説明

寸法安定性に優れた不織布

【課題】寸法安定性に優れており、取り扱い性、後加工性に優れた長繊維不織布を提供する。
【解決手段】溶融紡糸された多数のフィラメントを移動ネット上に捕集して得られた不織布ウェブシートを、加熱圧着処理し、引き続き冷却処理する際、不織布ウエッブシートの原料素材のガラス転移温度以下に冷却すると共に、不織布ウエッブシートの幅方向の温度差を8℃以下に制御する、乖離長/一定長で定義される寸法安定指数が0.003以下である長繊維不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性に優れた長繊維不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より長繊維不織布は、多様な用途に使用されているが、シート内の残存歪みによりマザーロールの幅方向(以下、CD方向という)の中央部と端部に、シートの機械方向(以下、MD方向という)の僅かな寸法差が発生していた。マザーロールは、製品に仕立てる際、CD方向にカッターにより切断分割するが、分割時は適度な張力がかかるため、巻き取られたロールの形状は特に問題とならない。しかし、マザーロールにおけるMD方向のシートのMD方向の寸法差が、製品のロールを再展開した時に張力が開放されるため、CD方向でずれが発生する等の問題が生じていた。また、他素材と貼り合わせる際、前記の寸法差が加工時に顕在化し、加工ジワの発生要因となるという問題も生じていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上記問題点を解消し、寸法安定性に優れた不織布を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記問題点を解決すべく鋭意検討の結果、本発明を完成するに到った。即ち本発明は以下の通りである。
1.乖離長/一定長で定義される寸法安定指数が0.003以下である長繊維不織布。
2.長繊維不織布が熱可塑性樹脂からなる単成分繊維で構成された上記1に記載の長繊維不織布。
3.長繊維不織布が熱可塑性樹脂からなる複合繊維で構成された上記1に記載の長繊維不織布。
4.長繊維不織布が熱可塑性樹脂からなる繊維を混繊した繊維で構成された上記1に記載の長繊維不織布。
5.溶融紡糸された多数のフィラメントを移動ネット上に捕集して得られた不織ウェブシートを、加熱圧着処理し、引き続き冷却処理する長繊維不織布の製造方法において、加熱処理されて加熱エンボスロールから離れた直後の不織ウェブシートを冷却手段によって、不織ウェブシートの原料素材のガラス転移温度以下に冷却すると共に、不織ウェブシートの幅方向の温度差を8℃以下に制御した長繊維不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明による長繊維不織布は、寸法安定性に優れており、取り扱い性、後加工性に優れた長繊維不織布を提供できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳しく説明する。
本説明において使用する熱可塑性樹脂からなる繊維で構成された長繊維不織布は経済性の点で他素材に比べて有利であり、特にスパンボンド法による長繊維不織布が好都合である。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、アクリル樹脂等、通常の合成繊維に使用される材料が用いられ、特に限定されるものではない。これらの樹脂に、例えば安定剤、紫外線吸収剤、吸湿剤、顔料等の種々添加剤が含まれても良い。
【0007】
寸法安定性に優れた不織布を得るには、乖離長/一定長で定義される寸法安定指数が0.003以下であることが好ましく、更に好ましくは、0.002以下である。寸法安定指数が0.003を超えると、反りやシワが発生しやすくなり、特に製品ロールのCD方向両端部で大きくなる傾向が強く、問題となりやすい。
【0008】
従来までの製造方法で得られる長繊維不織布において、CD方向の中央部と端部の差を、糸質、加熱エンボスロール幅方向温度差、加熱エンボスロールから離れた直後の不織ウェブシートの温度分布、シート拘束状態等で比較した結果、特に不織ウェブシートの温度差がCD方向中央部と端部で顕著であり、寸法安定指数は0.006であった。
そこで、寸法安定指数を0.003以下にするため、鋭意検討した結果、不織ウェブシート温度が雰囲気温度の影響で冷却される前に、不織ウェブシート温度が高い状態で、CD方向に均一に、繊維に使用している樹脂のガラス転移点温度以下に冷却を行う必要がある。
【0009】
加えて冷却時の拘束状態を向上させる必要もあったため、不織ウェブシート温度が高い状態で、繊維に使用している樹脂のガラス転移点温度以下への均一冷却のため、熱エンボスロールと冷却装置の距離の適正化が必要である。冷却装置としては、水冷ロール等が挙げられるが、シートをCD方向に均一に冷却できる装置であれば、特に限定されるものではない。
熱エンボスロールと冷却装置の距離を近接化すれば効果は上がるが、シート持込熱量と熱エンボスロールの放射熱量を冷却装置が受けることになる。冷却装置として、水冷ロールを使用した場合、水冷ロールの冷却水の水温が上昇する問題がある。
熱エンボスロールと冷却装置の距離は、作業性、作業時の安全性も考慮に入れ検討した結果、0.2m〜3.0mが好ましく、更に好ましくは、0.5m〜1.5mである。
【0010】
また、同時に近接化による水冷ロールへの持込熱量増加に対応するため、冷却水の温度を、不織ウェブシート温度をガラス転移点温度以下に冷却するに充分な適正温度に下げることが好ましい。
【0011】
冷却した不織ウェブシートのCD方向の温度差を8℃以下に制御することが好ましく、更に好ましくは5℃以下に制御することである。温度差が8℃を超えると、不織ウェブシートが均一に冷却されたとは言いがたく、本発明の目的を達成することが困難になるからである。
【0012】
さらに、冷却時のCD方向拘束状態を向上させるためと、ワインダー側からの張力の歪みを排除するため、水冷ロール表面の摩擦係数を0.5以上にすることが好ましい。摩擦係数が0.5未満であると冷却時のCD方向冷却状態及びワインダー側からの張力歪み排除が不足し、シート歪みとなり、加工時のシワ発生につながり好ましくない。
【実施例】
【0013】
以下実施例にもとづいて本発明を詳細に述べる。ただし、以下実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
本発明で用いた測定法は以下の通りである。
【0014】
(寸法安定指数)
不織布の寸法安定性測定法として、寸法安定指数による定量的比較法を適用した。まず、寸法安定指数を明らかにしたい製品をCD方向に等幅で一定長4分割し、紙管に巻き取る。次に、各シートを平らな床面で一定長開反し、不自然なたるみ等を平らに直す。各シートが反った側でシートのCD方向端部のラインに始点を決め、JIS1級のスケールで始点から一定長の距離にある同じ側のシート端部の接点を終点とする。
この一定長間隔の始点と終点に一本の水糸を張り、水糸のセンターからシート端部に垂線を引いて、その距離を乖離長とする。上記測定で得たデータより、下記式にて寸法安定性を算出する。この時、製品単位で最も数値の大きいものを寸法安定指数とした。
寸法安定指数 = 乖離長/一定長
【0015】
<実施例1>
周知のスパンボンドプロセス(例えば特公昭53−32424号公報参照)より製造される2.2dtexのポリエチレンテレフタレートのフィラメントよりなる目付60g/m2のスパンボンド法による不織ウェブシートを、250℃の熱エンボスロール型加熱機で線圧50kg/cmで部分熱圧着し、厚さ0.33mmの長繊維不織布を得た。
この工程で不織ウェブシートが高温の状態で均一冷却するため冷却装置として水冷ロールを使用した。熱エンボスロールと水冷ロールの距離はを0.7mとした。同時に近接化による水冷ロールへの持込熱量増加に対応するため、冷却水の温度を10℃に設定した。不織ウェブシートの水冷ロールへの接触時間は1.59秒であった。不織ウェブシートのCD方向の温度差は5℃であった。なお、冷却時のCD方向拘束状態を向上させるためと、ワインダーからの張力のひずみの影響排除のため、水冷ロール表面はハードクロムメッキ面へ金属溶射により梨地とし、摩擦係数0.5とした。一定長を30mとした時の得られた長繊維不織布の寸法安定指数は0.002であった。
【0016】
<実施例2>
周知のスパンボンドプロセス(例えば特公昭53−32424号公報参照)において、芯成分にポリエチレンテレフタレート樹脂構造である不織布屑、フィルム及び液体飲料用PETボトルより任意の割合で回収された固有粘度0.602の再生ポリマーを使用し、鞘成分に固有粘度0.633のポリエチレンテレフタレート樹脂を使用した芯鞘型複合繊維とし、複合比は芯成分/鞘成分=70/30とした以外は実施例1と同様に長繊維不織布を得た。
この工程で不織ウェブシートが高温の状態で均一冷却するため冷却装置として水冷ロールを使用した。熱エンボスロールと水冷ロールの距離は0.7mとした。同時に水冷ロールへの持込熱量増加に対応するため、冷却水温度を10℃とした。不織ウェブシートの水冷ロールへの接触時間は1.59秒であった。不織ウェブシートのCD方向の温度差は4℃であった。なお、冷却時のCD方向拘束状態を向上させるためと、ワインダーからの張力のひずみの影響排除の為、水冷ロール表面はハードクロムメッキ面へ金属溶射により梨地とし摩擦係数0.5とした。一定長を30mとした時の得られた長繊維不織布の寸法安定指数は0.001であった。
【0017】
<実施例3>
周知のスパンボンドプロセス(例えば特公昭53−32424号公報参照)において、紡糸筒にて混合せずに2種類の繊維、一方はポリプロピレン樹脂からなる長繊維、もう一方に固有粘度0.633のポリエチレンテレフタレート樹脂0.633を使用し、混繊比を50/50とした以外は実施例1と同様に長繊維不織布を得た。
この工程で不織ウェブシートが高温の状態で均一冷却するため冷却装置として水冷ロールを使用した。熱エンボスロールと水冷ロールの距離は0.7mとした。同時に水冷ロールへの持込熱量増加に対応するため、冷却水温度を10℃とした。不織ウェブシートの水冷ロールへの接触時間は1.59秒であった。不織ウェブシートのCD方向の温度差は5℃であった。なお、冷却時のCD方向拘束状態を向上させるためと、ワインダーからの張力のひずみの影響排除の為、水冷ロール表面はハードクロムメッキ面へ金属溶射により梨地とし、摩擦係数0.5とした。一定長を30mとした時の得られた長繊維不織布の寸法安定指数は0.002であった。
【0018】
<実施例4>
周知のスパンボンドプロセス(例えば特公昭53−32424号公報参照)において、芯成分にポリエチレンテレフタレート樹脂、鞘成分にポリエチレン樹脂を使用し、芯鞘型複合繊維とし、複合比は芯成分/鞘成分=70/30とした以外は実施例1と同様に長繊維不織布を得た。更に複合PE/PET短繊維不織布を上記複合繊維と熱カレンダーロール型加熱機にて125℃で貼り合わせた。
長繊維不織布製造工程で不織ウェブシートが高温の状態で均一冷却するため冷却装置として水冷ロールを使用した。熱エンボスロールと水冷ロールの距離は0.7mとした。同時に水冷ロールへの持込熱量増加に対応するため、冷却水温度を10℃とした。不織ウェブシートの水冷ロールへの接触時間は1.59秒であった。不織ウェブシートのCD方向の温度差は5℃であった。なお、冷却時のCD方向拘束状態を向上させるためと、ワインダーからの張力のひずみの影響排除の為、水冷ロール表面はハードクロムメッキ面へ金属溶射により梨地とし、摩擦係数0.5とした。一定長を30mとした時の得られた積層不織布の寸法安定指数は0.002であった。
【0019】
<比較例1>
周知のスパンボンドプロセス(例えば特公昭53−32424号公報参照)より製造される2.2dtexのポリエチレンテレフタレートのフィラメントよりなる目付60g/m2のスパンボンド法による不織ウェブシートを250℃の熱エンボスロール型加熱機にて線圧50kg/cmで部分熱圧着し、厚さ0.33mmの長繊維不織布を得た。
熱エンボスロールと水冷ロールの距離は1.4mとした。不織ウェブシートの水冷ロールへの接触時間は1.59秒であった。水冷ロールの冷却水温度は20℃、不織ウェブシートのCD方向の温度差は11℃、水冷ロール表面はハードクロムメッキ面にて摩擦係数を0.3とした。一定長を30mとした時の得られた長繊維不織布の寸法安定指数は0.006であった。
【0020】
<比較例2>
周知のスパンボンドプロセス(例えば特公昭53−32424号公報参照)より製造される2.2dtexのポリエチレンテレフタレートのフィラメントよりなる目付60g/m2のスパンボンド法による不織ウェッブシートを250℃の熱エンボスロール型加熱機にて線圧50kg/cmで部分熱圧着し、厚さ0.33mmの長繊維不織布を得た。
熱エンボスロールと水冷ロールの距離は0.7mとした。不織ウェブシートの水冷ロールへの接触時間は1.59秒であった。水冷ロールの冷却水温度は20℃、不織ウェブシートのCD方向の温度差は9℃、水冷ロール表面はハードクロムメッキ面にて摩擦係数を0.3とした。一定長を30mとした時の得られた長繊維不織布の寸法安定指数は0.005であった。
【0021】
<比較例3>
周知のスパンボンドプロセス(例えば特公昭53−32424号公報参照)において芯成分にポリエチレンテレフタレート樹脂構造である不織布屑、フィルム及び液体飲料用PETボトルより任意の割合で回収された固有粘度0.602の再生ポリマーを使用し、鞘成分に固有粘度0.633のポリエチレンテレフタレート樹脂を使用した芯鞘型複合繊維とし、複合比は芯成分/鞘成分=70/30とした以外は実施例1と同様に長繊維不織布を得た。
熱エンボスロールと水冷ロールの距離は1.4mとした。不織ウェブシートの水冷ロールへの接触時間は1.59秒であった。水冷ロールの冷却水温度は20℃、不織ウェブシートのCD方向の温度差は11℃、水冷ロール表面はハードクロムメッキ面にて摩擦係数を0.3とした。一定長を30mとした時の得られた長繊維不織布の寸法安定指数は0.005であった。
【0022】
<比較例4>
周知のスパンボンドプロセス(例えば特公昭53−32424号公報参照)において、紡糸筒にて混合せずに2種類の繊維、一方はポリプロピレン樹脂からなる長繊維、もう一方に固有粘度0.633のポリエチレンテレフタレート樹脂0.633を使用し、混繊比を50/50とした以外は実施例1と同様に長繊維不織布を得た。
熱エンボスロールと水冷ロールの距離は1.4mとした。不織ウェブシートの水冷ロールへの接触時間は1.59秒であった。水冷ロールの冷却水温度は20℃、不織ウェブシートのCD方向の温度差は10℃、水冷ロール表面はハードクロムメッキ面で摩擦係数を0.3とした。一定長を30mとした時の得られた長繊維不織布の寸法安定指数は0.006であった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明による長繊維不織布は、寸法安定性に優れており、取り扱い性、後加工性に優れた長繊維不織布が得られるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乖離長/一定長で定義される寸法安定指数が0.003以下である長繊維不織布。
【請求項2】
長繊維不織布が熱可塑性樹脂からなる単成分繊維で構成された請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項3】
長繊維不織布が熱可塑性樹脂からなる複合繊維で構成された請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項4】
長繊維不織布が熱可塑性樹脂からなる繊維を混繊した繊維で構成された請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項5】
溶融紡糸された多数のフィラメントを移動ネット上に捕集して得られた不織ウェブシートを、加熱圧着処理し、引き続き冷却処理する長繊維不織布の製造方法において、加熱処理されて加熱エンボスロールから離れた直後の不織ウェブシートを冷却手段によって、不織ウェブシートの原料素材のガラス転移温度以下に冷却すると共に、不織ウェブシートの幅方向の温度差を8℃以下に制御した長繊維不織布の製造方法。