説明

密閉型電池

【課題】電池要素と電池外装体自体の形状を維持したまま、電解液の注液性と含浸性を向上させ、電池のエネルギー密度を維持したまま、特性のばらつきと工程不良を抑制した密閉型電池を提供する。
【解決手段】正極集電体1a上に正極合剤層1bが形成された正極板1と、負極集電体3a上に負極合剤層3bが形成された負極板3とを、セパレータ2を介し積層し、捲回した電池要素の最外周部に捲き止めテープ4を貼付し、外装ケースに収納した密閉型電池において、最外周部が、正極集電体1aまたは負極集電体3aの両面が露出した集電体露出部を含み、集電体露出部に、集電体露出部の面積に対して10〜40%の割合の総開口面積で空孔部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯機器、情報機器、家電機器等において、特に小型で携帯可能な機器の使用に好適な密閉型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロ技術の進歩により、電子機器の小型化及び高機能化が可能となった。その結果、ポータブル機器市場が急成長を遂げており、これらの機器の駆動用電源として、高エネルギー密度で長寿命の密閉型電池の開発が求められている。このような中、エネルギー密度向上のために、電池要素である電極材料の改良やセパレータの薄膜化が進められている。電極については、圧延方法や材料自体の粒度調整によりエネルギー密度向上が進められており、セパレータについても、突き刺しや引張り強度を維持したまま薄膜化が検討されている。
【0003】
このようなエネルギー密度を向上させた電池については、電池缶と電池要素との空隙も極限まで小さくなっており、電解液の注液性が低下する問題がある。たとえば、密閉型電池においては、注液後に封口を実施して電池缶を密封する工程があるが、封口不良が発生する事がある。また、所定量の電解液の注液が可能であっても、電池要素への電解液含浸不足により、サイクル特性や電池特性にばらつきが発する懸念もあり、注液性の向上が望まれている。
【0004】
従来、注液性の向上のためには、集電体に孔を形成したり(特許文献1参照)、負極活物質層の表面に溝を形成したり(特許文献2参照)、正極活物質層の表面にマイクロカプセルを散布する(特許文献3)技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−162801号公報
【特許文献2】特開平9−298057号公報
【特許文献3】特開2005−228642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術においては、集電体に孔を形成する場合には、正負極の活物質が孔の近傍には形成できないため活物質の充填量が低減し、また、正負極の活物質層に溝を設けたり、カプセルを散布した場合にも活物質の充填量が低減したり、活物質層表面が不均一な状態となり好ましくない。
【0007】
このような状況下において、本発明の課題は、電池要素と電池外装体自体の形状を維持したまま、電解液の注液性と含浸性を向上させ、電池のエネルギー密度を維持したまま、特性のばらつきと工程不良を抑制した密閉型電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、帯状の電極及びセパレータを捲回して電池要素を形成する密閉型電池について、電池要素の最外周に空孔部を設けることにより注液性が向上することを見出した結果なされたものである。
【0009】
本発明の密閉型電池は、正極集電体上に正極合剤層が形成されてなる正極板と、負極集電体上に負極合剤層が形成されてなる負極板とが、セパレータを介し積層され、捲回されてなる電池要素と、電池要素の最外周部に貼付された捲き止めテープと、電気要素および捲き止めテープが収納された外装ケースと、を備える。この態様において、最外周部が、正極集電体または負極集電体の両面が露出した集電体露出部を含む。そして、集電体露出部に、集電体露出部の面積に対して10〜40%の割合の総開口面積で空孔部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、前記捲き止めテープが多孔質フィルムからなるとよく、また、前記捲き止めテープが密度0.6g/cm3〜1.5g/cm3の多孔質フィルムからなるとなおよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の密閉型電池によれば、電池要素自体の注液性を向上されることが可能となり、封口工程での電解液があふれることによる不良発生が低減できる。また、捲き止めテープが多孔質フィルムからなる場合、捲き止めテープ自体が保液性を持つため、セパレータへの電解液補給が可能となり、充放電サイクル時の液枯れが防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の密閉型電池の電池要素に捲き止めテープを貼付した正面図。
【図2】本発明の密閉型電池の電池要素を示す断面図。
【図3】図2のA部を拡大した部分断面図。
【図4】図3のB部の部分正面図。
【図5】本発明の密閉型電池の電池要素の捲回途中を示す斜視図。
【図6】本発明の密閉型電池の電池要素に捲き止めテープを貼付した状態を示す斜視図。
【図7】本発明の密閉型電池の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0014】
図1は本発明の密閉型電池の電池要素に捲き止めテープを貼付した正面図であり、図2は本発明の密閉型電池の電池要素を示す断面図であり、図3は図2のA部を拡大した部分断面図であり、図4は図3のB部の部分正面図である。
【0015】
本発明の密閉型電池の電池要素は図2に示すようにアルミニウム、アルミニウム合金、チタン等の導電体箔からなる正極集電体上に正極活物質を主成分とする正極合剤層が形成された正極板1と、銅、ニッケル、SUS、銀等の導電体箔からなる負極集電体上に負極活物質を主成分とする負極合剤層が形成された負極板3とを、セパレータ2を介し積層し、捲回した構成となっている。
【0016】
正極活物質はLiCoO、LiNiO、LiMn等が好ましい。その他に負極との電位差が1V以上ある、VやMnO、MoS、TiS等が適用できる。このような正極活物質にポリビニリデンフルオドライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン等の結着剤および導電補助材を混合し、正極合剤層として正極集電体に塗布し、正極板1を形成する。
【0017】
負極活物質は炭素質材料であり、グラファイトである天然黒鉛や人造黒鉛が好ましい。このような黒鉛類にポリビニリデンフルオライド、ポリエチレン、スチレンブタジエン等の結着剤および必要に応じ導電補助材を混合し、負極合剤層として負極集電体に塗布し、負極板3を形成する。
【0018】
セパレータ2は、正極板1と負極板3の短絡を防いで、イオン導電性を有しているものであれば構わないが、多孔性を有するポリオレフィンフィルムが好ましく、ポリエチレンオキサイド誘導体、ポリスチレン、ポリブタジエン及びその共重合体、ポリビニリデンフルオライド等を適用する事ができる。また、絶縁層として、公知の固体電解質を用いてもよい。
【0019】
電池要素の外周部は、図3に示すように正極集電体1aの電池要素の内側となる片面に正極合剤層1bが形成された正極板からなりさらに最外周部は正極集電体1aのみから構成される。最外周部の正極集電体1aは1周内側の、片面に正極合剤層1bが形成された正極板の正極集電体1aと接触している。また、正極合剤層1bはセパレータ2を介して負極集電体3a上に形成された負極合剤層3bと対向した構造となっている。なお、外装材の材質により外周部に正極板が配置されるか、負極板が配置されるかが決まる。ここでは例えば外装材にアルミニウム缶を用いた場合、外装材のアルミニウム缶が正極側となるため、外装材と電池要素の外周部が接触しても問題がないように、外周部に正極板を配置したが、外装材に例えば鉄系の材料を用いた場合には外周部に負極板を配置するとよい。
【0020】
最外周部の正極集電体1aには、図4に示すように、空孔部1cが設けられた構造となっている。空孔部1cは両面に正極合剤層が形成されていない正極集電体の露出部に設けられ、且つ、空孔部1cを設けた正極集電体最外周部と、同極の集電体の正極合剤層が形成されていない面が対向する構造となる。また、空孔部の総面積は、該当する集電体の面積、即ち最外周部の正極集電体のみからなる部分の面積の10%〜40%となるように形成されるとよく、20%〜30%がより好ましい。空孔部面積が10%より小さい場合は、注液性に改善が見られず、また、40%より大きい場合は、集電体自体の機械的強度低下による破断等が懸念されるからである。
【0021】
電池要素は、図1に示すように最外周表面を捲き止めテープ4で固定する。捲き止めテープは必ずしも電池要素の全面を覆う必要はない。特に多孔質テープを用いない場合には、空孔部全体を覆うことのないようにするとよい。捲き止めテープ4については、電解液に耐性があるものであれば特に制限がないが、電解液に対する親和性の大きい物が特に有効であり、ポリスチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリブタジエン及びその共重合体が挙げられる。また、電解液保持の観点から、多孔質であることが望ましく、密度は0.6g/cm〜1.5g/cm、好ましくは0.8g/cm〜1.2g/cmとするのが望ましい。0.6g/cm未満では機械的強度に問題があり、組立性の問題が懸念され、1.5g/cmより大きい場合は十分な保液性が得られないからである。
【0022】
尚、電池として機能させるためには、非水系電解液を含浸させる必要があるが、上記電解液には、塩類を有機溶媒に溶解した電解液を使用することができる。塩類としては、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF等が例示され、これらの一種または二種以上の混合物を適用できる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、γ―ブチルラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトロヒドロフラン等が例示され、これらの一種または二種以上の混合物を適用できる。
【0023】
本発明に係る密閉型電池において、電池缶、電池缶の蓋、安全構造、電極端子等の上述していない各種の構成材料としては、既存の物を使用することができる。
【0024】
(実施例)
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
正極活物質にLiCoOを使用し、その94重量部、ポリフッ化ビニリデン3重量部、導電材としてアセチレンブラック3重量部、及びN―メチル2ピロリドン50重量部を混合してスラリーとした。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体に塗布、乾燥、圧延を実施し正極合剤層を形成し正極板を作製した。一方、負極活物質には鱗片状黒鉛を使用し、その97重量部、ポリフッ化ビニリデン3重量部、及びN―メチル2ピロリドン60重量部を混合してスラリーとした。このスラリーを厚さ10μmの銅箔からなる負極集電体に塗布、乾燥、圧延を実施し、負極合剤層を形成し負極板を作製した。
【0026】
図5は本発明の密閉型電池の電池要素の捲回途中を示す斜視図であり、図6は本発明の密閉型電池の電池要素に捲き止めテープを貼付した状態を示す斜視図であり、図7は、本発明の密閉型電池の斜視図である。上述のように作製した正極板を40mm幅、負極板を41mm幅にスリットした後、正極板集電体露出部に複数のΦ1mmの円形空孔部を設けて該当部総面積の15%の空孔部を設けた後、図5のように正極板1が外周になるように正極板1と負極板3を厚さ20μmで幅43mmの多孔質ポリエチレンからなるセパレータ2を介して捲回し、電池要素を作製後、図6に示すように密度0.60g/cm3のポリビニリデンフルオライド多孔質膜からなる幅41mm、厚み14μmの捲き止めテープ4により電池要素を固定した。
【0027】
固定した電池要素を図7に示すように所定の角型密閉型電池用のアルミニウム缶に挿入後、所定の工程に従い蓋をレーザー溶接し、封口部5から電解液量が規格最大値になるように注液し、密閉型電池を1000個作製し封口不良率を求めた。また、電解液量を規格下限にて作製した密閉型電池を用いて充放電サイクル試験を実施した。充放電サイクル試験については、正極活物質の塗工量から算出した電池容量を基準とし、定電流1C、及び4.2Vの定電圧下で2.5時間の充電、電流1Cで端子電圧が3.0Vとなるまでの放電を繰り返した。尚、試験雰囲気は20℃で実施し、500サイクル経過後の容量維持率を確認した。表1に封口不良率とサイクル特性における容量維持率(3個の平均値)を示す。
【0028】
(実施例2)
正極板の最外周の正極集電体露出部に複数のΦ1mmの円形空孔部を設けて総面積の25%の空孔部を設け、密度0.90g/cmのポリビニリデンフルオライド多孔質膜からなる捲き止めテープを用いた以外は実施例1と同様に密閉型電池を作製、試験した。
【0029】
(実施例3)
正極板の最外周の正極集電体露出部に複数のΦ1mmの円形空孔部を設けて総面積の37%の空孔部を設け、密度1.50g/cmのポリビニリデンフルオライド多孔質膜からなる捲き止めテープを用いた以外は実施例1と同様に密閉型電池を作製、試験した。
【0030】
(実施例4)
正極板の最外周の正極集電体露出部に複数のΦ1mmの円形空孔部を設けて総面積の30%の空孔部を設け、密度1.00g/cmのポリビニリデンフルオライド多孔質膜からなる捲き止めテープを用いた以外は実施例1と同様に密閉型電池を作製、試験した。
【0031】
(実施例5)
正極板の最外周の正極集電体露出部に複数のΦ1mmの円形空孔部を設けて総面積の30%の空孔部を設け、密度1.80g/cmのポリビニリデンフルオライド多孔質膜からなる捲き止めテープを用いた以外は実施例1と同様に密閉型電池を作製、試験した。
【0032】
(比較例1)
正極板の最外周の正極集電体露出部に空孔部を設けずに密度1.00g/cmのポリビニリデンフルオライド多孔質膜からなる捲き止めテープを用いた以外は実施例1と同様に密閉型電池を作製、試験した。
【0033】
(比較例2)
正極板の最外周の正極集電体露出部に空孔部を設けずに密度0.70g/cmのポリビニリデンフルオライド多孔質膜からなる捲き止めテープを用いた以外は実施例1と同様に密閉型電池を作製、試験した。
【0034】
実施例2〜5、比較例1、2における封口不良率とサイクル特性における容量維持率を表1に示す。
【0035】
【表1】

【符号の説明】
【0036】
1 正極板
1a 正極集電体
1b 正極合剤層
1c 空孔部
2 セパレータ
3 負極板
3a 負極集電体
3b 負極合剤層
4 捲き止めテープ
5 封口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に正極合剤層が形成されてなる正極板と、負極集電体上に負極合剤層が形成されてなる負極板とが、セパレータを介し積層され、捲回されてなる電池要素と、
前記電池要素の最外周部に貼付された捲き止めテープと、
前記電池要素および前記捲き止めテープが収納された外装ケースと、を備える密閉型電池において、
前記最外周部が、前記正極集電体または前記負極集電体の両面が露出した集電体露出部を含み、
前記集電体露出部に、該集電体露出部の面積に対して10〜40%の割合の総開口面積で空孔部が形成されていることを特徴とする密閉型電池。
【請求項2】
前記捲き止めテープが多孔質フィルムからなることを特徴とする請求項1に記載の密閉
型電池。
【請求項3】
前記捲き止めテープの密度が0.6g/cm〜1.5g/cmであることを特徴とする請求項2に記載の密閉型電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−48116(P2013−48116A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−264244(P2012−264244)
【出願日】平成24年12月3日(2012.12.3)
【分割の表示】特願2007−292005(P2007−292005)の分割
【原出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(310010081)NECエナジーデバイス株式会社 (112)
【Fターム(参考)】