説明

密閉型電池

【課題】安全機構の作動タイミングのばらつきが低減された密閉型電池を提供する。
【解決手段】電池缶の円形底面の中心点をxy座標の原点に配置し、電池缶の半径をrとしたときにおける、x+y≦rかつ−0.9r≦x≦−0.1rの領域を第1領域とし、x+y≦rかつ0.1r≦x≦0.9rの領域を第2領域とするとき、第1領域及び第2領域には、それぞれ直線状あるいは破直線状の溝部が形成されており、前記溝部の長さはそれぞれ0.46r以上であり、第1領域のy≦0の領域、第1領域の0≦yの領域、第2領域のy≦0の領域、第2領域の0≦yの領域に存在する溝部の長さはそれぞれ0.2r以上であり、前記溝部の深さは電池缶の底部の厚みの40〜50%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型電池の安全性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、充電により長期にわたって繰り返し使える高容量高性能な電池として、携帯機器や電気自動車の駆動電源、或いは大型蓄電装置などの用途に広く使用されている。
【0003】
しかし、リチウムイオン二次電池は、過充電された場合や、高温環境下に放置された場合には電解質溶媒が分解され、電池内圧が上昇するという問題を有している。電池内圧の上昇は、電池性能の低下に留まらず、電池破裂や発火といった重大な問題を引き起こす恐れがある。
【0004】
このためリチウムイオン二次電池には、電池内圧が所定の圧力になったときに、充電電流を遮断する電流遮断素子(CID:Current Interrupt Device)や電池内のガスを電池外に逃がす安全弁などの安全機構が組み込まれている。
【0005】
安全機構にかかる技術としては、例えば特許文献1及び2に記載の技術がある。特許文献1には、電池の蓋板に、円筒状の突出部を設け、その突出部の上部の平坦面に、所定形状の薄肉溝部を設ける技術が記載されている。また、特許文献1には、同文献における従来技術として、電池ケースの底部に円弧状十字状の薄肉溝を形成し、電池内圧が高まったときに薄肉溝部を破断させてガスを電池外に放出する技術が記載されている。
【0006】
特許文献2には、有底電池缶の底面外側に、外側底面の円形に対して同心円上の弧状部分と外側底面の円形中心に対して放射線上にない直線部分とを有し、弧状部分と直線部分とは交差点を有する溝部を設ける技術が記載されている。この技術によると、電池缶の残肉厚を薄くすることなく破断圧力を低く設定することができ、電池異常時に内圧が上昇した場合に、破断した溝部から速やかに電池内部のガスを廃棄することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平1−177863号公報(実用新案登録請求の範囲、第2ページ)
【特許文献2】特開2006−338979号公報(段落0012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のごとく、リチウムイオン二次電池などの密閉型電池は、過充電されたときなどに電解質溶媒が分解して電池内圧が上昇するので、これに対する安全性を確保するため、電池内圧が所定圧にまで高まったときに電流遮断したり、電池内のガスを外部に放出させたりする安全機構が組み込まれている。
【0009】
ところが、電池内圧が高まるとその圧力により缶底が外方に膨張し、電池内圧の急激な上昇を緩和する現象が生じる。このような缶底の膨張は常に一律ではなく、ガス発生速度の違いや電池缶強度の微妙なバラつきによって変動する。それゆえ、従来のこの種の密閉型電池では、必ずしも設計通りのタイミングで安全機構を作動させることができないという問題がある。作動タイミングの遅れは、電池破裂や発火といった重大な問題を引き起こす恐れがある。
【0010】
上記特許文献1及び2に開示された技術は、いずれも電池内圧が上昇したときに、溝部を破断させて電池内部のガスを電池外部に逃がす技術であるので、これらの技術によっては、上記問題を解消することはできない。
【0011】
本発明は、これらの問題を解消するものであり、本発明の目的は、安全機構の作動タイミングに悪影響を及ぼす缶底の膨張を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成されている。発電要素と、前記発電要素を収容する、有底円筒形の電池缶と、電池内圧が所定の圧力に達したときに作動する安全機構を有する、前記電池缶の開口部を封口する封口体と、を備える密閉型電池において、前記電池缶の円形底面の中心点をxy座標の原点に配置し、前記電池缶の半径をrとしたときにおける、x+y≦rかつ−0.9r≦x≦−0.1rの領域を第1領域とし、x+y≦rかつ0.1r≦x≦0.9rの領域を第2領域とするとき、前記第1領域及び前記第2領域には、それぞれ直線状あるいは破直線状の溝部が形成されており、前記溝部の長さが、それぞれ0.46r以上であり、前記第1領域のy≦0の領域、前記第1領域の0≦yの領域、前記第2領域のy≦0の領域、前記第2領域の0≦yの領域に存在する前記溝部の長さが、それぞれ0.2r以上であり、前記溝部の深さが、前記電池缶の底部の厚みの40〜50%である、ことを特徴とする。
【0013】
前記溝部は、ローラー加工又はプレス加工により加工硬化を伴って形成された溝からなるものが好ましい。電池缶の底部に加工硬化溝を形成すると、加工硬化により底部の強度が高まり、膨張耐性がより高まるからである。
【0014】
ここで、破直線状の溝部とは、相互が離間した複数の溝が直線状に配列されてなる溝部のことをいう。破直線状の溝部は、離間した複数の溝やその間隔は特に限定されず、例えば、複数の溝が破線状に並んだもの、複数の溝が鎖線状に並んだもの、溝が一点鎖線状に並んだもの、複数の溝が二点鎖線状に並んだものなどが含まれる。
【0015】
また、破直線状の溝部の長さは、一連の複数の溝からなる溝部の一方の端から他方の端までの長さをいう。
【0016】
上記の構成により、電池缶底部の強度が増加し、電池内圧が上昇したときにおける電池缶の底部の膨れが抑制され、これにより、電池缶底部の膨れによる電池内圧抑制作用が小さくなるので、安全機構を作動させるトリガーとなる電池内圧の上昇が、底部の膨れによって緩和されることがない。よって、電池異常による内圧の上昇がそのまま安全機構に伝わるので、安全機構を的確に作動させることが可能になる。この結果として、電池破裂や電池発火といった事故を未然に防止することが可能になる。
【0017】
上記構成において、破直線状の溝部の溝部分の合計長さが、破直線状の溝部の長さに対して、50%以上である(間隔部分の合計長さが破直線状の溝部の長さに対して50%以下である)とすることができる。
【0018】
電池缶の外周円の面積に対する第1領域に設けられた溝部の面積の比及び電池缶の外周円の面積に対する第2領域に設けられた溝部の面積の比は、それぞれ0.08%以上0.7%以下であることが好ましい。
【0019】
破直線状の溝部の場合、溝部の面積とは、複数の溝の合計面積のことをいう。溝の面積は、溝の内底面を鉛直上方から見たときの内底面の長さと内底面の幅とから求められる。ここで、内底面の長さとは、溝部の長手方向における内底面の長さのことであり、溝の内底面とは、溝部の長手方向に垂直な方向における内底面の長さである。
【0020】
電池缶の底面に形成される溝部の面積が小さいと、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制する効果が十分に得られないことがある。溝部の面積を大きくした場合、底部の外周形状が変形することがある。底部の外周形状が変形すると、底部の膨れを抑制する効果が十分に得られないことがある。
【0021】
前記溝部の断面形状は、鋭角状でないことが好ましい。溝部の断面形状とは、溝部の長手方向に垂直な断面の形状のことである。断面形状が鋭角状ではない溝部を用いることにより、電池内圧が上昇したときに、溝部が破断することを防止することができる。具体的には、直角ないし鈍角状や、Rがつけられた形状とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制することができため、安全機構の作動タイミングのばらつきが低減された密閉型電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る渦巻型のリチウムイオン二次電池の構造を表す断面部分解体斜視図である。
【図2】2本の溝部が設けられた外側底部の一例を示す上面図である。
【図3】破直線状の溝部を形成するローラー加工冶具の正面図である。
【図4】破直線状の溝部を形成するプレス加工冶具の部分断面図である。
【図5】破直線状の溝部の長手方向に平行な断面を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を、図面を参照しながら説明する。以下の説明では、本発明を円筒形リチウムイオン二次電池に適用した場合について説明するが、本発明は、電池缶の底面に所定の溝部を設けることに特徴があるため、本発明は、ニッケル水素蓄電池等の他の円筒形の密閉型電池にも適用することができる。
【0025】
図1に、密閉型電池の一例である円筒形リチウムイオン二次電池の断面部分解体斜視図を示す。
前記リチウムイオン二次電池は、円形底面16を有する円筒状の電池缶1を有しており、この電池缶1内には、発電要素が収容されている。発電要素は、捲回型電極群2と、電極群2に含浸された電解質(図示せず)とから構成される。捲回型電極群2は、正極3と、負極4と、正極3と負極4とを離間するセパレータ5と、を渦巻状に巻回することにより形成されている。電解質は、例えば、非水溶媒に、電解質塩を溶解させることにより調製される。電池缶1は、電池缶1の開口部に絶縁性の外部ガスケット13aを介して封口体6をかしめ固定することにより、密閉されている。
【0026】
封口体6は、端子板9と、防爆弁8と、絶縁板14と、端子キャップ7と、を有しており、絶縁性の内部ガスケット13bを介して、端子板9と、防爆弁8と、絶縁板14と、端子キャップ7と、がかしめ固定されている。
【0027】
封口体6の防爆弁8と端子板9とが、ガス排出と電流遮断とを担う安全機構として機能する。具体的には、防爆弁8は、通常状態では、端子板9と電気的に接続されており、過充電時等の異常時に電池内圧が所定値以上になった場合には、防爆弁8が電池内圧により端子板9から離れて、電極群2から端子キャップ7への通電が遮断される。さらに電池内圧が上昇すると、防爆弁8が破断して、電池内部のガスが外部空間へと放出される。
【0028】
電池缶1には、負極4と電気的に接続された負極リード11が接続され、封口体6の端子板9には正極リード10が接続されている。これにより、電池缶1が負極外部端子として機能し、封口体6が正極外部端子として機能する。さらに、電極群2の上端部近傍には、電池内でのショートを防止するための絶縁板15が配置されている。同様に、電極群2と電池缶1の内底面との間にも、電池内でのショートを防止するための絶縁板(図示せず)が配置されている。
【0029】
本実施形態では、電池内圧が上昇したときの電池缶底部の膨れを抑制するために、底面16の所定位置に溝部を設けるとともに、その溝部の長さ及び深さを制御している。
【0030】
電池缶1の底面16の溝部が配置される位置について、図2を参照しながら説明する。図2には、破直線状の溝部が形成されている場合を示している。
【0031】
図2において、電池缶1の半径はrであり、電池缶1の底面16は、その中心点がxy座標の原点に配置されている。このとき、電池缶1の底面16は、x+y≦rで表される。そして、この底面16のうち、−0.9r≦x≦−0.1rの範囲が第1領域23であり、0.1r≦x≦0.9rの範囲が第2領域24である。そして、第1領域23及び第2領域24には、それぞれ溝部21・22が形成される。
【0032】
図2においては、第1領域23は、電池缶の外周円20(x+y=r)と、x=−0.9rで表される第1仮想線25と、x=−0.1rで表される第2仮想線26とで囲まれている領域であり、第2領域22は、電池缶の外周円20(x+y=r)と、x=0.1rで表される第3仮想線27と、x=0.9rで表される第4仮想線28とで囲まれている領域である。
【0033】
ここで、電池缶の外周円とは、円筒形の電池缶の形状を、その長手方向から投影して得られる形状のことである。半径rとは、前記外周円の半径のことである。なお、円筒形電池の場合には、前記電池缶の外周円を、電池缶の底面16の形状とみなすことができる。
【0034】
第1領域23及び第2領域24のうちの一方の領域内に、溝部が形成され、他方の領域内には溝部が形成されていない場合、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制する効果が十分に得られない。
【0035】
溝部21が第1領域23内に形成され、溝部22が第2領域24内に形成されていれば、溝部21と溝部22とは平行であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0036】
第1領域23及び第2領域24に、それぞれ1本ずつ溝部が設けられていればよく、これ以外の溝部がさらに設けられていてもよい。
【0037】
残りの溝部は、第1領域23及び/又は第2領域24に形成されてもよい。あるいは、残りの溝部は、第1領域23及び第2領域24の以外の領域に形成されてもよい。例えば、残りの溝部は、図2のy軸に沿って形成されていてもよい。
【0038】
次に、再度図2を参照しながら、溝部の長さについて説明する。
第1領域23に設けられた溝部21の長さcは0.46r以上であり、かつ第1領域23のy≧0の領域29及びy≦0の領域30に存在する溝部21の長さは、それぞれ0.2r以上である。
【0039】
同様に、第2領域24に設けられた溝部22の長さcは0.46r以上であり、かつ第2領域24のy≧0の領域31及びy≦0の領域32に存在する溝部22の長さは、それぞれ0.2r以上である。
【0040】
溝部の長さが上記条件を満たさないと、缶底部の強度を十分に向上できないため、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制する効果が十分に得られない。
【0041】
第1領域23に設けられた溝部21及び第2領域24に設けられた溝部22は、その両端がそれぞれ底面16の外周(図2の外周円)に接していてもよい。
【0042】
第1領域23に設けられた溝部21の長さの最大値は、溝部21が第2仮想線26に沿って設けられ、かつその両端が底面16の外周に接しているときの長さである。この長さは、底面16の直径の99%(1.98r)である。このことは、第2領域24に設けられる溝部についても同様である。
【0043】
溝部の深さは、電池缶の底部の厚みの40%〜50%である。溝部の深さが、電池缶の底部の厚みの40%より浅い場合、電池缶の底部の強度を十分に向上できないため、電池内圧が上昇したときの缶底部の膨れを抑制する効果が得られない。溝部の深さが電池缶の底部の厚みの50%より深いと、電池缶の底面16の外周形状が変形し、底部の膨れを抑制する効果が十分に得られない。なお、底面16を底面16に対し垂直な方向から見たとき、加工後の底面16の最長径又は最短径が、底面16の加工前の直径より0.5%以上変化した場合を、底面16の外周形状が変化したとみなす。ここで、最長径とは、加工後の底面16において、加工前の底面16の中心点に対応する点を通る、底面16の最も長い径のことをいう。最短径とは、加工後の底面16において、加工前の底面16の中心点に対応する点を通る、底面16の最も短い径のことをいう。
【0044】
上記溝部は、ローラー加工又はプレス加工により形成されてなる加工硬化溝であることが好ましい。ローラー加工又はプレス加工を用い、電池缶1の底部を部分的に圧縮して、溝部を形成することにより、電池缶1の底部を部分的に加工硬化させることができるからである。
【0045】
電池缶1の構成材料は、加工硬化が生じる金属であれば、特に限定されない。例えば、表面がニッケルでメッキされた有底円筒状の鉄製の電池缶を用いることができる。
【0046】
以上のように、ローラー加工又はプレス加工で形成された溝部を、上記で説明したような長さ、深さ、及び配置で、電池缶1の底面16に形成することにより、電池缶1の底部全体にわたって、その強度を増加させることができる。このため、電池内圧が上昇した場合でも、電池缶底部の膨れを抑制することができる。従って、安全機構を、設定圧力で的確に作動させることが可能になる。
【0047】
電池缶の外周円20の面積に対する第1領域23に形成された溝部の面積の比は0.08%以上0.7%以下であることが好ましい。同様に、電池缶の外周円20の面積に対する第2領域24に形成された溝部の面積の比は0.08%以上0.7%以下であることが好ましい。
【0048】
電池缶の外周円の面積に対する溝部の面積の比を上記範囲とすることにより、電池缶底面の外周形状の変形を抑制しつつ、電池缶底部の強度を向上させることができる。
【0049】
溝部は、破直線状の溝部であることが好ましい。破直線状の溝部の場合、破直線状の溝部の加工硬化が破直線状の溝部における溝部分間の未加工部にも及ぶ。このため、溝部の長さが同じである場合、直線状の溝部と比較すると、破直線状の溝部の方が、加工面積が少なくてすむ。よって、直線状の溝部の場合と比較して、第1領域23や第2領域24に形成される溝部の面積の外周円20の面積に対する比を減少させることができ、この結果、溝部を形成したときの缶底面16の外周形状の変形をさらに抑制することができる。
【0050】
破直線状の溝部において、破直線状の溝部の溝部分の合計長さは、破直線状の溝部の長さに対して、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。破直線状の溝部の溝部分の合計長さを、破直線状の溝部の長さに対して、50%以上とすることにより、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを十分に抑制することができる。
【0051】
電池内圧の上昇による、溝部の破断を防止するために、電池缶の底面16には、断面形状が鋭角状でない溝部を形成することが好ましい。溝部の断面形状は、鋭角状以外の形状を特に限定することなく用いることができ、例えば凹形、角が丸みをおびた凹形、鈍角の凹形等とすることができる。
【0052】
なお、完成品の電池の底面に設けられた溝部が、図2に示す第1領域22及び第2領域24に入るか否かを調べる場合には、完成品の電池缶の底面の中心点をxy座標の原点に配置し、原点を通りx軸及びy軸に垂直な軸を回転軸として、溝部が形成された底面を回転させて、第1領域及び第2領域のそれぞれに溝部が入るか否かを調べればよい。
【0053】
次に、本実施形態に係る密閉型リチウムイオン二次電池の作製方法の一例について説明する。本実施形態に係る電池の作製方法は、溝部形成工程に特徴を有し、その他の工程は公知の方法を採用すればよい。よって、溝部形成工程について説明する。
【0054】
ここで、溝部形成工程は、電池缶に電極群を収容する前に行ってもよいし、収容する後に行ってもよいし、電池缶を封口した後に行ってもよい。溝部は、電池缶の底面の外表面側から形成する(内部側に突出した溝とする)ことが好ましい。
【0055】
溝部形成工程では、上記で説明したようにして底面の位置決めをし、上記のような長さ、深さの溝を、底部の第1領域及び第2領域のそれぞれに形成する。
【0056】
直線状の溝をローラー加工により形成する場合、例えば、薄い円板状の金属板からなるローラー加工冶具を用いることができる。
破直線状の溝部をローラー加工により形成する場合、例えば、図3に示されるようなローラー加工冶具を用いることができる。
【0057】
直線状の溝をプレス加工により形成する場合、矩形の金属板からなるプレス加工冶具を用いて行うことができる。
破直線状の溝部をプレス加工により形成する場合、例えば、図4に示されるようなプレス加工冶具を用いることができる。
【0058】
破直線状の溝部の場合、凸部(溝部分を転写形成する部分)41及び51の長さX、並びに凹部(間隔となる部分)42及び52の長さYを調節することにより、溝部の溝部分及び間隔を制御することができる。
【0059】
溝部の深さは、ローラー加工又はプレス加工時の圧力を調節することにより制御することができる。破直線状の溝部の場合、溝部の深さは、凸部41及び51の高さを調節することによっても制御することができる。
【0060】
各冶具の厚みは、溝部の幅に応じて、適宜選択される。
【実施例】
【0061】
本実施例では、図1に示されるような円筒形リチウムイオン二次電池を作製した。なお、基本構成となる、溝が形成されていないセルを完成させたのち、その底部に、1本又は複数の溝部を設けた。
【0062】
(セルの作製)
<正極の作製>
正極活物質として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とコバルト酸リチウムとの混合物(質量比1:9)を用いた。正極活物質と、正極導電剤であるカーボンと、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)粉末とを、正極活物質:カーボン:PVdF=94:3:3の質量比で、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に投入、混練して、正極スラリーを調製した。
【0063】
正極スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔製の芯体の両面に、ドクターブレード法により塗布し、乾燥し、圧縮ローラーで圧延して、正極集電体の両面に正極活物質層を形成した。こうして、正極板を得た。
【0064】
<負極の作製>
負極活物質である黒鉛粉末と、結着剤であるスチレンブタジエンゴム(SBR)(スチレン:ブタジエン=1:1)のディスパージョンとを、水に分散させた。得られた混合物に、更に、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)を添加し、混練して、負極スラリーを調製した。得られた負極スラリーにおいて、黒鉛とSBRとCMCとの質量比は、95:3:2とした。
【0065】
この負極スラリーを、厚みが10μmの銅箔製の芯体の両面に、ドクターブレード法により塗布し、乾燥し、圧縮ローラーで圧縮して、負極活物質層を形成した。こうして、負極板を得た。
【0066】
<電解質の調製>
フッ化エチレンカーボネート(FEC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを20:80(体積比、20℃)の混合比で含む混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解して、電解質を得た。
【0067】
<電池の組み立て>
正極板にアルミニウム製の正極リードを溶接し、負極板にニッケル製の負極リードを溶接した。こののち、正極板と負極板とポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータ(厚み22μm)とを捲回して、捲回型電極群を得た。
【0068】
得られた捲回型電極郡の上下面にそれぞれ絶縁板を配置し、有底円筒形の電池缶内に上記電極群を挿入し、正極リードを封口体に、負極リードを電池缶にそれぞれ溶接した。次いで、上記電解質を電池缶内に注液し、封口体を絶縁ガスケットを用いてかしめ固定して、円筒形リチウムイオン二次電池を作製した。電池缶としては、有底円筒状の鉄製缶の表面に半光沢ニッケルメッキを施したものを用いた。
【0069】
封口体には、図1に示されるような、防爆弁と端子板とからなる、ガス排出と電流遮断とを備えた安全機構を設けておいた。この安全機構は、電池内圧が1.0MPaとなったときに作動して電流を遮断する。
【0070】
電池の外周円の直径は18mm(半径rが9mm)とし、電池高さは64.7mmとした。底部の厚みは0.2mmとし、定格容量は2100mAhとした。
【0071】
(実施例1〜6及び比較例1〜9)
作製したセルに対し、表1〜3に示されるような電池缶の外底面の位置に、表1〜3に示される長さ及び深さの溝部を形成した。各実施例及び各比較例において、溝部の幅は0.1mmとした。各実施例及び各比較例につき、電池を3つずつ作製した。
【0072】
なお、表1〜3の加工形状に関し、「破線」は、破直線状の溝部を意味し、「実線」とは、直線状の溝部を意味する。
【0073】
破直線状の溝部は、加工方法に応じて図3又は4に示される冶具を用いて形成した。用いた冶具において、凸部の長さXは0.3mmとし、凹部の長さYは0.3mmとした。つまり、図5の破直線状の溝部の部分縦断面図に示すように、破直線状の溝部を構成する溝部分61の溝部長手方向における長さは0.3mmとし、溝部長手方向に隣接する溝部分61間の間隔も0.3mmとした。
【0074】
実施例1〜5においては、図2に示される第1領域23及び第2領域24に1本ずつ溝部を設けた。溝部の長さは、電池缶の外周円の半径をrとした場合、1.12rであり、図2に示される領域29〜32にそれぞれ存在する溝部の長さは、0.56rである。
【0075】
実施例6においては、図2に示される第1領域23及び第2領域24に、長さ0.46rの溝部を1本ずつ設けた。図2に示される領域29〜32にそれぞれ存在する溝部の長さは、0.23rである。
【0076】
実施例4では、3本目の溝部を、図2のy軸に沿って形成した。この3本目の溝部の長さは1.12rと、深さは底部の厚みの50%とした。
【0077】
実施例1、2、5において、電池缶の外周円の面積に対する第1領域23に設けられた溝部の面積の比は0.2%である。同様に、電池缶の外周円の面積に対する第2領域24に設けられた溝部の面積の比も0.2%である。
【0078】
実施例3及び4において、電池缶の外周円の面積に対する第1領域23に設けられた溝部の面積の比は0.4%である。同様に、電池缶の外周円の面積に対する第2領域24に設けられた溝部の面積の比も0.4%である。
【0079】
実施例6において、電池缶の外周円の面積に対する第1領域23に設けられた溝部の面積の比は0.16%である。同様に、電池缶の外周円の面積に対する第2領域24に設けられた溝部の面積の比も0.16%である。
【0080】
比較例5において、図2に示される第1領域23のy≦0の領域30と第2領域24のy≦0の領域32における溝部の長さは、それぞれ1.5mmであり、0.2rよりも短い。
【0081】
[評価]
実施例1〜6及び比較例1〜9の電池を、以下のような、過充電試験に供した。
まず、実施例1〜6及び比較例1〜9の各電池を、室温において、電流値2000mAで、電池電圧が4.2Vになるまで充電した。
【0082】
この後、充電後の各電池を、室温において、2100mAの充電電流で、過充電した。このとき、過充電の開始後、電流遮断機構が作動するまでの時間を測定した。
【0083】
さらに、過充電試験を行う前後での電池全高及び電池缶の溝入れ部の長さの変化、並びに電流遮断機構が作動したときの電池缶の底部の膨れ量を測定した。ここで、溝入れ部の長さとは、図1の長さ17のことをいう。
【0084】
電池全高及び溝入れ部長さは、画像処理測定装置を用いて測定した。電池缶の底部の膨れ量は、以下の式:
底部の膨れ量=(過充電試験前後の電池全高の変化量)−(過充電試験前後の溝入れ部長さの変化量)
を用いて算出した。得られた結果を表4に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
表4に示されるように、実施例1〜6の電池は、過充電試験中において、電池缶の底部の膨れが抑制されていることが分かる。一方で、溝部の長さ、深さ、設ける位置が上記を満たさない比較例1〜9の電池は、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制できないことが分かる。このため、これら比較例の電池で、安全機構の作動のタイミングが遅くなった。特に、電池缶の底面に溝部が設けられていない比較例6の電池は、過充電試験により電池缶の底部が膨れ、その結果、実施例1〜6の電池と比較して、安全機構が作動するタイミングが最も遅くなった。
【0090】
実施例1と比較例2との比較から、電池缶の底面に溝部を1本のみ形成しただけでは、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制できないことが分かる。
【0091】
実施例3と、比較例1及び8との比較から、図2に示される第1領域23及び第2領域24に1本ずつ溝部を形成しないと、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制できないことが分かる。
【0092】
図2に示される第1領域23及び第2領域24にそれぞれ形成される溝部の長さが0.46r(4.14mm)である実施例6と、溝部の長さが0.46rよりも短い比較例3及び9とを比較すると、比較例3及び9において、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制できないことが分かる。よって、第1領域23及び第2領域24にそれぞれ形成される溝部の長さを、0.46r以上とする必要がある。
【0093】
実施例3及び6と、比較例3及び5との比較から、図2に示される領域29〜32に存在する溝部がそれぞれ0.2r以上形成されていないと、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制できないことが分かる。
【0094】
溝部の深さが電池缶底部の厚みの40%である実施例5と、溝部の深さが底部の厚みの35%である比較例7及び溝部の深さが底部の厚みの20%である比較例4とを比較すると、比較例4及び7において、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制できないことが分かる。よって、溝部の深さは、電池缶の底部の厚みの40%以上である必要がある。
【0095】
電池缶の底面の外周形状が変形し、電池缶の底部の膨れを抑制する効果が十分に得られないため、溝部の深さは、電池缶の底部の厚みの50%以下する必要がある。
【0096】
実施例1と実施例2との比較により、溝部をローラー加工で形成しても、プレス加工で形成しても、電池内圧が上昇したときの底部の膨れを抑制できることがわかる。
【0097】
直線状の溝部を2本形成した実施例3の場合にも、実施例1及び2と同等の結果が得られた。直線状の溝部を3本形成した実施例4の場合にも、実施例1〜3と同等の結果が得られた。
【0098】
(追加事項)
上記実施例では、リチウムイオン二次電池を例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ニッケル−水素蓄電池やニッケルカドミウム蓄電池等の密閉型電池にも適用できる。
【0099】
リチウムイオン二次電池を作製する場合、正極活物質としては、リチウム含有複合酸化物などの当該分野で公知の材料を用いることができる。負極活物質としては、炭素材料、SiまたはSnを含む材料などの当該分野公知の材料を用いることができる。
【0100】
また、ニッケル−水素蓄電池の場合は、例えば正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルを用い、負極活物質としては、水素吸蔵合金など、当該分野で公知の材料を用いることができる。
【0101】
電解質も、作製される電池の種類に応じて適宜選択される。リチウムイオン二次電池用の電解質としては、非水溶媒とそれに溶解したリチウム塩とを含む非水電解質が用いられる。非水溶媒およびリチウム塩には、当該分野で公知の材料を用いることができる。ニッケル−水素蓄電池やニッケルカドミウム蓄電池用の電解質としては、アルカリ水溶液が用いられる。
【0102】
上記実施例では、ガス排出と電流遮断とを備えた安全機構を用いたが、所定の電池内圧で作動して、電池内のガスを電池外に放出するガス放出弁のみからなる安全機構を用いてもよい。
【0103】
安全機構の作動圧力は、電池設計時、電池の安全性を確保できる圧力に任意に設定される。例えば、安全機構の作動圧力は、電池が破裂するよりも十分に低い圧力に設定される。
また、安全機構の作動圧力は、上記溝部を形成していないときの電池缶の底部の膨れ変形圧力よりも高いことが好ましい。本発明においては、電池缶の底面に溝部を形成することにより、電池内圧が前記膨れ変形圧力よりも高くなっても、底部の膨れ変形を抑制できるからである。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上説明したように、本発明によれば、安全機構の作動タイミングのばらつきを低減した密閉型電池を簡便な手法で実現できる。よって、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0105】
1 電池缶
2 捲回型電極群
3 正極
4 負極
5 セパレータ
6 封口体
7 端子キャップ
8 防爆弁
9 端子板
10 正極リード
11 負極リード
13a 外部ガスケット
13b 内部ガスケット
14 絶縁板
15 絶縁板
16 底面
17 溝入れ部の長さ
20 電池缶の外形円
21、22 溝部
23 第1領域
24 第2領域
25 第1仮想線
26 第2仮想線
27 第3仮想線
28 第4仮想線
29 第1領域のy≧0の領域
30 第1領域のy≦0の領域
31 第2領域のy≧0の領域
32 第2領域のy≦0の領域
41、51 凸部
42、52 凹部
61 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電要素と、前記発電要素を収容する、有底円筒形の電池缶と、電池内圧が所定の圧力に達したときに作動する安全機構を有する、前記電池缶の開口部を封口する封口体と、を備える密閉型電池において、
前記電池缶の円形底面の中心点をxy座標の原点に配置し、前記電池缶の半径をrとしたときにおける、x+y≦rかつ−0.9r≦x≦−0.1rの領域を第1領域とし、
+y≦rかつ0.1r≦x≦0.9rの領域を第2領域とするとき、
前記第1領域及び前記第2領域には、それぞれ直線状あるいは破直線状の溝部が形成されており、
前記溝部の長さが、それぞれ0.46r以上であり、
前記第1領域のy≦0の領域、前記第1領域の0≦yの領域、前記第2領域のy≦0の領域、前記第2領域の0≦yの領域に存在する前記溝部の長さが、それぞれ0.2r以上であり、
前記溝部の深さが、前記電池缶の底部の厚みの40〜50%である、
ことを特徴とする密閉型電池。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉型電池において、
前記溝部の断面形状が、鋭角状でない、
ことを特徴とする密閉型電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の密閉型電池において、
前記電池缶の外周円の面積に対する前記第1領域に設けられた溝部の面積の比及び前記電池缶の外周円の面積に対する前記第2領域に設けられた溝部の面積の比が、それぞれ0.08以上0.7%以下である、
ことを特徴とする密閉型電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の密閉型電池において、
前記破直線状の溝部の溝部分の合計長さが、前記破直線状の溝部の長さに対して、50%以上である、
ことを特徴とする密閉型電池。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の密閉型電池において、
前記溝部が、ローラー加工又はプレス加工により形成されてなる加工硬化溝である、
ことを特徴とする密閉型電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−243725(P2012−243725A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115932(P2011−115932)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】