えた室内履物が得られる。
【0007】
本発明による第1の室内履物において、中物芯が、中底芯と、中底芯の後部の下面に接合されかつ該下面と交差する方向にのびる前端面を有するヒール芯とよりなり、下面・周面表皮に、ヒール芯の前端面に沿う段差部がプレス成形によって形成されている場合がある。
【0008】
従来の同種の室内履物においては、底の下面がフラットになるものしか製造することができなかったが、本発明による第1の室内履物を上記のように構成した場合、底がその下面においてヒール部の前方に段差を有するものとなるので、それによってデザイン性が向上し、その製造も容易である。
【0009】
次に、本発明による第2の室内履物は、中物芯を袋状表皮で被覆してなる底と、袋状表皮に縫着されたアッパーとを備え、中物芯は、全体がほぼ同じ厚みを有するものとなされており、袋状表皮が、中物芯の上面を覆う中底表皮と中物芯の下面および周面を覆う下面・周面表皮とを縫着することにより形成されているものにおいて、下面・周面表皮が、表皮材とその上に積層された合成樹脂基材とよりなりかつ周縁部にプレス成形によって形成された立上り部を有していることを特徴としている。
【0010】
上記第2の室内履物によれば、下面・周面表皮が表皮材と合成樹脂基材との積層体からなりかつ該表皮の周縁部にプレス成形により立上り部が形成されているので、下面・周面表皮の周面部には従来技術のような縦の縫い目は現れず、見栄えが良い上、製造効率に優れていて加工精度にバラツキが生じず、縫い目の下端部が擦り切れたり床面を傷付けるといった問題も起こらない。
【0011】
本発明による第1または第2の室内履物において、下面・周面表皮が、その下面に、プレス成形によって形成された滑り止め用凹凸部を有している場合がある。
【0012】
従来の室内履物では、通常、下面・周面表皮の下面にこれとは別体の滑り止め部材を接着や縫着等により接合していたが、本発明による第1または第2の室内履物を上記のように構成した場合、滑り止め部材を用意する必要がなく、また、その形成も下面・周面表皮へのプレス成形によるものであるから簡単に実施し得る。
【0013】
本発明による第1または第2の室内履物において、好ましくは、下面・周面表皮が、表皮材の上にこれと略同形同大の熱可塑性樹脂シートよりなる合成樹脂基材を重ねて熱プレス成形することにより形成されている。
【0014】
下面・周面表皮を上記のように形成すれば、その作業が簡単であり、製造コストも抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態を図1〜5を参照して説明する。なお、これらの図は、本発明による室内履物のうち左足用のみを示したものである。
【0016】
図1〜4には、本発明の第1の実施形態が示されている。この実施形態の室内履物(1)は、中物芯(3)を袋状表皮(4)で被覆してなる底(2)と、袋状表皮(4)に縫着されたアッパー(5)とを備えている。
【0017】
中物芯(3)は、図3に示すように、中底芯(31)と、中底芯(31)の後部の下面に接合されかつ該下面と交差する方向にのびる前端面(321)を有するヒール芯(32)とよりなり、ヒール部(3A)の厚みがそれより前方部分(3B)の厚みよりも大きくなされている。
【0018】
中底芯(31)は、フェルト等よりなる基層(311)と、ウレタンフォーム等よりなりかつ基層(311)の上に積層されたクッション層(312)と、ニット生地等よりなりかつクッション層(312)の上面を覆う上皮層(313)とを備えている。クッション層(312)は、ヒール部において、その厚みがそれより前方部分の厚みよりも大きくなるように2層構造(312A)(312B)となされている。なお、中底芯(31)の構成および材料は、上記に限らず、その他の適宜のものを採用することもできる。
【0019】
ヒール芯(32)は、例えばEVA発泡体等の合成樹脂材や木質材によって形成されている。ヒール芯(32)の前端面(321)は、好適には、中底芯(31)後部下面に対して鋭角をなし、図2のものでは約20°となっている。
【0020】
なお、中物芯については、全体がほぼ同じ厚みを有するものとなされることもある。その場合、下面・周面表皮の周縁部に形成される立上り部の高さも、ほぼ一様なものとなされる。このような中物芯は、例えば図3の中物芯(3)からヒール芯(32)を除いたような構造とすることができる。
【0021】
袋状表皮(4)は、中物芯(3)の上面を覆う中底表皮(41)と、中物芯(3)の下面および周面を覆う下面・周面表皮(42)とを縫着することにより形成されている。
【0022】
中底表皮(41)は、合成皮革、皮革、布地等の表皮材によって形成されている。該表皮材には、クッション性を高めるためにウレタンフォーム等が裏打ちされていてもよい。
【0023】
下面・周面表皮(42)は、表皮材(421)とその上に積層された合成樹脂基材(422)とよりなり、その周縁部にプレス成形によって形成された立上り部(42A)を有している。この実施形態では、下面・周面表皮(42)は、表皮材(421)の上に熱可塑性樹脂シート(422)を重ねて熱プレス成形することにより形成されている。表皮材(421)としては、合成皮革、天然皮革、布、不織布等のシート状材料を用いることができる。表皮材(421)には、ウレタンフォーム等が裏打ちされていてもよい。熱可塑性樹脂シート(422)は、可撓性およびプレス成形性を有するものであればよく、例えばEVA等の熱可塑性樹脂の発泡シートを使用することができる。表皮材(421)として布、不織布または天然皮革が用いられる場合には、通常、表皮材(421)と熱可塑性樹脂シート(422)とを予め接着剤により接合しておいてから熱プレス成形される。また、表皮材(421)として合成皮革が用いられる場合、好適には、表皮材(421)に重ねられる熱可塑性樹脂シート(422)の面にホットメルト剤を塗布しておいてから、熱プレス成形が行われる。立上り部(42A)は、中底芯(3)のヒール部(3A)に対応する部分が高くなされ、前方部分(3B)に対応する部分が低くなされている。なお、前方部分(3B)の厚みが比較的薄いものであれば、これに対応する下面・周面表皮(42)の縁部に立上り部を形成しなくてよい場合がある。
【0024】
下面・周面表皮(42)には、ヒール芯の前端面(321)に沿う段差部(42B)がプレス成形によって形成されている。段差部(42B)は、図1および図4に示すように、下面・周面表皮(42)におけるヒール部の前端部分に、前方に向かって斜め上方にのびるように形成されている。この段差部(42B)の成形は、1回のプレス工程によって立上り部(42A)の成形と同時に行われる。
【0025】
下面・周面表皮(42)の下面には、そのヒール部および前方の屈曲部付近に、バックスキン状の合成皮革等よりなる滑り止め部材(61)(62)が縫着されている(図2参照)。なお、滑り止め部材は、下面・周面表皮(42)下面のヒール部のみに設けることもある。
【0026】
アッパー(5)は、図1および図2に示すように、足の甲全体を覆うタイプのものであって、その下縁部が袋状表皮(4)に糸等によって縫着されている。このアッパー(5)は、例えば、合成皮革、天然皮革、布等よりなる表皮材(51)と、メッシュ生地等より成る裏打ち材(52)と、ウレタンフォーム等よりなりかつ表皮材(51)と裏打ち材(52)との間に介在されるクッション材(53)とで構成される。なお、アッパーについては、爪先部が空くバンド状のものとすることも勿論可能である。
【0027】
次に、上記室内履物(1)の組立方法の一例を説明する。なお、構成部品である中物芯(3)、中底表皮(41)、下面・周面表皮(42)およびアッパー(5)については、上記の要領で予め作製しておく。
【0028】
まず、下面・周面表皮(42)の下面にアッパー(5)の上面を重ねて、これらの縁部を縫着した後、さらにその上に中底表皮(41)の上面を重ねて、両表皮(41)(42)の周縁部のうち前縁部を除いた部分を縫着することにより、袋状表皮(4)を形成する。両表皮(41)(42)の前縁部どうしの間は、中物芯挿入口となされる。なお、中物芯挿入口については、アッパーの形状等に応じて、両表皮の後縁部どうしの間または一方の側縁部(好適には、内側縁部)どうしの間に形成する場合もある。
【0029】
次に、中物芯挿入口を通じて袋状表皮(4)を表側にひっくり返す。この状態では、アッパー(5)は、下面・周面表皮(42)側に裏返ったままである。
【0030】
そして、中物芯挿入口から袋状表皮(4)内に中物芯(3)を挿入して、中物芯(3)上面の前端部を中底表皮(41)に接着し、さらに両者を縫着する。
【0031】
その後、アッパー(5)を中底表皮(41)側にひっくり返す。こうして、図1および図2に示す室内履物(1)が得られる。
【0032】
この実施形態の室内履物(1)にあっては、下面・周面表皮(42)の表面に縫い目等の継ぎ目が一切なく、また、下面・周面表皮(42)の接地面に、ヒール芯の前端面(321)に沿う段差部(42B)があるため、従来の室内履物では得られなかった高いデザイン性を有する外観形状を呈しており、また、下面・周面表皮(42)の製造が容易で高効率である上、加工精度にバラツキが生じず、縫い目の下端部が擦り切れたり、縫い目によって床面を傷付けるといった問題も全く起こらない。
【0033】
図5には、本発明の第2の実施形態が示されている。この実施形態の室内履物(11)では、下面・周面表皮(42)の下面におけるヒール部および前方の屈曲部付近に、プレス成形によって滑り止め用凹凸部(42C)(42D)が形成されている。凹凸部(42C)(42D)の平面形状は、例えば図5に示すようなものとなされるが、滑り止め効果が得られるものであれば特に限定はされない。凹凸部(42C)(42D)の成形は、1回のプレス工程によって、立上り部(42A)および段差部(42B)の成形と同時に行われる。なお、滑り止め用凹凸部は、下面・周面表皮(42)下面のヒール部のみに設けることもある。上記室内履物(11)のその他の構成は、第1の実施形態の室内履物(1)と同じである。
【0034】
第2の実施形態の室内履物(11)によれば、下面・周面表皮(42)の下面にプレス成形によって滑り止め用凹凸部(42C)(42D)が形成されているので、別途用意した滑り止め部材を下面・周面表皮(42)に接合する必要がなく、製造工程の数が減り、その分コストも抑えることができる。上記室内履物(11)のその他の効果は、第1の実施形態の室内履物(1)と同じである。
【0035】
なお、上記の各実施形態は例示にすぎず、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜に変更を加えた上で本発明を実施することも勿論可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る室内履物の上方斜視図である。
【図2】上記室内履物の垂直縦断面図である。
【図3】上記室内履物の中物芯の下方斜視図である。
【図4】上記室内履物の下面・周面表皮の上方斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る室内履物の下方斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
(1)(11):室内履物
(2):底
(3):中物芯
(3A):ヒール部
(3B):前方部分
(31):中底芯
(32):ヒール芯
(321):前端面
(4):袋状表皮
(41):中底表皮
(42):下面・周面表皮
(42A):立上り部
(42B):段差部
(42C)(42D):滑り止め用凹凸部
(421):表皮材
(422):合成樹脂基材
(5):アッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中物芯を袋状表皮で被覆してなる底と、袋状表皮に縫着されたアッパーとを備え、中物芯は、ヒール部の厚みがそれより前方部分の厚みよりも大きくなされており、袋状表皮が、中物芯の上面を覆う中底表皮と中物芯の下面および周面を覆う下面・周面表皮とを縫着することにより形成されている室内履物において、
下面・周面表皮が、表皮材とその上に積層された合成樹脂基材とよりなりかつ周縁部のうち少なくとも中物芯のヒール部に対応する部分にプレス成形によって形成された立上り部を有していることを特徴とする、室内履物。
【請求項2】
中物芯が、中底芯と、中底芯の後部の下面に接合されかつ該下面と交差する方向にのびる前端面を有するヒール芯とよりなり、下面・周面表皮に、ヒール芯の前端面に沿う段差部がプレス成形によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の室内履物。
【請求項3】
中物芯を袋状表皮で被覆してなる底と、袋状表皮に縫着されたアッパーとを備え、中物芯は、全体がほぼ同じ厚みを有するものとなされており、袋状表皮が、中物芯の上面を覆う中底表皮と中物芯の下面および周面を覆う下面・周面表皮とを縫着することにより形成されている室内履物において、
下面・周面表皮が、表皮材とその上に積層された合成樹脂基材とよりなりかつ周縁部にプレス成形によって形成された立上り部を有していることを特徴とする、室内履物。
【請求項4】
下面・周面表皮が、その下面に、プレス成形によって形成された滑り止め用凹凸部を有していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の室内履物。
【請求項5】
下面・周面表皮が、表皮材の上にこれと略同形同大の熱可塑性樹脂シートよりなる合成樹脂基材を重ねて熱プレス成形することにより形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の室内履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−296176(P2007−296176A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127439(P2006−127439)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【出願人】(591131349)株式会社パンジー (6)
【Fターム(参考)】