説明

容器入り身体貼付用シート

【課題】簡便かつ安価に製造でき、かつ十分な量の身体に対して生理活性のある気体を皮膚に持続的に供給することができる製剤の提供。
【解決手段】気泡率5〜50%の気泡を含有する発泡ゲル層又は発泡液層と樹脂フィルムとの積層のシートを気体難透過性容器内に密封してなり、保存時の容器中の空隙部に身体に対して生理活性のある気体を30質量%以上含有する容器入り身体貼付用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に対して生理活性のある気体を、身体に貼付することにより皮膚に供給するための発泡シート剤に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素や二酸化炭素等の気体は、有効成分として各種の生理作用を有することが知られている。例えば、酸素には、抗菌作用、創傷治癒、皮膚ケラチノサイト増殖、コラーゲン産生等の生理作用が、また二酸化炭素には血行促進効果があることが知られている。これらを有効成分として皮膚に供給する形態としては、塗布剤として製剤中に溶解・分散させる、またシート剤として貼付する等の方法があり、目的に応じて使い分けられている。シート剤は、貼付けた状態を保てることから簡便に、かつ持続的な有効成分の皮膚への供給ができる。しかしながら、気体を高濃度に維持することは困難であり、その手段としては、例えば、製剤中に溶解や分散した2種の乾燥試薬をそれぞれ可撓性多孔層に保持させ、使用時に酸素を発生させるフィルム(特許文献1)、層相互間に高レベルの酸素をあらかじめ気体で充填して皮膚に供給する酸素包帯(特許文献2)、過酸化水素及び/又は酸素が過酸化水素及び疎水化した二酸化ケイ素を含有する粉体状混合物から放出される技術(特許文献3)等が報告されている。しかし、このようにフィルムや包帯等のシート状物によって、気体状態で皮膚に供給される有効成分濃度は、通常の空気から供給される濃度とほとんど変わらず、十分な効果は得られない。
【0003】
また、血行促進効果を得る目的で、二酸化炭素を皮膚に供給しようとする技術も知られている。例えば、特許文献4には、遊離炭酸を高濃度に含有する手段として、高濃度の二酸化炭素が溶存したゾルをシート材への塗布後にゲル化させて使用する、ゾル−ゲル転移する組成物からなる炭酸経皮吸収用組成物が記載されているが、シートの製造時に二酸化炭素の揮散を防ぐ具体的な手段が示されておらず、実際に二酸化炭素を十分に皮膚に供給することは困難と考えられる。さらに、二酸化炭素の持続性を向上させるため、液又はゲルのpHを3.5〜6.5に調整し、液又はゲル中の二酸化炭素濃度を一定の範囲とし、かつ包装ピロー内の容積とゲル充填比を40%以下としたシート状貼付剤が記載されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−510155号公報
【特許文献2】特表2007−524447号公報
【特許文献3】特表2007−504089号公報
【特許文献4】特開2003−34612号公報
【特許文献5】特開2005−170937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの技術では皮膚に適用した際の製剤から皮膚への有効成分の供給量が考慮されておらず、シート剤の粘着性や重さによる使用性が十分でなく、さらに高濃度の気体を持続的に皮膚に供給できる技術が望まれている。
従って、本発明の課題は、簡便かつ安価に製造でき、かつ十分な量の身体に対して生理活性のある気体を皮膚に持続的に供給することができる製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、持続的に皮膚に気体を供給する手段として、液状又はゲル状のシート中に気体を含有させて貼付することを検討した。しかし、シート剤中に皮膚に十分供給できるだけの量の気体成分を高濃度に溶解又は分散させることは困難である。シート剤は水性溶液又は水性ゲル剤を主体とするものが多く、酸素のような溶解性の低い生理活性気体はシート剤への保持量が少ないため、使用時の持続性が十分でなく、結果として皮膚への酸素供給量は十分でないことが判明した。
そこでさらに検討したところ、気泡を保持した発泡ゲル層又は発泡液層に樹脂フィルムを積層してシートとし、これを気体難透過性容器内に封入する際に、容器内の空隙部の酸素濃度を制御することに到達した。それにより、容器中で気泡と身体に対して生理活性のある気体との置換が行なわれ、かつ発泡ゲル層又は発泡液層に該生理活性気体が溶解し、容器から取り出して皮膚に貼付したときにシート中の生理活性気体が効率的に皮膚に供給されるだけでなく、気泡を含むためにシートが軽くフィット性が向上するために、その効果も持続することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、気泡率5〜50%の気泡を含有する発泡ゲル層又は発泡液層と樹脂フィルムとの積層シートを気体難透過性容器内に密封してなり、保存時の容器中の空隙部に身体に対して生理活性を有する気体を30質量%以上含有する容器入り身体貼付用シート、及びその製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の身体貼付用シートは、安価な材料を用いて簡便な操作で製造することができ、かつ単に容器から取り出して身体に貼付するだけで、貼付部位に高濃度の生理活性気体を持続的に供給することができる。従って、皮膚局所において、各種気体の生理活性作用が安全かつ簡便な操作で得られる。さらに、皮膚貼付面が気泡を含有しているので、貼付時のフィット感が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明シートの形状の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の身体貼付用シートは、気泡率5〜50%の気泡を有する発泡ゲル層又は発泡液層と樹脂フィルムとの積層シートが気体難透過性容器内に密封されている。
【0011】
積層シートを密封する気体難透過性容器は、容器内部の気体を流出させず、また容器内部の水分や他の揮発成分も流出を防ぐことができること、他方、外部から生理活性気体以外の気体の流入を防ぐ点から気体難透過性である。ここで難透過性とは、気体透過度が50cc/m2・day・atm(ASTM D−1434)以下であることをいうが、非透過性であるのが好ましい。好ましい材料としてはヒートシール性を有するものが好ましく、具体的には、アルミニウム箔を積層したラミネートフィルム、アルミニウム蒸着層を有するラミネートフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリ塩化ビニリデン層を含むラミネートフィルムなどが挙げられる。容器の形態は平袋、ガゼットなどが好ましい。
【0012】
積層シートは、気泡率5〜50%の気泡を含有する発泡ゲル層又は発泡液層と樹脂フィルムとを積層したものである。発泡ゲル層又は発泡液層の形態は、シート状の発泡ゲル層又は発泡液層である。積層シートの厚さは、生理活性気体の保持量および貼付時の使用感の点から、0.1〜5mmであることが好ましく、さらにフィット性の点から0.3〜4mm、特に0.5〜3mmが好ましい。
【0013】
発泡ゲル層又は発泡液層は気泡を含み、その気泡率は、容器中に充填された生理活性気体との置換性及び貼付時の使用感の点から5〜50%であるが、さらに7〜45%、特に10〜40%が好ましい。気泡の大きさは、気体の種類やシート剤の厚さによるが、気体の保持とシート強度や柔軟性、またフィット性や追随性等の使用感の点から0.01〜2mmの範囲であることが好ましく、さらに0.01〜1.5mm、特に0.01〜1mmが好ましい。かかる気泡は、ゲル層又は液層の形成時に攪拌する、化学反応により気体(ガス)を発生させる、また液化ガス等を配合した液を高圧状態から噴射すること等により形成させることができる。特に、気泡の安定性の点から、ゲル層又は液層の形成時に攪拌して気泡を形成した発泡ゲル層が好ましい。ここで、気泡率は、以下のように測定できる。
発泡層が液状であれば、泡をつぶさないように容量既知(AmLとする)の容器に充填して内容物の重量を測定(Bgとする)して、式(1)により計算する。また、発泡層がゲル状であれば直方体形状に切り出し、縦・横・高さから体積を算出(AmLとする)し、また重量を測定(Bgとする)して、同様に式(1)により計算する。なお、気泡を除いた部分の比重を1と仮定する。
【0014】
(数1)
気泡率(%)=(A−B)/A×100 式(1)
【0015】
また気泡の大きさは、顕微鏡観察によって測定できる。
【0016】
当該発泡ゲル層又は発泡液層は、発泡水溶液、発泡水性ゲル、油相を含む発泡乳液状または発泡乳化ゲル状組成物、発泡油層、油性発泡ゲルのいずれの形態でもよい。ここで油相又は油層を形成する油分としては、生理活性気体溶存量を向上させる点、皮膚に対する安全性、使用後の保湿感の点から、長鎖炭化水素、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級アルコール、シリコーン類、フルオロカーボン類等が挙げられる。長鎖炭化水素としては液状(25℃)であることが好ましく、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン等が挙げられ、特に流動パラフィンが好ましい。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級アルコールでは、特に分岐脂肪酸、不飽和脂肪酸、分岐脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、分岐脂肪族アルコール、不飽和脂肪族アルコールが液状を呈することから好ましく、例えば、ホホバ油、オリーブ油、ヒマシ油、ミンク油、マカデミアンナッツ油等の天然油脂類や、ミリスチン酸イソプロピル、ジイソステアリン酸ジグリセリルなど不飽和脂肪酸や分岐脂肪酸のエステルなどが好ましい。シリコーン類としては、ジメチルステアリルポリシロキサン等のアルキル変性シリコーン、高重合メチルポリシロキサン、架橋型メチルポリシロキサン、フッ素化されたフルオロシリコーン等が好ましい。さらにフルオロカーボン類としては、2−(パーフルオロヘキシル)エチル1,3−ジメチルブチルエーテル等のパーフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロエーテル等が使用できる。これらの油分は、油相又は油層を形成した状態で発泡ゲル層又は発泡液層に存在することが好ましく、発泡ゲル層又は発泡液層中に0.1〜35質量%、さらに0.5〜20質量%、特に0.5〜15質量%含有させるのが好ましい。
【0017】
また、発泡ゲル層又は発泡液層には、発泡性の向上、上記油分や植物エキスなどの分散、また肌への付着性を改良する為に、各種乳化剤を配合できる。例えば、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリンモノ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの非イオン性界面活性剤;炭素数12〜18の直鎖又は分岐脂肪酸塩、炭素数12〜18のアルキルリン酸エステル塩、N−アシルアミノ酸塩などのアニオン性界面活性剤;塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムなどのカチオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0018】
発泡ゲル層又は発泡液層には植物エキスを配合することができる。植物エキスとしては、例えば甘草エキス、グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸及びその誘導体、脂溶性グリチルレチン酸類、アズレン、グアイアズレン、オウゴンエキス、カミツレエキス、クマザサエキス、シラカバエキス、ゼニアオイエキス、桃葉エキス、セイヨウノコギリソウエキス、キキョウエキス、ビワ葉エキス、ボダイジュエキス、ユーカリエキスなどの抗炎症作用をもつもの;ショウキョウエキス、オランダカラシ、カンタリスチンキ、サンショウエキス、ハッカ油、ワサビ大根エキスなどの局所刺激作用をもつもの;ルチン誘導体や、ヒバマタエキス、セージ抽出物など、はりやむくみに効果のあるものなどが挙げられる。また、植物エキス以外の抗生物質、抗真菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、ビタミン類、保湿剤なども配合することができる。さらに、鉱物性粉体、例えばカオリン、スクメタイト、酸化亜鉛、酸化チタンなども配合できる。
【0019】
発泡ゲル層を形成するにあたっては、水溶性高分子、多価アルコール等を用いることができる。ここで水溶性高分子として、例えば、ポリアクリル酸類、ポリメタアクリル酸類、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸塩、ペクチン等のアニオン性ポリマーと多価陽イオンからなるゲル;カルボキシメチルセルロースなどのセルロース、セルロース誘導体又はその塩類、キサンタンガム、ゼラチン、プルラン、寒天、アラビアゴム、キトサン及びその誘導体など水溶性高分子及び水を使用した含水ゲルなどが挙げられる。このうち、アニオン性ポリマーと多価陽イオンにより形成された発泡水性ゲル層が好ましい。これらの水溶性高分子は1種又は2種以上用いることができ、発泡ゲル層中に0.5〜30質量%、さらに0.5〜20質量%、特に0.5〜15質量%含有するのが好ましい。多価陽イオンとしてはアルミニウムイオン等の多価金属イオンが挙げられる。
【0020】
多価アルコールとしては、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられる。これらの多価アルコールは1種又は2種以上用いることができ、ゲル中に3〜60質量%、さらに3〜50質量%、特に5〜40質量%含有するのが好ましい。また、付着性を調節する目的で、これらポリオール以外に、ワセリン、デキストリンなども使用できる。
【0021】
発泡液層は、例えば、不織布に水性溶液を含浸させて発泡させたものを用いることができる。
【0022】
発泡ゲル層又は発泡液層には樹脂フィルムが積層されている。樹脂フィルムの積層により、身体貼付時の発泡ゲル層又は発泡液層からの水分蒸散が抑制されてシートが乾燥するのを防ぐことができる。また、積層シートを容器に入れ、次いで容器中に生理活性気体を充填して容器を密封することにより、容器中に充填された生理活性気体が発泡ゲル層又は発泡液層の気泡と置換し、かつ直接溶解するとともに、樹脂フィルム側からも生理活性気体が透過して発泡ゲル層又は発泡液層中へ徐々に溶解する。一方、シートを容器から取り出して、樹脂フィルムの反対側、すなわち発泡ゲル層又は発泡液層側を身体に貼付することにより、フィルム側からの生理活性気体の流出は抑制されるので、皮膚への生理活性気体供給量及び持続時間が向上する。かかる観点から、樹脂フィルムの気体透過性は低いことが必要であり、20000cc/m2・day・atm(25℃)以下が好ましく、さらに15000cc/m2・day・atm(25℃)以下がより好ましく、0.001〜13000cc/m2・day・atm(25℃)が特に好ましい。さらに、発泡ゲル層又は発泡液層が厚い場合には、生理活性気体はシートの外周縁からも溶解するため、実質的に酸素透過性がなくてもよい。なお、樹脂フィルムの気体透過性は、ASTM D−1434に基づき測定した値である。
【0023】
生理活性気体(身体に対して生理活性を有する気体)としては、酸素、二酸化炭素、水素、亜酸化窒素、一酸化炭素等が挙げられるが、酸素及び二酸化炭素が好ましい。
【0024】
フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、軟質塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、エチレン/ビニルアルコール共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体などのフィルムが使用できる。また、ナイロンフィルムやエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)をポリエチレンやポリプロピレンフィルムなどで挟み込んだ多層フィルムなども使用できる。さらに、これらフィルムにアルミニウム蒸着させたものやガラス蒸着させたフィルムや、さらにこれらをラミネートしたフィルムも使用できる。
フィルムの厚さは、感触の面からなるべく薄いものが好ましく、100μm以下が好ましく、特に50μm以下が好ましい。また、積層時のシール条件により破れない為に、5μm以上のものが好ましい。
【0025】
より好ましいフィルムと発泡ゲル層又は発泡液層との積層手段は、フィルムに予め不織布を積層しておき、これに発泡液を含浸させるか又は含浸した発泡液層をゲル化させるのが好ましい。フィルムと不織布の積層方法は、接着剤や熱融着、Tダイ押出ラミネートなどの方法を採用することができる。薄いフィルムを積層する場合、例えば接着剤を用いるか、もしくは耐熱性の高いナイロンを熱融着性の高いポリエチレンフィルムで挟み込んだ多層フィルムを使用することで、積層時に微細な破れ穴あきなどが起きないように熱融着することができる。
【0026】
積層シートは、生理活性気体とともに容器内に密封することにより、積層シートの発泡ゲル層又は発泡液層内に生理活性気体を溶存させ、かつ生理活性気体を溶存した状態で維持することができる。このとき、生理活性気体は、容器内の空隙部気体中の30質量%以上、好ましくは50質量%以上、特に好ましくは70質量%以上で充填することにより、前記発泡ゲル層又は発泡液層中の溶存生理活性気体濃度を維持することができる。容器内の生理活性気体以外のガスとしては、例えば窒素ガス等を含むことができる。
ここで、生理活性気体が酸素の場合、空隙部気体中の酸素濃度は、食品用微量酸素分析計IS−300(飯島電子工業(株)製)を用いて測定する。気体の酸素濃度が25%以下の場合には、測定器の使用方法に従い通常の手順で行う。また、酸素濃度が25%以上の場合には、被検気体(酸素)と酸素以外の生理活性を持たない気体(例えば、窒素ガス)を1:4で混合して測定し、以下の式で算出した。
【0027】
(数2)
空隙部酸素濃度(%)=測定値(%)×5
【0028】
また、生理活性気体が酸素以外の場合(例えば、二酸化炭素等)には、上述の食品用微量酸素分析計IS−300を用いて空隙部気体中の酸素の濃度を測定し、その測定値から下記式により簡易的に計算できる。
【0029】
(数3)
空隙部生理活性気体濃度(%)=(20.6−測定値(%))/20.6×100
【0030】
ここで、「20.6」は空気中の酸素濃度を示し、容器内空隙部の当該気体以外の成分は、空気と同じ比率と仮定した。
【0031】
包装ピロー内に充填されたガスの圧力(保存時の容器内部圧)は25℃において、0.05〜0.15MPa、さらに0.08〜0.15MPa、特に0.09〜0.12MPaが好ましい。
【0032】
本発明の容器入りシートは、例えば前記積層シートを容器内に入れ、次いで容器内のガスを生理活性気体30質量%以上の気体に交換する方法により製造できる。このように、常圧下で容器内のガスを生理活性気体に交換して、シートに生理活性気体を溶存させる方法を採用すると、高濃度生理活性気体溶存ゲル又は液を調整する調整槽や、生理活性気体が漏れない状態にて容器に充填する設備が不要となるメリットがある。特に好ましい形態としては、容器内に25℃で発泡ゲル又は発泡液のシートを充填し、これに適量の生理活性気体を封入する方法が、製造・流通上の体積を低減でき、かつ発泡ゲル又は発泡液に生理活性気体を飽和溶解させる上からも好ましい。勿論、生理活性気体を容器内に充填する際に、常圧でなく加圧で行なっても良い。なお、生理活性気体は一般的に水性ゲルや溶液に対する溶解性が低いため、生理活性気体で置換又は充填する製造工程であっても、包装容器に充填した後に発泡ゲル層又は発泡液層に溶存されて空隙から減少する量はわずかである。包装容器へ直接充填する際には、発泡ゲル層又は発泡液層に溶存する量を計算し、上記空隙中の生理活性気体量に加算した量を充填することが好ましい。例えば、発泡ゲル層又は発泡液層を含む積層シートを容器内に入れた後に容器内のガスを100%濃度酸素で置換した場合、液又はゲルに溶解する酸素の量は、液又はゲル1gに対しておよそ0.03mLになる。また、油剤は一般に水に比べて3〜10倍程度酸素の溶解度が高いため、発泡ゲル又は発泡液に油剤を含有させた場合は、その配合量に応じて酸素を多めに充填することが好ましい。
【0033】
本発明シートは、容器から積層シートを取り出し、発泡ゲル層又は発泡液層側を皮膚に貼付することにより簡便に使用できる。
【実施例】
【0034】
実施例で使用した各種の測定方法を以下に示す。
【0035】
(1)ゲルシート中二酸化炭素濃度測定方法:
二酸化炭素電極(電極model 9502 BN; Thermo Orion社及びポータブルpH/イオンメーターmodel 290A; ORION社)を用いて測定した。測定したいゲルシートをアルカリ溶液の入った蓋付き瓶に移動し、そのサンプルシートのゲルを溶解させた後、酸性緩衝液(pH4.5)で酸性に戻し発生する二酸化炭素を上記の電極を用いて測定した。
【0036】
(2)皮膚血流量測定方法:
25℃の恒温室にて、30分間順化した後、前腕部の血流をドップラー血流計(BIOMEDICAL SCIENCE Co.,LTD LASER FLOWMETER KB−201)によって30秒測定し、その値の平均値を100として、同部位に各シートを貼付し保持時間後、シートを剥しその部位の血流量を測定し、相対値として表した。
【0037】
(3)ピロー内空隙部酸素濃度測定方法:
1)50mLの目盛り付き注射筒に注射針を装着し、100%窒素ガスで満たしたアルミピローから、40mL分を注射筒に吸入した。
2)さらに、サンプルの入ったアルミピローから10mL分を追加吸入した。
3)注射針を取り外してすばやくパラフィルムで吸入口を塞いだ。
4)1分経過後、測定器(食品用微量酸素分析計IS−300 飯島電子工業(株))のサンプリング注射針をパラフィルム部分に突き刺し、酸素濃度測定をおこなった。
サンプル空隙部の酸素濃度は、簡易的に以下の式に従い算出した。
【0038】
(数4)
空隙部酸素濃度(%)=測定値(%)×5
なお、空隙部二酸化炭素濃度は、前出の簡易的な計算によって算出した。
【0039】
(4)皮下酸素分圧測定方法:
測定器として経皮血液ガスモニタPO−850A(新生電子(株)製)を用い、簡易的に以下の方法により測定をおこなった。
まず、コントロールとして、ピロー内空隙を酸素置換していない、空気のままで保持していたシートを前腕内側部の皮膚に5分適用した。シート適用除去後すばやくシート適用部の水分をティッシュでふき取り、測定器のセンサーを加温しないで、直ちにシート適用部分の皮膚に装着させた。装着直後より2分後までは10秒ごとに酸素分圧測定値を読み取り、以後10分後までは30秒ごとに酸素分圧測定値を読み取った。酸素分圧測定値をセンサー装着後の時間に対してグラフにプロットし、装着直後付近の測定値の並びに接するように直線を引き、直線の傾き、すなわち、皮膚表面酸素分圧低下速度を求めた。また、測定後半部10分付近でほぼ一定となった値を、コントロールの皮下酸素分圧とした。なお、コントロールの皮下酸素分圧はいずれもほぼ10mmHgであった。サンプルシート適用時もコントロールと同様にして測定した。皮膚表面酸素分圧低下速度が、外気酸素分圧(160mmHg)と皮下酸素分圧との差に比例すると仮定し、以下の式に従い、サンプルシート適用時の皮下酸素分圧を求めた。
サンプルシート適用時の皮下酸素分圧(mmHg)=160mmHg−(サンプルシート適用時の皮膚表面酸素分圧低下速度/コントロールの皮膚表面酸素分圧低下速度)×(160mmHg−10mmHg)
【0040】
<含気泡シートの調製>
(1)含気泡ゲルシートA
不織布(レーヨン:アクリル:PE=50:25:25;坪量35g/m2;厚さ0.1mm)上に、フィルム厚15μmとなるようにLDPE樹脂を210℃にて単層でTダイ押出しして積層シートを調製した(フィルムの二酸化炭素透過性12000cc/m2・day・atm)。
表1ゲル処方のメタケイ酸アルミン酸マグネシウム以外の成分を混合し攪拌具としてホイッパーを装着した万能混合攪拌機((株)ダルトン製)で7分間攪拌させた。気泡率は26.7%であった。メタケイ酸アルミン酸マグネシウムを加え、さらに30秒間ホイッパーで攪拌させた。得られた含気泡ゲルの気泡率は30.3%であった。含気泡ゲルを積層シートの不織布面にのせ、さらに50μmPETフィルムでカバーしてから、バーコーターを用いて厚みが1mmとなるように伸展して、2日間室温で放置して架橋ゲル化させ、フィルム付き含気泡ゲルシートAを調製した(皮膚貼付時は片側のPETフィルムをはがして、はがしたゲル面を皮膚に貼付)。なお、フィルムと発泡ゲル層の界面において、フィルムに積層した不織布が発泡ゲル層の一部へ入り込むことでアンカー効果を示し、フィルムと発泡ゲル層は強固に接着されていた。
【0041】
【表1】

【0042】
(2)含気泡ゲルシートB
また、同じ含気泡ゲルを50μmPETフィルム2枚の間にはさみ、バーコーターを用いて厚みが1mmとなるように伸展して、2日間室温で放置して架橋ゲル化させ、フィルム無し含気泡ゲルシートBを調製した(皮膚貼付時は両側のPETフィルムをはがして、いずれか一方の面を皮膚に貼付)。
【0043】
(3)含気泡ゲルシートC
表1ゲル処方のメタケイ酸アルミン酸マグネシウム以外の成分を混合し攪拌具としてフックを装着した万能混合攪拌機((株)ダルトン社製)に入れ、真空ポンプで−0.09MPaに減圧して7分間攪拌させた。攪拌を止めてから徐々に常圧に戻した。メタケイ酸アルミン酸マグネシウムを加え、軽くかき混ぜてから再び真空ポンプで−0.09MPaに減圧して、さらに30秒間攪拌させた。攪拌を止めてから徐々に常圧に戻した。得られたゲルの気泡率は0.8%であった。ゲルを積層シートの不織布面にのせ、さらに50μmPETフィルムでカバーしてから、バーコーターを用いて厚みが0.7mmとなるように伸展して、2日間室温で放置して架橋ゲル化させ、フィルム付き含気泡ゲルシートB(比較ゲルシート)を調製した(皮膚貼付時は片側のPETフィルムをはがして、はがしたゲル面を皮膚に貼付)。
【0044】
実施例1
厚み1mmのフィルム付き含気泡シートAを70mm×50mmに切り出し、アルミピローに100%二酸化炭素とともに封入させてインパルスシーラーで閉じ、さらに室温で7日間放置して、容器入りサンプルシートAを調製した。サンプルシート1枚の重量は2.5gであった。サンプルシートAの入ったアルミピロー中の空隙部二酸化炭素濃度を測定した後にアルミピローを開封し、片側のPETフィルムをはがして、開封直後のゲル中の二酸化炭素濃度を測定した。全部で3サンプル分の測定をおこない各二酸化炭素濃度の平均値を求めた。
また、サンプルシートAの入ったアルミピローを開封し、片側のPETフィルムをはがして、はがしたゲル面が肌側になるように前腕内側部の皮膚上に置き、10分間保持させた。シート除去後の皮膚の皮膚紅潮を目視確認するとともに皮膚血流およびゲルシート中の二酸化炭素濃度を測定した。なお、皮膚紅潮は、貼付部と未貼付部との境界の明確さを以下の5段階で評価した。
5:境界がはっきりしている
4:境界がややはっきりしている
3:境界がわずかに認識できる
2:境界がぼんやりしている
1:まったく境界が認められない
測定パネル3名について1回ずつ試験をおこない皮膚紅潮および二酸化炭素濃度の平均値を求めた。結果を表2に示した。
【0045】
厚み1mmのフィルム無し含気泡ゲルシートBを用いたほかは実施例1と同様にして容器入りサンプルシートBを調製し、同様の試験をおこなった。なお、サンプルシート1枚の重さは2.5gであり、皮膚貼付時は両面のPETフィルムを除去して試験をおこなった。結果を表2に示した。
【0046】
厚み0.7mmのフィルム付き含気泡ゲルシートCを用いたほかは実施例1と同様にして容器入りサンプルシートCを調製し、同様の試験をおこなった。なおサンプルシート1枚の重さは2.5gであった。結果を表2に示した。
【0047】
【表2】

【0048】
本発明のサンプルシートA(ゲルの気泡率30.3%)は、皮膚10分貼付後でも二酸化炭素濃度1000ppm以上の高濃度を保持しており、十分な血流促進効果が認められた。一方、重量およびゲルの気泡率がサンプルシートAと同じであっても、フィルムのついていないサンプルシートBでは、二酸化炭素濃度が100ppm以下に低下し、血流促進は認められなかった。また、サンプルシートAと同様にフィルム付で同じゲル重量で気泡率が少ない(気泡率0.8%)サンプルシートCは、皮膚10分貼付で二酸化炭素濃度が500ppm以下に低下しており、また血流促進効果が十分でなかった。
【0049】
<含気泡シートの調製>
(1)含気泡ゲルシートD
不織布(レーヨン:アクリル:PE=50:25:25;坪量35g/m2;厚さ0.1mm)上に、フィルム厚15μmとなるようにEVOH樹脂を250℃にて単層でTダイ押出しして積層シートを調製した(フィルムの酸素透過性10cc/m2・day・atm)。EVOH積層シートを用いてシートの厚みを1.4mmとしたほかは、LDPEを積層させた含気泡ゲルシートAの調製と同様にして、含気泡ゲルシートDを調製した。
【0050】
(2)含気泡ゲルシートE、Fの調製
EVOH積層シートを用いてシートの厚みを1.4mmとしたほかは、LDPEを積層させたフィルム付き含気泡ゲルシートCの調製と同様にして、フィルム付き含気泡ゲルシートEを調製した。また、シート厚みを1mmとしてフィルム付き含気泡ゲルシートFを調製した。
【0051】
実施例2
厚み1.4mmのフィルム付き含気泡シートDを図1の形状に切り出し、アルミピローに100%酸素とともに封入させてインパルスシーラーで閉じ、さらに室温で7日間放置して、サンプルシートDを調製した。サンプルシートD1枚の重量は3.0gであった。
また、皮下酸素分圧測定用のコントロールとして、ガス置換をおこなわないでアルミピロー内に封入したコントロールシートも同時に調製した。
サンプルシートのアルミピロー内空隙部の酸素濃度を測定した。全部で3サンプル分の測定をおこない酸素濃度の平均値を求めた。
【0052】
アルミピローを開封し、片側のPETフィルムをはがして、はがしたゲル面が肌側になるように前腕内側部に貼付し、20分間保持させた。シート除去後の皮膚の白抜けを目視確認するとともに、皮下酸素分圧を測定した。皮膚の白抜けは、貼付部と未貼付部との境界の明確さを実施例1と同様の5段階基準で評価した。
【0053】
一方で、フェイスでのフィット感の評価もおこなった。アルミピローを開封し、サンプルシートの片側のPETフィルムをはがして、はがしたゲル面が肌側になるように目の下側の皮膚に貼付し、20分間保持させた。貼付中のフィット感を、はがれ感なし:4、少しはがれ感あり:3、はがれ感あり:2、はがれおちる:1、として4段階で評価した。
測定パネル3名についてそれぞれ1回ずつ試験をおこない皮膚白抜けおよび皮下酸素分圧、フィット感の平均値を求めた。結果を表3に示した。
【0054】
厚み1.4mmのフィルム付き含気泡ゲルシートEを用いて実施例2と同様にサンプルシートE、また厚み1mmのフィルム付き含気泡ゲルシートFを用いてサンプルシートFを調製し、同様の試験をおこなった。なお、サンプルシートE1枚の重量は4.3g、サンプルシートF1枚の重量は3.0gであった。結果を表3に示した。
【0055】
【表3】

【0056】
EVOHフィルム付き、気泡率30.3%、厚み1.4mmのサンプルシートDは、皮下に酸素が浸透して白抜けが認められ肌へのフィット感も良かった。一方、発泡ゲル層の気泡率0.8%のサンプルシートEは、サンプルシートDより重くてフィット感が悪く、皮下酸素分圧も低く白抜けの程度も低かった。また、厚みを1mmにしたサンプルシートFは、サンプルシートDと同程度の重さのため肌へのフィット感は良かったが、気泡率が0.8%と低いため、皮下酸素分圧は低く白抜けの程度も低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡率5〜50%の気泡を含有する発泡ゲル層又は発泡液層と樹脂フィルムとの積層シートを気体難透過性容器内に密封してなり、保存時の容器中の空隙部に身体に対して生理活性のある気体を30質量%以上含有する容器入り身体貼付用シート。
【請求項2】
身体に対して生理活性のある気体が、酸素又は二酸化炭素である請求項1記載のシート。
【請求項3】
保存時の容器内部の気圧が、0.05〜0.15MPaである請求項1又は2に記載のシート。
【請求項4】
樹脂フィルムの気体透過率が、20,000cc/m2・day・atm以下である請求項1〜3のいずれか1項記載のシート。
【請求項5】
発泡ゲル層が、アニオン性ポリマーと多価陽イオンにより形成された発泡水性ゲル層である請求項1〜4のいずれか1項記載のシート。
【請求項6】
発泡ゲル層又は発泡液層が、油分を含有する請求項1〜5のいずれか1項記載のシート。
【請求項7】
気体難透過性容器内に、気泡率5〜50%の気泡を含有する発泡ゲル層又は発泡液層と樹脂フィルムとが積層されたシートを入れ、次いで容器中の空隙部に身体に対して生理活性のある気体を30質量%以上になるように充填した後、容器を密封する、容器入り身体貼付用シートの製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−202609(P2010−202609A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51784(P2009−51784)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】