説明

容量性負荷の駆動回路及び液体吐出装置

【課題】消費電力を低減し得るとともに、高周波域でも安定した動作が保証される容量性負荷の駆動回路を提供する。
【解決手段】アナログ信号S1に基づきトランジスタ対31Aを介して圧電素子11を駆動する駆動信号S2を生成する駆動信号生成部31と、高圧側電源電圧VU及び低圧側電源電圧VLを生成するとともに、これらを高圧側出力端子32U及び低圧側出力端子32Lを介してトランジスタ対31Aを構成する各トランジスタTR1,TR2のコレクタに印加するチャージポンプ32とを有するとともに、チャージポンプ32は、多段に構成するとともに隣接するチャージポンプ間に接続された逆流防止手段と、駆動信号S2が所定の閾値を超える毎又は所定の閾値未満になる毎にCPU21によりオン/オフ制御されて隣接するチャージポンプ間を直列に接続するスイッチ手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容量性負荷の駆動回路及び液体吐出装置に関し、特に台形状波形の駆動信号を用いて圧電素子を駆動するインクジェット式記録ヘッド及びこれを有するインクジェット式記録装置に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
駆動信号の供給により液体を吐出させ、この液体を対象物に着弾させて印字等の処理を行う液体吐出装置としては、例えば、圧電素子の変位による圧力を利用してノズル開口からインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置が知られている。この種の液体吐出装置では、多数の圧電素子を支障なく動作させるべく十分な電流を供給する必要がある。このため、電流増幅部によって電流が増幅された駆動信号を用いている。
【0003】
かかる電流増幅部で駆動信号の電流増幅を行う場合、充電用のトランジスタにおける消費電力は、電源電位と駆動信号の電位との差に電流を乗じた量となる。一方、放電用のトランジスタにおける消費電力は、駆動信号の電位と接地電位との差に電流を乗じた量となる。このため、各トランジスタにおける消費電力が大きくなり、この消費電力を可及的に低減する技術が待望されていた。かかる要望に応えるべく駆動電流による電力消費の低減を目的とする従来技術として特許文献1に開示するものがある。
【0004】
特許文献1に開示された駆動回路では、圧電素子を駆動する台形状の主駆動信号に対し、この主駆動信号の形状を倣うように所定量オフセットさせた補助駆動信号を形成するとともに、この補助駆動信号を電源電圧とすることにより、両者の差を小さくして消費電力の低減を図っている。
【0005】
このため、前記駆動回路は、アナログ信号に基づきトランジスタ対を介して主駆動信号を生成する主駆動信号生成部と、パルス信号に基づき他のトランジスタ及び平滑回路を介して補助駆動信号を生成する補助駆動信号生成部とを有している。前記パルス信号は、PWM回路により主駆動信号を表す信号と三角波とを比較器で比較することにより得ている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−272907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載された駆動回路のPWM回路では、三角波と比較する主駆動信号を表す信号は主駆動信号に対してオフセットが付くように或る値を加算する等の処理をしている。このため、前記平滑回路による遅延等により主駆動信号と補助駆動信号との差が小さくなり、動作が不安定になる場合がある。近年、主駆動信号の周波数は高周波化の傾向が顕著になっており、その分遅延の影響を無視できなくなりつつある。他方で、主駆動信号と補助駆動信号とのオフセット値を初めから大きくとっておくと、トランジスタ対の熱損失を低減して消費電力を小さくすることが難しくなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑み、消費電力を低減し得るとともに、高周波域でも安定した動作が保証される容量性負荷の駆動回路及び液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
アナログ信号に基づきトランジスタ対を介して容量性負荷を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
高圧側電源電圧及び低圧側電源電圧を生成するとともに、前記高圧側電源電圧及び低圧側電源電圧を高圧側出力端子及び低圧側出力端子を介して前記トランジスタ対を構成する各トランジスタのコレクタに印加する電源電圧生成部とを有するとともに、
前記電源電圧生成部は、並列に接続した多段の電源と、隣接する前記電源間に接続された逆流防止手段と、前記駆動信号が所定の閾値を超える毎又は所定の閾値未満になる毎に制御手段によりオン/オフ制御されて隣接する電源間を直列に接続するスイッチ手段とを有するものであることを特徴とする容量性負荷の駆動回路にある。
本態様によれば、駆動信号に対する高圧側電源電圧及び低圧側電源電圧を駆動信号の変化に追従させたスイッチ手段の切替のみで容易に形成することができる。
【0010】
この結果、高圧側電源電圧及び低圧側電源電圧と駆動信号との差を小さくすることができ、その分前記差に起因するトランジスタ対における消費電力を小さくすることができる。また、かかる消費電力の低減化には電源の段数を増やすことで容易に対処し得る。
【0011】
さらに、平滑回路等の遅延要素を加味したオフセット量の調整等の必要がなく、所定のスイッチングタイミングでスイッチ手段のオン/オフ制御を行うだけで所望の高圧側電源電圧及び低圧側電源電圧を容易に得ることができる。この結果、駆動信号の高周波数化にも良好に対処し得る。
【0012】
ここで、前記電源電圧生成部は、一個の電圧源とこの電圧源に並列に接続した多段のコンデンサとで好適に構成することができる。タンデム接続した多段のチャージポンプを構成した場合であるが、この場合にはさらに低圧側出力端子を介して容量性負荷から良好に電力を回生し得る。また、容易に多段化を実現でき、多段化によるトランジスタ対における消費電力の低減効果をより顕著なものとすることができる。
【0013】
さらに、前記電源の低圧側出力端子にはこの低圧側出力端子の電位を所定値に維持するための電位制御手段を接続するのが好ましい。この場合には、容量性負荷からの電力回生時にスイッチ手段の状態に起因する低圧側出力端子の電位のフローティング状態を回避し、その電位を一定に維持することができる。この結果、スイッチングの際のノイズの発生等を有効に防止し得る。ここで、前記電位制御手段はコンデンサとこのコンデンサに接続した抵抗とで好適に構成することができる。この場合には、RCの時定数回路が構成されるため、さらにスイッチング時の電圧変動を滑らかにすることができるという効果も得る。
【0014】
ここで、容量性負荷は、電圧の印加に伴い変位することによりノズル開口を介して液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの圧電素子とするのが好ましい。液体噴射ヘッドの圧電素子は一般に台形状の波形を組み合わせた駆動信号を用いるが、所定のオフセット量を確保しつつ容易に前記駆動信号の形状に倣う高圧側電源電圧及び低圧側電源電圧を形成することができるからである。
【0015】
本発明の他の態様は、上記容量性負荷の駆動回路を有する液体吐出装置にある。本態様によれば、当該液体噴射装置の消費電力の削減に寄与し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、インクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図1に示すように、記録ヘッドユニット1A及び1Bは、液体吐出装置としてのインクジェット式記録装置Iに設けられている。即ち、記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インクジェット式記録装置Iのキャリッジ3に搭載され、キャリッジ3は、インクジェット式記録装置Iの装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出する。
【0017】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図1中は図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0018】
図2は、図1に示す記録ヘッドユニット1A,1Bが内蔵するインクジェット式記録ヘッド10の一例を示す模式的断面図である。同図に示すように、当該インクジェット式記録ヘッド10は、インクを噴射するノズル開口12に連通する圧力発生室13と、圧力発生室13と図示しないインクカートリッジとを連通させる流路14と、圧力発生室13に対向して設けられた振動板15と、振動板15を介して圧力発生室13に圧力変化を発生させる圧電素子11とを備えている。圧電素子11は、ケース16に、固定板17を介して固定されている。圧電素子11の基端部近傍には、固定板17とは反対側の面に、各圧電素子11を駆動するための信号、即ち駆動信号S2(図3参照)を供給する配線18が設けられている。この配線18が、ヘッド制御部30(図3参照)に接続されている。このようなインクジェット式記録ヘッド10では、ヘッド制御部30から駆動信号S2が配線18を介してインクジェット式記録ヘッド10に送出され、圧電素子11に駆動信号S2が印加される。圧電素子11は、駆動信号S2に応じて、充電・放電を繰り返して伸縮することで振動板15を変形させて、圧力発生室13の容積を変化させる。この圧力発生室13の容積変化により、所定のノズル開口12からインク滴が吐出される。
【0019】
図3はインクジェット式記録装置の制御系を示すブロック線図である。同図に示すように、インクジェット式記録装置I内には、インクジェット式記録装置Iの制御を行う制御部20が設けられている。制御部20は、CPU21と、装置制御部22と、容量性負荷の駆動回路であるヘッド制御部30とを備えている。
【0020】
さらに詳言すると、CPU21からキャリッジ3(図1参照)の移動を示す信号が装置制御部22に入力されると、装置制御部22は、駆動モータ6を駆動させてキャリッジ3をキャリッジ軸5に沿って移動させるとともに、CPU21からの記録シートS(図1参照)の搬送を示す信号が装置制御部22に入力され、装置制御部22は、給紙ローラ23を駆動して記録シートSを搬送させる。
【0021】
一方、ヘッド制御部30には、CPU21からヘッドの駆動信号S2を生成するためのアナログ信号S1及び当該ヘッド制御部30のスイッチング制御(後に詳説する)を行うスイッチング信号S3が入力される。この結果、ヘッド制御部30は駆動信号S2をインクジェット式記録ヘッド10の各圧電素子11を選択的に駆動してインクを吐出させる。ここで、インクジェット式記録ヘッド10は図示しないドライバICがCPU21からヘッド制御信号を供給されて各圧電素子11を選択的に駆動させる。
【0022】
図4は、上述の如くインクジェット式記録ヘッドを制御するヘッド制御部の詳細なブロック線図である。同図に示すように、ヘッド制御部30は、ヘッドの駆動信号S2(図3参照)を生成する本形態における駆動信号生成部31であるトランジスタ対31A、高圧側電源電圧VU及び低圧側電源電圧VLを生成する電源電圧生成部であるチャージポンプ32及び電位制御部33を有している。
【0023】
ここで、トランジスタ対31Aは、このトランジスタ対31Aを構成するNPN型のトランジスタTR1及びPNP型のトランジスタTR2のベースに供給されるアナログ信号S1に基づき駆動信号S2を生成する。アナログ信号S1は、CPU21が記憶している駆動信号S2のディジタルデータをCPU21内でD/A変換することにより得ている。
【0024】
また、チャージポンプ32は、後に詳説するが多段に構成されており、CPU21から出力されるスイッチング信号S3による切替制御により複数種類の電圧である高圧側電源電圧VU乃至低圧側電源電圧VLを高圧側出力端子32U乃至低圧側出力端子32Lを介してトランジスタTR1乃至トランジスタTR2のコレクタに印加するようになっている。かくしてトランジスタTR1乃至トランジスタTR2のコレクタにはチャージポンプ32の段数に応じた複数種類の電圧値をとって階段状に変化する高圧側電源電圧VU及び低圧側電源電圧VLを印加することができる。ここで、高圧側電源電圧VUは常に駆動信号S2の電圧値を超える値となり、また低圧側電源電圧VLは駆動信号S2の電圧値未満の値となるようにチャージポンプ32のスイッチング制御が行われている。
【0025】
電位制御部33はチャージポンプ32の低圧側出力端子32Lに接続されており、この低圧側出力端子32Lの電位を所定値に維持するためのものである。その具体的な構成については後に詳述する。
【0026】
かかるヘッド制御部30では、CPU21で生成されたアナログ信号S1が、トランジスタ対31Aの各トランジスタTR1,TR2のベースに入力される。この結果、トランジスタ対31Aは、アナログ信号S1を増幅して多数の圧電素子11を同時に動作させるのに十分な電流を供給する駆動信号S2を生成する。
【0027】
ここで、トランジスタ対31Aは、相補的に接続されたトランジスタTR1,TR2によって構成されているプッシュプル増幅回路である。かかる増幅回路を用いることで、高い電流増幅率を得ることができる。具体的にその構成を説明すると、トランジスタ対31Aは、互いのエミッタ同士が接続されたNPN型のトランジスタTR1とPNP型のトランジスタTR2とによって構成されている。トランジスタTR1は、駆動信号S2の電圧上昇時に動作するものであり、圧電素子11の充電用のトランジスタである。このトランジスタTR1では、コレクタに高圧側電源電圧VUが印加される。一方、PNP型のトランジスタTR2は、駆動信号S2の電圧下降時に動作するものであり、圧電素子11の放電用のトランジスタである。このトランジスタTR2では、コレクタに低圧側電源電圧VLが印加される。
【0028】
さらに、トランジスタTR1,TR2は、エミッタで接続され、この接続部から圧電素子11に駆動信号S2が出力される。
【0029】
かかるトランジスタ対31Aは、トランジスタTR1,TR2のベースに入力されたアナログ信号ANGによって動作が制御される。例えば、アナログ信号S1の電位が上昇状態であるとき、トランジスタTR1におけるベースの電位がそのエミッタの電位よりも所定値以上高くなると、トランジスタTR1がオン状態となる。これに伴って駆動信号S2の電位も上昇する。一方、アナログ信号S1の電位が下降状態であるとき、トランジスタTR2におけるベースの電位がそのエミッタの電位よりも所定値以上低くなると、トランジスタTR2がオン状態となる。これに伴って駆動信号S2の電位も下降する。このように、駆動信号S2の電位波形は、アナログ信号S1の電圧波形と相似形となるように制御される。
【0030】
ここで、本形態においては、チャージポンプ32に対するスイッチング制御により電圧波形が駆動信号S2を倣うような階段形状に成形された高圧側電源電圧VU及び低圧側電源電圧VLを生成して、これら高圧側電源電圧VU及び低圧側電源電圧VLをトランジスタ対31Aの電源電圧としている。すなわち、後述する図6に示すように、高圧側電源電圧VUは常に駆動信号S2の電圧値を超える値となり、また低圧側電源電圧VLは駆動信号S2の電圧値未満の値となって駆動信号S2の形状を倣うように階段状に変化する形状となっているので、高圧側電源電圧VU及び低圧側電源電圧VLと駆動信号S2の電圧値との差を小さくすることができる。この結果、その分トランジスタ対31Aにおける消費電力を低減することができる。
【0031】
図5はチャージポンプを含む本形態におけるヘッド制御部の具体的な回路構成を示す回路図、図6はその出力である駆動信号と高圧側電源電圧及び低圧側電源電圧との関係を示す波形図である。なお、図5中、図4と同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0032】
図5に示すように、チャージポンプ32は各段に一個のコンデンサC4,C6,C7を設けてこれらを電圧源VSに並列に接続した3段のチャージポンプである。すなわち、隣接するコンデンサC4,C6,C7間には逆流防止手段であるダイオードD4,D5,D6が接続されるとともに、隣接するコンデンサC4,C6,C7間を直列に接続するためのスイッチSW10,SW2,SW11,SW3,SW12,SW4を有している。かくして、スイッチSW10,SW2,SW11,SW3,SW12,SW4のオン/オフの組み合わせにより、低圧側出力端子32Lには電圧1から電圧4までの電圧(図6参照)を、高圧側出力端子32Uには電圧2から電圧5までの電圧(図6参照)をそれぞれ生成することができる。ここで、電圧1は接地電圧であり、電圧2が電圧源VSの出力電圧Voである。
【0033】
例えば、図5に示すように、スイッチSW2乃至SW4が全てオン状態で、且つスイッチSW10乃至SW12が全てオフ状態である場合には、コンデンサC4乃至C7は全てが電圧源VSに対して並列になる。この場合には高圧側出力端子32Uが出力電圧Voとなり、低圧側出力端子32Lが接地電圧となる。かくして、スイッチSW2乃至スイッチSW12のオン/オフの組み合わせにより電圧1乃至電圧5を選択的に生成させることができる。ここで、スイッチSW電圧3=(電圧2+Vo)、電圧4=(電圧2+2×Vo)、電圧5=(電圧2+3×Vo)となっている。すなわち、1段目で電圧2から電圧3まで昇圧し、2段目で電圧3から電圧4まで昇圧し、さらに3段目で電圧4から電圧5まで昇圧し得るように構成してある。この結果、トランジスタTR1のコレクタには、高圧側出力端子32Uを介して電圧2乃至電圧5の電圧を選択的に印加することができ、トランジスタTR2のコレクタには、低圧側出力端子32Lを介して電圧1乃至電圧4の電圧を選択的に印加することができる。
【0034】
したがって、スイッチSW2乃至SW12のオン/オフのタイミングを的確に制御することにより、図6に示すような駆動信号S2の波形を倣う階段状の高圧側電源電圧VU及び低圧側電源電圧VLを生成することができる。このためのスイッチSW2乃至SW12のオン/オフの切替制御は、上述の如くCPU21が出力するスイッチング信号S3で行っている。すなわち、駆動信号S2の増加時には駆動信号S2が電圧2乃至電圧4を超える直前に一段上の電圧に切替え、駆動信号S2の減少時には駆動信号S2が電圧4乃至電圧2を下回る直前に一段下の電圧に切替えるようにすれば良い。
【0035】
電位制御部33は、本形態の場合低圧側出力端子32Lと接地との間に接続されたコンデンサC9で構成してある。
【0036】
かかるコンデンサC9により容量性負荷である圧電素子11からチャージポンプ32側に電力を回生する場合に低圧側出力端子32Lの電位が不定となるのを防止し得る。すなわち、スイッチSW12とスイッチSW4とを同時にオン状態にするとコンデンサC6が短絡されてしまうので、同時にオンすることがないように両者が同時にオフ状態となる瞬間が存在する。この際、コンデンサC9がない場合には、低圧側出力端子32Lの電位がフローティング状態となって不定になり、チャージポンプ32における電圧切替の際にノイズが発生する等の不都合を生起する。そこで、低圧側出力端子32LにコンデンサC9を接続することで低圧側出力端子32Lの電位を所定値に維持し、動作の安定化を図っている。
【0037】
さらに、本形態ではコンデンサC9に抵抗Rが接続してある。かかる抵抗Rを接続することにより,RCの時定数回路を構成することができ、電圧切替の際の電圧を滑らかに変化させることができる。
【0038】
表1は図6に示すタイミングT0乃至T9の各時点における各スイッチSW2乃至SW12のオン/オフ状態を示している。
【0039】
【表1】

【0040】
すなわち、T0からT1の間では各スイッチSW2乃至SW12のオン/オフ状態が表1のようになり、高圧側出力端子32Uが電圧2、低圧側出力端子32Lが電圧1となる。その後、高圧側出力端子32Uの電圧は、T1からT2の間では電圧3に昇圧されるとともに、T2からT3の間で電圧2に降圧された後、T3からT4の間、T4からT5の間で順次電圧3,電圧4と昇圧され、T5からT6の間で最大電圧の電圧5となる。その後はT6からT7の間、T7からT8の間、T8からT9の間で電圧4、電圧3、電圧2に順次降圧される。これに伴い低圧側出力端子32Lの電圧は、高圧側出力端子32Uの電圧よりも出力電圧Voだけ低い電圧で推移する。
【0041】
この結果,高圧側電源電圧VUは図6中に一点鎖線で示す波形となり、低圧側電源電圧VLは図6中に点線で示す波形となる。
【0042】
なお、各タイミングT1乃至T8におけるスイッチSW2乃至スイッチSW12の切替は電圧2乃至電圧4に基づく値を各閾値として駆動信号S2の波形に基づく電圧と比較することによりCPU21(図4参照)で生成されるスイッチング信号S3で制御する。
【0043】
かかる本形態によれば、図6に示すように、高圧側電源電圧VU及び低圧側電源電圧VLを駆動信号S2の波形に沿わせて階段状に変化させることができるので、トランジスタ対31Aで消費する電力をその分低減することができる。ちなみに、本形態においては高圧側電源電圧VUと駆動信号S2との間の面積及び駆動信号S2と低圧側電源電圧VLとの間の面積の和が消費電力となる。
【0044】
さらに、駆動信号S2が下降する際には容量性負荷である圧電素子11に充電した電力をチャージポンプ32のコンデンサC6等に回生することができる。この結果、その分チャージポンプ32で消費する電力を低減し得る。
【0045】
なお、上記実施の形態においては電源として3段のチャージポンプをタンデム接続した場合を示したが、これに限るものではない。原理的には多段の電源を並列に接続して複数種類の電圧を高圧側出力端子及び低圧側出力端子から取り出し得る構造のものであれば特別な制限はない。また、チャージポンプの段数にも、勿論制限はない。ただ、段数が多ければ多いほど、忠実に駆動信号の波形に倣う高圧側電源電圧VU及び低圧側電源電圧VLを生成することができるので、トランジスタ対31Aで消費される電力をその分良好に低減することができる。
【0046】
さらに、上述した実施形態では、縦振動型の圧電素子11に対して駆動信号を入力する場合について説明したが、圧力発生室13に圧力変化を生じさせる圧力発生手段としては、特にこれに限定されない。例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のアクチュエータ装置や、薄膜型の圧電素子などに対しても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】液体吐出装置の構成を示す模式的斜視図である。
【図2】液体吐出ヘッドの構成を示す模式的断面図である。
【図3】液体吐出装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】ヘッド制御部の構成を示すブロック図である。
【図5】ヘッド制御部の具体的な回路構成を示す回路図である。
【図6】駆動信号と高圧側電源電圧及び低圧側電源電圧との関係を示す波形図である。
【符号の説明】
【0048】
I インクジェット式記録装置、 1A、1B 記録ヘッドユニット、 6 駆動モータ、 10 インクジェット式記録ヘッド、 11 圧電素子、 15 振動板、 20 制御部、 30 ヘッド制御部、 31 駆動信号生成部、 31A トランジスタ対、 32 チャージポンプ、 32U 高圧側出力端子、 32L 低圧側出力端子、 33 電位制御部、 S1 アナログ信号、 S2 駆動信号、 S3 スイッチング信号、 VU 高圧側電源電圧、 VL 低圧側電源電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ信号に基づきトランジスタ対を介して容量性負荷を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
高圧側電源電圧及び低圧側電源電圧を生成するとともに、前記高圧側電源電圧及び低圧側電源電圧を高圧側出力端子及び低圧側出力端子を介して前記トランジスタ対を構成する各トランジスタのコレクタに印加する電源電圧生成部とを有するとともに、
前記電源電圧生成部は、並列に接続した多段の電源と、隣接する前記電源間に接続された逆流防止手段と、前記駆動信号が所定の閾値を超える毎又は所定の閾値未満になる毎に制御手段によりオン/オフ制御されて隣接する電源間を直列に接続するスイッチ手段とを有するものであることを特徴とする容量性負荷の駆動回路。
【請求項2】
請求項1に記載する容量性負荷の駆動回路において、
前記電源電圧生成部は一個の電圧源とこの電圧源に並列に接続した多段のコンデンサとで構成したことを特徴とする容量性負荷の駆動回路。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する容量性負荷の駆動回路において、
前記電源の低圧側出力端子にはこの低圧側出力端子の電位を所定値に維持するための電位制御手段を接続したことを特徴とする容量性負荷の駆動回路。
【請求項4】
請求項3に記載する容量性負荷の駆動回路において、
前記電位制御手段はコンデンサとこのコンデンサに接続した抵抗とで構成したことを特徴とする容量性負荷の駆動回路。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載する容量性負荷の駆動回路における前記容量性負荷は、電圧の印加に伴い変位することによりノズル開口を介して液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの圧電素子であることを特徴とする容量性負荷の駆動回路。
【請求項6】
請求項5に記載する容量性負荷の駆動回路を有する液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−178926(P2009−178926A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19670(P2008−19670)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】