寒冷時打込み用コンクリート素材、当該素材を用いたコンクリート構造物
【課題】
特に寒冷時に建設するスラブや壁面等の構造物を構成する面部材において、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れを抑制または防止することができる寒冷時打込み用コンクリート素材、当該素材を用いたコンクリート構造物を提供する。
【解決手段】
寒冷時に打ち込むのに用いるコンクリート素材であって、中庸熱ポルトランドセメントと、低添加型膨張材と、骨材とを含み、当該コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメント及び低添加型膨張材の総質量に対して混合される水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係である。
特に寒冷時に建設するスラブや壁面等の構造物を構成する面部材において、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れを抑制または防止することができる寒冷時打込み用コンクリート素材、当該素材を用いたコンクリート構造物を提供する。
【解決手段】
寒冷時に打ち込むのに用いるコンクリート素材であって、中庸熱ポルトランドセメントと、低添加型膨張材と、骨材とを含み、当該コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメント及び低添加型膨張材の総質量に対して混合される水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒冷地や寒冷時に建設する鉄筋コンクリート構造物に適用する寒冷時打込み用コンクリート素材、当該コンクリート素材を用いたコンクリート構造物に関し、特に、寒冷地や寒冷時に建設する鉄筋コンクリート構造物等の壁やスラブ等の面部材に好適に用いられ、これらの構造物や面部材の初期欠陥となる乾燥収縮及び温度収縮に起因するひび割れを抑制または防止することが可能なコンクリート素材、当該コンクリート素材を用いたコンクリート構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄筋コンクリート構造物や鉄骨鉄筋コンクリート構造物等の建築構造物の分野においては、耐震性の向上等の観点から、耐久性のより高いものが要求されている。
かかるコンクリート構造物の高耐久化を図るためには、初期欠陥となるひび割れを防止しなければならないが、このひび割れは、特に、コンクリート構造物の壁やスラブ等の面部材において発生し易く、その発生主要因は、乾燥収縮や温度応力等である。
従って、これらの面部材においては、初期の養生過程における乾燥収縮や温度応力に起因するひび割れを主として抑制もしくは防止する必要がある。
【0003】
これらの観点に着目して、温度応力を低減するために、「低熱ポルトランドセメントを用いた超高強度コンクリートの実用化に関する研究」、日本建築学会学術講演梗概集、2000年、A−1(材料施工)、p.919−920(非特許文献1)には、従来のセメントを改良した低発熱形セメントが提案され実用に供されている。
また、乾燥収縮を低減するために、「コンクリートの自己収縮研究委員会報告書」2002年9月、(社)日本コンクリート工学協会、p.207−210(非特許文献2)には、膨張材や収縮低減剤が提案され、実用に供されている。
【0004】
しかし、従来のコンクリート構造物においては、収縮と温度応力が絡み合ってひび割れが発生していたので、収縮の低減または温度応力の低減という個別の対策を別個に採用するだけでは、コンクリート構造物に発生するひび割れを有効に防止することは困難であった。
【0005】
また、最近では、低熱ポルトランドセメントと膨張材または収縮低減材とを併用したコンクリート素材を用いることにより、コンクリート構造物の温度ひび割れ対策を図る試みが行われている。
この場合、コンクリート構造物の収縮を補償するために、(社)土木学会の「膨張コンクリートの設計施工指針」では、膨張材を添加したコンクリートの拘束膨張率を150×10−6〜250×10−6と規定している。
【0006】
しかしながら、収縮の影響が顕著なコンクリート素材の場合においては、ひび割れ防止の観点から、各コンクリート素材の各構成材料の性能を把握するとともに各構成材料の最適な使用量を慎重に検討しなければ、ひび割れを有効に抑制または防止することができない。
特に、乾燥収縮が顕著なコンクリート構造物の場合、そのひび割れの発生を抑制もしくは防止するために、コンクリート素材中に含有される膨張材の使用量を増加させる方法があり、この場合、鉄筋等の拘束があれば、ケミカルプレストレスや硬化体組織の緻密化などが図られるために、ひび割れに対して本来の効果を十分に発揮することが可能であるが、かかる場合においても、配筋する鉄筋の方向性により拘束が小さいまたは無いに等しい場合には、過度な膨張が生じて硬化体組織が緩み、微細なひび割れが生じることがある。
【0007】
このような乾燥収縮が顕著なコンクリート構造物に対しては、従前にも増して硬化体組織が緩まない範囲で十分に大きな膨張率を確保するために、その膨張率の選定が重要となり、例えば、特開2004−217514号公報には、低発熱型セメントと低添加型膨張材と骨材とを含み、低添加型膨張材を12.5〜27.5kg/m3とすることによって、養生7日目における膨張率を150×10−6〜750×10−6の範囲内とし、スラブや壁等のコンクリート構造物を構成する面部材においても、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れを抑制または防止することができることが記載されている。
【0008】
しかし、前記提案されたコンクリート素材は、10℃以上の温度領域においては充分適用できるものであるが、10℃以下の寒冷時に打ち込むコンクリート構造物への適用は、ひび割れが有効に抑制または防止できず、難しいのが現状である。
即ち、10℃以下の寒冷時では、低熱ポルトランドセメントの硬化が極端に遅延することにより、セメントに含有される膨張剤の膨張による応力が発現し、かかる応力を、セメント硬化により得られる強度によって補償することができずに、膨張によるひび割れを起こすことがあり、更に、低発熱型セメントの強度発現性が悪化することにより、コンクリート構造物の施工工期が長期になる等の問題があった。
【0009】
しかしながら、寒冷時には打ち込むコンクリート構造物の強度発現性が悪く、長期間の養生が必要になる等の問題点を克服し、特に寒冷時のひび割れ抵抗性を有効に向上させたコンクリート素材は未だ実現されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−217514号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「低熱ポルトランドセメントを用いた超高強度コンクリートの実用化に関する研究」、日本建築学会学術講演梗概集、2000年、A−1(材料施工)、p.919−920
【非特許文献2】「コンクリートの自己収縮研究委員会報告書」2002年9月、(社)日本コンクリート工学協会、p.207−210
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、特に寒冷時に建造する鉄筋コンクリート構造物に適用されるコンクリート素材と当該コンクリート素材を用いたコンクリート構造物及びその製造方法に関し、特に、寒冷時に建設する鉄筋コンクリート構造物等の壁やスラブ等の面部材に好適に用いられ、強度発現性にも優れ、初期欠陥となる乾燥収縮及び温度収縮に起因するひび割れを有効に抑制または防止することが可能なコンクリート素材、当該コンクリート素材を用いたコンクリート構造物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、寒冷時にコンクリート構造物を建造するにあたり、コンクリートの強度発現が劣るため、セメントの硬化が遅い低熱ポルトランドセメントの使用は困難であり、中庸熱ポルトランドセメントと特定の配合割合の低添加型膨張材とを組み合わせた場合に、寒冷時、特に10℃以下の寒冷域においては、中庸熱ポルトランドセメントの強度発現の時期と膨張材の膨張発現の時期とが一致して、寒冷時に施工するコンクリート構造物、特にスラブや壁等の構造物を構成する面部材において、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れに対し、常温域では得られない、優れたひび割れ抑制または防止が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明の寒冷時打込み用コンクリート素材は、寒冷時に打ち込むのに適用される寒冷時打込み用コンクリート素材であって、中庸熱ポルトランドセメントと、低添加型膨張材と、骨材とを含み(但し、脂肪酸及び/又はそれらの塩類、高炉徐冷スラグは含まない)、当該コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメント及び低添加型膨張材の総質量に対して混合される水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係であることを特徴とする。
【0015】
好適には、本発明のコンクリート素材は、前記低添加型膨張材がエトリンガイト−石灰複合系膨張材であることを特徴とする。
更に好適には、本発明のコンクリート素材は、更に、減水剤を含有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明のコンクリート構造物は、前記本発明のコンクリート素材と水とを含んで混練して得られるコンクリート材料を打ち込んだ後の膨張率が、5℃水中養生7日目以降で150×10−6以上であり、かつ養生14日目で600×10−6以下の範囲内にあることを特徴とする。
【0017】
好適には、本発明のコンクリート構造物は、上記本発明のコンクリート素材中に含有される前記中庸熱セメント及び前記低添加型膨張材の総質量に対する前記水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される前記低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係であることを特徴とする。
【0018】
本発明のコンクリート構造物の製造方法において、上記本発明のコンクリート素材と水とを含むコンクリート材料を10℃以下の寒冷時で打ち込むにあたり、前記コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメント及び前記低添加型膨張材の総質量に対する前記水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足するように調製されたコンクリート材料を用いて、10℃以下の寒冷時で打ち込むことによりコンクリート構造物を建造する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の寒冷時打込み用コンクリート素材は、中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材と骨材とを含み、当該前記コンクリート素材と水とを含んで混練して得られるコンクリート材料を打ち込んで最終的に得られる仕上がりコンクリート構造物1m3あたりに含有される低添加型膨張材の単位量を特定の配合割合としたことにより、寒冷時、特に10℃以下の寒冷時において打ち込むのに用いても、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れを有効に抑制または防止することができる。
【0020】
また、本発明のコンクリート構造物は、コンクリート材料の打込み後の膨張率を一定の範囲内のものとしたことで、寒冷時、特に10℃以下で打ち込んだコンクリート構造物の乾燥収縮によるひび割れが顕著となるスラブや壁等の構造物を構成する面部材においても、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れを有効に抑制または防止することができる。
【0021】
本発明のコンクリート構造物の製造方法は、コンクリート材料が一定の関係を満足するように、中庸熱ポルトランドセメント、低添加型膨張材及び水の量を調製したコンクリート材料を使用して、寒冷時、特に10℃以下でコンクリート構造物を打ち込むのに用いるので、乾燥収縮に起因するひび割れが生じないコンクリート構造物を建造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の寒冷時打込み用コンクリート素材における水/(中庸熱セメント+低添加型膨張材)の総質量X(質量%)に対する、コンクリート構造物単位容積(1m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)の有効範囲を示す図である。
【図2】寒冷時打込み用コンクリート材料(No.3、16〜19)の低温打込み時の材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
【図3】寒冷条件での打込み用コンクリート材料(No.8、20)の低温打込み時の材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
【図4】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.8、20)の低温打込み時の材齢(日)における圧縮強度を示す図である。
【図5】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.1、2、4、5)の低温打込み時の材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
【図6】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.6、7、9、10)の低温打込み時の材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
【図7】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.11、12、14、15)の低温打込み時の材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
【図8】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.1、2、4、5)の低温打込み時の材齢(日)における圧縮強度を示す図である。
【図9】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.6、7、9、10)低温打込み時の材齢(日)における圧縮強度を示す図である。
【図10】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.11、12、14、15)の低温打込み時の材齢(日)における圧縮強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態について以下に説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のコンクリート素材は、寒冷時に打ち込むのに用いるコンクリート素材であって、中庸熱ポルトランドセメントと、低添加型膨張材と、骨材とを含むものである(但し、脂肪酸及び/又はそれらの塩類、高炉徐冷スラグは含まない)。
一般に、中庸熱ポルトランドセメントは常温域においてひび割れ抵抗性に劣っており、膨張材を組み合わせても所望するひび割れ低減効果は得られにくいとされている。
しかしながら、本発明においては、寒冷時、特に10℃以下の寒冷域で、中庸熱ポルトランドセメントの強度発現の時期と膨張材の膨張発現の時期とが一致することにより、常温域では得られない、優れたひび割れ抑制または防止を得ることが可能となった。
【0024】
本発明のコンクリート素材に用いられる中庸熱ポルトランドセメントは、水和熱が低く、寒冷時にもコンクリートとして打ち込んで強度を発揮することができるものであり、日本工業規格:JISR5210において規格化されているものであれば任意の1種以上のものを使用することができる。
また、本発明のコンクリート素材に用いられる低添加型膨張材は、打込み後のコンクリート構造物の収縮を補償するもので、例えば、石灰系膨張材、エトリンガイト系膨張材、エトリンガイト−石灰複合系膨張材等の1種以上が好適に用いられる。
前記エトリンガイト−石灰複合系膨張材としては、例えば、遊離石灰を50質量%、アーウイン(3CaO・3Al2O3・CaSO4)を20質量%、無水石膏を30質量%含む膨張材を好適に挙げられる。
【0025】
前記本発明のコンクリート素材に含有される低添加型膨張材の配合量は、当該コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメント及び低添加型膨張材の総質量に対して混合される水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係であることが必要である。
ここで、コンクリート構造物とは、上記コンクリート素材と水等とを混練して得られるコンクリート材料を用いて打ち込み、養生硬化した状態仕上がりのコンクリート構造物をいうものである。
【0026】
これは、低添加型膨張材の配合量が上記式で表される範囲より少ないと、当該膨張材の添加効果が小さく、乾燥収縮に対して十分な膨張効果が得られず、その結果、コンクリート構造物の収縮を補償することが困難になるからであり、また、その配合量が上記式で表される範囲より多いと、過度の膨張を発生させるおそれがあり、その結果、コンクリート構造物に微細なひびが生じる場合があるからである。
例えば、前記コンクリート素材と水とを配合し、次いで混練してコンクリート材料を調製する際に、前記中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材との総質量に対する水の配合質量比が0.5(50質量%)のときは、コンクリート素材中に含有される低添加型膨張材の配合量は、仕上がりコンクリート構造物単位容積(m3)あたり15〜25kg/m3であり、また。それぞれ0.4(40質量%)のときは17.5〜27.5kg/m3とすることが好ましい。
【0027】
更に、本発明のコンクリート素材に用いられる骨材は、通常のコンクリートに配合されるものであれば、特に限定されるものではなく、細骨材としては、川砂、陸砂、破砕砂等が、また粗骨材としては、川砂利、陸砂利、破砕石等を好適に用いることができる。
かかるコンクリート素材には、必要に応じて減水剤等の添加剤を添加してもかまわない(但し、脂肪酸及び/又はそれらの塩類、高炉徐冷スラグは含まない)。
前記減水剤としては、例えば、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等が好適に用いられる。
【0028】
また、本発明のコンクリート材料は、前記した本発明のコンクリート素材と水とを混合することにより、具体的には、中庸熱ポルトランドセメント、低添加型膨張材及び骨材、そして必要に応じて添加される減水剤と、水とを混合することにより得られる。
当該コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材との総質量に対する水の質量割合X(質量%)と、仕上がりコンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足するものである。
【0029】
図1は上記式を図示したもので、本発明のコンクリート材料における水/(中庸熱ポルトランドセメント+低添加型膨張材)X(質量%)に対する、仕上がりコンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)の範囲を図示したものである。
当該図1においては、2本の直線により低添加型膨張材量Yの上限値と下限値を示している。
【0030】
図中、「○」は膨張もしくは乾燥収縮に起因するひび割れが全く認められない好適実施態様を、「×」は膨張に起因するひび割れが認められた実施態様もしくは打込み後の膨張率が150×10−6未満であり乾燥収縮によるひび割れの虞があるものを、それぞれ示している。
また、図1中の直線L1は上限を、直線L2は下限を、それぞれ示している。
なお、直線L1(上限)を上回る領域でのひび割れは、コンクリートの膨張に起因するものであり、直線L2(下限)を下回る領域でのひび割れは、コンクリートの乾燥収縮に起因するものである。
【0031】
かかるひび割れの評価は、水/(中庸熱ポルトランドセメント+低添加型膨張材)X(質量%)と、仕上がりコンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Yとの値をそれぞれ異ならせたコンクリート材料を複数調製し、各コンクリート材料毎に各3個ずつ、外径10cm、高さ20cmの大きさの円柱状のコンクリート構造物試験体を作製した後、各コンクリート構造物試験体の表面を目視にて観察し、膨張もしくは乾燥収縮に起因するひび割れの有無を調べたものである。
【0032】
図1によれば、寒冷時にコンクリート材料を打ち込む際の、コンクリート素材中に含まれる中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材との総質量に対する水の質量割合(質量%)及び仕上がりコンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)の範囲がこれらの直線L1、L2の範囲内、すなわち、
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足するものであれば、初期欠陥となる膨張もしくは乾燥収縮に起因するひび割れが全く認められないことがわかる。
【0033】
本実施形態のコンクリート構造物は、上述したコンクリート材料を10℃以下の寒冷時に打ち込み、その後所定期間養生することにより建造される。
このようにしてこのコンクリート構造物の材齢7日、すなわち、寒冷時でのコンクリート材料の打込み後、養生7日目以降における膨張率が150×10−6以上であり、養生14日目における膨張率が600×10−6以下の範囲内であることが好ましい。
この膨張率の範囲は、一軸拘束膨張試験方法(「日本工業規格JIS A 6202の付属書2 膨張コンクリートの拘束膨張および収縮試験方法」のうち、B法「膨張及び収縮を対象とした試験方法」に準拠)により測定した場合、コンクリート材料の硬化体の5℃湿潤養生7日目の一軸拘束膨張率が150×10−6以上であり、養生14日目における膨張率が600×10−6以下の範囲内であることを意味するものである。
【0034】
ここで、材齢7日以降における膨張率を150×10−6以上の範囲と限定した理由は、膨張率が150×10−6未満では、乾燥収縮の補償を十分に行うことができず、乾燥収縮に起因するひび割れが生じ易くなるからであり、また、材齢14日における膨張率が600×10−6を越えると、コンクリート構造物に過度の膨張に起因するひび割れが発生し易くなるからである。
【0035】
かかるコンクリート構造物を製造するには、中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材との総質量に対する水の質量割合X(質量%)と、仕上がりコンクリート単位量(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足するように、中庸熱ポルトランドセメントと、低添加型膨張材と、骨材と、水とを、また、必要に応じて減水剤を、それぞれ秤量し、これらをミキサ内に投入し、これらが十分に均一分散するまで十分に混練し、コンクリート材料を調製する。
【0036】
その後、速やかに、このコンクリート材料を所定形状の型枠内に打ち込み、十分な養生を行う。
望ましくは、当該養生に必要な期間は、養生期間を寒冷時である外気温度を考慮して温暖時に比較して養生期間をより長く、少なくとも7日間とすることが好ましい。
かかる養生により、低添加型膨張材が膨張効果を発揮し、コンクリートの乾燥収縮を補償し、これにより、コンクリート構造物は、過度の乾燥収縮や過度の膨張が生じることなく、所望の形状を保持しつつ、機械的強度を十分発現することができることとなる。
【実施例】
【0037】
本発明を、次の実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
A.コンクリートの一軸拘束膨張率及び膨張ひび割れ
(1)「セメントの種類と膨張特性の評価」
表1に示すように、セメントの種類、コンクリート素材中の水/(セメント+低添加型膨張材)X(質量%)及び、コンクリート構造物単位容積あたりに含有される単位膨張材量Y(kg/m3)を様々に設定して得られた20種類のコンクリート材料のうち、セメントの種類と低添加型膨張材の組み合わせによる膨張特性を確認するため、No.3およびNo.16〜19のコンクリート材料を用いて5℃で打ち込み、次いで5℃の水中で養生したコンクリート構造物供試体の一軸拘束膨張率を測定した。
なお、一軸拘束膨張率の測定は「日本工業規格JIS A 6202の付属書2 膨張コンクリートの拘束膨張および収縮試験方法」のうち、B法「膨張及び収縮を対象とした試験方法」に養生温度以外を準拠させて行った。
【0038】
図2にその結果を示す。
図2より、セメントの種類と低添加型膨張材の組み合わせにおいて、打込み時と比較して適切な膨張が得られ、しかもその後の乾燥収縮の少ないコンクリート構造物供試体はNo.3(セメント種類;中庸熱ポルトランドセメント)およびNo.19(セメント種類;低熱ポルトランドセメント)であった。
【0039】
【表1】
【0040】
なお、表1中、中庸熱ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメントB種および低熱ポルトランドセメントは、いずれも住友大阪セメント(株)社製を使用し、また低添加型膨張材は、エトリンガイト−石灰複合系膨張材(住友大阪セメント(株)社製 製品名;スーパーサクス−タイプS)を用いた。
【0041】
(2)「寒冷時打込み用コンクリート材料の評価」
<コンクリートの一軸拘束膨張率・強度発現性試験>
上記表1のNo8(セメント種類;中庸熱ポルトランドセメント)及びNo20(セメント種類;低熱ポルトランドセメント)のコンクリート材料を用いて、寒冷時の打込みにおけるコンクリート構造物供試体の膨張量および強度の発現性について、気温5℃で打ち込んだコンクリート構造物供試体を5℃の水中養生にて試験した。
上記2種類のコンクリート供試体No8とNo20の一軸拘束膨張率を測定し、その結果を図3に示す。なお、一軸拘束膨張率は前記試験方法と同様の方法にて測定した。
また、かかるコンクリート構造物供試体No8とNo20の強度発現性を試験した。
強度発現性は、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」により試験した。その結果を図4に示す。
【0042】
No.8およびNo.20のコンクリート構造物供試体共に適切な膨張が得られるが、No.8のコンクリート材料を用いた構造物ではいずれの材齢でも圧縮強度が10N/mm2以上となる一方、No.20のコンクリート材料を用いたコンクリート構造物での圧縮強度は十分でなく、寒冷時に打ち込んだコンクリート構造物の脱型などが難しくなるおそれがあることが明らかとなった。
【0043】
次いで、コンクリート材料(No.1〜15)を用いて5℃で打ち込んで作製した各コンクリート構造物供試体の一軸拘束膨張率を測定した。一軸拘束膨張率の測定は上記試験方法と同様にして行った。
なお、養生条件として、5℃の水中養生をおこなった各供試体の各材齢における一軸拘束膨張率を測定した。
また、これらの供試体の圧縮強度も同時に測定した。
【0044】
図5は、No.1〜5各々の各材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図であり、図6は、No.6〜10各々の各材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図であり、図7は、No.11〜15各々の各材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
また、図8は、No.1〜5各々の各材齢(日)における圧縮強度を示す図であり、図9は、No.6〜10各々の各材齢(日)における圧縮強度を示す図であり、図10は、No.11〜15各々の各材齢(日)における圧縮強度を示す図である。
【0045】
(評価基準)
寒冷条件でコンクリートを打ち込んだ場合でも、膨張に起因するひび割れ、および乾燥収縮によるひび割れが生じないことが要求される。
収縮によるひび割れを防止するには、150×10−6以上の膨張量が打込み後7日までに発生していれば、収縮ひび割れによる抵抗性を有するものであり、このことは前述の(社)土木学会の「膨張コンクリートの設計施工指針」にも示唆されている。
このことから、供試体No1及び6は、7日の膨張率が150×10−6以下であり、寒冷時におけるコンクリートとしては、不適切であることがわかる。
【0046】
一方、膨張によるひび割れは、膨張材の多量添加によることによって、コンクリート強度の発現を阻害して、過度の膨張によってコンクリートひび割れをおこし、更に強度低下を起こすことになる。
寒冷時に打ち込むコンクリートにおいては、上記試験結果から14日目の膨張率が600×10−6以下であれば膨張によるひび割れはおきないことが確認された。
ここで、14日目の膨張率を目安として設定したのは、寒冷時であっても14日以降には膨張の増加がほとんどないことに依るものである。
試体No10及び15は、14日目の膨張率が600×10−6以上あり、膨張によるひび割れが確認された。
【0047】
図1およびこれらの図から、寒冷時に中庸熱ポルトランドセメントと一定の割合で配合された低添加型膨張材との組み合わせを用いた場合には、乾燥収縮に起因するひび割れを低減するコンクリート材料は、かかる材料に含有される低添加型膨張材の膨張作用によってひび割れの原因となる収縮を補償するため、低添加型膨張材をコンクリート構造物単位容積1m3あたり、図1中の直線L2の下限値で示される添加量以上用いることにより、材齢7日までに150×10−6以上の膨張率が得られることがわかる。
したがって、低添加型膨張材の配合範囲を前記とすることによって乾燥収縮に起因するひび割れに対し、抵抗性を有するものとなる。
【0048】
表2は、コンクリート材料(No.1〜15)の無拘束状態における膨張ひび割れの確認試験を行った結果を示している。
かかる確認試験では、各コンクリート材料(No.1〜15)を用いて5℃で打ち込んで各3個ずつ、外径10cm、高さ20cmの大きさの円柱状のコンクリート構造物試供体を作製した後、当該温度で湿潤養生1日目で型枠を脱型し、この各コンクリート構造物供試体を5℃の水中に浸漬させ、その後1日毎に各コンクリート構造物供試体の表面を目視にて観察し、膨張ひび割れの有無を調べたものである。
【0049】
【表2】
【0050】
表2から、No.1、2、4〜7、9、11、12、14のコンクリート構造物供試体では、水中浸漬後6日(供試体作製後7日)においても、膨張ひび割れの発生は認められなかった。一方、No.10、15のコンクリート供試体では、水中浸漬後6日(供試体作製後7日)までにひび割れが発生した。
また、かかるコンクリート構造物供試体の強度発現性を試験した。
強度発現性は、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」により試験した。その結果を図9及び図10に示す。
【0051】
図9および図10に示す圧縮強度から、これらのひび割れの発生したNo.10、15のコンクリート構造物供試体は、ひび割れの発生しなかった他の供試体と比較して、ひび割れに起因した強度発現性に著しく劣っていることが分かる。
従って、図5〜7、図9及び10並びに表2より、寒冷時のコンクリート材料の打込みにおいて、膨張ひび割れを発生させない単位膨張材量(kg/m3)の添加量の上限の膨張率は、材齢14日において600×10−6以下であればよいことがわかる。
【0052】
以上の結果から、図1において、乾燥収縮によるひび割れに対し抵抗性が得られる150×10−6以上の膨張率を得るためには、コンクリート構造物単位容積あたりの低添加型膨張材の単位膨張材量(kg/m3)の範囲を図1に示す直線L1以上とし、膨張ひび割れを発生させない単位膨張材量(kg/m3)の添加量を直線L2の範囲内とすればよいことがわかる。
【0053】
B.コンクリートのひび割れ抵抗性
現実に建造されたコンクリート構造物では、コンクリート中に埋設される鉄筋や既存のコンクリート構造物に収縮が拘束されることによって引張応力が発生し、この引張応力がコンクリート構造体の引張強度を上回った場合に、コンクリート構造体にひび割れが生じる現象が発生する。
前記に記載する通り打込み後材齢7日における一軸拘束膨張率が150×10−6未満であると、鉄筋などに拘束されたコンクリート構造物であっては、乾燥収縮によるひび割れの可能性があり、(社)土木学会の「膨張コンクリートの設計施工指針」をクリアできないことは、寒冷時も常温時も同じである。
【0054】
本実施例によれば、寒冷時に打ち込むコンクリート材料に中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材とを併用することにより、所定の膨張率を満足することはもちろんのこと、初期の膨張ひび割れ、乾燥収縮によるひび割れを抑制することができる寒冷時打込み用ひび割れ低減コンクリートの製造が可能となったことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、特に寒冷時に打ち込むのに有効に適用できるコンクリート素材であって、かかるコンクリート素材により製造されたコンクリート建造物は、強度発現性も優れ、乾燥収縮によるひび割れが顕著となるスラブや壁等の建設構造物を構成する面部材において、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れを効果的に抑制または防止することができるので、寒冷時における、耐久性の更なる向上、耐震性の更なる向上を図ることが可能となり、寒冷時に打ち込む鉄筋コンクリート構造物や鉄骨鉄筋コンクリート構造物に有効に適用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒冷地や寒冷時に建設する鉄筋コンクリート構造物に適用する寒冷時打込み用コンクリート素材、当該コンクリート素材を用いたコンクリート構造物に関し、特に、寒冷地や寒冷時に建設する鉄筋コンクリート構造物等の壁やスラブ等の面部材に好適に用いられ、これらの構造物や面部材の初期欠陥となる乾燥収縮及び温度収縮に起因するひび割れを抑制または防止することが可能なコンクリート素材、当該コンクリート素材を用いたコンクリート構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄筋コンクリート構造物や鉄骨鉄筋コンクリート構造物等の建築構造物の分野においては、耐震性の向上等の観点から、耐久性のより高いものが要求されている。
かかるコンクリート構造物の高耐久化を図るためには、初期欠陥となるひび割れを防止しなければならないが、このひび割れは、特に、コンクリート構造物の壁やスラブ等の面部材において発生し易く、その発生主要因は、乾燥収縮や温度応力等である。
従って、これらの面部材においては、初期の養生過程における乾燥収縮や温度応力に起因するひび割れを主として抑制もしくは防止する必要がある。
【0003】
これらの観点に着目して、温度応力を低減するために、「低熱ポルトランドセメントを用いた超高強度コンクリートの実用化に関する研究」、日本建築学会学術講演梗概集、2000年、A−1(材料施工)、p.919−920(非特許文献1)には、従来のセメントを改良した低発熱形セメントが提案され実用に供されている。
また、乾燥収縮を低減するために、「コンクリートの自己収縮研究委員会報告書」2002年9月、(社)日本コンクリート工学協会、p.207−210(非特許文献2)には、膨張材や収縮低減剤が提案され、実用に供されている。
【0004】
しかし、従来のコンクリート構造物においては、収縮と温度応力が絡み合ってひび割れが発生していたので、収縮の低減または温度応力の低減という個別の対策を別個に採用するだけでは、コンクリート構造物に発生するひび割れを有効に防止することは困難であった。
【0005】
また、最近では、低熱ポルトランドセメントと膨張材または収縮低減材とを併用したコンクリート素材を用いることにより、コンクリート構造物の温度ひび割れ対策を図る試みが行われている。
この場合、コンクリート構造物の収縮を補償するために、(社)土木学会の「膨張コンクリートの設計施工指針」では、膨張材を添加したコンクリートの拘束膨張率を150×10−6〜250×10−6と規定している。
【0006】
しかしながら、収縮の影響が顕著なコンクリート素材の場合においては、ひび割れ防止の観点から、各コンクリート素材の各構成材料の性能を把握するとともに各構成材料の最適な使用量を慎重に検討しなければ、ひび割れを有効に抑制または防止することができない。
特に、乾燥収縮が顕著なコンクリート構造物の場合、そのひび割れの発生を抑制もしくは防止するために、コンクリート素材中に含有される膨張材の使用量を増加させる方法があり、この場合、鉄筋等の拘束があれば、ケミカルプレストレスや硬化体組織の緻密化などが図られるために、ひび割れに対して本来の効果を十分に発揮することが可能であるが、かかる場合においても、配筋する鉄筋の方向性により拘束が小さいまたは無いに等しい場合には、過度な膨張が生じて硬化体組織が緩み、微細なひび割れが生じることがある。
【0007】
このような乾燥収縮が顕著なコンクリート構造物に対しては、従前にも増して硬化体組織が緩まない範囲で十分に大きな膨張率を確保するために、その膨張率の選定が重要となり、例えば、特開2004−217514号公報には、低発熱型セメントと低添加型膨張材と骨材とを含み、低添加型膨張材を12.5〜27.5kg/m3とすることによって、養生7日目における膨張率を150×10−6〜750×10−6の範囲内とし、スラブや壁等のコンクリート構造物を構成する面部材においても、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れを抑制または防止することができることが記載されている。
【0008】
しかし、前記提案されたコンクリート素材は、10℃以上の温度領域においては充分適用できるものであるが、10℃以下の寒冷時に打ち込むコンクリート構造物への適用は、ひび割れが有効に抑制または防止できず、難しいのが現状である。
即ち、10℃以下の寒冷時では、低熱ポルトランドセメントの硬化が極端に遅延することにより、セメントに含有される膨張剤の膨張による応力が発現し、かかる応力を、セメント硬化により得られる強度によって補償することができずに、膨張によるひび割れを起こすことがあり、更に、低発熱型セメントの強度発現性が悪化することにより、コンクリート構造物の施工工期が長期になる等の問題があった。
【0009】
しかしながら、寒冷時には打ち込むコンクリート構造物の強度発現性が悪く、長期間の養生が必要になる等の問題点を克服し、特に寒冷時のひび割れ抵抗性を有効に向上させたコンクリート素材は未だ実現されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−217514号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「低熱ポルトランドセメントを用いた超高強度コンクリートの実用化に関する研究」、日本建築学会学術講演梗概集、2000年、A−1(材料施工)、p.919−920
【非特許文献2】「コンクリートの自己収縮研究委員会報告書」2002年9月、(社)日本コンクリート工学協会、p.207−210
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、特に寒冷時に建造する鉄筋コンクリート構造物に適用されるコンクリート素材と当該コンクリート素材を用いたコンクリート構造物及びその製造方法に関し、特に、寒冷時に建設する鉄筋コンクリート構造物等の壁やスラブ等の面部材に好適に用いられ、強度発現性にも優れ、初期欠陥となる乾燥収縮及び温度収縮に起因するひび割れを有効に抑制または防止することが可能なコンクリート素材、当該コンクリート素材を用いたコンクリート構造物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、寒冷時にコンクリート構造物を建造するにあたり、コンクリートの強度発現が劣るため、セメントの硬化が遅い低熱ポルトランドセメントの使用は困難であり、中庸熱ポルトランドセメントと特定の配合割合の低添加型膨張材とを組み合わせた場合に、寒冷時、特に10℃以下の寒冷域においては、中庸熱ポルトランドセメントの強度発現の時期と膨張材の膨張発現の時期とが一致して、寒冷時に施工するコンクリート構造物、特にスラブや壁等の構造物を構成する面部材において、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れに対し、常温域では得られない、優れたひび割れ抑制または防止が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明の寒冷時打込み用コンクリート素材は、寒冷時に打ち込むのに適用される寒冷時打込み用コンクリート素材であって、中庸熱ポルトランドセメントと、低添加型膨張材と、骨材とを含み(但し、脂肪酸及び/又はそれらの塩類、高炉徐冷スラグは含まない)、当該コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメント及び低添加型膨張材の総質量に対して混合される水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係であることを特徴とする。
【0015】
好適には、本発明のコンクリート素材は、前記低添加型膨張材がエトリンガイト−石灰複合系膨張材であることを特徴とする。
更に好適には、本発明のコンクリート素材は、更に、減水剤を含有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明のコンクリート構造物は、前記本発明のコンクリート素材と水とを含んで混練して得られるコンクリート材料を打ち込んだ後の膨張率が、5℃水中養生7日目以降で150×10−6以上であり、かつ養生14日目で600×10−6以下の範囲内にあることを特徴とする。
【0017】
好適には、本発明のコンクリート構造物は、上記本発明のコンクリート素材中に含有される前記中庸熱セメント及び前記低添加型膨張材の総質量に対する前記水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される前記低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係であることを特徴とする。
【0018】
本発明のコンクリート構造物の製造方法において、上記本発明のコンクリート素材と水とを含むコンクリート材料を10℃以下の寒冷時で打ち込むにあたり、前記コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメント及び前記低添加型膨張材の総質量に対する前記水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足するように調製されたコンクリート材料を用いて、10℃以下の寒冷時で打ち込むことによりコンクリート構造物を建造する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の寒冷時打込み用コンクリート素材は、中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材と骨材とを含み、当該前記コンクリート素材と水とを含んで混練して得られるコンクリート材料を打ち込んで最終的に得られる仕上がりコンクリート構造物1m3あたりに含有される低添加型膨張材の単位量を特定の配合割合としたことにより、寒冷時、特に10℃以下の寒冷時において打ち込むのに用いても、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れを有効に抑制または防止することができる。
【0020】
また、本発明のコンクリート構造物は、コンクリート材料の打込み後の膨張率を一定の範囲内のものとしたことで、寒冷時、特に10℃以下で打ち込んだコンクリート構造物の乾燥収縮によるひび割れが顕著となるスラブや壁等の構造物を構成する面部材においても、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れを有効に抑制または防止することができる。
【0021】
本発明のコンクリート構造物の製造方法は、コンクリート材料が一定の関係を満足するように、中庸熱ポルトランドセメント、低添加型膨張材及び水の量を調製したコンクリート材料を使用して、寒冷時、特に10℃以下でコンクリート構造物を打ち込むのに用いるので、乾燥収縮に起因するひび割れが生じないコンクリート構造物を建造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の寒冷時打込み用コンクリート素材における水/(中庸熱セメント+低添加型膨張材)の総質量X(質量%)に対する、コンクリート構造物単位容積(1m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)の有効範囲を示す図である。
【図2】寒冷時打込み用コンクリート材料(No.3、16〜19)の低温打込み時の材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
【図3】寒冷条件での打込み用コンクリート材料(No.8、20)の低温打込み時の材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
【図4】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.8、20)の低温打込み時の材齢(日)における圧縮強度を示す図である。
【図5】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.1、2、4、5)の低温打込み時の材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
【図6】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.6、7、9、10)の低温打込み時の材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
【図7】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.11、12、14、15)の低温打込み時の材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
【図8】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.1、2、4、5)の低温打込み時の材齢(日)における圧縮強度を示す図である。
【図9】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.6、7、9、10)低温打込み時の材齢(日)における圧縮強度を示す図である。
【図10】寒冷条件下での打込み用コンクリート材料(No.11、12、14、15)の低温打込み時の材齢(日)における圧縮強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態について以下に説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のコンクリート素材は、寒冷時に打ち込むのに用いるコンクリート素材であって、中庸熱ポルトランドセメントと、低添加型膨張材と、骨材とを含むものである(但し、脂肪酸及び/又はそれらの塩類、高炉徐冷スラグは含まない)。
一般に、中庸熱ポルトランドセメントは常温域においてひび割れ抵抗性に劣っており、膨張材を組み合わせても所望するひび割れ低減効果は得られにくいとされている。
しかしながら、本発明においては、寒冷時、特に10℃以下の寒冷域で、中庸熱ポルトランドセメントの強度発現の時期と膨張材の膨張発現の時期とが一致することにより、常温域では得られない、優れたひび割れ抑制または防止を得ることが可能となった。
【0024】
本発明のコンクリート素材に用いられる中庸熱ポルトランドセメントは、水和熱が低く、寒冷時にもコンクリートとして打ち込んで強度を発揮することができるものであり、日本工業規格:JISR5210において規格化されているものであれば任意の1種以上のものを使用することができる。
また、本発明のコンクリート素材に用いられる低添加型膨張材は、打込み後のコンクリート構造物の収縮を補償するもので、例えば、石灰系膨張材、エトリンガイト系膨張材、エトリンガイト−石灰複合系膨張材等の1種以上が好適に用いられる。
前記エトリンガイト−石灰複合系膨張材としては、例えば、遊離石灰を50質量%、アーウイン(3CaO・3Al2O3・CaSO4)を20質量%、無水石膏を30質量%含む膨張材を好適に挙げられる。
【0025】
前記本発明のコンクリート素材に含有される低添加型膨張材の配合量は、当該コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメント及び低添加型膨張材の総質量に対して混合される水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係であることが必要である。
ここで、コンクリート構造物とは、上記コンクリート素材と水等とを混練して得られるコンクリート材料を用いて打ち込み、養生硬化した状態仕上がりのコンクリート構造物をいうものである。
【0026】
これは、低添加型膨張材の配合量が上記式で表される範囲より少ないと、当該膨張材の添加効果が小さく、乾燥収縮に対して十分な膨張効果が得られず、その結果、コンクリート構造物の収縮を補償することが困難になるからであり、また、その配合量が上記式で表される範囲より多いと、過度の膨張を発生させるおそれがあり、その結果、コンクリート構造物に微細なひびが生じる場合があるからである。
例えば、前記コンクリート素材と水とを配合し、次いで混練してコンクリート材料を調製する際に、前記中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材との総質量に対する水の配合質量比が0.5(50質量%)のときは、コンクリート素材中に含有される低添加型膨張材の配合量は、仕上がりコンクリート構造物単位容積(m3)あたり15〜25kg/m3であり、また。それぞれ0.4(40質量%)のときは17.5〜27.5kg/m3とすることが好ましい。
【0027】
更に、本発明のコンクリート素材に用いられる骨材は、通常のコンクリートに配合されるものであれば、特に限定されるものではなく、細骨材としては、川砂、陸砂、破砕砂等が、また粗骨材としては、川砂利、陸砂利、破砕石等を好適に用いることができる。
かかるコンクリート素材には、必要に応じて減水剤等の添加剤を添加してもかまわない(但し、脂肪酸及び/又はそれらの塩類、高炉徐冷スラグは含まない)。
前記減水剤としては、例えば、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等が好適に用いられる。
【0028】
また、本発明のコンクリート材料は、前記した本発明のコンクリート素材と水とを混合することにより、具体的には、中庸熱ポルトランドセメント、低添加型膨張材及び骨材、そして必要に応じて添加される減水剤と、水とを混合することにより得られる。
当該コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材との総質量に対する水の質量割合X(質量%)と、仕上がりコンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足するものである。
【0029】
図1は上記式を図示したもので、本発明のコンクリート材料における水/(中庸熱ポルトランドセメント+低添加型膨張材)X(質量%)に対する、仕上がりコンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)の範囲を図示したものである。
当該図1においては、2本の直線により低添加型膨張材量Yの上限値と下限値を示している。
【0030】
図中、「○」は膨張もしくは乾燥収縮に起因するひび割れが全く認められない好適実施態様を、「×」は膨張に起因するひび割れが認められた実施態様もしくは打込み後の膨張率が150×10−6未満であり乾燥収縮によるひび割れの虞があるものを、それぞれ示している。
また、図1中の直線L1は上限を、直線L2は下限を、それぞれ示している。
なお、直線L1(上限)を上回る領域でのひび割れは、コンクリートの膨張に起因するものであり、直線L2(下限)を下回る領域でのひび割れは、コンクリートの乾燥収縮に起因するものである。
【0031】
かかるひび割れの評価は、水/(中庸熱ポルトランドセメント+低添加型膨張材)X(質量%)と、仕上がりコンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Yとの値をそれぞれ異ならせたコンクリート材料を複数調製し、各コンクリート材料毎に各3個ずつ、外径10cm、高さ20cmの大きさの円柱状のコンクリート構造物試験体を作製した後、各コンクリート構造物試験体の表面を目視にて観察し、膨張もしくは乾燥収縮に起因するひび割れの有無を調べたものである。
【0032】
図1によれば、寒冷時にコンクリート材料を打ち込む際の、コンクリート素材中に含まれる中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材との総質量に対する水の質量割合(質量%)及び仕上がりコンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)の範囲がこれらの直線L1、L2の範囲内、すなわち、
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足するものであれば、初期欠陥となる膨張もしくは乾燥収縮に起因するひび割れが全く認められないことがわかる。
【0033】
本実施形態のコンクリート構造物は、上述したコンクリート材料を10℃以下の寒冷時に打ち込み、その後所定期間養生することにより建造される。
このようにしてこのコンクリート構造物の材齢7日、すなわち、寒冷時でのコンクリート材料の打込み後、養生7日目以降における膨張率が150×10−6以上であり、養生14日目における膨張率が600×10−6以下の範囲内であることが好ましい。
この膨張率の範囲は、一軸拘束膨張試験方法(「日本工業規格JIS A 6202の付属書2 膨張コンクリートの拘束膨張および収縮試験方法」のうち、B法「膨張及び収縮を対象とした試験方法」に準拠)により測定した場合、コンクリート材料の硬化体の5℃湿潤養生7日目の一軸拘束膨張率が150×10−6以上であり、養生14日目における膨張率が600×10−6以下の範囲内であることを意味するものである。
【0034】
ここで、材齢7日以降における膨張率を150×10−6以上の範囲と限定した理由は、膨張率が150×10−6未満では、乾燥収縮の補償を十分に行うことができず、乾燥収縮に起因するひび割れが生じ易くなるからであり、また、材齢14日における膨張率が600×10−6を越えると、コンクリート構造物に過度の膨張に起因するひび割れが発生し易くなるからである。
【0035】
かかるコンクリート構造物を製造するには、中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材との総質量に対する水の質量割合X(質量%)と、仕上がりコンクリート単位量(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足するように、中庸熱ポルトランドセメントと、低添加型膨張材と、骨材と、水とを、また、必要に応じて減水剤を、それぞれ秤量し、これらをミキサ内に投入し、これらが十分に均一分散するまで十分に混練し、コンクリート材料を調製する。
【0036】
その後、速やかに、このコンクリート材料を所定形状の型枠内に打ち込み、十分な養生を行う。
望ましくは、当該養生に必要な期間は、養生期間を寒冷時である外気温度を考慮して温暖時に比較して養生期間をより長く、少なくとも7日間とすることが好ましい。
かかる養生により、低添加型膨張材が膨張効果を発揮し、コンクリートの乾燥収縮を補償し、これにより、コンクリート構造物は、過度の乾燥収縮や過度の膨張が生じることなく、所望の形状を保持しつつ、機械的強度を十分発現することができることとなる。
【実施例】
【0037】
本発明を、次の実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
A.コンクリートの一軸拘束膨張率及び膨張ひび割れ
(1)「セメントの種類と膨張特性の評価」
表1に示すように、セメントの種類、コンクリート素材中の水/(セメント+低添加型膨張材)X(質量%)及び、コンクリート構造物単位容積あたりに含有される単位膨張材量Y(kg/m3)を様々に設定して得られた20種類のコンクリート材料のうち、セメントの種類と低添加型膨張材の組み合わせによる膨張特性を確認するため、No.3およびNo.16〜19のコンクリート材料を用いて5℃で打ち込み、次いで5℃の水中で養生したコンクリート構造物供試体の一軸拘束膨張率を測定した。
なお、一軸拘束膨張率の測定は「日本工業規格JIS A 6202の付属書2 膨張コンクリートの拘束膨張および収縮試験方法」のうち、B法「膨張及び収縮を対象とした試験方法」に養生温度以外を準拠させて行った。
【0038】
図2にその結果を示す。
図2より、セメントの種類と低添加型膨張材の組み合わせにおいて、打込み時と比較して適切な膨張が得られ、しかもその後の乾燥収縮の少ないコンクリート構造物供試体はNo.3(セメント種類;中庸熱ポルトランドセメント)およびNo.19(セメント種類;低熱ポルトランドセメント)であった。
【0039】
【表1】
【0040】
なお、表1中、中庸熱ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメントB種および低熱ポルトランドセメントは、いずれも住友大阪セメント(株)社製を使用し、また低添加型膨張材は、エトリンガイト−石灰複合系膨張材(住友大阪セメント(株)社製 製品名;スーパーサクス−タイプS)を用いた。
【0041】
(2)「寒冷時打込み用コンクリート材料の評価」
<コンクリートの一軸拘束膨張率・強度発現性試験>
上記表1のNo8(セメント種類;中庸熱ポルトランドセメント)及びNo20(セメント種類;低熱ポルトランドセメント)のコンクリート材料を用いて、寒冷時の打込みにおけるコンクリート構造物供試体の膨張量および強度の発現性について、気温5℃で打ち込んだコンクリート構造物供試体を5℃の水中養生にて試験した。
上記2種類のコンクリート供試体No8とNo20の一軸拘束膨張率を測定し、その結果を図3に示す。なお、一軸拘束膨張率は前記試験方法と同様の方法にて測定した。
また、かかるコンクリート構造物供試体No8とNo20の強度発現性を試験した。
強度発現性は、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」により試験した。その結果を図4に示す。
【0042】
No.8およびNo.20のコンクリート構造物供試体共に適切な膨張が得られるが、No.8のコンクリート材料を用いた構造物ではいずれの材齢でも圧縮強度が10N/mm2以上となる一方、No.20のコンクリート材料を用いたコンクリート構造物での圧縮強度は十分でなく、寒冷時に打ち込んだコンクリート構造物の脱型などが難しくなるおそれがあることが明らかとなった。
【0043】
次いで、コンクリート材料(No.1〜15)を用いて5℃で打ち込んで作製した各コンクリート構造物供試体の一軸拘束膨張率を測定した。一軸拘束膨張率の測定は上記試験方法と同様にして行った。
なお、養生条件として、5℃の水中養生をおこなった各供試体の各材齢における一軸拘束膨張率を測定した。
また、これらの供試体の圧縮強度も同時に測定した。
【0044】
図5は、No.1〜5各々の各材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図であり、図6は、No.6〜10各々の各材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図であり、図7は、No.11〜15各々の各材齢(日)における一軸拘束膨張率を示す図である。
また、図8は、No.1〜5各々の各材齢(日)における圧縮強度を示す図であり、図9は、No.6〜10各々の各材齢(日)における圧縮強度を示す図であり、図10は、No.11〜15各々の各材齢(日)における圧縮強度を示す図である。
【0045】
(評価基準)
寒冷条件でコンクリートを打ち込んだ場合でも、膨張に起因するひび割れ、および乾燥収縮によるひび割れが生じないことが要求される。
収縮によるひび割れを防止するには、150×10−6以上の膨張量が打込み後7日までに発生していれば、収縮ひび割れによる抵抗性を有するものであり、このことは前述の(社)土木学会の「膨張コンクリートの設計施工指針」にも示唆されている。
このことから、供試体No1及び6は、7日の膨張率が150×10−6以下であり、寒冷時におけるコンクリートとしては、不適切であることがわかる。
【0046】
一方、膨張によるひび割れは、膨張材の多量添加によることによって、コンクリート強度の発現を阻害して、過度の膨張によってコンクリートひび割れをおこし、更に強度低下を起こすことになる。
寒冷時に打ち込むコンクリートにおいては、上記試験結果から14日目の膨張率が600×10−6以下であれば膨張によるひび割れはおきないことが確認された。
ここで、14日目の膨張率を目安として設定したのは、寒冷時であっても14日以降には膨張の増加がほとんどないことに依るものである。
試体No10及び15は、14日目の膨張率が600×10−6以上あり、膨張によるひび割れが確認された。
【0047】
図1およびこれらの図から、寒冷時に中庸熱ポルトランドセメントと一定の割合で配合された低添加型膨張材との組み合わせを用いた場合には、乾燥収縮に起因するひび割れを低減するコンクリート材料は、かかる材料に含有される低添加型膨張材の膨張作用によってひび割れの原因となる収縮を補償するため、低添加型膨張材をコンクリート構造物単位容積1m3あたり、図1中の直線L2の下限値で示される添加量以上用いることにより、材齢7日までに150×10−6以上の膨張率が得られることがわかる。
したがって、低添加型膨張材の配合範囲を前記とすることによって乾燥収縮に起因するひび割れに対し、抵抗性を有するものとなる。
【0048】
表2は、コンクリート材料(No.1〜15)の無拘束状態における膨張ひび割れの確認試験を行った結果を示している。
かかる確認試験では、各コンクリート材料(No.1〜15)を用いて5℃で打ち込んで各3個ずつ、外径10cm、高さ20cmの大きさの円柱状のコンクリート構造物試供体を作製した後、当該温度で湿潤養生1日目で型枠を脱型し、この各コンクリート構造物供試体を5℃の水中に浸漬させ、その後1日毎に各コンクリート構造物供試体の表面を目視にて観察し、膨張ひび割れの有無を調べたものである。
【0049】
【表2】
【0050】
表2から、No.1、2、4〜7、9、11、12、14のコンクリート構造物供試体では、水中浸漬後6日(供試体作製後7日)においても、膨張ひび割れの発生は認められなかった。一方、No.10、15のコンクリート供試体では、水中浸漬後6日(供試体作製後7日)までにひび割れが発生した。
また、かかるコンクリート構造物供試体の強度発現性を試験した。
強度発現性は、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」により試験した。その結果を図9及び図10に示す。
【0051】
図9および図10に示す圧縮強度から、これらのひび割れの発生したNo.10、15のコンクリート構造物供試体は、ひび割れの発生しなかった他の供試体と比較して、ひび割れに起因した強度発現性に著しく劣っていることが分かる。
従って、図5〜7、図9及び10並びに表2より、寒冷時のコンクリート材料の打込みにおいて、膨張ひび割れを発生させない単位膨張材量(kg/m3)の添加量の上限の膨張率は、材齢14日において600×10−6以下であればよいことがわかる。
【0052】
以上の結果から、図1において、乾燥収縮によるひび割れに対し抵抗性が得られる150×10−6以上の膨張率を得るためには、コンクリート構造物単位容積あたりの低添加型膨張材の単位膨張材量(kg/m3)の範囲を図1に示す直線L1以上とし、膨張ひび割れを発生させない単位膨張材量(kg/m3)の添加量を直線L2の範囲内とすればよいことがわかる。
【0053】
B.コンクリートのひび割れ抵抗性
現実に建造されたコンクリート構造物では、コンクリート中に埋設される鉄筋や既存のコンクリート構造物に収縮が拘束されることによって引張応力が発生し、この引張応力がコンクリート構造体の引張強度を上回った場合に、コンクリート構造体にひび割れが生じる現象が発生する。
前記に記載する通り打込み後材齢7日における一軸拘束膨張率が150×10−6未満であると、鉄筋などに拘束されたコンクリート構造物であっては、乾燥収縮によるひび割れの可能性があり、(社)土木学会の「膨張コンクリートの設計施工指針」をクリアできないことは、寒冷時も常温時も同じである。
【0054】
本実施例によれば、寒冷時に打ち込むコンクリート材料に中庸熱ポルトランドセメントと低添加型膨張材とを併用することにより、所定の膨張率を満足することはもちろんのこと、初期の膨張ひび割れ、乾燥収縮によるひび割れを抑制することができる寒冷時打込み用ひび割れ低減コンクリートの製造が可能となったことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、特に寒冷時に打ち込むのに有効に適用できるコンクリート素材であって、かかるコンクリート素材により製造されたコンクリート建造物は、強度発現性も優れ、乾燥収縮によるひび割れが顕著となるスラブや壁等の建設構造物を構成する面部材において、初期欠陥となる乾燥収縮に起因するひび割れを効果的に抑制または防止することができるので、寒冷時における、耐久性の更なる向上、耐震性の更なる向上を図ることが可能となり、寒冷時に打ち込む鉄筋コンクリート構造物や鉄骨鉄筋コンクリート構造物に有効に適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒冷時に打ち込むのに用いるコンクリート素材であって、中庸熱ポルトランドセメントと、低添加型膨張材と、骨材とを含み(但し、脂肪酸及び/又はそれらの塩類、高炉徐冷スラグは含まない)、当該コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメント及び低添加型膨張材の総質量に対して混合される水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係であることを特徴とする、寒冷時打込み用コンクリート素材。
【請求項2】
請求項1記載の寒冷時打込み用コンクリート素材において、前記低添加型膨張材はエトリンガイト−石灰複合系膨張材であることを特徴とする、寒冷時打込み用コンクリート素材。
【請求項3】
請求項1または2記載の寒冷時打込み用コンクリート素材において、更に、減水剤を含有することを特徴とする、寒冷時打込み用コンクリート素材。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載の寒冷時打込み用コンクリート素材と水とを含んで混練して得られるコンクリート材料を打ち込んだ後の膨張率が、5℃水中養生7日目以降で150×10−6以上であり、かつ養生14日目で600×10−6以下の範囲内にあることを特徴とする、コンクリート構造物。
【請求項5】
請求項4記載のコンクリート構造物において、前記コンクリート素材中に含有される中庸熱セメント及び低添加型膨張材の総質量に対する前記水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係であることを特徴とする、コンクリート構造物。
【請求項1】
寒冷時に打ち込むのに用いるコンクリート素材であって、中庸熱ポルトランドセメントと、低添加型膨張材と、骨材とを含み(但し、脂肪酸及び/又はそれらの塩類、高炉徐冷スラグは含まない)、当該コンクリート素材中に含有される中庸熱ポルトランドセメント及び低添加型膨張材の総質量に対して混合される水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係であることを特徴とする、寒冷時打込み用コンクリート素材。
【請求項2】
請求項1記載の寒冷時打込み用コンクリート素材において、前記低添加型膨張材はエトリンガイト−石灰複合系膨張材であることを特徴とする、寒冷時打込み用コンクリート素材。
【請求項3】
請求項1または2記載の寒冷時打込み用コンクリート素材において、更に、減水剤を含有することを特徴とする、寒冷時打込み用コンクリート素材。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載の寒冷時打込み用コンクリート素材と水とを含んで混練して得られるコンクリート材料を打ち込んだ後の膨張率が、5℃水中養生7日目以降で150×10−6以上であり、かつ養生14日目で600×10−6以下の範囲内にあることを特徴とする、コンクリート構造物。
【請求項5】
請求項4記載のコンクリート構造物において、前記コンクリート素材中に含有される中庸熱セメント及び低添加型膨張材の総質量に対する前記水の質量割合X(質量%)と、コンクリート構造物単位容積(m3)あたりに含有される低添加型膨張材の単位量Y(kg/m3)とが、次式;
27.5−0.25X≦Y≦37.5−0.25X
を満足する関係であることを特徴とする、コンクリート構造物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−20921(P2011−20921A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235056(P2010−235056)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【分割の表示】特願2005−50301(P2005−50301)の分割
【原出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【分割の表示】特願2005−50301(P2005−50301)の分割
【原出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
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