説明

家畜用飼料

【課題】 家畜の成長促進効果、糞性状改善効果、および糞量低減効果を有する飼料を提供する。
【解決手段】 ポリカプロラクトンを含有することを特徴とする飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜の成長を促進し、糞性状を改良し、糞量を低減するための家畜用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質を家畜飼料に少量添加することにより、家畜の成長が促進することが1940年代に発見された。それ以来、家畜の成長を促進して飼料効率を上げる手段として、家畜の飼料に抗生物質を添加することが広く行われてきた。
【0003】
抗生物質は、(1)家畜の病原菌感染の予防、(2)代謝の改善、(3)腸内の有害菌の増殖抑制などの効果により成長促進作用を表すとされているが、詳細は依然不明である。その一方、飼料に抗生物質を混ぜることにより結果として抗生物質を広く環境にばら撒くこととなり、そのため発生する抗生物質耐性菌の出現が社会問題となっている。近年、抗生物質の飼料への添加が厳しく規制されるようになってきており、また、生産者からも抗生物質の代替物についての要望が大きくなってきている。
【0004】
抗生物質代替物の動きとしては有機酸の利用が挙げられる。有機酸は弱酸であるが抗菌性を有するため、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸などが既に飼料添加され、抗生物質代替物として使われている。しかし、抗生物質に比較してその抗菌性が弱い、吸収されやすいため小腸で比較的早く吸収され効果が大腸まで及ばない、給餌設備がその酸性のため錆びてしまう等の問題点があった。
【0005】
ポリヒドロキシカルボン酸を飼料添加する事は特許文献1に記載されているが、実施例は生理食塩水のpHがポリ乳酸の添加で低下した事を示すのみであり、実際経口投与された際の結果については何も記載されていない。また、飼料に添加された際の効果については何の記述もされていない。更にはポリマーの粒径を制御して、ポリマーより遊離する有機酸の量を調節する概念については何ら記載されていない。また、特許文献1には全てのポリヒドロキシカルボン酸が有用であるかのごとき記載が為されているが、本願出願人らの検討ではポリヒドロキシブチレート(PHB)には何ら成長促進効果が認められず、ポリヒドロキシカルボン酸をひと纏めとして扱うのは、間違っているとの結果を得ている。
【0006】
家畜の飼料は粉砕などの加工は行われるものの、加熱処理等は一般には行われないために、消化吸収率が低く、飼料効率が低いという課題がある。また、人には潰瘍性大腸炎やクローン病など炎症性腸管障害症と総称される病気があり、下痢を引き起こすことが知られている。同様な障害は家畜にもあり、飼料の吸収低下や健全肥育を妨げることが知られている。
【0007】
また、近年、家畜排泄物の不適切な処理による河川、地下水の汚染が問題となっている。家畜排泄物は、通常堆肥化処理される。ベチャベチャの家畜排泄物はそのままでは発酵して堆肥とすることは出来ないことから、オガクズなどの水分調整剤を加えて通気性を改良してから堆肥化処理を行う。オガクズ、もみ殻、稲ワラ等を加える事により堆肥化処理が可能となるだけではなく、スコップ、シャベル等による取り扱いやすさも改良される。しかし、これら資材は年々入手が難しくなっていることに加え、嵩張る事から保管場所の確保が必要である。
【0008】
糞の水分を減少させ性状を改良する方法としては、木酢液などを飼料に添加して鶏糞中の水分を減らす技術が公開されている(特許文献2)。また、ラフィノースを用いて軟便
を防止する技術(特許文献3)及びガラクトオリゴ糖を利用して家畜の下痢、軟便を防止する技術(特許文献4)も公開されている。
【0009】
また、家畜排泄物処理に関する法規制が厳しくなることから堆肥化処理される家畜排泄物の更なる増加が予想され、畜産農家の排泄物処理に関する負担を軽減する方法の出現が望まれていた。
【0010】
【特許文献1】特開平11−092552号公報
【特許文献2】特開平05−192091号公報
【特許文献3】特開平05−003758号公報
【特許文献4】特開平05−219897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記観点からなされたものであり、家畜の成長促進効果、糞性状改善効果、および糞量低減効果を有する飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ポリカプロラクトン(ε−カプロラクトン)が、家畜に経口摂取されたときに徐放効果を有し、成長促進効果、糞性状改善効果、および糞量低減効果を示すことを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、ポリカプロラクトンを含有することを特徴とする飼料を提供するものである。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)ポリカプロラクトンを含有することを特徴とする飼料。
(2)前記ポリカプロラクトンの粒径が20μm〜1mmである(1)記載の飼料。
(3)前記ポリカプロラクトンの含有量が10質量ppm〜1質量%である(1)又は(2)記載の飼料。
【発明の効果】
【0015】
本発明の飼料に含まれるポリカプロラクトンは、家畜が経口摂取した際にカプロラクトンの徐放効果を有する、抗生物質代替の資材となる。
【0016】
本発明の飼料により、家畜の糞性状が改良され、それ自体取り扱いやすくなるだけではなく、堆肥化処理に必要な水分調節材の使用量の減少も期待される。これは、オガクズ、もみ殻、稲ワラなどの資材が入手しにくくなっている現状にあって、コスト的に畜産農家のメリットとなるだけでなく、保管場所も小さくてすむという副次的効果も生じる。
【0017】
本発明の飼料を家畜に給餌することにより、大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなどの有害かつ酸不耐性の細菌が減少し、腸内フローラが正常化する。腸内フローラが正常化した結果、アミノ酸の脱アミンが減少しアンモニア発生が減少するとともにたんぱく質とエネルギーの消費効率が改善される。
【0018】
また、本発明の飼料を家畜に給餌することにより、消化管粘膜の成長による吸収効率の増加、糞性状の改善(含水率の低下)、糞量の低減などの効果も生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明は、ポリカプロラクトンを含有することを特徴とする飼料である。
【0021】
飼料に含まれるポリカプロラクトンの粒径は、20μm〜1mmが好ましい。20μm以下の場合には、分解が速く効果が不十分であり、1mm以上の場合には、分解が遅く効果が不十分となる。ポリカプロラクトンの分子量は特に制限されない。
【0022】
飼料に含まれるポリカプロラクトンの量としては、好ましくは10質量ppm〜1質量%であり、10質量ppm以下の場合には、効果が不十分であり、1質量%以上の場合には、コスト高となる。
【0023】
本発明のポリカプロラクトン(PCL)は、いかなる製法によって製造されたものでもよい。本発明において、アルドリッチ品 Mn10000、Mw14000などの市販のポリカプロラクトンを使用することができる。例えば、このポリカプロラクトンを、クロロホルムに溶解した後、メタノールを貧溶媒として再沈殿操作を行い微粉化、またはブレンダーにより破砕した後に分級し、所定の粒径のポリカプロラクトンとして使用することができる。
【0024】
本発明の飼料は、ポリカプロラクトンを飼料に直接添加してポリカプロラクトン含有飼料としてもよいし、ポリカプロラクトンを添加した飼料添加物を飼料に添加してポリカプロラクトン含有飼料としてもよい。
【0025】
飼料添加物としては、生菌剤(例えば、エンテロコッカス類、バチルス類、ビフィズス菌類等)、酵素(例えば、アミラーゼ、リパーゼ等)、ビタミン(例えば、L−アスコルビン酸、塩化コリン、イノシトール、葉酸等)、ミネラル(例えば、塩化カリウム、クエン酸鉄、酸化マグネシウム、リン酸塩類等)、アミノ酸(例えば、DL−アラニン、DL−メチオニン、塩酸L−リジン等)、有機酸(例えば、フマル酸、酪酸、乳酸、酢酸およびそれらの塩類等)、抗酸化剤(例えば、エトキシキン、ジブチルヒドロキシトルエン等)、防カビ剤(例えば、プロピオン酸カルシウム等)、粘結剤(例えば、CMC、カゼインナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等)、乳化剤(例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等)、色素(例えば、アスタキサンチン、カンタキサンチン等)、着香料(例えば、各種エステル、エーテル、ケトン類等)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
本発明の飼料の給餌の対象となる動物種としては、鶏、豚、牛、犬、猫(品種は問わない)などの家畜動物、ペット動物が挙げられるが、これらに限定されない。同様に、家畜動物などへの給餌方法も特に限定されない。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、これら実施例にのみ、限定を受けないことは言うまでもない。
【0028】
1.試料の調整
(1)Poly[ 3-hydroxybutyric acid ](PHB)
Fluka製をそのまま分級し、試験(比較例)に供した。
(2)ポリカプロラクトン(PCL)
アルドリッチ品 Mn10000、Mw14000を用いた。クロロホルムに溶解した後、メタノールを貧溶媒として再沈殿操作を行い微粉化、またはブレンダーにより破砕した後に分級し、試験(実施例)に供した。
【0029】
2.動物試験
(1)共試動物:採卵鶏、雌、63日齢、5羽/区 飼料:レイヤー用飼料SDL-NO.2(九動株式会社)
上記で分級したPHB又はPCLを各濃度でレイヤー用飼料SDL-NO.2に混合し、飼料として用いた。
(2)飼育方法
プレハブ飼育施設内に試験区ごとに金網ケージを設置し、給餌および給水は樋による不断給餌および不断給水とした。温度は25℃〜30℃の範囲とした。区分けは体重測定後、体重の大きいものより各区に振り分け、各区の平均体重が均等になるよう試験区ごとに5羽ずつ配分した。
(3)測定方法
試験開始時および試験終了時の鶏の体重、飼料摂取量を測定した。また試験開始後、7日間毎日一定時間に採糞して、試験期間を通じての重量測定、および7日目における糞の含水率の測定を行った。
各粒径のPCLを0.01, 0.1, 1質量%で配合した飼料を与えたときの結果を表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
粒径が20μm〜100μm(試験区2〜4)、100μm〜1mm(試験区5〜7)の場合においては、無添加(試験区1)の場合と比較して、鶏の増体重、糞量の減少、含水率の低下に大きな効果が確認された。また、0.01質量%と0.1質量%との間で添加量と効果との間における相関が確認できた。
【0032】
一方、粒径が20μm以下(試験区8〜10)と粒径が1mm〜2mm(試験区11〜13)の場合では、鶏の増体重、糞量の減少、含水率の低下に関して無添加(試験区1)との差は明確ではなく、PCLの分解が制御されず、カプロラクトンの遊離が適度に起きていないことが示された。
【0033】
表2では、PCLの効果をPHBと比較した。
【0034】
【表2】

【0035】
また表2ではPCLにおいて成長促進効果の著しい粒径100μm〜1mmの場合(試験区5〜7)の添加効果をPHBの場合(試験区14〜16)と比較したが、PHBにおいては無添加(試験区1)と比較して何ら成長促進効果が認められず、PCLとの作用の違いが伺われる結果となった。
【0036】
結果として、ポリカプロラクトンを飼料に添加する事により、鶏の成長促進効果、糞性状改善効果(含水率の低下)、および糞量低減効果が確認され、それらはポリカプロラクトンの添加量、粒径の影響を受けることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の飼料は、家畜の成長促進効果、糞性状改善効果、および糞量低減効果を有する。従って、本発明は、畜産用飼料、ペット動物の分野などに適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカプロラクトンを含有することを特徴とする飼料。
【請求項2】
前記ポリカプロラクトンの粒径が20μm〜1mmである請求項1記載の飼料。
【請求項3】
前記ポリカプロラクトンの含有量が10質量ppm〜1質量%である請求項1又は2記載の飼料。

【公開番号】特開2008−220279(P2008−220279A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63848(P2007−63848)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】