説明

導入具および神経刺激電極留置システム。

【課題】治療対象でない組織への刺激を低減するように神経刺激電極を留置することを可能にする導入具を提供する。
【解決手段】導入具10は、内腔を有する筒状の本体11と、生体組織を鈍的切開する鈍的切開部12Bを有し、透明性を有するように形成されて本体11の先端部に取り付けられた切開部材12と、本体11の先端部の外面および切開部材12の外面の少なくとも一方に設けられた判別電極18、19と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経を刺激する電極を体内に留置するための導入具および神経刺激電極留置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、神経刺激装置、疼痛緩和装置、てんかん治療装置、および筋肉刺激装置等の、電気的刺激を直接または間接的に神経組織および筋肉等の生体組織(線状組織)に与え、治療を行う刺激発生装置が知られている。これらの刺激発生装置は内部に電源を有し、通常は、電気的刺激を伝達する刺激電極とともに生体に埋め込まれて使用される。
【0003】
一般に、刺激電極は、生体組織に電気的刺激を与え、もしくは生体組織に生じる電気的興奮を検出するための少なくとも1つの電極と、刺激発生装置と電気的に接続するための電気コネクタと、電極と刺激発生装置との間に設けられ電気的刺激を伝達するためのリード部とを有している。
例えば、特許文献1には、心臓が徐脈を発生したときには心臓を刺激して心拍数を上昇させ、心臓が頻脈または細動を発生したときには迷走神経を刺激して心拍数を低下させる、埋め込み式の心臓治療装置が開示されている。特許文献1では、心臓刺激電極が心筋内または心房内に配置される。神経刺激電極を巻きつけて留置する部位としては、頚部領域あるいは外側頚動脈の右中央位置が好適であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−173790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この分野における従来技術においては、目視下で電極を留置することが可能な部位に、神経刺激電極が留置されることが多い。例えば、心臓の迷走神経を刺激するための神経刺激電極であれば、特許文献1にも記載のように、頸部等に留置される。
しかしながら、迷走神経はその経路中に頸部、胸部および腹部の内臓へ分岐する枝を有しているため、頸部において迷走神経を刺激すると、治療対象組織である心臓に加えて、頸部等の他の器官にも刺激が伝達されることがある。その結果、患者が喉の詰まりや咳きこみ等の反射的自覚症状を呈することがあり、患者のQOL(生活の質)の低下の一因となるという問題がある。
【0006】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、治療対象でない組織への刺激を低減するように神経刺激電極を留置することを可能にする導入具、および、この導入具を備える神経刺激電極留置システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の導入具は、内腔を有する筒状の本体と、生体組織を鈍的切開する鈍的切開部を有し、透明性を有するように形成されて前記本体の先端部に取り付けられた切開部材と、前記本体の先端部の外面および前記切開部材の外面の少なくとも一方に設けられた判別電極と、を備えることを特徴としている。
【0008】
また、上記の導入具において、前記判別電極は、前記本体の全周にわたり形成されていることがより好ましい。
また、上記の導入具において、前記判別電極は、前記本体の周方向における一部の範囲のみに形成されていることがより好ましい。
また、上記の導入具において、前記本体の基端部および前記切開部材の少なくとも一方には、前記内腔の周方向において、前記判別電極と同じ位置に指標部が形成されていることがより好ましい。
また、上記の導入具において、前記判別電極は、前記本体の長手方向に延在するように形成されていることがより好ましい。
【0009】
また、上記の本発明の神経刺激電極留置システムは、上記に記載の導入具と、前記切開部材を通して前記切開部材の周囲を観察可能に前記導入具に挿入される観察部と、前記導入具に対して自身の軸線回りに回転可能かつ前記軸線方向に相対移動可能に配置され、前記神経組織周辺の周辺組織を除去する剥離部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
また、上記の神経刺激電極留置システムにおいて、生体の状態を測定し、測定結果を表示する監視部を備えることがより好ましい。
また、上記の神経刺激電極留置システムにおいて、前記測定結果は心電図であってもよい。
また、上記の神経刺激電極留置システムにおいて、前記測定結果は筋電図であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の導入具および神経刺激電極留置システムによれば、治療対象でない組織への刺激を低減するように神経刺激電極を留置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態の神経刺激電極留置システムの全体構成を示す図である。
【図2】同神経刺激電極留置システムの先端側を一部断面で示す図である。
【図3】同先端側の正面図である。
【図4】剥離部の先端側を示す拡大図である。
【図5】スタイレットが挿入された神経刺激電極を一部断面で示す図である。
【図6】図5のA−A線における断面図である。
【図7】同神経刺激電極留置システムの使用時の動作を示す図である。
【図8】同神経刺激電極留置システムのアクセス経路および周辺の臓器配置を示す図である。
【図9】(a)および(b)は、いずれも剥離部による剥離処理を示す図である。
【図10】同神経刺激電極の留置時の動作を示す図である。
【図11】同神経刺激電極の留置時の動作を示す図である。
【図12】本発明の第1実施形態の変形例における神経刺激電極留置システムの要部の側面図である。
【図13】本発明の第1実施形態の変形例における神経刺激電極留置システムの要部の側面図である。
【図14】本発明の第1実施形態の変形例における神経刺激電極留置システムの要部の側面図である。
【図15】本発明の第2実施形態の神経刺激電極留置システムの全体構成を示す図である。
【図16】本発明の第3実施形態の神経刺激電極留置システムの全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る神経刺激電極留置システムの第1実施形態を、図1から図14を参照しながら説明する。
図1に示すように、本神経刺激電極留置システム(以下、単に「留置システム」と称する。)1は、結合組織等の組織内を通って迷走神経等の所望の神経組織に神経刺激電極(以下、単に「電極」と称する。)100を導入および留置するための各処置を行うものである。留置システム1は、略筒状に形成された本実施形態の導入具10と、導入具10に挿入される観察部20と、対象の神経組織に対して電極100が留置可能となるように処置を行うための剥離部30と、電極100の留置操作を行うためのスタイレット(電極操作部材)40とを備えている。
【0014】
導入具10は、略円筒状の本体11と、本体11の先端部に取り付けられた透明のキャップ(切開部材)12と、本体11の先端部の外面に設けられた判別電極18、19とを備えている。
本体11は、図2および図3に示すように、観察部20が挿入される第一ルーメン(第一の内腔)13と、剥離部30が挿通される第二ルーメン(第二の内腔)14と、電極100およびスタイレット40が挿通される第三ルーメン(電極用内腔)15との3つのルーメン(内腔)を有しており、公知のマルチルーメンチューブ等を用いることができる。これら第一ルーメン13、第二ルーメン14、および第三ルーメン15は、ほぼ円柱状に形成されている。
本体11の材質としては後述する周辺組織を切開して進退できる程度の剛性を有するものであれば特に制限はなく、ステンレス等の金属や、樹脂等を好適に用いることができる。導入具10の導入操作をしやすくする観点からは、導入具10の外径が6ミリメートル(mm)以下とされることが好ましい。
【0015】
キャップ12は、樹脂等で透明に形成されており、第一ルーメン13のみを密閉するように本体11の先端部に取り付けられている。キャップ12は、挿入された観察部20からキャップ12の周囲を観察可能な程度の透明性を有するものであれば、所望の着色が施されていてもよい。キャップ12は、本体11に接続される基端側の円筒部12Aと、より先端側の円錐部(鈍的切開部)12Bとを有しており、第一ルーメン13に挿通された観察部20は、円筒部12Aの内腔を進退可能かつ導入具10に対して自身の軸線回りに回転可能である。円筒部12Aの内腔の先端側の面は、観察部20の性能を考慮して、所定の曲率を有するように形成されたり、光学的なコーティング膜が形成されたりして観察部20の照明光(後述)が観察の妨げとならないように構成されてもよい。
円錐部12Bは、先端の曲率半径が、例えば0.2mm程度に設定されており、鋭利でない先端を有する。円錐部12Bを先頭にして導入具10を押し込むことにより、キャップ12の周囲に存在する周辺組織を鈍的に切開しながら留置システム1を対象組織付近まで導入することができる。この操作については手技の説明において詳述する。
【0016】
判別電極18、19は、本体11の全周にわたり、白金などの生体内で安定な材料で形成されている。判別電極18、19は、図1に示すように、導入具10の基端から延びる配線5aを介して判別電源5に電気的に接続されている。判別電源5は、判別電極18、19間に、例えば、1ボルト以上10ボルト以下の電圧、10ヘルツ以上20ヘルツ以下の周波数、10マイクロ秒以上1000マイクロ秒以下程度の微弱な矩形波を印加することができる。
なお、判別電極18、19を、電極100が接続される後述する神経刺激装置に接続し、神経刺激装置によって判別電極18、19間に電圧を印加してもよい。
【0017】
観察部20は、第一ルーメン13に挿通可能な外径を有し、図2に示すように、観察光学系21と、観察光学系21の視野を照明するライトガイド等の照明手段22とを先端部に有する。観察部20は、図1に示すように、基端の撮像手段23と公知のイメージガイド等で接続されており、観察光学系21の視野内の映像を取得可能である。撮像手段23は、モニター24と接続されており、撮像手段23の取得した映像がモニター24に表示される。
照明手段22がライトガイドである場合は、撮像手段23内に設けられた図示しない光源と接続される。ライトガイドに代えて、LED等の発光部材を照明手段として先端に搭載してもよい。
観察部20としては、外径寸法等が適切な値であれば、公知の内視鏡装置を好適に使用することができる。
【0018】
図4は、剥離部30の先端側の拡大図である。剥離部30は、図3および図4に示すように、長尺のロッド31と、ロッド31の先端部に取り付けられたヘラ部32とを有する。ロッド31は、軸線方向に進退可能な程度の一定の剛性を有するものであればその材質に制限はなく、ステンレス等の金属や、樹脂等を好適に用いることができる。
ヘラ部32は、板状またはシート状に形成され、ロッド31の軸線方向と略直交する方向に延びるように取り付けられている。へラ部32は、神経組織周辺の結合組織等(以下、「周辺組織」と称することがある。)を剥離できる程度の一定の剛性を有しており、ロッド31と同様の材料で形成することができる。ロッド31から延びるヘラ部32の先端側周縁は、後述する剥離操作を鈍的に行うことができるように、円錐部12Bの先端同様、鋭利とならないように形成されている。
【0019】
スタイレット40および電極100の構造について説明する。図5は、スタイレット40が挿入された電極100を一部断面で示す図であり、図6は、図5のA−A線における断面図である。
電極100は、長尺のリード部101と、リード部101の先端側に設けられた電極部102と、電極部102を神経組織に接触するように支持する支持部103とを有している。
【0020】
リード部101は、生体内で安定性が高いポリウレタン等を材料として内腔104を有する略円筒状に形成されており、内腔104にスタレット40を挿入可能である。内腔104は、リード部101の先端側に開口しておらず、内腔104の先端部は、径方向に潰れている。これにより、当該先端部の径方向における最小寸法は、内腔104の略円柱形状の径方向における寸法よりも短くなっている。
リード部101は、図示しないリードを複数有する。各リードにおいて、導電性の芯線は、耐久性が高いMP35N線又は35MLT線を用いて形成されており、各芯線にETFE材料による絶縁被覆が施されて各リードが形成され、内腔104内に配置されている。リードの先端側は電極部102に接続され、リードの基端側は図示しない神経刺激装置と接続されるためのコネクタ105に接続されている。コネクタ105は、接続される神経刺激装置にあわせて公知のものが適宜選択され。例えばIS1コネクタなどを用いることができる。
なお、上記の構成に代えて、絶縁被覆のない芯線のみをリード部101の略円筒状の周壁内に埋設してリードとしてもよい。
【0021】
電極部102は、接触した神経組織に電気刺激を与えることができればその構成に特に制限はないが、図5に示すように、マイナス極102Aとプラス極102Bとの二つの電極を有するバイポーラ型電極とされるのが好ましい。マイナス極102A、プラス極102Bの材料としては、生体内で安定な白金が用いられている。各電極102A、102Bの表面には微細凹凸構造を有する窒化チタン(TiN)膜が形成され、生体表面とのインピーダンスが下げられている。
各電極102A、102Bは留置時に神経組織に対向する側にのみ露出しており、反対側の面はシリコーン樹脂などにより覆われ、電気的に絶縁されている。つまり、印加した電気エネルギーが神経組織の周辺にある組織や器官へ漏れることを低減している。
対象の神経組織が迷走神経である場合、剥離された神経組織は約1〜2mmの外径を有していることが多く、それらに対応するためにリードの芯線および電極部の電極はφ2mm以下に形成されていることが好ましい。
【0022】
支持部103は、電極部102の一部を被覆するシリコーン樹脂の一部が略円弧状に延びることにより形成されている。当該円弧状形状は、支持部103の機能に鑑みて、神経組織の外径よりも大きい円弧径を有するように設定されるのが好ましい。支持部103は弾性変形可能であり、電極部102との間に神経組織を挟みこんで支持することにより、各電極102A、102Bを神経組織に接触させることができる。支持部103は、電極部102の外周面に沿うように変形することができるため、図3に示すように、電極100全体が第三ルーメン15内に収容されるように挿通することができる。
支持部の個数や形状は、各電極102A、102Bを神経組織に接触させるという目的を果たす限り、適宜設定されてよい。
また、支持部の厚みとしては、対象組織に過度な負荷を与えないように、0.5mm以下の厚さとされるのが好ましい。
【0023】
スタイレット40は、樹脂や金属を材料として、リード部101の内腔104に挿入可能な寸法に形成されている。スタイレット40の先端部40A(図5参照。)は、内腔104の先端部形状に対応するように径方向につぶされている。したがって、先端部40Aを内腔104の先端部内に挿入してスタイレット40を回転させると、電極100をリード部101の軸線回りに回転させることができる。また、スタイレット40を軸線方向に前進させたり、リード部101の基端側を手元に引いたりすることで、第三ルーメン15の先端開口から電極部102を突没させることが可能である。
【0024】
第二ルーメン14および第三ルーメン15の基端側には、図示しないOリング等の水密部材が取り付けられており、第二ルーメン14および第三ルーメン15にそれぞれ剥離部30および電極100を挿入することで、第二ルーメン14および第三ルーメン15の基端側が水密に保持される。
図1に示すように、第二ルーメン14には排液チューブ2が接続されている。排液チューブ2には排液ポンプ3が接続されており、第二ルーメン14の先端開口から第二ルーメン14内に浸入した体液や血液を吸引してルーメン外に排出することができる。第三ルーメン15にはシリンジ4が接続されており、第三ルーメン15内にシリンジ4から生理食塩水(生食)等を供給することにより、第三ルーメン15の先端開口から生食を放出してキャップ12を洗浄し、観察部20の視野を改善することができる。
【0025】
上記のように構成された留置システム1の使用時の動作について、ヒト右迷走神経(以下、単に「迷走神経」と称する。対象神経組織。)を対象として電極100を留置する場合を例にとり説明する。迷走神経は、心臓付近の神経組織刺激部位として、体表からの経路が周辺組織の観察から判別しやすい、体表からの距離が短く到達しやすい等の利点を持ち、比較的アクセスが容易である。
【0026】
術者は、導入具10の第一ルーメン13に観察部20を挿入し、第二ルーメン14および第三ルーメン15に、それぞれ剥離部30およびスタイレット40を挿通した電極100を挿入する。判別電源5により、判別電極18、19間に微弱な電圧を印加しておく。
以上で留置システム1の使用前の準備は終了するが、剥離部30および電極100は、必ずしもこのときに挿入する必要はなく、導入具10が迷走神経付近に到達した後に挿入されてもよい。この場合は、必要に応じて第二ルーメン14、第三ルーメン15の基端側に栓をしておくのが好ましい。
【0027】
次に、術者は患者Pの生体表面に小切開(挿入部位)を形成し、導入具10の円錐部12Bを挿入する。この例では、図7に示すように、患者Pの胸郭上口Ti付近に小切開を形成する。
小切開に導入具10を挿入後、術者は、観察部20でキャップ12の周囲の様子を確認しながら、本体11を持って軸線方向に力を加え、導入具10を体内に向かって押し込む。図8に示すように、胸郭上口Tiは気管Tcに近い位置にあるため、導入具10を挿入すると、程なくして観察部20の視野内に、白っぽい管状の気管Tcが見えてくる。この例では気管Tcを迷走神経Vnへのガイドとして利用することができる。
【0028】
この例における留置システム1のアクセス経路では、導入具10の周囲には比較的柔らかい疎性結合組織が多く存在しているため、円錐部12Bを先頭にして導入具10を押し込むことで、前方に存在する疎性結合組織等の生体組織を円錐部12Bにより鈍的に切開して導入具10を前進させることができる。したがって、導入具10を前進させるにあたり、導入具10を前進させるために押し込む際にも大きな力量は必要ない。また、導入具10を気管Tcに沿って進めると、気管Tcと気管周辺の生体組織との界面が裂けやすいため、さらに容易に鈍的切開を進めることができる。気管Tcは周囲を軟骨に覆われているため、円錐部12Bの先端が鋭くない限り、導入具10の前進によって気管Tcを傷つける恐れはない。
生体組織の多くを占める疎性結合組織には血管は少なく、また鋭利でない円錐部12Bが血管を切断することもほとんどないため、導入具10を前進させている間の出血はそれほど多くない。しかし、鈍的に切開された生体組織からは、組織間液等の体液が滲出してくるため、必要に応じて排液ポンプ3を用いて吸引、排出する。
【0029】
導入具10に挿入された観察部20は、軸方向に進退可能であり、かつ自身の軸線回りに回転可能である。したがって、術者は第一ルーメン13内で適宜観察部20を操作することにより、円錐部12Bの前方および円筒部12Aの周囲を含むキャップ12の周囲全体を好適に観察できる。したがって、キャップ12周辺の生体組織を確認しながら、迷走神経Vnが存在する心臓近傍まで容易に導入具10の先端部を進めることができる。
【0030】
導入具10が迷走神経Vnに到達するまでに、他の神経などに接近する場合がある。神経には様々な種類のものがあるが、外見はどれも白い線状のものであり術者が見分けるのは難しいものとなっている。
一般的に、神経に電気的な刺激を印加すると、神経の種類に応じた生体反応が患者に起こる。例えば、迷走神経を刺激した場合には患者の心拍数が低下し、横隔神経を刺激した場合には患者の腹部の周囲が痙攣することが知られている。
術者は、接近した神経に適宜判別電極18、19を接触させて、患者Pの生体反応を直接観察することで、導入具10が接近した神経が迷走神経Vnか否かを識別することができる。
この神経が迷走神経Vnであれば、この神経に対して以下で説明する処置を行う。また、この神経が迷走神経Vnでなければ、導入具10を前進させるルートを変え、迷走神経Vnが見つかるまで上述の手順を繰り返す。
【0031】
迷走神経Vnを確認したら、術者は、電極100が留置可能となるように、周辺組織の一部を除去して、迷走神経Vnの一部を露出させ、さらに当該一部を周辺組織から剥離する。術者は第二ルーメン14に挿通した剥離部30のロッド31を前進させ、導入具10先端から突出させる。必要に応じて導入具10を進退および回転させながら、ヘラ部32で迷走神経Vn表面の周辺組織を除去する。周辺組織の組成は、上述の生体組織とほぼ同様であるため、ヘラ部32により容易に除去することができる。その後、図9(a)に示すように、ヘラ部32の端部を迷走神経Vnに押し当てた状態でロッド31を押し引きしてヘラ部32をロッド31の軸方向に進退させることにより、図9(b)に示すように、迷走神経Vnを容易に周辺組織Stから剥離することができる。剥離処理終了後、術者は剥離部30を第二ルーメン14内に収納する。
【0032】
迷走神経Vnの剥離処理が終わったら、術者は第三ルーメン15からスタイレット40を挿入した電極100を突出させる。スタイレット40を回転させて支持部103の位置を調整しながら、支持部103の自由端を、迷走神経Vnの剥離された部位に掛けるようにして、迷走神経Vnと周辺組織Stとの間に挿入する。すると、図10および図11に示すように、支持部103と電極部102との間に迷走神経Vnが支持され、電極部102と迷走神経Vnとが密着するように電極100が迷走神経Vnに留置される。
なお、迷走神経Vnに対する剥離処理中や電極100の留置時等に、処置を行う空間にシリンジ4を用いて生理食塩液(生食)を注入吸引すると、観察部20の視野を明瞭にすることができる。また、生食に代えて二酸化炭素ガスを当該空間に供給し、周辺の組織を押しのけることによって、処置のためのスペースを形成してもよい。
【0033】
電極100の留置後、術者は電極100からスタイレット40を抜き、導入具10を後退させて体外に抜去する。導入具10が進入したアクセス経路には、もともと周辺組織や生体組織が隙間なく配置されていたため、導入具10の抜去に伴い、導入具10の通った経路は、周辺組織および生体組織により隙間なく埋められる。したがって、導入具10の抜去後は、留置された電極100の周囲にもほぼ隙間なく周辺組織および生体組織が配置され、電極100は、周辺組織および生体組織により留置位置に位置決めされる。このため、電極100の留置後に、固定のための縫合等を行う必要はない。また、胸郭上口付近は、患者の体動による動きも少ないため、電極位置が安定しやすい。
導入具10の抜去により、電極100留置のための一連の作業は終了する。
【0034】
電極100の留置後は、電極100のコネクタ105を神経刺激装置に接続し、電気刺激による治療を開始する。例えば、数十マイクロ秒(μsec)〜数ミリ秒(msec)の幅を有する矩形パルス電圧を周波数数十ヘルツ(Hz)で印加する。矩形パルス電圧の電圧値は数ボルト〜数十ボルトの範囲で適宜設定される。治療内容に応じて、連続的な刺激と間欠的な刺激とを選択することが可能であり、電気刺激を行う期間は治療に応じて適宜決定される。
【0035】
治療終了後は、コネクタ105を神経刺激装置から外し、リード部101の端部を引くことで、支持部103が迷走神経Vnからはずれる。さらに引くと、周辺組織および生体組織内を通って電極100を体外に抜去することができる。すなわち、電極100を除去するために比較的侵襲の大きい外科的処置は必要ないため、電極除去時における患者負担が大幅に軽減される。
【0036】
特許文献1に記載された従来の心臓治療装置は、心臓の徐脈、頻脈または細動に応じて心臓や迷走神経を刺激するものである。この心臓治療装置を用いても、神経の種類を識別することはできず、治療対象である迷走神経以外の神経に与える刺激が増加してしまう恐れがある。
【0037】
本実施形態の留置システム1および導入具10によれば、術者は、観察部20で導入具10の先端に配置されたキャップ12の周囲を確認しながら円錐部12Bで生体組織を鈍的に切開する。このとき、導入具10が接近した神経に、必要に応じて判別電極18、19を接触させ微弱な電圧を印加する。術者は、このときの患者Pの生体反応を目視により直接観察することで、電圧を印加した神経が迷走神経Vnか否かを識別することができる。剥離部30で迷走神経Vnに剥離処置を行うことで、周辺組織Stの一部を迷走神経Vnから除去し、迷走神経Vnに電極100を留置する。
このように神経の種類を識別することで、治療対象でない神経に刺激するのを抑え、治療対象である迷走神経Vnに電極100を留置することができる。
【0038】
迷走神経Vnを対象組織とする場合、胸膜をトロッカー等で貫通して胸腔内からアクセスする方法や、血管を切開して血管壁に電極を留置する等の方法に比べて、より短時間かつ低侵襲で電極を留置しながらも、迷走神経Vnに直接電極接触させて効率よく電気刺激治療を行うことができる。
判別電極18、19は、本体11の全周にわたり形成されている。このため、本体11に対して本体11の軸線回りのいずれの方向に神経が位置している場合であっても、軸線回りに本体11を回転させる必要なく、その神経に判別電極18、19を容易に接触させることができる。
【0039】
なお、本実施形態の導入具10は、以下に説明するようにその構成を様々に変形させることができる。
例えば、図12に示す導入具10Aのように、本体11の先端部の外面において、判別電極18A、19Aを本体11の周方向における一部の範囲のみに形成してもよい。この場合、第一ルーメン13の周方向において、判別電極18A、19Aと同じ位置に、指標部を形成してもよい。
この指標部は、本体11の基端部の外面に設けられた指標部11Aであってもよいし、キャップ12の外面に設けられた指標部12Cであってもよい。
【0040】
導入具10Aの判別電極18A、19Aをこのように構成することで、本体11の周方向の特定の神経のみに電圧を印加しやすくすることができる。
本体11の捩れに対する強度が高い場合には、本体11に指標部11Aを設けることで、術者は、判別電極18A、19Aを直接見なくても判別電極18A、19Aが形成されている周方向の位置が分かる。そして、導入具10Aを自身の軸線回りに回動させることで、判別電極18A、19Aが形成されている周方向の位置を変えることができる。
一方で、キャップ12に指標部12Cを設けることで、本体11の捩れに対する強度が低い場合であっても、観察部20の位置を観察部20で観察することで、判別電極18A、19Aが形成されている周方向の位置が分かる。
【0041】
図13に示す導入具10Bのように、本体11の先端部の外面において、判別電極18B、19Bを、本体11の長手方向に延在するように形成してもよい。
導入具10Bの判別電極18B、19Bをこのように構成することで、本体11の長手方向において、神経に判別電極18B、19Bを接触させやすくし、神経の検出範囲を大きくすることができる。
【0042】
また、図14に示す導入具10Cのように、判別電極18C、19Cをキャップ12の外面に形成してもよい。
導入具10Cの判別電極18C、19Cをこのように構成することで、導入具10Cの第一ルーメン13に挿通された観察部20により、判別電極18C、19Cに神経が接触している状態を観察することができる。
【0043】
なお、本実施形態の留置システム1は、留置システム1のうちの導入具10だけを一般の内視鏡とともに用いることができる。
具体的には、導入具10の第一ルーメン13に内視鏡の挿入部を挿入し、内視鏡で周囲の様子を確認しながら、患者Pに形成した小切開を通して導入具10を挿入していく。このとき、導入具10が何らかの神経に接近した場合には、術者は、必要に応じてその神経に導入具10の判別電極18、19を接触させて患者Pの生体反応を直接観察する。これにより、その神経が迷走神経Vnか否かを識別する。
このように、導入具10を用い、患者Pの生体反応を直接観察することで、判別電極18、19に接触した神経の種類を容易に識別し、手技を迅速に行うことができる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図15を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図15に示すように、本実施形態の留置システム7は、前記第1実施形態の留置システム1のモニター24に代えて、患者Pの心臓Htにおける電気的な活動状況を測定し、心電図(測定結果)D1を表示する心電図測定器(監視部)51を備えている。
心電図測定器51としては公知の構成のものを用いることができ、心電図測定器51は表示部52および心電図用電極53を備えている。
心電図用電極53は、患者Pの心臓Ht近傍の生体表面に取り付けられる。心電図用電極53で検出された心臓Htの所定部位の電位差は、リード線54を介して不図示の処理装置に伝えられて処理され、表示部52に前述の心電図D1が表示される。
この例では、観察部20の観察光学系21で取得された映像も、表示部52に表示されるようになっている。
【0045】
このように構成された留置システム7の使用時の動作は、術者が患者Pの神経に判別電極18、19を接触させた後で、患者Pの生体反応を直接観察するとともに心電図D1を確認することのみが、前記第1実施形態で説明した動作と異なる。
すなわち、導入具10の判別電極18、19が迷走神経Vnに接触して迷走神経Vnに微弱な電圧が印加されると、心電図D1におけるRR間隔が長くなったり、心拍数が減少したりする。一方で、交感神経に電圧が印加されると、RR間隔が短くなったり、心拍数が増加したりする。
このように、患者Pの生体反応を目視するだけでなく心電図D1を確認することで、判別電極18、19を接触させた神経の種類をより確実に識別することができる。
【0046】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図16を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図16に示すように、本実施形態の留置システム8は、前記第1実施形態の留置システム1のモニター24に代えて、患者Pの運動神経における電気的な活動状況を測定し、筋電図(測定結果)D2を表示する筋電図測定器(監視部)61を備えている。
筋電図測定器61としては公知の構成のものを用いることができ、筋電図測定器61は表示部62および筋電図用電極63を備えている。
筋電図用電極63は、患者Pの腹部Abに取り付けられる。筋電図用電極63で検出された腹部Abの所定部位の電位差は、リード線54を介して不図示の処理装置に伝えられて処理され、表示部62に前述の筋電図D2が表示される。
【0047】
このように構成された留置システム8の使用時の動作は、術者が患者Pの神経に判別電極18、19を接触させた後で、患者Pの生体反応を直接観察するとともに筋電図D2を確認することのみが、前記第1実施形態で説明した動作と異なる。
すなわち、導入具10の判別電極18、19が運動神経に接触して運動神経に微弱な電圧が印加されると、その運動神経に対応する筋繊維が興奮するため、その筋繊維の筋電図D2における振幅が大きくなる。
患者Pの体内に挿入した導入具10が迷走神経Vnに到達するまでに、他の神経などを横切る場合がある。神経は白色をなしていて、内視鏡下では神経と脂肪との区別さえ明確でない場合が多い。このような場合であっても、その神経が運動神経である場合には留置システム8を用いることで、運動神経を確実に識別することができる。
そして、判別電極18、19を接触させた神経が運動神経であった場合には、導入具10を前進させるルートを変え、迷走神経Vnが見つかるまで上述の手順を繰り返す。
【0048】
以上、本発明の第1実施形態から第3実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更なども含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
たとえば、前記第1実施形態から第3実施形態では、導入具が第一および第二ルーメン、および電極用内腔である第三ルーメンの3つの内腔を有する例を説明したが、導入具が有するルーメンの数に制限は無く、いくつでもよい。
前記第1実施形態から第3実施形態では、導入具は一対の判別電極を有していたが、導入具が有する判別電極の数は、適宜設定可能である。
【0049】
また、前記第2実施形態および第3実施形態では、監視部として患者Pの血糖値を連続的に測定する測定器を用いてもよい。
迷走神経Vnに微弱な電圧が印加されると、インスリンの分泌が亢進して血糖値が下がる。患者Pにおける時間の経過に伴う血糖値の変化を測定することで、電圧を印加した神経が迷走神経Vnか否かを識別することができる。
【0050】
さらに、本発明は、以下の技術思想を含むものである。
(付記項1)
内腔を有する筒状の本体と、生体組織を鈍的切開可能な鈍的切開部を有し、透明性を有するように形成されて前記本体の先端部に取り付けられた切開部材と、を有する導入具を用いて胸部に位置する対象神経組織へアプローチするアプローチ方法であって、
胸部を切開して前記導入具の挿入部位を形成し、
前記挿入部位に前記導入具の前記鈍的切開部を挿入し、
前記本体に観察部を挿入した前記鈍的切開部で、前記切開部材の周囲を観察しつつ周囲の周辺組織を鈍的に切開して前記導入具を前進させ、
判別電極で神経組織に電圧を印加し、生体反応を観察することで前記神経組織の種類を識別し、
前記対象神経組織付近まで前記切開部材を移動させる。
【0051】
(付記項2)
付記項1に記載のアプローチ方法であって、前記挿入部位を胸郭上口に形成する。
(付記項3)
付記項1に記載のアプローチ方法であって、生体反応を観察するとともに心電図を確認する。
(付記項4)
付記項1に記載のアプローチ方法であって、生体反応を観察するとともに筋電図を確認する。
【符号の説明】
【0052】
1、7、8 留置システム(神経刺激電極留置システム)
10、10A、10B、10C 導入具
11 本体
11A、12C 指標部
12 キャップ(切開部材)
12B 円錐部(鈍的切開部)
13 第一ルーメン(第一の内腔)
14 第二ルーメン(第二の内腔)
15 第三ルーメン(電極用内腔)
18、18A、18B、18C、19、19A、19B、19C 判別電極
20 観察部
30 剥離部
51 心電図測定器(監視部)
61 筋電図測定器(監視部)
D1 心電図(測定結果)
D2 筋電図(測定結果)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔を有する筒状の本体と、
生体組織を鈍的切開する鈍的切開部を有し、透明性を有するように形成されて前記本体の先端部に取り付けられた切開部材と、
前記本体の先端部の外面および前記切開部材の外面の少なくとも一方に設けられた判別電極と、
を備えることを特徴とする導入具。
【請求項2】
前記判別電極は、前記本体の全周にわたり形成されていることを特徴とする請求項1に記載の導入具。
【請求項3】
前記判別電極は、前記本体の周方向における一部の範囲のみに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の導入具。
【請求項4】
前記本体の基端部および前記切開部材の少なくとも一方には、前記内腔の周方向において、前記判別電極と同じ位置に指標部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の導入具。
【請求項5】
前記判別電極は、前記本体の長手方向に延在するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の導入具。
【請求項6】
所望の神経組織に神経刺激電極を留置するための神経刺激電極留置システムであって、
請求項1に記載の導入具と、
前記切開部材を通して前記切開部材の周囲を観察可能に前記導入具に挿入される観察部と、
前記導入具に対して自身の軸線回りに回転可能かつ前記軸線方向に相対移動可能に配置され、前記神経組織周辺の周辺組織を除去する剥離部と、
を備えることを特徴とする神経刺激電極留置システム。
【請求項7】
生体の状態を測定し、測定結果を表示する監視部を備えることを特徴とする請求項6に記載の神経刺激電極留置システム。
【請求項8】
前記測定結果は心電図であることを特徴とする請求項7に記載の神経刺激電極留置システム。
【請求項9】
前記測定結果は筋電図であることを特徴とする請求項7に記載の神経刺激電極留置システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−94490(P2013−94490A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241373(P2011−241373)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】