説明

容量性負荷の駆動回路

【課題】容量性負荷を充放電する際のピーク電流を低減させ、小型、低消費電力化を実現する。
【解決手段】互いに異なる端子電圧を有する複数のエネルギー蓄積素子と、容量性負荷と各エネルギー蓄積素子との間に接続される複数のスイッチ手段と、各スイッチ手段をそれぞれ制御する複数のスイッチ制御手段とで構成され、各スイッチ手段は、複数のスイッチ素子が並列に接続される形で構成されており、各スイッチ制御手段は、容量性負荷に充放電を行う際に、オンさせるスイッチ素子の数を順次増加させていくように、各スイッチ素子のオン、オフ制御を行うとともに、負荷への充電時には端子電圧の低いエネルギー蓄積素子から順に切り換えながら容量性負荷に接続し、放電時には端子電圧の高いエネルギー蓄積素子から順に切り換えながら容量性負荷に接続するように各スイッチ手段を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量性の負荷を駆動する回路に関し、特に微小な液体を複数のノズルから噴射して、その微粒子(ドット)を媒体上に形成することにより、所定の文字や画像等を印刷するようにした液体噴射装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置では、インクなどの流体を正確な位置に正確な分量だけ噴射することが可能なように、専用の噴射ヘッドが用いられる。噴射ヘッドを駆動する方式には幾つかの方式が存在するが、代表的なものとしては、噴射ヘッドの内部に設けた小さな流体室をアクチュエーターで変形させて、その時の流体室の容積変化を利用して、噴射ノズルから流体室内の流体を噴射する方式が知られている。アクチュエーターとしては、応答性が高くしかも強い力を発生させることが可能なことから、圧電素子が広く使用されている。
【0003】
圧電素子などの容量性の負荷を駆動する場合、従来の駆動回路では、容量性負荷に充電したエネルギーを、放電時に全てグラウンドに捨ててしまうため、消費電力が大きいという問題がある。これに対し、互いに異なる所定電位に充電された複数のエネルギー蓄積素子(キャパシター)と、複数のスイッチとを備え、容量性負荷に接続するエネルギー蓄積素子を選択的に切り換えながら、容量性負荷に対して順次充放電を行うことで、負荷からの放電電荷をキャパシターに回収して充電時に再利用し、低消費電力化を実現しようとする駆動回路が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−285441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の技術においては、容量性負荷を駆動する際、スイッチング時に大きなピーク電流が流れ、電源及びスイッチ素子には瞬間的に大きな負荷が掛かる。このため、電源には出力インピーダンスが低く、容量の大きいものを使用する必要があり、スイッチ素子として使用するトランジスターには最大定格電流の大きい素子を使用する必要がある。その結果、回路が大型化し、コストも高くなるという問題がある。
【0006】
また液体噴射装置においては、印刷する画像等の内容に応じて駆動するノズル数つまり負荷の容量が常に変動する。負荷の容量が変動すると、スイッチ素子の抵抗成分と負荷の容量成分とで形成される時定数も変動するため、負荷に印加される駆動波形が変動する。駆動波形が変動すると、それに伴って噴射特性つまり印刷品質も変動する。すなわち、上記従来の技術においては、負荷容量が変動すると一定の印刷品質が得られなくなるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る容量性負荷の駆動回路は、電源から供給された静電エネルギーを蓄積するエネルギー蓄積素子と、容量性負荷と前記エネルギー蓄積素子及びグラウンドとの間に接続されるスイッチ手段と、前記スイッチ手段を制御するスイッチ制御手段とで構成され、前記スイッチ手段は、複数のスイッチ素子が前記容量性負荷と前記エネルギー蓄積素子もしくはグラウンドとの間に並列に接続される形で構成され、前記スイッチ制御手段は、前記スイッチ手段を構成する複数のスイッチ素子のオン、オフを個別に制御可能なように構成され、前記エネルギー蓄積素子及びグラウンドと前記容量性負荷との間で充放電を行う際に、オンさせるスイッチ素子の数を順次増加させていくように、前記複数のスイッチ素子を制御するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
このように本適用例に記載の容量性負荷の駆動回路においては、エネルギー蓄積素子から容量性負荷に充電する際及び容量性負荷からグラウンドに放電する際に、所定のオン抵抗値を有する複数のスイッチ素子を用い、オンさせるスイッチ素子の数を順次増加させていくことで、エネルギー蓄積素子と負荷との間の電位差が大きい時にはエネルギー蓄積素子と負荷との間の抵抗値が大きくなり、エネルギー蓄積素子と負荷との間の電位差が小さい時にはエネルギー蓄積素子と負荷との間の抵抗値が小さくなるように構成されている。よって、充放電の際に流れる電流波形は定電流に近くなるため、電流の最大値を小さくすることができる。従って、スイッチング素子(トランジスター)には最大定格電流値の小さい素子を用いることができ、回路を小型化、低コスト化することができる。
【0010】
[適用例2]また、本適用例に係る容量性負荷の駆動回路は、互いに異なる端子電圧を有するように電源から供給された静電エネルギーを蓄積する複数のエネルギー蓄積素子と、容量性負荷と各エネルギー蓄積素子及びグラウンドとの間にそれぞれ接続される複数のスイッチ手段と、各スイッチ手段をそれぞれ制御する複数のスイッチ制御手段で構成される充放電制御手段、とで構成され、前記各スイッチ手段は、複数のスイッチ素子が前記容量性負荷と該エネルギー蓄積素子もしくはグラウンドとの間に並列に接続される形でそれぞれ構成され、前記各スイッチ制御手段は、前記各スイッチ手段を構成する複数のスイッチ素子のオン、オフを個別に制御可能なように構成され、前記エネルギー蓄積素子及びグラウンドと前記容量性負荷との間で充放電を行う際に、オンさせるスイッチ素子の数を順次増加させていくように、前記複数のスイッチ素子を制御するように構成され、前記充放電制御手段は、前記容量性負荷への充電時には端子電圧の低いエネルギー蓄積素子から順に切り換えながら容量性負荷に接続され、放電時には端子電圧の高いエネルギー蓄積素子から順に切り換えながら容量性負荷に接続されるように前記各スイッチ制御手段を制御するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
このように本適用例に記載の容量性負荷の駆動回路においては、エネルギー蓄積素子から容量性負荷に充放電する際、所定のオン抵抗値を有する複数のスイッチ素子を用い、オンさせるスイッチ素子の数を順次増加させていくことで、エネルギー蓄積素子と負荷との間の電位差が大きい時にはエネルギー蓄積素子と負荷との間の抵抗値が大きくなり、エネルギー蓄積素子と負荷との間の電位差が小さい時にはエネルギー蓄積素子と負荷との間の抵抗値が小さくなるように構成されている。よって、充放電の際に流れる電流波形は定電流に近くなるため、電流の最大値を小さくすることができる。従って、スイッチング素子(トランジスター)には最大定格電流値の小さい素子を用いることができ、回路を小型化、低コスト化することができる。
【0012】
さらに、互いに異なる所定電位に充電された複数のエネルギー蓄積素子を備え、複数のスイッチ手段によって、容量性負荷に接続するエネルギー蓄積素子を選択的かつ段階的に切り換えながら、容量性負荷に対して順次充放電を行うように構成されているので、容量性負荷からの放電電荷をキャパシターに回収して次の充電時に再利用する(回生する)ことができるため、非常に低消費電力で駆動することが可能になる。
【0013】
[適用例3]また、上記適用例に記載の容量性負荷の駆動回路において、前記スイッチ制御手段は、前記スイッチ制御手段は、前記複数のスイッチ素子を順次オン、オフさせるタイミングを規定するシリアル信号を受信し、前記シリアル信号から前記複数のスイッチ素子を個別にオン、オフ制御する信号を生成するように構成されていることを特徴とする。
【0014】
このように本適用例に記載の容量性負荷の駆動回路においては、外部からのシリアル制御信号によって各段のスイッチを制御することができるため、駆動回路側で各スイッチ素子のオン、オフタイミングを記憶、生成する必要がなく回路規模を小さくすることができるようになる。また、パラレル信号ではなくシリアル信号で各スイッチ素子のオン、オフ制御を外部からできるため、配線に要する信号線の数を少なくすることができる。
【0015】
[適用例4]また、上記適用例に記載の容量性負荷の駆動回路において、接続される負荷の容量の大きさが変動する場合に、前記スイッチ制御手段は、負荷に一定の電圧波形が印加されるように、接続される負荷の容量の大きさに応じて前記スイッチ素子をオン、オフさせる数及びタイミングを変えるように構成されていることを特徴とする。
【0016】
このように本適用例に記載のの容量性負荷の駆動回路においては、負荷の容量の大きさに応じてスイッチ素子をオン、オフさせる数とタイミングを調整することで、負荷容量が変動しても負荷に一定の電圧波形を印加することができるようになる。
【0017】
[適用例5]また、上記適用例に記載の容量性負荷の駆動回路において、前記容量性負荷が、液体噴射ヘッドの各ノズルに対応する圧電素子であることを特徴とする。
【0018】
このように本適用例に記載の容量性負荷の駆動回路においては、駆動するノズル数すなわち印刷画像等の内容に応じてスイッチ素子をオン、オフさせる数とタイミングを調整することで、負荷容量が変動しても負荷に一定の電圧波形を印加することができるようになるため、印刷品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施例の回路構成図である。
【図2】第1の実施例のタイミングチャートの例である。
【図3】第1の実施例の動作波形例である。
【図4】従来技術における動作波形例である。
【図5】第2の実施例の回路構成図である。
【図6】第2の実施例のタイミングチャートの例である。
【図7】第2の実施例の動作波形例である。
【図8】従来技術における動作波形例である。
【図9】第3の実施例の回路構成図である。
【図10】第3の実施例のタイミングチャートの例である。
【図11】第4の実施例の回路構成図である。
【図12】第4の実施例の動作波形例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の第1の実施例について示したものであり、1つのエネルギー蓄積素子から容量性負荷に充電を行い、容量性負荷からグラウンドに放電することのできる回路構成例である。図1において、10は電源から供給されるエネルギーを蓄積するエネルギー蓄積素子であり、ここではキャパシターを用いている。11はエネルギー蓄積素子10(以降の説明においては、キャパシター10と記す。)にエネルギーを供給する電源であり、抵抗を介してキャパシター10を所定の電圧に充電する。12は主成分が静電容量で形成される容量性の負荷である。例えば圧電素子や液晶表示パネルなどは容量性の負荷である。13はキャパシター10及びグラウンドと、容量性負荷12との間で充放電を行うスイッチ手段であり、複数のスイッチ素子13a、13b、13c、13d、13e、13f、13g、13hから構成されている。スイッチ素子13a、13b、13c、13dは並列に接続された状態で、キャパシター10と容量性負荷12との間に接続され、スイッチ素子13e、13f、13g、13hは並列に接続された状態で、グラウンドと容量性負荷12との間に接続されている。各スイッチ素子にはトランジスター(FETやバイポーラトランジスター)など、外部からの制御信号によって抵抗値を大きく変えることができるもの、つまりオン、オフ制御できるものであれば、何でも使用することができる。14はスイッチ制御手段であり、スイッチ手段13を構成するスイッチ素子13a、13b、13c、13d、13e、13f、13g、13hのオン、オフを制御する信号を生成する。以降の説明においては、スイッチ素子13a、13b、13c、13d、13e、13f、13g、13hのオン・オフをそれぞれ制御する信号名は、説明の便宜上、スイッチ素子の符号と同じ13a、13b、13c、13d、13e、13f、13g、13hと呼ぶ。
【0022】
次に図2に基づいて、実施例1の動作について説明する。図2に記載の13a、13b、13c、13d、13e、13f、13g、13hは、それぞれ図1のスイッチ素子13a、13b、13c、13d、13e、13f、13g、13hのオン、オフ状態を制御する制御信号を表しており、スイッチ制御手段14で生成される。信号がハイの状態はスイッチ・オン、ローの状態はスイッチ・オフである。
【0023】
時刻t0までは全てのスイッチ素子はオフ状態(スイッチの合成抵抗が非常に大きい状態)であるため、容量性負荷12への充放電は行われない。時刻t0からt1まではスイッチ素子13aがオンしており、このときスイッチ素子13aのオン抵抗を介してキャパシター10から容量性負荷12へ充電が行われる。スイッチ素子13aのオン抵抗値を例えば2Ωとすると、時刻t0からt1までは2Ωの抵抗を介して容量性負荷12に充電が行われることになる。なお以降の説明では、全てのスイッチ素子のオン抵抗値は2Ωと仮定して説明を行うことにする。時刻t1からt2まではスイッチ素子13aと13bがオン状態となるため、並列接続されているスイッチ素子の合成抵抗値は1Ωとなる。よって時刻t1からt2までは1Ωの抵抗を介して容量性負荷12に充電が行われる。同様に時刻t2からt3にかけてはスイッチ素子13cがさらにオンし(抵抗値0.67Ω)、時刻t3以降はスイッチ素子13dがさらにオンするため(抵抗値0.5Ω)、時間経過に伴って徐々に充電時の抵抗が小さくなるように充電が行われることになる。ここで、時刻t0からt3までの時間は、容量性負荷12への充電が完了する、つまり容量性負荷12の端子電圧が一定値に収束するよりも短い時間に設定されている。
【0024】
次に、時刻t4でスイッチ素子13a、13b、13c、13dが全てオフ状態となり、キャパシター10から容量性負荷12への充電は終了する。時刻t4からt5まではスイッチ素子13eがオンとなり、今度はスイッチ素子13eのオン抵抗2Ωを介して容量性負荷12からグラウンドへ放電が行われる。そして時刻t5からt6まではスイッチ素子13fがさらにオンするため、合成抵抗1Ωを介して放電が行われ、同様に時刻t6からt7にかけてはスイッチ素子13gがさらにオンし(抵抗値0.67Ω)、時刻t7以降はスイッチ素子13hがさらにオンするため(抵抗値0.5Ω)、時間経過に伴って徐々に放電時の抵抗が小さくなるように放電が行われることになる。ここで、時刻t4からt7までの時間は、容量性負荷12からの放電が完了する、つまり容量性負荷12の端子電圧がグラウンド電位に収束するよりも短い時間に設定されている。時刻t8ではスイッチ素子13e、13f、13g、13hが全てオフ状態となり、容量性負荷12からグラウンドへの放電は終了する。
【0025】
図3は、図2に示すように動作させた場合の波形の一例を示したものである。図3(a)は容量性負荷12の端子電圧波形と電流波形を示しており、図3(b)は図2の制御信号13a、13b、13c、13dの状態を、図3(c)は制御信号13e、13f、13g、13hの状態をそれぞれ示している。キャパシター10から容量性負荷12に充電する際及び容量性負荷12からグラウンドに放電する際に、オンさせるスイッチ素子の数を順次増加させていくことで、キャパシター10もしくはグラウンドと容量性負荷12との間の電位差が大きい時にはスイッチ手段の抵抗値(スイッチの合成抵抗値)が大きくなり、電位差が小さくなるとスイッチ手段の抵抗値が小さくなるように構成されている。その結果、図3(a)に示すように、充放電の際に流れる電流波形は、ノコギリ波状ではあるものの、定電流に近くなる。
【0026】
図4は、オン抵抗2Ωのスイッチ素子13a、13b、13c、13d、及びスイッチ素子13e、13f、13g、13hの代わりに、オン抵抗が0.5Ωのスイッチ素子を1個ずつ用いて、容量性負荷12への充放電を同様に行った場合の波形例である(従来例に相当)。図3と図4を比較すると、同じ量のエネルギーを充放電する場合でも、図3(本発明)の方が図4(従来例)よりも充放電時の最大電流値を小さく抑えることができる。よって、スイッチング素子(トランジスター)には最大定格電流値の小さい素子を用いることができ、回路を小型化、低コスト化することができる。
【0027】
以上、実施例1の構成について説明したが、スイッチ手段13において並列接続されるスイッチ素子の数は4個に限定されるわけではなく、必要に応じて増減させることができるのは言うまでもない。また、充放電時間を短縮したい場合には、スイッチ素子を1素子ずつ段階的にオンさせるだけでなく、複数のスイッチ素子を同時にオンさせるように構成してもよい。
【実施例2】
【0028】
図5は本発明の第2の実施例について説明するものである。実施例2では、実施例1において説明したスイッチ手段とスイッチ制御手段を複数用い、互いに異なる端子電圧を有する複数のエネルギー蓄積素子と、容量性負荷との間で段階的に充放電を行うことで、消費電力を低減することが可能な回路構成について説明する。
【0029】
図5においては、n個(n段)のエネルギー蓄積素子を用いて充放電制御を行う例について説明しており、図中、3段目からn−1段目までは記載を省略している。
201、202、及び20nはそれぞれ1段目、2段目、及びn段目のエネルギー蓄積素子であり、ここではキャパシターを用いている。なおキャパシターには後述する負荷静電容量よりも十分大きな容量のものを使用することが望ましい。211、212、及び21nはエネルギー蓄積素子201、202、及び20n(以降の説明においては、キャパシター201、202、及び20nと記す)にそれぞれエネルギーを供給する電源であり、互いに異なる電圧V1、V2、及びVn(V1<V2<Vn)を有している。電源211、212、及び21nは、それぞれ抵抗を介してキャパシター201、202、及び20nを充電する。22は主成分が静電容量で形成される容量性の負荷である。例えば圧電素子や液晶表示パネルなどは容量性の負荷である。
【0030】
230は容量性負荷22とグラウンドとの間で放電を行うスイッチ手段であり(以降0段目と呼ぶ)、実施例1の場合と同様に複数のスイッチ素子230a、230b、230c、230dが並列に接続された状態で構成されている。各スイッチ素子にはトランジスター(FETやバイポーラトランジスター)など、外部からの制御信号によって抵抗値を大きく変えることができるもの、つまりオン、オフ制御できるものであれば、何でも使用することができる。240はスイッチ制御手段であり、スイッチ手段230を構成するスイッチ素子230a、230b、230c、230dのオン、オフを制御する信号をそれぞれ生成する。
【0031】
231はキャパシター201と容量性負荷22との間で充放電を行うスイッチ手段である(以降1段目と呼ぶ)。スイッチ手段231の構成はスイッチ手段230と同様に、並列接続されたスイッチ素子231a、231b、231c、231dから構成されている(図示省略)。各スイッチ素子には230a、230b、230c、230dと同様に、トランジスターなどを用いることができる。241はスイッチ制御手段であり、スイッチ手段231を構成するスイッチ素子231a、231b、231c、231dのオン、オフを制御する信号をそれぞれ生成する。
【0032】
同様に、キャパシター202と容量性負荷22との間で充放電を行うスイッチ手段232、及びスイッチ手段232を制御するスイッチ制御手段242(2段目)、キャパシター20nと容量性負荷22との間で充電を行うスイッチ手段23n、及びスイッチ手段23nを制御するスイッチ制御手段24n(n段目)とで構成されている。なお、スイッチ制御手段240、241、242、及び24nはまとめて充放電制御手段24として構成されている。
【0033】
次に図6に基づいて、実施例2の動作について説明する。図6に記載の23ja、23jb、23jc、23jd(ただしjは整数)はそれぞれj段目のスイッチ制御手段23jを構成する各スイッチ素子のオン、オフ状態を制御する制御信号を表しており、スイッチ制御手段24jでそれぞれ生成される。信号がハイの状態はスイッチ・オン、ローの状態はスイッチ・オフである。
【0034】
時刻t0までは0段目のスイッチ素子230a、230b、230c、230dがオンの状態であるため、容量性負荷22はグラウンドに接続された状態になっている。時刻t0において、スイッチ素子230a、230b、230c、230dが全てオフとなって容量性負荷22はグラウンドから切り離され、代わりに時刻t0から1段目のスイッチ素子231aがオンするため、スイッチ素子231aのオン抵抗を介してキャパシター201から容量性負荷22へ充電が行われる。ここで、全てのスイッチ素子のオン抵抗値を例えば2Ωとすると、時刻t0からt1までは2Ωの抵抗を介して容量性負荷22に充電が行われることになる。時刻t1からt2まではスイッチ素子231aと231bがオン状態となるため、並列接続されているスイッチ素子の合成抵抗値は1Ωとなる。よって時刻t1からt2までは1Ωの抵抗を介して容量性負荷22に充電が行われる。同様に時刻t2からt3にかけてはスイッチ素子231cがさらにオンし(抵抗値0.67Ω)、時刻t3以降はスイッチ素子231dがさらにオンするため(抵抗値0.5Ω)、時間経過に伴って徐々に充電時の抵抗が小さくなるように充電が行われることになる。ここで、時刻t0からt3までの時間は、容量性負荷22への充電が完了する、つまり容量性負荷22の端子電圧が一定値に収束するよりも短い時間に設定されている。このように時刻t0からt3を経てキャパシター201から容量性負荷22へ段階的に1段目(端子電圧V1まで)の充電が行われる。
【0035】
次に、時刻t4になると1段目のスイッチ素子231a、231b、231c、231dは全てオフとなり、代わりに時刻t4から2段目のスイッチ素子232aがオンする。よって、スイッチ素子232aのオン抵抗2Ωを介してキャパシター202から容量性負荷22へ充電が行われる。2段目の場合も1段目と同様に時刻t4からt7に掛けてスイッチ素子232a、232b、232c、232dが段階的にオンしていくため、端子電圧V1からV2へ、時間経過に伴って徐々に充電時の抵抗が小さくなるように、充電が行われることになる。時刻t8では2段目のスイッチ素子が全てオフ状態となり、容量性負荷22への2段目(端子電圧V2まで)の充電は終了する。
以後同様に3段目からn段目まで段階的に容量性負荷22に充電を行うことができる。
【0036】
次に放電工程について説明する。ここでは2段目より上の段から段階的に放電行ってきて、時刻t9に到達した状態から説明を行うことにする。時刻t9より前では、3段目のスイッチ素子(図示省略)がオンしている状態であり、時刻t9で3段目のスイッチ素子は全てオフ状態になる。代わって時刻t9から2段目のスイッチ素子232aがオンする。よって、スイッチ素子232aのオン抵抗2Ωを介して容量性負荷22からキャパシター202へ放電(電荷回収)が行われる。その後、時刻t10でスイッチ素子232bがさらにオンし(抵抗値1Ω)、時刻t11でスイッチ素子232cがさらにオンし(抵抗値0.67Ω)、時刻t12でスイッチ素子232dがさらにオンする(抵抗値0.5Ω)ことによって、端子電圧V3(図示省略)からV2へ、時間経過に伴って徐々に放電時の抵抗が小さくなるように、放電(電荷回収)が行われることになる。そして時刻t13で2段目のスイッチ素子232a、232b、232c、232dが全てオフとなり、V3からV2への放電が終了するとともに、1段目のスイッチ素子231aがオンしてV2からV1への放電が始まる。
【0037】
以後同様に1段目でも、時刻t13からt16にかけてスイッチ素子231a、231b、231c、231dが段階的にオンして、容量性負荷22からキャパシター201へ放電(電荷回収)が行われ、時刻t17からt20にかけては0段目つまりグラウンドへ放電するスイッチ素子230a、230b、230c、230dが段階的にオンして、容量性負荷22からグラウンドへ放電(電荷排出)が行われる。
【0038】
図7は、図6に示すように動作させた場合の波形の一例を示したものである。図7(a)は容量性負荷22の端子電圧波形と電流波形を示しており、図7(b)は図6の制御信号230a、230b、230c、230dの状態を、図7(c)は制御信号231a、231b、231c、231dの状態を、図7(d)は制御信号232a、232b、232c、232dの状態をそれぞれ示している。キャパシター201及び202から容量性負荷22に充電する際、及び容量性負荷22からキャパシター201及びグラウンドに放電する際に、オンさせるスイッチ素子の数を順次増加させていくことで、キャパシター201、202もしくはグラウンドと容量性負荷22との間の電位差が大きい時にはスイッチ手段の抵抗値(スイッチの合成抵抗値)が大きくなり、電位差が小さくなるとスイッチ手段の抵抗値が小さくなるように構成されている。その結果、図7(a)に示すように、充放電の際に流れる電流波形は、ノコギリ波状ではあるものの、定電流に近くなる。
【0039】
図8は、オン抵抗2Ωの上記各スイッチ素子(各段4個)の代わりに、オン抵抗が0.5Ωのスイッチ素子を1個用いて、容量性負荷22への充放電を同様に行った場合の波形例である(従来例に相当)。図7と図8を比較すると、同じ量のエネルギーを充放電する場合でも、図7(本発明)の方が図8(従来例)よりも充放電時の最大電流値を小さく抑えることができる。よって、スイッチング素子(トランジスター)には最大定格電流値の小さい素子を用いることができ、回路を小型化、低コスト化することができる。
【0040】
さらに、互いに異なる所定電位に充電された複数のキャパシターを備え、複数のスイッチ手段によって、容量性負荷に接続するキャパシターを選択的かつ段階的に切り換えながら、容量性負荷に対して順次充放電を行うように構成されているので、容量性負荷22からの放電電荷をキャパシターに回収して次の充電時に再利用する(回生する)ことができるため、非常に低消費電力で駆動することが可能になる。
【実施例3】
【0041】
図9は本発明の第3の実施例について示したものである。第3の実施例では、外部から供給されるシリアル制御信号によって、上記第2の実施例のスイッチ制御手段が制御されるようにした構成例について説明する。シリアル制御信号とスイッチ制御手段以外の構成は上記第2の実施例と同様であるため、重複する説明は以降省略する。
【0042】
図9において、240t、241t、242t、及び24ntは、0段目のスイッチ制御手段240、1段目のスイッチ制御手段241、2段目のスイッチ制御手段242、及びn段目のスイッチ制御手段24nに対してそれぞれ外部から供給するシリアル制御信号である。各シリアル制御信号は、該当する段のスイッチ手段を構成する各スイッチ素子のオンタイミング及びオフタイミングをパルスエッジで表したデジタル信号である。各スイッチ制御手段240、241、242、及び24nは、シリアル制御信号240t、241、242、24nから、各スイッチ素子のオン、オフを制御する信号をそれぞれ生成する。
【0043】
シリアル制御信号の例を図10に示す。図10におけるシリアル制御信号240t、241、242tはそれぞれパルス列として構成されている。1段目のシリアル制御信号241tでは、時刻t0でパルスの立ち上がりエッジが到来し、同時にスイッチ素子231aがオンする。時刻t1の立ち上がりエッジではスイッチ素子231bが、時刻t2の立ち上がりエッジではスイッチ素子231cが、時刻t3の立ち上がりエッジではスイッチ素子231dが順次オンする。そして231a、231b、231c、231d全てのスイッチ素子がオンしている状態で次の立ち上がりエッジが時刻t4で到来すると、全てのスイッチ素子がオフする。このようにパルスの立ち上がりエッジが到来する毎に、スイッチ手段を構成する複数のスイッチ素子を1つずつオンしていき、全てのスイッチ素子がオンした後に到来する立ち上がりエッジで全てのスイッチ素子をオフにするように、スイッチ制御手段241は構成されている。他の段(240t、242t)についても同様であるため説明は省略するが、シリアル制御信号によって、実施例3は上記実施例2と同様の動作をさせることができる。
【0044】
このように、外部からのシリアル制御信号によって各段のスイッチを制御することができるため、駆動回路側で各スイッチ素子のオン、オフタイミングを記憶、生成する必要がなく回路規模を小さくすることができるようになる。また、パラレル信号ではなくシリアル信号で各スイッチ素子のオン、オフ制御を外部からできるため、配線に要する信号線の数を少なくすることができる。
【実施例4】
【0045】
図11は本発明の第4の実施例について示したものである。第4の実施例は、上記第3の実施例の容量性負荷22を、液体噴射ヘッド25の各ノズルに対応する圧電素子として置き換えたものであり、その他の構成については第3の実施例と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0046】
液体噴射ヘッド25は複数のノズルを備え、各ノズルに対応して設けた小さな流体室をアクチュエーターで変形させて、微小な液体をノズルから噴射するように構成されている。アクチュエーターは圧電素子で構成されており、圧電素子の一方の電極が駆動回路の出力端子に接続され、他方の電極がグラウンドに接続されている。各圧電素子と駆動回路との間にはトランスミッションゲートが接続されており、選択されたノズルのみから液体が噴射されるように、駆動回路から出力される信号をノズルへ供給するか、遮断するかをノズル毎に設定できるように構成されている。
【0047】
一般に液体噴射ヘッド25は数百のノズルから構成されているため、負荷容量の変動範囲が非常に大きい。一方、負荷の容量が変動すると、スイッチ素子の抵抗成分と負荷の容量成分とで形成される時定数も変動するため、負荷に印加される駆動波形が変動する。駆動波形が変動すると、それに伴って噴射特性つまり印刷品質も変動する。
【0048】
第4の実施例では、駆動する(オンする)負荷の容量(ノズル数)に応じて、オンするスイッチの数、及びタイミングを調整することで、負荷変動に伴う駆動波形の変動を低減するように構成する例について説明する。
【0049】
図11に示す液体噴射ヘッド25には、既に述べたようにトランスミッションゲートが含まれており、図示しない信号線によって各ノズルのオン、オフが選択されるようになっている。このためノズルから液体を噴射する前に、印刷指令を発するシステム側では選択するノズルの数を予め把握している。よって、駆動する(選択する)負荷の容量も予め把握することができる。
【0050】
負荷容量が小さくなるほど時定数は小さくなるため、負荷の端子電圧波形の立ち上がりは鋭くなる。そのままでは負荷容量が大きいときと小さいときの出力波形の差異が大きくなってしまう。そこで、負荷容量が小さくなるにつれて、充放電期間中にオンさせるスイッチ素子の数を減らし、オン抵抗値を高くするようにすれば、負荷容量が変動したときの出力波形の差異を小さくすることができる。
【0051】
例えば、液体噴射ヘッド25のノズル数が400個の場合、オンするノズル数に応じて、例えば次のように充放電中にオンさせる(使用する)スイッチの個数を変えるようにする。
オンするノズル数 オンさせるスイッチ素子数
1〜100: 1個
101〜200: 2個
201〜300: 3個
301〜400: 4個
【0052】
例えば、オンするノズル数が100個の場合は1個のスイッチ素子をオン、200個の場合は2個のスイッチ素子を同時にオン、300個の場合は3個のスイッチ素子を同時にオン、400個の場合は4個のスイッチ素子を同時にオンするようにすると、ノズル数が異なっても前記4通りの出力波形は同一の波形にすることができる。
【0053】
図12は、さらに負荷の容量に応じてスイッチ素子のタイミング調整を行うことによって、負荷変動による出力波形の差異を小さくするようにした一例について示したものである。図12(a)は負荷の端子電圧波形例を示したものである。実線は400ノズルの負荷に対して4個のスイッチ素子を同時にオンした場合の負荷電圧波形を、破線は250ノズルの負荷に対して4個のスイッチ素子を同時にオンした場合の負荷電圧波形を示しており、ちょうど1個のスイッチ素子でオン、オフ制御するような従来技術での出力波形に相当するものである。このように、従来の技術ではノズル数が変動すると図12(a)の実線と破線のように、出力電圧波形に大きな差異が生じることになる。一方、図12(a)の網掛線は、250ノズルの負荷に対して、図12(b)に示すように4個のスイッチ(実質的には3個)をタイミング調整しながら順次オンした場合の負荷電圧波形例である。400ノズルを駆動した場合の波形(実線)とほぼ同様の波形を得ることができている。このように、駆動するノズル数(負荷の容量)に応じて、スイッチ素子をオン、オフさせる数とタイミングを調整することで、負荷容量が変動しても出力波形の差異を小さく抑えることができるようになるため、印刷品質を向上させることができる。
【0054】
以上、容量性負荷の駆動回路について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10…エネルギー蓄積素子(キャパシター)、11…電源、12…容量性負荷、13…スイッチ手段、13a、13b、13c、13d、13e、13f、13g、13h…スイッチ素子、14…スイッチ制御手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給される静電エネルギーを蓄積するエネルギー蓄積素子と、
前記エネルギー蓄積素子と容量性負荷との間、及びグラウンドと前記容量性負荷との間に接続されるスイッチ手段と、
前記スイッチ手段を制御するスイッチ制御手段と、を有し、
前記スイッチ手段は、複数のスイッチ素子が前記容量性負荷と前記エネルギー蓄積素子との間、及び前記容量性負荷と前記グラウンドとの間に並列に接続され、
前記スイッチ制御手段は、前記スイッチ素子のオン、オフを個別に制御可能に構成され、前記エネルギー蓄積素子と前記容量性負荷との間、及び前記グラウンドと前記容量性負荷との間で充放電を行う際に、オンさせるスイッチ素子の数を順次増加させていくように、前記複数のスイッチ素子を制御することを特徴とする容量性負荷の駆動回路。
【請求項2】
互いに異なる端子電圧を有するように電源から供給された静電エネルギーを蓄積する複数のエネルギー蓄積素子と、
容量性負荷と各エネルギー蓄積素子及びグラウンドとの間にそれぞれ接続される複数のスイッチ手段と、
各スイッチ手段をそれぞれ制御する複数のスイッチ制御手段で構成される充放電制御手段、とで構成され、
前記各スイッチ手段は、複数のスイッチ素子が前記容量性負荷と該エネルギー蓄積素子もしくはグラウンドとの間に並列に接続される形でそれぞれ構成され、
前記各スイッチ制御手段は、前記各スイッチ手段を構成する複数のスイッチ素子のオン、オフを個別に制御可能なように構成され、前記エネルギー蓄積素子及びグラウンドと前記容量性負荷との間で充放電を行う際に、オンさせるスイッチ素子の数を順次増加させていくように、前記複数のスイッチ素子を制御するように構成され、
前記充放電制御手段は、前記容量性負荷への充電時には端子電圧の低いエネルギー蓄積素子から順に切り換えながら容量性負荷に接続され、放電時には端子電圧の高いエネルギー蓄積素子から順に切り換えながら容量性負荷に接続されるように前記各スイッチ制御手段を制御するように構成されていることを特徴とする容量性負荷の駆動回路。
【請求項3】
前記スイッチ制御手段は、前記複数のスイッチ素子を順次オン、オフさせるタイミングを規定するシリアル信号を受信し、前記シリアル信号から前記複数のスイッチ素子を個別にオン、オフ制御する信号を生成するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の容量性負荷の駆動回路。
【請求項4】
接続される負荷の容量の大きさが変動する場合に、前記スイッチ制御手段は、負荷に一定の電圧波形が印加されるように、接続される負荷の容量の大きさに応じて前記スイッチ素子をオン、オフさせる数及びタイミングを変えるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の容量性負荷の駆動回路。
【請求項5】
前記容量性負荷が、液体噴射ヘッドの各ノズルに対応する圧電素子であることを特徴と
する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の容量性負荷の駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−194641(P2011−194641A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62087(P2010−62087)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】