説明

容器入りキムチの製造法

【課題】本発明は、低温加熱殺菌で発酵を停止することにより、新鮮な食味を長期間保った美味しいキムチを提供することを目的とする。
【解決手段】汚れを水で洗い落とした野菜を食塩水に漬ける下漬け工程と、塩付け工程後の野菜を水洗して食塩水を洗い流す塩抜き工程と、塩抜き工程後の野菜に調味材を塗る味付け工程と、味付け工程後の野菜を容器に入れ密封する包装工程と、包装工程後の野菜を加圧加熱釜内で殺菌温度になるまで発酵させる工程と、殺菌温度に維持して殺菌する殺菌工程とを、順次経ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビンや袋などの容器に詰めたキムチの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
キムチは、赤唐辛子のたくさん入った韓国特有の漬物で、原材料の具材には白菜、大根、胡瓜などの野菜が多く使われる。このため低カロリーであるうえ、繊維質なので成人病の予防に良いとされている。また赤唐辛子を使って味付けするので、漬物にしては塩分が少ないし、また唐辛子はビタミンCの含有量も多いので、風邪などの予防に役立ち健康的な食品である。
キムチを作るには、具材の野菜にヤンニョム等の調味材を塗り込んで漬ける。ヤンニョムは、赤唐辛子を練ったもの、にんにく、生姜などの他、梨やりんご等の果物、大根や人参の千切り、アミやアサリ等の魚介類の塩辛、明太子やホタテの貝柱などの海産物等、多種多様な食材を混ぜ合わせて作られている。このためキムチは、他の漬物と比べ栄養価が高い。
【0003】
キムチは発酵食品である。発酵が進むに従い乳酸菌が増え、味に深みが出てくる。
商品としてのキムチは容器に入れて流通するが、キムチは容器の中でも発酵が進むため、容器には食べごろの時期が表示されていて、消費者の目安になっている。食べごろのキムチは、適度に発酵していて乳酸を含むため、乳酸による防腐作用により、腸内の酸度を下げて、腸内環境を整える効能がある。よく発酵させたキムチは保存性が良いが、発酵が進みすぎると、腐敗臭が生じたり、味も酸っぱくなったり、食感もしんなりして、色も鮮やかでなくなる。
キムチの食べごろには好みがある。韓国ではよく発酵した酸っぱいキムチが好まれるが、日本ではパリパリした食感の浅漬け状態が好まれる。
【0004】
そこで過剰な発酵を抑制し、食べごろの時期で発酵を停止することが提案されている(特許文献1)。しかしこの先行技術では、キムチの中に銀系抗菌剤を混ぜて発酵を停止するため、無添加食品の嗜好が強い昨今の消費者には好まれない、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-31367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらのことから本発明が解決しようとする課題は、抗菌剤のような添加物を使用しないで、キムチの発酵を食べごろで停止し、食味を長期間一定に保つことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究の結果、キムチを容器に真空密封し、これを低温殺菌温度で低温殺菌すれば、乳酸菌の増殖を止めてキムチの発酵程度を食べごろの状態で長時間維持でき、しかも雑菌も死滅できることを知見した。
すなわち請求項1の発明は、
汚れを洗い落とした野菜を塩に漬ける下漬け工程と
下漬け工程後の野菜を水洗して塩分を取り除く塩抜き工程と
塩抜き工程後の野菜に調味材を付着する味付け工程と
味付け工程後の野菜を容器に入れ真空密封する包装工程と
包装工程後の野菜を加圧加熱釜内で予備温度になるまで加熱する予備加熱工程と
予備加熱工程後の野菜を予備加熱温度より高い低温殺菌温度に維持して殺菌する低温殺菌工程と
からなる容器入りキムチの製造方法である。
【0008】
次に請求項2の発明は、
請求項1の発酵工程が、前段と後段の2段階の昇温工程と、これら2段階の昇温工程の中間で、33〜36℃の予備加熱温度に保つ予備加熱温度保持工程と、からなることを特徴とする容器入りキムチの製造方法である。
【0009】
また請求項3の発明は、請求項1の低温殺菌工程の低温殺菌温度が55〜65℃で、それを維持する時間が1時間半〜2時間半であることを特徴とする容器入りキムチの製造方法である。
【0010】
さらに請求項4の発明は、請求項1の下漬け工程の塩が野菜に対し重量比2.5〜3.5%の量であることを特徴とする容器入りキムチの製造方法である。
【0011】
また請求項5の発明は、請求項1の下漬け工程の塩が重量比で食塩100に対し乳酸カルシウム5を含むことを特徴とする容器入りキムチの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、味付けした野菜を容器に真空密封した後、加圧加熱釜で加圧加熱する。キムチを発酵させる乳酸菌は好気性のため真空状態では繁殖しずらい。そこで真空密封すると、それまでに発酵し続けていたキムチの乳酸菌が繁殖停止または繁殖率急低下する。
これを加圧加熱釜で予備加熱すると、容器の中心温度と周辺温度が平均化する。温度が平均化したら予備加熱温度より高い温度すなわち低温殺菌温度まで温度を上げ、暫くその温度を維持する。この工程で、乳酸菌の繁殖が完全に停止し、同時に大腸菌などの病原菌が死滅する。
出来上がったキムチは低温殺菌のため野菜のパリパリ感があり、発酵が停止しているので食べごろ感が長期間保持できるという効果を奏する。
このように低温殺菌を加圧加熱釜の中で行なうので、密封した容器の内圧が発酵するガスで上昇しても、容器の外から加わる圧力とバランスして容器が破損することがない。このため製造中にキムチが容器から漏れ出ることがない。
また、予備加熱工程において、温度を33〜36℃に保つと、乳酸菌の繁殖を抑えながら容器内部の温度を平均化でき、次工程において短時間に低温殺菌温度に加熱できる。
また低温殺菌工程において、殺菌温度を55〜65℃で1時間半〜2時間半の時間継続すると、乳酸菌の増殖が完全に止まり発酵が停止するため、従来のように流通中にキムチの発酵が進むことがなく、食べごろ感が長期間保たれ商品価値が下がらない。
加えてこの工程中、容器内はpHが4.8〜5.2の弱酸性であるため、大腸菌や病原菌などの雑菌は死滅する。このため、冷暗所に保管する限り、開封するまで腐敗しない。しかも殺菌するのに、抗菌剤のような添加物は使用しないので、安心である。
この殺菌温度は低温だから、乳酸菌は死滅せず静止状態にあり、野菜も煮えたぎることがない。殺菌温度が55℃未満では殺菌が不十分で、65℃を越えると野菜のたんぱく質が凝固し食味が落ちる。ここで55℃に設定した場合は約2時間半、65℃に設定した場合は約1時間半が適当である。温度や時間は調味材の種類に応じて調整する。
下漬け工程の塩は、野菜に対し2.5重量%〜3.5重量%の範囲内の量であれば、塩分が少なすぎたり多すぎたりせず、発酵も進みやすい。
下漬け工程の塩に食塩100に対し5の重量比で乳酸カルシウムを加えると、野菜の表面に乳酸カルシウムの層ができ、野菜の食感にぱりぱり感が出て「しんなり」しない。乳酸カルシウムはカルシウムの補給にもなる。
【0013】
一般的なキムチは、容器に詰めて輸送中または店頭に並べている間に発酵が進んで、食べるときには、発酵しすぎの状態になってしまうことが多い。
本発明の製造法によるキムチは、真空密封のうえ低温殺菌してあるので、発酵が停止し、常温保存が可能である。このため店頭に並べている間に発酵が進んでしまうことがない。購入者は容器から取り出した時に、一番食べごろのキムチを、漬けたてそのままの状態で、食することができる。また乳酸菌は静止状態であっても生きているので、体内で整腸作用を発揮する。
さらに加圧加熱釜の温度設定により、発酵を適度に調整できるので、キムチが漬かりすぎて、くたくたにならず、パリパリ感のあるキムチを、鮮やかな色のままで保存できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のキムチ製造工程における容器内の温度の時間的変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
キムチの素材は、白菜、大根、胡瓜などの、多様な野菜が使用できるが、ここでは代表的な白菜を例に説明する。
まず、原材料の白菜を、四つ割にして、水洗いしたのち、約1昼夜、塩で下漬けする。この塩は食塩100に対し5の割合の乳酸カルシウムを含むものを用いる。塩は白菜に対し重量比3%の分量程度、野菜の上に撒き、野菜と混ぜてから、重石を載せて漬け込む。
浸漬時間は、一昼夜より時間が短いと白菜に塩分が充分浸透しないし、長いと塩分がしみ込み過ぎて水洗いしても塩味が抜けない。
【0016】
乳酸カルシウムを添加することで、ぱりぱりした食感に仕上がる。
【0017】
下漬け後、白菜を水洗いして塩抜きする。
水洗いした白菜の葉と葉の間には、練った赤唐辛子に、にんにく、ごま、生姜や梨、りんご、魚のアミの塩辛やイカの塩辛、アサリなど様々な調味材を塗って挟み込む。大根やにんじんも千切りにして混ぜる。
【0018】
次に上記の調味材を挟んで塗り味付けした白菜を適量ずつ密封容器に詰める。密封容器は、ガラス瓶でも、ガスバリア性の合成樹脂フイルム製袋でも良い。これらの容器を脱気し真空密封して加圧加熱釜に入れ、加圧しながら加熱する。
釜内の温度の時間的変化を図1に示す。
加熱開始後20分で常温から35℃まで昇温する(前段の昇温工程)。
35℃を20分維持する(予備加熱工程)。
その後、20分で60℃まで昇温する(後段の昇温工程)。
60℃になったらそのまま2時間温度を一定に保つ(低温殺菌工程)。
この工程で雑菌が死滅する。
前記の2時間が経過したら、加圧加熱釜から取り出し、冷水で30分間冷却し、常温に戻す。
【0019】
出来上がったキムチは発酵が停止し、密封状態のため常温保存が可能である。開封して容器から出すまで、食べごろの状態で保存できるから、キムチの賞味期限を延長できる。またキムチに含まれる乳酸菌は、胃酸に強く抵抗力があり、生きたまま腸に届き、腸内の善玉菌であるビフィズス菌を増やす特徴がある。またキムチに含まれる乳酸菌は、胃酸に強く抵抗力があり、生きたまま腸に届き、腸内の善玉菌であるビフィズス菌を増やす特徴がある。
【0020】
次に調味材に乾燥ホタテの貝柱を用いる例を説明する。
初めに貝柱を重量比で5倍の量の水に一晩漬けた後、漬けた水ごと火にかけて沸騰し、オイスターソースやナンプラで薄く味付けをする。水分が飛んで貝柱が水で3倍ほどに膨らんで柔らかくなった火を止める。
この貝柱を冷ましてキムチに混ぜる。混ぜる量はキムチに対し15%程度が適当である。
このようにして貝柱を調味材に用いたキムチは味が濃厚で深みがある。
貝柱の代わりに明太子を用いてもよい。
【0021】
上記の殺菌工程中にpHを4.8〜5.2にするのにpH調整剤を使用してもよい。pH調整剤としてはグリシン、酢酸ナトリウム、ビタミンC、リンゴ酸、又はアジピン酸などが知られている。それら中から1種類若しくは2種類以上を組み合わせたものを使用する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚れを洗い落とした野菜を塩で下漬けする下漬け工程と、
前記下漬け工程後の野菜を水で洗って塩分を取り除く塩抜き工程と、
前記塩抜き工程後の野菜に調味材を付着する味付け工程と、
前記味付け工程後の野菜を容器に入れ真空密封する包装工程と、
前記包装工程後の野菜を加圧加熱釜内で予備温度になるまで加熱する予備加熱工程と、
前記予備加熱工程後の野菜を予備加熱温度より高い低温殺菌温度に維持して殺菌する低温殺菌工程と、
からなる容器入りキムチの製造方法。
【請求項2】
前記予備加熱工程が、
前段と後段の2段階の昇温工程と、
前記2段階の昇温工程の中間で、33〜36℃の予備加熱温度に保つ予備加熱温度保持工程と、
からなることを特徴とする請求項1記載の容器入りキムチの製造方法。
【請求項3】
前記低温殺菌工程の低温殺菌温度が55〜65℃で、
前記低温殺菌温度の継続時間が1時間半〜2時間半であることを特徴とする請求項1記載の容器入りキムチの製造方法。
【請求項4】
前記下漬け工程で用いる塩が、
野菜に対する重量比で2.5〜3.5%の量であることを特徴とする請求項1記載の容器入りキムチの製造方法。
【請求項5】
前記下漬け工程の塩が、
重量比で食塩100に対し5の割合の乳酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1記載の容器入りキムチの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2011−188817(P2011−188817A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58019(P2010−58019)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(510072869)
【Fターム(参考)】