説明

密閉型電池及びその製造方法

【課題】安全弁の第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)が安全弁の開弁圧のバラツキに与える影響を小さくした密閉型電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】密閉型電池100は、第1薄肉部151と、第1薄肉部151よりも厚みを薄くした溝状の第2薄肉部152と、を有する金属製の安全弁150を備える。第2薄肉部152には、当該第2薄肉部152を構成する金属を酸化させてなる酸化被膜155bを設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全弁を有する密閉型電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポータブル機器の電源として、また、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として、様々な密閉型電池が提案されている。このような密閉型電池では、例えば、短絡や過充電等により電池に大きな電流値の電流が流れ、電池ケースの内部の温度が上昇すると、電解液がガス化する等により電池ケースの内圧が大きく上昇することがある。このような場合に備え、密閉型電池の中には、電池ケースの内圧が開弁圧に達したら、電池ケースのガスを外部に放出して電池ケースの内圧を低下させるための安全弁を設けたものがある。この安全弁は、例えば、電池ケースを閉塞する封口蓋に設けられている(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−367583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の安全弁は、金属板からなり、凹部(第1薄肉部)と、この凹部(第1薄肉部)よりも厚みを薄くした溝部(溝状の第2薄肉部)とを有している。このため、電池ケースの内圧が開弁圧に達すると、溝状の第2薄肉部において安全弁が開裂し、これにより、電池ケースのガスを外部に放出して、電池ケースの内圧を低下させることができる。
【0005】
ところで、開弁圧の値は、第2薄肉部の厚みに左右される。ところが、第2薄肉部は、プレス加工などにより形成されるため、その厚み(平均厚み)にバラツキ(製造バラツキ)が生じてしまう。この第2薄肉部の厚み(平均厚み)バラツキの影響で、電池の開弁圧にバラツキが生じてしまう。このため、第2薄肉部の厚み(平均厚み)バラツキ(製造バラツキ)が大きい場合には、安全弁の開弁圧の値が許容範囲から外れてしまう(開弁圧の値が許容範囲から外れた安全弁が製造される)こともあった。
【0006】
ところが、プレス加工の精度を高める(プレス工程能力を高める)にも限界があるため、プレス加工の精度を高めることで(プレス工程能力を高めることで)第2薄肉部の厚みのバラツキ(製造バラツキ)を小さくすることは難しく、現実的ではなかった。
これに対し、本発明者は、研究の結果、第2薄肉部の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることを可能とした。これにより、開弁圧のバラツキを小さくすることが可能となった。
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、安全弁の第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)が安全弁の開弁圧のバラツキに与える影響を小さくした密閉型電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、第1薄肉部と、上記第1薄肉部よりも厚みを薄くした溝状の第2薄肉部と、を有する金属製の安全弁、を備える密閉型電池において、上記第2薄肉部に、当該第2薄肉部を構成する金属を酸化させてなる酸化被膜を設けてなる密閉型電池である。
【0009】
上述の密閉型電池では、安全弁の第2薄肉部に、当該第2薄肉部を構成する金属を酸化させてなる酸化被膜(例えば、陽極酸化被膜)を設けている。これにより、第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)が安全弁の開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。その結果、安全弁の開弁圧のバラツキを小さくすることができる。すなわち、第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)を従来と同等としても、安全弁の開弁圧のバラツキを小さくすることができる。
【0010】
ところで、安全弁を作製した後、安全弁の第2薄肉部が腐食することがあった。これにより、安全弁の開弁圧が変化(低下)してしまうことがあった。
これに対し、上述の密閉型電池では、安全弁の第2薄肉部に、当該第2薄肉部を構成する金属を酸化させてなる酸化被膜(例えば、陽極酸化被膜)を設けている。これにより、安全弁の第2薄肉部の腐食を抑制することができる。従って、「第2薄肉部の腐食によって安全弁の開弁圧が変化(低下)する」ことを抑制することができる。
【0011】
なお、上述の密閉型電池では、電池ケースの内圧が開弁圧に達すると、溝状の第2薄肉部において安全弁が開裂する。これにより、開裂した安全弁を通じて電池ケースのガスを外部に放出して、電池ケースの内圧を低下させることができる。
【0012】
さらに、上記の密閉型電池であって、前記酸化被膜は、前記第2薄肉部の陽極酸化により形成した陽極酸化被膜である密閉型電池とすると良い。
【0013】
上述の密閉型電池では、酸化被膜として、第2薄肉部を陽極酸化させることにより形成した陽極酸化被膜を備えている。安全弁の第2薄肉部に陽極酸化被膜を設けることにより、適切に、第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)が開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。
【0014】
なお、陽極酸化被膜は、第2薄肉部のみならず、安全弁全体、あるいは、安全弁を設けた封口蓋全体に形成するようにしても良い。
【0015】
さらに、上記いずれかの密閉型電池であって、前記酸化被膜の厚みは、50〜300nmの範囲内である密閉型電池とすると良い。
【0016】
上述の密閉型電池では、酸化被膜の厚みが、50〜300nmの範囲内とされている。すなわち、50〜300nmの範囲内の厚みの酸化被膜が、第2薄肉部に設けられている。このような厚みの酸化被膜を第2薄肉部に設けることで、確実に、第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)が開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。
【0017】
なお、厚みが50〜300nmの範囲内の酸化被膜は、例えば、第2薄肉部の陽極酸化処理により形成することができる。
【0018】
本発明の他の態様は、第1薄肉部と、上記第1薄肉部よりも厚みを薄くした溝状の第2薄肉部と、を有する金属製の安全弁、を備える密閉型電池の製造方法において、上記第2薄肉部の陽極酸化により、上記第2薄肉部に陽極酸化被膜を形成する陽極酸化工程を備える密閉型電池の製造方法である。
【0019】
上述の製造方法では、第2薄肉部を陽極酸化させることにより、第2薄肉部に陽極酸化被膜を形成する陽極酸化工程を備える。従って、安全弁の第2薄肉部に陽極酸化被膜を設けることができる。これにより、第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)が開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。その結果、開弁圧のバラツキを小さくすることができる。すなわち、第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)を従来と同等としても、開弁圧のバラツキを小さくすることができる。
【0020】
別の言い方をすれば、開弁圧の値を一定の許容範囲内に収めようとした場合、第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)の許容範囲(公差)を拡大することができる。これにより、第2薄肉部の厚みにある程度のバラツキ(製造バラツキ)があっても、開弁圧の値を許容範囲内に収めることができる。従って、安全弁の製造不良(第2薄肉部の厚み不良)を低減することもできる。
【0021】
なお、上述の製造方法により製造された密閉型電池では、電池ケースの内圧が開弁圧に達すると、溝状の第2薄肉部において安全弁が開裂する。これにより、開裂した安全弁を通じて電池ケースのガスを外部に放出して、電池ケースの内圧を低下させることができる。
【0022】
さらに、上記の密閉型電池の製造方法であって、前記陽極酸化工程では、前記陽極酸化被膜の厚みを50〜300nmの範囲内とする密閉型電池の製造方法とすると良い。
【0023】
上述の製造方法では、陽極酸化工程において、第2薄肉部に形成する陽極酸化被膜の厚みを50〜300nmの範囲内とする。このような厚みの陽極酸化被膜を第2薄肉部に設けることで、確実に、第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)が開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。
【0024】
なお、安全弁をアルミニウムで形成する場合、陽極酸化は、電解液に硫酸水溶液、リン酸水溶液、シュウ酸水溶液などを用いて行うことができる。具体的には、例えば、電解液として15wt%の硫酸水溶液を用い、印加電圧を1.5〜2.5Vの範囲内、処理時間(電解時間)を10〜20分の範囲内、処理温度(電解温度)を50〜65℃の範囲内として、陽極酸化を行うことで、第2薄肉部に形成する陽極酸化被膜の厚みを50〜300nmの範囲内とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態にかかる密閉型電池の正面図である。
【図2】同電池の平面図である。
【図3】同電池の安全弁の拡大図である。
【図4】図3のB−B断面図である。
【図5】図4のC部拡大図である。
【図6】開弁圧の測定方法を説明する図である。
【図7】安全弁の第2薄肉部の厚みと開弁圧との関係を示すグラフである。
【図8】比較形態にかかる安全弁の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態にかかる密閉型電池100は、図1に示すように、電極体110と、これを収容する電池ケース120とを備える、リチウムイオン二次電池である。この密閉型電池100は、例えば、電気自動車やハイブリット自動車用の駆動電源として用いられる。
【0027】
電池ケース120は、アルミニウムからなり、図1及び図2に示すように、直方体形状をなしている。この電池ケース120は、電池ケース本体130と封口蓋140を有する。このうち、電池ケース本体130は、アルミニウムからなり、有底矩形箱形状をなしている。
【0028】
また、封口蓋140は、アルミニウムからなり、矩形板状をなしている(図2参照)。この封口蓋140は、電池ケース本体130の開口を閉塞して、電池ケース本体130に溶接されている。この封口蓋140には、安全弁150が設けられている。なお、本実施形態では、安全弁150は、封口蓋140と一体に形成されている。本実施形態では、安全弁150(その母材)は、アルミニウム製となっている。
【0029】
安全弁150は、第1薄肉部151と、この第1薄肉部151よりも厚みを薄くした、略「8」字形をなす溝状の第2薄肉部152とを有している(図3〜図5参照)。この安全弁150は、電池ケース120の内圧が開弁圧に達すると、溝状の第2薄肉部152において開裂する。これにより、開裂した安全弁150を通じて電池ケース120内のガスを外部に放出して、電池ケース120の内圧を低下させることができる。
【0030】
また、本実施形態では、安全弁150の第2薄肉部152に、当該第2薄肉部152を構成する金属(アルミニウム)を酸化させてなる酸化被膜155b(主にAl23 )を設けている(図5参照)。この酸化被膜155bは、第2薄肉部152の陽極酸化により形成した陽極酸化被膜である。
【0031】
なお、本実施形態では、酸化被膜155(主にAl23 )を、第2薄肉部152のみならず、安全弁150が形成されている封口蓋140の全体に形成している(図5参照)。従って、第2薄肉部152に形成されている酸化被膜155bは、酸化被膜155の一部である。
【0032】
また、本実施形態では、酸化被膜155を、封口蓋140の表面140bと裏面140cの両方に設けている(図5参照)。従って、本実施形態では、第2薄肉部152の表面152bと裏面152cの両方に、酸化被膜155bが設けられている。また、第1薄肉部151についても、表面151bと裏面151cの両方に、酸化被膜155が設けられている。
【0033】
このように、安全弁150の第2薄肉部152に、当該第2薄肉部152を構成する金属(アルミニウム)を酸化させてなる酸化被膜155b(具体的には、陽極酸化被膜)を設けることで、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が安全弁150の開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。その結果、安全弁150の開弁圧(第2薄肉部152が開裂するときの電池ケース120の内圧)のバラツキを小さくすることができる。すなわち、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)を従来と同等としても、安全弁150の開弁圧のバラツキを小さくすることができる。
【0034】
また、安全弁150の第2薄肉部152に、当該第2薄肉部152を構成する金属(アルミニウム)を酸化させてなる酸化被膜155b(具体的には、陽極酸化被膜)を設けておくことで、第2薄肉部152の腐食を抑制することができる。これにより、「第2薄肉部152の腐食によって安全弁150の開弁圧が変化(低下)する」ことを抑制することができる。
【0035】
特に、本実施形態では、酸化被膜155bを含む酸化被膜155の厚みを、50〜300nmの範囲内としている。従って、50〜300nmの範囲内の厚みの酸化被膜155bを、第2薄肉部152に設けている。このような厚みの酸化被膜155bを第2薄肉部152に設けることで、確実に、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が安全弁150の開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。さらには、第2薄肉部152の腐食を抑制することもできる。
【0036】
電極体110は、帯状の正極(図示なし)及び負極(図示なし)が、帯状のセパレータ(図示なし)を介して扁平形状に捲回されてなる捲回型電極体である。このうち、正極は、電池ケース本体130の内部で、外部正極端子111に電気的に接続されている。また、負極は、電池ケース本体130の内部で、外部負極端子112に電気的に接続されている。また、電池ケース本体130の内部には、電解液(図示なし)が注入されている。
【0037】
外部正極端子111は、アルミニウムからなり、平板状をなしている。この外部正極端子111は、封口蓋140の端子挿通孔(図示なし)に嵌め込まれた第1シール部材113により、液密に、かつ、封口蓋140とは電気的に絶縁された状態で、封口蓋140の一方(図1において右側)の端子挿通孔を通じて外部に突出している。
【0038】
また、外部負極端子112は、銅からなり、平板状をなしている。この外部負極端子112は、封口蓋140の端子挿通孔(図示なし)に嵌め込まれた第2シール部材114により、液密に、かつ、封口蓋140とは電気的に絶縁された状態で、封口蓋140の他方(図1において左側)の端子挿通孔を通じて外部に突出している。
【0039】
次に、本実施形態にかかる密閉型電池の製造方法について説明する。
まず、正極、負極、及びセパレータを有する電極体を形成する。具体的には、まず、正極活物質(例えば、ニッケル酸リチウム)とアセチレンブラックとPVdF(結着剤)とを混合し、これにNMP(溶媒)を混合して、正極スラリを作製した。次いで、この正極スラリを、アルミニウム箔からなる正極集電部材の両面に塗工し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、正極を得た。
【0040】
また、負極活物質(例えば、黒鉛)とSBR(スチレンブタジエンゴム)とCMCと(カルボキシメチルセルロース)とを水中で混合して、負極スラリを作製した。次いで、この負極スラリを、銅箔からなる負極集電部材の両面に塗工し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、負極を得た。
その後、負極と正極との間にセパレータを介在させて捲回して、捲回型の電極体110を形成した。
【0041】
また、これとは別に、安全弁150を備えた封口蓋140を作製する。具体的には、長方形状のアルミニウム板を用意し、まず、プレス工程において、アルミニウム板の長手方向中央部に、長円形状の第1薄肉部151をプレス加工により形成する(図2〜図4参照)と共に、アルミニウム板の長手方向両端部に、端子挿通孔(図示なし)をプレス加工により形成する。さらに、第1薄肉部151にプレス加工を行って、第1薄肉部151よりも厚みを薄くした、略「8」字形をなす溝状の第2薄肉部152を形成する(図3参照)。
【0042】
次に、陽極酸化工程に進み、第2薄肉部152の陽極酸化により、第2薄肉部152に酸化被膜155b(陽極酸化被膜、主にAl23 )を形成する。なお、本実施形態では、第2薄肉部152のみならず、封口蓋140の全体を陽極酸化することにより、封口蓋140の全面に酸化被膜155(陽極酸化被膜)を形成している。
【0043】
具体的には、電解液として15wt%の硫酸水溶液を用い、印加電圧を1.5〜2.5Vの範囲内、処理時間(電解時間)を10〜20分の範囲内、処理温度(電解温度)を50〜65℃の範囲内として、封口蓋140に対し陽極酸化処理を行った。これにより、50〜300nmの範囲内の厚みの酸化被膜155(陽極酸化被膜、主にAl23)を、封口蓋140の全体に形成することができる。
【0044】
詳細には、封口蓋140の表面140bと裏面140cの両方に、50〜300nmの範囲内の厚みの酸化被膜155(陽極酸化被膜)を形成することができる(図5参照)。従って、本実施形態では、第2薄肉部152の表面152bと裏面152cの両方に、50〜300nmの範囲内の厚みの酸化被膜155b(陽極酸化被膜)が形成される。また、第1薄肉部151についても、表面151bと裏面151cの両方に、50〜300nmの範囲内の厚みの酸化被膜155(陽極酸化被膜)が形成される。以上のようにして、酸化被膜155(陽極酸化被膜)を有する安全弁150を備えた封口蓋140を作製する。
【0045】
ところで、安全弁の開弁圧の値は、第2薄肉部の厚みに左右される。ところが、第2薄肉部は、プレス加工により形成されるため、その厚みにバラツキ(製造バラツキ)が生じてしまう。この第2薄肉部の厚みバラツキ(製造バラツキ)の影響で、電池の開弁圧にバラツキが生じてしまう。このため、従来、第2薄肉部の厚みバラツキ(製造バラツキ)が大きい場合には、開弁圧の値が許容範囲から外れた安全弁が製造されることもあった。
【0046】
これに対し、本実施形態では、安全弁(第2薄肉部)のプレス加工後、安全弁150の第2薄肉部152に酸化被膜155b(陽極酸化被膜)を形成している。これにより、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。その結果、安全弁150の開弁圧のバラツキを小さくすることができる。すなわち、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)を従来と同等としても、開弁圧のバラツキを小さくすることができる。さらには、第2薄肉部152の腐食を抑制することもできる。
【0047】
別の言い方をすれば、安全弁の開弁圧の値を許容範囲内に収めようとした場合、第2薄肉部の厚みのバラツキ(製造バラツキ)の許容範囲(公差)を拡大することができる。これにより、第2薄肉部152の厚みにある程度のバラツキ(製造バラツキ)があっても、開弁圧の値を許容範囲内に収めることができる。従って、安全弁150の製造不良(第2薄肉部152の厚み不良)を低減することもできる。
【0048】
特に、本実施形態では、酸化被膜155b(陽極酸化被膜)の厚みを、50〜300nmの範囲内としている。このような厚みの酸化被膜155b(陽極酸化被膜)を第2薄肉部152に設けることで、確実に、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が安全弁150の開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。
【0049】
次に、電極体110の正極(正極集電部材)に外部正極端子111を溶接し、負極(負極集電部材)に外部負極端子112を溶接する。次いで、外部正極端子111及び外部負極端子112を溶接した電極体110を、電池ケース本体130内に挿入する。
【0050】
また、第1シール部材113及び第2シール部材114を、封口蓋140の各端子挿通孔に嵌め込む。次いで、第1シール部材113に外部正極端子111を、及び、第2シール部材114に外部負極端子112を挿通し、それぞれ気密にシールすると共に、電池ケース本体130の開口を封口蓋140で閉塞する。さらに、電池ケース本体130と封口蓋140とを溶接する。
【0051】
その後、封口蓋140の注液口(図示なし)を通じて、電池ケース本体130の内部に所定量の電解液(図示なし)を注入する。その後、注液口を注液蓋(図示なし)で気密に閉塞することで、本実施形態の密閉型電池100が完成する。
【0052】
(開弁圧測定試験)
次に、実施形態にかかる安全弁150の開弁圧について調査した。具体的には、安全弁150について、第2薄肉部152の厚み(平均厚みT)と開弁圧の値との関係について調査した。これにより、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が安全弁150の開弁圧のバラツキに与える影響の程度を調査した。
【0053】
まず、プレス加工機の加工条件(第2薄肉部の厚みの設定値など)を所定条件に設定して、アルミニウム板(封口蓋)の第1薄肉部にプレス加工を行って、略「8」字形をなす溝状の第2薄肉部を形成する。さらに、同一の加工条件で、他のアルミニウム板(封口蓋)の第1薄肉部にプレス加工を行って、溝状の第2薄肉部を形成する。
【0054】
このようにして、多数のアルミニウム板(封口蓋)について、溝状の第2薄肉部を形成した。このようにして作製した安全弁について、第2薄肉部の平均厚みTを測定したところ、同一の加工条件で第2薄肉部を形成したにも拘わらず、第2薄肉部の平均厚みTにバラツキがあった(第2薄肉部の平均厚みが異なっていた)。
【0055】
さらに、プレス加工機の加工条件を異ならせて(第2薄肉部の厚みの設定値を変更して)、多数のアルミニウム板(封口蓋)について、溝状の第2薄肉部を形成した。このようにして、第2薄肉部の厚み(平均厚みT)が異なる(バラツキのある)安全弁(封口蓋)を、多数作製した。
【0056】
次いで、上述のようにして作製した多数の封口蓋について、それぞれ、前述の陽極酸化工程と同様にして陽極酸化処理を行った。具体的には、電解液として15wt%の硫酸水溶液を用い、印加電圧を1.5〜2.5Vの範囲内にある所定値、処理時間(電解時間)を10〜20分の範囲内にある所定時間、処理温度(電解温度)を50〜65℃の範囲内にある所定温度として、封口蓋140に対し陽極酸化処理を行った。これにより、50〜300nmの範囲内の厚みの酸化被膜155(陽極酸化被膜、主にAl23)を、封口蓋140の全体に形成した。
【0057】
詳細には、封口蓋140の表面140bと裏面140cの両方に、50〜300nmの範囲内の厚みの酸化被膜155(陽極酸化被膜)を形成した。従って、第2薄肉部152の表面152bと裏面152cの両方に、50〜300nmの範囲内の厚みの酸化被膜155b(陽極酸化被膜)を形成した。また、第1薄肉部151についても、表面151bと裏面151cの両方に、50〜300nmの範囲内の厚みの酸化被膜155(陽極酸化被膜)を形成した。このようにして、酸化被膜155(陽極酸化被膜)を有する安全弁150を備えた封口蓋140を多数作製した。
【0058】
このようにして作製した多数の封口蓋140について、それぞれ、酸化被膜155bを有する第2薄肉部152の平均厚みTを測定したところ、陽極酸化処理を行う前(プレス加工後)の第2薄肉部と同程度に、第2薄肉部152の平均厚みTにバラツキがあった(第2薄肉部152の平均厚みが異なっていた)。すなわち、陽極酸化処理を行う前後で、第2薄肉部の厚み(平均厚みT)のバラツキの程度に変化はなかった。
【0059】
なお、第2薄肉部の平均厚みTは、公知のレーザー測定器を使用して、次のようにして測定している。具体的には、レーザー測定器により、第2薄肉部152の表面152bと裏面152c(図5参照)にレーザー光を照射し、その反射波を受信することで第2薄肉部の厚みを測定する。このようにして、第2薄肉部152の複数箇所について、レーザー測定器を用いてその厚みを測定し、これらの平均値を第2薄肉部の平均厚みTとした。
【0060】
次に、上述のようにして作製した多数の安全弁150について、開弁圧の値を測定した。
具体的には、圧縮機に連結されたノズル20と安全弁150の第1薄肉部151の裏面151cの周囲との間に、シールゴム10を圧縮状態で介在させて、ノズル20と安全弁150との間を気密にする。この状態で、圧縮機からノズル20を通じて圧縮空気を流して、0.01MPa/sの速度で安全弁150を加圧していった。そして、安全弁150が開弁したときの圧力を、開弁圧として計測した。その結果を図7に示す。
【0061】
図7は、安全弁の第2薄肉部の平均厚みT(図7において横軸)と開弁圧の値(図7において縦軸)との関係を示すグラフである。なお、上述の測定結果は、図7において、実施形態として実線で示している。図7の直線の傾きが、「安全弁の第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)が安全弁の開弁圧のバラツキに与える影響の程度」を表している。
【0062】
また、比較形態(従来)の安全弁350(図8参照)についても、第2薄肉部352の平均厚みTと開弁圧の値との関係について調査した。具体的には、プレス加工機の加工条件(第2薄肉部の厚みの設定値など)を所定条件に設定して、実施形態と同等のアルミニウム板(封口蓋)の第1薄肉部351にプレス加工を行って、略「8」字形をなす溝状の第2薄肉部352を形成する。さらに、同一の加工条件で、実施形態と同等の他のアルミニウム板(封口蓋)の第1薄肉部351にプレス加工を行って、溝状の第2薄肉部352を形成する。
【0063】
このようにして、多数のアルミニウム板(封口蓋)について、溝状の第2薄肉部352を形成した。このようにして作製した安全弁350について、第2薄肉部352の平均厚みT(図8参照)を測定したところ、同一の加工条件で第2薄肉部352を形成したにも拘わらず、第2薄肉部352の平均厚みTにバラツキがあった(第2薄肉部352の厚みが異なっていた)。
【0064】
さらに、プレス加工機の加工条件を異ならせて(第2薄肉部の厚みの設定値を変更して)、多数のアルミニウム板(封口蓋)について、溝状の第2薄肉部352を形成した。このようにして、第2薄肉部352の厚み(平均厚みT)が異なる(バラツキのある)封口蓋340(安全弁350)を、多数作製した。以上説明したように、比較形態の安全弁350は、実施形態の安全弁150と比べて、プレス加工後に陽極酸化処理を行っていない点のみが異なり、その他については同等である。
【0065】
このようにして作製した多数の封口蓋340について、それぞれ、第2薄肉部352の平均厚みTを測定したところ、実施形態の第2薄肉部152と同程度に、平均厚みTにバラツキがあった(第2薄肉部の平均厚みが異なっていた)。なお、平均厚みTは、前述のように、レーザー測定器を用いて測定している。
【0066】
次に、図6に示すように、上述のようにして作製した多数の安全弁350について、前述の実施形態の安全弁150と同様にして、開弁圧の値を測定した。その結果を図7に、比較形態として破線で示す。
【0067】
ここで、実施形態の安全弁150と比較形態の安全弁350との結果について、比較検討する。図7に示す直線の傾きは、安全弁の第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)が安全弁の開弁圧のバラツキに与える影響の程度を表している。従って、図7より、実施形態の安全弁150は、比較形態の安全弁350に比べて、「安全弁の第2薄肉部の厚み(平均厚み)のバラツキ(製造バラツキ)が安全弁の開弁圧のバラツキに与える影響」が小さいといえる。
【0068】
従って、安全弁150の第2薄肉部152に、当該第2薄肉部152を構成する金属(アルミニウム)を酸化させてなる酸化被膜155b(具体的には、陽極酸化被膜)を設けることで、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が安全弁150の開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができるといえる。詳細には、厚みを50〜300nmの範囲内とした酸化被膜155b(陽極酸化被膜)を第2薄肉部152に設けることで、確実に、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が安全弁150の開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができるといえる。
【0069】
具体的には、実施形態の安全弁150と比較形態の安全弁350とにおいて、第2薄肉部の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が同等であったとしても、実施形態の安全弁150のほうが、開弁圧のバラツキを小さくすることができる。
【0070】
例えば、製造工程能力により、第2薄肉部の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が最大で10μmとなる場合について考える。この場合、比較形態の安全弁350では、開弁圧のバラツキが約0.2MPaとなる。具体的には、例えば、比較形態の安全弁350において、第2薄肉部352の厚みが40〜50μmの範囲でばらついている場合、開弁圧は、1.04〜1.24MPaの範囲でばらつくことになる(図7参照)。
【0071】
これに対し、実施形態の安全弁150では、開弁圧のバラツキが約0.14MPaとなる。具体的には、例えば、実施形態の安全弁150において、第2薄肉部152の厚みが45〜55μmの範囲でばらついている場合、開弁圧は、1.03〜1.17MPaの範囲でばらつくことになる(図7参照)。従って、実施形態の安全弁150のほうが、比較形態の安全弁350よりも、開弁圧のバラツキが小さくなる。
【0072】
別の見方をすると、実施形態の安全弁150と比較形態の安全弁350とにおいて、安全弁の開弁圧の値を一定の許容範囲内に収めようとした場合、実施形態の安全弁150のほうが、第2薄肉部の厚みのバラツキ(製造バラツキ)の許容範囲(公差)を大きくすることができる。
【0073】
例えば、安全弁の開弁圧の許容範囲を1.0〜1.15MPaとする場合について考える。この場合、比較形態の安全弁350では、第2薄肉部352の厚みの許容範囲は、38〜46μmとなる(図7参照)。従って、第2薄肉部352の厚みのバラツキ(製造バラツキ)の許容範囲(公差)は、8μmとなる。このため、通常の製造工程能力により、第2薄肉部の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が最大で10μmとなる場合には、開弁圧が許容範囲から外れてしまう安全弁350が、大量に発生することになる。従って、比較形態では、安全弁350の製造不良(第2薄肉部352の厚み不良)が大量に発生することになる。
【0074】
これに対し、実施形態の安全弁150では、第2薄肉部152の厚みの許容範囲は、43〜54μmとなる(図7参照)。従って、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)の許容範囲(公差)は、11μmとなる。このため、通常の製造工程能力により、第2薄肉部の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が最大で10μmとなる場合には、通常、全ての安全弁150において開弁圧が許容範囲内に収まることになる。従って、実施形態の安全弁150の製造不良(第2薄肉部152の厚み不良)は通常発生しないことになる。
【0075】
このように、本実施形態の密閉型電池100及びその製造方法によれば、第2薄肉部152の厚みにある程度のバラツキ(製造バラツキ)があっても、開弁圧の値を許容範囲内に収めることができる。従って、安全弁150の製造不良(第2薄肉部152の厚み不良)を低減することができる。
【0076】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0077】
例えば、実施形態では、第2薄肉部152の表面152bと裏面152cの両方に、酸化被膜155b(陽極酸化被膜)を形成した。しかしながら、酸化被膜155b(陽極酸化被膜)は、少なくとも第2薄肉部152の表面152bに形成すれば良い。なお、第2薄肉部152の表面152bのみに、酸化被膜155b(陽極酸化被膜)を形成する場合は、第2薄肉部152の裏面152c(封口蓋140の裏面140c全体でも良い)をマスキングした状態で、陽極酸化処理を行うようにすれば良い。
【0078】
酸化被膜155b(陽極酸化被膜)を、少なくとも第2薄肉部152の表面152bに設けることで、第2薄肉部152の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が安全弁150の開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。これにより、安全弁の開弁圧のバラツキを小さくすることができる。
【0079】
また、実施形態では、安全弁150を封口蓋140に一体成形したものを例示した。しかしながら、安全弁は、封口蓋と別体(別部品)にしても良い。この安全弁についても、第2薄肉部に酸化被膜(陽極酸化被膜)を設けることで、第2薄肉部の厚みのバラツキ(製造バラツキ)が安全弁の開弁圧のバラツキに与える影響を小さくすることができる。これにより、安全弁の開弁圧のバラツキを小さくすることができる。
【符号の説明】
【0080】
100 密閉型電池
110 電極体
120 電池ケース
130 電池ケース本体
140 封口蓋
150 安全弁
151 第1薄肉部
152 第2薄肉部
155、155b 酸化被膜(陽極酸化被膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1薄肉部と、上記第1薄肉部よりも厚みを薄くした溝状の第2薄肉部と、を有する金属製の安全弁、を備える
密閉型電池において、
上記第2薄肉部に、当該第2薄肉部を構成する金属を酸化させてなる酸化被膜を設けてなる
密閉型電池。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉型電池であって、
前記酸化被膜は、前記第2薄肉部の陽極酸化により形成した陽極酸化被膜である
密閉型電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の密閉型電池であって、
前記酸化被膜の厚みは、50〜300nmの範囲内である
密閉型電池。
【請求項4】
第1薄肉部と、上記第1薄肉部よりも厚みを薄くした溝状の第2薄肉部と、を有する金属製の安全弁、を備える
密閉型電池の製造方法において、
上記第2薄肉部の陽極酸化により、上記第2薄肉部に陽極酸化被膜を形成する陽極酸化工程を備える
密閉型電池の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の密閉型電池の製造方法であって、
前記陽極酸化工程では、前記陽極酸化被膜の厚みを50〜300nmの範囲内とする
密閉型電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−256536(P2012−256536A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129306(P2011−129306)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】