導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置および劣化測定方法
【課題】 ケーブルを切断する必要がなく、かつ、導電体によってマイクロ波が吸収されることもなく、外周を被覆する絶縁体の劣化および材料変質を高精度に測定することができる導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置および方法を提供する。
【解決手段】 ホールド部材2に保持されたケーブルCが、マイクロ波空洞共振器1のピンホール12の外側開口部を密着状態に被覆可能である一方、ガン発振器3から発振されたマイクロ波がサーキュレータ4により導波管11を介してマイクロ波空洞共振器1内に導入され、このマイクロ波の一部が前記ピンホール12における外側開口部から漏出可能であって、この漏出したマイクロ波が、前記ホールド部材2に保持されたケーブルCの絶縁体Aに照射され、かつ、導入されたマイクロ波が当該マイクロ波空洞共振器1内において反射して、アンプ5によって増幅されてマイクロ波観測器6により検知して観測可能にする。
【解決手段】 ホールド部材2に保持されたケーブルCが、マイクロ波空洞共振器1のピンホール12の外側開口部を密着状態に被覆可能である一方、ガン発振器3から発振されたマイクロ波がサーキュレータ4により導波管11を介してマイクロ波空洞共振器1内に導入され、このマイクロ波の一部が前記ピンホール12における外側開口部から漏出可能であって、この漏出したマイクロ波が、前記ホールド部材2に保持されたケーブルCの絶縁体Aに照射され、かつ、導入されたマイクロ波が当該マイクロ波空洞共振器1内において反射して、アンプ5によって増幅されてマイクロ波観測器6により検知して観測可能にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電ケーブルの劣化状態を測定する技術に関し、更に詳しくは、ケーブルを切断する必要がなく、かつ、導電体によってマイクロ波が吸収されることもなく、外周を被覆する絶縁体の劣化および材料変質を高精度に測定することができる導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置および劣化測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、原子力発電プラントなどにおいては、電力供給や情報伝達、制御などについてほとんどが有線のケーブルを介して行われていることから、これらのケーブルの劣化による損傷は迅速に発見する必要がある。
【0003】
ところで、このケーブルの構造は、金属製の導電性材料が中心に配置され、その周囲に絶縁体が被覆されて構成されており、通常、この絶縁体は有機高分子材料(プラスチック、ゴム)で作製されており、光や熱、放射線などによって経時劣化する。
【0004】
従来、かかる劣化状態を検査する手法として、分子の双極子モーメント変化による誘電率の変化をマイクロ波空洞共振器を用いることにより、Q値もしくは共振周波数の変化量として測定する「マイクロ波誘電吸収法」の研究が進められており、本発明者は、嘗て、かかるマイクロ波誘電吸収法を応用して分子挙動を観測可能な装置を開発した(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、かかる観測装置にあっては、構造上、筒状のマイクロ波空洞共振器(のクロスパイプ部)に試料全体を挿入する必要があったため、設備から取り外したり切断することができない配線ケーブルについては、そのままの状態でケーブルの劣化状態を検査することができないという問題があった。
【0006】
また、ケーブルの中心には導電体が配置されているところ、この導電体はマイクロ波を吸収するという特性があり、前記のような挿入型の測定装置では、ケーブルが丸ごと空洞共振器内に配置されてしまうため、導電体がマイクロ波を吸収してしまい、正確なマイクロ波の反射波が得られないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4401700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の導電ケーブルの劣化状態を測定する技術に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、ケーブルを切断する必要がなく、かつ、導電体によってマイクロ波が吸収されることもなく、外周を被覆する絶縁体の劣化および材料変質を高精度に測定することができる導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置および劣化測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0010】
即ち、本発明は、導体Pが絶縁体Aにより被覆されてなるケーブルCについて、この絶縁体Aの劣化状態を測定するための装置であって、
導波管11を有し、かつ、壁面にピンホール12が開設されたマイクロ波空洞共振器1と;
このマイクロ波空洞共振器1の導波管11の側傍に配設され、前記ケーブルCを保持可能なホールド部材2と;
マイクロ波を発振可能なガン発振器3と;
このマイクロ波を前記マイクロ波空洞共振器1内に導入可能なサーキュレータ4と;
前記マイクロ波空洞共振器1に導入され、反射してきたマイクロ波を増幅させるアンプ5と;
この増幅させたマイクロ波を検知可能なマイクロ波観測器6と;を少なくとも具備して構成されており、
前記ホールド部材2に保持されたケーブルCが、前記マイクロ波空洞共振器1のピンホール12の外側開口部を密着状態に被覆可能である一方、
前記ガン発振器3から発振されたマイクロ波がサーキュレータ4により導波管11を介してマイクロ波空洞共振器1内に導入され、
このマイクロ波の一部が前記ピンホール12における外側開口部から漏出可能であって、
この漏出したマイクロ波が、前記ホールド部材2に保持されたケーブルCの絶縁体Aに照射され、かつ、導入されたマイクロ波が当該マイクロ波空洞共振器1内において反射して、
こうして反射されたマイクロ波が前記アンプ5によって増幅されてマイクロ波観測器6により検知して観測可能にするという技術的手段を採用したことによって、導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置を完成させた。
【0011】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、マイクロ波空洞共振器1の外形を立方体にして、内部を円筒形にくりぬいて、平板状の壁面にピンホール12を成形するという技術的手段を採用した。
【0012】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ケーブルCを固定するためのホールド部材2を、ポリスチレンまたはポリエチレン製板材にして、スリット溝21を形成するという技術的手段を採用した。
【0013】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ケーブルCを固定するためのホールド部材2に、樹脂製の抑えカバー22を設けるという技術的手段を採用した。
【0014】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ガン発振器3から発振されるマイクロ波の電波帯域を、Qバンド帯(33〜50GHz)にするという技術的手段を採用した。
【0015】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、マイクロ波観測器6を、ダイオードにするという技術的手段を採用した。
【0016】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ケーブルCの絶縁体Aをポリエチレン、シリコーンゴム、EPゴム(エチレンプロピレンゴム)のいずれかにするという技術的手段を採用した。
【0017】
また、本発明は、導体Pが絶縁体Aにより被覆されてなるケーブルCについて、この絶縁体Aの劣化状態を測定するための方法であって、
導波管11を有するマイクロ波空洞共振器1の壁面にピンホール12を開設する一方、
ホールド部材2に前記ケーブルCを保持して、このマイクロ波空洞共振器1の側傍に配設して、このケーブルCを、前記マイクロ波空洞共振器1のピンホール12の外側開口部に密着させて被覆する一方、
ガン発振器3からマイクロ波を発振して、サーキュレータ4によってこのマイクロ波を導波管11を介して前記マイクロ波空洞共振器1内に導入し、このマイクロ波の一部を前記ピンホール12における外側開口部から漏出させて、
この漏出したマイクロ波を、前記ホールド部材2に保持されたケーブルCの絶縁体Aに照射せしめて、かつ、当該マイクロ波空洞共振器1内において反射したマイクロ波を前記アンプ5によって増幅し、マイクロ波観測器6により検知して観測するという技術的手段を採用したことによって、導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定方法を完成させた。
【0018】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ホールド部材2に保持したケーブルCを所定の等角度ごとに回転させて、マイクロ波観測器6からの出力電圧をストレージオシロスコープにより測定するという技術的手段を採用した。
【発明の効果】
【0019】
本発明にあっては、導体が絶縁体により被覆されてなるケーブルについて、この絶縁体の劣化状態を測定するための装置であって、マイクロ波空洞共振器と;ホールド部材と;ガン発振器と;サーキュレータと;アンプと;マイクロ波観測器と;を少なくとも具備して構成されており、
前記ホールド部材に保持されたケーブルを、前記マイクロ波空洞共振器のピンホールの外側開口部を密着状態に被覆可能にする一方、前記ガン発振器から発振されたマイクロ波をサーキュレータにより導波管を介してマイクロ波空洞共振器内に導入して、このマイクロ波の一部が前記導波管のピンホールにおける外側開口部から漏出可能にして、この漏出したマイクロ波を、前記ホールド部材に保持されたケーブルの絶縁体に照射して、かつ、導入されたマイクロ波を当該マイクロ波空洞共振器内において反射せしめて、こうして反射されたマイクロ波を前記アンプによって増幅されてマイクロ波観測器により検知することによって、導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化状態を測定することができる。
【0020】
したがって、本発明の劣化測定装置および測定方法によれば、ケーブルを切断する必要がなく、かつ、導電体によってマイクロ波が吸収されることもなく、外周を被覆する絶縁体の劣化および材料変質を高精度に測定することができることから、実用的利用価値は頗る高いものがあると云える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の観測装置を表わす概略図である。
【図2】本発明の実施形態のマイクロ波空洞共振器を表わす拡大斜視図である。
【図3】本発明の実施形態のマイクロ波空洞共振器を表わす下面図である。
【図4】本発明の実施形態の測定状況を表わす斜視図である。
【図5】本発明の実施形態の測定状況を表わす説明断面図である。
【図6】本発明の実施形態の測定状況を表わす説明断面図である。
【図7】本発明の実施形態の測定結果を表わすグラフである。
【図8】本発明の実施形態の測定結果を表わすグラフである。
【図9】本発明の実施形態のケーブルの絶縁体の形状を表わす正面図である。
【図10】本発明の実施形態の測定概念を表わす説明図である。
【図11】本発明の実施形態の測定結果を表わすグラフである。
【図12】本発明の実施形態の測定結果を表わすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための形態を、具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0023】
本発明の実施形態を図1から図12に基づいて説明する。図中、符号1で指示するものはマイクロ波空洞共振器であり、このマイクロ波空洞共振器1は、導波管11を有し、かつ、壁面にピンホール12が開設されている。本実施形態では、マイクロ波空洞共振器1の外形が立方体であって、内部は円筒形にくりぬかれている。平板上の壁面にピンホール12を成形する。
【0024】
また、符号2で指示するものはホールド部材であり、このホールド部材2は、前記マイクロ波空洞共振器1の側傍に配設され、前記ケーブルCを保持可能な部材である。
【0025】
更にまた、符号3で指示するものはガン(Gunn)発振器であり、このガン発振器3は、マイクロ波を発振可能である。
【0026】
更にまた、符号4で指示するものはサーキュレータであり、このサーキュレータ4は、このマイクロ波を前記マイクロ波空洞共振器1内に導入可能な部材である。
【0027】
更にまた、符号5で指示するものはアンプであり、このアンプ5は、前記マイクロ波空洞共振器1に導入され、反射してきたマイクロ波を増幅させることができる。本実施形態では、FET(Field-effect-transistor)アンプを採用する。
【0028】
更にまた、符号6で指示するものはマイクロ波観測器であり、このマイクロ波観測器6は、この増幅させたマイクロ波を検知可能である。
【0029】
更にまた、符号7で指示するものは周波数カウンター、符号8で指示するものはアイソレーター、符号9で指示するものは可変抵抗減衰器である。
【0030】
しかして、本実施形態は、導体Pが絶縁体Aにより被覆されてなるケーブルCについて、この絶縁体Aの劣化状態を測定するための装置および方法であって、以下に測定方法について説明する。本実施形態では、ケーブルCの絶縁体Aの材料としてポリエチレン、シリコーンゴム、EPゴム(エチレンプロピレンゴム)のいずれかを採用する。
【0031】
なお、本実施形態における高分子材料の「劣化」とは、架橋反応や酸化反応、熱分解(主鎖の切断反応(ランダム分解と解重合))、側鎖の脱離などをいう。
【0032】
<測定方法について>
まず、マイクロ波空洞共振器1の電場強度の高い位置に相当する壁面にピンホール12を開設する。本実施形態のピンホール12は、1.0mm×2.5mmのサイズにする。また、マイクロ波は水に吸収されやすいため、湿度(空気中の水分)の影響を無くすため、マイクロ波空洞共振器1中に乾燥空気を注入し、内部の水分を取り除く。具体的には、ガス導入管13より乾燥空気を注入してピンホール12から空気を逃がす。
【0033】
次いで、ホールド部材2に前記ケーブルCを保持して、このマイクロ波空洞共振器1の側傍に配設する。本実施形態における試験装置では、前記ピンホール12を鉛直下向きに配置し、その下方にホールド部材2を設置する。この際、ケーブルCを固定するためのホールド部材2を、ポリスチレンまたはポリエチレン製板材にして、スリット溝21を形成することができ、マイクロ波の吸収の影響を少なくして、かつ、確実に固定することができる。更にまた、同様の理由で、本実施形態では、当該ホールド部材2に、樹脂製(0.1〜0.3mm厚ポリエチレンなど)の抑えカバー22を設けることもできる。
【0034】
そして、このケーブルCを、前記マイクロ波空洞共振器1のピンホール12の外側開口部に密着させて被覆する。
【0035】
次に、ガン発振器3からマイクロ波を発振して、これをスペクトルアナライザーとサーキュレータ4とに分岐させ、サーキュレータ4によってこのマイクロ波を導波管11を介して前記マイクロ波空洞共振器1内に導入する。本実施形態では、ガン発振器3から発振されるマイクロ波の電波帯域を、Qバンド帯(33〜50GHz)にする。
【0036】
そして、このマイクロ波空洞共振器1内に導入されたマイクロ波の一部を前記ピンホール12における外側開口部から漏出させる。この際、ピンホール12の開口部の半径は約1〜2mm程度が好ましく、この範囲は、ピンホール12の大きさおよび形状により調整することができる。
【0037】
こうして、この漏出したマイクロ波を、前記ホールド部材2に保持されたケーブルCの絶縁体Aに照射せしめる。
【0038】
そして、当該マイクロ波空洞共振器1内において反射したマイクロ波を前記アンプ5によって増幅させる。
【0039】
然る後、この増幅したマイクロ波を、マイクロ波観測器6により検知して観測することができる。本実施形態では、マイクロ波観測器6を、ダイオードにすることができる。
【0040】
そして、マイクロ波観測器6からの出力電圧を、ストレージオシロスコープにより測定することによって、導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化の状態を評価することができる。
【0041】
<実験例>
以下に、実験装置を用いた本実施形態の具体的な実験例を示す。
【0042】
〔実験条件〕
(K−band)
装置:マイクロ電子(株)製
共振周波数 23.710GHz
共振モード TE111
負荷Q >4200
ピンホール 2.0mm×2.5mm
(Q−band)
装置:マイクロ電子(株)製
モード TE111
負荷Q >2000
共振周波数 43.065GHz
ピンホール 1.0mm×2.5mm
【0043】
また、Q-bandマイクロ波測定装置の調整に、以下に示す機器を使用する。
スペクトラム・アナライザー Rohde & Schwarz社製 SMR50
パワーメーター Rohde & Schwarz社製 NRP
パワーセンサー Rohde & Schwarz社製 NRP-Z56
アナログ信号発生器 Rohde & Schwarz社製 FSU50
【0044】
上記したK-bandマイクロ波測定装置(23GHz)およびQ-bandマイクロ波測定装置(43GHz)によって測定を行う。初めに、K-bandマイクロ波測定装置を用いて、導体有無ケーブルの比較を行った。測定試料は、劣化していないEPゴムケーブル(導体有り、導体無し)を用いた。ここで、導体Pとなる金属線は、6本の細い金属線をねじって一本の束にしたものであり、その外周を絶縁体Aがコーティングしているケーブル構造になっている。
【0045】
まず、測定するEPゴムケーブル試料を測定台の上に固定し、EPゴムケーブル試料に回転用のキャップを取り付け、90°ごとに回転させて、出力電圧の測定を行った。この際、マイクロ波測定装置(ピンホール型空洞共振器)の電場分布の強い位置に測定試料を置くようにした。この出力電圧の測定は、マイクロ波観測器6からの出力電圧をストレージオシロスコープ(GWINSTEK社製:GDS−1102)により測定する。
【0046】
そして、K-bandマイクロ波測定装置を用いたEPゴムケーブル(導体有り、導体無し)をそれぞれ測定して比較を行ったところ、「導体有り」「導体無し」において、「導体無し」の出力電圧の平均は50mVであったのに対し、「導体有り」の平均は300mVであり、約6倍程度の差が確認できた。さらに「導体有り」の結果は振幅に周期性がみられた。このように、K-bandマイクロ波測定装置では、ケーブル内の導体Pのマイクロ波吸収の影響が無視できないほど大きく、データのばらつきが大きかった。
【0047】
次に、Q-bandマイクロ波測定装置において、上記と同様の条件で測定を行った。測定では測定台の上にEPゴムケーブル試料を置き、EPゴムケーブル試料に回転用のキャップを取り付け、60°ごとに回転させ測定を行った。この測定結果を図7に示す。さらに図8には出力電圧が120〜220mVである範囲を拡大したものを示す。
【0048】
図7および図8に示した結果より、Q-bandマイクロ波測定装置は、K-bandマイクロ波測定装置に比べ、導体Pの有無に関わらず、出力電圧の差が大きく生じないことが確認された。このことより、Q-bandマイクロ波測定装置では、マイクロ波が絶縁体Aで吸収され導体Pの影響を受けないことが確認できた。したがって、ケーブルにおける絶縁体Aのみの状態が的確に測定されていると云える。
【0049】
ここで、図8において出力電圧の周期性が確認された点については、図9に示すケーブル絶縁体Aの断面模式図においてもわかるように、絶縁体Aの肉厚の厚みは一定ではないために、この厚みの違いにより出力電圧の差が生じたものと考えられる。
【0050】
以上より、Q-bandマイクロ波測定装置を用いた場合、マイクロ波が絶縁体Aまで吸収され、導体Pの影響を受けないことが確認でき、さらに、絶縁体Aの厚みと出力電圧差に比例関係があることが確認できた。
【0051】
次に、これらの結果を踏まえ、絶縁体Aの厚みにより出力電圧を規格化すれば、出力電圧差の影響を無くすことができる可能性を検証するため、以下のように、規格化された値による劣化ケーブルを比較する。
【0052】
まず、出力電圧の最大値(Vmax)と最小値(Vmin)とを示す。この(Vmax)と(Vmin)とは、ケーブルの絶縁体Aの一番厚い部分と一番薄い部分に相当する。即ち、ケーブルCの断面及び導体Pの断面が、図10に示すケーブル断面の模式図のように真円である場合、測定される出力電圧の最大値(Vmax)と最小値(Vmin)はケーブルCの絶縁体Aの一番厚い部分と一番薄い部分に相当する。
【0053】
この際、絶縁体Aの一番厚い部分の厚みをa、一番薄い部分の厚みをbとすると、次の〔数1〕の式(1)に示すような関係が成り立つ。
【0054】
【数1】
【0055】
ここで、ケーブルCの直径をL、導体Pの直径をSとすると、式(2)が成り立つ。式(1)へ式(2)を代入すると、式(3)が得られる。得られた厚みaによりVmaxを割ると、絶縁体Aの厚みに依存しない量であるVmax/aが得られる。このVmax/aの値の導出により、絶縁体Aの厚みの影響を含まない劣化のみの効果の比較が可能となる。なお、VmaxとVminとの測定位置はケーブルの裏と表の関係になる。
【0056】
「Q-bandマイクロ波測定装置による難燃EPゴム(導体有り)の測定」
以下の〔表1〕にQ-bandマイクロ波測定装置による難燃EPゴム(導体有り)の測定における、出力電圧の最大値(Vmax)と最小値(Vmin)及び式(3)を用いた計算により得たa、bの厚みを示す。出力電圧を厚みで割ることにより求めた値Vmax/aと破断時伸びの測定結果を図11に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
さらに、〔表1〕に示すように、出力電圧−2(V−2)へ変換を行った。図12に出力電圧−2(V−2)と破断時伸び(%)の結果を示す。出力電圧−2(V−2)と破断時伸び(%)の間には相関性が見られる。以上の測定法および解析法により、実機に対するケーブルの劣化状態を測定することができる。
【0059】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、マイクロ波空洞共振器1のピンホール12の位置、形状およびサイズは、マイクロ波空洞共振器のモード、漏出させたいマイクロ波電力の強度、測定感度によって適宜変更することができる。
【0060】
また、ホールド部材2は、ケーブルCを保持して、かつ、マイクロ波を吸収し難いものであれば、形状や材質を変更することができ、これら何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0061】
1 マイクロ波空洞共振器
11 導波管
12 ピンホール
13 ガス導入管
2 ホールド部材
21 スリット溝
22 抑えカバー
3 ガン発振器
31 ガン発振器用電源
4 サーキュレータ
5 アンプ
51 アンプ用電源
6 マイクロ波観測器
7 周波数カウンター
8 アイソレーター
9 可変抵抗減衰器
C ケーブル
P 導体
A 絶縁体
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電ケーブルの劣化状態を測定する技術に関し、更に詳しくは、ケーブルを切断する必要がなく、かつ、導電体によってマイクロ波が吸収されることもなく、外周を被覆する絶縁体の劣化および材料変質を高精度に測定することができる導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置および劣化測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、原子力発電プラントなどにおいては、電力供給や情報伝達、制御などについてほとんどが有線のケーブルを介して行われていることから、これらのケーブルの劣化による損傷は迅速に発見する必要がある。
【0003】
ところで、このケーブルの構造は、金属製の導電性材料が中心に配置され、その周囲に絶縁体が被覆されて構成されており、通常、この絶縁体は有機高分子材料(プラスチック、ゴム)で作製されており、光や熱、放射線などによって経時劣化する。
【0004】
従来、かかる劣化状態を検査する手法として、分子の双極子モーメント変化による誘電率の変化をマイクロ波空洞共振器を用いることにより、Q値もしくは共振周波数の変化量として測定する「マイクロ波誘電吸収法」の研究が進められており、本発明者は、嘗て、かかるマイクロ波誘電吸収法を応用して分子挙動を観測可能な装置を開発した(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、かかる観測装置にあっては、構造上、筒状のマイクロ波空洞共振器(のクロスパイプ部)に試料全体を挿入する必要があったため、設備から取り外したり切断することができない配線ケーブルについては、そのままの状態でケーブルの劣化状態を検査することができないという問題があった。
【0006】
また、ケーブルの中心には導電体が配置されているところ、この導電体はマイクロ波を吸収するという特性があり、前記のような挿入型の測定装置では、ケーブルが丸ごと空洞共振器内に配置されてしまうため、導電体がマイクロ波を吸収してしまい、正確なマイクロ波の反射波が得られないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4401700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の導電ケーブルの劣化状態を測定する技術に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、ケーブルを切断する必要がなく、かつ、導電体によってマイクロ波が吸収されることもなく、外周を被覆する絶縁体の劣化および材料変質を高精度に測定することができる導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置および劣化測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0010】
即ち、本発明は、導体Pが絶縁体Aにより被覆されてなるケーブルCについて、この絶縁体Aの劣化状態を測定するための装置であって、
導波管11を有し、かつ、壁面にピンホール12が開設されたマイクロ波空洞共振器1と;
このマイクロ波空洞共振器1の導波管11の側傍に配設され、前記ケーブルCを保持可能なホールド部材2と;
マイクロ波を発振可能なガン発振器3と;
このマイクロ波を前記マイクロ波空洞共振器1内に導入可能なサーキュレータ4と;
前記マイクロ波空洞共振器1に導入され、反射してきたマイクロ波を増幅させるアンプ5と;
この増幅させたマイクロ波を検知可能なマイクロ波観測器6と;を少なくとも具備して構成されており、
前記ホールド部材2に保持されたケーブルCが、前記マイクロ波空洞共振器1のピンホール12の外側開口部を密着状態に被覆可能である一方、
前記ガン発振器3から発振されたマイクロ波がサーキュレータ4により導波管11を介してマイクロ波空洞共振器1内に導入され、
このマイクロ波の一部が前記ピンホール12における外側開口部から漏出可能であって、
この漏出したマイクロ波が、前記ホールド部材2に保持されたケーブルCの絶縁体Aに照射され、かつ、導入されたマイクロ波が当該マイクロ波空洞共振器1内において反射して、
こうして反射されたマイクロ波が前記アンプ5によって増幅されてマイクロ波観測器6により検知して観測可能にするという技術的手段を採用したことによって、導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置を完成させた。
【0011】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、マイクロ波空洞共振器1の外形を立方体にして、内部を円筒形にくりぬいて、平板状の壁面にピンホール12を成形するという技術的手段を採用した。
【0012】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ケーブルCを固定するためのホールド部材2を、ポリスチレンまたはポリエチレン製板材にして、スリット溝21を形成するという技術的手段を採用した。
【0013】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ケーブルCを固定するためのホールド部材2に、樹脂製の抑えカバー22を設けるという技術的手段を採用した。
【0014】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ガン発振器3から発振されるマイクロ波の電波帯域を、Qバンド帯(33〜50GHz)にするという技術的手段を採用した。
【0015】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、マイクロ波観測器6を、ダイオードにするという技術的手段を採用した。
【0016】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ケーブルCの絶縁体Aをポリエチレン、シリコーンゴム、EPゴム(エチレンプロピレンゴム)のいずれかにするという技術的手段を採用した。
【0017】
また、本発明は、導体Pが絶縁体Aにより被覆されてなるケーブルCについて、この絶縁体Aの劣化状態を測定するための方法であって、
導波管11を有するマイクロ波空洞共振器1の壁面にピンホール12を開設する一方、
ホールド部材2に前記ケーブルCを保持して、このマイクロ波空洞共振器1の側傍に配設して、このケーブルCを、前記マイクロ波空洞共振器1のピンホール12の外側開口部に密着させて被覆する一方、
ガン発振器3からマイクロ波を発振して、サーキュレータ4によってこのマイクロ波を導波管11を介して前記マイクロ波空洞共振器1内に導入し、このマイクロ波の一部を前記ピンホール12における外側開口部から漏出させて、
この漏出したマイクロ波を、前記ホールド部材2に保持されたケーブルCの絶縁体Aに照射せしめて、かつ、当該マイクロ波空洞共振器1内において反射したマイクロ波を前記アンプ5によって増幅し、マイクロ波観測器6により検知して観測するという技術的手段を採用したことによって、導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定方法を完成させた。
【0018】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ホールド部材2に保持したケーブルCを所定の等角度ごとに回転させて、マイクロ波観測器6からの出力電圧をストレージオシロスコープにより測定するという技術的手段を採用した。
【発明の効果】
【0019】
本発明にあっては、導体が絶縁体により被覆されてなるケーブルについて、この絶縁体の劣化状態を測定するための装置であって、マイクロ波空洞共振器と;ホールド部材と;ガン発振器と;サーキュレータと;アンプと;マイクロ波観測器と;を少なくとも具備して構成されており、
前記ホールド部材に保持されたケーブルを、前記マイクロ波空洞共振器のピンホールの外側開口部を密着状態に被覆可能にする一方、前記ガン発振器から発振されたマイクロ波をサーキュレータにより導波管を介してマイクロ波空洞共振器内に導入して、このマイクロ波の一部が前記導波管のピンホールにおける外側開口部から漏出可能にして、この漏出したマイクロ波を、前記ホールド部材に保持されたケーブルの絶縁体に照射して、かつ、導入されたマイクロ波を当該マイクロ波空洞共振器内において反射せしめて、こうして反射されたマイクロ波を前記アンプによって増幅されてマイクロ波観測器により検知することによって、導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化状態を測定することができる。
【0020】
したがって、本発明の劣化測定装置および測定方法によれば、ケーブルを切断する必要がなく、かつ、導電体によってマイクロ波が吸収されることもなく、外周を被覆する絶縁体の劣化および材料変質を高精度に測定することができることから、実用的利用価値は頗る高いものがあると云える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の観測装置を表わす概略図である。
【図2】本発明の実施形態のマイクロ波空洞共振器を表わす拡大斜視図である。
【図3】本発明の実施形態のマイクロ波空洞共振器を表わす下面図である。
【図4】本発明の実施形態の測定状況を表わす斜視図である。
【図5】本発明の実施形態の測定状況を表わす説明断面図である。
【図6】本発明の実施形態の測定状況を表わす説明断面図である。
【図7】本発明の実施形態の測定結果を表わすグラフである。
【図8】本発明の実施形態の測定結果を表わすグラフである。
【図9】本発明の実施形態のケーブルの絶縁体の形状を表わす正面図である。
【図10】本発明の実施形態の測定概念を表わす説明図である。
【図11】本発明の実施形態の測定結果を表わすグラフである。
【図12】本発明の実施形態の測定結果を表わすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための形態を、具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0023】
本発明の実施形態を図1から図12に基づいて説明する。図中、符号1で指示するものはマイクロ波空洞共振器であり、このマイクロ波空洞共振器1は、導波管11を有し、かつ、壁面にピンホール12が開設されている。本実施形態では、マイクロ波空洞共振器1の外形が立方体であって、内部は円筒形にくりぬかれている。平板上の壁面にピンホール12を成形する。
【0024】
また、符号2で指示するものはホールド部材であり、このホールド部材2は、前記マイクロ波空洞共振器1の側傍に配設され、前記ケーブルCを保持可能な部材である。
【0025】
更にまた、符号3で指示するものはガン(Gunn)発振器であり、このガン発振器3は、マイクロ波を発振可能である。
【0026】
更にまた、符号4で指示するものはサーキュレータであり、このサーキュレータ4は、このマイクロ波を前記マイクロ波空洞共振器1内に導入可能な部材である。
【0027】
更にまた、符号5で指示するものはアンプであり、このアンプ5は、前記マイクロ波空洞共振器1に導入され、反射してきたマイクロ波を増幅させることができる。本実施形態では、FET(Field-effect-transistor)アンプを採用する。
【0028】
更にまた、符号6で指示するものはマイクロ波観測器であり、このマイクロ波観測器6は、この増幅させたマイクロ波を検知可能である。
【0029】
更にまた、符号7で指示するものは周波数カウンター、符号8で指示するものはアイソレーター、符号9で指示するものは可変抵抗減衰器である。
【0030】
しかして、本実施形態は、導体Pが絶縁体Aにより被覆されてなるケーブルCについて、この絶縁体Aの劣化状態を測定するための装置および方法であって、以下に測定方法について説明する。本実施形態では、ケーブルCの絶縁体Aの材料としてポリエチレン、シリコーンゴム、EPゴム(エチレンプロピレンゴム)のいずれかを採用する。
【0031】
なお、本実施形態における高分子材料の「劣化」とは、架橋反応や酸化反応、熱分解(主鎖の切断反応(ランダム分解と解重合))、側鎖の脱離などをいう。
【0032】
<測定方法について>
まず、マイクロ波空洞共振器1の電場強度の高い位置に相当する壁面にピンホール12を開設する。本実施形態のピンホール12は、1.0mm×2.5mmのサイズにする。また、マイクロ波は水に吸収されやすいため、湿度(空気中の水分)の影響を無くすため、マイクロ波空洞共振器1中に乾燥空気を注入し、内部の水分を取り除く。具体的には、ガス導入管13より乾燥空気を注入してピンホール12から空気を逃がす。
【0033】
次いで、ホールド部材2に前記ケーブルCを保持して、このマイクロ波空洞共振器1の側傍に配設する。本実施形態における試験装置では、前記ピンホール12を鉛直下向きに配置し、その下方にホールド部材2を設置する。この際、ケーブルCを固定するためのホールド部材2を、ポリスチレンまたはポリエチレン製板材にして、スリット溝21を形成することができ、マイクロ波の吸収の影響を少なくして、かつ、確実に固定することができる。更にまた、同様の理由で、本実施形態では、当該ホールド部材2に、樹脂製(0.1〜0.3mm厚ポリエチレンなど)の抑えカバー22を設けることもできる。
【0034】
そして、このケーブルCを、前記マイクロ波空洞共振器1のピンホール12の外側開口部に密着させて被覆する。
【0035】
次に、ガン発振器3からマイクロ波を発振して、これをスペクトルアナライザーとサーキュレータ4とに分岐させ、サーキュレータ4によってこのマイクロ波を導波管11を介して前記マイクロ波空洞共振器1内に導入する。本実施形態では、ガン発振器3から発振されるマイクロ波の電波帯域を、Qバンド帯(33〜50GHz)にする。
【0036】
そして、このマイクロ波空洞共振器1内に導入されたマイクロ波の一部を前記ピンホール12における外側開口部から漏出させる。この際、ピンホール12の開口部の半径は約1〜2mm程度が好ましく、この範囲は、ピンホール12の大きさおよび形状により調整することができる。
【0037】
こうして、この漏出したマイクロ波を、前記ホールド部材2に保持されたケーブルCの絶縁体Aに照射せしめる。
【0038】
そして、当該マイクロ波空洞共振器1内において反射したマイクロ波を前記アンプ5によって増幅させる。
【0039】
然る後、この増幅したマイクロ波を、マイクロ波観測器6により検知して観測することができる。本実施形態では、マイクロ波観測器6を、ダイオードにすることができる。
【0040】
そして、マイクロ波観測器6からの出力電圧を、ストレージオシロスコープにより測定することによって、導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化の状態を評価することができる。
【0041】
<実験例>
以下に、実験装置を用いた本実施形態の具体的な実験例を示す。
【0042】
〔実験条件〕
(K−band)
装置:マイクロ電子(株)製
共振周波数 23.710GHz
共振モード TE111
負荷Q >4200
ピンホール 2.0mm×2.5mm
(Q−band)
装置:マイクロ電子(株)製
モード TE111
負荷Q >2000
共振周波数 43.065GHz
ピンホール 1.0mm×2.5mm
【0043】
また、Q-bandマイクロ波測定装置の調整に、以下に示す機器を使用する。
スペクトラム・アナライザー Rohde & Schwarz社製 SMR50
パワーメーター Rohde & Schwarz社製 NRP
パワーセンサー Rohde & Schwarz社製 NRP-Z56
アナログ信号発生器 Rohde & Schwarz社製 FSU50
【0044】
上記したK-bandマイクロ波測定装置(23GHz)およびQ-bandマイクロ波測定装置(43GHz)によって測定を行う。初めに、K-bandマイクロ波測定装置を用いて、導体有無ケーブルの比較を行った。測定試料は、劣化していないEPゴムケーブル(導体有り、導体無し)を用いた。ここで、導体Pとなる金属線は、6本の細い金属線をねじって一本の束にしたものであり、その外周を絶縁体Aがコーティングしているケーブル構造になっている。
【0045】
まず、測定するEPゴムケーブル試料を測定台の上に固定し、EPゴムケーブル試料に回転用のキャップを取り付け、90°ごとに回転させて、出力電圧の測定を行った。この際、マイクロ波測定装置(ピンホール型空洞共振器)の電場分布の強い位置に測定試料を置くようにした。この出力電圧の測定は、マイクロ波観測器6からの出力電圧をストレージオシロスコープ(GWINSTEK社製:GDS−1102)により測定する。
【0046】
そして、K-bandマイクロ波測定装置を用いたEPゴムケーブル(導体有り、導体無し)をそれぞれ測定して比較を行ったところ、「導体有り」「導体無し」において、「導体無し」の出力電圧の平均は50mVであったのに対し、「導体有り」の平均は300mVであり、約6倍程度の差が確認できた。さらに「導体有り」の結果は振幅に周期性がみられた。このように、K-bandマイクロ波測定装置では、ケーブル内の導体Pのマイクロ波吸収の影響が無視できないほど大きく、データのばらつきが大きかった。
【0047】
次に、Q-bandマイクロ波測定装置において、上記と同様の条件で測定を行った。測定では測定台の上にEPゴムケーブル試料を置き、EPゴムケーブル試料に回転用のキャップを取り付け、60°ごとに回転させ測定を行った。この測定結果を図7に示す。さらに図8には出力電圧が120〜220mVである範囲を拡大したものを示す。
【0048】
図7および図8に示した結果より、Q-bandマイクロ波測定装置は、K-bandマイクロ波測定装置に比べ、導体Pの有無に関わらず、出力電圧の差が大きく生じないことが確認された。このことより、Q-bandマイクロ波測定装置では、マイクロ波が絶縁体Aで吸収され導体Pの影響を受けないことが確認できた。したがって、ケーブルにおける絶縁体Aのみの状態が的確に測定されていると云える。
【0049】
ここで、図8において出力電圧の周期性が確認された点については、図9に示すケーブル絶縁体Aの断面模式図においてもわかるように、絶縁体Aの肉厚の厚みは一定ではないために、この厚みの違いにより出力電圧の差が生じたものと考えられる。
【0050】
以上より、Q-bandマイクロ波測定装置を用いた場合、マイクロ波が絶縁体Aまで吸収され、導体Pの影響を受けないことが確認でき、さらに、絶縁体Aの厚みと出力電圧差に比例関係があることが確認できた。
【0051】
次に、これらの結果を踏まえ、絶縁体Aの厚みにより出力電圧を規格化すれば、出力電圧差の影響を無くすことができる可能性を検証するため、以下のように、規格化された値による劣化ケーブルを比較する。
【0052】
まず、出力電圧の最大値(Vmax)と最小値(Vmin)とを示す。この(Vmax)と(Vmin)とは、ケーブルの絶縁体Aの一番厚い部分と一番薄い部分に相当する。即ち、ケーブルCの断面及び導体Pの断面が、図10に示すケーブル断面の模式図のように真円である場合、測定される出力電圧の最大値(Vmax)と最小値(Vmin)はケーブルCの絶縁体Aの一番厚い部分と一番薄い部分に相当する。
【0053】
この際、絶縁体Aの一番厚い部分の厚みをa、一番薄い部分の厚みをbとすると、次の〔数1〕の式(1)に示すような関係が成り立つ。
【0054】
【数1】
【0055】
ここで、ケーブルCの直径をL、導体Pの直径をSとすると、式(2)が成り立つ。式(1)へ式(2)を代入すると、式(3)が得られる。得られた厚みaによりVmaxを割ると、絶縁体Aの厚みに依存しない量であるVmax/aが得られる。このVmax/aの値の導出により、絶縁体Aの厚みの影響を含まない劣化のみの効果の比較が可能となる。なお、VmaxとVminとの測定位置はケーブルの裏と表の関係になる。
【0056】
「Q-bandマイクロ波測定装置による難燃EPゴム(導体有り)の測定」
以下の〔表1〕にQ-bandマイクロ波測定装置による難燃EPゴム(導体有り)の測定における、出力電圧の最大値(Vmax)と最小値(Vmin)及び式(3)を用いた計算により得たa、bの厚みを示す。出力電圧を厚みで割ることにより求めた値Vmax/aと破断時伸びの測定結果を図11に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
さらに、〔表1〕に示すように、出力電圧−2(V−2)へ変換を行った。図12に出力電圧−2(V−2)と破断時伸び(%)の結果を示す。出力電圧−2(V−2)と破断時伸び(%)の間には相関性が見られる。以上の測定法および解析法により、実機に対するケーブルの劣化状態を測定することができる。
【0059】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、マイクロ波空洞共振器1のピンホール12の位置、形状およびサイズは、マイクロ波空洞共振器のモード、漏出させたいマイクロ波電力の強度、測定感度によって適宜変更することができる。
【0060】
また、ホールド部材2は、ケーブルCを保持して、かつ、マイクロ波を吸収し難いものであれば、形状や材質を変更することができ、これら何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0061】
1 マイクロ波空洞共振器
11 導波管
12 ピンホール
13 ガス導入管
2 ホールド部材
21 スリット溝
22 抑えカバー
3 ガン発振器
31 ガン発振器用電源
4 サーキュレータ
5 アンプ
51 アンプ用電源
6 マイクロ波観測器
7 周波数カウンター
8 アイソレーター
9 可変抵抗減衰器
C ケーブル
P 導体
A 絶縁体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体(P)が絶縁体(A)により被覆されてなるケーブル(C)について、この絶縁体(A)の劣化状態を測定するための装置であって、
導波管(11)を有し、かつ、壁面にピンホール(12)が開設されたマイクロ波空洞共振器(1)と;
このマイクロ波空洞共振器(1)の側傍に配設され、前記ケーブル(C)を保持可能なホールド部材(2)と;
マイクロ波を発振可能なガン発振器(3)と;
このマイクロ波を前記マイクロ波空洞共振器(1)内に導入可能なサーキュレータ(4)と;
前記マイクロ波空洞共振器(1)に導入され、反射してきたマイクロ波を増幅させるアンプ(5)と;
この増幅させたマイクロ波を検知可能なマイクロ波観測器(6)と;を少なくとも具備して構成されており、
前記ホールド部材(2)に保持されたケーブル(C)が、前記マイクロ波空洞共振器(1)のピンホール(12)の外側開口部を密着状態に被覆可能である一方、
前記ガン発振器(3)から発振されたマイクロ波がサーキュレータ(4)により導波管(11)を介してマイクロ波空洞共振器(1)内に導入され、
このマイクロ波の一部が前記ピンホール(12)における外側開口部から漏出可能であって、
この漏出したマイクロ波が、前記ホールド部材(2)に保持されたケーブル(C)の絶縁体(A)に照射され、かつ、導入されたマイクロ波が当該マイクロ波空洞共振器(1)内において反射して、
こうして反射されたマイクロ波が前記アンプ(5)によって増幅されてマイクロ波観測器(6)により検知して観測可能であることを特徴とする導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項2】
マイクロ波空洞共振器(1)の外形が立方体であって、内部が円筒形にくりぬかれており、平板状の壁面にピンホール(12)が成形されていることを特徴とする請求項1記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項3】
ケーブル(C)を固定するためのホールド部材(2)が、ポリスチレンまたはポリエチレン製板材であって、スリット溝(21)が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項4】
ケーブル(C)を固定するためのホールド部材(2)に、樹脂製の抑えカバー(22)が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項5】
ガン発振器(3)から発振されるマイクロ波の電波帯域が、Qバンド帯(33〜50GHz)であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項6】
マイクロ波観測器(6)が、ダイオードであることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項7】
ケーブル(C)の絶縁体(A)がポリエチレン、シリコーンゴム、EPゴム(エチレンプロピレンゴム)のいずれかであることを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項8】
導体(P)が絶縁体(A)により被覆されてなるケーブル(C)について、この絶縁体(A)の劣化状態を測定するための方法であって、
導波管(11)を有するマイクロ波空洞共振器(1)の壁面にピンホール(12)を開設する一方、
ホールド部材(2)に前記ケーブル(C)を保持して、このマイクロ波空洞共振器(1)の側傍に配設して、このケーブル(C)を、前記マイクロ波空洞共振器(1)のピンホール(12)の外側開口部に密着させて被覆する一方、
ガン発振器(3)からマイクロ波を発振して、サーキュレータ(4)によってこのマイクロ波を導波管(11)を介して前記マイクロ波空洞共振器(1)内に導入し、このマイクロ波の一部をピンホール(12)における外側開口部から漏出させて、
この漏出したマイクロ波を、前記ホールド部材(2)に保持されたケーブル(C)の絶縁体(A)に照射せしめて、かつ、当該マイクロ波空洞共振器(1)内において反射したマイクロ波を前記アンプ(5)によって増幅し、マイクロ波観測器(6)により検知して観測することを特徴とする導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定方法。
【請求項9】
ホールド部材(2)に保持したケーブル(C)を所定の等角度ごとに回転させて、マイクロ波観測器(6)からの出力電圧をストレージオシロスコープにより測定することを特徴とする請求項8記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定方法。
【請求項1】
導体(P)が絶縁体(A)により被覆されてなるケーブル(C)について、この絶縁体(A)の劣化状態を測定するための装置であって、
導波管(11)を有し、かつ、壁面にピンホール(12)が開設されたマイクロ波空洞共振器(1)と;
このマイクロ波空洞共振器(1)の側傍に配設され、前記ケーブル(C)を保持可能なホールド部材(2)と;
マイクロ波を発振可能なガン発振器(3)と;
このマイクロ波を前記マイクロ波空洞共振器(1)内に導入可能なサーキュレータ(4)と;
前記マイクロ波空洞共振器(1)に導入され、反射してきたマイクロ波を増幅させるアンプ(5)と;
この増幅させたマイクロ波を検知可能なマイクロ波観測器(6)と;を少なくとも具備して構成されており、
前記ホールド部材(2)に保持されたケーブル(C)が、前記マイクロ波空洞共振器(1)のピンホール(12)の外側開口部を密着状態に被覆可能である一方、
前記ガン発振器(3)から発振されたマイクロ波がサーキュレータ(4)により導波管(11)を介してマイクロ波空洞共振器(1)内に導入され、
このマイクロ波の一部が前記ピンホール(12)における外側開口部から漏出可能であって、
この漏出したマイクロ波が、前記ホールド部材(2)に保持されたケーブル(C)の絶縁体(A)に照射され、かつ、導入されたマイクロ波が当該マイクロ波空洞共振器(1)内において反射して、
こうして反射されたマイクロ波が前記アンプ(5)によって増幅されてマイクロ波観測器(6)により検知して観測可能であることを特徴とする導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項2】
マイクロ波空洞共振器(1)の外形が立方体であって、内部が円筒形にくりぬかれており、平板状の壁面にピンホール(12)が成形されていることを特徴とする請求項1記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項3】
ケーブル(C)を固定するためのホールド部材(2)が、ポリスチレンまたはポリエチレン製板材であって、スリット溝(21)が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項4】
ケーブル(C)を固定するためのホールド部材(2)に、樹脂製の抑えカバー(22)が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項5】
ガン発振器(3)から発振されるマイクロ波の電波帯域が、Qバンド帯(33〜50GHz)であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項6】
マイクロ波観測器(6)が、ダイオードであることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項7】
ケーブル(C)の絶縁体(A)がポリエチレン、シリコーンゴム、EPゴム(エチレンプロピレンゴム)のいずれかであることを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定装置。
【請求項8】
導体(P)が絶縁体(A)により被覆されてなるケーブル(C)について、この絶縁体(A)の劣化状態を測定するための方法であって、
導波管(11)を有するマイクロ波空洞共振器(1)の壁面にピンホール(12)を開設する一方、
ホールド部材(2)に前記ケーブル(C)を保持して、このマイクロ波空洞共振器(1)の側傍に配設して、このケーブル(C)を、前記マイクロ波空洞共振器(1)のピンホール(12)の外側開口部に密着させて被覆する一方、
ガン発振器(3)からマイクロ波を発振して、サーキュレータ(4)によってこのマイクロ波を導波管(11)を介して前記マイクロ波空洞共振器(1)内に導入し、このマイクロ波の一部をピンホール(12)における外側開口部から漏出させて、
この漏出したマイクロ波を、前記ホールド部材(2)に保持されたケーブル(C)の絶縁体(A)に照射せしめて、かつ、当該マイクロ波空洞共振器(1)内において反射したマイクロ波を前記アンプ(5)によって増幅し、マイクロ波観測器(6)により検知して観測することを特徴とする導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定方法。
【請求項9】
ホールド部材(2)に保持したケーブル(C)を所定の等角度ごとに回転させて、マイクロ波観測器(6)からの出力電圧をストレージオシロスコープにより測定することを特徴とする請求項8記載の導電ケーブルにおける被覆絶縁体の劣化測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−47665(P2012−47665A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191747(P2010−191747)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(390013815)学校法人金井学園 (20)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(390013815)学校法人金井学園 (20)
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