室内換気フィルタ及びその製造方法
【目的】本発明の目的は、動作特性である捕集率と圧力損失が、構造特性である繊維目付と繊維直径に対し求められた相関関係に基づき、フィルタの繊維目付と繊維直径を最適に設計した室内換気フィルタを提供することである。
【構成】本発明に係る室内換気フィルタは、繊維フィルタから形成され、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着され、吸気時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定される。
【構成】本発明に係る室内換気フィルタは、繊維フィルタから形成され、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着され、吸気時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着され、繊維フィルタから形成される室内換気フィルタに関し、更に詳細には、前記繊維フィルタの繊維目付と繊維直径が適切に設計され、その繊維素材をシート状に成形して製造される室内換気フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建材や家具、日用品などから発散するホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン等の揮発性有機化合物(VOC)が原因と考えられるシックハウス対策として、平成14年には建築基準法が改正されている(非特許文献1)。改正建築基準法(平成14年法律第85号)に基づくシックハウス対策では、ホルムアルデヒドに関する規制として、居室を有する全ての建築物に機械換気設備を設置することが原則義務付けられている。尚、上記の規制では、換気設備の技術的基準として、住宅等の居室の場合、換気回数が0.5回/h以上、住宅以外の居室では、0.3回/h以上の換気回数が必要とされる。
【0003】
上述の換気設備において、通常、外気を取り入れる吸気口には、外部からの塵埃の侵入を抑制するため、室内換気フィルタが配設されている。室内換気フィルタは、長繊維や短繊維をバインダ剤で相互に結着した不織布を所定形状に裁断した繊維フィルタから構成されており、各種の繊維フィルタが開発されている。前述のように、改正建築基準法に基づくシックハウス対策では、技術的基準を満足する換気設備の設置が原則義務付けられており、換気設備の設置する居室に応じて適切な換気設備の設計が求められる。従って、室内換気フィルタの動作特性を適宜に選択する必要性があり、繊維フィルタの動作特性として極めて重要な物性量である、塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPを適切に維持するため、繊維フィルタの構造特性である繊維目付Mとその繊維直径Dを設計することが求められる。
【0004】
従来の典型例である繊維フィルタとして、特開2003−236319公報(特許文献1)及び特開2002−248309公報(特許文献2)を列挙して、その内容と課題を以下に説明する。
特許文献1には、目付が10〜50g/m2、平均みかけ密度が0.2〜0.4g/cm3の合成繊維不織布Aの片面に、この不織布よりも平均みかけ密度が0.03〜0.2g/cm3の範囲で小さく、平均繊維径が10〜50μm、目付が10〜50g/m2の合成繊維不織布Bを1〜20g/m2のホットメルト系樹脂で接合して形成された室内換気フィルタが記載されている。また、特許文献1に記載される室内換気フィルタは、上記の構成により、平均みかけ密度が0.05〜0.4g/cm3、通気性が10cc/cm2/sec以上、最大開口径が100μm以下となることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、微粒子を捕集する不織布の表層と比較的大きな粒子を捕集する不織布の基布層からなり、この基布層に粒状の吸着剤が保持される空気清浄用フィルタが記載されている。また、この空気清浄用フィルタは、平均目付が150〜800g/m2、厚みが0.6〜2.5mm、粒状吸着剤充填量が25〜500g/m2、通気度が20〜300cc/cm2/sec、圧力損失が3mmAq以下に設定されることが記載されている。
【特許文献1】特開2003−236319公報
【特許文献2】特開2002−248309公報
【非特許文献1】国土交通省ホームページ内「建築基準法に基づくシックハウス対策について」(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/sickhouse.html)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2には、フィルタの目付、平均繊維径、厚み、通気度と共に、捕集率や圧力損失の測定結果が実施例として、6例又は2例、示されているが、捕集率や圧力損失をどのように実現するかについては全く記載されていない。更に、目付や平均繊径と圧力損失や捕集率の関係について系統的な測定が行われておらず、測定例が少ないため、特許文献1及び2からそれらの相関関係を類推することさえできない。換言すれば、意図的に捕集率や圧力損失を設定しているわけではなく、フィルタに関する測定値を列挙しているだけであり、フィルタ自体の設計理論や設計思想は全く見られない。平均目付、厚み、通気度、圧力損失の範囲を特定しているが、それぞれを独立に設定することは不可能であり、これらの物理量の相関関係が定量的に明らかとなって初めて自在に設定することが可能になる。尚、前記平均繊径は本発明の繊維直径に相当する概念であることを付記しておく。
【0007】
以上から分かるように、繊維フィルタの構造特性である目付と繊維直径をどのように設計するかという思想は、両文献には全く記載されていない。しかも、繊維フィルタの動作特性として、捕集率と圧力損失は極めて重要な物性量であるにも拘わらず、これらの動作特性と前記構造特性をどのように関連づけるかという思想に到っては両文献に示唆さえされていない。動作特性と構造特性の相関関係が不明な状態では、繊維フィルタの設計方針は存在しないに等しい。この設計方針の無存在状態は、前記2文献に限らず、繊維フィルタ関連の文献が有する現状を示している。前記相関関係に対する究明が無い限り、繊維フィルタの合理的設計における根本的解決は有り得ないのである。
【0008】
従って、本発明の目的は、動作特性である捕集率と圧力損失が、構造特性である繊維目付と繊維直径に対し求められた相関関係に基づき、フィルタの繊維目付と繊維直径を最適に設計した室内換気フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を達成するためになされたものであり、本発明の第1の形態は、繊維フィルタから形成され、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着される室内換気フィルタにおいて、吸気時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定される室内換気フィルタである。
【0010】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタである。
【0011】
本発明の第3の形態は、第1の形態において、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、この相関関係点列に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタである。
【0012】
本発明の第4の形態は、第1の形態において、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、前記相関関係点列に対し数学的関係式をフィットすることにより前記相関関係を相関関係式として導出し、この相関関係式に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタである。
【0013】
本発明の第5の形態は、第4の形態において、前記相関関係式を最小二乗法により導出する室内換気フィルタである。
【0014】
本発明の第6の形態は、第4又は5の形態において、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的に前記繊維目付M又は前記繊維直径Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる室内換気フィルタである。
【0015】
本発明の第7の形態は、第4又は5の形態において、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる室内換気フィルタである。
【0016】
本発明の第8の形態は、第1〜第7のいずれかの形態において、前記繊維フィルタに薬剤が担持され、この薬剤の効果が付与される室内換気フィルタである。
【0017】
本発明の第9の形態は、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dを設定し、この繊維素材をシート状に成形して、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着される室内換気フィルタを製造する室内換気フィルタ製造方法において、吸気時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、前記繊維目付Mと前記繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定される室内換気フィルタ製造方法である。
【0018】
本発明の第10の形態は、第9の形態において、前記相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタ製造方法である。
【0019】
本発明の第11の形態は、第9の形態において、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、この相関関係点列に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタ製造方法である。
【0020】
本発明の第12の形態は、第9の形態において、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、前記相関関係点列に対し数学的関係式をフィットすることにより前記相関関係を相関関係式として導出し、この相関関係式に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタ製造方法である。
【0021】
本発明の第13の形態は、第12の形態において、前記相関関係式を最小二乗法により導出する室内換気フィルタ製造方法である。
【0022】
本発明の第14の形態は、第12又は第13の形態において、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的に前記繊維目付M又は前記繊維直径Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる室内換気フィルタ製造方法である。
【0023】
本発明の第15の形態は、第12又は13の形態において、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる室内換気フィルタ製造方法である。
【0024】
本発明の第16の形態は、第9〜第15のいずれかの形態において、前記繊維フィルタに薬剤を担持して、この薬剤の効果を付与する室内換気フィルタ製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の第1の形態によれば、換気扇の動作時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定された繊維フィルタが提供される。例えば、所定の捕集率が70%以上、所定の圧力損失が50Pa以下とした場合には、前記相関関係により、繊維目付と繊維直径がある範囲で決定される。従来、経験と勘で場当たり的に決定されていた繊維目付と繊維直径を、本発明の設計理論に基づいて自動的に決定することが可能になり、繊維フィルタの構成に科学的設計思想を導入したものである。
【0026】
本発明の第2の形態によれば、第1形態の相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが最適に設定され、フィルタ動作特性及び構造特性上、高品質化された室内換気フィルタの提供が可能となる。本形態における前記相関関係は、例えば、第7形態における繊維目付M又は繊維直径Dの線形関係あるいは、第8形態におけるM/Dの1次関数の近似式で表現される。
【0027】
本発明の第3の形態によれば、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられるから、実験的相関関係点列に対し前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される。前記相関関係点列は実験的に決められた点列であり、換言すれば実験値を利用したフィルタ設計手法が実現できる。各繊維目付Mi(i=1〜m)と各繊維直径Dj(j=1〜n)に対して、捕集率Cijと圧力損失ΔPijの値を、それぞれ、m×n個、測定すれば、相関関係点列(Mi,Dj,Cij)と(Mi,Dj,ΔPij)が得られる。各点列を3次元空間(x,y,z)にプロットすると、空間点列が得られる。繊維目付Miがx軸、繊維直径Djがy軸、捕集率Cijと圧力損失ΔPijがz軸に対応する。この空間点列に対し、室内換気フィルタとして好適な捕集率C0及び圧力損失ΔP0を選択的に設定すると、Cij≧C0及びΔPij≦ΔP0の両者を満足する(Mi,Dj)の領域が決定される。即ち、(Mi,Dj)のそれぞれの上限値と下限値が導出される。この領域から所望の組(Mi,Dj)を選択して室内換気フィルタを作製すると、捕集率C及び圧力損失ΔPがCij≧C0及びΔPij≦ΔP0の両者を満足する性能を有することは明らかである。
【0028】
また、繊維目付Mと繊維直径Dのうち、いずれか一方の値を選択し、他方の上限値と下限値を特定すれば、選択した値の近傍を実験的に調べることで、捕集率C及び圧力損失ΔPがC≧C0及びΔP≦ΔP0の両者を満足する所望の組(Mi,Dj)を設定することができる。尚、本発明に係る室内換気フィルタにおいて、C0は70%以上、ΔP0は10〜50Paの範囲に設定することが求められ、少なくともC0=70%、ΔP0=50Paに設定することにより、製品として利用可能な性能を室内換気フィルタに付与することができる。
【0029】
本発明の第4の形態によれば、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、前記相関関係点列に対し数学的関係式をフィットすることにより前記相関関係を相関関係式として導出するから、数学的な演繹的処理方法を本発明の設計手法に導入できる。
数学的関係式として2変数関数を、捕集率C=f(M,D)及び圧力損失ΔP=g(M,D)として表記する。関数f及びgは数学的には任意に選択できる。これらの任意関数の中から、前記相関関係点列(Mi,Dj,Cij)に最適にフィットする捕集率C=f(M,D)を選択する。同様に、前記実験的相関関係点列(Mi,Dj,ΔPij)に最適にフィットする圧力損失ΔP=g(M,D)を選択する。この2変数関数に対し、好適な捕集率C0及び圧力損失ΔP0を選択的に設定し、C≧C0及びΔP≦ΔP0の両者を満足する(M,D)の領域を導出する。換言すれば、C=f(M,D)≧C0を満足する(M,D)の範囲と、及びΔP=g(M,D)≦ΔP0を満足する(M,D)の範囲を求め、二つの(M,D)の範囲が重なる領域が、求める(M,D)の領域になる。この(M,D)の領域から選ばれたC、ΔPを満足する室内換気フィルタを用いれば、換気により居室内を好適な状態に保持することができる。
【0030】
次に、一変数関数の処理法を説明する。前記点列(Mi,Dj,Cij)、点列(Mi,Dj,ΔPij)(for i=1〜m,j=1〜n)において、繊維目付Mと繊維直径Dのうち、いずれか一方の適当な値を選択すれば、C、ΔPをM又はDの一変数関数で近似することができる。例えば、Mkを選択した場合、一変数関数C=fMk(D)≧C0とΔP=gMk(D)≦P0を満足するDの上限値と下限値が決定されれば、その範囲から適当なDの値Dlを選択し、C=fDl(M)≧C0とΔP=gDl(M)≦P0から、Mの上限値と下限値を決定でき、さらに範囲を絞り込むことができる。従って、繊維目付Mと繊維直径Dのうち、いずれか一方の適当な値を選択することによって、より効率的に(M,D)の範囲を特定することができる。
【0031】
前記数学的関係式は、代数関数(有理関数又は無理関数)、指数関数、双曲線関数、対数関数、逆双曲線関数、三角関数、逆三角関数、有限三角級数、有限冪級数、代数関数の有限級数、三角関数を含む有限級数、双曲線関数を含む有限級数、ガンマ関数、楕円関数、超幾何関数、直交多項式、球関数、ベッセル関数、楕円体関数、その他の関数、又はそれらの組合せ関数から選択される。前述した実験的相関関係点列の形状に最も適合するように、前記関数を選択するだけでなく、複数の関数を組み合わせて設定することも可能である。
【0032】
本発明の第5の形態によれば、前記相関関係式を最小二乗法により導出するから、実験的に得られた相関関係点列に対し、最も接近した誤差の少ない相関関係式を導出でき、演繹的な数学的処理法を実現できる。2変数関数を使用する場合には、前記実験的相関関係点列(Mi,Dj,Cij)(for i=1〜m,j=1〜n)に最小二乗法を用いて最適にフィットするC=f(M,D)が導出できる。また、前記実験的相関関係点列、点列(Mi,Dj,ΔPij)(for i=1〜m,j=1〜n)に最小二乗法を用いて最適にフィットするΔP=g(M,D)を導出できる。C=f(M,D)とΔP=g(M,D)は、変数Mと変数Dの2変数関数であるから、多変量解析法による最小二乗法が適用できる。
実験的相関関係点列(Mi,Dj,Cij)及び(Mi,Dj,ΔPij)(for i=1〜m,j=1〜n)において、繊維目付Mと繊維直径Dのうち、いずれか一方の適当な値を選択し、CとΔPはM又はDの一変数関数で表されるから、一変量解析法による最小二乗法を用いて前記相関関係式を導出することができる。
【0033】
Mkを選択した場合、最小二乗法を用いて一変数関数の相関関係式C=fMk(D)、ΔP=gMk(D)を導出することができ、C=fMk(D)≧C0とΔP=gMk(D)≦ΔP0を満足するDの上限値と下限値が決定することができる。更に、その範囲から適当なDの値Dlを選択し、最小二乗法を用いて一変数関数の相関関係式C=fDl(M)とΔP=gDl(M)を導出し、Mの上限値と下限値を決定でき、さらに範囲を絞り込むことができる。
【0034】
最小二乗法で求める前記数学的関係式として、例えば、代数関数(有理関数又は無理関数)、指数関数、双曲線関数、対数関数、逆双曲線関数、三角関数、逆三角関数、有限三角級数、有限冪級数、代数関数の有限級数、三角関数を含む有限級数、双曲線関数を含む有限級数、ガンマ関数、楕円関数、超幾何関数、直交多項式、球関数、ベッセル関数、楕円体関数、その他の関数、又はそれらの組合せ関数が選択される。前述した実験的相関関係点列の形状に最も適合するように、前記関数を選択するだけでなく、複数の関数を組み合わせて設定することも可能である。
【0035】
有限冪級数の一例として、f(x)=akxk+・・・+a1x+a0のk次多項式を用いて、一変量解析法による最小二乗法の要領を説明する。最小二乗法で決定するパラメータ群は(ak,ak−1・・・a1,a0)である。このパラメータ群の初期値を(ak0,a(k−1)0・・・a10,a00)に設定し、フィットすべき実験的相関関係点列を(x1,f1)、(x2,f2)・・・(xn,fn)とする。最小二乗法の一般法に従って、相関関数行列を求めながら、前記実験的相関関係点列に最もフィットするパラメータ群(ak,ak−1・・・a1,a0)を反復収斂法により導出する。このとき、最も誤差の少ない前記k次多項式f(x)が得られる。数学的関係式は前記有限冪級数に限定されず、前述した一般関数を採用して、そのパラメータ群を自在に設定し、上述の処理手順に従って最小二乗法で決定することができる。多変量解析法により最小二乗法も数学的には完成しており、その定法に従えば、プログラム処理は容易に実施できる。数学的関係式の選択方法は、前記実験的相関関係点列(x1,f1)、(x2,f2)・・・(xn,fn)の曲線形に最も合致した関数を目視で選択することである。この選択が正しければ、プログラム処理は容易に収斂し、相関関係式を導出することができる。前記プログラムとして既存のプログラムソフトが使用でき、例えば
EXCEL、SAS、TSP、SPSS、FMK、NLRAna、WinSTAT、JSTAT、QueryMagicなどが利用でき、線形回帰分析や非線形回帰分析などが行える。中でも、EXCELに内蔵される最小二乗法ソフトは、初期値設定もプログラムの中で自動的に行われるから、簡易且つ有効なソフトであり、後述する実施例においても使用される。
【0036】
本発明の第6の形態によれば、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的に前記繊維目付M又は前記繊維直径Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いるから、フィルタ動作特性及び構造特性上、高品質化された室内換気フィルタが提供される。本形態における相関関係は、換気扇動作時における塵埃の捕集率C(%)及び繊維フィルタ前後の圧損ΔP(Pa)が、フィルタ設計範囲において、近似的に前記繊維目付M(g/m2)又は前記繊維直径D(μm)の1次関数で表現される。本発明におけるフィルタ設計範囲とは、フィルタとして通常に使用される設計量の範囲を意味し、例えば繊維目付M、繊維直径D、繊維種などの数値的・物性的範囲である。
【0037】
本発明者等は、フィルタの動作特性(C、ΔP)が構造特性(M、D)と直接的に関係しているはずであると判断し、その一般関係式として、C=f(M)、C=f(D)、ΔP=f(M)、ΔP=f(D)を設定した。fは一般関数を意味する。その関数関係を最も単純な線形関係(直線関係)に帰着させることにより、本発明を完成するに到ったものである。即ち、動作特性である捕集率C又は圧損ΔPが、構造特性である繊維目付M又は繊維直径Dと、近似的に直線関係にあることを仮定して実験したところ、その近似的直線関係を実験データから確認したものである。この近似的直線関係の発見により、構造特性であるMとDを指定すれば、前記直線関係を用いて、直ちに動作特性であるCとΔPが導出できる。逆に、動作特性であるCとΔPを指定すれば、構造特性であるMとDを導出することができる。関数関係が直線関係であるから、前記逆算が極めて単純化される特徴がある。このように、本発明では、フィルタの動作特性(C、ΔP)と構造特性(M、D)との間に近似的直線関係が成立していることを利用して、(C、ΔP)から(M、D)の導出、及び(M、D)から(C、ΔP)の導出が極めて簡単になる効果が発現する。
【0038】
繊維フィルタが有すべき塵埃の捕集率C(%)をC0(%)以上に設計し、同時に繊維フィルタ前後の圧損ΔP(Pa)をΔP0(Pa)以下に設計することによって、繊維フィルタの構造特性を最適値に設計できる。即ち、繊維フィルタの特性として、捕集率Cは所定以上の能力が必要であり、同時に圧損ΔPも所定以下であることが要請される。繊維フィルタを高性能化するには、臨界値C0をより大きく設計し、ΔP0を10〜50Paの範囲に設計することが重要になる。上述したように、動作特性(C、ΔP)から構造特性(M、D)を導出できるから、本形態によりCとΔPの臨界値C0及びΔP0を与えることによってMとDの臨界値M0及びD0を導出でき、繊維フィルタの構造特性を最適設計することが可能になる。
【0039】
本形態において、繊維フィルタの繊維目付Mを具体的に設計する処理手段の一例として、前記1次関数を近似的にC=aM+b、ΔP=cM+dと表現したとき、a>0且つc>0であるから、CとΔPはMに関して増加関数になる。従って、C≧C0の条件によりMの下限値Mminが導出され、ΔP≦ΔP0の条件によりMの上限値Mmaxが導出される。従って、C0及びΔP0を与えることにより、Mmin≦M≦Mmaxの範囲が自動的に導出され、この範囲から適切に繊維フィルタの繊維目付Mを設計することが可能になる。C0を大きくすればMminが大きくなり、ΔP0を小さくすればMmaxが小さくなり、Mmin≦M≦Mmaxの範囲が自動的に狭くなる。その結果、繊維目付Mを具体的に特定することが可能となる。
【0040】
本発明の第7の形態によれば、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いるから、フィルタ動作特性及び構造特性上、高品質化された室内換気フィルタが提供される。本発明者等は、フィルタの動作特性(C、ΔP)が構造特性(M、D)と直接的に関係しているはずであると判断し、別の解析を行った結果、MとDはM/Dと一体的に組み合わされ、M/Dを変数とするとの着想を得るに至った。その理由は以下のようである。質量Mが同一でも繊維直径Dが小さくなると、繊維表面積は大きくなるから、CやΔPは増加するはずである。また逆に、繊維直径Dが同一でも質量Mが大きくなると、繊維表面積は大きくなるから、CやΔPは増加するはずである。従って、CやΔPはM/Dを変数とし、その一般関係式として、C=f(M/D)、ΔP=f(M/D)を定立した。茲で、fは一般関数を意味し、その関数関係を最も単純な線形関係(直線関係)に帰着させることにより、本発明を完成するに到ったものである。しかも、本発明者等は前記関数関係を理論的に導出し、CやΔPがM/Dの1次関数になることを理論的に裏付け、この推論の正当性を確信するに至った。
【0041】
この理論を検証するため、動作特性である捕集率C又は圧損ΔPが、構造特性である繊維目付Mと繊維直径Dの組合せ変数M/Dと、近似的に直線関係にあることを仮定して実験したところ、その近似的直線関係を実験データから確認したものである。しかも、この近似的直線関係の発見は、構造特性であるMとDを指定すれば、前記直線関係を用いて、直ちに動作特性であるCとΔPが導出できる。逆に、動作特性であるCとΔPを指定すれば、直ちにM/Dを算出でき、構造特性M、Dを導出することが可能になる。関数関係が直線関係であるから、前記逆算が極めて単純化される特徴がある。このように、本発明では、フィルタの動作特性(C、ΔP)と構造組合特性M/Dとの間に近似的直線関係が成立していることを利用して、(C、ΔP)から(M、D)の導出、及び(M、D)から(C、ΔP)の導出が極めて簡単になる効果が発現する。
【0042】
本実施形態において、繊維フィルタの繊維目付Mを具体的に設計する場合は、Dが一定として、前記1次関数を近似的にC=aM+b、ΔP=cM+eと表現でき、前記第7形態と同様に、a>0且つc>0であるから、CとΔPはMに関して増加関数になる。従って、C≧C0の条件によりMの下限値Mminが導出され、ΔP≦ΔP0の条件によりMの上限値Mmaxが導出される。従って、C0及びΔP0を与えることにより、Mmin≦M≦Mmaxの範囲が自動的に導出され、この範囲から適切に繊維フィルタの繊維目付Mを設計することが可能になる。C0を大きくすればMminが大きくなり、ΔP0を小さくすればMmaxが小さくなり、Mmin≦M≦Mmaxの範囲が自動的に狭くなる。その結果、繊維目付Mを具体的に特定することができる。
【0043】
また、繊維フィルタの繊維直径Dを具体的に設計する処理手段の一例として、Mが一定で前記1次関数を近似的にC=q/D+u、ΔP=s/D+tと表現したとき、q>0且つs>0であるから、CとΔPはDに関して減少関数になる。従って、C≧C0の条件によりDの上限値Dmaxが導出され、ΔP≦ΔP0の条件によりDの下限値Dminが導出される。従って、C0及びΔP0を与えることにより、Dmin≦D≦Dmaxの範囲が自動的に導出され、この範囲から適切に繊維フィルタの繊維直径Dを設計することが可能になる。C0を大きくすればDmaxが小さくなり、ΔP0を小さくすればDminが大きくなり、Dmin≦D≦Dmaxの範囲が自動的に狭くなる。その結果、繊維直径Dを具体的に特定することができる。
【0044】
本発明の第8の形態によれば、前記繊維フィルタに薬剤が担持されるから、この薬剤の効果が付与され、捕集率の向上や有害物質の除去を行うことができる。前記薬剤として、吸着剤、抗菌剤、抗カビ剤、抗アレルゲン剤、NOx吸着剤、SOx吸着剤、表面硬化剤、着色剤、消臭剤などから選択される1種以上の薬剤を担持することができ、塵埃捕集率の向上と共に、塵埃に含まれる菌、カビ、アレルゲン物質の作用を低減化することができる。吸着剤としては、鉱物油・植物油・合成油・その他の油剤が利用できる。さらに、ポリエチレングリコール(PEG)やポリエチレンオキシド(PEO)等の高分子化合物(ポリエーテル)などを吸着剤に利用することができる。鉱物油として、パラフィン系・ナフテン系・芳香族炭化水素系・これらの混合物系があり、具体的には流動パラフィン・スピンドル油・マシン油・冷凍油・その他の石油系潤滑油が利用できる。合成油として、ポリオレフィン油・ポリグリコール油・ポリプラン油・アルキルベンゼン油・その他の合成油がある。更に、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート・テトラ(トリデシル)シリケートのようなケイ酸エステル油・スクアラン油・リン酸エステル油・シリコン油などを前記塵埃吸着剤として用いることができる。
【0045】
抗菌剤、防カビ剤としては、オルトフェニルフェノール・パラオキシ安息香酸エステル・パラオキシ安息香酸ブチルエステル・亜鉛ピリチオン・銅ピリチオン・ナトリウムピリチオン・亜鉛オマダイン(C10H8N2O2S2Zn)などがあり、カビや菌の増殖を抑制することができる。更に、抗アレルゲン剤を担持しても良く、天然物に含有される物質を利用すれば、人体に害を及ぼす可能性が低く、抗アレルゲン剤による人体への副作用等を低減ないし防止でき、好ましい。例えば、ツバキ科の茶、ウルシ科のヌルデ、ユリ科のハスナゲ、イネ科タケ亜科の竹や笹、モクセイ科オリーブ属のオリーブ、モクセイ科イボタノキ属のイボタ、ミヤマイボタ、オオバイボタ、サイコクイボタ、ネズミモチ、トウネズミモチなど、ハーブ(シソ科のローズマリーなど)などから抽出した成分が天然性抗アレルゲン剤として用いられ、生葉、果実又は葉や果実の乾燥粉末などから抗アレルゲン剤となる成分を抽出し、繊維フィルタに担持することができる。例えば、茶の場合、市販の緑茶用の茶葉からカテキン等の抗アレルゲン剤を抽出することができ、茶葉、オリーブ、ハーブ、竹、笹などは、人間が長年に亘り種々の目的に使用してきたものであり、人体への高い安全性が確保されている。
【0046】
本発明の第9〜第16の形態は、それぞれ、前記第1〜第8の形態の製法であり、第9〜第16の形態の製法により得られる室内換気フィルタの作用効果は、前記第1〜第8の形態と同一である。従って、第9〜第16の形態により製造される室内換気フィルタの作用効果に関しては、記載を省略する。
本発明の第9の形態では、前記相関関係から、第10の形態では、前記相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dの最適な範囲が導出され、所望の特性を有する室内換気フィルタを製造することができる。更に、本発明の第11の形態では、実験的に決定された前記相関関係点列から、第12の形態では、数学的関係式をフィットすることにより得られた相関関係式から、本発明の第13の形態では、最小二乗法により前記数学的関係式のフィッティングを行って導出された相関関係式から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dの上限値と下限値を決定し、所望の特性を有する室内換気フィルタを製造することができる。第14形態では、前記相関関係式が繊維目付M又は繊維直径Dの線形関係で、第15形態では、M/Dの1次関数の近似式で表現される。
【0047】
本発明の第16の形態によれば、前記繊維フィルタに薬剤を塗布又は浸漬させて担持することにより、製造時に薬剤の効果を本発明に係る室内換気フィルタに付与することができる。薬剤としては、吸着剤、抗菌剤、抗カビ剤、抗アレルゲン剤、NOx吸着剤、SOx吸着剤、表面硬化剤、着色剤、消臭剤などから選択される1種以上の薬剤を担持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
図1は、本実施形態に係る室内換気フィルタが吸気口1に設置された居室2の概略図である。居室2には換気扇3が設けられ、この換気扇3の運転時には、居室2内の空気が換気扇3から排気されると共に、外気が吸気口1に設置された室内換気フィルタを介して居室2内に取り入れられる。本発明の室内換気フィルタは、下記のように最適設計された繊維フィルタから形成される。前記最適設計とは、換気扇の運転時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、繊維目付M及び繊維直径Dを設定することを意味する。
【0049】
次に、上記室内換気フィルタについて塵埃捕集性能試験及び圧力損失(圧損)検査を行ったが、室内換気フィルタを形成する繊維フィルタは、前記動作特性因子と前記フィルタ構造特性因子の相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、繊維目付M及び繊維直径Dが設定されているため、良好な塵埃捕集性能と圧力損失性能を具備している。以下に、本実施形態における繊維目付M及び繊維直径Dの設定手法を詳細に説明する。
【0050】
[C又はΔPのM及びDに対する関数関係の理論的導出]
図2は繊維フィルタを形成する繊維の形状図である。図2では、繊維フィルタを形成する全ての繊維4が接続されて直線状に一本で表現されている。繊維半径r、繊維直径D(茲でD=2r)、繊維長Lとすると、繊維円断面積はπr2、繊維円周は2πr、繊維断面積AはA=2rL、繊維円断面積を無視すると繊維表面積SはS=2πrLで表される。
【0051】
繊維材料の質量密度をRで表すと、繊維目付MはM=πr2LRとなり、繊維目付Mが与えられたとき、繊維長LはL=M/(πr2R)と表現され、このLを用いて、前期繊維表面積Sと前記繊維断面積Aは次のようになる。
【0052】
S=2πrL=2M/(rR)=4M/(DR) (1)
A=2rL=2M/(πrR)=4M/(πDR) (2)
吸気中の塵埃の捕集率Cは、塵埃が繊維の外周表面に付着捕集されるから、繊維表面積Sに比例するはずであり、比例定数n及び比例定数k(=4n)を用いて以下のように与えられる。
【0053】
C=nS=n{4M/(DR)}=kM/(DR) (3)
従って、不定な切片を考慮すると、Cは理論的にM/Dの1次関数で表現されることが証明された。
【0054】
繊維フィルタの前後に発生する圧損ΔPは、直感的にフィルタを構成する繊維による遮蔽断面積、即ち前記繊維断面積Aに比例すると考えられる。つまり、比例係数をNとすると、ΔP=NAとなるが、この仮定式は後述の理論により証明される。従って、圧損ΔPは、比例定数N及び比例定数K(=4N/π)を用いて以下のように書き表される。
【0055】
ΔP=NA=N{4M/(πDR)}=KM/(DR) (4)
従って、不定な切片を考慮すると、ΔPも理論的にM/Dの1次関数で表現されることが証明された。
【0056】
繊維直径Dと繊維密度Rが与えられる場合には、式(3)と(4)から、以下のように、CとΔPは繊維目付Mの1次関数になることが分かる。
C=aM+b (a、b:定数) (5)
ΔP=cM+e (c、e:定数) (6)
同様に、繊維目付Mと繊維密度Rが与えられる場合には、式(3)と(4)から、以下のように、CとΔPは繊維直径Dの双曲線関数になることが分かる。
【0057】
C=q/D+u (q、u:定数) (7)
ΔP=s/D+t (s、t:定数) (8)
切片b、e、u、tは単純な前記理論式に切片だけの任意性を付加したものである。
【0058】
前述したΔP=NAを以下に証明しておく。この証明により、上記式群(4)〜(8)の正当性が裏付けられる。図3は圧損の理論式を導出する模式図である。S1は繊維フィルタのフィルタ面積、Aは前述した繊維断面積、S2(=S1−A)はフィルタの開口面積、P1は吸気圧力、P2は排気圧力、v1は吸気速度、v2は排気速度である。
【0059】
フィルタの前後では、連続の法則により、S1v1=S2v2が成立する。この連続則から以下の式が導出される。
【0060】
v1=S2v2/S1=(S1−A)v2/S1
=(1−A/S1)v2 (9)
他方、空気密度をYとすると、ベルヌーイの法則から、フィルタの前後で次式が成立する。
【0061】
P1+1/2Yv12=P2+1/2Yv22 (10)
P1>P2であるから、圧損ΔPはP1−P2で与えられる。式(10)と組み合わせると以下の式が得られる。
【0062】
ΔP=P1−P2=(1/2)Y(v22−v12) (11)
式(11)に式(9)を代入すると、次式になる。
【0063】
ΔP=(1/2)Yv22{1−(1−A/S1)2} (12)
A<<S1が成立するから、(1−A/S1)2は1−2A/S1となる。従って、式(12)は次式で与えられる。
【0064】
ΔP=Yv22A/S1 (13)
Yv22/S1=N(定数)とすると、最終的に次式が成立し、目的式が証明された。
【0065】
ΔP=NA (14)
以下の実施例は、捕集率C及び圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、その1次関数の相関関係から、繊維目付M又は繊維直径Dを設定するための上限値と下限値が導出される繊維フィルタ設計の場合である。尚、以下に示す実施例1〜8では、吸気口に取り込まれる外気の風速は、約1.5m/sに設定されている。
【0066】
[実施例1:C=aM+bの導出とMminの決定]
32.0μmの繊維直径を有した化学繊維(エステル)を用いて3種の繊維目付M(g/m2)を有した1層構造の平面状不織繊維フィルタを作製した。繊維目付M(g/m2)は、100、150、200の3種類である。以下では、塵埃としてJIS15種を吸気口から取り入れられる外気に混入させ、捕集率を測定している。捕集後の繊維フィルタの重量を測定し、捕集前の繊維フィルタの重量を差し引いて、捕集された塵埃重量を導出ている。その結果、繊維目付M(g/m2)が100、150、200に対して、捕集率C(%)は45.1、62.3、76.1になることが分かった。以上の実験から、捕集率C(%)と繊維目付M(g/m2)の座標点として、(M、C)=(100、45.1)、(150、62.3)、(200、76.1)の3点が得られた。
【0067】
図4は、縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした捕集率・繊維目付グラフである。前記3点の座標をプロットすると、ほぼ直線に乗ることが分かった。最小二乗法により回帰直線を決定すると、C=0.310M+14.6が得られた。本発明者等の経験から、塵埃の捕集率Cの臨界値C0は70%であることが要請されるから、上記直線式からM70=178(g/m2)が導出される。しかも、CはMに関して増加関数であるから、C≧C0の条件からM≧M70となり、M70はMの下限値Mminとなり、C0=70ではM≧Mmin=178(g/m2)が得られる。
【0068】
繊維フィルタの高効率化のためにC0を70%より増大化すると、Mminの数値も増加する。従って、M≧Mminの条件から、繊維目付M(g/m2)の特定化が容易になる。この効果は、CがMに対して増加関数であることに依存している。
【0069】
[実施例2:ΔP=cM+eの導出とMmaxの決定]
3種の繊維フィルタに関し、塵埃の捕集動作における圧損ΔP(Pa)を測定した。その結果、繊維目付M(g/m2)が100、150、200の順に、圧損ΔP(Pa)は19.6、30.4、40.2になることが分かった。以上の測定から、圧損ΔP(Pa)と繊維目付M(g/m2)の座標点として、(M、ΔP)=(100、19.6)、(150、30.4)、(200、40.2)の3点が得られた。
【0070】
図5は、縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした圧損・繊維目付グラフである。前記3点の座標をプロットすると、図4と同様に、ほぼ1次直線であることが分かった。最小二乗法による回帰直線は、ΔP=0.206M−0.833となる。外気が効率的にフィルタを貫通して流通するために、圧損ΔPの臨界値ΔP0は50Paであることが望ましいから、上記直線式からMΔP50=246(g/m2)が導出される。しかも、ΔPはMに関して増加関数であるから、ΔP≦ΔP0の条件からM≦MΔP50となり、MΔP50はMの上限値Mmaxとなり、ΔP0=50(Pa)ではM≦Mmax=246(g/m2)が得られる。
【0071】
繊維フィルタの高効率化のためにΔP0を50Paより減少させると、Mmaxの数値も減少する。従って、M≦Mmaxの条件から、繊維目付M(g/m2)の特定化が容易になる。この効果は、ΔPがMに対して増加関数であることに依存している。
【0072】
実施例1及び2から、捕集率Cと圧損ΔPが繊維目付Mの近似的増加直線であることが実験的に検証され、その結果、C≧C0とΔP≦ΔP0の条件から、Mmin≦M≦Mmaxが導出されることが分かった。一例として、C=0.310M+14.6及びΔP=0.206M−0.833に対し、C≧70(%)とΔP≦50(Pa)の条件を適用すると、178≦M(g/m2)≦246の範囲が導出できる。このMの範囲を更に絞り込むためには、臨界値C0を大きくし、臨界値ΔP0を小さくすればよい。C0とΔP0を可変に設定することにより、構造特性の一つである繊維目付Mの設計が可能になり、任意性を小さくしたMの設計が容易になることが証明された。
【0073】
[実施例3:C=q/D+uの導出とDmaxの決定]
200(g/m2)の繊維目付を有した繊維フィルタを3種の繊維直径D(μm)を有した化学繊維(エステル)により夫々形成して、3種類の1層構造式平面状不織繊維フィルタを作製した。この繊維フィルタは、1辺30cm及び厚さ8mmの矩形フィルタで、前記繊維直径D(μm)は26.8、32.0、39.4の3種類である。前記換気扇の駆動により、JIS15種含有空気を繊維フィルタに通過させ、室内換気フィルタにJIS15種(塵埃)を捕集させた。
【0074】
塵埃捕集後の繊維フィルタの重量を測定し、捕集前の繊維フィルタの重量を差し引いて、捕集された塵埃重量を導出し、塵埃の捕集率C(%)を算出した。その結果、繊維直径D(μm)が26.8、32.0、39.4に対して、捕集率C(%)は85.8、76.1、68.3になることが分かった。以上の実験から、捕集率C(%)と繊維直径D(μm)の座標点として、(D、C)=(26.8、85.8)、(32.0、76.1)、(39.4、68.3)の3点が得られた。
【0075】
図6は、縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維直径D(μm)とした捕集率・繊維直径グラフである。前記3点の座標をプロットすると、ほぼ双曲線に乗ることが分かった。最小二乗法により回帰双曲線を決定すると、C=1.48×103/D+30.2が得られた。前述したように、塵埃の捕集率Cの臨界値C0は70%であることが要請されるから、上記曲線式からD70=37.3(μm)が導出される。しかも、CはDに関して減少関数であるから、C≧C0の条件からD≦D70となり、D70はDの上限値Dmaxとなり、C0=70ではD≦Dmax=37.3(μm)が得られる。
【0076】
繊維フィルタの高効率化のためにC0を70%より増大化すると、Dmaxの数値は減少する。従って、D≦Dmaxの条件から、繊維直径D(μm)の特定化が容易になる。この効果は、CがDに対して減少関数であることに依存している。[実施例4:ΔP=s/D+tの導出とDminの決定]
3種の繊維フィルタに関し、捕集動作における圧損ΔP(Pa)を測定した。その結果、繊維直径D(μm)が26.8、32.0、39.2の順に、圧損ΔP(Pa)は59.8、40.2、31.4になることが分かった。以上の測定から、圧損ΔP(Pa)と繊維直径D(μm)の座標点として、(D、ΔP)=(26.8、59.8)、(32.0、40.2)、(39.2、31.4)の3点が得られた。
【0077】
図7は、縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維直径D(μm)とした圧損・繊維直径グラフである。前記3点の座標をプロットすると、図7と同様に、ほぼ双曲線であることが分かった。最小二乗法による回帰双曲線は、ΔP=2.41×103/D−31.8となる。塵埃を含有する空気が効率的にフィルタを貫通して流通するために、圧損ΔPの臨界値ΔP0は50Paであることが望ましいから、上記双曲線からDΔP50=29.5(μm)が導出される。しかも、ΔPはDに関して減少関数であるから、ΔP≦ΔP0の条件からD≧DΔP50となり、DΔP50はDの下限値Dminとなり、ΔP0=50(Pa)ではD≧Dmin=29.5(μm)が得られる。
【0078】
繊維フィルタの高効率化のためにΔP0を50Paより減少させると、Dminの数値は増加する。従って、D≧Dminの条件から、繊維直径D(μm)の特定化が容易になる。この効果は、ΔPがDに対して減少関数であることに依存している。
【0079】
実施例3及び4から、捕集率Cと圧損ΔPが繊維直径Dの近似的減少双曲線であることが実験的に検証され、その結果、C≧C0とΔP≦ΔP0の条件から、Dmin≦D≦Dmaxが導出されることが分かった。一例として、C=1.48×103/D+30.2及びΔP=2.41×103/D−31.8に対し、C≧70(%)とΔP≦50(Pa)の条件を適用すると、29.5≦D(μm)≦37.3の範囲が導出できる。このDの範囲を更に絞り込むためには、臨界値C0を大きくし、臨界値ΔP0を小さくすればよい。このように、具体的な関数式に対し、C0とΔP0を可変に設定することにより、構造特性の一つである繊維直径Dの設計が可能になり、任意性を小さくしたDの設計が容易になることが証明された。
【0080】
以下の実施例5〜8は、吸着剤を塗布した繊維フィルタを用いた結果である。尚、吸着剤が塗布されていること以外は、測定条件を同一に設定している。
[実施例5:C=aM+bの導出とMminの決定]
32.0μmの繊維直径を有した化学繊維(エステル)を用いて3種の繊維目付M(g/m2)を有した1層構造の平面状不織繊維フィルタに吸着剤を塗布して室内換気フィルタを作製した。繊維目付M(g/m2)は、100、150、200の3種類である。以下では、塵埃としてJIS15種を吸気口から取り入れられる外気に混入させ、捕集率を測定している。その結果、吸着剤有りの場合、繊維目付M(g/m2)が100、150、200に対して、捕集率C(%)は71.0、91.0、93.0になることが分かった。以上の実験から、捕集率C(%)と繊維目付M(g/m2)の座標点として、(M、C)=(100、71.0)、(150、91.0)、(200、93.0)の3点が得られた。
【0081】
図8は、縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした捕集率・繊維目付グラフである。前記3点の座標をプロットすると、ほぼ直線に乗り、最小二乗法により回帰直線を決定すると、C=0.24M+47.3が得られた。本発明者等の経験から、塵埃の捕集率Cの臨界値C0は70%であることが要請されるから、上記直線式からM70=94.6(g/m2)が導出される。しかも、CはMに関して増加関数であるから、C≧C0の条件からM≧M70となり、M70はMの下限値Mminとなり、C0=70ではM≧Mmin=94.6(g/m2)が得られる。
【0082】
[実施例6:ΔP=cM+eの導出とMmaxの決定]
実施例5の3種の繊維フィルタに関し、捕集動作における圧損ΔP(Pa)を測定した。その結果、繊維目付M(g/m2)が100、150、200の順に、圧損ΔP(Pa)は19.9、30.0、39.9になることが分かった。以上の測定から、圧損ΔP(Pa)と繊維目付M(g/m2)の座標点として、(M、ΔP)=(100、19.9)、(150、30.0)、(200、39.9)の3点が得られた。
【0083】
図9は、縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした圧損・繊維目付グラフである。前記3点の座標をプロットすると、図4と同様に、ほぼ1次直線であることが分かった。最小二乗法による回帰直線は、ΔP=0.199M+0.0247となる。外気が効率的にフィルタを貫通して流通するために、圧損ΔPの臨界値ΔP0は50Paであることが望ましいから、上記直線式からMΔP50=251(g/m2)が導出される。しかも、ΔPはMに関して増加関数であるから、ΔP≦ΔP0の条件からM≦MΔP50となり、MΔP50はMの上限値Mmaxとなり、ΔP0=50(Pa)ではM≦Mmax=251(g/m2)が得られる。
【0084】
実施例5及び6から、捕集率Cと圧損ΔPが繊維目付Mの近似的増加直線であることが実験的に検証され、その結果、C≧C0とΔP≦ΔP0の条件から、Mmin≦M≦Mmaxが導出されることが分かった。一例として、C=0.24M+47.3及びΔP=0.199M+0.0247に対し、C≧70(%)とΔP≦50(Pa)の条件を適用すると、94.6≦M(g/m2)≦251の範囲が導出できる。このMの範囲を更に絞り込むためには、臨界値C0を大きくし、臨界値ΔP0を小さくすればよい。C0とΔP0を可変に設定することにより、構造特性の一つである繊維目付Mの設計が可能になり、任意性を小さくしたMの設計が容易になることが証明された。
【0085】
[実施例7:C=q/D+uの導出とDmaxの決定]
150(g/m2)の繊維目付を有した繊維フィルタを3種の繊維直径D(μm)を有した化学繊維(エステル)により夫々形成した後、吸着剤を塗布して3種類の1層構造式平面状不織繊維フィルタを作製した。この繊維フィルタは、前記繊維直径D(μm)が26.8、32.0、39.4の3種類である。前記換気扇の駆動により、JIS15種含有空気を繊維フィルタに通過させ、室内換気フィルタにJIS15種(塵埃)を捕集させた。
【0086】
塵埃捕集後の繊維フィルタの重量を測定し、捕集前の繊維フィルタの重量を差し引いて、捕集された塵埃重量を導出し、塵埃の捕集率C(%)を算出した。その結果、繊維直径D(μm)が26.8、32.0、39.4に対して、捕集率C(%)は88.0、84.0、66.0になることが分かった。以上の実験から、捕集率C(%)と繊維直径D(μm)の座標点として、(D、C)=(26.8、88.0)、(32.0、84.0)、(39.4、66.0)の3点が得られた。
【0087】
図10は、縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維直径D(μm)とした捕集率・繊維直径グラフである。前記3点の座標をプロットすると、ほぼ双曲線に乗ることが分かった。最小二乗法により回帰双曲線を決定すると、C=1.85×103/D+21.4が得られた。前述したように、塵埃の捕集率Cの臨界値C0は70%であることが要請されるから、上記曲線式からD70=38.0(μm)が導出される。しかも、CはDに関して減少関数であるから、C≧C0の条件からD≦D70となり、D70はDの上限値Dmaxとなり、C0=70ではD≦Dmax=38.0(μm)が得られる。
[実施例8:ΔP=s/D+tの導出とDminの決定]
捕集動作における圧損ΔP(Pa)を測定した。その結果、繊維直径D(μm)が26.8、32.0、39.2の順に、圧損ΔP(Pa)は43.1、30.0、19.9になることが分かった。以上の測定から、圧損ΔP(Pa)と繊維直径D(μm)の座標点として、(D、ΔP)=(26.8、43.1)、(32.0、30.0)、(39.2、19.9)の3点が得られた。
【0088】
図11は、縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維直径D(μm)とした圧損・繊維直径グラフである。前記3点の座標をプロットすると、図7と同様に、ほぼ双曲線であることが分かった。最小二乗法による回帰双曲線は、ΔP=1.96×103/D−30.5となる。塵埃を含有する空気が効率的にフィルタを貫通して流通するために、圧損ΔPの臨界値ΔP0は50Paであることが望ましいから、上記双曲線からDΔP50=24.4(μm)が導出される。しかも、ΔPはDに関して減少関数であるから、ΔP≦ΔP0の条件からD≧DΔP50となり、DΔP50はDの下限値Dminとなり、ΔP0=50(Pa)ではD≧Dmin=24.4(μm)が得られる。
【0089】
吸着剤が塗布された場合において、実施例7及び8から、捕集率Cと圧損ΔPが繊維直径Dの近似的減少双曲線であることが実験的に検証され、その結果、C≧C0とΔP≦ΔP0の条件から、Dmin≦D≦Dmaxが導出されることが分かった。一例として、C=1.85×103/D+21.4及びΔP=1.96×103/D−30.5に対し、C≧70(%)とΔP≦50(Pa)の条件を適用すると、24.4≦D(μm)≦38.0の範囲が導出できる。このDの範囲を更に絞り込むためには、臨界値C0を大きくし、臨界値ΔP0を小さくすればよい。このように、具体的な関数式に対し、C0とΔP0を可変に設定することにより、構造特性の一つである繊維直径Dの設計が可能になり、任意性を小さくしたDの設計が容易になることが証明された。
【0090】
【表1】
【0091】
表1は、異なる風速に対する各繊維フィルタの圧力損失を示している。図12〜図14には、表1の値をプロットし、繊維直径毎に3種類の繊維フィルタに対する圧力損失ΔPの風速依存性を示している。即ち、繊維直径Dが同一であり、繊維目付M(g/m2)が100、150、200の場合を各図面に示している。図12〜14に示すように、測定した風速範囲において、定性的には、風速の増大に伴って圧力損失ΔPが略線形に増加しており、比較的単純な依存性を示している。前述のように、圧力損失ΔPは、50(Pa)以下であることが要求され、図12〜図14には、ΔP=50(Pa)のラインを破線で示している。また、各繊維目付に対する圧損ΔPの風速依存性を線形関数をフィッティングしている。
【0092】
図12に示すように、風速及び繊維目付の増加に伴って、圧力損失ΔPは増加しており、例えば、風速が2.0m/sの場合、ΔPが50(Pa)以下となる条件を満たす測定データは、繊維目付けが100g/m2のときだけになっている。前述のように、圧力損失ΔPの風速依存性は、図中の範囲において、線形関数で近似可能であるから、各風速に対してΔPが50(Pa)以下となる繊維目付M及び繊維直径Dの条件を図12〜図14より容易に類推することができる。即ち、図12〜図14によれば、風速が異なる場合の繊維直径Dと繊維目付M(g/m2)の値が満たすべき条件を決定することができる。
【0093】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明では、フィルタの動作特性(捕集率C、圧損ΔP)と構造特性(繊維目付M、繊維直径D)との間に近似的直線関係が成立していることを利用して、(C、ΔP)から(M、D)の導出、及び(M、D)から(C、ΔP)の導出が極めて簡単になる効果がある。従って、業務用及び家庭用の繊維フィルタの設計が極めて容易になり、科学工学的設計手法を初めて系統的に導入した繊維フィルタを社会及び家庭に提供することができる。これにより、塵埃の捕集率C(%)をC0(%)以上に設計し、同時に繊維フィルタ前後の圧損ΔP(Pa)をΔP0(Pa)以下に設計することによって、繊維フィルタからなる室内換気フィルタの構造特性を最適設計でき、改正建築基準法に適応した換気設備を比較的簡易に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係る室内換気フィルタを用いた居室用換気設備の概略図である。
【図2】前記繊維フィルタを形成する繊維の形状図である。
【図3】圧損の理論式を導出する模式図である。
【図4】縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした本実施例の捕集率・繊維目付グラフである。
【図5】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした本実施例の圧損・繊維目付グラフである。
【図6】縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維直径D(μm)とした本実施例の捕集率・繊維直径グラフである。
【図7】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維直径D(μm)とした本実施例の圧損・繊維直径グラフである。
【図8】縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした本実施例(吸着剤を塗布した場合)の捕集率・繊維目付グラフである。
【図9】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした本実施例(吸着剤を塗布した場合)の圧損・繊維目付グラフである。
【図10】縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維直径D(μm)とした本実施例(吸着剤を塗布した場合)の捕集率・繊維直径グラフである。
【図11】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維直径D(μm)とした本実施例(吸着剤を塗布した場合)の圧損・繊維直径グラフである。
【図12】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を風速(m/s)とした本実施例の圧損・風速グラフである。
【図13】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を風速(m/s)とした本実施例の圧損・風速グラフである。
【図14】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を風速(m/s)とした本実施例の圧損・風速グラフである。
【符号の説明】
【0096】
1 吸気口
2 居室
3 換気扇
4 繊維
A 繊維断面積
D 繊維直径
L 繊維長
P1 吸気圧力
P2 排気圧力
r 繊維半径
S1 フィルタ面積
S2 フィルタ開口面積
v1 吸気速度
v2 排気速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着され、繊維フィルタから形成される室内換気フィルタに関し、更に詳細には、前記繊維フィルタの繊維目付と繊維直径が適切に設計され、その繊維素材をシート状に成形して製造される室内換気フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建材や家具、日用品などから発散するホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン等の揮発性有機化合物(VOC)が原因と考えられるシックハウス対策として、平成14年には建築基準法が改正されている(非特許文献1)。改正建築基準法(平成14年法律第85号)に基づくシックハウス対策では、ホルムアルデヒドに関する規制として、居室を有する全ての建築物に機械換気設備を設置することが原則義務付けられている。尚、上記の規制では、換気設備の技術的基準として、住宅等の居室の場合、換気回数が0.5回/h以上、住宅以外の居室では、0.3回/h以上の換気回数が必要とされる。
【0003】
上述の換気設備において、通常、外気を取り入れる吸気口には、外部からの塵埃の侵入を抑制するため、室内換気フィルタが配設されている。室内換気フィルタは、長繊維や短繊維をバインダ剤で相互に結着した不織布を所定形状に裁断した繊維フィルタから構成されており、各種の繊維フィルタが開発されている。前述のように、改正建築基準法に基づくシックハウス対策では、技術的基準を満足する換気設備の設置が原則義務付けられており、換気設備の設置する居室に応じて適切な換気設備の設計が求められる。従って、室内換気フィルタの動作特性を適宜に選択する必要性があり、繊維フィルタの動作特性として極めて重要な物性量である、塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPを適切に維持するため、繊維フィルタの構造特性である繊維目付Mとその繊維直径Dを設計することが求められる。
【0004】
従来の典型例である繊維フィルタとして、特開2003−236319公報(特許文献1)及び特開2002−248309公報(特許文献2)を列挙して、その内容と課題を以下に説明する。
特許文献1には、目付が10〜50g/m2、平均みかけ密度が0.2〜0.4g/cm3の合成繊維不織布Aの片面に、この不織布よりも平均みかけ密度が0.03〜0.2g/cm3の範囲で小さく、平均繊維径が10〜50μm、目付が10〜50g/m2の合成繊維不織布Bを1〜20g/m2のホットメルト系樹脂で接合して形成された室内換気フィルタが記載されている。また、特許文献1に記載される室内換気フィルタは、上記の構成により、平均みかけ密度が0.05〜0.4g/cm3、通気性が10cc/cm2/sec以上、最大開口径が100μm以下となることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、微粒子を捕集する不織布の表層と比較的大きな粒子を捕集する不織布の基布層からなり、この基布層に粒状の吸着剤が保持される空気清浄用フィルタが記載されている。また、この空気清浄用フィルタは、平均目付が150〜800g/m2、厚みが0.6〜2.5mm、粒状吸着剤充填量が25〜500g/m2、通気度が20〜300cc/cm2/sec、圧力損失が3mmAq以下に設定されることが記載されている。
【特許文献1】特開2003−236319公報
【特許文献2】特開2002−248309公報
【非特許文献1】国土交通省ホームページ内「建築基準法に基づくシックハウス対策について」(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/sickhouse.html)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2には、フィルタの目付、平均繊維径、厚み、通気度と共に、捕集率や圧力損失の測定結果が実施例として、6例又は2例、示されているが、捕集率や圧力損失をどのように実現するかについては全く記載されていない。更に、目付や平均繊径と圧力損失や捕集率の関係について系統的な測定が行われておらず、測定例が少ないため、特許文献1及び2からそれらの相関関係を類推することさえできない。換言すれば、意図的に捕集率や圧力損失を設定しているわけではなく、フィルタに関する測定値を列挙しているだけであり、フィルタ自体の設計理論や設計思想は全く見られない。平均目付、厚み、通気度、圧力損失の範囲を特定しているが、それぞれを独立に設定することは不可能であり、これらの物理量の相関関係が定量的に明らかとなって初めて自在に設定することが可能になる。尚、前記平均繊径は本発明の繊維直径に相当する概念であることを付記しておく。
【0007】
以上から分かるように、繊維フィルタの構造特性である目付と繊維直径をどのように設計するかという思想は、両文献には全く記載されていない。しかも、繊維フィルタの動作特性として、捕集率と圧力損失は極めて重要な物性量であるにも拘わらず、これらの動作特性と前記構造特性をどのように関連づけるかという思想に到っては両文献に示唆さえされていない。動作特性と構造特性の相関関係が不明な状態では、繊維フィルタの設計方針は存在しないに等しい。この設計方針の無存在状態は、前記2文献に限らず、繊維フィルタ関連の文献が有する現状を示している。前記相関関係に対する究明が無い限り、繊維フィルタの合理的設計における根本的解決は有り得ないのである。
【0008】
従って、本発明の目的は、動作特性である捕集率と圧力損失が、構造特性である繊維目付と繊維直径に対し求められた相関関係に基づき、フィルタの繊維目付と繊維直径を最適に設計した室内換気フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を達成するためになされたものであり、本発明の第1の形態は、繊維フィルタから形成され、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着される室内換気フィルタにおいて、吸気時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定される室内換気フィルタである。
【0010】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタである。
【0011】
本発明の第3の形態は、第1の形態において、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、この相関関係点列に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタである。
【0012】
本発明の第4の形態は、第1の形態において、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、前記相関関係点列に対し数学的関係式をフィットすることにより前記相関関係を相関関係式として導出し、この相関関係式に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタである。
【0013】
本発明の第5の形態は、第4の形態において、前記相関関係式を最小二乗法により導出する室内換気フィルタである。
【0014】
本発明の第6の形態は、第4又は5の形態において、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的に前記繊維目付M又は前記繊維直径Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる室内換気フィルタである。
【0015】
本発明の第7の形態は、第4又は5の形態において、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる室内換気フィルタである。
【0016】
本発明の第8の形態は、第1〜第7のいずれかの形態において、前記繊維フィルタに薬剤が担持され、この薬剤の効果が付与される室内換気フィルタである。
【0017】
本発明の第9の形態は、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dを設定し、この繊維素材をシート状に成形して、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着される室内換気フィルタを製造する室内換気フィルタ製造方法において、吸気時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、前記繊維目付Mと前記繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定される室内換気フィルタ製造方法である。
【0018】
本発明の第10の形態は、第9の形態において、前記相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタ製造方法である。
【0019】
本発明の第11の形態は、第9の形態において、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、この相関関係点列に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタ製造方法である。
【0020】
本発明の第12の形態は、第9の形態において、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、前記相関関係点列に対し数学的関係式をフィットすることにより前記相関関係を相関関係式として導出し、この相関関係式に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される室内換気フィルタ製造方法である。
【0021】
本発明の第13の形態は、第12の形態において、前記相関関係式を最小二乗法により導出する室内換気フィルタ製造方法である。
【0022】
本発明の第14の形態は、第12又は第13の形態において、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的に前記繊維目付M又は前記繊維直径Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる室内換気フィルタ製造方法である。
【0023】
本発明の第15の形態は、第12又は13の形態において、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる室内換気フィルタ製造方法である。
【0024】
本発明の第16の形態は、第9〜第15のいずれかの形態において、前記繊維フィルタに薬剤を担持して、この薬剤の効果を付与する室内換気フィルタ製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の第1の形態によれば、換気扇の動作時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定された繊維フィルタが提供される。例えば、所定の捕集率が70%以上、所定の圧力損失が50Pa以下とした場合には、前記相関関係により、繊維目付と繊維直径がある範囲で決定される。従来、経験と勘で場当たり的に決定されていた繊維目付と繊維直径を、本発明の設計理論に基づいて自動的に決定することが可能になり、繊維フィルタの構成に科学的設計思想を導入したものである。
【0026】
本発明の第2の形態によれば、第1形態の相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが最適に設定され、フィルタ動作特性及び構造特性上、高品質化された室内換気フィルタの提供が可能となる。本形態における前記相関関係は、例えば、第7形態における繊維目付M又は繊維直径Dの線形関係あるいは、第8形態におけるM/Dの1次関数の近似式で表現される。
【0027】
本発明の第3の形態によれば、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられるから、実験的相関関係点列に対し前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される。前記相関関係点列は実験的に決められた点列であり、換言すれば実験値を利用したフィルタ設計手法が実現できる。各繊維目付Mi(i=1〜m)と各繊維直径Dj(j=1〜n)に対して、捕集率Cijと圧力損失ΔPijの値を、それぞれ、m×n個、測定すれば、相関関係点列(Mi,Dj,Cij)と(Mi,Dj,ΔPij)が得られる。各点列を3次元空間(x,y,z)にプロットすると、空間点列が得られる。繊維目付Miがx軸、繊維直径Djがy軸、捕集率Cijと圧力損失ΔPijがz軸に対応する。この空間点列に対し、室内換気フィルタとして好適な捕集率C0及び圧力損失ΔP0を選択的に設定すると、Cij≧C0及びΔPij≦ΔP0の両者を満足する(Mi,Dj)の領域が決定される。即ち、(Mi,Dj)のそれぞれの上限値と下限値が導出される。この領域から所望の組(Mi,Dj)を選択して室内換気フィルタを作製すると、捕集率C及び圧力損失ΔPがCij≧C0及びΔPij≦ΔP0の両者を満足する性能を有することは明らかである。
【0028】
また、繊維目付Mと繊維直径Dのうち、いずれか一方の値を選択し、他方の上限値と下限値を特定すれば、選択した値の近傍を実験的に調べることで、捕集率C及び圧力損失ΔPがC≧C0及びΔP≦ΔP0の両者を満足する所望の組(Mi,Dj)を設定することができる。尚、本発明に係る室内換気フィルタにおいて、C0は70%以上、ΔP0は10〜50Paの範囲に設定することが求められ、少なくともC0=70%、ΔP0=50Paに設定することにより、製品として利用可能な性能を室内換気フィルタに付与することができる。
【0029】
本発明の第4の形態によれば、前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、前記相関関係点列に対し数学的関係式をフィットすることにより前記相関関係を相関関係式として導出するから、数学的な演繹的処理方法を本発明の設計手法に導入できる。
数学的関係式として2変数関数を、捕集率C=f(M,D)及び圧力損失ΔP=g(M,D)として表記する。関数f及びgは数学的には任意に選択できる。これらの任意関数の中から、前記相関関係点列(Mi,Dj,Cij)に最適にフィットする捕集率C=f(M,D)を選択する。同様に、前記実験的相関関係点列(Mi,Dj,ΔPij)に最適にフィットする圧力損失ΔP=g(M,D)を選択する。この2変数関数に対し、好適な捕集率C0及び圧力損失ΔP0を選択的に設定し、C≧C0及びΔP≦ΔP0の両者を満足する(M,D)の領域を導出する。換言すれば、C=f(M,D)≧C0を満足する(M,D)の範囲と、及びΔP=g(M,D)≦ΔP0を満足する(M,D)の範囲を求め、二つの(M,D)の範囲が重なる領域が、求める(M,D)の領域になる。この(M,D)の領域から選ばれたC、ΔPを満足する室内換気フィルタを用いれば、換気により居室内を好適な状態に保持することができる。
【0030】
次に、一変数関数の処理法を説明する。前記点列(Mi,Dj,Cij)、点列(Mi,Dj,ΔPij)(for i=1〜m,j=1〜n)において、繊維目付Mと繊維直径Dのうち、いずれか一方の適当な値を選択すれば、C、ΔPをM又はDの一変数関数で近似することができる。例えば、Mkを選択した場合、一変数関数C=fMk(D)≧C0とΔP=gMk(D)≦P0を満足するDの上限値と下限値が決定されれば、その範囲から適当なDの値Dlを選択し、C=fDl(M)≧C0とΔP=gDl(M)≦P0から、Mの上限値と下限値を決定でき、さらに範囲を絞り込むことができる。従って、繊維目付Mと繊維直径Dのうち、いずれか一方の適当な値を選択することによって、より効率的に(M,D)の範囲を特定することができる。
【0031】
前記数学的関係式は、代数関数(有理関数又は無理関数)、指数関数、双曲線関数、対数関数、逆双曲線関数、三角関数、逆三角関数、有限三角級数、有限冪級数、代数関数の有限級数、三角関数を含む有限級数、双曲線関数を含む有限級数、ガンマ関数、楕円関数、超幾何関数、直交多項式、球関数、ベッセル関数、楕円体関数、その他の関数、又はそれらの組合せ関数から選択される。前述した実験的相関関係点列の形状に最も適合するように、前記関数を選択するだけでなく、複数の関数を組み合わせて設定することも可能である。
【0032】
本発明の第5の形態によれば、前記相関関係式を最小二乗法により導出するから、実験的に得られた相関関係点列に対し、最も接近した誤差の少ない相関関係式を導出でき、演繹的な数学的処理法を実現できる。2変数関数を使用する場合には、前記実験的相関関係点列(Mi,Dj,Cij)(for i=1〜m,j=1〜n)に最小二乗法を用いて最適にフィットするC=f(M,D)が導出できる。また、前記実験的相関関係点列、点列(Mi,Dj,ΔPij)(for i=1〜m,j=1〜n)に最小二乗法を用いて最適にフィットするΔP=g(M,D)を導出できる。C=f(M,D)とΔP=g(M,D)は、変数Mと変数Dの2変数関数であるから、多変量解析法による最小二乗法が適用できる。
実験的相関関係点列(Mi,Dj,Cij)及び(Mi,Dj,ΔPij)(for i=1〜m,j=1〜n)において、繊維目付Mと繊維直径Dのうち、いずれか一方の適当な値を選択し、CとΔPはM又はDの一変数関数で表されるから、一変量解析法による最小二乗法を用いて前記相関関係式を導出することができる。
【0033】
Mkを選択した場合、最小二乗法を用いて一変数関数の相関関係式C=fMk(D)、ΔP=gMk(D)を導出することができ、C=fMk(D)≧C0とΔP=gMk(D)≦ΔP0を満足するDの上限値と下限値が決定することができる。更に、その範囲から適当なDの値Dlを選択し、最小二乗法を用いて一変数関数の相関関係式C=fDl(M)とΔP=gDl(M)を導出し、Mの上限値と下限値を決定でき、さらに範囲を絞り込むことができる。
【0034】
最小二乗法で求める前記数学的関係式として、例えば、代数関数(有理関数又は無理関数)、指数関数、双曲線関数、対数関数、逆双曲線関数、三角関数、逆三角関数、有限三角級数、有限冪級数、代数関数の有限級数、三角関数を含む有限級数、双曲線関数を含む有限級数、ガンマ関数、楕円関数、超幾何関数、直交多項式、球関数、ベッセル関数、楕円体関数、その他の関数、又はそれらの組合せ関数が選択される。前述した実験的相関関係点列の形状に最も適合するように、前記関数を選択するだけでなく、複数の関数を組み合わせて設定することも可能である。
【0035】
有限冪級数の一例として、f(x)=akxk+・・・+a1x+a0のk次多項式を用いて、一変量解析法による最小二乗法の要領を説明する。最小二乗法で決定するパラメータ群は(ak,ak−1・・・a1,a0)である。このパラメータ群の初期値を(ak0,a(k−1)0・・・a10,a00)に設定し、フィットすべき実験的相関関係点列を(x1,f1)、(x2,f2)・・・(xn,fn)とする。最小二乗法の一般法に従って、相関関数行列を求めながら、前記実験的相関関係点列に最もフィットするパラメータ群(ak,ak−1・・・a1,a0)を反復収斂法により導出する。このとき、最も誤差の少ない前記k次多項式f(x)が得られる。数学的関係式は前記有限冪級数に限定されず、前述した一般関数を採用して、そのパラメータ群を自在に設定し、上述の処理手順に従って最小二乗法で決定することができる。多変量解析法により最小二乗法も数学的には完成しており、その定法に従えば、プログラム処理は容易に実施できる。数学的関係式の選択方法は、前記実験的相関関係点列(x1,f1)、(x2,f2)・・・(xn,fn)の曲線形に最も合致した関数を目視で選択することである。この選択が正しければ、プログラム処理は容易に収斂し、相関関係式を導出することができる。前記プログラムとして既存のプログラムソフトが使用でき、例えば
EXCEL、SAS、TSP、SPSS、FMK、NLRAna、WinSTAT、JSTAT、QueryMagicなどが利用でき、線形回帰分析や非線形回帰分析などが行える。中でも、EXCELに内蔵される最小二乗法ソフトは、初期値設定もプログラムの中で自動的に行われるから、簡易且つ有効なソフトであり、後述する実施例においても使用される。
【0036】
本発明の第6の形態によれば、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的に前記繊維目付M又は前記繊維直径Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いるから、フィルタ動作特性及び構造特性上、高品質化された室内換気フィルタが提供される。本形態における相関関係は、換気扇動作時における塵埃の捕集率C(%)及び繊維フィルタ前後の圧損ΔP(Pa)が、フィルタ設計範囲において、近似的に前記繊維目付M(g/m2)又は前記繊維直径D(μm)の1次関数で表現される。本発明におけるフィルタ設計範囲とは、フィルタとして通常に使用される設計量の範囲を意味し、例えば繊維目付M、繊維直径D、繊維種などの数値的・物性的範囲である。
【0037】
本発明者等は、フィルタの動作特性(C、ΔP)が構造特性(M、D)と直接的に関係しているはずであると判断し、その一般関係式として、C=f(M)、C=f(D)、ΔP=f(M)、ΔP=f(D)を設定した。fは一般関数を意味する。その関数関係を最も単純な線形関係(直線関係)に帰着させることにより、本発明を完成するに到ったものである。即ち、動作特性である捕集率C又は圧損ΔPが、構造特性である繊維目付M又は繊維直径Dと、近似的に直線関係にあることを仮定して実験したところ、その近似的直線関係を実験データから確認したものである。この近似的直線関係の発見により、構造特性であるMとDを指定すれば、前記直線関係を用いて、直ちに動作特性であるCとΔPが導出できる。逆に、動作特性であるCとΔPを指定すれば、構造特性であるMとDを導出することができる。関数関係が直線関係であるから、前記逆算が極めて単純化される特徴がある。このように、本発明では、フィルタの動作特性(C、ΔP)と構造特性(M、D)との間に近似的直線関係が成立していることを利用して、(C、ΔP)から(M、D)の導出、及び(M、D)から(C、ΔP)の導出が極めて簡単になる効果が発現する。
【0038】
繊維フィルタが有すべき塵埃の捕集率C(%)をC0(%)以上に設計し、同時に繊維フィルタ前後の圧損ΔP(Pa)をΔP0(Pa)以下に設計することによって、繊維フィルタの構造特性を最適値に設計できる。即ち、繊維フィルタの特性として、捕集率Cは所定以上の能力が必要であり、同時に圧損ΔPも所定以下であることが要請される。繊維フィルタを高性能化するには、臨界値C0をより大きく設計し、ΔP0を10〜50Paの範囲に設計することが重要になる。上述したように、動作特性(C、ΔP)から構造特性(M、D)を導出できるから、本形態によりCとΔPの臨界値C0及びΔP0を与えることによってMとDの臨界値M0及びD0を導出でき、繊維フィルタの構造特性を最適設計することが可能になる。
【0039】
本形態において、繊維フィルタの繊維目付Mを具体的に設計する処理手段の一例として、前記1次関数を近似的にC=aM+b、ΔP=cM+dと表現したとき、a>0且つc>0であるから、CとΔPはMに関して増加関数になる。従って、C≧C0の条件によりMの下限値Mminが導出され、ΔP≦ΔP0の条件によりMの上限値Mmaxが導出される。従って、C0及びΔP0を与えることにより、Mmin≦M≦Mmaxの範囲が自動的に導出され、この範囲から適切に繊維フィルタの繊維目付Mを設計することが可能になる。C0を大きくすればMminが大きくなり、ΔP0を小さくすればMmaxが小さくなり、Mmin≦M≦Mmaxの範囲が自動的に狭くなる。その結果、繊維目付Mを具体的に特定することが可能となる。
【0040】
本発明の第7の形態によれば、前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いるから、フィルタ動作特性及び構造特性上、高品質化された室内換気フィルタが提供される。本発明者等は、フィルタの動作特性(C、ΔP)が構造特性(M、D)と直接的に関係しているはずであると判断し、別の解析を行った結果、MとDはM/Dと一体的に組み合わされ、M/Dを変数とするとの着想を得るに至った。その理由は以下のようである。質量Mが同一でも繊維直径Dが小さくなると、繊維表面積は大きくなるから、CやΔPは増加するはずである。また逆に、繊維直径Dが同一でも質量Mが大きくなると、繊維表面積は大きくなるから、CやΔPは増加するはずである。従って、CやΔPはM/Dを変数とし、その一般関係式として、C=f(M/D)、ΔP=f(M/D)を定立した。茲で、fは一般関数を意味し、その関数関係を最も単純な線形関係(直線関係)に帰着させることにより、本発明を完成するに到ったものである。しかも、本発明者等は前記関数関係を理論的に導出し、CやΔPがM/Dの1次関数になることを理論的に裏付け、この推論の正当性を確信するに至った。
【0041】
この理論を検証するため、動作特性である捕集率C又は圧損ΔPが、構造特性である繊維目付Mと繊維直径Dの組合せ変数M/Dと、近似的に直線関係にあることを仮定して実験したところ、その近似的直線関係を実験データから確認したものである。しかも、この近似的直線関係の発見は、構造特性であるMとDを指定すれば、前記直線関係を用いて、直ちに動作特性であるCとΔPが導出できる。逆に、動作特性であるCとΔPを指定すれば、直ちにM/Dを算出でき、構造特性M、Dを導出することが可能になる。関数関係が直線関係であるから、前記逆算が極めて単純化される特徴がある。このように、本発明では、フィルタの動作特性(C、ΔP)と構造組合特性M/Dとの間に近似的直線関係が成立していることを利用して、(C、ΔP)から(M、D)の導出、及び(M、D)から(C、ΔP)の導出が極めて簡単になる効果が発現する。
【0042】
本実施形態において、繊維フィルタの繊維目付Mを具体的に設計する場合は、Dが一定として、前記1次関数を近似的にC=aM+b、ΔP=cM+eと表現でき、前記第7形態と同様に、a>0且つc>0であるから、CとΔPはMに関して増加関数になる。従って、C≧C0の条件によりMの下限値Mminが導出され、ΔP≦ΔP0の条件によりMの上限値Mmaxが導出される。従って、C0及びΔP0を与えることにより、Mmin≦M≦Mmaxの範囲が自動的に導出され、この範囲から適切に繊維フィルタの繊維目付Mを設計することが可能になる。C0を大きくすればMminが大きくなり、ΔP0を小さくすればMmaxが小さくなり、Mmin≦M≦Mmaxの範囲が自動的に狭くなる。その結果、繊維目付Mを具体的に特定することができる。
【0043】
また、繊維フィルタの繊維直径Dを具体的に設計する処理手段の一例として、Mが一定で前記1次関数を近似的にC=q/D+u、ΔP=s/D+tと表現したとき、q>0且つs>0であるから、CとΔPはDに関して減少関数になる。従って、C≧C0の条件によりDの上限値Dmaxが導出され、ΔP≦ΔP0の条件によりDの下限値Dminが導出される。従って、C0及びΔP0を与えることにより、Dmin≦D≦Dmaxの範囲が自動的に導出され、この範囲から適切に繊維フィルタの繊維直径Dを設計することが可能になる。C0を大きくすればDmaxが小さくなり、ΔP0を小さくすればDminが大きくなり、Dmin≦D≦Dmaxの範囲が自動的に狭くなる。その結果、繊維直径Dを具体的に特定することができる。
【0044】
本発明の第8の形態によれば、前記繊維フィルタに薬剤が担持されるから、この薬剤の効果が付与され、捕集率の向上や有害物質の除去を行うことができる。前記薬剤として、吸着剤、抗菌剤、抗カビ剤、抗アレルゲン剤、NOx吸着剤、SOx吸着剤、表面硬化剤、着色剤、消臭剤などから選択される1種以上の薬剤を担持することができ、塵埃捕集率の向上と共に、塵埃に含まれる菌、カビ、アレルゲン物質の作用を低減化することができる。吸着剤としては、鉱物油・植物油・合成油・その他の油剤が利用できる。さらに、ポリエチレングリコール(PEG)やポリエチレンオキシド(PEO)等の高分子化合物(ポリエーテル)などを吸着剤に利用することができる。鉱物油として、パラフィン系・ナフテン系・芳香族炭化水素系・これらの混合物系があり、具体的には流動パラフィン・スピンドル油・マシン油・冷凍油・その他の石油系潤滑油が利用できる。合成油として、ポリオレフィン油・ポリグリコール油・ポリプラン油・アルキルベンゼン油・その他の合成油がある。更に、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート・テトラ(トリデシル)シリケートのようなケイ酸エステル油・スクアラン油・リン酸エステル油・シリコン油などを前記塵埃吸着剤として用いることができる。
【0045】
抗菌剤、防カビ剤としては、オルトフェニルフェノール・パラオキシ安息香酸エステル・パラオキシ安息香酸ブチルエステル・亜鉛ピリチオン・銅ピリチオン・ナトリウムピリチオン・亜鉛オマダイン(C10H8N2O2S2Zn)などがあり、カビや菌の増殖を抑制することができる。更に、抗アレルゲン剤を担持しても良く、天然物に含有される物質を利用すれば、人体に害を及ぼす可能性が低く、抗アレルゲン剤による人体への副作用等を低減ないし防止でき、好ましい。例えば、ツバキ科の茶、ウルシ科のヌルデ、ユリ科のハスナゲ、イネ科タケ亜科の竹や笹、モクセイ科オリーブ属のオリーブ、モクセイ科イボタノキ属のイボタ、ミヤマイボタ、オオバイボタ、サイコクイボタ、ネズミモチ、トウネズミモチなど、ハーブ(シソ科のローズマリーなど)などから抽出した成分が天然性抗アレルゲン剤として用いられ、生葉、果実又は葉や果実の乾燥粉末などから抗アレルゲン剤となる成分を抽出し、繊維フィルタに担持することができる。例えば、茶の場合、市販の緑茶用の茶葉からカテキン等の抗アレルゲン剤を抽出することができ、茶葉、オリーブ、ハーブ、竹、笹などは、人間が長年に亘り種々の目的に使用してきたものであり、人体への高い安全性が確保されている。
【0046】
本発明の第9〜第16の形態は、それぞれ、前記第1〜第8の形態の製法であり、第9〜第16の形態の製法により得られる室内換気フィルタの作用効果は、前記第1〜第8の形態と同一である。従って、第9〜第16の形態により製造される室内換気フィルタの作用効果に関しては、記載を省略する。
本発明の第9の形態では、前記相関関係から、第10の形態では、前記相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dの最適な範囲が導出され、所望の特性を有する室内換気フィルタを製造することができる。更に、本発明の第11の形態では、実験的に決定された前記相関関係点列から、第12の形態では、数学的関係式をフィットすることにより得られた相関関係式から、本発明の第13の形態では、最小二乗法により前記数学的関係式のフィッティングを行って導出された相関関係式から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dの上限値と下限値を決定し、所望の特性を有する室内換気フィルタを製造することができる。第14形態では、前記相関関係式が繊維目付M又は繊維直径Dの線形関係で、第15形態では、M/Dの1次関数の近似式で表現される。
【0047】
本発明の第16の形態によれば、前記繊維フィルタに薬剤を塗布又は浸漬させて担持することにより、製造時に薬剤の効果を本発明に係る室内換気フィルタに付与することができる。薬剤としては、吸着剤、抗菌剤、抗カビ剤、抗アレルゲン剤、NOx吸着剤、SOx吸着剤、表面硬化剤、着色剤、消臭剤などから選択される1種以上の薬剤を担持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
図1は、本実施形態に係る室内換気フィルタが吸気口1に設置された居室2の概略図である。居室2には換気扇3が設けられ、この換気扇3の運転時には、居室2内の空気が換気扇3から排気されると共に、外気が吸気口1に設置された室内換気フィルタを介して居室2内に取り入れられる。本発明の室内換気フィルタは、下記のように最適設計された繊維フィルタから形成される。前記最適設計とは、換気扇の運転時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、繊維目付M及び繊維直径Dを設定することを意味する。
【0049】
次に、上記室内換気フィルタについて塵埃捕集性能試験及び圧力損失(圧損)検査を行ったが、室内換気フィルタを形成する繊維フィルタは、前記動作特性因子と前記フィルタ構造特性因子の相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、繊維目付M及び繊維直径Dが設定されているため、良好な塵埃捕集性能と圧力損失性能を具備している。以下に、本実施形態における繊維目付M及び繊維直径Dの設定手法を詳細に説明する。
【0050】
[C又はΔPのM及びDに対する関数関係の理論的導出]
図2は繊維フィルタを形成する繊維の形状図である。図2では、繊維フィルタを形成する全ての繊維4が接続されて直線状に一本で表現されている。繊維半径r、繊維直径D(茲でD=2r)、繊維長Lとすると、繊維円断面積はπr2、繊維円周は2πr、繊維断面積AはA=2rL、繊維円断面積を無視すると繊維表面積SはS=2πrLで表される。
【0051】
繊維材料の質量密度をRで表すと、繊維目付MはM=πr2LRとなり、繊維目付Mが与えられたとき、繊維長LはL=M/(πr2R)と表現され、このLを用いて、前期繊維表面積Sと前記繊維断面積Aは次のようになる。
【0052】
S=2πrL=2M/(rR)=4M/(DR) (1)
A=2rL=2M/(πrR)=4M/(πDR) (2)
吸気中の塵埃の捕集率Cは、塵埃が繊維の外周表面に付着捕集されるから、繊維表面積Sに比例するはずであり、比例定数n及び比例定数k(=4n)を用いて以下のように与えられる。
【0053】
C=nS=n{4M/(DR)}=kM/(DR) (3)
従って、不定な切片を考慮すると、Cは理論的にM/Dの1次関数で表現されることが証明された。
【0054】
繊維フィルタの前後に発生する圧損ΔPは、直感的にフィルタを構成する繊維による遮蔽断面積、即ち前記繊維断面積Aに比例すると考えられる。つまり、比例係数をNとすると、ΔP=NAとなるが、この仮定式は後述の理論により証明される。従って、圧損ΔPは、比例定数N及び比例定数K(=4N/π)を用いて以下のように書き表される。
【0055】
ΔP=NA=N{4M/(πDR)}=KM/(DR) (4)
従って、不定な切片を考慮すると、ΔPも理論的にM/Dの1次関数で表現されることが証明された。
【0056】
繊維直径Dと繊維密度Rが与えられる場合には、式(3)と(4)から、以下のように、CとΔPは繊維目付Mの1次関数になることが分かる。
C=aM+b (a、b:定数) (5)
ΔP=cM+e (c、e:定数) (6)
同様に、繊維目付Mと繊維密度Rが与えられる場合には、式(3)と(4)から、以下のように、CとΔPは繊維直径Dの双曲線関数になることが分かる。
【0057】
C=q/D+u (q、u:定数) (7)
ΔP=s/D+t (s、t:定数) (8)
切片b、e、u、tは単純な前記理論式に切片だけの任意性を付加したものである。
【0058】
前述したΔP=NAを以下に証明しておく。この証明により、上記式群(4)〜(8)の正当性が裏付けられる。図3は圧損の理論式を導出する模式図である。S1は繊維フィルタのフィルタ面積、Aは前述した繊維断面積、S2(=S1−A)はフィルタの開口面積、P1は吸気圧力、P2は排気圧力、v1は吸気速度、v2は排気速度である。
【0059】
フィルタの前後では、連続の法則により、S1v1=S2v2が成立する。この連続則から以下の式が導出される。
【0060】
v1=S2v2/S1=(S1−A)v2/S1
=(1−A/S1)v2 (9)
他方、空気密度をYとすると、ベルヌーイの法則から、フィルタの前後で次式が成立する。
【0061】
P1+1/2Yv12=P2+1/2Yv22 (10)
P1>P2であるから、圧損ΔPはP1−P2で与えられる。式(10)と組み合わせると以下の式が得られる。
【0062】
ΔP=P1−P2=(1/2)Y(v22−v12) (11)
式(11)に式(9)を代入すると、次式になる。
【0063】
ΔP=(1/2)Yv22{1−(1−A/S1)2} (12)
A<<S1が成立するから、(1−A/S1)2は1−2A/S1となる。従って、式(12)は次式で与えられる。
【0064】
ΔP=Yv22A/S1 (13)
Yv22/S1=N(定数)とすると、最終的に次式が成立し、目的式が証明された。
【0065】
ΔP=NA (14)
以下の実施例は、捕集率C及び圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、その1次関数の相関関係から、繊維目付M又は繊維直径Dを設定するための上限値と下限値が導出される繊維フィルタ設計の場合である。尚、以下に示す実施例1〜8では、吸気口に取り込まれる外気の風速は、約1.5m/sに設定されている。
【0066】
[実施例1:C=aM+bの導出とMminの決定]
32.0μmの繊維直径を有した化学繊維(エステル)を用いて3種の繊維目付M(g/m2)を有した1層構造の平面状不織繊維フィルタを作製した。繊維目付M(g/m2)は、100、150、200の3種類である。以下では、塵埃としてJIS15種を吸気口から取り入れられる外気に混入させ、捕集率を測定している。捕集後の繊維フィルタの重量を測定し、捕集前の繊維フィルタの重量を差し引いて、捕集された塵埃重量を導出ている。その結果、繊維目付M(g/m2)が100、150、200に対して、捕集率C(%)は45.1、62.3、76.1になることが分かった。以上の実験から、捕集率C(%)と繊維目付M(g/m2)の座標点として、(M、C)=(100、45.1)、(150、62.3)、(200、76.1)の3点が得られた。
【0067】
図4は、縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした捕集率・繊維目付グラフである。前記3点の座標をプロットすると、ほぼ直線に乗ることが分かった。最小二乗法により回帰直線を決定すると、C=0.310M+14.6が得られた。本発明者等の経験から、塵埃の捕集率Cの臨界値C0は70%であることが要請されるから、上記直線式からM70=178(g/m2)が導出される。しかも、CはMに関して増加関数であるから、C≧C0の条件からM≧M70となり、M70はMの下限値Mminとなり、C0=70ではM≧Mmin=178(g/m2)が得られる。
【0068】
繊維フィルタの高効率化のためにC0を70%より増大化すると、Mminの数値も増加する。従って、M≧Mminの条件から、繊維目付M(g/m2)の特定化が容易になる。この効果は、CがMに対して増加関数であることに依存している。
【0069】
[実施例2:ΔP=cM+eの導出とMmaxの決定]
3種の繊維フィルタに関し、塵埃の捕集動作における圧損ΔP(Pa)を測定した。その結果、繊維目付M(g/m2)が100、150、200の順に、圧損ΔP(Pa)は19.6、30.4、40.2になることが分かった。以上の測定から、圧損ΔP(Pa)と繊維目付M(g/m2)の座標点として、(M、ΔP)=(100、19.6)、(150、30.4)、(200、40.2)の3点が得られた。
【0070】
図5は、縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした圧損・繊維目付グラフである。前記3点の座標をプロットすると、図4と同様に、ほぼ1次直線であることが分かった。最小二乗法による回帰直線は、ΔP=0.206M−0.833となる。外気が効率的にフィルタを貫通して流通するために、圧損ΔPの臨界値ΔP0は50Paであることが望ましいから、上記直線式からMΔP50=246(g/m2)が導出される。しかも、ΔPはMに関して増加関数であるから、ΔP≦ΔP0の条件からM≦MΔP50となり、MΔP50はMの上限値Mmaxとなり、ΔP0=50(Pa)ではM≦Mmax=246(g/m2)が得られる。
【0071】
繊維フィルタの高効率化のためにΔP0を50Paより減少させると、Mmaxの数値も減少する。従って、M≦Mmaxの条件から、繊維目付M(g/m2)の特定化が容易になる。この効果は、ΔPがMに対して増加関数であることに依存している。
【0072】
実施例1及び2から、捕集率Cと圧損ΔPが繊維目付Mの近似的増加直線であることが実験的に検証され、その結果、C≧C0とΔP≦ΔP0の条件から、Mmin≦M≦Mmaxが導出されることが分かった。一例として、C=0.310M+14.6及びΔP=0.206M−0.833に対し、C≧70(%)とΔP≦50(Pa)の条件を適用すると、178≦M(g/m2)≦246の範囲が導出できる。このMの範囲を更に絞り込むためには、臨界値C0を大きくし、臨界値ΔP0を小さくすればよい。C0とΔP0を可変に設定することにより、構造特性の一つである繊維目付Mの設計が可能になり、任意性を小さくしたMの設計が容易になることが証明された。
【0073】
[実施例3:C=q/D+uの導出とDmaxの決定]
200(g/m2)の繊維目付を有した繊維フィルタを3種の繊維直径D(μm)を有した化学繊維(エステル)により夫々形成して、3種類の1層構造式平面状不織繊維フィルタを作製した。この繊維フィルタは、1辺30cm及び厚さ8mmの矩形フィルタで、前記繊維直径D(μm)は26.8、32.0、39.4の3種類である。前記換気扇の駆動により、JIS15種含有空気を繊維フィルタに通過させ、室内換気フィルタにJIS15種(塵埃)を捕集させた。
【0074】
塵埃捕集後の繊維フィルタの重量を測定し、捕集前の繊維フィルタの重量を差し引いて、捕集された塵埃重量を導出し、塵埃の捕集率C(%)を算出した。その結果、繊維直径D(μm)が26.8、32.0、39.4に対して、捕集率C(%)は85.8、76.1、68.3になることが分かった。以上の実験から、捕集率C(%)と繊維直径D(μm)の座標点として、(D、C)=(26.8、85.8)、(32.0、76.1)、(39.4、68.3)の3点が得られた。
【0075】
図6は、縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維直径D(μm)とした捕集率・繊維直径グラフである。前記3点の座標をプロットすると、ほぼ双曲線に乗ることが分かった。最小二乗法により回帰双曲線を決定すると、C=1.48×103/D+30.2が得られた。前述したように、塵埃の捕集率Cの臨界値C0は70%であることが要請されるから、上記曲線式からD70=37.3(μm)が導出される。しかも、CはDに関して減少関数であるから、C≧C0の条件からD≦D70となり、D70はDの上限値Dmaxとなり、C0=70ではD≦Dmax=37.3(μm)が得られる。
【0076】
繊維フィルタの高効率化のためにC0を70%より増大化すると、Dmaxの数値は減少する。従って、D≦Dmaxの条件から、繊維直径D(μm)の特定化が容易になる。この効果は、CがDに対して減少関数であることに依存している。[実施例4:ΔP=s/D+tの導出とDminの決定]
3種の繊維フィルタに関し、捕集動作における圧損ΔP(Pa)を測定した。その結果、繊維直径D(μm)が26.8、32.0、39.2の順に、圧損ΔP(Pa)は59.8、40.2、31.4になることが分かった。以上の測定から、圧損ΔP(Pa)と繊維直径D(μm)の座標点として、(D、ΔP)=(26.8、59.8)、(32.0、40.2)、(39.2、31.4)の3点が得られた。
【0077】
図7は、縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維直径D(μm)とした圧損・繊維直径グラフである。前記3点の座標をプロットすると、図7と同様に、ほぼ双曲線であることが分かった。最小二乗法による回帰双曲線は、ΔP=2.41×103/D−31.8となる。塵埃を含有する空気が効率的にフィルタを貫通して流通するために、圧損ΔPの臨界値ΔP0は50Paであることが望ましいから、上記双曲線からDΔP50=29.5(μm)が導出される。しかも、ΔPはDに関して減少関数であるから、ΔP≦ΔP0の条件からD≧DΔP50となり、DΔP50はDの下限値Dminとなり、ΔP0=50(Pa)ではD≧Dmin=29.5(μm)が得られる。
【0078】
繊維フィルタの高効率化のためにΔP0を50Paより減少させると、Dminの数値は増加する。従って、D≧Dminの条件から、繊維直径D(μm)の特定化が容易になる。この効果は、ΔPがDに対して減少関数であることに依存している。
【0079】
実施例3及び4から、捕集率Cと圧損ΔPが繊維直径Dの近似的減少双曲線であることが実験的に検証され、その結果、C≧C0とΔP≦ΔP0の条件から、Dmin≦D≦Dmaxが導出されることが分かった。一例として、C=1.48×103/D+30.2及びΔP=2.41×103/D−31.8に対し、C≧70(%)とΔP≦50(Pa)の条件を適用すると、29.5≦D(μm)≦37.3の範囲が導出できる。このDの範囲を更に絞り込むためには、臨界値C0を大きくし、臨界値ΔP0を小さくすればよい。このように、具体的な関数式に対し、C0とΔP0を可変に設定することにより、構造特性の一つである繊維直径Dの設計が可能になり、任意性を小さくしたDの設計が容易になることが証明された。
【0080】
以下の実施例5〜8は、吸着剤を塗布した繊維フィルタを用いた結果である。尚、吸着剤が塗布されていること以外は、測定条件を同一に設定している。
[実施例5:C=aM+bの導出とMminの決定]
32.0μmの繊維直径を有した化学繊維(エステル)を用いて3種の繊維目付M(g/m2)を有した1層構造の平面状不織繊維フィルタに吸着剤を塗布して室内換気フィルタを作製した。繊維目付M(g/m2)は、100、150、200の3種類である。以下では、塵埃としてJIS15種を吸気口から取り入れられる外気に混入させ、捕集率を測定している。その結果、吸着剤有りの場合、繊維目付M(g/m2)が100、150、200に対して、捕集率C(%)は71.0、91.0、93.0になることが分かった。以上の実験から、捕集率C(%)と繊維目付M(g/m2)の座標点として、(M、C)=(100、71.0)、(150、91.0)、(200、93.0)の3点が得られた。
【0081】
図8は、縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした捕集率・繊維目付グラフである。前記3点の座標をプロットすると、ほぼ直線に乗り、最小二乗法により回帰直線を決定すると、C=0.24M+47.3が得られた。本発明者等の経験から、塵埃の捕集率Cの臨界値C0は70%であることが要請されるから、上記直線式からM70=94.6(g/m2)が導出される。しかも、CはMに関して増加関数であるから、C≧C0の条件からM≧M70となり、M70はMの下限値Mminとなり、C0=70ではM≧Mmin=94.6(g/m2)が得られる。
【0082】
[実施例6:ΔP=cM+eの導出とMmaxの決定]
実施例5の3種の繊維フィルタに関し、捕集動作における圧損ΔP(Pa)を測定した。その結果、繊維目付M(g/m2)が100、150、200の順に、圧損ΔP(Pa)は19.9、30.0、39.9になることが分かった。以上の測定から、圧損ΔP(Pa)と繊維目付M(g/m2)の座標点として、(M、ΔP)=(100、19.9)、(150、30.0)、(200、39.9)の3点が得られた。
【0083】
図9は、縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした圧損・繊維目付グラフである。前記3点の座標をプロットすると、図4と同様に、ほぼ1次直線であることが分かった。最小二乗法による回帰直線は、ΔP=0.199M+0.0247となる。外気が効率的にフィルタを貫通して流通するために、圧損ΔPの臨界値ΔP0は50Paであることが望ましいから、上記直線式からMΔP50=251(g/m2)が導出される。しかも、ΔPはMに関して増加関数であるから、ΔP≦ΔP0の条件からM≦MΔP50となり、MΔP50はMの上限値Mmaxとなり、ΔP0=50(Pa)ではM≦Mmax=251(g/m2)が得られる。
【0084】
実施例5及び6から、捕集率Cと圧損ΔPが繊維目付Mの近似的増加直線であることが実験的に検証され、その結果、C≧C0とΔP≦ΔP0の条件から、Mmin≦M≦Mmaxが導出されることが分かった。一例として、C=0.24M+47.3及びΔP=0.199M+0.0247に対し、C≧70(%)とΔP≦50(Pa)の条件を適用すると、94.6≦M(g/m2)≦251の範囲が導出できる。このMの範囲を更に絞り込むためには、臨界値C0を大きくし、臨界値ΔP0を小さくすればよい。C0とΔP0を可変に設定することにより、構造特性の一つである繊維目付Mの設計が可能になり、任意性を小さくしたMの設計が容易になることが証明された。
【0085】
[実施例7:C=q/D+uの導出とDmaxの決定]
150(g/m2)の繊維目付を有した繊維フィルタを3種の繊維直径D(μm)を有した化学繊維(エステル)により夫々形成した後、吸着剤を塗布して3種類の1層構造式平面状不織繊維フィルタを作製した。この繊維フィルタは、前記繊維直径D(μm)が26.8、32.0、39.4の3種類である。前記換気扇の駆動により、JIS15種含有空気を繊維フィルタに通過させ、室内換気フィルタにJIS15種(塵埃)を捕集させた。
【0086】
塵埃捕集後の繊維フィルタの重量を測定し、捕集前の繊維フィルタの重量を差し引いて、捕集された塵埃重量を導出し、塵埃の捕集率C(%)を算出した。その結果、繊維直径D(μm)が26.8、32.0、39.4に対して、捕集率C(%)は88.0、84.0、66.0になることが分かった。以上の実験から、捕集率C(%)と繊維直径D(μm)の座標点として、(D、C)=(26.8、88.0)、(32.0、84.0)、(39.4、66.0)の3点が得られた。
【0087】
図10は、縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維直径D(μm)とした捕集率・繊維直径グラフである。前記3点の座標をプロットすると、ほぼ双曲線に乗ることが分かった。最小二乗法により回帰双曲線を決定すると、C=1.85×103/D+21.4が得られた。前述したように、塵埃の捕集率Cの臨界値C0は70%であることが要請されるから、上記曲線式からD70=38.0(μm)が導出される。しかも、CはDに関して減少関数であるから、C≧C0の条件からD≦D70となり、D70はDの上限値Dmaxとなり、C0=70ではD≦Dmax=38.0(μm)が得られる。
[実施例8:ΔP=s/D+tの導出とDminの決定]
捕集動作における圧損ΔP(Pa)を測定した。その結果、繊維直径D(μm)が26.8、32.0、39.2の順に、圧損ΔP(Pa)は43.1、30.0、19.9になることが分かった。以上の測定から、圧損ΔP(Pa)と繊維直径D(μm)の座標点として、(D、ΔP)=(26.8、43.1)、(32.0、30.0)、(39.2、19.9)の3点が得られた。
【0088】
図11は、縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維直径D(μm)とした圧損・繊維直径グラフである。前記3点の座標をプロットすると、図7と同様に、ほぼ双曲線であることが分かった。最小二乗法による回帰双曲線は、ΔP=1.96×103/D−30.5となる。塵埃を含有する空気が効率的にフィルタを貫通して流通するために、圧損ΔPの臨界値ΔP0は50Paであることが望ましいから、上記双曲線からDΔP50=24.4(μm)が導出される。しかも、ΔPはDに関して減少関数であるから、ΔP≦ΔP0の条件からD≧DΔP50となり、DΔP50はDの下限値Dminとなり、ΔP0=50(Pa)ではD≧Dmin=24.4(μm)が得られる。
【0089】
吸着剤が塗布された場合において、実施例7及び8から、捕集率Cと圧損ΔPが繊維直径Dの近似的減少双曲線であることが実験的に検証され、その結果、C≧C0とΔP≦ΔP0の条件から、Dmin≦D≦Dmaxが導出されることが分かった。一例として、C=1.85×103/D+21.4及びΔP=1.96×103/D−30.5に対し、C≧70(%)とΔP≦50(Pa)の条件を適用すると、24.4≦D(μm)≦38.0の範囲が導出できる。このDの範囲を更に絞り込むためには、臨界値C0を大きくし、臨界値ΔP0を小さくすればよい。このように、具体的な関数式に対し、C0とΔP0を可変に設定することにより、構造特性の一つである繊維直径Dの設計が可能になり、任意性を小さくしたDの設計が容易になることが証明された。
【0090】
【表1】
【0091】
表1は、異なる風速に対する各繊維フィルタの圧力損失を示している。図12〜図14には、表1の値をプロットし、繊維直径毎に3種類の繊維フィルタに対する圧力損失ΔPの風速依存性を示している。即ち、繊維直径Dが同一であり、繊維目付M(g/m2)が100、150、200の場合を各図面に示している。図12〜14に示すように、測定した風速範囲において、定性的には、風速の増大に伴って圧力損失ΔPが略線形に増加しており、比較的単純な依存性を示している。前述のように、圧力損失ΔPは、50(Pa)以下であることが要求され、図12〜図14には、ΔP=50(Pa)のラインを破線で示している。また、各繊維目付に対する圧損ΔPの風速依存性を線形関数をフィッティングしている。
【0092】
図12に示すように、風速及び繊維目付の増加に伴って、圧力損失ΔPは増加しており、例えば、風速が2.0m/sの場合、ΔPが50(Pa)以下となる条件を満たす測定データは、繊維目付けが100g/m2のときだけになっている。前述のように、圧力損失ΔPの風速依存性は、図中の範囲において、線形関数で近似可能であるから、各風速に対してΔPが50(Pa)以下となる繊維目付M及び繊維直径Dの条件を図12〜図14より容易に類推することができる。即ち、図12〜図14によれば、風速が異なる場合の繊維直径Dと繊維目付M(g/m2)の値が満たすべき条件を決定することができる。
【0093】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明では、フィルタの動作特性(捕集率C、圧損ΔP)と構造特性(繊維目付M、繊維直径D)との間に近似的直線関係が成立していることを利用して、(C、ΔP)から(M、D)の導出、及び(M、D)から(C、ΔP)の導出が極めて簡単になる効果がある。従って、業務用及び家庭用の繊維フィルタの設計が極めて容易になり、科学工学的設計手法を初めて系統的に導入した繊維フィルタを社会及び家庭に提供することができる。これにより、塵埃の捕集率C(%)をC0(%)以上に設計し、同時に繊維フィルタ前後の圧損ΔP(Pa)をΔP0(Pa)以下に設計することによって、繊維フィルタからなる室内換気フィルタの構造特性を最適設計でき、改正建築基準法に適応した換気設備を比較的簡易に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係る室内換気フィルタを用いた居室用換気設備の概略図である。
【図2】前記繊維フィルタを形成する繊維の形状図である。
【図3】圧損の理論式を導出する模式図である。
【図4】縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした本実施例の捕集率・繊維目付グラフである。
【図5】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした本実施例の圧損・繊維目付グラフである。
【図6】縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維直径D(μm)とした本実施例の捕集率・繊維直径グラフである。
【図7】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維直径D(μm)とした本実施例の圧損・繊維直径グラフである。
【図8】縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした本実施例(吸着剤を塗布した場合)の捕集率・繊維目付グラフである。
【図9】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維目付M(g/m2)とした本実施例(吸着剤を塗布した場合)の圧損・繊維目付グラフである。
【図10】縦軸を捕集率C(%)、横軸を繊維直径D(μm)とした本実施例(吸着剤を塗布した場合)の捕集率・繊維直径グラフである。
【図11】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を繊維直径D(μm)とした本実施例(吸着剤を塗布した場合)の圧損・繊維直径グラフである。
【図12】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を風速(m/s)とした本実施例の圧損・風速グラフである。
【図13】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を風速(m/s)とした本実施例の圧損・風速グラフである。
【図14】縦軸を圧損ΔP(Pa)、横軸を風速(m/s)とした本実施例の圧損・風速グラフである。
【符号の説明】
【0096】
1 吸気口
2 居室
3 換気扇
4 繊維
A 繊維断面積
D 繊維直径
L 繊維長
P1 吸気圧力
P2 排気圧力
r 繊維半径
S1 フィルタ面積
S2 フィルタ開口面積
v1 吸気速度
v2 排気速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維フィルタから形成され、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着される室内換気フィルタにおいて、吸気時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定されることを特徴とする室内換気フィルタ。
【請求項2】
前記相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項1に記載の室内換気フィルタ。
【請求項3】
前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、この相関関係点列に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項1に記載の室内換気フィルタ。
【請求項4】
前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、前記相関関係点列に対し数学的関係式をフィットすることにより前記相関関係を相関関係式として導出し、この相関関係式に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項1に記載の室内換気フィルタ。
【請求項5】
前記相関関係式を最小二乗法により導出する請求項4に記載の室内換気フィルタ。
【請求項6】
前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的に前記繊維目付M又は前記繊維直径Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる請求項4又は5に記載の室内換気フィルタ。
【請求項7】
前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる請求項4又は5に記載の室内換気フィルタ。
【請求項8】
前記繊維フィルタに薬剤が担持され、この薬剤の効果が付与される請求項1〜7のいずれかに記載の室内換気フィルタ。
【請求項9】
繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dを設定し、この繊維素材をシート状に成形して、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着される室内換気フィルタを製造する室内換気フィルタ製造方法において、吸気時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、前記繊維目付Mと前記繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定されることを特徴とする室内換気フィルタ製造方法。
【請求項10】
前記相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項9に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項11】
前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、この相関関係点列に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項9に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項12】
前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、前記相関関係点列に対し数学的関係式をフィットすることにより前記相関関係を相関関係式として導出し、この相関関係式に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項9に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項13】
前記相関関係式を最小二乗法により導出する請求項12に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項14】
前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的に前記繊維目付M又は前記繊維直径Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる請求項12又は13に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項15】
前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる請求項12又は13に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項16】
前記繊維フィルタに薬剤を担持して、この薬剤の効果を付与する請求項9〜15のいずれかに記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項1】
繊維フィルタから形成され、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着される室内換気フィルタにおいて、吸気時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定されることを特徴とする室内換気フィルタ。
【請求項2】
前記相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項1に記載の室内換気フィルタ。
【請求項3】
前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、この相関関係点列に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項1に記載の室内換気フィルタ。
【請求項4】
前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、前記相関関係点列に対し数学的関係式をフィットすることにより前記相関関係を相関関係式として導出し、この相関関係式に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項1に記載の室内換気フィルタ。
【請求項5】
前記相関関係式を最小二乗法により導出する請求項4に記載の室内換気フィルタ。
【請求項6】
前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的に前記繊維目付M又は前記繊維直径Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる請求項4又は5に記載の室内換気フィルタ。
【請求項7】
前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる請求項4又は5に記載の室内換気フィルタ。
【請求項8】
前記繊維フィルタに薬剤が担持され、この薬剤の効果が付与される請求項1〜7のいずれかに記載の室内換気フィルタ。
【請求項9】
繊維素材量のみから求められる繊維目付Mとその繊維直径Dを設定し、この繊維素材をシート状に成形して、換気扇の動作時に外気を室内に供給する吸気口に装着される室内換気フィルタを製造する室内換気フィルタ製造方法において、吸気時における塵埃の捕集率Cと繊維フィルタ前後の圧力損失ΔPとからなる繊維フィルタの動作特性因子と、前記繊維目付Mと前記繊維直径Dとからなるフィルタ構造特性因子との相関関係に基づいて、所定の捕集率C及び圧力損失ΔPを満足するように、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが設定されることを特徴とする室内換気フィルタ製造方法。
【請求項10】
前記相関関係に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項9に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項11】
前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、この相関関係点列に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項9に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項12】
前記フィルタ構造特性因子に対する前記動作特性因子の相関関係が実験的に決定された相関関係点列で与えられ、前記相関関係点列に対し数学的関係式をフィットすることにより前記相関関係を相関関係式として導出し、この相関関係式に基づいて決められる上限値と下限値から、前記繊維目付M及び前記繊維直径Dが選択的に設定される請求項9に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項13】
前記相関関係式を最小二乗法により導出する請求項12に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項14】
前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的に前記繊維目付M又は前記繊維直径Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる請求項12又は13に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項15】
前記捕集率C及び前記圧力損失ΔPがフィルタ設計範囲において近似的にM/Dの1次関数で表現され、この1次関数を前記数学的関係式として用いる請求項12又は13に記載の室内換気フィルタ製造方法。
【請求項16】
前記繊維フィルタに薬剤を担持して、この薬剤の効果を付与する請求項9〜15のいずれかに記載の室内換気フィルタ製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−82812(P2009−82812A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255063(P2007−255063)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000133445)株式会社ダスキン (119)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000133445)株式会社ダスキン (119)
【Fターム(参考)】
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