説明

導電マルチフィラメント糸

【課題】ブラシ作成時の熱処理工程や長期間の使用における温湿度変化に対して電気抵抗値及び剛性の変化が小さく、接触帯電用やクリーニング用のブラシとして用いると、電気抵抗値及び形態の安定性に優れ、良好な帯電やクリーニングを長期間行うことができる導電マルチフィラメント糸を提供する。
【解決手段】導電性微粒子を含有するナイロン12からなる単繊維で構成された導電マルチフィラメント糸であって、熱水収縮率が10%以下であり、10℃、RH30%、20℃、RH65%、40℃、RH90%の各環境下における電気抵抗値の対数値の変化量が0.3以下であり、かつヤング率の変化率が30%以下であることを特徴とする導電マルチフィラメント糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置(複写機、ファクシミリ、プリンター等)に用いる接触帯電用ブラシ及び感光ドラムクリーニング用ブラシ等の各種ブラシに好適なポリアミド系導電糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真複写機等の電子写真装置において、接触帯電用ブラシ及び感光ドラムクリーニング用ブラシ等に使用される導電糸として、セルロース系繊維が多く用いられている。また、合成繊維として広く使用されているポリエステルやポリアミド繊維においても、導電性微粒子を含有する繊維が多く提案されている。
【0003】
特許文献1、2には、融点の異なる2種類の熱可塑性重合体(ポリエステルやポリアミド)からなり、低融点側の重合体に導電性被膜を有する酸化チタンを含有させた複合繊維が提案されている。しかしながら、これらの導電性繊維は、導電性は向上しているものの熱水収縮率が20%程度と高いため、接触帯電ブラシを作成する際の熱処理工程や接触帯電ブラシに使用した際に形態が変化し、さらには形態の変化により電気抵抗値のばらつきが生じ、これらの導電糸を用いた接触帯電ブラシに不適であった。
【0004】
特許文献3には、セルロース系導電糸に疎水性官能基を導入して湿度変化に対して安定した電気抵抗値が発現できるようにした導電性セルロース系繊維が提案されている。
【0005】
また、特許文献4には、2種以上の導電性微粒子を繊維に添加して比抵抗値のばらつきを103Ω・cm以内に小さくした導電性セルロース系繊維が提案されている。
【0006】
上記の2つのセルロース系繊維も、湿度に対する安定性や電気抵抗値のバラツキの改善は十分でなかった。すなわち、接触帯電ブラシ等は、温度や湿度の変化の大きい環境で処理又は使用されるため、環境の温湿度変化によって生じる繊維形態の変化が導電性微粒子の連鎖状態の変化を引き起こし、電気抵抗値の変化として現れる。
【0007】
したがって、作成当初においては好適な電気抵抗値を有していたとしても、接触帯電ブラシを作成する際の熱処理工程等や長期間の使用時にこれらの値が低下し、作成当初の電気抵抗値との差が大きくなり、画像障害が生じるようになるという欠点を解決することはできなかった。
【0008】
また、特許文献5では、ブラシ作成時の熱処理工程等や長期間の使用における温湿度変化に対して安定した電気抵抗値を示す導電マルチフィラメント糸を得るために、未延伸糸を特定の条件にて熱延伸処理を施した後、さらに弛緩熱処理を施す方法が提案されている。
【0009】
しかしながら、マルチフィラメントを形成するポリマーであるポリアミド、ポリエステルが経時により吸湿するために、高湿度条件では吸着水の影響を受け、電気抵抗値が変化することは避けられなかった。
【0010】
【特許文献1】特開昭57−6762号公報
【特許文献2】特開平7−102437号公報
【特許文献3】特公平1−29887号公報
【特許文献4】特開平9−49116号公報
【特許文献5】特開2003−105623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題点を解決し、ブラシ作成時の熱処理工程や長期間の使用における温湿度変化に対して電気抵抗値及び剛性の変化が小さく、接触帯電用やクリーニング用のブラシとして用いると、電気抵抗値及び形態の安定性に優れ、良好な帯電やクリーニングを長期間行うことができる導電マルチフィラメント糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、導電性微粒子を含有するナイロン12からなる単繊維で構成された導電マルチフィラメント糸であって、熱水収縮率が10%以下であり、10℃、RH30%、20℃、RH65%、40℃、RH90%の各環境下における電気抵抗値の対数値の変化量が0.3以下であり、かつヤング率の変化率が30%以下であることを特徴とする導電マルチフィラメント糸を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電マルチフィラメント糸は、温湿度変化を繰り返し受けても長期間安定した電気抵抗値を示し、かつ剛性の変化も小さいので、接触帯電用のブラシとして用いると、良好な画像を長期間安定して得ることが可能である。また、クリーニング用のブラシに用いても、良好なクリーニングを長期間行うことができ、電子写真装置用の各種のブラシに好適に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明でいう電子写真装置用ブラシとは、複写機、ファクシミリ、プリンター(例えばレーザービームプリンター)等の電子写真装置に用いる各種ブラシであり、例えば現像用ブラシ、接触帯電用ブラシ、クリーナー用ブラシ又は除電用ブラシが挙げられる。本発明の導電マルチフィラメント糸は、これらの電子写真装置用ブラシの全てに好適に使用できるものであるが、中でも接触帯電用ブラシに好適に使用し得るものである。
【0015】
本発明のマルチフィラメント糸は、導電性微粒子を含有するナイロン12からなる単繊維で構成されている。
【0016】
導電性微粒子としては、例えばカーボンブラック、金属粉、金属酸化物等が挙げられ、中でもカーボンブラックが好ましい。含有量は、繊維質量の15〜45質量%が好ましく、より好ましくは20〜35質量%である。導電性微粒子の含有量が15質量%未満では目的とする用途に必要な導電性が得られ難くなる。一方、導電性微粒子の含有量が45質量%を超える場合は、曳糸性が著しく低下し、繊維を得ることが困難となる。
【0017】
本発明の導電マルチフィラメント糸を構成する単繊維は、上記のような導電性微粒子が略均一に分散されたナイロン12のみからなるものとすることが好ましい。つまり、導電性微粒子を含有するナイロン12と導電性微粒子を含有しないナイロン12とからなる複合繊維とするよりも、前記したような単一成分型のものとするほうが、均一な導電性能が得られやすく好ましい。
【0018】
一般に、ポリアミドからなる導電糸は、環境湿度により0.4〜5.0%程度の水分を吸着する。したがって、導電糸の電気抵抗値には、導電性微粒子の分散状態と吸着水の電気抵抗値の両者が関係するが、おおむね70%以下の湿度領域では導電性微粒子の分散状態が主たる要因となる。
【0019】
また、導電性微粒子の分散状態は、繊維の形態が変化することによっても変化する。すなわち、ブラシ作成時の熱処理工程や使用環境の温湿度変化によって生じる繊維形態の変化が導電性微粒子の分散状態の変化を引き起こし、電気抵抗値の変化を生じさせる。これは、紡糸時又は延伸時に受けた変形に基づく残留ひずみの開放や配向分子が最小エネルギー状態に戻ろうとする形態変化(熱収縮差)が、作成時の熱処理工程や使用環境の温湿度変化によって誘発されると考えられる。
【0020】
一般に、帯電ブラシやクリーナーブラシは、導電糸をパイルとして製織した後、円筒面に螺旋状に巻き付けてブラシとするが、パイルを整えるために、熱水処理によるヒートセットを行っている。また、前記のように複写機等に使用すると、使用環境が厳しく、大きな温湿度変化を受ける。
【0021】
通常の方法で紡糸、延伸された導電糸の熱水収縮率は、10〜50%程度と高い。したがって、このような繊維を用いると、たとえブラシにする前の繊維の導電性微粒子の分散状態が安定していたとしても、ブラシにしてヒートセットした段階や、使用するうちに収縮して形態が変化することにより、導電性微粒子の分散状態が変化する。この導電性微粒子の分散状態の変化により、電気抵抗値のばらつきが生じることになる。そして、このような現象が画像障害を生じる要因となっている。
【0022】
そこで、本発明の導電マルチフィラメント糸は、湿熱処理を受けることによる電気抵抗値の変化や剛性の変化を少なくし、長期間使用しても、電気抵抗値や形態の安定性に優れ、特に、接触帯電ブラシとして使用した際には良好な画像を長期間得ることができ、クリーニングブラシとして使用した際には良好なクリーニング効果を長期間得ることができるという効果を奏するものである。
【0023】
本発明のマルチフィラメント糸の各単繊維を形成するポリマーは、ナイロン12である必要がある。ナイロン12は疎水性であり、環境が変化しても水分含有量が1%程度と低く、形態安定性に優れているため、これらの単繊維からなるマルチフィラメント糸は、温湿度変化に対して安定した電気抵抗値、剛性を示すものとなる。
【0024】
そして、本発明の導電マルチフィラメント糸の熱水収縮率は10%以下であり、中でも6.0%以下であることが好ましい。
【0025】
熱水収縮率が10%を超えると、導電マルチフィラメント糸に熱が与えられたときに単繊維の形態が変化し、導電性微粒子の分散状態が変化することにより、電気抵抗値のばらつきも大きくなるため、好ましくない。
【0026】
なお、熱水収縮率は、試料長100cmとし、JIS−L−1042の熱水浸漬法に従い、80℃の熱水に30分間浸漬させた後、遠心脱水機で脱水し、次に乾燥(20℃で風乾を15時間)し、そのときの試料長L(cm)を測定して、次式にて計算する。
熱水収縮率(%)=〔(100−L)/100〕×100
【0027】
本発明の導電マルチフィラメント糸の電気抵抗値の安定性を示すものとして、10℃、RH30%、20℃、RH65%、40℃、RH90%の各環境下における電気抵抗値の対数値の変化量が0.3以下であり、中でも0.2以下であることが好ましい。マルチフィラメント糸の電気抵抗値の対数値の変化量が0.3を超えると、環境変化による電気抵抗値の変化が大きく、これらのマルチフィラメント糸を帯電ブラシに用いると、均一な画像を長期間得ることができないものとなる。
【0028】
本発明において、電気抵抗値は次のようにして測定するものである。まず、マルチフィラメント糸の長さ方向に沿って100m毎に10cmの試験片を20個採取し、それぞれの環境下において15時間放置する。この試験片の間(両端間)に500Vの電圧をかけて、各環境下において、東亜電波工業社製の抵抗値測定機「SM−10E」を使用して、電気抵抗値(Ω/cm)をそれぞれ測定し、試料片20個の平均値を電気抵抗値とする。
【0029】
電気抵抗値の対数値の変化量とは、それぞれの環境下において測定した電気抵抗値を対数換算し、各環境のなかで、最も大きい値と最も小さい値との差を算出したものである。
【0030】
次に、本発明の導電マルチフィラメント糸は、10℃、RH30%、20℃、RH65%、40℃、RH90%の各環境下におけるヤング率の変化率が30%以下であり、中でも20%以下であることが好ましい。ヤング率の変化率が30%を超えると、環境変化によって剛性が変化し、形態変化が大きくなると同時に、導電性微粒子の分散状態が変化することにより、電気抵抗値のばらつきも大きくなる。
【0031】
なお、本発明における導電マルチフィラメント糸のヤング率は、それぞれの環境下において15時間放置した後、JIS−L−1013に記載の方法に従い、島津製作所製オートグラフDSS−500を使用し、つかみ間隔25cm、引っ張り速度30cm/分で測定した初期引張抵抗度から算出する。
【0032】
そして、ヤング率の変化率は次式によって算出する。
ヤング率の変化率(%)=〔(10℃、RH30%のヤング率−40℃、RH90%のヤング率)/20℃、RH65%のヤング率〕×100
【0033】
つまり、本発明におけるヤング率の変化率は、20℃、RH65%の環境下を標準状態とし、それよりも低温、低湿の状態(10℃、RH30%の環境下)でのヤング率と、高温、高湿の状態(40℃、RH90%の環境下)でのヤング率の差を変化の大きさとし、標準状態のヤング率で除したものである。
【0034】
さらに、本発明の導電マルチフィラメント糸は、マルチフィラメント糸の糸長方向の電気抵抗値の対数値のばらつき(標準偏差)が0.3以下であることが好ましい。
【0035】
マルチフィラメントの糸長方向の電気抵抗値については、前記と同様にして20℃、RH65%の環境下で15時間放置した後、電気抵抗値を測定する。このとき、マルチフィラメントの糸長方向に500ポイントで電気抵抗値を測定し、各測定データを対数変換し、n数を500として標準偏差を算出する。標準偏差が0.3を超えると糸長方向での電気抵抗値のばらつきが大きくなり、ブラシ等の製品にした際に、均一な電気抵抗値を有する製品にすることが困難となり、帯電性能や除電性能に劣るものとなりやすい。
【0036】
また、本発明の導電マルチフィラメント糸を構成する各単繊維の横断面形状は特に限定されるものではなく、丸断面形状のもののみならず、四角や三角の多角形のものや中空のものでもよい。
【0037】
そして、本発明の導電マルチフィラメント糸は、以下のような製造方法で得ることができる。まず、従来公知の方法で、上記のようなカーボンブラック等の導電性微粒子又は導電性微粒子を予め高濃度に含むマスターチップとナイロン12を、エクストルーダー等で混練、溶融し、紡糸口金より押し出し、溶融紡糸を行う。そして、実質的に延伸を施さず、未延伸マルチフィラメント糸を得る。
【0038】
導電性微粒子とナイロン12との混練、溶融方法としては、導電性微粒子を例えば、二軸エクストルーダー等を用いて直接混練することもできるが、予め導電性微粒子を高濃度に含有したマスターチップを作製してから混練するほうが、より均一な混練ができるため好ましい。
【0039】
溶融紡糸の方法は特に限定するものではなく、常法によって行うことができる。紡糸温度は用いるナイロン12の融点が180℃であるから、200℃〜260℃の範囲とすることが好ましい。紡糸温度が高ぎるとナイロン12が熱分解を起こし、円滑な紡糸が困難になるとともに得られるフィラメントの物性が劣ったものとなる。また紡糸温度が低すぎると未溶解物等が残るために均一な混練ができなくなるため好ましくない。
【0040】
紡出されたフィラメントを冷却風により冷却固化した後、実質的に延伸することなく、500〜1500m/分で一旦巻き取る。そして、未延伸マルチフィラメント糸に温度50〜160℃で0.02秒以上の加熱条件下において、1.0g/dtex以下の延伸張力で熱延伸を行う。
【0041】
通常、未延伸糸において一旦均一に分布、連鎖していた導電性微粒子が、延伸時において延伸張力がかかることにより、導電性微粒子の連鎖状態が流動的になる。このとき、0.02秒未満であると、熱延伸処理による熱量不足が生じ、均一な延伸が行われず、マルチフィラメントの熱水収縮率が大きくなる。また、延伸張力が1.0g/dtexを超えると、均一な延伸が行われず、導電性微粒子の連鎖状態が不均一となり、導電性能のバラツキが生じる。
【0042】
延伸時の熱処理時間を0.02秒以上とすることにより、糸長方向に渡って均一な延伸がされるように十分な熱量を与えることができる。かつ延伸張力を1.0g/dtex以下とすることによってもゆっくりと均一に延伸される。
【0043】
延伸時の熱処理時間は、0.02秒以上、より好ましくは0.05秒以上であり、延伸張力は1.0g/dtex以下、より好ましくは0.8g/dtex以下である。そして、延伸速度は熱処理時間を0.02秒以上とするために、500m/分以下とすることが好ましい。
【0044】
なお、延伸張力とは、延伸時にかかる張力を最終繊度(例えば実施例1では220dtex)で除した値をいう。
【0045】
また、通常、延伸はローラ間で行われ、加熱ローラ間で延伸を行う場合はローラ温度を70〜160℃とし、ローラ間にヒーターを設けて延伸する場合はヒーターの温度を70〜160℃とすることが好ましい。
【0046】
なお、上記の延伸時の熱処理時間とは、延伸時に上記の温度範囲の加熱ゾーンを通過する時間の合計をいう。つまり、予備加熱を行う場合は予備加熱ゾーンも含めた通過時間とする。
【0047】
延伸時の温度が70℃未満であったり、時間が0.02秒未満であると、十分な熱量で延伸を行うことができず、均一な延伸が困難となる。一方、延伸時の温度が160℃を超えると、未延伸マルチフィラメント糸が溶融し、ローラ巻き付き等が生じる。
【0048】
熱延伸時において、延伸倍率は特に限定するものではないが、実用的な強度及び伸度を導電マルチフィラメント糸に与えるためには、延伸倍率を最大延伸倍率(未延伸マルチフィラメント糸が延伸により切断する倍率のこと)の40〜80%とすることが好ましい。
【0049】
次に、熱延伸の後又は延伸後連続して、弛緩熱処理を行うことが好ましい。この弛緩熱処理工程では、先の熱延伸工程において均一に配列されているが、密な連鎖状態が緩和された状態になっている導電性微粒子を、特定の低張力下、特定の温度、時間で弛緩熱処理することにより、繊維を収縮させて、密な連鎖状態にするものである。これにより、均一な導電性が得られるとともに、マルチフィラメント糸の熱水収縮率を小さくすることができる。
【0050】
通常、延伸後の熱処理はローラ間で緊張状態で行っているため、繊維の熱水収縮率は低下するが、上記したような、導電性微粒子を密な連鎖状態とする効果は非常に乏しい。
【0051】
そこで、本発明においては、0.5g/dtex以下の張力で0.5秒以上弛緩熱処理を行うことが好ましい。熱処理時の張力が0.5g/dtexを超える場合、繊維を緊張熱処理することになり繊維の熱水収縮率は低下するが、導電性微粒子を密な連鎖状態にすることができない。熱処理時の張力は、0.5g/dtex、好ましくは0.2g/dtex以下であり、熱処理時間は、0.5秒以上、中でも1.0秒以上が好ましい。
【0052】
弛緩熱処理温度は70〜160℃が好ましく、中でも100〜150℃が好ましい。弛緩熱処理温度が70℃未満であったり、弛緩熱処理時間が0.5秒未満であると、繊維が十分に熱収縮することができないため、導電性微粒子を密な連鎖状態とする効果が乏しくなる。一方、弛緩熱処理温度が160℃を超えると、熱融着を生じる場合があり好ましくない。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例中の導電マルチフィラメント糸の熱水収縮率、電気抵抗値、電気抵抗値の対数値の変化量、ヤング率、ヤング率の変化率、糸長方向の電気抵抗値の対数値のばらつきは前記の方法で測定したものである。
【0054】
実施例1
相対粘度1.05(96%硫酸を溶媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)のナイロン12チップに、カーボンブラック濃度が25質量%となるようにマスターチップ(カーボンブラックを35質量%含有するナイロン12チップ(相対粘度1.45))をブレンドした後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度220℃で溶融し、孔径0.20mmの紡糸孔を96個有する紡糸口金より吐出させて、捲取速度800m/分で未延伸糸を巻取った。次いで得られた未延伸糸を延伸、弛緩熱処理機に供給し、表1の熱延伸、弛緩熱処理条件となるように、140℃(延伸温度)のホットプレートを介して、最大延伸倍率の60%で延伸し、次いで140℃(弛緩熱処理温度)のサドルヒーターにて弛緩熱処理を行い、220dtex/96fのマルチフィラメント糸を得た。
【0055】
実施例2〜3、比較例2〜4
カーボンブラックの含有量及び熱延伸、弛緩熱処理条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、紡糸、延伸、弛緩熱処理を行い、マルチフィラメント糸を得た。
【0056】
実施例4
孔径0.35mmの紡糸孔を48個有する紡糸口金を用い、捲取速度800m/分で未延伸糸を巻取り、得られた未延伸糸を実施例1と同様の延伸、弛緩熱処理機に供給し、表1の熱延伸・熱弛緩処理条件となるように変更した以外は実施例1と同様に行い、330dtex/48fのマルチフィラメント糸を得た。
【0057】
実施例5〜6
カーボンブラックの含有量及び熱延伸、弛緩熱処理条件を表1に示すように変更した以外は、実施例4と同様にして、紡糸、延伸、熱弛緩処理を行い、マルチフィラメント糸を得た。
【0058】
比較例1
ナイロン12に代えて、相対粘度2.5のナイロン6を用いた以外は、実施例1と同様にして、紡糸、延伸、弛緩熱処理を行い、マルチフィラメント糸を得た。
【0059】
実施例1〜6、比較例1〜4で得られたマルチフィラメント糸の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1から明らかなように、実施例1〜6で得られた導電マルチフィラメント糸は、熱水収縮率が小さく、10℃、RH30%、20℃、RH65%、40℃、RH90%の各環境下における電気抵抗値の対数値の変化量が0.3以下であり、ヤング率の変化率が30%以下であり、さらには糸長方向の電気抵抗値の対数値の標準偏差も小さく、温湿度変化が大きい条件下で長期間使用しても安定した電気抵抗値と形態安定性を示すものであった。
【0062】
一方、比較例1のマルチフィラメント糸は、ナイロン6を用いているために、電気抵抗値の対数値の変化量、ヤング率の変化率が大きかった。また、比較例2のマルチフィラメント糸は、延伸及び弛緩熱処理の時間が短かったため、熱水収縮率の大きいものとなり、比較例3のマルチフィラメント糸は、延伸及び弛緩熱処理時の張力が大きすぎたため、均一な延伸が行われず、導電性微粒子の連鎖状態が不均一となり、比較例4のマルチフィラメント糸は、延伸及び弛緩熱処理の時間が短く、張力が大きすぎたため、熱水収縮率が大きく、導電性微粒子の連鎖状態が不均一となり、いずれのマルチフィラメント糸も電気抵抗値の対数値の変化量が大きく、糸長方向の電気抵抗値の対数値の標準偏差も大きいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子を含有するナイロン12からなる単繊維で構成された導電マルチフィラメント糸であって、熱水収縮率が10%以下であり、10℃、RH30%、20℃、RH65%、40℃、RH90%の各環境下における電気抵抗値の対数値の変化量が0.3以下であり、かつヤング率の変化率が30%以下であることを特徴とする導電マルチフィラメント糸。
【請求項2】
マルチフィラメント糸の糸長方向の電気抵抗値の対数値のばらつきが標準偏差0.3以下である請求項1記載の導電マルチフィラメント糸。


【公開番号】特開2008−144300(P2008−144300A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331945(P2006−331945)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】