説明

家畜用飼料、その製造方法、及びその使用方法

【課題】飼料化原料から飼料を得る工程において、エネルギーコストの低減を図ることができる家畜用飼料、その製造方法及びその使用方法を提供する。
【解決手段】家畜用飼料において、飼料原料にバチルス属の微生物及びジオバチルス属の微生物から選ばれる少なくとも一種の微生物が配合され、発酵処理されていることを特徴とする。好ましくは、家畜用飼料の総エネルギー(Gross.Energy)は、乾物ベースで発酵処理前の飼料原料の総エネルギーに対し、60%以上有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の微生物を用いて発酵処理することにより得られる家畜用飼料、その製造方法に関する。また、その家畜用飼料に使用方法において、該家畜用飼料を家畜に与えることにより、家畜から得られる排泄物中の微生物叢を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在日本において、例えば食品製造業、食品流通業、及び外食産業からは、大量の食品残渣、例えば食品製造副産物及び余剰食品が廃棄されている。その食品残渣の多くは、焼却又は埋め立て処理されているのが現状である。そこで、従来より、資源の有効活用の観点から、食品残渣を食品循環資源として飼料化又は肥料化する方法が検討されている。例えば、国内において消費される飼料原料の殆どは、輸入に頼っているのが現状であり、食品残渣を飼料化する方法は、飼料自給率の向上を図ることができると期待されている。またさらには、食品残渣の有効利用は、環境付加の低減を図ることもできると期待されている。近年では、そのような食品残渣を飼料原料として加工処理されたリサイクル飼料のことをエコフィード(ECOFEED)(登録商標:社団法人配合飼料供給安定機構)という言葉で表現し、使用されることも多くなってきた。
【0003】
しかしながら、エコフィードの原料となる食品残渣は、水分量が多く、そのまま飼料として再利用することは、飼料の安全性及び保存安定性の観点から好ましくない。そのため、食品残渣に対し腐敗及び臭気の発生を防止するための処理を施す必要がある。従来より、様々な技術によって食品残渣から飼料化処理が行われている。例えば食品残渣の乾燥技術としては、例えば油温減圧脱水乾燥方式、ボイル乾燥方式、及び高温乾燥方式が開発されている。しかしながら、これらいずれの方式であっても、処理に非常に大きなエネルギーコストがかかるという問題があった。
【0004】
そのような問題を解決するために、従来より特許文献1,2に開示されるように、食品残渣に微生物を添加した後、発酵処理と乾燥処理を組み合わせて実施する方法が知られている。かかる方法により、処理に必要なエネルギーコストの低減を図ることができる。特許文献1は、車載型生ごみ処理装置による生ごみの飼料化技術が開示されている。特許文献1の飼料化技術では、移動式の車載型生ごみ処理装置を用いて、生ゴミに微生物を添加して発酵及び乾燥処理する方法が開示されている。また、特許文献2は、発酵槽内で有機廃棄物としての有機物を発酵及び乾燥させる飼料化技術が開示されている。特許文献2の飼料化技術は、特定の床材で作られた床部、該床部に設けられた空気通路、及びロータリー型回転刃を備える発酵装置で床部上に配された有機物の切り返しと移動を同時に行い、有機物を発酵させながら乾燥処理する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10−34117号公報
【特許文献2】特開2006−116529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に開示される方法は、未だなお飼料化処理の完了までに多くのエネルギーを必要とするためさらにエネルギーコストの低減を図る必要があった。また、飼料原料を完全に飼料化するには、長時間を要する場合があるといった問題があった。さらに、上記方法により得られた飼料は、過発酵等が原因で残存する総エネルギー(Gross Energy)及び栄養価が低下する場合があるという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、飼料化原料から飼料を得る工程において、バチルス属の微生物及びジオバチルス属の微生物から選ばれる少なくとも一種を使用することにより上記課題が解決されることを見出したことによりなされたものである。
【0007】
その目的とするところは、飼料化原料から飼料を得る工程において、エネルギーコストの低減を図ることができる家畜用飼料、その製造方法及びその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の家畜用飼料は、飼料原料にバチルス属の微生物及びジオバチルス属の微生物から選ばれる少なくとも1種の微生物が配合され、発酵処理されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の家畜用飼料において、前記ジオバチルス属の微生物が、ジオバチルス・サーモデニトリフィカンス及びジオバチルス・カルドキシルオシリチカスから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の家畜用飼料において、前記家畜用飼料の総エネルギー(Gross Energy)は、乾物中において発酵処理前の飼料原料の総エネルギーに対し、60%以上有していることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の家畜用飼料において、さらに、多糖類分解酵素を含有することを特徴とする。
請求項5に記載の発明の家畜用飼料の製造方法は、飼料原料、並びにバチルス属の微生物及びジオバチルス属の微生物から選ばれる少なくとも1種の微生物を混合し、発酵処理することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の家畜用飼料の製造方法において、前記ジオバチルス属の微生物が、ジオバチルス・サーモデニトリフィカンス及びジオバチルス・カルドキシルオシリチカスから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は請求項6に記載の家畜用飼料の製造方法において、前記発酵処理は、前記家畜用飼料の総エネルギー(Gross Energy)が、乾物中において発酵処理前の飼料原料の総エネルギーに対し、60%以上有している段階で終了させることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の家畜用飼料の製造方法において、前記発酵処理は、前記家畜用飼料の含水率が40%未満となった段階で終了させることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の家畜用飼料の製造方法において、さらに、多糖類分解酵素を混合して発酵処理することを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、請求項5から請求項9のいずれか一項に記載の家畜用飼料の製造方法において、前記発酵処理は、撹拌機能及び送風機能を有する密閉式発酵処理装置、車載型密閉発酵処理装置、レーン式発酵処理装置、並びにピット式発酵処理装置から選ばれる少なくとも一種を用いて行われることを特徴とする。
【0016】
請求項11に記載の発明の家畜用飼料の使用方法は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の家畜用飼料の使用方法において、前記家畜用飼料を家畜に与えることにより、家畜から得られる排泄物中の微生物叢を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、飼料化原料から飼料を得る工程において、エネルギーコストの低減を図ることができる家畜用飼料、その製造方法及びその使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の家畜用飼料の製造方法を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の家畜用飼料は、飼料原料にバチルス属の微生物及びジオバチルス属の微生物から選ばれる一種を配合して、飼料原料を高温発酵処理によって飼料化することにより得られる。飼料原料にさらに多糖類分解酵素を含有して発酵処理を行ってもよい。
【0019】
本実施形態において使用される飼料原料は、家畜の栄養源となる繊維性多糖類を含んだものであれば特に限定されない。例えば、有機物資源の有効活用の観点から好ましくは、食品製造業、食品流通業、及び外食産業において廃棄される食品残渣、例えば食品製造副産物及び余剰食品等を利用することができる。食品製造副産物としては、例えば、生おから、醸造副産物、及び果実の搾汁残渣が挙げられる。醸造副産物としては、例えば酒粕、焼酎粕、ビール粕、及び味醂粕が挙げられる。その中でも、栄養価及び製造コストの観点から、産業廃棄物及び一般廃棄物として大量に且つ安価に入手可能な生おからがより好ましく用いられる。飼料原料中の水分含有率は、特に限定されないが、水分過多となり発酵処理中における通気性を確保することができない場合、飼料原料となりうる有機質繊維材料を添加することにより、飼料原料の水分含有率を調整してもよい。
【0020】
バチルス属の微生物及びジオバチルス属の微生物は、通常、グラム染色陽性、及び芽胞形成能を有し、好気的エネルギー代謝も可能な通性嫌気性細菌である。また、常温(20℃)〜90℃の範囲で増殖可能な微生物であり、飼料原料を発酵工程において高温域(約50〜90℃の温域)へ導くために必要な微生物である。バチルス属の微生物及びジオバチルス属の微生物としては、例えば、バチルス・アルヴェイ(B. alvei)、バチルス・アミロリチカス(B. amylolyticus)、バチルス・アゾトフィクサンス(B. azotofixans)、バチルス・サーキュランス(B. circulans)、バチルス・グルカノリチカス(B. glucanolyticus)、バチルス・ラーベー(B. larvae)、バチルス・ロータス(B. lautus)、バチルス・レンチモーバス(B. lentimorbus)、バチルス・マセランス(B. macerans)、バチルス・マッククオリエンシス(B. macquariensis)、バチルス・パバリ(B. pabuli)、バチルス・ポリミキサ(B. polymyxa)、バチルス・ポピリエー(B. popilliae)、バチルス・シクロサッカロリチカス(B. psychrosaccharolyticus)、バチルス・パルヴィフェイシェンス(B. pulvifaciens)、バチルス・チアミノリチカス(B. thiaminolyticus)、バチルス・ヴァリダス(B. validus)、バチルス・アルカロフィラス(B. alcalophilus)、バチルス・アミロリカフェイシャンス(B. amyloliquefaciens)、バチルス・アトロフェーアス(B. atrophaeus)、バチルス・カロテーラム(B. carotarum)、バチルス・ファーモス(B. firmus)、バチルス・フレクサス(B. flexus)、バチルス・ラテロスポラス(B. laterosporus)、バチルス・レンタス(B. lentus)、バチルス・リケニフォミス(B. licheniformis)、バチルス・メガテリウム(B. megaterium)、バチルス・ミコイデス(B. mycoides)、バチルス・ニアシニ(B. niacini)、バチルス・パントテニチカス(B. pantothenticus)、バチルス・パミラス(B. pumilus)、バチルス・シンプレックス(B. simplex)、バチルス・サブチリス(B. subtilis)、バチルス・サリンジェンシス(B. thuringiensis)、バチルス・スフェリカス(B. sphaericus)、ジオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)、ジオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)、ジオバチルス・コーストフィルス(Geobacillus kaustophilus)、ジオバチルス・サブテルラネンス (Geobacillus subterranens、ジオバチルス・サーモルーボランス(Geobacillus thermoleovorans)及びジオバチルス・カルドキシルオシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticas)が挙げられる。
【0021】
それらの中でも、飼料原料として食品残渣を発酵する場合に有効なジオバチルス属の微生物が好適に用いられ、ジオバチルス属の中でも特に有効な微生物としてジオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)、ジオバチルス・カルドキシルオシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticas)が好適に用いられる。これらの中でも、日本の独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターへ2005年12月26日に寄託されたジオバチルス・サーモデニトリフィカンス(受託番号NITE BP-157)及び2008年4月16日に受領されたジオバチルス・カルドキシルオシリチカス(受領番号NITE ABP-567)がより好ましい。例示された微生物はいずれも公知の微生物であることから、各微生物機関において寄託および保管された微生物が使用されても良いし、公知のスクリーニング法により自然界から単離された微生物が使用されても良い。
【0022】
2008年4月16日に受領されたジオバチルス・カルドキシルオシリチカス(C120702A株)についてその科学的性質を示す。
グラム陽性桿菌
芽胞を形成
ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地上で65℃、7時間培養でRough型コロニー形成
硝酸塩還元能あり・ガス産生
多糖類分解酵素は、バチルス属の微生物及びジオバチルス属の微生物の栄養源となる低分子糖類(例えば、グルコース)を生成させるとともに発酵を促進させるため、好ましくは飼料原料に添加される。本実施形態において用いられる多糖類分解酵素が作用する基質は、多糖類であれば特に限定されないが、飼料原料に多く含有されるセルロース、ヘミセルロース、キシラン及びペクチン等の食物繊維成分から選ばれる少なくとも一つの多糖類であることが好ましい。つまり、本実施形態において用いられる多糖類分解酵素としては、例えば、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、及びペクチナーゼが挙げられる。
【0023】
多糖類分解酵素は、糖鎖の末端から特定数の糖単位を切り離していくエキソ型の分解酵素及び切断様式がランダムのエンド型の分解酵素のいずれを使用してもよい。多糖類分解酵素の至適温度は、発酵処理の温度領域で活性を有していれば特に限定されず、好ましくは10℃〜80℃、より好ましくは、15℃〜80℃である。
【0024】
家畜用飼料の総エネルギー(GE:cal/kg)は、乾物中において発酵処理前の飼料原料の総エネルギーに対し、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上有している。家畜用飼料の総エネルギーを60%以上にすることにより、栄養価の高い家畜用飼料を提供することができる。総エネルギーは、家畜用飼料中の糖、脂質、及びタンパク質の含有量(含有率)を測定することにより求めることができる。家畜用飼料の総エネルギーが発酵開始前の60%未満である場合、過発酵により可消化エネルギー(Digestible Energy:DE)や代謝エネルギー(Metabolizable Energy:ME)までも大幅に低下する場合があり、飼料として好ましくない。
【0025】
家畜用飼料の含水率は、好ましくは40%未満、より好ましくは20%未満、さらに好ましくは13.5%未満である。家畜用飼料の含水率が40%以上である場合は、家畜用飼料の保存時に腐敗菌による腐敗が進行しやすくなり、保存安定性が低下する場合がある。
【0026】
本実施形態の家畜用飼料の製造方法において、高温発酵処理は放置又は撹拌しながら行われる。酸素の補給による発酵温度の維持及び水分の揮発の促進の観点から好ましくは撹拌しながら行われる。また、処理時間の短縮及び処理労力の低減の観点から、好ましくは公知の家畜用飼料の原料処理装置を使用してもよい。家畜用飼料の原料処理装置としては、例えば、撹拌機能及び送風機能を有する密閉式発酵処理装置、車載型密閉発酵処理装置、レーン式発酵処理装置、並びにピット式発酵処理装置が挙げられる。このような家畜用飼料の原料処理装置を用いることで、飼料原料を含水率の低い家畜用飼料とするまでの処理時間を優位に短縮できる。
【0027】
次に、本実施形態に係る家畜用飼料の作用について説明する。
例えば、飼料原料としての生おからに、ジオバチルス属の微生物、及び多糖類分解酵素としてのセルラーゼが配合された場合、生おからは以下のような反応(作用)によって分解される。
【0028】
まず、一次分解として、飼料原料中の多糖類、例えばセルロースがセルラーゼにより分解及び低分子化される。それに伴い、低分子化されたセルロース(糖)を餌とする微生物が増殖する。微生物の増殖に伴い、飼料原料中の温度は前記中温域へ上昇する。そして、中温菌の代謝/発酵熱の利用により、高温菌としてのバチルス属の微生物又はジオバチルス属の微生物が選択的に増殖する。その結果、飼料原料の温度が45〜50℃付近まで上昇する。
【0029】
このとき、攪拌、ブロアー等の空気混入作業により、積極的に飼料原料に空気を混合されてバチルス属の微生物又はジオバチルス属の微生物の好気的発酵が誘導される。バチルス属の微生物又はジオバチルス属の微生物が盛んに増殖することにより、飼料原料の温度が高温域(約60℃〜95℃)へ上昇する。かかる高温域での処理により、水分含有量の減少、高分子繊維及びタンパク質等の低分子化等が行われる。また、腐敗性の嫌気性細菌の増殖が抑制されるとともに、大腸菌群及び病原性細菌が殺菌される。
【0030】
発酵処理は、家畜用飼料の総エネルギーが、好ましくは乾物中において発酵処理前の飼料原料の総エネルギーに対し、60%以上有している段階で終了させる。60%未満となると過発酵により家畜用飼料の栄養価の低下を招くおそれがある。このように、飼料原料の発酵処理において、完全に発酵が終了する前、つまり飼料原料中の微生物の栄養源としての有機物が枯渇する前に発酵を終了させることで、総エネルギーや栄養成分が多く残存する品質の良い家畜用飼料を得ることができる。
【0031】
また、より好ましくは、発酵処理は、家畜用飼料の含水率が40%未満となった段階で終了させる。含水率は、モニタが容易であり、発酵処理の完了を容易に判断することができる。また、家畜用飼料の含水率が40%未満となると微生物による発酵の進行が低下する。発酵の終了は、撹拌による酸素の供給を遮断することにより、又は強制的に冷却することにより行われる。
【0032】
上記のように得られた家畜用飼料は、通常の飼料として加熱による殺菌処理を必要とすることなく家畜に給餌させることができる。また、本実施形態により得られた家畜用飼料を市販の家畜用飼料等に混合させて家畜に給餌させてもよい。市販の家畜用飼料としては、家畜の飼料又は飼料原料となり得るものであれば特に限定されない。家畜への安全性が高い限りにおいて、何れも利用することが可能である。家畜用飼料の調製方法としては、公知の方法を適宜採用することができる。
【0033】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の家畜用飼料の製造方法において、飼料原料に常温域から高温域で増殖可能なバチルス属の微生物及びジオバチルス属のうち少なくとも1種の微生物が配合され、高温発酵処理される。したがって、従来の飼料原料の飼料化方法に比べ低いエネルギーコストで飼料化処理することができる。つまり、バチルス属の微生物及びジオバチルス属のうち少なくとも1種の微生物により、飼料原料の高温域における発酵が有利に促進され、その発酵熱により水分の揮発を促進させることが可能となる。バチルス属の微生物及びジオバチルス属のうち少なくとも1種の微生物による水分の揮発促進効果によって、特に家畜用飼料の原料処理装置を用いた場合は、運転時間の短縮及び加温の省力化によって、消費電力を大幅に低減できる。
【0034】
(2)本実施形態の家畜用飼料の製造方法において、飼料原料に常温域から高温域で増殖活性を有するバチルス属の微生物及びジオバチルス属のうち少なくとも1種の微生物が配合され、高温発酵処理される。したがって、飼料原料の水分含有率の低減を容易に図ることができるのみならず、腐敗菌、病原菌等の繁殖を抑えることができる。
【0035】
(3)本実施形態の家畜用飼料の製造方法において、好ましくは家畜用飼料の総エネルギー(GE)は、乾物中において発酵処理前の飼料原料の総エネルギーに対し、60%以上有している段階で完了する。したがって、過発酵による家畜用飼料の栄養価の低下を防止することができる。
【0036】
(4)本実施形態の家畜用飼料の製造方法において、好ましくは、多糖類分解酵素が含有される。したがって、バチルス属の微生物及びジオバチルス属のうち少なくとも1種の微生物の増殖に必要な栄養源を供給することができ、発酵処理を促進させることができる。
【0037】
(5)本実施形態の家畜用飼料の製造方法において、好ましくは、発酵処理は家畜用飼料の含水率が40%未満となった段階で終了させる。したがって、特に保存・運搬時における家畜用飼料の保存安定性を向上させることができる。また、含水率は容易に測定が可能であり、発酵の進行状況を容易にモニタすることができる。
【0038】
(6)本実施形態の家畜用飼料の製造方法において、好ましくは飼料原料として食品残渣が用いられる。食品残渣の有効活用を図るとともに廃棄量の低減を図ることにより、環境負荷を低減することができる。
【0039】
(7)本実施形態の家畜用飼料の製造方法において、発酵処理は、好ましくは撹拌機能及び送風機能を有する密閉式発酵処理装置、車載型密閉発酵処理装置、レーン式発酵処理装置、並びにピット式発酵処理装置から選ばれる少なくとも一種を用いて行われる。したがって、飼料化処理を容易に行うことができるとともに、飼料化処理を早期に終了することができる。
【0040】
(8)本実施形態において、家畜用飼料は、バチルス属の微生物及びジオバチルス属のうち少なくとも1種の微生物を含有している。したがって、家畜から得られる排泄物中の微生物叢を調整することができる。それにより、特に、家畜排泄物のアンモニア臭等の悪臭の低減効果が期待される。
【0041】
(9)本実施形態において、家畜用飼料は、家畜から得られる排泄物中の微生物叢をバチルス属の微生物及びジオバチルス属のうち少なくとも1種の微生物を含有する微生物叢に調整することができる。したがって、家畜排泄物を用いてさらに堆肥化処理を行う場合、種菌を用いることなく堆肥化処理を進行させることができる。堆肥化処理により、家畜排泄物のさらなる悪臭の低減効果が期待される。
【0042】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態の家畜用飼料が適用される動物としては、特に限定されず、例えば鶏、牛、豚、馬、及び羊が挙げられる。
【0043】
・上記実施形態の家畜用飼料の品質を向上させるため、各種添加剤、例えば、その他の加水分解酵素、酵母・乳酸菌等の生体に有用な菌、及び栄養補助成分を配合してもよい。
【実施例】
【0044】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
<家畜用飼料の調整>
下記に示される各例の条件で処理(発酵)を行い、飼料原料から家畜用飼料を製造した。得られた実施例1の家畜用飼料について表1に示される各種成分の含有量及び総エネルギー(GE:cal)を求めた。水分以外の成分は乾物中の含有率を示す。結果を表1に示す。各種成分の含有量は、飼料分析基準研究会編「飼料分析法・解説 −2004−」記載の方法にしたがって測定した。総エネルギー(GE)は、各成分の含有量を基に求めた計算値を表1に示す。尚、比較例2,3は、独立行政法人農業技術研究機構編「日本標準飼料成分表」(2001年版)の数値(比較例2:トウフ粕(生)、比較例3:トウフ粕(乾))を示す。

(消費電力量の評価)
また、実施例1,2及び比較例1について、発酵又は乾燥の際使用する装置の消費電力量の評価を下記基準に従って表2に示す。100kwh/t未満を「優れる」、100kwh/t以上500kwh/t未満を「良好」、500kwh/t以上1000kwh/t未満を「やや悪い」、1000kwh/t未満を「悪い」とした。
【0045】
(細菌の増殖数の検出)
また、実施例1,2、及び比較例3について、サルモネラ菌、大腸菌、クロストリジウム菌、及びジオバチルス属について、増殖する細菌数を検出した。結果を表3に示す。比較例3のトウフ粕(乾)については、市販のものについて試験した。尚、それぞれの菌種の検出は、飼料分析基準研究会編「飼料分析法・解説 −2004−」および社団法人日本食品衛生協会編「食品衛生検査指針」記載の方法にしたがって行った。ジオバチルス属については、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地(日本製薬社製)を使用して行った。
【0046】
(実施例1)
飼料原料である生おから(水分含有率75%)約4t、ジオバチルス属の微生物(ジオバチルス・サーモデニトリフィカンス及びジオバチルス・カルドキシルオシリチカスの両方を含む)と多糖類分解酵素としてエキソ型セルラーゼを含有する酵素から構成される発酵資材(メニコン社製)40kgを密閉式発酵処理装置(中部エコテック社製)に投入した。送風量2立方メートル/分・tの条件下で2日間発酵処理することにより、実施例1の家畜用飼料を製造した。発酵処理期間中に消費した密閉式発酵処理装置の電力量の評価を表2に示す。
【0047】
(実施例2)
飼料原料である生おから(水分含有率75%)約4t、ジオバチルス属の微生物(ジオバチルス・サーモデニトリフィカンス及びジオバチルス・カルドキシルオシリチカスの両方を含む)と多糖類分解酵素としてエキソ型セルラーゼを含有する酵素から構成される発酵資材(メニコン社製)40kgを密閉式発酵処理装置(中部エコテック社製)に投入した。送風量1立方メートル/分・tの条件下で4日間発酵処理することにより、実施例2の家畜用飼料を製造した。発酵処理期間中に消費した密閉式発酵処理装置の電力を表2に示す。
【0048】
(比較例1〜3)
比較例1として、飼料原料である生おから(水分含有率75%)約1tを飼料乾燥機(イナックス社製)に投入し、450℃1時間乾燥処理した。この乾燥処理中に消費した飼料乾燥機の電力を表2に示す。
【0049】
比較例2として、実施例1及び実施例2の飼料原料である生おからについて、独立行政法人農業技術研究機構編「日本標準飼料成分表」(2001年版)から各成分の含有率を抜粋して記載した。
【0050】
比較例3として、トウフ粕(乾)について、独立行政法人農業技術研究機構編「日本標準飼料成分表」(2001年版)から各成分の含有率を抜粋して記載した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

表1,2に示されるように、実施例1,2は、飼料原料の水分含有率を低減させる飼料化処理において、各比較例に対し、消費電力量を大幅に低減させることができることが確認された。つまり、本実施形態の方法により、少ないエネルギーコストで飼料原料から乾燥した家畜用飼料を製造することができることが確認された。また、多糖類、蛋白質等の各栄養成分の含有率の大幅な減少は確認されなかった。尚、表3に示されるように完成した飼料中において病原菌及び腐敗菌は確認されなかった。
【0054】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)前記家畜用飼料を家畜に与えることにより、家畜から得られる排泄物を原料として堆肥化処理することにより得られる堆肥。したがって、この(a)に記載の発明によれば、悪臭を大幅に低減させた堆肥を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼料原料にバチルス属の微生物及びジオバチルス属の微生物から選ばれる少なくとも1種の微生物が配合され、発酵処理されていることを特徴とする家畜用飼料。
【請求項2】
前記ジオバチルス属の微生物が、ジオバチルス・サーモデニトリフィカンス及びジオバチルス・カルドキシルオシリチカスから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の家畜用飼料。
【請求項3】
前記家畜用飼料の総エネルギー(Gross Energy)は、乾物中において発酵処理前の飼料原料の総エネルギーに対し、60%以上有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の家畜用飼料。
【請求項4】
さらに、多糖類分解酵素を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の家畜用飼料。
【請求項5】
飼料原料、並びにバチルス属の微生物及びジオバチルス属の微生物から選ばれる少なくとも1種の微生物を混合し、発酵処理することを特徴とする家畜用飼料の製造方法。
【請求項6】
前記ジオバチルス属の微生物が、ジオバチルス・サーモデニトリフィカンス及びジオバチルス・カルドキシルオシリチカスから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の家畜用飼料の製造方法。
【請求項7】
前記発酵処理は、前記家畜用飼料の総エネルギー(Gross Energy)が、乾物中において発酵処理前の飼料原料の総エネルギーに対し、60%以上有している段階で終了させることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の家畜用飼料の製造方法。
【請求項8】
前記発酵処理は、前記家畜用飼料の含水率が40%未満となった段階で終了させることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の家畜用飼料の製造方法。
【請求項9】
さらに、多糖類分解酵素を混合して発酵処理することを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の家畜用飼料の製造方法。
【請求項10】
前記発酵処理は、撹拌機能及び送風機能を有する密閉式発酵処理装置、車載型密閉発酵処理装置、レーン式発酵処理装置、並びにピット式発酵処理装置から選ばれる少なくとも一種を用いて行われることを特徴とする請求項5から請求項9のいずれか一項に記載の家畜用飼料の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の家畜用飼料の使用方法において、前記家畜用飼料を家畜に与えることにより、家畜から得られる排泄物中の微生物叢を調整することを特徴とする家畜用飼料の使用方法。