説明

導体接続器

【課題】雌接続器において、接触子が溝部から外れることを防止する。
【解決手段】中空体11の一方端から軸方向に向けて形成された挿入孔12の内周面に周方向に沿って形成された溝部18と、径方向内側に突出して溝部18内に嵌め込まれた環状の接触子17と、溝部18における挿入孔12の軸方向に対向した2箇所の縁部から溝部18の内側に向けてそれぞれ形成され、溝部18に嵌め込まれた接触子17が溝部18から外れる方向に移動したときに干渉する一対の突起部20を有する。溝部18は、挿入孔12に嵌め込まれて挿入孔12の軸方向に間隔を空けて配置され、接触子17を挟んだ複数のリング16により形成され、突起部20はリング16に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給用バイパスケーブル(以下、「電力ケーブル」という。)等の接続に用いられる導体接続器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力ケーブル等を接続するため、一方の導体接続器としての雌接続器と他方の導体接続器としての雄接続器とを嵌合することが行われている。すなわち、2本の電力ケーブルの一方の端部に雌接続器を、他方の端部に雄接続器をそれぞれ固定しておき、雌接続器と雄接続器とを嵌合させて電力ケーブル相互間の導通をとるというものである。
【0003】
ここで、従来の雌接続器51では、図12に示すように、導電性を有する円筒の中空体53には、雄接続器52が挿入される挿入孔53aが一方の端部から軸方向に沿って形成されている。そして、挿入孔53aの内周面には環状に溝部53bが形成されており、その溝部53b内に、挿入された雄接続器52を径方向に作用する弾性力により接触を確実に維持するための接触子54が1または複数個嵌め込まれている。また、図13に示すように、接触子54は溝部53bから径方向内側に突出している。
【0004】
なお、導体接続器に関する技術としては、例えば特開2000−133092号公報や実開平4−124762号公報に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−133092号公報
【特許文献2】実開平4−124762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の構造では、接触子が内側に突出しているため、挿入される雄接続器の先端が引っ掛かって浮き上がり、溝部から外れてしまうことがあった。
【0007】
前述のように接触子は挿入された雄接続器との接触を維持するためのものであるために、接触子が溝部から外れてしまうと所期の接触維持力が得られなくなってしまい、接続信頼性を損なうことになる。
【0008】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、接触子が溝部から外れることを防止できる導体接続器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の導体接続器は、相手方嵌合体が挿入される挿入孔が一方の端部から軸方向に向けて形成された導電性を有する中空体と、前記挿入孔の内周面において周方向に沿って形成された溝部と、前記溝部から径方向内側に突出して前記溝部内に嵌め込まれ、挿入された前記相手方嵌合体との接触を径方向に作用する弾性力で維持する環状の接触子と、前記溝部における前記挿入孔の軸方向に対向した2箇所の縁部から当該溝部の内側に向けてそれぞれ形成され、前記溝部に嵌め込まれた前記接触子が当該溝部から外れる方向に移動したときに干渉する一対の突起部と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明において、前記溝部は、前記挿入孔に嵌め込まれて当該挿入孔の軸方向に間隔を空けて配置され、前記接触子を挟んだ複数の環状部材により形成され、前記突起部は前記環状部材に形成されている、ことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、上記請求項2に記載の発明において、前記挿入孔の端部には、当該端部側に位置する前記環状部材に対して前記挿入孔から脱落する方向への移動を規制する規制部材が設けられている、ことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、上記請求項1〜3の何れかに記載の発明において、前記接触子は、幅方向両端に形成された環状の2つのプレート部と、前記プレート部の間に形成されるとともに前記溝部から突出して相手方嵌合体と接触する接触部とを備え、前記プレート部は、周方向に連続して形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、溝部に嵌め込まれた接触子が外れる方向に移動したときに突起部に干渉するので、接触子が溝部から外れることを防止することが可能になる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、挿入孔内に直接溝部を加工することが困難な場合であっても、接触子を挟むようにして環状部材を挿入孔内に嵌め込むことにより、突起部のある溝部を容易に形成することが可能になる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、環状部材および接触子が挿入孔から脱落してしまうことを防止することができる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、接触子がよりいっそう溝部から外れにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態である雌接続器が適用される一例としての電線張替え工事を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態である雌接続器の分解斜視図である。
【図3】図2の雌接続器を構成する中空体を示す断面図である。
【図4】図2の雌接続器の要部を破断して示す斜視図である。
【図5】図2の雌接続器の要部の断面図である。
【図6】図2の雌接続器を一方側の端面から見た側面図である。
【図7】図2の雌接続器に嵌め込まれた第1リングを示す断面図である。
【図8】図2の雌接続器に嵌め込まれた第2リングを示す断面図である。
【図9】図2の雌接続器に嵌め込まれた第3リングを示す断面図である。
【図10】図2の雌接続器における溝部と当該溝部に嵌め込まれた接触子とを示す説明図である。
【図11】本発明の一実施の形態の変形例としての雌接続器における溝部と当該溝部に嵌め込まれた接触子との関係を示す説明図である。
【図12】従来の雌接続器と雄接続器とを示す説明図である。
【図13】従来の雌接続器における溝部と当該溝部に嵌め込まれた接触子とを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。

【0019】
本実施の形態の導体接続器は電力ケーブル等を接続するための一方の導体接続器としての雌接続器であり、他方の導体接続器である雄接続器と嵌合することにより、2本の電力ケーブル間の導通がとられるものである。
【0020】
このような導体接続器は、例えば図1に示すように、電線の電柱建替えや、電線張替え工事などの作業区間をバイパスして仮送電し、作業区間を無電圧状態で作業する工事用ケーブルの接続手段として使用される。
【0021】
すなわち、図1において、電柱40に張架された電線41を張り替える場合、張り替える区間(作業区間)の電線41の両端にクランプ42を取り付け、仮送電のための工事用ケーブル43を接続する。このとき、工事用ケーブル43側に雄接続器44を取り付けておき、これを中間ケーブル45の取り付けられた雌接続器10と嵌合させてバイパス経路を構築するものである。
【0022】
したがって、本実施の形態の雌接続器10は例えば直径が20mm程度で、当該雌接続器10が用いられるバイパス経路には、例えば高圧電圧と呼ばれる600V〜7,000V程度の電圧が、さらには特別高圧と呼ばれる22kV程度の電圧が印加される。
【0023】
本実施の形態の雌接続器10(導体接続器)は、図2および図3に示すように、導電性を備えた円筒の中空体11を有しており、一方の端部(図3において、右側の端部)から軸方向に向けて、図示しない雄接続器(相手方嵌合体)が挿入される挿入孔12が形成されている。なお、雄接続器が挿入孔12に挿入されて雄接続器と雌接続器10とが嵌合したときには、両者の中心軸が相互に同軸上になる。なお、本実施の形態では中空体11は円筒形となっているが、挿入孔12が形成された中空体となっていれば足り、円筒形に限定されるものではない。
【0024】
また、雌接続器10の他方の端部(図3において、左側の端部)から軸方向に向けて、図示しない電力ケーブルが固定されるケーブル固定孔13が形成されている。そして、前述した挿入孔12とケーブル固定孔13とは空気抜き孔14を介して連通している。なお、雌接続器10の外周中央部には、取り扱い時の滑り止め等を目的としたローレット加工(符号15で示す部位)が施されている。
【0025】
挿入孔12は、端部から内方に向かって段差を介して径が小さくなっており、第1内径部12a、第2内径部12b、第3内径部12cおよび第4内径部12dを形成している。そして、雄接続器は最も端部よりの第1内径部12a、第1内径部12aの隣の第2内径部12b、および第2内径部12bの隣の第3内径部12cの位置まで挿入される。
【0026】
図2および図4に示すように、挿入孔12内には環状部材である複数のリング16が嵌め込まれている。より具体的には、端部から内方に向かって第1リング16a(環状部材)、第2リング16b(環状部材)および第3リング16c(環状部材)が嵌め込まれている。これら3個のリング16は、環状の接触子17を挟むことによって相互に軸方向に間隔を空けて配置されている。そして、接触子17を挟むためのリング16の間隙により、挿入孔12の内周面に周方向に沿って形成された溝部18を構成している。
【0027】
図示するように、第1リング16aは第1内径部12aの箇所に嵌め込まれ、第2リング16b、第3リングおよび2個の接触子17は第2内径部12bの箇所に嵌め込まれている。
【0028】
なお、本実施の形態では、相互に間隔を空けて配置された3個のリング16で2つの溝部18を構成し、2個の接触子17をそれぞれの溝部18に嵌め込んでいるが、リング16や溝部18およびそこに嵌め込まれる接触子17の数は自由に設定することができるものであり、本実施の形態に示す数には限定されない。
【0029】
図2、図4〜図6に示すように、挿入孔12の端部側に位置する第1リング16aには、径方向の一部に切欠部16a−1が形成されている。そして、第1リング16aが挿入孔12から脱落する方向への移動を規制するための止めネジ19(規制部材)が、切欠部16a−1と中空体11とに跨るようにして双方に螺合されている。これにより、リング16および接触子17が挿入孔12から脱落してしまうことを防止している。
【0030】
接触子17は導電性を有する金属で構成されており、挿入された雄接続器と中空体11との導通をとるためのものであり、さらに挿入された雄接続器を径方向に作用する弾性力により保持して接触を確実に維持するためのものである。
【0031】
すなわち、接触子17は、幅方向両端に形成された薄板状の2つのプレート部17aと、これらのプレート部17a間に跨るように配置されて周方向に形成されて雄接続器と接触する接触部17bとで構成されている。また、接触部17bは径方向に厚みを持たせるように屈曲形成されている。したがって、このような接触子17がリング16に挟まれると、つまり接触子17がリング16の間隙で形成された溝部18に嵌め込まれると、接触子17はリング16の内周面よりも径方向内側に、つまり溝部18から径方向内側に突出する。
【0032】
そして、接触子17が径方向内側に突出して溝部18に嵌め込まれていると、挿入された雄接続器によって接触部17bが押し広げられて挿入孔12の内壁に圧接される。これにより接触子17には径方向に弾性力が発生し、当該弾性力により雄接続器が締め付けられることになる。
【0033】
さて、このような接触子17を挟んでいるリング16には、図7〜図9に示すように、突起部20が形成されている。
【0034】
すなわち、図7に示すように、挿入孔12の端部に位置する第1リング16aには、第2リング16bとで溝部18を形成する側に突起部20が形成されている。また、図8に示すように、第2リング16bには、第1リング16aで溝部18を形成する側および第3リング16cとで溝部18を形成する側に、つまり両側に突起部20が形成されている。そして、図9に示すように、第3リング16cには、第2リング16bとで溝部18を形成する側に突起部20が形成されている。
【0035】
これらの突起部20は、リング16が嵌め込まれた挿入孔12の軸方向に延びるように形成されている。これを間隔を空けて配置された2個のリング16によって形成された溝部18から見ると、突起部20は、溝部18における挿入孔12の軸方向で対向した2箇所の縁部から溝部18の内側に向けてそれぞれ形成された一対からなる。そして、溝部18に嵌め込まれた接触子17が溝部18から外れる方向に移動したときに、接触子17が突起部20と干渉するようになっている。
【0036】
なお、図12および図13において説明した従来の雌接続器51の接触子54では、接触部54bを溝部53bから径方向内側に突出させるために、本実施の形態のプレート部17aに相当する脚部54aを折り曲げなければならない。したがって、折りしろを形成するために脚部54aは周方向に連続させることはできず、櫛歯状になってしまう。
【0037】
これに対して、本実施の形態の雌接続器10の接触子17では、接触部17bを屈曲形成して径方向に厚みを持たせるようにし、これにより、接触子17が溝部18に嵌め込まれたときに溝部18から径方向内側に突出するようにしているので。プレート部17aを周方向に連続させている。
【0038】
これにより、プレート部17aの全周が突起部20と接触するので(つまり、従来の雌接続器51の接触子54に形成された櫛歯状の脚部54aを適用した場合のように断続的ではなく、全周に亘って連続的に接触するので)、接触子17がよりいっそう溝部18から外れにくくなる。
【0039】
次に、このような構成を有する雌接続器10における接触子17について、図10を用いて説明する。
【0040】
雄接続器が雌接続器10の端部から挿入孔12に挿入されると、溝部18に嵌め込まれた接触子17を押し広げながら軸方向に進入していく。そして、接触子17の接触部17bが挿入孔12の内壁に圧接されることによって径方向に弾性力が発生し、これによって雄接続器が締め付けられて挿入孔12内に保持される。
【0041】
このとき、挿入孔12内を進入していく雄接続器の先端が径方向内側に突出している接触子17に引っ掛かり、当該接触子17に溝部18から外れる方向へ移動する力が作用した場合には、図10に示すように、接触子17が突起部20と干渉し、より詳しくは接触子17のプレート部17aが突起部20と干渉し、それ以上には移動しない。
【0042】
これにより、接触子17が溝部18から外れることが防止される。よって、接触子17が確実に溝部18内に留まって雄接続器との接触を弾性力で維持するようになる。したがって、所期の接触維持力を安定的に得ることができ、接続信頼性を確保することができる。
【0043】
なお、以上の説明では、中空体11の挿入孔12内に突起部20を有する溝部18を直接加工することが困難な場合(例えば、挿入孔12の径が30mm以下の場合)を想定し、接触子17を挟むようにして複数個のリング16を挿入孔12内に嵌め込むことで、突起部20のある溝部18を容易に形成するようにしたものである。
【0044】
しかしながら、挿入孔12の径が大きく、突起部20を有する溝部18を直接加工することができる場合には、リング16を嵌め込むことなく、図11に示すように、挿入孔12内に突起部20のある溝部18を形成するようにしてもよい。
【0045】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではないと考えるべきである。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の導体接続器は、電力ケーブル等の接続に限定して適用されるものではなく、相手方嵌合体が挿入されることにより2つの部材の接続が行われる様々な導体接続器に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 雌接続器
11 中空体
12 挿入孔
12a 第1内径部
12b 第2内径部
12c 第3内径部
12d 第4内径部
13 ケーブル固定孔
14 空気抜き孔
16 リング
16a 第1リング
16a−1 切欠部
16b 第2リング
16c 第3リング
17 接触子
17a プレート部
17b 接触部
18 溝部
19 止めネジ
20 突起部
51 雌接続器
52 雄接続器
53 中空体
53a 挿入孔
53b 溝部
54 接触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手方嵌合体が挿入される挿入孔が一方の端部から軸方向に向けて形成された導電性を有する中空体と、
前記挿入孔の内周面において周方向に沿って形成された溝部と、
前記溝部から径方向内側に突出して前記溝部内に嵌め込まれ、挿入された前記相手方嵌合体との接触を径方向に作用する弾性力で維持する環状の接触子と、
前記溝部における前記挿入孔の軸方向に対向した2箇所の縁部から当該溝部の内側に向けてそれぞれ形成され、前記溝部に嵌め込まれた前記接触子が当該溝部から外れる方向に移動したときに干渉する一対の突起部と、
を有することを特徴とする導体接続器。
【請求項2】
前記溝部は、前記挿入孔に嵌め込まれて当該挿入孔の軸方向に間隔を空けて配置され、前記接触子を挟んだ複数の環状部材により形成され、
前記突起部は前記環状部材に形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の導体接続器。
【請求項3】
前記挿入孔の端部には、当該端部側に位置する前記環状部材に対して前記挿入孔から脱落する方向への移動を規制する規制部材が設けられている、
ことを特徴とする請求項2記載の導体接続器。
【請求項4】
前記接触子は、
幅方向両端に形成された環状の2つのプレート部と、前記プレート部の間に形成されるとともに前記溝部から突出して相手方嵌合体と接触する接触部とを備え、
前記プレート部は、周方向に連続して形成されている、
ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の導体接続器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−51037(P2013−51037A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186795(P2011−186795)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000196565)西日本電線株式会社 (57)