説明

封入体乾燥重量を用いたタンパク質の測定

本発明は、封入体回収物の乾燥重量に基づいて組み換えタンパク質生産由来のタンパク質産物を測定する方法に関する。より具体的には、本発明は、細菌封入体(IB)回収物中の組み換えタンパク質濃度を算出する方法であって、式中のタンパク質産生性変換係数(PPCF)を用いてIB回収物スラリーのアリコート中の乾燥固形物の総濃度を乗ずるステップを含み、該式の結果が該IB回収物スラリーの該アリコート中の総組み換えタンパク質濃度を提供し、かつ、該組み換えタンパク質についてのPPCFは、アリコート中の総乾燥固形物に対する該アリコート中の組み換えタンパク質の比率に1000を乗ずることによりIB回収物スラリーのアリコートにおいて算出される方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封入体回収物の乾燥重量に基づいて組み換えタンパク質産生由来のタンパク質産物を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌、例えば大腸菌(E. coli)中で産生される組み換えタンパク質の高レベル発現は、封入体として知られる細菌細胞内の不溶性凝集物を形成させることがよくある(Shein et al., Bio/Technology 7:1141-49, 1989)。封入体タンパク質は、概して、宿主中で過剰発現されたタンパク質であり、それは、発現または精製の後期段階において、位相差顕微鏡検査によって沈殿物として可視である。封入体は高電子密度の無定形粒子であり、細胞質に対して分離した境界を有するが、膜に囲まれていない(Schoemaker et al., EMBO J 4:775-780, 1985)。封入体の調製中に、種々のタイプの相互作用が、内毒素、細胞壁細片、および脂質等の他の混入物の二次吸着を生じさせる(Marston FAO, Biochem. J. 240:1-12, 1986)。封入体の平均粒子サイズは、発現される具体的な標的タンパク質、使用される宿主株、発現系および培養培地次第であり、ヒト成長ホルモンに関する0.07μm(Blum P et al., Bio/Technology 10: 301-304, 1992)〜β−ラクタマーゼに関する1.5μm(Bowden et al., Bio/Technology 9: 725-730, 1991)の範囲内でありうる。封入体についての追加の説明は米国特許第4,512,922号に見出すことができる。該文献では、封入体を「屈折体(refractile bodies)」として表す。
【0003】
封入体は、概して、細胞を(例えば、リゾチームによる溶解、超音波処理または高圧ホモジナイゼーションによって)溶解した後、数回の遠心分離および洗浄ステップによって細胞溶解物から回収される。例えば、米国特許第4,511,503号;同第4,518,526号;同第5,605,691号;および同第6,936,699号を参照されたい。そして、精製された封入体を例えば界面活性剤または他の溶液(尿素、SDS、塩酸グアニジン)で溶解するかまたは変性させ、それにより、不溶性タンパク質分子をアンフォールディングさせて可溶性にする。次いで、例えば、透析、分子篩、または高速の遠心分離によって高分子量成分を除去し、変性剤をデカントすることによって変性剤を除去することができる。そして、組み換えタンパク質を単離し、リフォールディングさせて、生物学的に活性である正しい高次構造を形成させる。
【0004】
最も効率的なリフォールディング反応を保証するために、リフォールディング反応におけるタンパク質の量および濃度を調節することが重要である。典型的には、封入体から回収されたタンパク質を、封入体回収物のアリコートについての高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって測定する。しかし、HPLC法によるリアルタイム分析は複雑でかつ時間がかかる性質のプロセスである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,512,922号
【特許文献2】米国特許第4,511,503号
【特許文献3】米国特許第4,518,526号
【特許文献4】米国特許第5,605,691号
【特許文献5】米国特許第6,936,699号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shein et al., Bio/Technology 7:1141-49, 1989
【非特許文献2】Schoemaker et al., EMBO J 4:775-780, 1985
【非特許文献3】Marston FAO, Biochem. J. 240:1-12, 1986
【非特許文献4】Blum P et al., Bio/Technology 10: 301-304, 1992
【非特許文献5】Bowden et al., Bio/Technology 9: 725-730, 1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ゆえに、当技術分野において、組み換えタンパク質産生中に産生された組み換えタンパク質レベルを測定する、より効率的かつ正確な方法の必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
本発明は、組み換えタンパク質(細菌)培養物中で産生され、封入体に輸送されたタンパク質を測定するための改良された方法に関する。
【0009】
一態様では、本発明は、細菌封入体(IB)回収物中の組み換えタンパク質濃度を算出する方法であって、IB回収物スラリーのアリコート中の乾燥固形物の総濃度および式中のタンパク質産生性変換係数(PPCF)を乗ずるステップを含み、該式の結果が該IB回収物スラリーの該アリコート中の組み換えタンパク質総濃度を提供し、かつ、該組み換えタンパク質についてのPPCFは、アリコート中の総乾燥固形物に対する該アリコート中の組み換えタンパク質の比率に1000を乗ずることによりIB回収物スラリーのアリコートから決定される方法を提供する。総組み換えタンパク質は以下の式にしたがって算出することができる:
[(総乾燥固形物,mg)/(IB回収物スラリーアリコート,g)×PPCF]×総IB回収物スラリー重量,g=(総組み換えタンパク質,mg)。
【0010】
タンパク質産生性変換係数は以下の式にしたがって算出することができる:
(PPCF)=[該アリコート中の組み換えタンパク質(mg)/該アリコート中の総乾燥固形物(mg)]×1000。
【0011】
別の実施形態では、測定対象の代替単位に基づいて変換係数を算出する。例えば、濃度は、g/kg、g/L、mg/g、mg/mLとして表記することができ、物質の密度が1に非常に近いので、概して等価である。そのように、密度が1g/mLに近いと仮定すれば、mg/mL単位の濃度はmg/gと等価である。
【0012】
一態様では、組み換えタンパク質は、形質転換された細菌、すなわち、異種タンパク質をコードする遺伝子の発現を指揮する組み換えDNAベクターで形質転換またはトランスフェクトされている細菌中の不溶性封入体の形態で細菌中で発現される任意のタンパク質であってよい。本発明の方法での使用に想定される組み換えタンパク質には、非限定的に、抗体(例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、Fab、F(ab’);Fv;Sc FvまたはSCA抗体断片、二重特異性抗体、ダイアボディー(diabody)、ペプチボディー(peptibody)、キメラ抗体;および線状抗体)、酵素、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、転写因子、膜貫通タンパク質、細胞表面受容体、細胞接着タンパク質、細胞骨格タンパク質、融合タンパク質、または任意の上記タンパク質の断片もしくはアナログが含まれる。
【0013】
一実施形態では、1つの封入体回収物アリコートについてのPPCFを用いて、同じプロトコールに従い得られた異なる発酵封入体回収物から組み換えタンパク質濃度を算出する。
【0014】
別の態様では、本発明は、前記封入体回収物スラリーのアリコート中の総組み換えタンパク質を、最初にHPLCアッセイによって測定することを想定する。一実施形態では、封入回収物アリコート中の封入体の可溶化後にタンパク質の力価を測定し、サンプル中の組み換えタンパク質をHPLC分析によって測定する。
【0015】
別の態様では、乾燥ステップ前に封入回収物アリコート内の封入体を可溶化しない。
【0016】
本発明は、さらに、マイクロ波照射により単離封入体スラリーを乾燥することによって封入体アリコートの乾燥重量を算出することを想定する。一実施形態では、乾燥ステップは熱の使用をさらに含む。別の実施形態では、CEM LabWave 9000を用いて乾燥ステップを実施する。当技術分野において一般的な技術を使用して組み換えタンパク質の乾燥重量を測定することがさらに想定され、該技術には、加熱、マイクロ波照射、空気乾燥、凍結乾燥(lyophilization)、凍結乾燥(freeze-drying)、および真空乾燥が含まれる。サンプルの乾燥後、標準バランス機構を使用して固形物の乾燥重量を測定する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
本発明は、組み換えタンパク質宿主細胞培養物中で産生され、封入体に輸送されたタンパク質を測定するための改良された方法に関する。
【0018】
本明細書中で開示されるように、同一または本質的に同一の発酵条件下では、封入体形成が本質的に規則正しいプロセスであり、封入体の組み換えタンパク質組成が非常に一貫していることが発見された。封入体形成および組成のこの一貫性が発見されたため、封入体回収物スラリーの乾燥重量または固形物パーセントを測定し、次いでこの乾燥重量測定値にあらかじめ決定された変換係数を乗ずることにより封入体中の組み換えタンパク質濃度を決定する方法が提案および検証された。封入体組成の一貫性に依存して、該方法は、タンパク質特有の変換係数を算出するために封入体回収物のほんの少量のアリコート中で組み換えタンパク質濃度を決定し、時間がかかる複雑な方法、例えばHPLCを用いて全体の封入体回収物中のタンパク質を測定する必要性を排除する。所定の宿主細胞中で所定の組み換えタンパク質を製造するための発酵プロセスが設計および確立されたら、該タンパク質に関する変換係数を使用して、異なる封入体バッチ回収物に関する総組み換えタンパク質を外挿することができ、発酵プロセスが本質的に不変のままである限り、バッチごとに計算を実施する必要はない。この知見は、リフォールディング等の重要なプロセスステップの前にタンパク質の量/濃度を調節する、高速で、堅調でかつ高価でない方法を提供する。さらに、あらかじめ決定された変換係数を使用して、発酵プロセスの一貫性をモニターすることができる。
【0019】
用語「組み換えタンパク質」とは、異種DNA分子でトランスフェクトされた宿主細胞中で発現される異種タンパク質分子を表す。
【0020】
用語「封入体」とは、宿主細胞中で発現されたタンパク質を含有する細菌宿主細胞内の不溶性凝集物を表す。トランスフェクトされた宿主細胞中の封入体中のタンパク質は大部分が組み換え(異種)タンパク質であるが、内因性(または相同)宿主細胞タンパク質が総タンパク質の一部分を構成しうる。
【0021】
用語「封入体回収物」とは、組み換えタンパク質の製造のための発酵プロセス中に生成された、回収された封入体を表す。封入体回収物は種々の程度の純度を有しうる。死滅後(Post Kill)サンプルは、溶解前であるが、当技術分野の公知技術を用いた細菌の死滅後の細菌培養物のサンプルを表す。細胞ペースト(Cell Paste)は、封入体を放出させるための細菌宿主細胞の溶解前の、典型的には遠心分離によって回収された封入体回収物のサンプルを表す。洗浄された封入体(WIB)部分は、封入体を少なくとも1回または2回(2回洗浄封入体,DWIB)洗浄した後の封入体回収物を表す。
【0022】
用語「封入体スラリー」または「封入体回収物スラリー」とは、封入体ペレット部分(volume)および、例えば遠心分離および上清のデカンテーションによる封入体の回収後に残留する任意の残留部分を含有する封入体回収物を表す。封入体スラリーは、水に再懸濁または部分的に再懸濁された封入体ペレットを含みうる。
【0023】
用語「乾燥重量」とは、マイクロ波、加熱または当技術分野の他の公知技術によってサンプルからすべての液体を除去した後の封入体スラリーアリコートの重量を表す。乾燥重量は、総封入体固形物または、封入体固形物中の組み換えタンパク質のパーセントに基づいて組み換えタンパク質の重量を表してもよい。
【0024】
用語「固形物パーセント」とは、サンプルを乾燥しかつサンプル中のすべての液体を除去した後の封入体回収物スラリーアリコート中の固形物の量を表す。
【0025】
用語「タンパク質産生性変換係数」(PPCF)とは、特定の発酵条件下で封入体回収物から精製される組み換えタンパク質に特有の数値を表し、該数値は、同一サンプル中の総封入体乾燥固形物重量に対するサンプル中の組み換えタンパク質の重量の比率に比例する。このタンパク質産生性変換係数は、封入体回収物から回収される総組み換えタンパク質の測定を可能にする。一態様では、タンパク質産生性変換係数をHPLCアッセイによって決定する。PPCFは以下の式によって算出される:
PPCF=[(IB回収物アリコート中の総組み換えタンパク質,mg)/(同一IB回収物アリコート中の総乾燥固形物,mg)]×1000。
【0026】
用語「総組み換えタンパク質濃度」とは、封入体回収物の乾燥固形物の総重量中の封入体中の組み換えタンパク質の重量に基づく、発酵プロセスから回収される総タンパク質を表す。総組み換えタンパク質は以下の式を用いて算出することができる:
[(総乾燥固形物,mg)/(IB回収物スラリーアリコート,g)×PPCF]×総IB回収物スラリー重量(g)=(総組み換えタンパク質,mg)。
【0027】
本発明は、計画的な発酵プロセスで産生された任意の組み換えタンパク質に関するタンパク質産生性変換係数を決定するために有用である。本発明の方法での使用に想定される組み換えタンパク質には、非限定的に、抗体(例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、Fab、F(ab’)、Fv;Sc Fvまたは単鎖抗体断片、二重特異性抗体、ダイアボディー、ペプチボディー、キメラ抗体;および線状抗体)、酵素、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、転写因子、膜貫通タンパク質、細胞表面受容体、細胞接着タンパク質、細胞骨格タンパク質、融合タンパク質、または任意の上記タンパク質の断片もしくはアナログが含まれる。
【0028】
封入体の精製および単離
封入体を単離し、封入体から組み換えタンパク質を精製するための技術、およびタンパク質をリフォールディングまたは再生させる技術は当業者に周知である。例えば、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: a Laboratory Manual, pp. 17.37-17.41, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989); Rudolph, R. et al., FASEB J. 10:49-56 (1995)を参照されたい。
【0029】
封入体の精製は当技術分野の周知技術を用いて実施することができる。例えば、Ausubel et al.,(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, New York , NY, Ch, 1994)を参照されたい。まず細胞を遠心分離して細胞ペレットを得る。次いでペレットを適切なバッファーに再懸濁し、高圧下、超音波処理、または化学的手段、例えばリゾチームまたは変性剤の添加により細胞を溶解することによって封入体を放出させる。本発明では、封入体の可溶化を生じさせない条件下で細胞を溶解することが想定される。
【0030】
発酵プロセス中のタンパク質に関するPPCFを算出する目的で、当技術分野において一般に使用される試薬を用いて封入体回収物のアリコート中のタンパク質を可溶化することができ、該試薬には、グアニジン塩、尿素、界面活性剤、および他の有機溶媒が含まれる(例えば米国特許第5,605,691号およびBruggeman et al., Biotechniques 10:202-209 (1991)を参照のこと)。可溶化剤の効力はタンパク質の物理的特性に伴って変動することが知られている。典型的なグアニジン塩には、グアニジン−HClが含まれる。典型的な界面活性剤には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Triton−X、カプリル酸、コール酸、1−デカンスルホン酸、デオキシコール酸、グリココール酸、グリコデオキシコール酸、タウロコール酸、タウロデオキシコール酸、および硫酸のナトリウム塩の界面活性剤ファミリーのメンバー(例えば、テトラデシル硫酸ナトリウムおよびヘキサデシル硫酸ナトリウム)(米国特許第5,605,691号を参照のこと)。これらの試薬を、単独で、または互いにもしくは精製される組み換えタンパク質に適切な他の試薬と組み合わせて使用してよい。
【0031】
タンパク質発現
本発明の目的の封入体は細菌宿主株での組み換えタンパク質発現によって形成される。本発明での使用に想定される細菌宿主株には、大腸菌株が含まれ、それには、非限定的に、BL21(DE3)、BL21(DE3)pLysS、およびBL21(DE3)pLysE(F. W. Studier et al., Methods in Enzymology 185:60-89 (1990))、MC1061、AG1、AB1157、BNN93、BW26434、CGSC株#7658、C60、C600hflA150(Y1073、BNN102)、D1210、DB3.1、DH1、DH5α、DH10B、DH12S、DM1、ER2566(NEB)、HB101、IJ1126、IJ1127、JM83、JM101、JM103、JM105、JM106、JM107、JM108、JM109、JM109(DE3)、JM110、JM2.300、LE392、Mach1、MC4100、MG1655 Rosetta(DE3)pLysS、Rosetta−gami(DE3)pLysS、RR1、STBL2、STBL4、SURE、SURE2、TG2、TOP10、Top10F’、W3110、XL1−Blue、XL2−Blue、XL2−Blue MRF’、XL1−Red、XL10−Gold、XL10−Gold KanRが含まれる。組み換えタンパク質産生に好適でかつ封入体を形成する、当技術分野において公知の他の菌株を本発明の方法で使用してよい。
【0032】
当技術分野において公知の標準発酵手順に従って選択株において組み換えタンパク質を発現させる。該手順は、使用される菌株および発現される組み換えタンパク質に合わせて作り変えることができる。例えば、細菌培養物を選択密度(OD600)の培養物にまで増殖させ、封入体の回収前に適切な選択培地に入れてよい。Ausubel et al.,(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, New York, NY, 1994)を参照されたい。組み換えタンパク質生産の方法は例えば米国特許第6,759,215号および米国特許第6,632,426号に記載されている。
【0033】
封入体回収物中のタンパク質の測定
封入体回収物のアリコート中の組み換えタンパク質濃度は、当技術分野の公知方法を用いて測定することができ、該方法には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、イオン交換クロマトグラフィー、Bradfordアッセイ、UV吸光度、蛍光技術、またはウエスタンブロット分析が含まれる。上記方法のうち、HPLC法は、同一試験実施においてサンプルのタンパク質濃度および純度の両者の算出を可能にする。そのようなものとして、本発明の一態様では、HPLCを用いてサンプル中のタンパク質の濃度を得ることが想定される。
【0034】
発酵培養物および封入体回収物のアリコート中のタンパク質の量を決定するために、HPLC滴定(HPLC titer)を実施する。HPLC滴定では、IB回収物のサンプルアリコートを回収し、封入体を可溶化し、タンパク質を変性させる。次いでサンプルをHPLC用に調製し、当技術分野において周知の方法および技術を用いて(Current Protocols in Protein Chemistry, John Wiley and Sons, New York , NY, 1994)、かつ本明細書中に記載のようにタンパク質サンプル中のタンパク質純度/濃度を決定する。IB回収物アリコート中の組み換えタンパク質濃度の測定方法にかかわらず、算出された濃度を用いてタンパク質産生性変換係数を決定する。
【0035】
封入体乾燥重量または固形物パーセントの測定方法
当技術分野の任意の方法を用いて封入体回収物の乾燥重量または固形物パーセントを測定することができ、該方法には、加熱、マイクロ波照射、空気乾燥、凍結乾燥(lyophilization)、凍結乾燥(freeze-drying)、および真空乾燥が含まれる。サンプルの乾燥後、標準バランス機構を用いて固形物の乾燥重量を測定する。
【0036】
加熱およびマイクロ波照射の組み合わせはサンプルアリコートの乾燥およびそれに含まれる固形物パーセントの測定に有効である。一態様では、マイクロ波照射および加熱を用いて封入体回収物を乾燥される。CEM LabWave 9000機器(CEM Corporation, Matthews, NC)は、0.01%分解能までで、液体、固体、およびスラリー中の0.01%〜99.99%の水分/固形物範囲に達するように設計されている。この機器は、0.1mg判読性のタンパク質出力を提供し、フルパワー(630ワット)の0〜100%のマイクロ波パワーを1%増分で提供する。関連する実施形態では、当技術分野において公知の他の水分分析装置を用いて封入体サンプルを乾燥されることができ、該装置には、非限定的に、CEM AVC−80マイクロ波水分分析計、CEM Smart System、Denver Instrument M2マイクロ波分析計(Denver Instruments, Denver, CO)、Omnimark uWave(Sartorius-Omnimark, Goettingen, Germany)、およびSartorius MMA30(Sartorius, Goettingen, Germany)が含まれる。
【0037】
以下に実施例を挙げ、本発明の種々の非限定的な実施形態を説明し、かつ/またはしたがって裏付けを提供する。
【実施例】
【0038】
実施例1
組み換えタンパク質は大腸菌において不溶性封入体として発現されることがよくある。従来、封入体は、過剰発現された組み換えタンパク質のランダムな沈殿であると考えられた。しかし、最近は、封入体は規則正しい凝集プロセスにおいて形成することが示唆されており、これらの封入体が一貫した組み換えタンパク質組成を有することが見出されれば、発酵および封入体回収物ごとに複雑で時間がかかるHPLC法を用いて封入体回収物中の組み換えタンパク質濃度を定量化することはもはや必要でない。ゆえに、封入体が、一貫した組成において組み換えタンパク質を有する規則正しい様式で生産されるかどうかを決定するために、最少の実験努力でタンパク質含量の定量化を可能にする数学的モデルの作成を試みる初期実験を設計した。
【0039】
組み換えヒト顆粒球コロニー刺激因子(r−metHuG−CSF)を生成する細胞発酵プロセスの終了時点で、高圧を用いて大腸菌宿主細胞を溶解し、タンパク質可溶化およびリフォールディングの前に複数回の遠心分離プロセスによって封入体を回収した。次いでこの封入体ブロスをまずタンパク質濃度分析に使用した。
【0040】
乾燥サンプル中の宿主タンパク質および他の混入物と比較されたr−metHuG−CSFタンパク質の量を決定するために、封入体「産生性」を決定する。産生性は、封入体サンプル中のサンプルタンパク質と総乾燥重量との比率と定義され、この比率は、1000を乗ずると、設定された発酵プロセスにおいて発現される所望の組み換えタンパク質に関するタンパク質産生性変換係数(PPCF)をもたらす:
PPCF=[(総組み換えタンパク質,mg)/(総乾燥固形物,mg)]×1000。
【0041】
この比率の決定において、IB回収物スラリーのアリコートを用いてRP−HPLCを実行した。IB回収物スラリーの一部分を試験管中でボルテックスにかけるかまたはビーカー中で攪拌することによって懸濁し、30mLのインキュベーション/変性バッファー(8MグアニジンHCl,50mM Tris,5mM EDTA,50mM DTT,pH8.4±0.1)に1mLの懸濁ブロスを加えた。水浴中で65±3℃で約30分、混合物をインキュベートし、その後、40μLの変性させかつ還元されたr−metHuG−CSFをAgilent 1100 HPLC(Agilent, Santa Clara, CA)の4.6×100mm POROS R1/10カラム(Applied Biosystems, Foster City, CA)に注入した。2mL/分の流速で9分間にわたり60%移動相A[水中の0.1%(v/v) TFA(sequanal grade, Pierce, Rockford, IL),7%(v/v) IPA]〜55%移動相B[アセトニトリル(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)中の0.1%(v/v) TFA,5%(v/v) IPA]を用いる急速な勾配条件下で約6.2分の時点で組み換えタンパク質が溶出した。分析中ずっと、214nmに設定されたオンラインUV検出器を用いてタンパク質ピークを定量化した。直線回帰によって構築された標準検量線から各サンプル中のr−metHuG−CSFタンパク質含量を算出した。
【0042】
細胞破壊前に採取された細胞発酵サンプル、例えば死滅後サンプルおよび細胞ペーストサンプル、すなわち発酵ブロスの遠心分離後の細胞ペレットから採取されたサンプルは、宿主細胞タンパク質を含めた大量の大腸菌成分を含有する。HPLC分析では、細胞ペースト中の組み換えr−metHuG−CSFタンパク質の平均は細胞ペーストの総乾燥重量の約29%であることが示された(表1および2)。また、追加の分析では、この細胞ペースト中の大腸菌宿主細胞タンパク質とサンプルタンパク質との比率がさまざまであり、細胞ペースト産生性の相対的に大きい変動性に反映されることが示された(表1および2)。表1は、2回洗浄封入体(DWIB)とDWIBの取得元の細胞ペースト中の産生性の間の産生性の比較である。産生性は総乾燥重量に対するサンプルタンパク質の比率に100%を乗じたものとして表記される。表2は、やはり、WIBの取得元の細胞ペーストと比較された洗浄封入体(WIB)における産生性の比較を示す。
【表1】

【表2】

【0043】
これらの結果およびHPLC分析は、細胞の溶解後に、遠心分離ステップによって封入体フラクションから大部分の宿主細胞タンパク質が除去されることを示す。封入体、洗浄封入体および2回洗浄封入体はほぼ同一のプロファイルで溶出し、組み換えr−metHuG−CSFタンパク質は厳格な溶出プロファイルを示す。分析では、組み換えタンパク質が封入体中の総タンパク質のほぼ93%を占めることが示された。
【0044】
平均組み換えタンパク質産生性は細胞ペーストにおける29%から封入体における67%に増加する。さらに、産生性の変動性(RSD)は細胞ペーストにおける8%から封入体における3%に減少する(表1および2)。
【0045】
本発明では、組み換えタンパク質が発酵回収物間で規則正しく一貫した様式で封入体を形成しかつ同一または本質的に同一のプロトコールに従って発酵が実行される場合に、IB回収物スラリーのアリコートに関して決定されたタンパク質産生性変換係数を用いて、他の発酵回収物中のタンパク質を測定することができる。例えば、本明細書中に記載のように算出されれば、スラリー中の乾燥固形物に上で決定されたPPCFを乗ずることによって所定の量のIB回収物スラリー中の総タンパク質を容易に決定することができ、同一発酵条件下で生成されたIB回収物ごとにHPLCを実施する必要はない。
【0046】
実施例2
上記乾燥重量分析がIB回収物中の組み換えタンパク質濃度の正確な予測を可能にするかどうかを決定するために、上記のように乾燥重量サンプルを用いて得られた予測組み換えタンパク質濃度を、HPLCを用いて測定されたサンプル濃度と比較した。
【0047】
HPLCサンプル調製物は上記力価アッセイと同一であり、40μLの変性させかつ還元されたIB回収物スラリーサンプルをAgilent 1100 HPLC(Agilent, Santa Clara, CA)の粒径5μmおよび孔サイズ300Åの4.6mm ID×150mm C4結合相シリカカラム(YMC, Shimogyo-ku, Kyoto, Japan)に注入した。0.8mL/分の流速で80分間にわたり20%移動相A[水中の0.1%(v/v) TFA]〜85%移動相B[90%アセトニトリル中の0.1%(v/v) TFA]を用いる完全勾配条件下で還元タンパク質混合物を分離した。分析中ずっと、214nmに設定されたオンラインUV検出器を用いてタンパク質ピークをモニターした。
【0048】
従来のHPLCアッセイと比較すると、乾燥重量アッセイはHPLCアッセイでの結果と相関した(表3)。HPCLアッセイと乾燥重量アッセイとの相関に関して、変換係数として670を使用した。
【表3】

【0049】
2つのアッセイ間の差異は固有の変動性の組み合わせであり、主にHPLCアッセイに起因するものであった。その理由は、それが1回の測定であったため、および概して大きい変動性を有するためである。これらの2つのアッセイの間の平均の差異は0.3%ほどの小さい差異であった。乾燥重量アッセイの精度はおそらく±3%以内である。
【0050】
これらの結果は、封入体タンパク質含量に基づいてタンパク質濃度を算出することによってタンパク質の乾燥重量を測定する方法が、タンパク質リフォールディングステップに進む前にタンパク質濃度を測定するための正確で高速な方法であることを示した。この方法を用いてタンパク質濃度を測定すると、HPLCサンプルを調製するために必要な時間を節約でき、かつこれらのサンプルの調製に関する費用も節約できる。さらに、乾燥重量測定の使用は、タンパク質リフォールディングステップに必要な試薬の算出前にタンパク質濃度を測定するための正確な方法である。したがって、本方法はタンパク質大量生産においてタンパク質濃度を測定するための高速で安価な方法を提供する。
【0051】
実施例3
上記乾燥重量アッセイに影響する要因を特定するために、異なる調製ステップに付されたIBサンプルに対してアッセイを実施した。
【0052】
封入体サンプル中の変動性の程度を決定するために、新規乾燥重量測定によって得られたr−metHuG−CSFタンパク質濃度を慣用のHPLC測定によって得られた濃度と比較した。変動性に関するマイナーな要因はサンプルの濃度であった。IB回収物スラリーサンプルを非常に希釈すると、秤量変動性が増加する。サンプルあたり計4回の測定に関して、通常、2つの機器で2回重複して乾燥重量アッセイを実施した。HPLCアッセイはその複雑さゆえに通常1回の測定であった。
【0053】
乾燥重量および固形物パーセントの測定のために、試験管中でボルテックスにかけるかまたはビーカー中で攪拌することによって封入体ブロスを懸濁した。約2mLの懸濁ブロスをCEM Smart System固形物および水分分析計、CEM LabWave 9000(CEM Corporation, Matthews, NC, USA)のあらかじめ秤量された(pre-tared)サンプルパッドに載せた。r−metHuG−CSFサンプルを加熱し、100%パワーレベルで5分間乾燥した。固形物パーセントは機器によって自動的に算出される。
【0054】
乾燥重量測定間の比較の結果を表4および5に示す。表4は凍結サンプルを用いた乾燥重量アッセイの精度を示す。
【表4】

【0055】
新鮮なサンプルを用いて乾燥重量の精度をさらにアッセイした。ロットあたり計4回の測定に関して2つの別々の機器を用いてロットあたり2種類の測定を実施した。新鮮なサンプル測定の平均を表5に示す。
【表5】

【0056】
概して、乾燥重量アッセイの精度は2つの要因によって影響されることが見出された。主要な要因はサンプルの新鮮さである;封入体は凍結−解凍時または4℃での長期保存時に凝集する傾向があり、それはサンプルの不均質性および高いアッセイ変動性を生じさせる。
【0057】
上で示される結果は、封入体乾燥重量測定が典型的なHPLC測定を用いて得られた結果に匹敵し、IB回収物サンプルを最初に凍結するかまたは4℃で保存するかにかかわらず、依然として正確であることを示す。検出された固形物パーセントは測定前のサンプル調製に起因して変動するが、乾燥重量測定は一貫しており、従来のHPLCタンパク質測定を用いて得られた結果と一致する。ゆえに、本発明は、リフォールディング反応前に必要とされるサンプルの量を減らし、それによりリフォールディング反応に利用可能な量を増加させるために、封入体回収物中のタンパク質濃度を測定するための正確で効率的な方法を提供し、また、組換えタンパク質生産におけるリフォールディングステップへのタンパク質入力の良好な制御を提供し、最終的に、組換えタンパク質収率および品質を改良する。
【0058】
上の説明のための実施例において記載される発明に関して、多数の改変およびバリエーションが当業者に自明であると予測される。したがって、特許請求の範囲に記載される限定のみが本発明に適用されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌封入体(IB)回収物中の組み換えタンパク質濃度を算出する方法であって、式中のタンパク質産生性変換係数(PPCF)を用いてIB回収物スラリーのアリコート中の乾燥固形物の総濃度を乗ずるステップを含み、該式の結果が該IB回収物スラリーの該アリコート中の総組み換えタンパク質濃度を提供し、かつ、該組み換えタンパク質についてのPPCFは、アリコート中の総乾燥固形物に対する該アリコート中の組み換えタンパク質の比率に1000を乗ずることによりIB回収物スラリーのアリコートにおいて算出される、上記方法。
【請求項2】
1つの封入体回収物アリコートについてのPPCFを用いて、同じプロトコールに従い得られた異なる発酵封入体回収物から組み換えタンパク質濃度を算出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記IB回収物スラリーのアリコート中の総組み換えタンパク質を、最初にHPLCアッセイによって測定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
乾燥重量を、マイクロ波照射により単離封入体スラリーを乾燥することによって算出する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥ステップが熱の使用をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥ステップを、CEM LabWave 9000を用いて行なう、請求項7に記載の方法。

【公表番号】特表2011−527744(P2011−527744A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515289(P2010−515289)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/069529
【国際公開番号】WO2009/006643
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(500049716)アムジエン・インコーポレーテツド (242)
【Fターム(参考)】