説明

容器内部表面の乾燥防止方法

【課題】 乳化重合ラテックスのろ過又は払い出し用の容器内の気相部壁面や泡上の重合体凝集物の生成を抑止できる、容器内部表面の乾燥防止方法を提供すること。
【解決手段】 乳化重合ラテックスを貯蔵、ろ過又は払い出しするに際し、容器の気相に、直径100μm以下の水滴からなる霧を0.001〜1.0kg/(m−気相)(hr)の速度で吹き込み、前記気相の相対湿度を90%以上にすることを特徴とする容器内部表面の乾燥防止方法により上記課題が解決される。好ましくは、前記霧の温度が0〜50℃である容器内部表面の乾燥防止方法であり、また好ましくは前記乳化重合ラテックスが乾燥により皮膜化あるいは粉末化するラテックスの容器内部表面の乾燥防止方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化重合ラテックスの貯蔵、ろ過又は払い出し用の容器内の表面の乾燥防止方法に関し、詳しくは、気相部壁面や泡上での重合体凝集物の生成を抑止できる容器内部表面の乾燥防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化重合による合成ゴムや合成樹脂のラテックスの工業生産においては、乳化重合終了時にラテックスを重合器から貯蔵タンクにブローダウンをする時や、貯蔵タンクから残留単量体の除去、ブレンド操作等の次工程への移送、出荷のためのタンクローリ等への払い出しなどをする時に、ストレーナでろ過をして重合体凝集物を除去することが行われる。ラテックスに重合体凝集物が混入していると、詰りなどの工程トラブルを起こすばかりか、ストレーナをすり抜けた微細な凝集物は、ユーザにおいて、コーティング用途では異状突起物となり、ゴム膜用途では伸長時に亀裂の起点となるなどの品質トラブルを生ずるおそれがある。また、ろ過操作が終了した後のストレーナ内には泡が生じていて、これが次のろ過操作までの間に乾燥してしばしば微細な重合体凝集物が生成する。
また、貯蔵タンクや払い出し用タンクに貯蔵されているラテックスを次工程や出荷用タンクローリなどに払い出ししてタンク内のレベルが下がると、タンクの気相部内壁に濡れ残っているラテックスや液上などに存在する泡が経時とともに乾燥して、往々にして重合体凝集物が生成する。
重合体凝集物は上記のように工程トラブルや品質トラブルの原因になるので、その生成を抑止することが望まれる。この問題に対して特許文献1は、乳化重合体ラテックスを、加圧したスチーム又はスチームと不活性ガスの圧力により移送するラテックスの移送方法を提案した。しかしながら、この方法では移送操作中は内壁面乾燥防止効果があるものの、次回の移送操作までの間に壁面が乾燥するし、加圧スチームの使用により局所的に過度に加熱されて重合体が変色を来たす場合もあり、工程トラブル、品質トラブルが解決したとは言えない。
【0003】
【特許文献1】特開2002−265041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、乳化重合ラテックスの貯蔵、ろ過又は払い出し用の容器内の気相部壁面や泡上の重合体凝集物の生成を抑止できる、容器内部表面の乾燥防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の径を有する霧を特定の速度で容器内に吹き込み、これにより気相を高湿度に保つことにより上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに到った。
かくして本発明によれば、乳化重合ラテックスを貯蔵、ろ過又は払い出しするに際し、容器の気相に、直径100μm以下の水滴からなる霧を0.001〜1kg/(m−気相)(hr)の速度で吹き込み、前記気相の相対湿度を90%以上にすることを特徴とする容器内部表面の乾燥防止方法が提供される。好ましくは、前記霧の温度が0〜50℃である容器内部表面の乾燥防止方法であり、また好ましくは前記乳化重合ラテックスが、乾燥により皮膜化又は粉末化するものである容器内部表面の乾燥防止方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、乳化重合ラテックスの貯蔵、ろ過又は払い出し用の容器内の気相部壁面や泡上の重合体凝集物の生成を抑止できる、容器内部表面の乾燥防止方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の容器内部表面の乾燥防止方法は、乳化重合ラテックスを貯蔵、ろ過又は払い出しするに際し、容器の気相に、直径100μm以下の水滴からなる霧を0.001〜1kg/(m−気相)(hr)の速度で吹き込み、前記気相の相対湿度を90%以上にすることを特徴とするものである。
本発明において、容器内部表面とは、容器内の気相部内壁の表面の他、攪拌機がある場合はシャフトの気相部分の表面や、貯蔵ラテックス表面、またその上に泡が存在する場合は泡の表面をも意味する。ラテックスの払い出しとは、タンク内からタンク外にラテックスの一部又は総てを移送することを意味する。また容器とは、乳化重合ラテックスの製造プロセスにおいてラテックスがその内部に貯蔵又は流通する容器であって、大は100〜500mの貯蔵タンクから小は5〜500Lのストレーナまであり、その他、回収タンク、濃縮タンク、ブレンドタンク、調整タンク、各種濾過機などが該当する。これらは密閉式、開放式のいずれでもよいが、本発明方法は開放の状態で適用される。
【0008】
本発明における乳化重合ラテックスは、乳化重合によって製造される、平均粒径0.02〜20μm、好ましくは0.05〜10μmの重合体のラテックスであって重合体には限定がなく、ポリブタジエンゴムラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリルゴムラテックス、エチレン−プロピレンゴムラテックス等の合成ゴムラテックス;アクリロニトリル−スチレン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート共重合体ラテックス等の合成樹脂ラテックス;ポリブタジエンゴムラテックス、アクリルゴムラテックス、エチレン−プロピレンゴムラテックス等の合成ゴムラテックスにスチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等の樹脂形成性単量体を重合してなるグラフト重合体ラテックス;等が例示される。本発明は、特に重合体凝集物による品質トラブルが起き易いコーティング、フォーム、ディッピング、接着等の用途を抱える、乾燥により皮膜化又は粉末化するラテックスの製造設備に好適に適用される。
【0009】
本発明で用いられる霧は、直径が100μm以下、好ましくは50μm以下の水滴からなる。水滴の直径が大きすぎると濃度ムラが発生し、全体が均一に乾燥防止されない可能性がある。
【0010】
上記霧を生成する方法に限定はなく、例えば、0.5〜5MPaの加圧水をステンレス鋼製の細孔を有する一流体式ノズルチップに導入して噴霧する方法、0.1〜1MPaの圧搾空気を二流体式ノズルチップ(図1に一例を示す。)に通し、該チップ内に空気流の直角方向から水を導入して空気のジェット流に乗せることにより噴霧する方法などがある。空気の代わりに窒素などの不活性気体を用いても良い。いずれの方法によっても、霧の温度が0〜50℃の範囲であることが、局所的な集中加熱が起きて重合体の熱変色が生ずるという事態を防止する上で好ましい。なお、霧の水滴径は、前記ノズルチップの出口の細孔径を調整したり、加圧水や圧搾空気の圧力を調整して噴霧速度を加減することにより調節可能である。
【0011】
本発明において、ラテックスを貯蔵、ろ過又は払い出しするに際し、貯蔵、ろ過又は払い出しするための容器の気相に上記霧を、0.001〜1kg/(m−気相)(hr)、好ましくは0.01〜0.5kg/(m−気相)(hr)、より好ましくは0.03〜0.3kg/(m−気相)(hr)の速度で吹き込んで、気相の相対湿度を90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上にする。気相が上記相対湿度になってから貯蔵、ろ過又は払い出しの操作を開始する。
【0012】
霧の吹き込み速度が小さすぎると、気相の湿度が低下し、ラテックスのレベルが下がって気相部内壁に濡れ残っているラテックスや液上などに存在する泡が経時とともに乾燥して重合体凝集物が生成するおそれがあり、逆に、大きすぎると内容物であるラテックスが発泡、飛散する可能性があり、また製品ラテックスの固形分濃度が低下して再濃縮操作が必要となったりする。
貯蔵、ろ過又は払い出しの操作に際しては、霧の吹き込みを好ましくは操作時間の半分以上の期間、より好ましくは貯蔵、ろ過又は払い出しの期間中行う。貯蔵、ろ過又は払い出しの操作が終了する時点で霧の吹き込みを止める。霧の水滴が微細なため長時間浮遊して気相の湿度を高く保持するので、容器内部表面の乾燥が防止されて重合体凝集物の生成が抑制される。
【実施例】
【0013】
以下に製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。ただし本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。以下の配合において「部」は、特に断わりのない限り重量基準である。
試験、評価は下記によった。
(1)霧の水滴径
プレートガラス上にシリコーンオイルを厚み0.5〜0.8mmに塗布した上に霧を受け止め、すばやく顕微鏡写真を撮影した。写真3〜5枚を用いて500〜800個の水滴の直径を測定して個数平均値を求めた。
【0014】
(2)重合体凝集物の発生量(気相部壁面、泡上)
重合体凝集物の発生量は、200mの貯蔵タンクに乳化重合ラテックス100mを貯蔵し、1回につき20mずつ、計5回払い出しをした後に、貯蔵タンクをクリーニングした際に回収された凝集物及び皮膜の重量を測定した。
【0015】
(3)相対湿度
相対湿度は、200mの貯蔵タンク内天井部と内容物の液面の中間位置に湿度計を設置して測定した。
【0016】
(製造例1)
攪拌機つき重合反応器に、イオン交換水13.2部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部及びβ−ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物0.05部を仕込み、加温して液温を60℃にした。これにイオン交換水132部、アクリロニトリル27部、1,3−ブタジエン67.5部、メタクリル酸5.5部、t−ドデシルメルカプタン0.3部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、β−ナフタレンスルホンナトリウムホルマリン縮合物0.5部、過硫酸カリウム0.3部及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部からなる乳化液を5時間かけて一定速度で添加した。その間重合反応器液温を60℃に保った。乳化液添加終了後、液温を80℃に昇温し、5時間攪拌して重合転化率が95%に達するまで反応させた。その後、重合停止剤ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.1部を添加して重合反応を停止した。得られた共重合体ラテックスから未反応単量体を除去した後、pH及び固形分濃度を調整して、pH8、固形分濃度40重量%のカルボキシ変性ニトリルゴムのラテックスAを得た。ラテックスAの共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィによるテトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量は40,000であった。
【0017】
(実施例1)
気相部に開口(マンホール)を有するステンレス鋼製の容量200mの耐圧タンクに貯蔵している100mのラテックスAを、別のラテックスと混合するためにタンク底部からポンプで20m/hrの速度で20mずつ5回に分けて払い出しするに際し、先ず、タンク頭頂脇に接続した配管を通してタンク内気相部に平均直径10μmの水滴からなる25℃の霧を0.01kg/(m−気相)(hr)の速度で吹き込んだ。タンク内気相の相対湿度が90%になってからラテックスの払い出しを開始し、100mのラテックスAを払い出し終了した時点で霧の吹き込みを停止し、開口部にステンレス鋼製の覆いを載せた。タンク内のラテックスAの液面低下に伴う濡れ壁の状況を調べたところ、払い出し終了から6時間後、まだ気相に霧が濃く残留しており、該壁面における重合体凝集物発生率は0.1重量%以下であった。
なお、霧の生成は、(株)いけうち製の二流体式ノズルチップ「BIMV4504」を用いて、空気圧0.4MPa、空気流量2.76Nm/hr、水圧0.2MPaで行い、霧を充円錐型に広げて噴霧した。気相の相対湿度は、ラテックスA払い出し前は90%、払い出し中及び払い出し終了時は97%であり、払い出し終了から6時間後は96%であった。図1に上記二流体式ノズルの断面概念図を、図2に圧搾空気と液(25℃の水)とノズルチップの関係のシステム説明図を示す。
【0018】
(実施例2、3及び比較例1)
実施例1において、吹き込み速度を0.3kg/(m−気相)(hr)に(実施例2)、又は霧の直径を50μmに(実施例3)、又は霧の粒子径を200μmに(比較例1)、それぞれ各1要件のみ変更した他は実施例1と同様に実施することにより、表1に示す平均直径、吹き込み速度、相対湿度、重合体凝集物発生率を得た。
【0019】
(比較例2、3)
100mのラテックスAを貯蔵している、気相部に開口(マンホール)を有するステンレス鋼製の容量200mの耐圧タンクの気相部を、250kPaのスチームで加圧し、タンク内の圧力を200〜250kPaに保ちつつタンク底部からラテックスを20m/hrの速度で20mずつ5回に分けて別のタンクに移送した。相対湿度及び重合体凝集物の発生状況を表1に記す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1が示すように、実施例1〜3では本発明の要件を満たす霧を容器内に噴霧することにより、いずれの場合も壁面及び液上の泡上に重合体凝集物をほとんど発生させずに済んだ。
一方、霧の直径が大きすぎると(比較例1)、気相部の相対湿度が低下して壁面や泡上に重合体凝集物が多く発生した。容器内に霧に代えてスチームを吹き込む方法によると、温度上昇によりラテックスが変色したり(比較例2)、スチーム吹込み後、温度低下に伴い容器内壁を伝って凝結水が流れ落ち、ラテックスの表面に液たまりが発生したりする等の好ましくない現象が起きた(比較例3)。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】霧を生成する装置の一例を示す二流体式チップノズルの断面概念図である。
【図2】空気、液(水)系及び二流体式チップノズルの関係を示すシステム説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化重合ラテックスを貯蔵、ろ過又は払い出しするに際し、容器の気相に、直径100μm以下の水滴からなる霧を0.001〜1kg/(m−気相)(hr)の速度で吹き込み、前記気相の相対湿度を90%以上にすることを特徴とする容器内部表面の乾燥防止方法。
【請求項2】
前記霧の温度が0〜50℃であることを特徴とする請求項1記載の容器内部表面の乾燥防止方法。
【請求項3】
前記乳化重合ラテックスが、乾燥により皮膜化又は粉末化するものである請求項1又は2に記載の容器内部表面の乾燥防止方法。


【図1】
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【図2】
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