容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置
【課題】 培養系を開放することなく、また細胞密度に拘わらず、培養容器内の細胞数を計測することを可能とする。
【解決手段】 密封された容器内の液体中の計数対象物の数を計測する方法であって、容器の少なくとも一部の厚みを調整し、調整した範囲の少なくとも一部を測定対象範囲として、当該測定対象範囲における計数対象物の数を計測する容器内の計数対象物の計数方法。
【解決手段】 密封された容器内の液体中の計数対象物の数を計測する方法であって、容器の少なくとも一部の厚みを調整し、調整した範囲の少なくとも一部を測定対象範囲として、当該測定対象範囲における計数対象物の数を計測する容器内の計数対象物の計数方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内の計数対象物の計数方法に関し、特に密封された培養容器内における培養液中の細胞数を数えるための容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織、微生物などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような細胞培養においては、細胞の増殖に併せて、培養液における細胞の密度を適正な範囲に維持することが必要である。
【0003】
すなわち、培養液における細胞密度が大きすぎると各細胞に十分な酸素や栄養を供給することができなくなり、細胞増殖効率が低下する。また、培養液における細胞密度が小さすぎても十分な増殖効率が得られない。
そこで、細胞培養においては、培養中に細胞密度を把握するため、適宜培養容器内における培養液中の細胞数を計測する必要があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、細胞の増殖に併せて培養液における細胞密度を適正に維持することができる細胞培養装置が開示されている。
このような細胞培養装置を用いて細胞数の計測を行う場合、従来は培養容器内につながるチューブから培養細胞が含まれる培養液を採集し、所定の緩衝液を加えて培養液における細胞を測定に適する密度に調整した後、計数盤へ注入し、人や機械によってその数を読み取って、細胞密度を算出するということが行われていた。
【0005】
また、特許文献2には、撮影手段を備えた培養装置が開示されている。この培養装置によれば、細胞画像を定期的に取得し、保存することが可能になっている。
【0006】
【特許文献1】国際公開2008/136371号パンフレット
【特許文献2】国際公開2007/052718号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の細胞培養装置を用いて培養液中の細胞を計数する方法では、培養容器内から培養液を採集する必要があり、培養系が開放されるため、雑菌などが混入するコンタミネーションのリスクがあった。
【0008】
また、特許文献2に記載の培養装置では、細胞画像を取得することはできるが、その画像にもとづき細胞数を正確に計測し、細胞密度を得ることは困難であった。
すなわち、特許文献2に記載の撮影手段により培養容器内の細胞を撮影する場合、細胞画像の細胞数を計測して、これを当該撮影手段の視野内における培養液の容積で除算することで、細胞密度を算出することはできる。
しかし、このように細胞容器内の細胞を直接観察する場合、図17に示すように、細胞の密度が大きく細胞が重なり合うときは、細胞数を正確に計測することができない。また、細胞の密度が小さすぎるときは、全体の密度予測が難しく、算出される細胞密度の精度が低くなってしまうという問題があった。
【0009】
このように撮影手段を用いて培養容器内の細胞を直接計測する場合、従来の計数盤を用いて実測する場合に比較すると、計数盤の厚さが0.1mmであるのに対して培養容器の厚さは1〜2cm程度であり、その厚さが100〜200倍となっている。
このため、撮影手段から見える細胞数は、同じ体積密度でも計数盤を用いて実測する場合の100〜200倍となってしまう。したがって、培養容器内の細胞は互いに重なり合う場合が多く、培養容器内の細胞を直接観測して細胞数を計測することは、困難であった。
【0010】
そこで、本発明者らは鋭意研究した結果、培養容器の厚みを調整して、撮影手段から見える細胞数を計測可能な数にした後に、培養容器内の細胞数を直接観測により計測することで、実測値に近い細胞密度を得ることに成功し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、培養系を開放することなく、かつ増殖した細胞の密度に拘わらず、培養環境下のあらゆる密度範囲で細胞数を計測することが可能な容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の容器内の計数対象物の計数方法は、密封された容器内の液体中の計数対象物の数を計測する方法であって、容器の少なくとも一部の厚みを調整し、調整した範囲の少なくとも一部を測定対象範囲として当該測定対象範囲における計数対象物の数を計測する方法としてある。
また、本発明の容器内の計数対象物の計数方法は、容器の液体を攪拌し、液体中の計数対象物を均等化した後に、容器の少なくとも一部の厚みを調整する方法としてある。
【0012】
また、本発明の計数用装置は、密封された容器内の液体中の計数対象物の数を計測するための計数用装置であって、容器を積載する積載台と、容器における測定対象範囲を含む少なくとも一部を所定の厚みに調整する調整部材とを備えた構成としてある。
また、本発明の計数用装置に、さらに調整部材により容器の厚みを調整する前に、容器内の液体を攪拌する攪拌部材を備えた構成とすることもできる。
【0013】
また、本発明の計数用装置に、さらに容器内の計数対象物を撮影する撮影手段と、撮影された画像内の計数対象物の数を計測する計数手段と、計数手段による計測の結果、計数対象物の数が所定の範囲内に無い場合、画像内の計数対象物の数が、所定の範囲内になるように、調整部材を駆動して、容器の少なくとも一部を所定の厚みに調整させる駆動装置とを備えた構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、培養系を開放することなく、また増殖した細胞の密度に拘わらず、細胞数を計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の容器内の計数対象物の計数方法の原理を示す図である。
【図2】本発明の第一実施形態の計数用装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の第一実施形態の計数用装置による容器の厚み調整方法(厚みを減らす場合)を示す図である。
【図4】本発明の第一実施形態の計数用装置による容器の厚み調整方法(厚みを増やす場合)を示す図である。
【図5】本発明の第二実施形態の計数用装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の第二実施形態の計数用装置における駆動装置(攪拌部材用)の構成を示す図である。
【図7】本発明の第三実施形態の計数用装置の基本位置を示す図である。
【図8】本発明の第三実施形態の計数用装置の攪拌状態を示す図である。
【図9】本発明の第三実施形態の計数用装置の厚さ調整及び沈殿待ち状態(厚さを減少させる場合)を示す図である。
【図10】本発明の第三実施形態の計数用装置の顕微鏡観察状態を示す図である。
【図11】本発明の第三実施形態の計数用装置の厚さ調整及び沈殿待ち状態(厚さを増加させる場合)を示す図である。
【図12】本発明の実施例及び比較例で使用した培養容器を示す図である。
【図13】本発明の実施例1及び比較例1における細胞の画像を示す図である。
【図14】本発明の実施例1及び比較例1の結果を示す図である。
【図15】本発明の実施例2〜5における細胞の画像を示す図である。
【図16】本発明の実施例2〜5の結果を示す図である。
【図17】従来の容器内の計数対象物の計数方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
まず、本発明の容器内の計数対象物の計数方法の原理について、図1を参照して説明する。
同図は、顕微鏡を用いて培養容器内の細胞を直接観察し、その数を計測する様子を示したものであり、図1(A)は、従来のように、容器の厚さを調節することなく、観測する場合を示している。なお、培養液としてその比重が細胞の比重よりも小さいものを使用することで、細胞を容器の底に沈め、顕微鏡観察に適したものとすることができる。また反対に比重の大きい培養液を使用して細胞を容器の上部に集めて観察するようにしても良い。
【0017】
図1(A)の場合、容器内の細胞数が増加するにつれ、懸濁して静置させたときに、次第に重なり合いが生じてくる。したがって、この方法では細胞を大量に培養する場合に、細胞数を正確に計測することができない。
【0018】
そこで、本発明では、細胞数が多すぎて正確に計測することができない場合には、図1(B)に示すように、容器の厚みを減少させることで、観測範囲(測定対象範囲)における細胞数を減少させ、計測に適した細胞数に調整する。
これによって、培養容器により細胞を大量に培養する場合でも、培養容器内の細胞を直接観察することで、培養系を開放することなく、細胞数を計測することが可能となっている。
また、培養容器内の細胞数が少なく、培養容器全体の密度予測が難しい場合にも、容器の厚みを増大させることで、観測範囲内における細胞数を増加させ、計測に適した細胞数に調整することができる。
【0019】
[第一実施形態]
次に、本発明の第一実施形態の容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置について、図2を参照して説明する。同図は、本実施形態の計数用装置の構成を示す図である。
本実施形態の計数用装置1は、同図に示すように、厚さ調整部材2、容器積載台3、撮影手段4、駆動装置(調節部材用)5、駆動装置(撮影手段用)6、及び照明7を備えており、容器積載台3上に培養容器8を配置して、培養容器8内の培養細胞数を計測する。
【0020】
厚さ調整部材2は、容器積載台3上の培養容器8を調節する。同図の例では、厚さ調整部材2は培養容器8を押圧するための平面部分を有する押圧板からなり、軟包材からなる培養容器8の一部を上から押圧することで、その厚さを減少させることが可能となっている。
【0021】
また、厚さ調整部材2における少なくとも培養容器8の測定対象範囲の上方部分は透明な材料からなり、当該部分を照明7により上方から照らし、顕微鏡及びCCDカメラからなる撮影手段4により下方から観察するようになっている。
なお、厚さ調整部材2は、図2に示すような平面部分により培養容器8を押圧する押圧板に限定されるものではなく、ローラや引張部材を用いて構成することもできる。
【0022】
例えばローラにより培養容器8を上下の両方から又は一方から押圧しつつ移動させて、培養容器8の水平面積を減少させることで、培養容器8の厚みを増加させることができる。また、引張部材を用いて培養容器8を水平方向に引き伸ばすことで、培養容器8の厚みを減少させることもできる。
【0023】
容器積載台3は、培養容器8を載置させるための平面の台であり、厚さ調整部材2とともに、計数用の積載装置を構成する。
この容器積載台3における測定対象範囲の下方部分は、ガラス板などの透明な部材により構成され、撮影手段4により下方から培養容器8を観測できるようになっている。
【0024】
駆動装置(調節部材用)5は、図2に示すように、ボールスクリューネジにより、厚さ調整部材2を上下に移動させるものである。これにより容器積載台3上の培養容器8に厚さ調整部材2を押しつけて、培養容器8の厚さを調節可能にしている。
この駆動装置(調節部材用)5には、例えばロッド型電動シリンダ(垂直方向動作用アクチュエータ)を用いることができ、これによって、培養容器8の厚さを0.1ミリ単位できめ細かく調整することが可能である。
【0025】
また、駆動装置(撮影手段用)6は、図2に示すように、ボールスクリューネジにより、撮影手段4を容器積載台3に対して水平方向に移動するものである。この駆動装置(撮影手段用)6によって、培養容器8内における細胞の撮影時以外は、撮影手段4を容器積載台3の外側に配置し、撮影時に撮影手段4を培養容器8の測定対象範囲の下に移動させることができる。
なお、駆動装置(調節部材用)5や駆動装置(撮影手段用)6を、電動アクチュエータの他、空気圧や油圧、電磁力を利用したアクチュエータを用いて構成したり、あるいはモータやカムを用いて構成したりすることもできる。
【0026】
照明7は、厚さ調整部材2を介して培養容器8における測定対象範囲を照らし、撮影手段4による細胞の撮影に必要な明るさを提供する。
培養容器8は、軟包材を材料として、袋状(バック型)に形成した容器である。このように、培養容器8の材料として軟包材を用いることで、培養容器8に可撓性・柔軟性を付与することができる。軟包材としては、例えば、特開2002−255277号公報(軟包材フィルムシートを用いた食品包装体及び食品の取り出し方法)や、特開2004−323077号公報(加圧抽出形の袋状容器)に記載されているものなどを用いることができる。
【0027】
また、培養容器8は、細胞培養に必要なガス透過性を有しており、内容物を確認できるように、一部又は全部が透明性を有している。このような条件を満たす培養容器の材料としては、例えばポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム等を挙げることができる。
【0028】
次に、本実施形態の計数用装置による培養容器8の厚さ調整の例について、図3及び図4を参照して説明する。図3は容器の厚みを減らす場合を示すものであり、図4は容器の厚みを増やす場合を示すものである。
【0029】
培養容器8の厚みを減らす場合、容器の厚み調整は、図2に示すものの他、例えば、図3の(a)に示すように、厚さ調整部材2を培養容器8の下方から押圧することにより行うことができる。なお、図示していないが、このとき培養容器8の上面の位置をガラス板などにより固定することが好ましい。
【0030】
また、培養容器8が水平に伸ばせる材料からなる場合には、図3の(b)に示すように、培養容器8の全面を覆い得る厚さ調整部材2を用いて培養容器8を押圧し、培養容器8の厚さを減少させることもできる。また、図3の(c)に示すように、厚さ調整部材2により培養容器8を引き伸ばして、その厚さを減少させることもできる。この場合、培養容器8の縁の一端を固定するとともに、水平方向反対側の縁を引張部材からなる厚さ調整部材2により引っ張る構成にしたり、あるいは2つの厚さ調整部材2を使用して、培養容器8の水平方向両端を引っ張ることで、培養容器8を引き伸ばす構成にすることもできる。このような柔軟な培養容器8の材料としては、例えばシリコーンゴムなどを用いることができる。
【0031】
一方、培養容器8の厚みを増やす場合は、例えば、図4の(d)に示すように、培養容器8の上面の一部を厚さ調整部材2により押圧して、培養容器8における押圧した部分以外の厚みを増加させるようにすることができる。
また、図4の(e)に示すように、厚さ調整部材2としてローラなどを使用し、これを移動させて培養容器8を押圧することで、培養容器8の水平面積を減少させ、培養容器8の厚みを増加させることもできる。
【0032】
次に、本実施形態の容器内の計数対象物の計数方法について、図2を参照してより詳細に説明する。
まず、培養容器8内の細胞数を計測する工程に先だって、培養容器8内の培養液を攪拌することが好ましい。なお、培養液の攪拌手段については、第二実施形態において、詳細に説明する。
【0033】
次に、駆動装置(撮影手段用)6を用いて、撮影手段4を培養容器8の測定対象範囲の下に移動させる。
次に、駆動装置(調節部材用)5を用いて、厚さ調整部材2を降下させ、培養容器8の厚さを所定の厚さに調整する。
このとき、所定の厚さは、細胞の種類、培養容器のサイズ、測定対象範囲の面積、及び培養期間などにより種々の値を取り得る。
【0034】
次に、照明7により測定対象範囲を照らして、撮影手段4により撮影する。そして、撮影した画像上の細胞を計数する。このとき、撮影手段4から計数手段に撮影した画像を送信させ、この計数手段により自動的に細胞数を計測することができる。このような計数手段としては、公知の細胞計数分析装置や細胞数計測装置等を用いることができる。
【0035】
ここで、本実施形態では、培養液として比重が培養細胞よりも小さいものを使用することで、培養細胞を培養容器8の底に沈殿させ、撮影手段の焦点を沈殿した細胞に合わせることでこれらを撮影することができる。しかしなら、細胞密度が大きく、測定対象範囲における細胞が重なり合う場合は、細胞数を正しく計数することができない。
そこで、本実施形態の容器内の計数対象物の計数方法では、このように測定対象範囲における細胞が重なり合う場合は、厚さ調整部材2を移動させて培養容器8の厚さを減少し、計測対象の細胞数を減らすことで、細胞を計測可能にしている。
【0036】
なお、測定対象範囲おいて重なり合うことなく観測できる最大細胞数は、おおよそ測定対象範囲の面積を培養細胞の平均水平面積で除算した数未満と考えることができる。そこで、細胞を計数した結果、細胞数が当該最大細胞数以上に算出されている場合は、培養容器8の厚さをさらに減少させて、再度計数を行うことが好ましい。また、細胞を測定対象範囲に密に並べた場合の数をより正確に推定し、その推定値を最大細胞数として用いるなど、その他の値を培養容器8の厚さ調整を行うか否かの判断に用いることもできる。
【0037】
また、細胞を計数した結果、細胞数が一定値未満の場合は、得られる細胞密度の精度が低くなるため、培養容器8の厚さを増加させた後に、再度計数を行うことが好ましい。このような培養容器8の厚さを増加させる計測用装置については、第三実施形態において詳細に説明する。
【0038】
このようにして測定対象範囲内における細胞数が計測されると、この細胞数を測定対象範囲の容積で除算することで、細胞密度を算出することができる。さらに、得られた細胞密度を培養容器8の容積に乗算することで、培養容器8全体の細胞数を算出することができる。
このような細胞密度及び培養容器8全体の細胞数も、計数手段により自動的に算出させることができる。
【0039】
このように、本実施形態によれば、培養容器8内の細胞数が多く、培養容器8をそのまま直接観測した場合には、細胞数を正確に計測できない場合でも、培養容器の厚さを減少することで、細胞数を計測することができ、培養容器8内の細胞密度を算出することが可能となっている。
【0040】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態の容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、本実施形態の計数用装置の構成を示す図であり、図6は、本実施形態の計数用装置における駆動装置(攪拌部材用)の構成を示す図である。
本実施形態の計数用装置は、第一実施形態の計数用装置の構成に加えて、さらに攪拌部材を備えている。本実施形態では、この攪拌部材を用いて培養容器8内の培養液を攪拌することにより、細胞を観測しやすいように分散できるようになっている。その他の点は、第一実施形態と同様のものとすることができる。
【0041】
攪拌部材9は、培養容器8を押圧して移動することにより、培養容器8内における培養液を攪拌し、培養液中の培養細胞を分散させるものである。この攪拌部材9としては、例えば図5に示すようにローラを使用することができる。
同図の例では、攪拌部材9により培養容器8を所定の押圧量で押圧しつつ、この攪拌部材9を容器積載台3と平行に所定の速度及び所定のサイクルで繰り返し移動させることで、培養液を攪拌する構成となっている。
【0042】
支持台10は、図5に示すように、容器積載台3の両側に一箇所ずつ上方に向かって立設した、攪拌部材9の両端を回転自在に支持する軸受部と、これら軸受部を連結する連結部によって形成されている。
また、この支持台10は、図6に示すように、連結部下に取り付けたロッド型電動シリンダ12(垂直方向動作用アクチュエータ)によって上下に移動させることができ、支持台10に取り付けられた攪拌部材9による培養容器8に対する押圧量を0.1ミリ単位できめ細かく調整することが可能となっている。
【0043】
また、ロッド型電動シリンダ12は、スライダ型電動シリンダ16(水平方向動作用アクチュエータ)上の移動台11に取り付けられており、容器積載台3に対して水平方向に移動する。また、移動台11の水平方向への移動速度をコントロールすることによって、支持台10に取り付けられた攪拌部材9の移動速度を調整する。
なお、撹拌部材の動作制御には、ロッド型電動シリンダ12やスライダ型電動シリンダ16のような電動アクチュエータにかえて、空気圧や油圧、電磁力を利用したアクチュエータを使用したり、モータやカムを用いた構成にしたりすることもできる。
【0044】
本実施形態の容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置によれば、培養容器8内の細胞数を計測するに先だって、攪拌部材9を培養容器8に所定の押圧量で押圧した状態で、攪拌部材9を水平方向に一定時間往復運動を行わせることができる。
これによって、培養容器8内の培養液を攪拌することができ、培養容器8内における培養細胞を計数し易いように分散させることが可能となる。
【0045】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態の容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置について、図7〜図11を参照して説明する。これらの図はそれぞれ、本実施形態の容器内の計数対象物の計数方法における計数用装置の基本位置(図7)、攪拌状態(図8)、厚さ調整及び沈殿待ち状態(計数する細胞を減らしたい場合 図9)、顕微鏡観察状態(図10)、厚さ調整及び沈殿待ち状態(計数する細胞を増やしたい場合 図11)を示す模式図である。
【0046】
本実施形態の計数用装置は、第二実施形態の計数用装置の構成に加えて、さらに培養容器8の厚さを増加させるための厚さ調整部材を備えている。その他の点は、第二実施形態と同様のものとすることができる。
以下、本実施形態の容器内の計数対象物の計数方法における計数用装置の動作手順について、培養容器8の厚さを増加させる動作及び減少させる動作を含めて説明する。
【0047】
(1)基本位置
まず、図7を参照して、本実施形態の計数用装置の構成要素の基本位置について説明する。
同図において、容器積載台3には顕微鏡観察用の観測孔が設けられ、この観測孔の上部に容器積載台3の上面の一部を構成するガラス板がはめ込まれている。
【0048】
培養容器8は容器積載台3上に配置され、この容器積載台3の観測孔の上方に厚さ調整部材2−1(押圧板)が配置されている。この厚さ調整部材2−1を下方に移動させ、培養容器8を押圧して、その厚さを減少させるようになっている。
また、培養容器8の縁の一端には厚さ調整部材2−2(ローラ)が配置され、これを移動させることで、培養容器8の水平面積を減少させ、厚さを増加させることが可能になっている。
【0049】
さらに、培養容器8の上方には攪拌部材9(ローラ)が配置され、この攪拌部材9を下方に移動させて培養容器8を押圧した状態で、水平方向に移動させることで、培養容器8内の培養液を攪拌することが可能になっている。
また、基本位置では、細胞を撮影するための撮影装置4を構成する顕微鏡レンズ4−1とCCDカメラ4−2、及び照明7は、容器積載台3の外側に配置されている。
【0050】
(2)攪拌状態
次に、図8を参照して、容器内の計数対象物の数の計数を行うに先だち、培養容器8内の培養液を攪拌する手順について説明する。
まず、図7の基本位置から攪拌部材9を下方に移動させて、培養容器8を所定の押圧量で押圧する。次に、この攪拌部材9を容器積載台3と平行に、所定の速度及び所定のサイクルで繰り返し移動させる。
これにより、培養容器8内の培養液を攪拌し、培養液中の細胞を均等化することが可能となる。
【0051】
(3)厚さ調整及び沈殿待ち状態(厚さを減少させる場合)
次に、図9を参照して、培養容器8の厚さを減少させ、計数する細胞を減らす手順について説明する。
まず、攪拌部材9を上方に移動させて図7の基本位置に戻し、厚さ調整部材2−1を下方に移動させて、培養容器の厚さを減少させる。このとき、厚さ調整部材2−1により、容器積載台3の観測孔上の領域を含む培養容器8の一部を押圧し、培養容器8の測定対象範囲の厚さを所定のサイズに調整する。このとき、培養環境下において、培養容器8の厚さが小さいほど、計数する細胞を減らすことができる。
培養容器8の厚さを減少させた後、培養容器8内の細胞が沈殿するまで静置させる。
【0052】
(4)顕微鏡観察状態
次に、図10を参照して、細胞計数を行う手順について説明する。
培養容器8の厚さを減少させた状態で、培養容器8内の細胞が沈殿した後、図10に示すように、顕微鏡4−1とCCDカメラ4−2とからなる撮影手段4、及び照明7を図7の基本位置から水平方向に移動させ、撮影手段4を観測孔の真下に、照明7を観測孔の上方に配置させる。そして、CCDカメラ4−2により培養容器8内に沈殿している細胞を撮影する。
【0053】
このようにして得られた画像を図示しない計数装置に入力して、この計数装置により画像内における細胞数を測定し、得られた細胞数を、測定対象範囲(CCDカメラ4−2により観測された培養容器8における領域)の容積で除算することで、培養容器8内の細胞密度を算出することができる。
これにより、培養容器8内の細胞が増殖して、そのままの厚さで沈殿させると、重なり合いが生じて正確に計数できない場合でも、培養容器8の厚さを調整することで計数可能にすることができ、培養容器8内の細胞密度を、培養系を開放することなく、算出することが可能となる。
【0054】
(5)厚さ調整及び沈殿待ち状態(厚さを増加させる場合)
一方、培養の初期段階などにおいては、細胞数が少ないため、計数はできるものの、得られる細胞密度の精度が低くなる場合がある。
このため、観測される細胞数が少ない場合は、図11に示すように、培養容器8の厚さを増加させ、測定対象範囲における細胞数を増やしてから、(4)で説明した顕微鏡観察を行う。
【0055】
すなわち、(2)の攪拌後、攪拌部材9を上方に移動させて図7の基本位置に戻し、ローラからなる厚さ調整部材2−2を測定対象範囲方向に移動させて培養容器8を押圧し、培養容器8の厚さを増加させる。このとき、培養容器8における測定対象範囲の厚さを一定にするために、厚さ調整部材2−1を測定対象範囲上に培養容器8の上面に接触させる位置に移動する。そして、培養容器8内の細胞が沈殿するまで静置させる。
【0056】
これによって、測定対象範囲内の細胞数を増加させることができ、培養容器8内の細胞数が少ない場合に、より正確に細胞密度を算出することが可能になる。
培養容器8内の細胞数が少ない場合の具体的な細胞数は、細胞の種類や測定対象範囲の面積等にもとづき適宜決定されるが、例えば0又は10未満などの数にすることができる。
【0057】
なお、上述した(1)〜(5)の手順に従って、培養容器8の厚さを調節した後に、測定対象範囲内の細胞に重なり合いが見られるか、又は、細胞が見られないか若しくはほとんど見られない場合は、再度(1)〜(5)の手順に従って、培養容器8の厚さを調節し、細胞数の計数が行われる。
【0058】
このように、本実施形態によれば、培養容器8内の細胞数が少なく、培養容器8をそのまま直接観測すると、正確な細胞密度が得られない可能性がある場合、培養容器の厚さを増加させることで、培養容器8内の細胞密度をより正確に算出することが可能となっている。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置により、培養容器8の厚さを調節して細胞数を計測した実施例、及び培養容器8の厚さを調節することなく細胞数を計測した比較例について説明する。
【0060】
(実施例1)
培養容器8として、LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)製、フィルム厚0.15mmのバッグを使用した。培養容器8は、図12に示すように、仕切り部材(ゴムローラ)で仕切ることにより、培養を行う領域である培養部の長辺を250mm、短辺を210mmとし、当該培養部に培養液640mlを入れて使用した。なお、このときの培養容器8を平置きした際の容器厚みは、容器上面が完全な水平面にならないが、およそ16mmであった。観察範囲(測定対象範囲)の水平面のサイズは一辺0.5mmの正方形である。
【0061】
培養液として細胞科学研究所のAlyS505N−0培地を使用するとともに、培養細胞としてヒト白血病Tリンパ種のJurkatE6.1株を細胞培養用ディッシュで必要量増殖させたものを使用した。
攪拌部材9として直径12mmのローラを使用し、押圧量13mm、速度50mm/s、往復回数10回の攪拌条件により攪拌を行った。
【0062】
攪拌直後に、幅50mm、厚さ3mm、長さは培養容器8の長辺より大きいアクリル板からなる厚さ調整部材を降下して、バッグの厚さを3.1mmに調整した。そして、12分間静置させた後、観測範囲を撮影して、細胞数の計数を行った。また、この細胞数と観測範囲の容積にもとづき細胞密度を算出した。撮影した写真を図13に、観測範囲内細胞数、細胞密度、実測密度、及び実測値比を図14に示す。
なお、実測密度は、従来の方法により計数盤を用いて、バッグから回収した培養液中の細胞数を計測し、これを観測範囲の容積で除算して得た。
【0063】
(比較例1)
実施例1と同一の培養容器8及び培養液を用いて、同一の攪拌条件で攪拌を行った。
次に、バッグの厚さを調節することなく、60分間静置させた後、観測範囲を撮影した。バッグの上面は押圧を行っていないため波打っており、バッグの厚みはおよそ16mmであった。
この場合、細胞に重なり合いが見られ、細胞数の計数を行うことはできず、密度の算出も行うことができなかった。その結果を図13,図14に示す。
【0064】
(実施例2)
実施例1とは細胞密度の異なる培養液を用いるとともに、細胞数の計測にあたり、バッグの厚さを11.0mmとし、その後の静置時間を45分間にした点以外は、実施例1と同様にして、実験を行った。培養液と培養細胞の種類は、実施例1と同じであるが、本実施例では実施例1に比較して培養細胞数が少ないものを使用した。その結果を図15及び図16に示す。
【0065】
(実施例3)
細胞数の計測にあたり、バッグの厚さを7.0mmとし、その後の静置時間を30分間にした点以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。その結果を図15及び図16に示す。
【0066】
(実施例4)
細胞数の計測にあたり、バッグの厚さを4.0mmとし、その後の静置時間を12分間にした点以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。その結果を図15及び図16に示す。
【0067】
(実施例5)
細胞数の計測にあたり、バッグの厚さを3.1mmとし、その後の静置時間を12分間にした点以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。その結果を図15及び図16に示す。
【0068】
図13及び図14に示す通り、バッグの厚さを調整しなかった比較例1では、細胞が重なり合っており、正確に計数することができなかった。なお、計数不可能とは、実際に計算できない場合の他、計数結果が所定値(観測範囲内で視認可能な最大細胞数)以上の場合とすることができる。
これに対して、実施例1では、バッグの厚さを減少させることで、細胞数を計測することができ、培養容器8内における細胞密度を算出することが可能であった。
【0069】
また、図15及び図16に示す通り、実施例2〜5では、バッグの厚さを減少させるに従って、計測された細胞数が少なくなっていることがわかる。また、算出された細胞の密度は、いずれも実測密度と比較して大きく異なるものではなかった。
よって、細胞数が多く、その計数ができない場合、細胞密度が大きい程、バッグの厚さをより大きく減少させることで、細胞を計測可能にできることがわかった。
これらの実験結果から、本発明の計数用装置を用いた容器内の計数対象物の計数方法によれば、培養系を開放することなく、また細胞密度に拘わらず、培養容器内の細胞数を計測でき、細胞密度を算出できることが明らかとなった。
【0070】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施形態及び実施例では、培養細胞を計測対象としているが、これに限定されるものではなく、例えばプランクトンなどその他の有機体、又は無機物を計測対象とすることも可能である。培養容器内の「液体」には、培養液などの液体の他、半流動体も含まれる。また、培養容器8内の培養液として、培養細胞の比重よりも大きいものを使用することで、培養細胞を培養容器8内の上部に位置させることができ、これを計数するようにしても良い。また、上記実施形態及び実施例において細胞を計数するのみならず、細胞の生育状態等を観察することもできる。さらに、攪拌部材9を円柱状ではなく、断面を星形などの種々の形状に構成して様々な振とう効果が得られるようにするなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、細胞培養容器を用いて、細胞を大量培養する場合に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 計数用装置
2 厚さ調整部材
2−1 厚さ調整部材(厚さ減少用)
2−2 厚さ調整部材(厚さ増加用)
3 容器積載台
4 撮影手段
4−1 顕微鏡
4−2 CCDカメラ
5 駆動装置(調節部材用)
6 駆動装置(撮影手段用)
7 照明
8 培養容器
9 攪拌部材
10 支持台
11 移動台
12 ロッド型電動シリンダ(垂直方向動作用アクチュエータ)
13 ボールネジ
14 ガイド棒
15 基台
16 スライダ型電動シリンダ(水平方向動作用アクチュエータ)
17 ガラス板
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内の計数対象物の計数方法に関し、特に密封された培養容器内における培養液中の細胞数を数えるための容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織、微生物などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような細胞培養においては、細胞の増殖に併せて、培養液における細胞の密度を適正な範囲に維持することが必要である。
【0003】
すなわち、培養液における細胞密度が大きすぎると各細胞に十分な酸素や栄養を供給することができなくなり、細胞増殖効率が低下する。また、培養液における細胞密度が小さすぎても十分な増殖効率が得られない。
そこで、細胞培養においては、培養中に細胞密度を把握するため、適宜培養容器内における培養液中の細胞数を計測する必要があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、細胞の増殖に併せて培養液における細胞密度を適正に維持することができる細胞培養装置が開示されている。
このような細胞培養装置を用いて細胞数の計測を行う場合、従来は培養容器内につながるチューブから培養細胞が含まれる培養液を採集し、所定の緩衝液を加えて培養液における細胞を測定に適する密度に調整した後、計数盤へ注入し、人や機械によってその数を読み取って、細胞密度を算出するということが行われていた。
【0005】
また、特許文献2には、撮影手段を備えた培養装置が開示されている。この培養装置によれば、細胞画像を定期的に取得し、保存することが可能になっている。
【0006】
【特許文献1】国際公開2008/136371号パンフレット
【特許文献2】国際公開2007/052718号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の細胞培養装置を用いて培養液中の細胞を計数する方法では、培養容器内から培養液を採集する必要があり、培養系が開放されるため、雑菌などが混入するコンタミネーションのリスクがあった。
【0008】
また、特許文献2に記載の培養装置では、細胞画像を取得することはできるが、その画像にもとづき細胞数を正確に計測し、細胞密度を得ることは困難であった。
すなわち、特許文献2に記載の撮影手段により培養容器内の細胞を撮影する場合、細胞画像の細胞数を計測して、これを当該撮影手段の視野内における培養液の容積で除算することで、細胞密度を算出することはできる。
しかし、このように細胞容器内の細胞を直接観察する場合、図17に示すように、細胞の密度が大きく細胞が重なり合うときは、細胞数を正確に計測することができない。また、細胞の密度が小さすぎるときは、全体の密度予測が難しく、算出される細胞密度の精度が低くなってしまうという問題があった。
【0009】
このように撮影手段を用いて培養容器内の細胞を直接計測する場合、従来の計数盤を用いて実測する場合に比較すると、計数盤の厚さが0.1mmであるのに対して培養容器の厚さは1〜2cm程度であり、その厚さが100〜200倍となっている。
このため、撮影手段から見える細胞数は、同じ体積密度でも計数盤を用いて実測する場合の100〜200倍となってしまう。したがって、培養容器内の細胞は互いに重なり合う場合が多く、培養容器内の細胞を直接観測して細胞数を計測することは、困難であった。
【0010】
そこで、本発明者らは鋭意研究した結果、培養容器の厚みを調整して、撮影手段から見える細胞数を計測可能な数にした後に、培養容器内の細胞数を直接観測により計測することで、実測値に近い細胞密度を得ることに成功し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、培養系を開放することなく、かつ増殖した細胞の密度に拘わらず、培養環境下のあらゆる密度範囲で細胞数を計測することが可能な容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の容器内の計数対象物の計数方法は、密封された容器内の液体中の計数対象物の数を計測する方法であって、容器の少なくとも一部の厚みを調整し、調整した範囲の少なくとも一部を測定対象範囲として当該測定対象範囲における計数対象物の数を計測する方法としてある。
また、本発明の容器内の計数対象物の計数方法は、容器の液体を攪拌し、液体中の計数対象物を均等化した後に、容器の少なくとも一部の厚みを調整する方法としてある。
【0012】
また、本発明の計数用装置は、密封された容器内の液体中の計数対象物の数を計測するための計数用装置であって、容器を積載する積載台と、容器における測定対象範囲を含む少なくとも一部を所定の厚みに調整する調整部材とを備えた構成としてある。
また、本発明の計数用装置に、さらに調整部材により容器の厚みを調整する前に、容器内の液体を攪拌する攪拌部材を備えた構成とすることもできる。
【0013】
また、本発明の計数用装置に、さらに容器内の計数対象物を撮影する撮影手段と、撮影された画像内の計数対象物の数を計測する計数手段と、計数手段による計測の結果、計数対象物の数が所定の範囲内に無い場合、画像内の計数対象物の数が、所定の範囲内になるように、調整部材を駆動して、容器の少なくとも一部を所定の厚みに調整させる駆動装置とを備えた構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、培養系を開放することなく、また増殖した細胞の密度に拘わらず、細胞数を計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の容器内の計数対象物の計数方法の原理を示す図である。
【図2】本発明の第一実施形態の計数用装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の第一実施形態の計数用装置による容器の厚み調整方法(厚みを減らす場合)を示す図である。
【図4】本発明の第一実施形態の計数用装置による容器の厚み調整方法(厚みを増やす場合)を示す図である。
【図5】本発明の第二実施形態の計数用装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の第二実施形態の計数用装置における駆動装置(攪拌部材用)の構成を示す図である。
【図7】本発明の第三実施形態の計数用装置の基本位置を示す図である。
【図8】本発明の第三実施形態の計数用装置の攪拌状態を示す図である。
【図9】本発明の第三実施形態の計数用装置の厚さ調整及び沈殿待ち状態(厚さを減少させる場合)を示す図である。
【図10】本発明の第三実施形態の計数用装置の顕微鏡観察状態を示す図である。
【図11】本発明の第三実施形態の計数用装置の厚さ調整及び沈殿待ち状態(厚さを増加させる場合)を示す図である。
【図12】本発明の実施例及び比較例で使用した培養容器を示す図である。
【図13】本発明の実施例1及び比較例1における細胞の画像を示す図である。
【図14】本発明の実施例1及び比較例1の結果を示す図である。
【図15】本発明の実施例2〜5における細胞の画像を示す図である。
【図16】本発明の実施例2〜5の結果を示す図である。
【図17】従来の容器内の計数対象物の計数方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
まず、本発明の容器内の計数対象物の計数方法の原理について、図1を参照して説明する。
同図は、顕微鏡を用いて培養容器内の細胞を直接観察し、その数を計測する様子を示したものであり、図1(A)は、従来のように、容器の厚さを調節することなく、観測する場合を示している。なお、培養液としてその比重が細胞の比重よりも小さいものを使用することで、細胞を容器の底に沈め、顕微鏡観察に適したものとすることができる。また反対に比重の大きい培養液を使用して細胞を容器の上部に集めて観察するようにしても良い。
【0017】
図1(A)の場合、容器内の細胞数が増加するにつれ、懸濁して静置させたときに、次第に重なり合いが生じてくる。したがって、この方法では細胞を大量に培養する場合に、細胞数を正確に計測することができない。
【0018】
そこで、本発明では、細胞数が多すぎて正確に計測することができない場合には、図1(B)に示すように、容器の厚みを減少させることで、観測範囲(測定対象範囲)における細胞数を減少させ、計測に適した細胞数に調整する。
これによって、培養容器により細胞を大量に培養する場合でも、培養容器内の細胞を直接観察することで、培養系を開放することなく、細胞数を計測することが可能となっている。
また、培養容器内の細胞数が少なく、培養容器全体の密度予測が難しい場合にも、容器の厚みを増大させることで、観測範囲内における細胞数を増加させ、計測に適した細胞数に調整することができる。
【0019】
[第一実施形態]
次に、本発明の第一実施形態の容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置について、図2を参照して説明する。同図は、本実施形態の計数用装置の構成を示す図である。
本実施形態の計数用装置1は、同図に示すように、厚さ調整部材2、容器積載台3、撮影手段4、駆動装置(調節部材用)5、駆動装置(撮影手段用)6、及び照明7を備えており、容器積載台3上に培養容器8を配置して、培養容器8内の培養細胞数を計測する。
【0020】
厚さ調整部材2は、容器積載台3上の培養容器8を調節する。同図の例では、厚さ調整部材2は培養容器8を押圧するための平面部分を有する押圧板からなり、軟包材からなる培養容器8の一部を上から押圧することで、その厚さを減少させることが可能となっている。
【0021】
また、厚さ調整部材2における少なくとも培養容器8の測定対象範囲の上方部分は透明な材料からなり、当該部分を照明7により上方から照らし、顕微鏡及びCCDカメラからなる撮影手段4により下方から観察するようになっている。
なお、厚さ調整部材2は、図2に示すような平面部分により培養容器8を押圧する押圧板に限定されるものではなく、ローラや引張部材を用いて構成することもできる。
【0022】
例えばローラにより培養容器8を上下の両方から又は一方から押圧しつつ移動させて、培養容器8の水平面積を減少させることで、培養容器8の厚みを増加させることができる。また、引張部材を用いて培養容器8を水平方向に引き伸ばすことで、培養容器8の厚みを減少させることもできる。
【0023】
容器積載台3は、培養容器8を載置させるための平面の台であり、厚さ調整部材2とともに、計数用の積載装置を構成する。
この容器積載台3における測定対象範囲の下方部分は、ガラス板などの透明な部材により構成され、撮影手段4により下方から培養容器8を観測できるようになっている。
【0024】
駆動装置(調節部材用)5は、図2に示すように、ボールスクリューネジにより、厚さ調整部材2を上下に移動させるものである。これにより容器積載台3上の培養容器8に厚さ調整部材2を押しつけて、培養容器8の厚さを調節可能にしている。
この駆動装置(調節部材用)5には、例えばロッド型電動シリンダ(垂直方向動作用アクチュエータ)を用いることができ、これによって、培養容器8の厚さを0.1ミリ単位できめ細かく調整することが可能である。
【0025】
また、駆動装置(撮影手段用)6は、図2に示すように、ボールスクリューネジにより、撮影手段4を容器積載台3に対して水平方向に移動するものである。この駆動装置(撮影手段用)6によって、培養容器8内における細胞の撮影時以外は、撮影手段4を容器積載台3の外側に配置し、撮影時に撮影手段4を培養容器8の測定対象範囲の下に移動させることができる。
なお、駆動装置(調節部材用)5や駆動装置(撮影手段用)6を、電動アクチュエータの他、空気圧や油圧、電磁力を利用したアクチュエータを用いて構成したり、あるいはモータやカムを用いて構成したりすることもできる。
【0026】
照明7は、厚さ調整部材2を介して培養容器8における測定対象範囲を照らし、撮影手段4による細胞の撮影に必要な明るさを提供する。
培養容器8は、軟包材を材料として、袋状(バック型)に形成した容器である。このように、培養容器8の材料として軟包材を用いることで、培養容器8に可撓性・柔軟性を付与することができる。軟包材としては、例えば、特開2002−255277号公報(軟包材フィルムシートを用いた食品包装体及び食品の取り出し方法)や、特開2004−323077号公報(加圧抽出形の袋状容器)に記載されているものなどを用いることができる。
【0027】
また、培養容器8は、細胞培養に必要なガス透過性を有しており、内容物を確認できるように、一部又は全部が透明性を有している。このような条件を満たす培養容器の材料としては、例えばポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム等を挙げることができる。
【0028】
次に、本実施形態の計数用装置による培養容器8の厚さ調整の例について、図3及び図4を参照して説明する。図3は容器の厚みを減らす場合を示すものであり、図4は容器の厚みを増やす場合を示すものである。
【0029】
培養容器8の厚みを減らす場合、容器の厚み調整は、図2に示すものの他、例えば、図3の(a)に示すように、厚さ調整部材2を培養容器8の下方から押圧することにより行うことができる。なお、図示していないが、このとき培養容器8の上面の位置をガラス板などにより固定することが好ましい。
【0030】
また、培養容器8が水平に伸ばせる材料からなる場合には、図3の(b)に示すように、培養容器8の全面を覆い得る厚さ調整部材2を用いて培養容器8を押圧し、培養容器8の厚さを減少させることもできる。また、図3の(c)に示すように、厚さ調整部材2により培養容器8を引き伸ばして、その厚さを減少させることもできる。この場合、培養容器8の縁の一端を固定するとともに、水平方向反対側の縁を引張部材からなる厚さ調整部材2により引っ張る構成にしたり、あるいは2つの厚さ調整部材2を使用して、培養容器8の水平方向両端を引っ張ることで、培養容器8を引き伸ばす構成にすることもできる。このような柔軟な培養容器8の材料としては、例えばシリコーンゴムなどを用いることができる。
【0031】
一方、培養容器8の厚みを増やす場合は、例えば、図4の(d)に示すように、培養容器8の上面の一部を厚さ調整部材2により押圧して、培養容器8における押圧した部分以外の厚みを増加させるようにすることができる。
また、図4の(e)に示すように、厚さ調整部材2としてローラなどを使用し、これを移動させて培養容器8を押圧することで、培養容器8の水平面積を減少させ、培養容器8の厚みを増加させることもできる。
【0032】
次に、本実施形態の容器内の計数対象物の計数方法について、図2を参照してより詳細に説明する。
まず、培養容器8内の細胞数を計測する工程に先だって、培養容器8内の培養液を攪拌することが好ましい。なお、培養液の攪拌手段については、第二実施形態において、詳細に説明する。
【0033】
次に、駆動装置(撮影手段用)6を用いて、撮影手段4を培養容器8の測定対象範囲の下に移動させる。
次に、駆動装置(調節部材用)5を用いて、厚さ調整部材2を降下させ、培養容器8の厚さを所定の厚さに調整する。
このとき、所定の厚さは、細胞の種類、培養容器のサイズ、測定対象範囲の面積、及び培養期間などにより種々の値を取り得る。
【0034】
次に、照明7により測定対象範囲を照らして、撮影手段4により撮影する。そして、撮影した画像上の細胞を計数する。このとき、撮影手段4から計数手段に撮影した画像を送信させ、この計数手段により自動的に細胞数を計測することができる。このような計数手段としては、公知の細胞計数分析装置や細胞数計測装置等を用いることができる。
【0035】
ここで、本実施形態では、培養液として比重が培養細胞よりも小さいものを使用することで、培養細胞を培養容器8の底に沈殿させ、撮影手段の焦点を沈殿した細胞に合わせることでこれらを撮影することができる。しかしなら、細胞密度が大きく、測定対象範囲における細胞が重なり合う場合は、細胞数を正しく計数することができない。
そこで、本実施形態の容器内の計数対象物の計数方法では、このように測定対象範囲における細胞が重なり合う場合は、厚さ調整部材2を移動させて培養容器8の厚さを減少し、計測対象の細胞数を減らすことで、細胞を計測可能にしている。
【0036】
なお、測定対象範囲おいて重なり合うことなく観測できる最大細胞数は、おおよそ測定対象範囲の面積を培養細胞の平均水平面積で除算した数未満と考えることができる。そこで、細胞を計数した結果、細胞数が当該最大細胞数以上に算出されている場合は、培養容器8の厚さをさらに減少させて、再度計数を行うことが好ましい。また、細胞を測定対象範囲に密に並べた場合の数をより正確に推定し、その推定値を最大細胞数として用いるなど、その他の値を培養容器8の厚さ調整を行うか否かの判断に用いることもできる。
【0037】
また、細胞を計数した結果、細胞数が一定値未満の場合は、得られる細胞密度の精度が低くなるため、培養容器8の厚さを増加させた後に、再度計数を行うことが好ましい。このような培養容器8の厚さを増加させる計測用装置については、第三実施形態において詳細に説明する。
【0038】
このようにして測定対象範囲内における細胞数が計測されると、この細胞数を測定対象範囲の容積で除算することで、細胞密度を算出することができる。さらに、得られた細胞密度を培養容器8の容積に乗算することで、培養容器8全体の細胞数を算出することができる。
このような細胞密度及び培養容器8全体の細胞数も、計数手段により自動的に算出させることができる。
【0039】
このように、本実施形態によれば、培養容器8内の細胞数が多く、培養容器8をそのまま直接観測した場合には、細胞数を正確に計測できない場合でも、培養容器の厚さを減少することで、細胞数を計測することができ、培養容器8内の細胞密度を算出することが可能となっている。
【0040】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態の容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、本実施形態の計数用装置の構成を示す図であり、図6は、本実施形態の計数用装置における駆動装置(攪拌部材用)の構成を示す図である。
本実施形態の計数用装置は、第一実施形態の計数用装置の構成に加えて、さらに攪拌部材を備えている。本実施形態では、この攪拌部材を用いて培養容器8内の培養液を攪拌することにより、細胞を観測しやすいように分散できるようになっている。その他の点は、第一実施形態と同様のものとすることができる。
【0041】
攪拌部材9は、培養容器8を押圧して移動することにより、培養容器8内における培養液を攪拌し、培養液中の培養細胞を分散させるものである。この攪拌部材9としては、例えば図5に示すようにローラを使用することができる。
同図の例では、攪拌部材9により培養容器8を所定の押圧量で押圧しつつ、この攪拌部材9を容器積載台3と平行に所定の速度及び所定のサイクルで繰り返し移動させることで、培養液を攪拌する構成となっている。
【0042】
支持台10は、図5に示すように、容器積載台3の両側に一箇所ずつ上方に向かって立設した、攪拌部材9の両端を回転自在に支持する軸受部と、これら軸受部を連結する連結部によって形成されている。
また、この支持台10は、図6に示すように、連結部下に取り付けたロッド型電動シリンダ12(垂直方向動作用アクチュエータ)によって上下に移動させることができ、支持台10に取り付けられた攪拌部材9による培養容器8に対する押圧量を0.1ミリ単位できめ細かく調整することが可能となっている。
【0043】
また、ロッド型電動シリンダ12は、スライダ型電動シリンダ16(水平方向動作用アクチュエータ)上の移動台11に取り付けられており、容器積載台3に対して水平方向に移動する。また、移動台11の水平方向への移動速度をコントロールすることによって、支持台10に取り付けられた攪拌部材9の移動速度を調整する。
なお、撹拌部材の動作制御には、ロッド型電動シリンダ12やスライダ型電動シリンダ16のような電動アクチュエータにかえて、空気圧や油圧、電磁力を利用したアクチュエータを使用したり、モータやカムを用いた構成にしたりすることもできる。
【0044】
本実施形態の容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置によれば、培養容器8内の細胞数を計測するに先だって、攪拌部材9を培養容器8に所定の押圧量で押圧した状態で、攪拌部材9を水平方向に一定時間往復運動を行わせることができる。
これによって、培養容器8内の培養液を攪拌することができ、培養容器8内における培養細胞を計数し易いように分散させることが可能となる。
【0045】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態の容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置について、図7〜図11を参照して説明する。これらの図はそれぞれ、本実施形態の容器内の計数対象物の計数方法における計数用装置の基本位置(図7)、攪拌状態(図8)、厚さ調整及び沈殿待ち状態(計数する細胞を減らしたい場合 図9)、顕微鏡観察状態(図10)、厚さ調整及び沈殿待ち状態(計数する細胞を増やしたい場合 図11)を示す模式図である。
【0046】
本実施形態の計数用装置は、第二実施形態の計数用装置の構成に加えて、さらに培養容器8の厚さを増加させるための厚さ調整部材を備えている。その他の点は、第二実施形態と同様のものとすることができる。
以下、本実施形態の容器内の計数対象物の計数方法における計数用装置の動作手順について、培養容器8の厚さを増加させる動作及び減少させる動作を含めて説明する。
【0047】
(1)基本位置
まず、図7を参照して、本実施形態の計数用装置の構成要素の基本位置について説明する。
同図において、容器積載台3には顕微鏡観察用の観測孔が設けられ、この観測孔の上部に容器積載台3の上面の一部を構成するガラス板がはめ込まれている。
【0048】
培養容器8は容器積載台3上に配置され、この容器積載台3の観測孔の上方に厚さ調整部材2−1(押圧板)が配置されている。この厚さ調整部材2−1を下方に移動させ、培養容器8を押圧して、その厚さを減少させるようになっている。
また、培養容器8の縁の一端には厚さ調整部材2−2(ローラ)が配置され、これを移動させることで、培養容器8の水平面積を減少させ、厚さを増加させることが可能になっている。
【0049】
さらに、培養容器8の上方には攪拌部材9(ローラ)が配置され、この攪拌部材9を下方に移動させて培養容器8を押圧した状態で、水平方向に移動させることで、培養容器8内の培養液を攪拌することが可能になっている。
また、基本位置では、細胞を撮影するための撮影装置4を構成する顕微鏡レンズ4−1とCCDカメラ4−2、及び照明7は、容器積載台3の外側に配置されている。
【0050】
(2)攪拌状態
次に、図8を参照して、容器内の計数対象物の数の計数を行うに先だち、培養容器8内の培養液を攪拌する手順について説明する。
まず、図7の基本位置から攪拌部材9を下方に移動させて、培養容器8を所定の押圧量で押圧する。次に、この攪拌部材9を容器積載台3と平行に、所定の速度及び所定のサイクルで繰り返し移動させる。
これにより、培養容器8内の培養液を攪拌し、培養液中の細胞を均等化することが可能となる。
【0051】
(3)厚さ調整及び沈殿待ち状態(厚さを減少させる場合)
次に、図9を参照して、培養容器8の厚さを減少させ、計数する細胞を減らす手順について説明する。
まず、攪拌部材9を上方に移動させて図7の基本位置に戻し、厚さ調整部材2−1を下方に移動させて、培養容器の厚さを減少させる。このとき、厚さ調整部材2−1により、容器積載台3の観測孔上の領域を含む培養容器8の一部を押圧し、培養容器8の測定対象範囲の厚さを所定のサイズに調整する。このとき、培養環境下において、培養容器8の厚さが小さいほど、計数する細胞を減らすことができる。
培養容器8の厚さを減少させた後、培養容器8内の細胞が沈殿するまで静置させる。
【0052】
(4)顕微鏡観察状態
次に、図10を参照して、細胞計数を行う手順について説明する。
培養容器8の厚さを減少させた状態で、培養容器8内の細胞が沈殿した後、図10に示すように、顕微鏡4−1とCCDカメラ4−2とからなる撮影手段4、及び照明7を図7の基本位置から水平方向に移動させ、撮影手段4を観測孔の真下に、照明7を観測孔の上方に配置させる。そして、CCDカメラ4−2により培養容器8内に沈殿している細胞を撮影する。
【0053】
このようにして得られた画像を図示しない計数装置に入力して、この計数装置により画像内における細胞数を測定し、得られた細胞数を、測定対象範囲(CCDカメラ4−2により観測された培養容器8における領域)の容積で除算することで、培養容器8内の細胞密度を算出することができる。
これにより、培養容器8内の細胞が増殖して、そのままの厚さで沈殿させると、重なり合いが生じて正確に計数できない場合でも、培養容器8の厚さを調整することで計数可能にすることができ、培養容器8内の細胞密度を、培養系を開放することなく、算出することが可能となる。
【0054】
(5)厚さ調整及び沈殿待ち状態(厚さを増加させる場合)
一方、培養の初期段階などにおいては、細胞数が少ないため、計数はできるものの、得られる細胞密度の精度が低くなる場合がある。
このため、観測される細胞数が少ない場合は、図11に示すように、培養容器8の厚さを増加させ、測定対象範囲における細胞数を増やしてから、(4)で説明した顕微鏡観察を行う。
【0055】
すなわち、(2)の攪拌後、攪拌部材9を上方に移動させて図7の基本位置に戻し、ローラからなる厚さ調整部材2−2を測定対象範囲方向に移動させて培養容器8を押圧し、培養容器8の厚さを増加させる。このとき、培養容器8における測定対象範囲の厚さを一定にするために、厚さ調整部材2−1を測定対象範囲上に培養容器8の上面に接触させる位置に移動する。そして、培養容器8内の細胞が沈殿するまで静置させる。
【0056】
これによって、測定対象範囲内の細胞数を増加させることができ、培養容器8内の細胞数が少ない場合に、より正確に細胞密度を算出することが可能になる。
培養容器8内の細胞数が少ない場合の具体的な細胞数は、細胞の種類や測定対象範囲の面積等にもとづき適宜決定されるが、例えば0又は10未満などの数にすることができる。
【0057】
なお、上述した(1)〜(5)の手順に従って、培養容器8の厚さを調節した後に、測定対象範囲内の細胞に重なり合いが見られるか、又は、細胞が見られないか若しくはほとんど見られない場合は、再度(1)〜(5)の手順に従って、培養容器8の厚さを調節し、細胞数の計数が行われる。
【0058】
このように、本実施形態によれば、培養容器8内の細胞数が少なく、培養容器8をそのまま直接観測すると、正確な細胞密度が得られない可能性がある場合、培養容器の厚さを増加させることで、培養容器8内の細胞密度をより正確に算出することが可能となっている。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の容器内の計数対象物の計数方法、及び計数用装置により、培養容器8の厚さを調節して細胞数を計測した実施例、及び培養容器8の厚さを調節することなく細胞数を計測した比較例について説明する。
【0060】
(実施例1)
培養容器8として、LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)製、フィルム厚0.15mmのバッグを使用した。培養容器8は、図12に示すように、仕切り部材(ゴムローラ)で仕切ることにより、培養を行う領域である培養部の長辺を250mm、短辺を210mmとし、当該培養部に培養液640mlを入れて使用した。なお、このときの培養容器8を平置きした際の容器厚みは、容器上面が完全な水平面にならないが、およそ16mmであった。観察範囲(測定対象範囲)の水平面のサイズは一辺0.5mmの正方形である。
【0061】
培養液として細胞科学研究所のAlyS505N−0培地を使用するとともに、培養細胞としてヒト白血病Tリンパ種のJurkatE6.1株を細胞培養用ディッシュで必要量増殖させたものを使用した。
攪拌部材9として直径12mmのローラを使用し、押圧量13mm、速度50mm/s、往復回数10回の攪拌条件により攪拌を行った。
【0062】
攪拌直後に、幅50mm、厚さ3mm、長さは培養容器8の長辺より大きいアクリル板からなる厚さ調整部材を降下して、バッグの厚さを3.1mmに調整した。そして、12分間静置させた後、観測範囲を撮影して、細胞数の計数を行った。また、この細胞数と観測範囲の容積にもとづき細胞密度を算出した。撮影した写真を図13に、観測範囲内細胞数、細胞密度、実測密度、及び実測値比を図14に示す。
なお、実測密度は、従来の方法により計数盤を用いて、バッグから回収した培養液中の細胞数を計測し、これを観測範囲の容積で除算して得た。
【0063】
(比較例1)
実施例1と同一の培養容器8及び培養液を用いて、同一の攪拌条件で攪拌を行った。
次に、バッグの厚さを調節することなく、60分間静置させた後、観測範囲を撮影した。バッグの上面は押圧を行っていないため波打っており、バッグの厚みはおよそ16mmであった。
この場合、細胞に重なり合いが見られ、細胞数の計数を行うことはできず、密度の算出も行うことができなかった。その結果を図13,図14に示す。
【0064】
(実施例2)
実施例1とは細胞密度の異なる培養液を用いるとともに、細胞数の計測にあたり、バッグの厚さを11.0mmとし、その後の静置時間を45分間にした点以外は、実施例1と同様にして、実験を行った。培養液と培養細胞の種類は、実施例1と同じであるが、本実施例では実施例1に比較して培養細胞数が少ないものを使用した。その結果を図15及び図16に示す。
【0065】
(実施例3)
細胞数の計測にあたり、バッグの厚さを7.0mmとし、その後の静置時間を30分間にした点以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。その結果を図15及び図16に示す。
【0066】
(実施例4)
細胞数の計測にあたり、バッグの厚さを4.0mmとし、その後の静置時間を12分間にした点以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。その結果を図15及び図16に示す。
【0067】
(実施例5)
細胞数の計測にあたり、バッグの厚さを3.1mmとし、その後の静置時間を12分間にした点以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。その結果を図15及び図16に示す。
【0068】
図13及び図14に示す通り、バッグの厚さを調整しなかった比較例1では、細胞が重なり合っており、正確に計数することができなかった。なお、計数不可能とは、実際に計算できない場合の他、計数結果が所定値(観測範囲内で視認可能な最大細胞数)以上の場合とすることができる。
これに対して、実施例1では、バッグの厚さを減少させることで、細胞数を計測することができ、培養容器8内における細胞密度を算出することが可能であった。
【0069】
また、図15及び図16に示す通り、実施例2〜5では、バッグの厚さを減少させるに従って、計測された細胞数が少なくなっていることがわかる。また、算出された細胞の密度は、いずれも実測密度と比較して大きく異なるものではなかった。
よって、細胞数が多く、その計数ができない場合、細胞密度が大きい程、バッグの厚さをより大きく減少させることで、細胞を計測可能にできることがわかった。
これらの実験結果から、本発明の計数用装置を用いた容器内の計数対象物の計数方法によれば、培養系を開放することなく、また細胞密度に拘わらず、培養容器内の細胞数を計測でき、細胞密度を算出できることが明らかとなった。
【0070】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施形態及び実施例では、培養細胞を計測対象としているが、これに限定されるものではなく、例えばプランクトンなどその他の有機体、又は無機物を計測対象とすることも可能である。培養容器内の「液体」には、培養液などの液体の他、半流動体も含まれる。また、培養容器8内の培養液として、培養細胞の比重よりも大きいものを使用することで、培養細胞を培養容器8内の上部に位置させることができ、これを計数するようにしても良い。また、上記実施形態及び実施例において細胞を計数するのみならず、細胞の生育状態等を観察することもできる。さらに、攪拌部材9を円柱状ではなく、断面を星形などの種々の形状に構成して様々な振とう効果が得られるようにするなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、細胞培養容器を用いて、細胞を大量培養する場合に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 計数用装置
2 厚さ調整部材
2−1 厚さ調整部材(厚さ減少用)
2−2 厚さ調整部材(厚さ増加用)
3 容器積載台
4 撮影手段
4−1 顕微鏡
4−2 CCDカメラ
5 駆動装置(調節部材用)
6 駆動装置(撮影手段用)
7 照明
8 培養容器
9 攪拌部材
10 支持台
11 移動台
12 ロッド型電動シリンダ(垂直方向動作用アクチュエータ)
13 ボールネジ
14 ガイド棒
15 基台
16 スライダ型電動シリンダ(水平方向動作用アクチュエータ)
17 ガラス板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封された容器内の液体中の計数対象物の数を計測する方法であって、前記容器の少なくとも一部の厚みを調整し、調整した範囲の少なくとも一部を測定対象範囲として、当該測定対象範囲における計数対象物の数を計測する
ことを特徴とする容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項2】
前記容器内の液体を攪拌し、前記液体中の前記計数対象物を均等化した後に、前記容器の少なくとも一部の厚みを調整する
ことを特徴とする請求項1記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項3】
計測された前記計数対象物の数を用いて、前記液体中の計数対象物の密度を算出し、及び/又は、前記液体全体における計数対象物の数を算出する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項4】
前記計数対象物の数の計測が、前記測定対象範囲を撮影した画像中の前記計数対象物の数を計測することにより行われる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項5】
前記測定対象範囲における前記計数対象物の数が所定値以上である場合、前記容器の少なくとも一部の厚みを減少させた後、前記計数対象物の数を計測する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項6】
厚み調整部材を用いて、前記容器を押圧し、又は、前記容器を引き伸ばし、前記容器の少なくとも一部の厚みを減少させる
ことを特徴とする請求項5記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項7】
前記測定対象範囲における前記計数対象物の数が所定値未満である場合、前記容器の少なくとも一部の厚みを増加させた後、前記計数対象物の数を計測する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項8】
厚み調整部材を用いて、前記容器を押圧し、前記容器の少なくとも一部の厚みを増加させる
ことを特徴とする請求項7記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項9】
前記容器が培養容器であり、前記計数対象物が細胞である請求項1〜8のいずれかに記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項10】
密封された容器内の液体中の計数対象物の数を計測するための計数用装置であって、
前記容器を積載する積載台と、前記容器における測定対象範囲を含む少なくとも一部を所定の厚みに調整する調整部材とを備えたことを特徴とする計数用装置。
【請求項11】
前記調整部材により前記容器の厚みを調整する前に、前記容器内の液体を攪拌する攪拌部材を備えたことを特徴とする請求項10記載の計数用装置。
【請求項12】
前記容器内の前記計数対象物を撮影する撮影手段と、撮影された画像内の前記計数対象物の数を計測する計数手段と、前記計数手段による計測の結果、前記計数対象物の数が所定の範囲内に無い場合、前記画像内の計数対象物の数が、所定の範囲内になるように、前記調整部材を駆動して、前記容器の少なくとも一部を所定の厚みに調整させる駆動装置とを備えたことを特徴とする請求項10又は11記載の計数用装置。
【請求項1】
密封された容器内の液体中の計数対象物の数を計測する方法であって、前記容器の少なくとも一部の厚みを調整し、調整した範囲の少なくとも一部を測定対象範囲として、当該測定対象範囲における計数対象物の数を計測する
ことを特徴とする容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項2】
前記容器内の液体を攪拌し、前記液体中の前記計数対象物を均等化した後に、前記容器の少なくとも一部の厚みを調整する
ことを特徴とする請求項1記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項3】
計測された前記計数対象物の数を用いて、前記液体中の計数対象物の密度を算出し、及び/又は、前記液体全体における計数対象物の数を算出する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項4】
前記計数対象物の数の計測が、前記測定対象範囲を撮影した画像中の前記計数対象物の数を計測することにより行われる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項5】
前記測定対象範囲における前記計数対象物の数が所定値以上である場合、前記容器の少なくとも一部の厚みを減少させた後、前記計数対象物の数を計測する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項6】
厚み調整部材を用いて、前記容器を押圧し、又は、前記容器を引き伸ばし、前記容器の少なくとも一部の厚みを減少させる
ことを特徴とする請求項5記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項7】
前記測定対象範囲における前記計数対象物の数が所定値未満である場合、前記容器の少なくとも一部の厚みを増加させた後、前記計数対象物の数を計測する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項8】
厚み調整部材を用いて、前記容器を押圧し、前記容器の少なくとも一部の厚みを増加させる
ことを特徴とする請求項7記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項9】
前記容器が培養容器であり、前記計数対象物が細胞である請求項1〜8のいずれかに記載の容器内の計数対象物の計数方法。
【請求項10】
密封された容器内の液体中の計数対象物の数を計測するための計数用装置であって、
前記容器を積載する積載台と、前記容器における測定対象範囲を含む少なくとも一部を所定の厚みに調整する調整部材とを備えたことを特徴とする計数用装置。
【請求項11】
前記調整部材により前記容器の厚みを調整する前に、前記容器内の液体を攪拌する攪拌部材を備えたことを特徴とする請求項10記載の計数用装置。
【請求項12】
前記容器内の前記計数対象物を撮影する撮影手段と、撮影された画像内の前記計数対象物の数を計測する計数手段と、前記計数手段による計測の結果、前記計数対象物の数が所定の範囲内に無い場合、前記画像内の計数対象物の数が、所定の範囲内になるように、前記調整部材を駆動して、前記容器の少なくとも一部を所定の厚みに調整させる駆動装置とを備えたことを特徴とする請求項10又は11記載の計数用装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図16】
【図17】
【図13】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図16】
【図17】
【図13】
【図15】
【公開番号】特開2011−87498(P2011−87498A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242826(P2009−242826)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】
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