説明

導電クリップ

【課題】ワンタッチ装着性と長期に亘る安定した導電性とを高次元に両立することのできる導電クリップを提供する。
【解決手段】軸方向一端に拡径フランジ(2a・13a)を備えると共に、軸方向中間に径方向に連通する開口(2b・13b)を備えた中空筒状体(円筒体2・13)と、拡径フランジの内面に対向する軸方向弾発力発生片(3b・14b)と、開口を内向きに或いは外向きに突き抜ける径方向弾発力発生片(3c・14c)とを備えた導電体(3・14)とからなり、中空筒状体と導電体とが相対軸方向変位可能に結合すると共に、両者の相対軸方向変位に伴って径方向弾発力発生片が開口の内縁に押されてその遊端が径方向外向きに或いは内向きに変位するようにしてなることを特徴とするものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製のシャシーにプリント配線基板を固定すると共に、プリント配線基板に形成されたアースパターンをシャシーに接続する導電クリップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線基板は、金属製のシャシーにビス止めされることが一般的であり、回路のシャシーアースは、ビスの挿通孔の周囲にアースパターンを形成し、このアースパターンに金属製のビスの頭部を接触させることで行われていた。しかしビス止めは作業性が比較的低いので、高導電性樹脂からなる係止羽根部を備えたアース用固定材を用いることにより、所謂ワンタッチでアース接続が行えるようにした手法が特許文献1に提案されている。
【特許文献1】特開2002−025646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかるに、文献1に記載されたものは、高導電性樹脂の導電率は金属に比べて低い上、樹脂材はクリープ劣化が比較的大きいために接触圧の経時安定性が低く、十分な導電性を長期に亘って維持する上に難点がある。
【0004】
本発明は、このような従来技術の欠点を解消すべく案出されたものであり、その主な目的は、ワンタッチ装着性と長期に亘る安定した導電性とを高次元に両立することのできる導電クリップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために本発明は、軸方向一端に拡径フランジ(2a・13a)を備えると共に、軸方向中間に径方向に連通する開口(2b・13b)を備えた中空筒状体(円筒体2・13)と、前記拡径フランジの内面に対向する軸方向弾発力発生片(3b・14b)と、前記開口を内向きに或いは外向きに突き抜ける径方向弾発力発生片(3c・14c)とを備えた導電体(3・14)とからなり、前記中空筒状体と前記導電体とが相対軸方向変位可能に結合すると共に、両者の相対軸方向変位に伴って前記径方向弾発力発生片が前記開口の軸方向一内縁に押されてその遊端が径方向外向きに或いは内向きに変位するようにしてなることを特徴とする導電クリップ(1)を提供することとした(請求項1、2)。特に、前記軸方向弾発力発生片と前記径方向弾発力発生片とをそれぞれ1つ備えるものとしたり(請求項3)、前記拡径フランジの前記軸方向弾発力発生片との対向面に、前記軸方向弾発力発生片の撓み代を確保するための凹部が形成されるものとしたり(請求項4)すると良い。
【発明の効果】
【0006】
このような本発明の請求項1又は2の構成によれば、シャシーに形成した凸部あるいは凹部に、プリント配線基板に形成した孔を経て中空筒状体を嵌着することにより、拡径フランジでプリント配線基板が抜け止めされるので、所謂ワンタッチでプリント配線基板をシャシーに取り付けることができる。この時、フランジとアースパターンとの間に軸方向弾発力発生片が挟み込まれ、径方向弾発力発生片がシャシーの凸部の外周面あるいは凹部の内周面に突き当ってアース回路が形成される。また、軸方向弾発力発生片の軸力で径方向弾発力発生片の食い込み力が増すので、シャシーに対するクリップの結合力が高められる。この反対に、中空筒状体のみに抜去方向への軸力を加えると、径方向弾発力発生片が開口の軸方向一内縁に押されてシャシーの凸部の外周面あるいは凹部の内周面から離間するので、プリント配線基板をシャシーから簡単に分離させることができる。特に、軸方向弾発力発生片と径方向弾発力発生片とをそれぞれ1つ備えるものとすれば、材料が必要最小限で済み、拡径フランジの軸方向弾発力発生片との対向面に、軸方向弾発力発生片の撓み代を確保するための凹部を形成するものとすれば、フランジがプリント配線基板に当接するまで押し込んでも、軸方向弾発力発生片の撓み代が確保されているために軸方向弾発力発生片が永久歪みを生ぜずに済み、クリープ劣化が少ないので、長期に亘って高い反復着脱性と安定した導電性とが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に添付の図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【実施例1】
【0008】
図1〜3は、本発明に基づく導電クリップの一実施例を示している。この導電クリップ1は、金属製のシャシーにプリント配線基板を固定することを目的とするものであり、合成樹脂材で形成された円筒体2と、金属材で形成された導電体3とからなっている。
【0009】
円筒体2は、合成樹脂材の射出成形にて形成されており、その一端に拡径フランジ2aが形成されている。そして図2、3に示すように、中心部の軸方向貫通孔4に、シャシー5に一体的に突設されたスタッドピン6を挿入し得るようになっている。またフランジ2aの背面には、矩形断面の凹部7が直径線に沿って形成され、円筒体2の軸方向中間位置には、直径線に沿って径方向に貫通し且つ軸方向に長辺を置く概ね長方形をなす2つの開口2bが形成されている。
【0010】
導電体3は、導電性と弾発性とを兼ね備えた例えばベリリウム銅の薄板材で形成されており、筒状をなす主部3aと、主部3aの一端から拡径方向へ延出された2つの軸方向弾発力発生片3bと、主部3aの一部を逆U字形に切り込み、一端側に位置する遊端を内向きに押し込んで形成した2つの径方向弾発力発生片3cとからなっている。この導電体3は、円筒体2の外周面に主部3aを嵌着させ、円筒体2におけるフランジ2aの背面凹部7に軸方向弾発力発生片3bを対向させ、円筒体2の軸方向中間部に形成された開口2b内に径方向弾発力発生片3cの遊端を斜め上向きに突入させている。そして径方向弾発力発生片3cは、自然状態時にその遊端を貫通孔4の内側へ僅かに突入させている。これらの軸方向弾発力発生片3b並びに径方向弾発力発生片3cは、力のバランスからは、主部3aにおける円周を等分割する位置に配置することが好ましいが、図4に示すように、円筒体2の外周面に弾発的に巻き付くようにC字状に形成された主部3aに1つだけ形成しても良く、このように構成すれば、材料の節約に寄与し得る。なお、円筒体2の開口2b並びに凹部7は、軸方向弾発力発生片3b並びに径方向弾発力発生片3cに対応していれば良い。
【0011】
プリント配線基板8には、導電クリップ1の挿通孔9が形成され、従来のビス止めするものと同様に、その上面における導電クリップ挿通孔9の周辺にアースパターン(図示せず)が形成されている。
【0012】
このプリント配線基板8をシャシー5に止め付けるには、シャーシー5のスタッドピン6にカラー10を遊嵌した上でプリント配線基板8の導電クリップ挿通孔9にスタッドピン6の先端を差し込み、導電クリップ挿通孔9の中心部に覗いたスタッドピン6の先端に導電クリップ1の円筒体2に形成された貫通孔4を嵌着し、その端面がすり鉢状に窪ませられた円筒体2の軸方向一端を指先で押し込む(矢印方向)。すると、導電体3に形成された2つの径方向弾発力発生片3c同士は上すぼまりに傾斜しているため、その遊端がスタッドピン6の外周面に突き当たって拡径方向に弾性変形するので、導電クリップ1を容易にスタッドピン6に嵌着することができる。そしてこの状態で軸方向弾発力発生片3bがプリント配線基板8の上面のアースパターンに接触すると共に、径方向弾発力発生片3cがスタッドピン6の外周面に接触し、シャシーアースが確立される。
【0013】
この状態では、軸方向弾発力発生片3bが下向きの弾発力をプリント配線基板8に作用させ、この反力で主部3aに上向きの軸力が作用するが、この上向きの軸力によって径方向弾発力発生片3cの遊端はスタッドピン6の外周面に食い込むので、振動などで導電クリップ1が緩むことはない。なお、図5に示すように、フランジ2aの背面がプリント基板8の表面に当接するまで円筒体2を一杯に押し込んだ時に、フランジ2aの背面に形成された凹部7内に軸方向弾発力発生片3bが収まるようになっている。これにより、導電クリップ1を一杯に押し込んでも軸方向弾発力発生片3bの撓み代が確保されるため、軸方向弾発力発生片3bが永久歪みを生ぜずに済み、長期に亘って安定した接触圧を維持することができるので、高い反復着脱性と安定した導電性とを確保する上に寄与し得る。
【0014】
導電クリップ1を取り外すには、図3に示すように、円筒体2の拡径フランジ2aを上向きに(矢印方向)引き上げると、導電体3の径方向弾発力発生片3cを突入させた開口2bの下縁が径方向弾発力発生片3cの内面に突き当たり、径方向弾発力発生片3cを拡開させる。これにより、径方向弾発力発生片3cの遊端がスタッドピン6の外周面から離れるので、スタッドピン6から導電クリップ1を簡単に取り外すことができる。
【0015】
このようにして、極めて簡単に反復着脱が可能となる。
【実施例2】
【0016】
図6、7は、本発明の別の実施例を示している。本実施例は、シャシー5に一体的に突設された筒状ボス11の内周面に導電クリップ12を結合させる形態をとるものであり、上記第1の実施例と同様に、合成樹脂材で形成された円筒体13と、金属材で形成された導電体14とからなっている。
【0017】
円筒体13は、合成樹脂材の射出成形にて形成されており、その一端に拡径フランジが13a形成されると共に、下端が開いた行き止まり孔15がその中心部に形成され、且つその軸方向中間位置に概ね長方形をなす開口13bが形成されている。また拡径フランジ13aの背面には、上記第1実施例と同様に、半径線に沿う凹部16が形成されている。
【0018】
導電体14は、図8に示すように、例えばベリリウム銅の薄板材をJ字形に曲折してなり、細長い軸方向部分14aの一端側に外向きに延出された軸方向弾発力発生片14bと、他端側に斜め外向きに延出された径方向弾発力発生片14cと、軸方向部分14aにおける軸方向弾発力発生片14bの付け根近傍から両側方へ延出して湾曲形成された抱持片14dとを備えている。この導電体14は、その軸方向部分14aを円筒体12の外周面に軸方向に沿わせ、抱持片14dを円筒体12の外周面に巻き付け、円筒体12の拡径フランジ13aの背面の凹部16に軸方向弾発力発生片14bを対向させ、行き止まり孔15の下端から上向きに径方向弾発力発生片14cを挿入し、円筒体12の軸方向中間部に形成した開口13bから径方向弾発力発生片14cの遊端を斜め上向きに突出させている。この径方向弾発力発生片14cは、自然状態時にその遊端を円筒体13の外周面から僅かに突出させている。なお、図9に示すように、抱持片14dから2つの軸方向弾発力発生片14bを互いに反対方向へ延出した構成とすることもできる。
【0019】
本実施例を用いる場合は、シャシー5に形成された筒状ボス11の上端面にプリント配線基板8を載置し、プリント配線基板8に形成された導電クリップ挿通孔9を経て筒状ボス11の内周側に導電クリップ12を差し込む。ここで径方向弾発力発生片14cが斜め上向きに傾斜しており、その遊端が筒状ボス11の内周面に突き当たると内向きに撓むので、導電クリップ12を筒状ボス11の内周に容易に押し込むことができる。一杯に押し込むと凹部16で軸方向弾発力発生片14bの撓み代が確保されることは上記第1実施例と同様である。
【0020】
導電クリップ12を取り外すには、円筒体13の拡径フランジ13aをこじるようにして持ち上げると、円筒体13の開口13bの下縁に押されて径方向弾発力発生片14cが筒状ボス11の内周面から離れるので、容易に導電クリップ12を取り外すことができる。
【0021】
以上、プリント配線基板のアースパターンをシャシーに接続する場合について本発明を詳述したが、本発明は、プリント配線基板のアースパターンに限らず、例えば圧着端子をアースターミナルに接続することにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による導電クリップの斜視図である。
【図2】本発明による導電クリップの取り付け時の縦断面図である。
【図3】本発明による導電クリップの取り外し時の縦断面図である。
【図4】導電体のバリエーションを示す斜視図である。
【図5】導電クリップをプリント配線基板に一杯に押し付けた状態を示す要部縦断面図である。
【図6】本発明による導電クリップの第2実施例の取り付け時の縦断面図である。
【図7】本発明による導電クリップの第2実施例の取り外し時の縦断面図である。
【図8】第2実施例における導電体の斜視図である。
【図9】第2実施例における導電体のバリエーションを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
1・12 導電クリップ
2・13 円筒体
3・14 導電体
2a・13a 拡径フランジ
2b・13b 開口
3b・14b 軸方向弾発力発生片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端に拡径フランジを備えると共に、軸方向中間に径方向に連通する開口を備えた中空筒状体と、
前記拡径フランジの背面に対向する軸方向弾発力発生片と、前記開口を内向きに突き抜ける径方向弾発力発生片とを備えた導電体とからなり、
前記中空筒状体と前記導電体とが相対軸方向変位可能に結合すると共に、両者の相対軸方向変位に伴って前記径方向弾発力発生片が前記開口の軸方向一内縁に押されてその遊端が径方向外向きに変位するようにしてなることを特徴とする導電クリップ。
【請求項2】
軸方向一端に拡径フランジを備えると共に、軸方向中間に径方向に連通する開口を備えた中空筒状体と、
前記拡径フランジの背面に対向する軸方向弾発力発生片と、前記開口を外向きに突き抜ける径方向弾発力発生片とを備えた導電体とからなり、
前記中空筒状体と前記導電体とが相対軸方向変位可能に結合すると共に、両者の相対軸方向変位に伴って前記径方向弾発力発生片が前記開口の軸方向一内縁に押されてその遊端が径方向内向きに変位するようにしてなることを特徴とする導電クリップ。
【請求項3】
前記軸方向弾発力発生片と前記径方向弾発力発生片とをそれぞれ1つ備えることを特徴とする請求項1若しくは2に記載の導電クリップ。
【請求項4】
前記拡径フランジの前記軸方向弾発力発生片との対向面に、前記軸方向弾発力発生片の撓み代を確保するための凹部が形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の導電クリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−4644(P2006−4644A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176774(P2004−176774)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)