説明

密閉空間内における揮発成分の蒸気濃度のコントロール方法

【解決手段】既知量の揮発成分を含有した不揮発性液体又は固体を密閉空間内に設置することを特徴とする前記密閉空間内における揮発成分の蒸気濃度のコントロール方法。
【効果】本発明の低分子シロキサン等の揮発成分濃度のコントロール方法は、特殊な装置を用いることなく、容易に一定濃度の低分子シロキサン等の揮発成分濃度を作り出すことができる。また、不揮発性液体又は固体中の低分子シロキサン等の揮発成分濃度を測定することにより、再度、低分子シロキサン等の揮発成分を添加して濃度調整を行い再利用も可能であることから、余分な廃棄物も出さない優れた方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品の低分子シロキサン蒸気による電気接点障害が発生する濃度を正確に把握する場合や、一定濃度の低分子シロキサン存在下でも電気接点障害が発生しない電気・電子部品を開発する場合などに適用される、密閉した空間内の低分子シロキサン等の揮発成分の蒸気濃度を一定にコントロールする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、低分子シロキサン蒸気が電気接点障害を引き起こすことは知られており、このため低分子シロキサンによる電気接点障害が発生する濃度を正確に把握することは、電気・電子部品の製品設計に極めて重要であり、材料選定の上でのキーポイントとなる。
密閉容器内の低分子シロキサン濃度のコントロール法としては、一定量の低分子シロキサンを容器内に添加し揮発させ、所定濃度の空間を得る方法が挙げられる。
【0003】
しかし、この方法は容器及び容器内の実験機器の表面に低分子シロキサンが吸着し、実際の低分子シロキサン気相濃度は設定値よりも低くなり、また、濃度を一定に保つことが難しい。更に、容器の密閉が十分でないと低分子シロキサンが容器から漏れて濃度変化を起こすことがある。
【0004】
容器内の低分子シロキサン濃度を長期間安定にコントロールする方法としては、小型容器に低分子シロキサンを導入し、該小型容器を所定の一定温度で加熱することにより飽和蒸気圧のシロキサン濃度を持つ気体を発生させ、これに低分子シロキサンを何も含んでいない気体を所定比率で混合し、低分子シロキサン濃度を所定比率含有する気体を得、それを容器内へ定常的に通気することにより、低分子シロキサン濃度を一定に保つ方法が知られているが、気体の吹き込み装置を備えた低分子シロキサンの発生装置及び定量的に気体を供給混合する装置等が必要であり、より簡便な装置が望まれていた。
【0005】
以上のように、従来の技術では低分子シロキサンを一定濃度にコントロールすることが困難であったり、装置が高価で維持管理が大変な方法しか知られていなかった。
【0006】
なお、本発明に関連する先行文献としては、下記のものが挙げられる。
【非特許文献1】信学技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE EMD95-41(1995-10)
【特許文献1】特開2002−273202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した状況を改善するためになされたもので、低分子シロキサンの電気接点障害発生時の低分子シロキサン濃度を正確かつ簡便に把握する場合などにおいて、低分子シロキサン等の揮発成分の密閉空間内における蒸気濃度を安定にコントロールする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、低分子シロキサン等の揮発成分の蒸気を不揮発性液体あるいは固体から発生させることで、密閉容器内で気液平衡又は気固平衡を成立させ、低分子シロキサン等の揮発成分の蒸気濃度を一定に保つ方法を見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
ここで、例えば低分子シロキサンの発生源が不揮発性液体の場合、気液平衡の原理から、平衡に達した液相中の濃度(CL)、気相中の濃度(CG)、液相の体積(VL)、気相の体積(VG)とし、その液相中の初期濃度(CL0)との関係は次式で表すことができる。
L0・VL=CL・VL+CG・VG
揮発性成分が気相に分配する傾向を分配係数(K)といい、K=CL/CGとすると
L0=CG(K+VG/VL
となる。上記の式から、密閉容器内の気相の低分子シロキサン濃度は不揮発性液体中の低分子シロキサン濃度に比例する。
仮に、容器及び実験機器の表面に低分子シロキサンが吸着した場合、あるいは容器の密閉性が悪く低分子シロキサンが漏れた場合でも、気液平衡、気固平衡により分配係数に従い、不揮発性液体から低分子シロキサンが供給され、気相の低分子シロキサン濃度を一定に保つことができる。
また、低分子シロキサンの発生源が固体の場合も同様である。
【0010】
従って、本発明は、下記の密閉空間内における揮発成分の蒸気濃度を安定にコントロールする方法を提供する。
(1) 既知量の揮発成分を含有した不揮発性液体又は固体を密閉空間内に設置することを特徴とする前記密閉空間内における揮発成分の蒸気濃度のコントロール方法。
(2) 揮発成分が低分子シロキサンである(1)に記載のコントロール方法。
(3) 不揮発性液体が予め低分子シロキサンを除去したジメチルポリシロキサン化合物である(1)又は(2)に記載のコントロール方法。
(4) 不揮発性液体がポリオキシアルキレン化合物である(1)又は(2)に記載のコントロール方法。
(5) 不揮発性固体がシリコーンゲル又はシリコーンゴムである(1)又は(2)に記載のコントロール方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の低分子シロキサン等の揮発成分濃度のコントロール方法は、特殊な装置を用いることなく、容易に一定濃度の低分子シロキサン等の揮発成分濃度を作り出すことができる。また、不揮発性液体又は固体中の低分子シロキサン等の揮発成分濃度を測定することにより、再度、低分子シロキサン等の揮発成分を添加して濃度調整を行い再利用も可能であることから、余分な廃棄物も出さない優れた方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の密閉した空間内における揮発成分の蒸気濃度を安定にコントロールする方法は、不揮発性液体又は固体に既知量の揮発成分を含有させ、この揮発成分を含有した不揮発性液体又は固体を蒸気密閉空間内に配置するものである。
【0013】
ここで、本発明の不揮発性液体とは、コントロールを所望する揮発成分を含まなければ蒸気圧は多少あっても良いが、試験の外乱要因となる可能性は否定できないので、蒸気圧は低ければ低いほど良く、低分子シロキサン等の揮発成分を溶解することが可能で、それ自体は揮発しない液体を意味し、例えば、予め低分子シロキサン等の揮発成分を除去したジメチルポリシロキサン化合物等のシリコーンオイル、ポリオキシアルキレン化合物等を使用することができる。
【0014】
この場合、シリコーンオイルとしては、粘度は特に制限は無いが、あまり低すぎると、低分子成分の除去に当たって収率が低くなる不利があり、あまり高すぎると低分子成分の除去が困難になるので、回転粘度計による測定で25℃における粘度が50〜100000mPa・s、特に100〜10000mPa・sのものが好適に用いられ、トリメチルシリル基あるいはジメチルヒドロシリル基で末端封鎖されたジメチルポリシロキサン、トリメチルシリル基あるいはジメチルヒドロシリル基で末端封鎖されたジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体などが使用し得るが、これに限定されるものではない。具体的には、KF−96、KF−54(信越化学工業(株)製商品名)として市販されているものを使用することができる。
【0015】
また、ポリオキシアルキレン化合物としては、炭素数1〜8のアルコール、エチレングリコール、グリセリンなどを出発物質とし、末端が水酸基あるいは炭素数1〜4のアルコキシ基で封鎖された、分子量が300〜50000、特に1000〜10000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、これに限定されるものではない。具体的には、ユニルーブ(日本油脂(株)製商品名)、アクトコール(三井化学ポリウレタン(株)製商品名)として市販されているものを使用することができる。
【0016】
一方、不揮発性固体は、既知量の低分子シロキサン等の揮発成分を含有することが可能で、それ自体は昇華しない固体を意味し、例えば、シリコーンゲル、シリコーンゴム等を使用することができる。例えば、JIS K 2220 1/4コーンによる針入度測定法で針入度10〜200のジメチルポリシロキサンゲル、RTVゴム等が挙げられるが、これに限定されるものではない。具体的には、低分子カットゲルX−32−1268A/B(信越化学工業(株)製商品名)として市販されているものを使用することができる。
【0017】
上記不揮発性液体又は固体に含有され、密閉空間内の蒸気濃度をコントロールするための揮発成分としては、低分子シロキサンやシランが挙げられる。
【0018】
本発明の低分子シロキサン、シランとは、実験を行う温度で蒸気圧を持つ成分であり、通常、25℃の蒸気圧が0.001〜10000Pa、特に1〜1000Paのものである。例えば、低分子シロキサンとしては、下記式で示される低分子環状シロキサン(Dn)であり、具体的にはオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【化1】

(但し、nは3〜10の整数、Meはメチル基を示す。)
【0019】
下記式で示される低分子直鎖シロキサン(M2Dm)等であり、具体的にはヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等が挙げられる。
【化2】

(但し、mは0〜8の整数、Meはメチル基を示す。)
【0020】
シランとしては、テトラメチルシラン、トリメチルビニルシラン、トリメチルフェニルシラン、トリメチルシラノール等を使用することができる。この場合、低分子環状シロキサンとしては、重合度nが3〜10、特に3〜6のものが挙げられる。また、低分子直鎖シロキサンとしては、重合度mが通常0〜8、特に0〜4のものが挙げられる。
【0021】
上記不揮発性液体又は固体には、上記揮発成分が含有されるが、その含有量は適宜選定され、特に制限されないものの、通常1〜10000ppm、特に10〜1000ppmとすることが好ましい。
【0022】
上記揮発成分が含有される不揮発性液体又は固体が配置される密閉空間内の雰囲気は、電気接点障害の実験上、通常大気雰囲気であるが、これに限られるものではない。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例で、粘度は回転粘度計による測定で25℃の値である。
【0024】
[実施例1]
予め重合度1〜20のシラン及びシロキサンを除去したシリコーンオイル(粘度300mPa・sの末端トリメチルシリル封鎖されたジメチルポリシロキサン、KF−96SS:信越化学工業(株)製)0.294gに、5000μg/gの濃度でオクタメチルシクロテトラシロキサン(以下D4という)を添加し、これを127mLの密閉容器内に放置し、25℃で蒸発するD4の気相濃度(単位ppm:気相体積当りのD4の体積)を、容器内の気体を採取しガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
その結果、図1に示すとおり、約30時間以降は気相のD4濃度は一定になり、気液平衡に達していることが確認できた。そこで、約50時間ごとに密閉容器内の空気を入れ替えて、平衡状態でのD4気相濃度に変化があるか確認したところ、表1に示したように、2回この操作を行っても気相のD4濃度変化は5%未満であった。これは、この系の場合、実際に気相に存在しているD4質量は、シリコーンオイル中のD4の総量の約2.2質量%であることから、気相中のD4をロスしても添加したシリコーンオイルからD4が供給されて再度平衡状態に戻り、気相濃度はほぼ一定に保たれるためである。
【0025】
【表1】

【0026】
[実施例2]
実施例1において、密閉容器内に入れたシリコーンオイル中へのD4濃度(シリコーンオイル1g当りのD4の質量)と気相中のD4濃度(単位ppm:気相体積当りのD4の体積)の関係を調べたところ、図2のように比例関係になった。このことから、シリコーンオイルに既知量のD4を添加し、密閉容器内に放置することにより気相の濃度コントロールが可能であることが明らかとなった。
【0027】
[実施例3]
ポリオキシアルキレン(粘度が500mPa・sのポリオキシプロピレングリセロールエーテル、アクトコールMN−3050K(登録商標):三井化学ポリウレタン(株)製)0.294gに50〜5000μg/gの濃度のD4を添加し、127mLの密閉容器内に放置し、25℃で蒸発するD4量の測定を行った。その結果、不揮発性液体がポリオキシアルキレンの場合も、予め低分子シロキサンを除去したシリコーンオイルの場合と同様に、約30時間で気液平衡に達した。
実施例2と同様に、密閉容器内に入れたポリオキシアルキレン中のD4濃度(ポリオキシアルキレン1g当りのD4の質量)を50〜5000μg/gと変えて、気相中のD4濃度(単位ppm:気相体積当りのD4の体積)の関係を調べたところ、図3のようにポリオキシアルキレンと気相中のD4濃度は比例関係になった。このことから、ポリオキシアルキレンも既知量のD4を添加し、密閉容器内に放置することにより気相の濃度コントロールが可能であることが明らかとなった。なお、気相中のD4蒸気の発生量はポリオキシアルキレンに添加したD4質量の約5.3質量%であった。
【0028】
[実施例4]
実施例3と同様に、ポリオキシアルキレンに50〜10000μg/gのデカメチルシクロペンタシロキサン(以下D5という)を添加し、127mLの密閉容器内に0.294gを放置し、25℃で蒸発するD5量の測定を行った。その結果、約30時間以降は気相のD5濃度は一定になった。
そこで、ポリオキシアルキレン中のD5濃度(ポリオキシアルキレン1g当りのD5の質量)を50〜10000μg/gと変えて、気相中のD5濃度の関係を調べたところ、図4のように比例関係になった。このことから、ポリオキシアルキレンに既知量のD5を添加し、密閉容器内に放置することにより気相の濃度コントロールが可能であることが明らかとなった。なお、D5蒸気の発生量はポリオキシアルキレンに添加したD5質量の約1.6質量%であった。
【0029】
[実施例5]
予め重合度1〜20のシラン及びシロキサンを除去したシリコーンゲル(JIS K 2220 1/4コーンによる針入度測定法で針入度90のジメチルポリシロキサンゲル、X−32−1268A/B:信越化学工業(株)製)に50〜5000μg/gのD4を添加し、23mLの密閉容器内に1.0g放置し、50℃で蒸発するD4量の測定を行った。その結果、約30分以降は気相のD4濃度は一定になった。
そこで、シリコーンゲル中のD4濃度(シリコーンゲル1g当りのD4の質量)を50〜5000μg/gと変えて、D4添加量と気相中のD4濃度の関係を調べたところ、図5のように比例関係になった。このことから、シリコーンゲルに既知量のD4を添加し、密閉容器内に放置することにより気相の濃度コントロールが可能であることが明らかとなった。なお、D4蒸気の発生量はシリコーンゲルに添加したD4質量の約1.7質量%であった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1における密閉後経過時間と気相中のD4濃度の関係を示す図である。
【図2】実施例2におけるシリコーンオイル中のD4濃度と気相中D4濃度の関係を示す図である。
【図3】実施例3におけるポリオキシアルキレン中のD4濃度と気相中D4濃度の関係を示す図である。
【図4】実施例4におけるポリオキシアルキレン中のD5濃度と気相中D5濃度の関係を示す図である。
【図5】実施例5にシリコーンゲル中のD4濃度と気相中D4濃度の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知量の揮発成分を含有した不揮発性液体又は固体を密閉空間内に設置することを特徴とする前記密閉空間内における揮発成分の蒸気濃度のコントロール方法。
【請求項2】
揮発成分が低分子シロキサンである請求項1記載のコントロール方法。
【請求項3】
不揮発性液体が予め低分子シロキサンを除去したジメチルポリシロキサン化合物である請求項1又は2記載のコントロール方法。
【請求項4】
不揮発性液体がポリオキシアルキレン化合物である請求項1又は2記載のコントロール方法。
【請求項5】
不揮発性固体がシリコーンゲル又はシリコーンゴムである請求項1又は2記載のコントロール方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−70674(P2010−70674A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240673(P2008−240673)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】