説明

密閉型電池

【課題】電極体及び電解液が封入された電池ケースの側面に開裂溝が形成され、落下等による衝撃を受けても開裂しにくく、安全且つより確実に開裂する開裂溝が形成された密閉型電池を提供する。
【解決手段】密閉型電池は、電極体及び電解液が封入される電池ケースを備える。電池ケースの平面部13に、稜線Lに対して交差する開裂線を構成する開裂溝41を形成する。開裂線は、第1湾曲部42及び第2湾曲部43を含む曲線のみからなる。第1湾曲部42及び第2湾曲部43の少なくとも一方は、稜線Lに対して交差する。開裂溝41は、開裂線の両端を結ぶ仮想直線Pと稜線Lに対して直交する基準線Qとのなす回転角度Rが70度以上で且つ120度以下の範囲外になるように、電池ケースの平面部13に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体及び電解液が封入される電池ケースの側面に、該電池ケース内の圧力が閾値よりも大きくなった場合に開裂する開裂溝が形成された密閉型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電池ケースの側面に、該電池ケース内の圧力が閾値よりも大きくなった場合に開裂する開裂溝が形成された密閉型電池が知られている。このような密閉型電池では、例えば特許文献1に開示されるように、電池ケースの側面上で、且つ、該電池ケースが内圧の上昇によって膨らんだ際に形成される凸部稜線(稜線)と交差する位置に、開裂溝が形成されている。これにより、電池ケース内の圧力が閾値よりも大きくなると該電池ケースの変形によって開裂溝が開裂するため、電池ケース内のガス等を外部へ逃すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4166028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1に開示される構成のように、電池ケースの側面に開裂溝を設ける構成の場合、電池の落下等の際に電池ケースが受ける衝撃によって開裂溝が開裂する可能性がある。そうすると、電池ケース内の電解液が漏れ出す可能性がある。
【0005】
これに対し、開裂溝によって構成される開裂線の形状を、電池の落下等の際に開裂しにくい形状にすることが考えられる。しかしながら、開裂線をそのような形状にすると、電池ケース内の圧力が閾値以上になっても該開裂溝が開裂しにくい場合がある。
【0006】
また、電池ケース内からガスを効率良く排出させるためには、開裂溝が開裂した場合に可能な限り開口部分が大きくなるような形状の開裂線が好ましい。しかしながら、開口を大きくするために、開裂する部分の面積を大きくすると、開裂した部分が電池ケース内の電極体に接触して短絡を生じたり、電池ケースを覆う外装フィルムに損傷を与えたりする可能性がある。
【0007】
そのため、電極体及び電解液が封入された電池ケースの側面に開裂溝が形成された密閉型電池において、落下等による衝撃を受けても開裂しにくい一方、電池ケースの内圧に応じて安全且つ容易に開裂する開裂溝の構成を得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る密閉型電池は、内部に電極体及び電解液が封入される柱状の電池ケースを備え、前記電池ケースの側面には、前記電池ケースが内圧の上昇によって膨らんだ際に該電池ケースの側面に形成される稜線に対して交差する開裂線を構成する開裂溝が形成されていて、前記開裂線は、前記電池ケースの側面を法線方向から見て、一方向に突状に湾曲する第1湾曲部と、該第1湾曲部の突方向に対して90度以上の角度をなす方向に突状に湾曲する第2湾曲部とを含む曲線のみからなり、前記第1湾曲部の一端側は、前記第2湾曲部の一端側と接続されていて、前記第1湾曲部及び前記第2湾曲部の少なくとも一方は、前記稜線に対して交差していて、前記開裂溝は、前記電池ケースの側面の法線方向から見て、前記稜線に直交する基準線に対して前記開裂線の両端を結ぶ仮想直線が時計方向になす角度が、70度以上で且つ120度以下の範囲外になるように、前記電池ケースの側面に形成されている(第1の構成)。
【0009】
以上の構成では、開裂溝によって構成される開裂線は曲線であるため、開裂線が直線の場合に比べて開裂溝が電池ケースの変形によって開裂しやすくなる。また、前記開裂線は、電池ケースの側面を法線方向から見て、一方向に突状に湾曲する第1湾曲部と、該第1湾曲部の突方向に対して90度以上の角度をなす方向に突状に湾曲する第2湾曲部とを有するため、単なる円弧状の開裂線に比べて開裂溝が電池ケースの変形によって開裂しやすい。
【0010】
また、開裂線を上述のような形状にすることで、電池ケースに加わった衝撃によって開裂溝に開裂が生じにくい。すなわち、開裂溝が直線の場合、直線の延長線方向から外部衝撃が加わると、開裂溝に一気に開裂が生じる可能性があるが、上述の構成にすることで、特定の方向からの外部衝撃によって開裂が生じるのを抑制することができる。したがって、上述の構成により、電池ケースに加わる衝撃によって開裂溝が開裂して電池内部の電解液が漏れ出すのを防止することができる。
【0011】
さらに、上述のように、第1湾曲部と第2湾曲部とを組み合わせて開裂線を構成することにより、該開裂線に沿って開裂溝が開裂すると、第1湾曲部によって形成される突部と第2湾曲部によって形成される突部とがそれぞれ電池ケースの外方に向かって突出する。これにより、開裂溝の開裂によって形成される開口を大きくすることができ、電池内部のガス等を開裂部分から外部に効率良く排出することができる。しかも、上述の構成によって、開裂溝の開裂によって形成される突部が電池ケースの外方に位置付けられるため、開裂部分において電池内部と電池ケースとの間で短絡が生じるのを防止できる。
【0012】
また、上述のように、第1湾曲部と第2湾曲部とを組み合わせて開裂線を構成することにより、該開裂線と同じ長さを有する円弧状の開裂線を設けた場合に比べて、開裂によって形成される突部の大きさを小さくすることができる。これにより、開裂によって形成された突部によって電池内部と電池ケースとの間で短絡が生じるのをより確実に防止できるとともに、前記突部によって電池ケースを覆う外装フィルム等が損傷を受けるのを防止できる。
【0013】
さらに、発明者らの鋭意努力によって、上述のような構成を有する開裂溝がより容易に開裂しやすい条件を見出した。すなわち、前記開裂溝を、前記開裂線の両端を結ぶ仮想直線と前記稜線に対して直交する基準線とのなす角度が70度以上で且つ120度以下の範囲外になるように、前記電池ケースの側面に形成することにより、前記開裂溝を低い作動圧で安定して開裂させることができる。詳しくは、図13に示すように、前記開裂溝を、前記角度が70度以上で且つ120度以下の範囲内になるように電池ケースの側面に形成した場合、略90度付近でピークを有するように急激に作動圧が上昇することが分かった。したがって、前記角度が70度以上で且つ120度以下の範囲外になるように、前記開裂溝を前記電池ケースの側面に形成することで、前記開裂溝をより容易に且つ安定して開裂させることができる。
【0014】
前記第1の構成において、前記開裂線は、前記第1湾曲部と前記第2湾曲部とを一つずつ組み合わせてなるのが好ましい(第2の構成)。
【0015】
こうすることで、シンプルな形状(例えばS字状)の開裂線を構成する開裂溝によって、電池ケースが変形した際に開裂溝をより容易に開裂させることができるとともに、該開裂溝の開裂によって大きな開口を容易に形成することができる。
【0016】
前記第1または第2の構成において、前記第1湾曲部は、前記開裂線と交差する前記稜線の基端側に位置する前記電池ケースの端部に向かって、突状に湾曲していて、前記開裂溝は、前記第1湾曲部が前記稜線上に位置するように、前記電池ケースの側面に形成されているのが好ましい(第3の構成)。
【0017】
これにより、稜線上で電池ケースの端部により近い位置に、第1湾曲部の突部が位置するため、稜線上に位置する第1湾曲部が、電池ケースの変形によって開裂を生じ易くなる。すなわち、電池ケースの変形に伴い、稜線は該電池ケースの端部の周辺から生じるため、第1湾曲部を該端部側に向かって突状に湾曲した形状とすることで、該第1湾曲部を電池ケースの変形初期で開裂させることができる。よって、電池ケースの変形によって、開裂溝をより確実に開裂させることができる。
【0018】
前記第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成において、前記開裂溝は、前記電池ケースにおける対向する一対の側面にそれぞれ形成されているのが好ましい(第4の構成)。
【0019】
こうすることで、電池ケースの変形によって、一対の側面にそれぞれ形成された開裂溝の一方が開裂する。これにより、電池ケースの内圧が閾値を超えて一方の側面に形成された開裂溝が開裂しない場合であっても、他方の側面に形成された開裂溝が開裂するため、電池ケースの内圧上昇をより確実に防止できる。
【0020】
前記第4の構成において、前記一対の側面のうち一方の側面に形成される開裂線は、該一方の側面の法線方向から見て、該一方の側面において前記電池ケースの幅方向の一側に形成される稜線と交差するとともに、該電池ケースにおける軸線方向の一側の端部に位置し、前記一対の側面のうち他方の側面に形成される開裂線は、前記一方の側面の法線方向から見て、前記他方の側面において前記電池ケースの幅方向の他側に形成される稜線と交差するとともに、該電池ケースにおける軸線方向の他側の端部に位置する(第5の構成)。
【0021】
こうすることで、一対の側面にそれぞれ形成される開裂溝は、電池ケースを一方の側面の法線方向から見て、該電池ケースの対角位置に設けられる。これにより、電池ケースの側面における幅方向及び上下方向に強度的なバラツキがあって、該側面における幅方向及び上下方向の変形にバラツキがあった場合でも、一対の側面にそれぞれ形成された開裂溝のうちの一方の開裂溝が開裂する。よって、電池ケースの内圧上昇をさらに確実に防止できる。
【0022】
前記第1から第5の構成のうちいずれか一つの構成において、前記電池ケースは、長方形の短辺が円弧状に形成された底面を有し且つ内部に前記電極体及び前記電解液を収納可能な空間を有する柱状体であるのが好ましい(第6の構成)。
【0023】
このような形状の電池ケースでは、側面が角のない滑らかな曲面であるため、電池ケースが膨らんでも、六面体の電池ケースに比べて端部での引張力が小さい。そうすると、開裂溝にかかる力も小さくなるため、直線状の開裂溝の場合には開裂溝が開裂してもその開口は小さくなる。これに対し、開裂溝を前記第1の構成のような形状にすることで、従来の構成に比べて、開裂溝の開裂による開口を大きくすることができる。
【0024】
前記第1から第6の構成のうちいずれか一つの構成において、前記開裂溝は、前記角度が略30度になるように、前記電池ケースの側面に形成されているのが好ましい(第7の構成)。
【0025】
図13に示すように、前記仮想直線と前記稜線とのなす角度が略30度の場合には、開裂溝が開裂する作動圧を最も小さくすることができる。よって、前記角度が略30度になるように開裂溝を電池ケースの側面に設けることにより、該開裂溝をより容易に開裂させることが可能になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一実施形態に係る密閉型電池によれば、電池ケースの側面に、稜線に対して交差するとともに、側面視で90度以上の角度をなす方向に突状に湾曲した第1湾曲部及び第2湾曲部が交互に接続された開裂線を構成するように、開裂溝を設ける。この開裂溝は、開裂線の両端を結ぶ仮想直線と前記稜線に対して直交する基準線とのなす角度が70度以上で且つ120度以下の範囲外になるように、前記電池ケースの側面に設けられる。これにより、落下等による衝撃によって開裂するのを防止する一方、電池ケースの内圧に応じて安全且つ容易に開裂する開裂溝の構成を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係る密閉型電池の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1におけるII−II線断面図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る密閉型電池の概略構成を示す側面図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る密閉型電池のベント動作状態を示す斜視図である。
【図5】図5は、図4におけるV−V線断面図である。
【図6】図6は、S字状の開裂線の計算モデルの一部を示す図である。
【図7】図7は、直線状の開裂線の計算モデルの一部を示す図である。
【図8】図8は、円弧状の開裂線の計算モデルの一部を示す図である。
【図9】図9は、開裂溝の残厚と作動圧との関係を計算及び実験によりそれぞれ求めた結果を示すグラフである。
【図10】図10は、各形状の開裂線における作動圧の計算結果を示す図である。
【図11】図11は、平面部の底面側に開裂溝を形成した場合の密閉型電池の概略構成を示す側面図である。
【図12】図12は、開裂溝の仮想直線と基準線との関係を示す図である。
【図13】図13は、開裂溝の回転角度を変化させた場合の作動圧の変化を示すグラフである。
【図14】図14は、開裂溝を、仮想直線が基準線に対して略30度になるように設けた場合を示す図である。
【図15】図15は、実施形態1の変形例1に係る密閉型電池の図3相当図である。
【図16】図16は、実施形態2に係る密閉型電池の概略構成を示す側面図である。
【図17】図17は、実施形態2に係る密閉型電池の図4相当図である。
【図18】図18は、その他の実施形態に係る密閉型電池の概略構成を示す側面図である。
【図19】図19は、その他の実施形態に係る密閉型電池の概略構成を示す側面図である。
【図20】図20は、その他の実施形態に係る密閉型電池の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0029】
<実施形態1>
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態1に係る密閉型電池1の概略構成を示す斜視図である。この密閉型電池1は、有底筒状の外装缶10と、該外装缶10の開口を覆う蓋板20と、該外装缶10内に収納される電極体30とを備える。外装缶10に蓋板20を取り付けることによって、内部に空間を有する柱状の電池ケース2が構成される。なお、この電池ケース2内には、電極体30以外に、非水電解液(以下、単に電解液という)も封入されている。
【0030】
電極体30は、それぞれシート状に形成された正極31及び負極32を、例えば両者の間及び該負極32の下側にセパレータ33がそれぞれ位置するように重ね合わせた状態で、図2に示すように渦巻状に巻回することによって形成された巻回電極体である。電極体30は、正極31、負極32及びセパレータ33を重ね合わせた状態で巻回した後、押しつぶして扁平状に形成される。
【0031】
ここで、図2では、電極体30の外周側の数層分しか図示していない。しかしながら、この図2では電極体30の内周側部分の図示を省略しているだけであり、当然のことながら、電極体30の内周側にも正極31、負極32及びセパレータ33が存在する。また、図2では、蓋板20の電池内方に配置される絶縁体等の記載も省略している。
【0032】
正極31は、正極活物質を含有する正極活物質層を、アルミニウム等の金属箔製の正極集電体の両面にそれぞれ設けたものである。詳しくは、正極31は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム含有酸化物である正極活物質、導電助剤及びバインダなどを含む正極合剤を、アルミニウム箔などからなる正極集電体上に塗布して乾燥させることによって形成される。正極活物質であるリチウム含有酸化物としては、例えば、LiCoOなどのリチウムコバルト酸化物やLiMnなどのリチウムマンガン酸化物、LiNiOなどのリチウムニッケル酸化物等のリチウム複合酸化物を用いるのが好ましい。なお、正極活物質として、1種類の物質のみを用いてもよいし、2種類以上の物質を用いてもよい。また、正極活物質は、上述の物質に限られない。
【0033】
負極32は、負極活物質を含有する負極活物質層を、銅等の金属箔製の負極集電体の両面にそれぞれ設けたものである。詳しくは、負極32は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質、導電助剤及びバインダなどを含む負極合剤を、銅箔などからなる負極集電体上に塗布して乾燥させることによって形成される。負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料(黒鉛類、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類など)を用いるのが好ましい。負極活物質は、上述の物質に限られない。
【0034】
また、電極体30の正極31には正極リード34が接続されている一方、負極32には負極リード35が接続されている。これにより、正極リード34及び負極リード35が、電極体30の外部に引き出されている。そして、この正極リード34の先端側は、蓋板20に接続されている。一方、負極リード35の先端側は、後述するように、リード板27を介して負極端子22に接続されている。
【0035】
外装缶10は、アルミニウム合金製の有底筒状部材であり、蓋板20とともに電池ケース2を構成する。外装缶10は、図1に示すように、長方形の短辺側が円弧状に形成された底面11を有する有底筒状の部材である。詳しくは、外装缶10は、底面11と、滑らかな曲面を有する扁平筒状の側壁12とを備える。この側壁12は、対向する一対の平面部13(側面)と、該平面部13同士を接続する一対の半円筒部14とを有する。外装缶10は、底面11の短辺方向に対応する厚み方向の寸法が、底面11の長辺方向に対応する幅方向よりも小さくなる(例えば、厚みが幅の1/10程度になる)ように、扁平形状に形成されている。また、この外装缶10は、後述するように正極リード34に接続される蓋板20と接合されているため、密閉型電池1の正極端子も兼ねている。
【0036】
図2に示すように、外装缶10の内側の底部には、該外装缶10を介して電極体30の正極31と負極32との間で短絡が発生するのを防止するためのポリエチレンシートからなる絶縁体15が配置されている。上述の電極体30は、該絶縁体15上に一方の端部が位置付けられるように配置されている。
【0037】
蓋板20は、外装缶10の開口部を覆うように、該外装缶10の開口部に溶接によって接合されている。この蓋板20は、外装缶10と同様、アルミニウム合金製の部材からなり、該外装缶10の開口部の内側に嵌合可能なように長方形の短辺側が円弧状に形成されている。また、蓋板20には、その長手方向の中央部分に貫通孔が形成されている。この貫通孔内には、ポリプロピレン製の絶縁パッキング21及びステンレス鋼製の負極端子22が挿通されている。具体的には、概略柱状の負極端子22が挿通された概略円筒状の絶縁パッキング21が該貫通孔の周縁部に嵌合されている。負極端子22は、円柱状の軸部の両端に平面部がそれぞれ一体形成された構成を有する。負極端子22は、平面部が外部に露出する一方、該軸部が絶縁パッキング21内に位置付けられるように、該絶縁パッキング21に対して配置されている。この負極端子22には、ステンレス鋼製のリード板27が接続されている。これにより、負極端子22は、リード板27及び負極リード35を介して、電極体30の負極32に電気的に接続されている。なお、リード板27と蓋板20との間には、絶縁体26が配置されている。
【0038】
蓋板20には、負極端子22と並んで電解液の注入口24が形成されている。注入口24は、平面視で略円形状に形成されている。また、注入口24は、蓋板20の厚み方向に径が2段階で変化するように小径部及び大径部を有する。この注入口24は、該注入口24の径の変化に対応して段状に形成された封止栓25によって封止されている。そして、封止栓25と注入口24の周縁部との間に隙間が生じないように、該封止栓25の大径部側の底面外周部と注入口24の周縁部とはレーザー溶接によって接合されている。
【0039】
(ベント)
図1及び図3に示すように、外装缶10の側面には、ベント23を構成する開裂溝41が形成されている。詳しくは、外装缶10の側壁12のうち密閉型電池1の幅方向に延びる平面部13に、略S字状の開裂線を構成する開裂溝41が形成されている。この開裂溝41は、電池ケース2内の圧力が閾値よりも大きくなると、開裂するように構成されている。
【0040】
開裂溝41は、外装缶10の側面視で、側面外方(一方向)に向かって突状に湾曲する第1湾曲部42と、該側面外方とは反対方向である側面内方に向かって突状に湾曲する第2湾曲部43とを有する。この実施形態では、第1湾曲部42の突方向(凸部分の突出方向、以下同じ。)と第2湾曲部43の突方向とは、180度異なる。この開裂溝41は、第1湾曲部42の一端側に第2湾曲部43の一端側が接続されることによって、上述のように略S字状の開裂線を構成する。すなわち、開裂溝41によって形成される開裂線は、曲線のみによって構成されている。なお、本実施形態では、第1湾曲部42と第2湾曲部43とが、ほぼ同じ半径を有する半円状に形成されている。
【0041】
上述のように、開裂溝41を、第1湾曲部42及び第2湾曲部43を有する略S字状に形成することで、詳しくは後述するように、開裂線を直線または円弧状に形成する場合に比べて、電池ケース2の内圧に応じて開裂しやすくなる。
【0042】
また、開裂溝41を略S字状に形成することで、同じ長さの開裂溝を直線または円弧状に形成する場合に比べて、開裂溝41を狭い範囲内に形成することができる。特に、開裂溝が直線の場合、直線の延長線方向から外部衝撃が加わると、開裂溝に一気に開裂が生じる可能性があるが、上述の構成の場合には、特定の方向からの外部衝撃によって開裂が生じるのを抑制することができる。したがって、開裂溝41は、落下等による衝撃が電池ケース2に加わっても開裂しにくい。
【0043】
また、本実施形態では、開裂溝41は、平面部13の他の部分よりも薄肉に形成されている。例えば、開裂溝41は、外装缶10をプレス成形する際に、該外装缶10とともにプレスによって形成される。これにより、プレス加工によって開裂溝41の周辺部分で加工硬化が生じることから、該開裂溝41の周辺部分の強度向上を図れる。したがって、密閉型電池1に落下等による衝撃が加わった場合でも、その衝撃によって開裂溝41が開裂するのを抑制することができる。
【0044】
開裂溝41は、図3に示すように、密閉型電池1の内部短絡などによる内部圧力の上昇に伴って電池ケース2が膨らんだ場合に外装缶10に形成される稜線L上に、設けられている。具体的には、本実施形態の場合、開裂溝41は、第1湾曲部42が稜線Lと交差するように、外装缶10の平面部13に設けられている。しかも、開裂溝41は、第1湾曲部42が、稜線Lの基端側に位置する電池ケース2の角部(端部)に向かって突状に湾曲するように、平面部13に設けられている。
【0045】
ここで、稜線Lは、電池ケース2が膨らんだ際に、該電池ケース2の外周部分(本実施形態のような形状の電池ケース2の場合には、4隅部分)に引っ張られて外装缶10の平面部13の一部が盛り上がることにより形成される。そのため、稜線Lは、図3に示すように、電池ケース2の側面視で、該電池ケース2の4隅から内方に向かって延びるように形成される。なお、図3では、稜線Lが電池ケース2の4隅から内方に向かって延びる直線状に形成されているが、上述のように電池ケース2が膨らんで外装缶10の平面部13に形成される盛り上がり部分が稜線になるので、稜線Lの形状は曲線であってもよく、また、稜線L同士が繋がっていてもよい。
【0046】
稜線Lは、外装缶10において、電池ケース2が膨らんだ際に外装缶10に作用する応力が大きくなる部分であるため、上述のように、稜線Lに交差するように開裂溝41を設けることにより、外装缶10の変形に伴って開裂溝41が容易に開裂する。具体的には、電池ケース2が膨らむと、外装缶10の平面部13は、稜線Lに沿って引っ張られるため、該平面部13において強度の弱い開裂溝41で開裂する。
【0047】
特に、上述のように、開裂溝41を、第1湾曲部42が稜線Lの基端側に位置する電池ケース2の角部に向かって突状に湾曲するように、平面部13に設けることで、該第1湾曲部42の突部を電池ケース2の角部により近い位置に位置付けることができる。稜線Lは、電池ケース2の変形に伴い、該電池ケース2の角部の周辺から生じるため、稜線L上に位置する第1湾曲部42を、電池ケース2の変形初期で開裂させることができる。
【0048】
このように、開裂溝41の稜線Lと交差する部分で開裂が生じると、開裂は該開裂溝41に沿って進行する。これにより、開裂溝41全体が開裂する。この開裂溝41の開裂によって、図4に示すように、半円状の舌部44,45が形成される。
【0049】
詳しくは、電池ケース2内の圧力が閾値よりも大きくなって該電池ケース2の変形によって開裂溝41が開裂すると、図4に示すように、該開裂溝41の第1湾曲部42及び第2湾曲部43によって、舌部45,44がそれぞれ形成される。すなわち、これらの舌部45,44は、開裂溝41の第1湾曲部42及び第2湾曲部43に対応した形状(本実施形態の場合には半円状)に形成される。
【0050】
このとき、図5に示すように、外装缶10の平面部13は、開裂溝41の開裂によって、舌部44,45が他の部分に対して浮いた状態となり、隙間46が形成される。すなわち、開裂溝41の開裂によって外装缶10の平面部13に切れ込みが入ると、該外装缶10の隅に引っ張られる稜線L上の部分では、該隅に近い部分が外方へ引っ張られて舌部44,45が側壁12の他の部分に対して持ち上げられる(図中の白抜き矢印)。これらの舌部44,45と平面部13の他の部分との間に形成される隙間46から、電池ケース2内に溜まったガス等が外部へ排出される。すなわち、開裂溝41を含む平面部13の一部がベント23として機能する。
【0051】
上述の構成により、舌部44,45が持ち上げられる分、開裂線が直線状の場合に比べて、開裂部分の開口面積を大きくすることができ、電池ケース2内のガス等を外部へ効率良く排出することができる。
【0052】
しかも、開裂溝41の開裂によって形成される舌部44,45は、電池ケース2の外方に向かって突出するため、該舌部44,45が電池ケース2内の電極体30と接触して短絡を生じるのを防止できる。
【0053】
また、上述の構成の場合には、開裂溝41と同じ長さの開裂溝を、半円状の開裂線を描くように設けた場合に比べて、開裂によって形成される舌部の大きさが小さくなるため、舌部が電池ケース2の側壁12を覆う外装フィルム(図示省略)に損傷を与えるのを防止できる。
【0054】
(ベントの形状の違いによる影響)
次に、略S字状の開裂線を描くように開裂溝41を形成した場合に得られる効果を、計算結果等を用いて説明する。なお、比較のために、他の形状の開裂線を描くように開裂溝を設けた場合についても計算を行った。
【0055】
図6〜図8に、計算で用いたモデルの一部を模式的に示す。図6は、略S字状の開裂線を描くように開裂溝41を形成した計算モデルを示す。図7は、直線状の開裂線を描くように開裂溝51を形成した計算モデルを示す。図8は、円弧状の開裂線を描くように開裂溝61を形成した計算モデルを示す。これらの図6〜図8に示すように、以下の計算において、開裂溝41,51,61は、電池ケース2の平面部13における底面11側及び半円筒部14側からそれぞれ同じ距離(図中ではX)に位置するように設けられている。
【0056】
なお、略S字状の開裂溝41及び円弧状の開裂溝61は、それぞれ、図における縦方向と横方向の寸法(図中ではY)がほぼ同じで、且つ、開裂溝41,61同士の縦横のサイズもほぼ同サイズになるように形成されている。また、直線状の開裂溝51は、直線の長さ(図中ではY)が、略S字状の開裂溝41及び円弧状の開裂溝61における縦方向及び横方向の寸法とほぼ同じになるように形成されている。
【0057】
以下の計算では、構造解析ソフトウェアであるLS−DYNA(登録商標)を用いた。また、計算において開裂溝が開裂したかどうか(ベントが作動したかどうか)の判定は、延性破断の判定に用いられる以下の式を用いた。
【0058】
【数1】

【0059】
ここで、a,bは材料試験結果から求められる材料パラメータであり、σmは平均応力を、σは相当応力を、εは相当歪みを、dεは相当歪みの増分を、それぞれ示す。
【0060】
上記式においてIの値が1を超えた場合に、開裂溝で破断が始まっているものとして、そのときの電池ケースの内圧を作動圧とした。また、今回の計算では、aを0.3とし、bを0.14とした。
【0061】
まず、今回用いる上述の計算方法の妥当性を確認するために、図7に示すように直線状に開裂溝51を形成した場合において、上述の計算方法によって求めた結果(計算結果)と実際に開裂溝を開裂させた場合の結果(実測結果)とを比較した。その比較結果を図9に示す。なお、図9には、開裂溝の残りの厚み(残厚)を変化させた場合の開裂溝の作動圧の実測結果(図中の三角、正方形及び菱形のマーク)及び計算結果(図中の実線)を示す。電池ケースのサイズは、幅51mm、高さ47mm及び厚み5.1mmとし、ケースの肉厚を0.3mmとした。また、実際に開裂溝を開裂させる場合には、電池ケース内に開裂溝が開裂するまで空気を注入し、開裂した際の電池ケースの内圧を作動圧とした。
【0062】
図9に示すように、実測結果と計算結果とで作動圧がほぼ一致しているとともに、実測結果において開裂溝の残厚が0.2mmよりも大きくなると開裂溝の作動圧が急激に上昇する傾向も、計算によって模擬することができている。よって、今回の計算方法により、実際の状態を模擬可能であるため、図6〜図8に示す開裂溝41,51,61の作動圧を計算によって評価する。
【0063】
図10に、開裂線が、それぞれ、S字状の場合(図6)、直線状の場合(図7)及び円弧状の場合(図8)の作動圧の計算結果を示す。なお、図10に示す結果は、図6〜図8において、Xが5mmで且つYが10mmの場合の計算結果である。また、図10では、円弧状の開裂線を、図8に示すように電池ケース2の平面部13の外方に向かって突状に湾曲させた場合(図10において外向き)と、電池ケース2の平面部13の内方に向かって突状に湾曲させた場合(図10において内向き)とで、それぞれ計算した結果を示す。なお、電池ケースのサイズは、幅51mm、高さ47mm及び厚み5.1mmとし、ケースの肉厚を0.3mmとした。
【0064】
図10に示すように、直線状及び円弧状のいずれの形状の開裂線よりも、本実施形態のS字状の開裂線の方が、作動圧が低い。したがって、本実施形態におけるS字状の開裂線は、直線及び円弧状の開裂線よりも電池ケースの内圧に応じて開裂しやすい。
【0065】
なお、この実施形態では、開裂溝41を、電池ケース2の平面部13における蓋板20側に形成しているが、この限りではなく、図11に示すように、電池ケース2の平面部13における底面11側に設けてもよい。また、この実施形態では、開裂溝41を、平面部13の法線方向から見て、左側に形成しているが、この限りではなく、右側に形成してもよい。
【0066】
(ベントの配置による影響)
次に、略S字状の開裂線を描く開裂溝41の配置による作動圧の違いを、計算結果に基づいて説明する。なお、以下では、開裂溝41を、第1湾曲部42と第2湾曲部43との接続点T(図12に黒丸で示す)を中心として、時計方向(図12の矢印方向)に回転させた場合について、前記開裂溝41の作動圧を計算した。以下の計算では、構造解析ソフトウェアであるLS−DYNA(登録商標)を用いた。また、開裂溝41が開裂したときの作動圧は、既述の延性破断の判定式を用いた。今回の計算でも、延性破断の判定式において、aを0.3とし、bを0.14とした。
【0067】
以下の説明において、開裂溝41の回転角度は、開裂溝41の両端を結ぶ仮想直線P(図12の一点鎖線)が稜線Lに対して直交する位置を基準位置とした場合に、該基準位置の直線(基準線Q)に対する前記仮想直線Pの角度Rを意味する。すなわち、前記基準位置における開裂溝41の仮想直線(基準線Q)に対し、回転後の開裂溝41の仮想直線Pのなす角度が、前記回転角度である。
【0068】
計算結果を図13に示す。図13において、三角の点は、厚みが4.6mm、幅が44mm及び高さが61mmの電池ケースを用いて開裂溝の作動圧を計算した結果である。また、図13において、正方形の点は、厚みが4.6mm、幅が44mm及び高さが51mmの電池ケースを用いて開裂溝の作動圧を計算した結果である。さらに、図13において、ひし形の点は、厚みが4.6mm、幅が34mm及び高さが61mmの電池ケースを用いて開裂溝の作動圧を計算した結果である。
【0069】
なお、いずれのサイズの電池ケースの場合でも、開裂溝の形状、前記基準位置における開裂溝の配置(電池ケース2の底面11及び半円筒部14からのそれぞれの距離)は同じである。開裂溝は、溝深さが0.13mm(電池ケースの板厚は0.25mm)、溝底の幅は0.05mmである。また、開裂溝は、前記基準位置で、平面部13を側方から見て、底面11から6mmの位置及び半円筒部14の最外周から5mmの位置に位置付けられる。さらに、開裂溝は、第1湾曲部の曲率半径が5mmであり、第2湾曲部の曲率半径が6mmである。
【0070】
図13に示すように、開裂溝の回転角度が略90度のときに、開裂溝の作動圧が最も大きくなっている。これは、開裂溝が稜線に略平行になって開裂溝と稜線とが交差しなくなるため、開裂溝を開裂させるような力が該開裂溝に伝わりにくくなるのが原因と考えられる。図13に示すように、開裂溝の作動圧は、開裂溝の回転角度が70度以上で且つ120度以下の範囲(図中の矢印の範囲)で急激に増大している。これに対し、開裂溝の回転角度が70度よりも小さく且つ120度よりも大きい範囲では、開裂溝の作動圧は回転角度が70度以上で且つ120度以下の範囲に比べて低いとともに、回転角度に応じてあまり変化しない。図13に示すように、特に、開裂溝の回転角度が略30度では、最も作動圧が小さくなる。
【0071】
このように、開裂溝の回転角度が70度以上で且つ120度以下の範囲で急激に増大する一方、前記回転角度が略30度で作動圧が最も低くなる傾向は、電池ケースのサイズに関係なく同様である。
【0072】
したがって、開裂溝の回転角度は、70度以上で且つ120度以下の範囲を除いた範囲、すなわち、70度よりも小さいか120度よりも大きい範囲が好ましい。開裂溝の回転角度をこのような範囲とすることで、開裂溝を容易に且つ安定して開裂させることができる。特に、開裂溝の回転角度は、略30度が好ましい。これにより、開裂溝をより容易に且つ安定して開裂させることができる。開裂溝の回転角度が略30度の場合を、図14に示す。
【0073】
(実施形態1の効果)
本実施形態では、密閉型電池1における電池ケース2の平面部13に、側面視で一方向に向かって突状に湾曲する第1湾曲部42と該一方向とは反対方向に突状に湾曲する第2湾曲部43とを有する開裂溝41を設ける。この開裂溝41は、第1湾曲部42が平面部13の稜線L上に位置付けられるように、平面部13に設けられる。これにより、平面部13には、開裂溝41によって略S字状の開裂線が形成される。このように略S字状の開裂線を電池ケース2の平面部13に設けることにより、開裂溝41は、直線状及び円弧状の開裂線を設ける場合に比べて、電池ケース2の内圧に応じて開裂しやすい。よって、上述の構成により、ベントとしての機能向上を図れる。
【0074】
また、上述のように電池ケース2の平面部13に略S字状の開裂線を形成することで、密閉型電池1の落下等によって電池ケース2に衝撃が加わった場合に、開裂溝41で開裂が生じにくくすることができる。
【0075】
そして、上述のような略S字状の開裂溝41は、両端を結ぶ仮想直線Pと稜線Lに直交する基準位置の仮想直線(基準線Q)とのなす角度(回転角度)が、70度以上で且つ120度以下の範囲外の角度になるように、電池ケース2の平面部13に設けられる。これにより、開裂溝41の作動圧を、急激に作動圧が増大する回転角度の範囲の作動圧に比べて小さくできるとともに、回転角度の変化によってあまり大きく変動しない範囲の作動圧にすることができる。よって、開裂溝41を容易に且つ安定して開裂させることができる。
【0076】
特に、開裂溝41を、前記回転角度が略30度になるように、電池ケース2の平面部13に設けることで、開裂溝41の作動圧をより低くすることができる。これにより、開裂溝41をより容易に且つ安定して開裂させることができる。
【0077】
また、開裂溝41を、第1湾曲部42が稜線Lの基端側に位置する電池ケース2の角部に向かって突状に湾曲するように、平面部13に設けることで、電池ケース2の変形初期で開裂溝41を開裂させることができる。これにより、開裂溝41をより確実に開裂させることができる。
【0078】
また、上述の構成により、開裂溝41が開裂した場合には、該開裂溝41が直線状に形成されている場合などに比べて大きな隙間46を形成することができ、密閉型電池1の電池ケース2内からガス等を外部に効率良く排出することができる。
【0079】
さらに、上述の構成により、開裂溝41が開裂した際に形成される舌部44,45は、電池ケース2の外方に突出するため、該舌部44,45が電池ケース2内の電極体30に接触して短絡を生じるのを防止できる。しかも、上述のように略S字状の開裂線を形成するように開裂溝41を設けることで、円弧状の開裂線を形成するように開裂溝を設けた場合に比べて、開裂溝の開裂によって生じる舌部の大きさを小さくすることができる。これにより、上述の構成は、円弧状の開裂線を形成する場合に比べて、電池ケースを覆う外装フィルムに損傷を与えにくくなる。
【0080】
本実施形態における密閉型電池1の電池ケース2は、長方形の短辺側が円弧状の底面を有する柱状であり、六面体の電池ケースに比べて電池ケースが膨らんだ際の角部での引張力が小さくなる構成である。しかしながら、上述のような構成の開裂溝41を形成することで、該開裂溝41を容易に開裂させることができる。
【0081】
(実施形態1の変形例1)
図15に、実施形態1の変形例1に係る密閉型電池71の概略構成を示す。この変形例1では、電池ケース2の一対の平面部13にそれぞれ開裂溝41を設けた点で、実施形態1の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0082】
図15に示すように、電池ケース2の一対の平面部13のうち一方の平面部13(図の手前側の平面部13)には、該平面部13における底面側(軸線方向の一側)で、且つ、該平面部13を法線方向から見て左側(幅方向の一側)に、開裂溝41が形成されている(図中の実線)。また、他方の平面部13(図の奥側の平面部13)にも、該平面部13における蓋板20側(軸線方向の他側)で、且つ、前記一方の平面部13を法線方向から見て右側(幅方向の他側)に、開裂溝41が形成されている(図中の破線)。すなわち、電池ケース2には、他方の平面部13において、一方の平面部13に形成された開裂溝41の位置に対して該平面部13の法線方向から見て左右逆側で且つ上下逆側の位置に、開裂溝41が形成されている。
【0083】
各開裂溝41は、第1湾曲部42が稜線L上に位置するとともに、該第1湾曲部42が該稜線Lの基端側に位置する電池ケース2の角部分に向かって突状になるように、平面部13に設けられている。
【0084】
よって、図15に示すように、本変形例の場合、一対の平面部13にそれぞれ形成される開裂溝41は、電池ケース2を一方の平面部13の法線方向から見て、電池ケース2の蓋板20側及び底面11側にそれぞれ位置付けられるとともに、該電池ケース2の左右に位置する稜線Lにそれぞれ交差している。これにより、電池ケース2における蓋板20側と底面11側との強度の違い及び該電池ケース2における幅方向の強度の違い等に起因して、一対の平面部13の変形にバラツキが生じた場合でも、2つの開裂溝41のうち一方が開裂することにより、ベントの機能を確保することができる。
【0085】
図15では、一方の平面部13における底面11側且つ左側に開裂溝41を形成して、他方の平面部13における蓋板20側且つ右側に開裂溝41を形成している。しかしながら、一方の平面部13における底面11側且つ右側に開裂溝41を形成して、他方の平面部13における蓋板20側且つ左側に開裂溝41を形成してもよい。
【0086】
<実施形態2>
図16に、実施形態2に係る密閉型電池81の概略構成を示す。この実施形態では、密閉型電池81の電池ケース2に設けられる開裂溝82が3つの湾曲部83〜85を有する点で実施形態1とは異なる。なお、以下の説明において、実施形態1と同一の構成及び機能を有する部分には実施形態1と同一の符号を付して説明を省略する。
【0087】
具体的には、開裂溝82は、外装缶10の側面視で側面外方(一方向)に向かって突状に湾曲する第1湾曲部83及び第3湾曲部85と、側面外方とは反対方向である側面内方に向かって突状に湾曲する第2湾曲部84とを備える。開裂溝82は、第2湾曲部84の両端部にそれぞれ第1湾曲部83及び第3湾曲部85が繋がった、全体として概略M字状の形状を有する。この実施形態でも、実施形態1と同様、第1〜第3湾曲部83〜85は、ほぼ同じ直径を有する半円状に形成されている。
【0088】
開裂溝82は、第1湾曲部83が稜線L上に位置するように設けられている。したがって、電池ケース2内の圧力が閾値よりも大きくなった場合に、稜線L上に位置する第1湾曲部83で開裂が生じた後、第2及び第3湾曲部84,85に開裂が進行する。
【0089】
図17に示すように、開裂溝82が開裂すると、第1〜第3湾曲部83〜85によってそれぞれ舌部86〜88が形成される。これらの舌部86〜88は、電池ケース2の外方に向かって突出している。これにより、開裂部分には、隙間89が形成される。この隙間89は、開裂溝82の開裂によって形成される舌部86〜88が電池ケース2の外方に向かって突出するため、開裂溝を直線状に形成した場合等に比べて開口面積が大きくなる。また、上述のように舌部86〜88が電池ケース2の外方に向かって突出することで、開裂部分が密閉型電池1の内部と接触しないため、短絡等が生じるのを防止できる。
【0090】
また、上述の実施形態1と同様、開裂溝82は、外装缶10をプレス成形する際に、該外装缶10とともにプレスによって形成される。これにより、プレス加工に伴う加工硬化によって開裂溝82の周辺部分の強度向上を図れる。したがって、密閉型電池1に落下等による衝撃が加わった場合でも、その衝撃によって開裂溝82が開裂するのを抑制することができる。
【0091】
(実施形態2の効果)
この実施形態では、外装缶10の側壁12の平面部13に、第1〜第3湾曲部83〜85を有する概略M字状の開裂溝82を設ける。これにより、開裂溝82が開裂した際の開裂部分の開口面積をより大きくすることができ、電池ケース2内のガス等を外部に効率良く排出することができる。
【0092】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0093】
前記実施形態1では、開裂溝41を、第1湾曲部42が稜線L上に位置するように設けている。しかしながら、開裂溝41を、第2湾曲部43が稜線L上に位置するように設けてもよい。
【0094】
前記実施形態2では、開裂溝82を、第1湾曲部83が稜線L上に位置するように設けている。しかしながら、開裂溝82を、第2湾曲部84または第3湾曲部85が稜線L上に位置するように設けてもよい。
【0095】
また、上述の実施形態1,2の構成に限らず、開裂溝41,82の一部が稜線L上に位置すれば、該開裂溝41,82を外装缶10の平面部13のどの位置に設けてもよいし、該開裂溝41,82によって構成される開裂線の向きも上述の実施形態1,2の向きに限定されない。
【0096】
前記実施形態1では、開裂溝41が2つの湾曲部42,43を有していて、前記実施形態2では、開裂溝82が3つの湾曲部83〜85を有している。しかしながら、開裂溝は4つ以上の湾曲部を有していてもよい。その場合でも、反対方向に突状に湾曲する湾曲部が交互に接続された開裂線を形成するように開裂溝を設ける。
【0097】
前記各実施形態では、電池ケースの寸法を、幅20〜60mm、高さ30〜100mm、厚み3〜10mm及び肉厚0.15〜0.5mmとしてもよい。
【0098】
前記各実施形態では、開裂溝41,82を構成する第1湾曲部42,83と第2湾曲部43,84と第3湾曲部85とがほぼ同じ直径を有する円弧状に形成されている。しかしながら、各湾曲部を異なる大きさにしてもよいし、各湾曲部を、円弧状ではなく、楕円の一部のような形状など、他の曲線としてもよい。
【0099】
前記各実施形態では、開裂溝41,82をプレス加工によって形成している。しかしながら、開裂溝41,82をレーザー加工や切削加工等によって形成してもよい。
【0100】
前記各実施形態では、開裂溝41,82を連続した溝によって構成している。しかしながら、図18に示すように、開裂溝を複数に分断して、独立した複数の溝部91によって構成してもよい。この場合には、図3に示す開裂溝41の形状になるように、複数の溝部91を並べて設ければよい。このような構成では、溝部91が開裂した後、溝部91同士の間の部分が開裂し、開裂溝全体が開裂する。すなわち、開裂溝が連続していないので、密閉型電池1が落下等による衝撃を受けた場合でも、開裂溝全体が開裂するのを防止できる。したがって、この構成により、落下等による衝撃に対して開裂溝を開裂しにくくすることができる。なお、図18には、開裂溝41を複数の溝部91によって構成した場合を示しているが、他の形状の開裂溝を、複数の溝部によって構成してもよい。
【0101】
前記各実施形態では、開裂溝41は、外装缶10の側面視で、側面外方に向かって突状に湾曲する第1湾曲部42と、該側面外方とは反対方向である側面内方に向かって突状に湾曲する第2湾曲部43とを有する。しかしながら、図19に示すように、電池ケース2の平面部13に設ける開裂溝101を、第1湾曲部102の突方向(二点鎖線の矢印)と第2湾曲部103の突方向(二点鎖線の矢印)とが略90度の角度を有する形状としてもよい。また、図20に示すように、電池ケース2の平面部13に設ける開裂溝111を、第1湾曲部112の突方向(二点鎖線の矢印)と第2湾曲部113の突方向(二点鎖線の矢印)とが90度よりも大きい角度を有する形状(例えば135度)としてもよい。すなわち、開裂溝は、第1湾曲部の突方向と第2湾曲部の突方向とが90度以上の角度を有していれば、どのような形状であってもよい。なお、第1湾曲部の突方向と第2湾曲部の突方向とが反対方向、すなわち、第1湾曲部の突方向に対して第2湾曲部の突方向が90度よりも大きい角度をなすのがより好ましい。
【0102】
前記各実施形態では、密閉型電池1の電池ケース2を、長方形の短辺側が円弧状に形成された底面を有する柱状としている。しかしながら、電池ケースの形状は、六面体など他の形状であってもよい。
【0103】
前記各実施形態では、密閉型電池1をリチウムイオン電池として構成している。しかしながら、密閉型電池1はリチウムイオン電池以外の電池であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、開裂溝が電池ケースの側面に形成される密閉型電池に利用可能である。
【符号の説明】
【0105】
1,71,81:密閉型電池、2:電池ケース、11:底面、13:平面部(側面)、30:電極体、41,51,61,82,101,111:開裂溝、42,83,102:第1湾曲部、43,84,103:第2湾曲部、L:稜線、P:仮想直線、Q:基準線、R:回転角度(角度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に電極体及び電解液が封入される柱状の電池ケースを備え、
前記電池ケースの側面には、前記電池ケースが内圧の上昇によって膨らんだ際に該電池ケースの側面に形成される稜線に対して交差する開裂線を構成する開裂溝が形成されていて、
前記開裂線は、前記電池ケースの側面を法線方向から見て、一方向に突状に湾曲する第1湾曲部と、該第1湾曲部の突方向に対して90度以上の角度をなす方向に突状に湾曲する第2湾曲部とを含む曲線のみからなり、
前記第1湾曲部の一端側は、前記第2湾曲部の一端側と接続されていて、
前記第1湾曲部及び前記第2湾曲部の少なくとも一方は、前記稜線に対して交差していて、
前記開裂溝は、前記電池ケースの側面の法線方向から見て、前記稜線に直交する基準線に対して前記開裂線の両端を結ぶ仮想直線が時計方向になす角度が、70度以上で且つ120度以下の範囲外になるように、前記電池ケースの側面に形成されている、密閉型電池。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉型電池において、
前記開裂線は、前記第1湾曲部と前記第2湾曲部とを一つずつ組み合わせてなる、密閉型電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の密閉型電池において、
前記第1湾曲部は、前記開裂線と交差する前記稜線の基端側に位置する前記電池ケースの端部に向かって、突状に湾曲していて、
前記開裂溝は、前記第1湾曲部が前記稜線上に位置するように、前記電池ケースの側面に形成されている、密閉型電池。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の密閉型電池において、
前記開裂溝は、前記電池ケースにおける対向する一対の側面にそれぞれ形成されている、密閉型電池。
【請求項5】
請求項4に記載の密閉型電池において、
前記一対の側面のうち一方の側面に形成される開裂線は、該一方の側面の法線方向から見て、該一方の側面において前記電池ケースの幅方向の一側に形成される稜線と交差するとともに、該電池ケースにおける軸線方向の一側の端部に位置し、
前記一対の側面のうち他方の側面に形成される開裂線は、前記一方の側面の法線方向から見て、前記他方の側面において前記電池ケースの幅方向の他側に形成される稜線と交差するとともに、該電池ケースにおける軸線方向の他側の端部に位置する、密閉型電池。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の密閉型電池において、
前記電池ケースは、長方形の短辺が円弧状に形成された底面を有し且つ内部に前記電極体及び前記電解液を収納可能な空間を有する柱状体である、密閉型電池。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の密閉型電池において、
前記開裂溝は、前記角度が略30度になるように、前記電池ケースの側面に形成されている、密閉型電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−98173(P2013−98173A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−216428(P2012−216428)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】