説明

導電性コーティング用水性組成物

【課題】導電性を有するコーティングを形成可能な導電性コーティング用水性組成物を提供することを目的とする。本発明はより特定の実施形態では、導電性および透明性を有するコーティングを形成可能で、しかも環境安全性および分散安定性に優れた導電性コーティング用水性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】水系媒体中に水溶性キシラン、樹脂およびカーボンナノチューブを含む、導電性コーティング用水性組成物。前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブまたは単層カーボンナノチューブであり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性コーティング用水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性塗料は、導電性コーティング(本明細書中では導電性被膜ともいう)を得るために用いられる。従来の導電性塗料は、黒色を中心とした有色タイプの導電性顔料を用いた塗料が大半である。このような従来用いられている導電性顔料の導電性は低いため、コーティングの導電性を高めるためには、導電性顔料の添加量を多量にする必要がある。導電性顔料は色が濃いため、添加量を多量にすると、塗料自体が強く着色してしまい、透明ではない。そのため、導電性が高くかつ透明性の高いコーティングを得るのは困難であるとされていた。
【0003】
透明性の高い導電性コーティングを得るための塗料としては、酸化インジウムを使用したものが知られている。しかしながら、酸化インジウムを用いた塗料は、酸化インジウムが高価であり、酸化インジウム資源の量にも限界があることが問題となっていた。
【0004】
そこで、基材の少なくとも片面に、極細導電繊維を含んだ透明な導電層が形成された電磁波シールド体であって、上記極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触し、上記導電層が10Ω/□以下の表面抵抗率を備えていることを特徴とする電磁波シールド体が報告されている(特許文献1)。しかしながら、上記導電層を形成するための塗液はバインダーを揮発性有機溶剤に溶解した溶液に極細導電繊維を分散させて調製されるため、環境安全性の観点から揮発性有機化合物(以下、本明細書中、「VOC」という)が問題となっている。
【0005】
環境安全性の問題を解決するためにVOCを削減するには、水は最も適した溶媒である。そこで、溶媒に水を用い、カーボンナノチューブを分散した系中に水性塗料用樹脂をバインダーとして添加したところ、凝集が顕著に起こった。凝集が顕著に起こった塗液はコーティング形成のための使用に耐えない。
【特許文献1】特開2004−253796号公報(第1頁〜第13頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、すなわち、導電性を有するコーティングを形成可能な導電性コーティング用水性組成物を提供することを目的とする。本発明はより特定の実施形態では、導電性および透明性を有するコーティングを形成可能で、しかも環境安全性および分散安定性に優れた導電性コーティング用水性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水溶性キシランを用いることにより、水系媒体中にカーボンナノチューブを安定して含ませることができることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、水系媒体中に水溶性キシラン、樹脂およびカーボンナノチューブを含む、導電性コーティング用水性組成物に関する。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
項目1.
水系媒体中に水溶性キシラン、樹脂およびカーボンナノチューブを含む、導電性コーティング用水性組成物。
【0010】
項目2.
前記カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブである、項目1に記載の水性組成物。
【0011】
項目3.
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブである、項目1に記載の水性組成物。
【0012】
項目4.
前記水溶性キシランの主鎖の数平均重合度が6以上5000以下である、項目1に記載の水性組成物。
【0013】
項目5.
前記水溶性キシランが、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と、アラビノース残基と4−O−メチルグルクロン酸残基とからなる、項目1に記載の水性組成物。
【0014】
項目6.
前記水溶性キシランにおいて、アラビノース残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が20〜100の割合である、項目5に記載の水性組成物。
【0015】
項目7.
前記水溶性キシランが、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と4−O−メチルグルクロン酸残基とからなる、項目1に記載の水性組成物。
【0016】
項目8.
前記水溶性キシランにおいて、4−O−メチルグルクロン酸残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が1〜20の割合である、項目7に記載の水性組成物。
【0017】
項目9.
前記水溶性キシランの数平均分子量が7,000以上100万以下である、項目1に記載の水性組成物。
【0018】
項目10.
前記水溶性キシランが、木本性植物由来のキシランである、項目1に記載の水性組成物。
【0019】
項目11.
前記水溶性キシランが、広葉樹由来のキシランである、項目8に記載の水性組成物。
【0020】
項目12.
前記水系媒体が水である、項目1に記載の水性組成物。
【0021】
項目13.
カーボンナノチューブの濃度が50mg/L以上である、項目11に記載の水性組成物。
【0022】
項目14.
カーボンナノチューブの濃度が1g/L以上である、項目11に記載の水性組成物。
【発明の効果】
【0023】
本発明の導電性コーティング用水性組成物は、カーボンナノチューブの分散剤として水溶性キシランを用いている。そのため、この水性組成物を調製するためのカーボンナノチューブ水溶液を作製する際に、従来の分散剤を用いた水分散液の作製時よりも分散時間を短縮することができ、かつ、この水溶液からコーティング用水性組成物を調製する際にも凝集を生じない。なお、本明細書中では、「分散剤」との表現は、分散作用を有する物質だけでなく、可溶化作用を有する物質をもさす。水溶性キシランは、分散剤として使用されるが、水溶性キシランは、カーボンナノチューブを「分散」させるだけでなく、「溶解」させる作用を有する。
【0024】
本発明の導電性コーティング用水性組成物においては、カーボンナノチューブを高濃度にすることができる。本発明の導電性コーティング用水性組成物は、無希釈で、または任意の割合で希釈し、コーティングすることにより、透明性かつ導電性に優れたコーティングを形成することができる。
【0025】
本発明の導電性コーティング用水性組成物は、有機溶剤を全く含まないかまたはその含有量が非常に少ないため、臭気が少なく、引火点が高く、そのため、好ましい配合においては消防法により定められる危険物に該当しない塗料を得ることができるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
(1.導電性コーティング用水性組成物)
本発明の導電性コーティング用水性組成物(以下、単に「水性組成物」という)は、導電性コーティングを形成するための水性組成物である。本発明の水性組成物は、好ましくは、透明な導電性コーティング(導電性透明被膜ともいう)を形成するための水性組成物である。本明細書中では、コーティング、コーティング被膜、被膜、皮膜および塗膜は同義である。本明細書中では、用語「コーティング」とは、物体の表面に固着しており、連続してその物体の面を覆う固体の皮膜をいう。
【0028】
本発明の水性組成物は、好ましくは、塗料である。本明細書中では、用語「塗料」とは、物体の表面の保護、外観および形状の変化、その他を目的として用いる材料の1種であって、流動状態で物体の表面にひろげると薄い膜となり、時間の経過につれてその面に固着したまま固体の膜となり、連続してその面を覆うものをいう。塗料を用いて、物体の表面にひろげる操作を塗るといい、固体の膜ができる過程を乾燥といい、固体の皮膜を塗膜という。流動状態とは、液状、融解状、空気懸濁体などの状態を含むものである。
【0029】
本発明の導電性コーティング用水性組成物は、水系媒体中に水溶性キシラン、樹脂およびカーボンナノチューブを含む。
【0030】
水性組成物中の水溶性キシランの含有量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されない。水性組成物中の水溶性キシランの含有量は、約0.05重量%以上であることが好ましく、約0.1重量%以上であることがさらに好ましく、約0.2重量%以上であることが最も好ましい。水性組成物中の水溶性キシランの含有量は、約5重量%以下であることが好ましく、約2重量%以下であることがさらに好ましく、約1.5重量%以下であることがさらに好ましく、約0.8重量%以下であることが最も好ましい。
【0031】
特定の実施形態では、水性組成物調製時の分散安定性およびコーティングの導電性のさらなる向上の観点からは、水性組成物中の水溶性キシランの含有量は、カーボンナノチューブ100重量部に対して、約10重量部以上であることが好ましく、約30重量部以上であることがさらに好ましく、約50重量部以上であることが最も好ましい。水性組成物調製時の分散安定性およびコーティングの導電性のさらなる向上の観点からは、水性組成物中の水溶性キシランの含有量は、カーボンナノチューブ100重量部に対して、約400重量部以下であることが好ましく、約200重量部以下であることがさらに好ましく、約150重量部以下であることがさらに好ましく、約100重量部以下であることが最も好ましい。
【0032】
特定の実施形態では、水性組成物中の水溶性キシランの含有量は、樹脂100重量部に対して、約2重量部以上であることが好ましい。水性組成物中の水溶性キシランの含有量は、約6重量部以上であることがさらに好ましく、約7.5重量部以上であることが最も好ましい。水性組成物中の樹脂の含有量は、樹脂100重量部に対して、約50重量部以下であることが好ましい。水性組成物中の樹脂の含有量は、約40重量部以下であることがさらに好ましく、約30重量部以下であることが最も好ましい。
【0033】
水溶性キシランと他の分散剤を使用する場合はそれらの合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0034】
水性組成物中の樹脂の含有量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されない。水性組成物中の樹脂の含有量は、約1.0重量%以上であることが好ましく、約2.0重量%以上であることがより好ましく、約4.0重量%以上であることがさらに好ましく、約6.0重量%以上であることが最も好ましい。水性組成物中の樹脂の含有量は、約50重量%以下であることが好ましく、約30重量%以下であることがさらに好ましく、約20重量%以下であることがさらに好ましく、約15重量%以下であることが最も好ましい。
【0035】
特定の実施形態では、水性組成物中の樹脂の含有量は、カーボンナノチューブ100重量部に対して、約200重量部以上であることが好ましい。水性組成物中の樹脂の含有量は、コーティングの強度の向上とコーティングの導電性のさらなる向上との観点からは、約300重量部以上であることがさらに好ましく、約400重量部以上であることが最も好ましい。水性組成物中の樹脂の含有量は、カーボンナノチューブ100重量部に対して、約3000重量部以下であることが好ましい。水性組成物中の樹脂の含有量は、コーティングの強度の向上とコーティングの導電性のさらなる向上との観点からは、約1500重量部以下であることがさらに好ましく、約11000重量部以下であることが最も好ましい。樹脂の上記含有量は樹脂自体の含有量を示すものであり、当該樹脂がいかなる形態で使用される場合においても、樹脂固形分の量が上記範囲内であればよい。
【0036】
水性組成物中のカーボンナノチューブの含有量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されない。水性組成物中のカーボンナノチューブの含有量は、水性組成物全量に対して約0.05重量%以上であることが好ましく、約0.1重量%以上であることがより好ましく、約0.2重量%以上であることがより好ましく、約0.3重量%以上であることがより好ましく、約0.4重量%以上であることが最も好ましい。水性組成物中のカーボンナノチューブの含有量は、特に上限はないが、例えば、約10.0重量%以下、約7.0重量%以下、約5.0重量%以下、約4.0重量%以下、約3.0重量%以下、約2.0重量%以下、約1.0重量%以下などであり得る。
【0037】
特定の実施形態では、水性組成物中のカーボンナノチューブの含有量は、樹脂100重量部に対して、約5重量部以上であることが好ましい。水性組成物中のカーボンナノチューブの含有量は、約6重量部以上であることがさらに好ましく、約10重量部以上であることが最も好ましい。水性組成物中のカーボンナノチューブの含有量は、樹脂100重量部に対して、約50重量部以下であることが好ましい。水性組成物中のカーボンナノチューブの含有量は、約40重量部以下であることがさらに好ましく、約30重量部以下であることが最も好ましい。
【0038】
水性組成物中の媒体の量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されない。水性組成物中の媒体の量に特に下限はなく、水性組成物全量に対して、例えば、約20重量%以上、約30重量%以上、約40重量%以上、約50重量%以上、約60重量%以上、約70重量%以上、約80重量%以上、約85重量%以上、約90重量%以上などであり得る。水性組成物中の媒体の量は、水性組成物全量に対して、約99.5重量%以下であることが好ましく、約99重量%以下であることがより好ましく、約98.5重量%以下であることがより好ましく、約98重量%以下であることがより好ましく、約95重量%以下であることが最も好ましい。水性組成物中の媒体の量は、特に上限はなく、水性組成物全量に対して、例えば、約95重量%以下、約90重量%以下、約85重量%以下、約80重量%以下、約70重量%以下、約60重量%以下、約50重量%以下などであり得る。
【0039】
水性組成物中の固形分量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されない。水性組成物中の固形分量は、水性組成物全量に対して、約0.5重量%以上であることが好ましく、約1.0重量%以上であることがより好ましく、約1.5重量%以上であることがより好ましく、約2.0重量%以上であることがより好ましく、約2.5重量%以上であることがより好ましく、約3.0重量%以上であることが最も好ましい。水性組成物中の固形分量は、水性組成物全量に対して、約5重量%以上、約10重量%以上、約15重量%以上、約20重量%以上、約30重量%以上、約40重量%以上、約50重量%以上などであってもよい。水性組成物中の固形分量は、特に上限はなく、例えば、約80重量%以下、約70重量%以下、約60重量%以下、約50重量%以下、約30重量%以下、約20重量%以下、約15重量%以下、約10重量%以下などであり得る。
【0040】
(2.水溶性キシラン)
本明細書中で用いられる場合、用語「キシラン」とは、β−1,4結合によって連結された2以上のキシロース残基を含む分子をいう。本明細書中では、キシロース残基のみから構成される分子(すなわち、純粋なキシロースポリマー)に加えて、それらの修飾された分子、およびアラビノース残基などの他の残基が純粋なキシロースポリマーに結合した分子をも「キシラン」という。純粋なキシロースポリマーは、重合度5までは6mg/mL以上の濃度で水に溶解する。しかし、重合度6以上では水への溶解度は6mg/mL未満である。なお、本明細書中では、溶解度とは、20℃で測定した溶解度である。
【0041】
本明細書中で用いられる場合、用語「水溶性キシラン」とは、β−1,4結合によって連結された6以上のキシロース残基を含む分子であって、20℃の水に6mg/mL以上溶解する分子をいう。水溶性キシランは、純粋なキシロースポリマーではなく、キシロースポリマー中の少なくとも一部の水酸基が他の置換基(例えば、アセチル基、グルクロン酸残基、アラビノース残基など)に置き換わっている分子である。キシロース残基のみからなるキシランの水酸基が他の置換基に置き換わることにより、キシロース残基のみからなるキシランよりも水溶性が高くなることがある。キシロース残基のみからなるキシランの水酸基が他の置換基に置き換わっている分子は、キシロースポリマーに置換基が結合した分子、または修飾されたキシロースポリマーということもできる。なお、本明細書中で用語「修飾された」とは、基準分子と比較して修飾されている分子をいい、人為的操作によって製造された分子だけでなく、天然に存在する分子をも包含する。キシロースポリマーに4−O−メチルグルクロン酸残基およびアセチル基が結合したものは、一般に、グルクロノキシランと呼ばれる。キシロースポリマーにアラビノース残基および4−O−メチルグルクロン酸が結合したものは、一般に、アラビノグルクロノキシランと呼ばれる。
【0042】
水溶性キシランは、その主鎖にキシロース残基またはその修飾物のみを含むことが好ましく、その主鎖にキシロース残基またはアセチル化キシロース残基のみを含むことがより好ましい。本明細書中では、用語「主鎖」とは、β−1,4結合によって連結された最も長い鎖をいう。水溶性キシロースが直鎖状である場合、その分子自体が主鎖であり、水溶性キシロースが分枝状である場合、β−1,4結合によって連結された最も長い鎖が主鎖である。本発明で用いられる水溶性キシランの主鎖の数平均重合度は、好ましくは約6以上であり、より好ましくは約7以上であり、さらに好ましくは約8以上であり、特に好ましくは約9以上であり、最も好ましくは約10以上である。本発明で用いられる水溶性キシランの主鎖の数平均重合度は、好ましくは約5000以下であり、より好ましくは約1000以下であり、さらに好ましくは約500以下であり、特に好ましくは約100以下であり、最も好ましくは約50以下である。水溶性キシランの主鎖の数平均重合度が高すぎると水溶性が低すぎる場合がある。
【0043】
親水基は、キシロース残基の1位、2位、3位または4位のいずれの位置においても結合し得る。1つのキシロース残基に対する親水基の結合箇所は、4箇所の全てであり得るが、3箇所以下が好ましく、2箇所以下がより好ましく、1箇所であることが最も好ましい。親水基は、キシロースポリマーの全てのキシロース残基に結合していてもよいが、好ましくは一部のキシロース残基にのみ結合している。親水基の結合の割合は、好ましくはキシロース残基10個あたり1個以上であり、より好ましくはキシロース残基10個あたり2個以上であり、さらに好ましくはキシロース残基10個あたり3個以上であり、特に好ましくはキシロース残基10個あたり4個以上であり、最も好ましくはキシロース残基10個あたり5個以上である。親水基の例としては、アセチル基、4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基、L−アラビノフラノース残基およびα−D−グルクロン酸残基が挙げられる。
【0044】
本発明の特定の実施形態では、キシロース残基の2位に、他の糖残基が結合している水溶性キシランが好ましい。この水溶性キシランにおいて、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計と他の糖残基との割合は、他の糖残基1モルに対し、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が20モル以下であることが好ましく、10モル以下であることがより好ましく、6モル以下であることがさらに好ましい。キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計と他の糖残基との割合は、他の糖残基1モルに対し、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が1モル以上であることが好ましく、2モル以上であることがより好ましく、5モル以上であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の特定の実施形態では、キシロース残基の2位に4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基がα−1,2−結合している水溶性キシランが好ましい。この水溶性キシランにおいて、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計と4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基との割合は、4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基1モルに対し、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が100モル以下であることが好ましく、50モル以下であることがより好ましく、20モル以下であることがさらに好ましい。キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計と4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基との割合は、4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基1モルに対し、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が1モル以上であることが好ましく、5モル以上であることがより好ましく、9モル以上であることがより好ましく、10モル以上であることがより好ましく、14モル以上であることがさらに好ましい。
【0046】
水溶性キシランの数平均分子量は、好ましくは約100万以下であり、より好ましくは約50万以下であり、さらにより好ましくは約10万以下であり、特に好ましくは約5万以下であり、最も好ましくは約2万以下である。水溶性キシランの数平均分子量は、好ましくは約1500以上であり、より好ましくは約2000以上であり、さらにより好ましくは約4000以上であり、特に好ましくは約5000以上であり、格別好ましくは約6000以上であり、最も好ましくは約1万以上である。
【0047】
本発明で用いられる好適な水溶性キシランは、好ましくは木本性植物由来である。水溶性キシランは、植物の細胞壁部分に多く含まれる。木材は特に、水溶性キシランを多く含む。水溶性キシランの構造は、由来する植物の種類に依存して様々である。広葉樹の木材に含まれるヘミセルロースの主成分はグルクロノキシランであることが公知である。広葉樹に含まれるグルクロノキシランは、キシロース残基10:4−O−メチルグルクロン酸1:アセチル基6の割合で構成されることが多い。針葉樹の木材に含まれるヘミセルロースの主成分はグルコマンナンであり、針葉樹の木材はまたグルクロノキシランおよびアラビノグルクロノキシランも含むことが公知である。なお、グルコマンナンは主鎖がマンノース残基とグルコース残基とから構成されており、その比は一般に、マンノース残基3〜4:グルコース残基1である。本発明で用いられる水溶性キシランはより好ましくは広葉樹由来であり、より好ましくはブナ、カバ、アスペン、ニレ、ビーチまたはオーク由来であり、より好ましくはグルクロノキシランである。広葉樹のヘミセルロース成分は、本発明で用いられる水溶性キシランを多く含む。広葉樹由来の水溶性キシランは、アラビノース残基をほとんど含まないため特に好適である。当然のことながら、天然由来の水溶性キシランは、異なる分子量を有する種々の分子の混合物である。天然由来の水溶性キシランは、その効果を発揮し得る限り、夾雑物を含んだ状態で使用されてもよく、広い分子量分布を有する集団として使用されてもよく、より狭い分子量分布を有する集団になるように、より高純度に精製されてから使用されてもよい。
【0048】
少量ではあるが、針葉樹、トウモロコシ、イネ、麦などのイネ科の草本植物などにも水溶性キシランは含まれる。これら由来の水溶性キシランは、4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基以外に、α−L−アラビノース残基がキシロース残基に共有結合している。α−L−アラビノース残基の含量が高すぎると分散剤としての効果が得られない場合があるので、α−L−アラビノース残基の含量が高いキシランは本発明の目的に好適ではない。穀類(麦、米)、熊笹などから抽出されるヘミセルロースは、キシロース、4−O−メチルグルクロン酸およびアラビノースから主になるアラビノグルクロノキシランであり、本発明の水溶性キシランと異なり、アラビノースの含量が高い。草本性植物由来の水溶性キシランであっても、L−アラビノース残基を少なくとも一部除去することにより、本発明で利用され得る。L−アラビノース残基は、化学的方法または酵素的方法などの公知の方法によって除去され得る。
【0049】
本発明の特定の実施形態では、水溶性キシランが、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と、アラビノース残基と4−O−メチルグルクロン酸残基とからなることが好ましい。この実施形態において、水溶性キシラン中のL−アラビノース残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計は、好ましくは約7以上であり、より好ましくは約10以上であり、さらに好ましくは約20以上である。この実施形態において、水溶性キシラン中のL−アラビノース残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計は、好ましくは約100以下であり、より好ましくは約60以下であり、さらに好ましくは約40以下である。
【0050】
水溶性キシランは、例えば木材から、公知の方法に従って精製される。水溶性キシランの精製方法としては、例えば、脱リグニン処理した木材を原料として、10%程度の水酸化カリウム溶液で抽出する方法などが挙げられる。水溶性キシランはまた、木材から製造された粉末セルロースを水に分散し、この溶液を濾紙、0.45μmフィルター、0.2μmフィルターで順次濾過して得られる濾液を乾燥することによっても得られる。
【0051】
本発明で用いられる水溶性キシランにおいて、キシロース残基とL−アラビノース残基との割合は、L−アラビノース残基1モルに対し、キシロース残基が7モル以上であることが好ましく、10モル以上であることがより好ましく、20モル以上であることがさらに好ましい。L−アラビノース残基1モルに対するキシロース残基の比に上限はなく、L−アラビノース残基1モルに対して、キシロース残基は例えば、100残基以下、60残基以下、40残基以下などである。
【0052】
本発明の特に好ましい実施形態では、水溶性キシランは好ましくはL−アラビノース残基を含まない。水溶性キシランは、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と4−O−メチルグルクロン酸残基とからなる。この実施形態において、水溶性キシラン中の4−O−メチルグルクロン酸残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計は、好ましくは約1以上であり、より好ましくは約5以上であり、さらに好ましくは約9以上であり、さらに好ましくは約10以上であり、さらにより好ましくは約14以上である。この実施形態において、水溶性キシラン中の4−O−メチルグルクロン酸残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計は、好ましくは約100以下であり、より好ましくは約50以下であり、さらに好ましくは約20以下である。
【0053】
(3.樹脂)
本発明で用いられる樹脂は、水性塗料で一般に用いられる任意の樹脂であり得る。この樹脂は、カーボンナノチューブを結び付けているという意味で、バインダー樹脂ということもできる。樹脂は、水溶性であっても、水溶性でなくてもよい。水系媒体に溶解または分散できる樹脂であればよい。水系媒体に溶解または分散できる樹脂は、水性樹脂とも呼ばれる。特定の実施形態では、樹脂は、好ましくは水溶性樹脂である。本発明で用いられる樹脂は、天然樹脂であっても合成樹脂であってもよい。
【0054】
本発明で用いられる樹脂の例としては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0055】
樹脂は、要求性能(例えば、塗装される物品の表面との密着性)に応じて適切に選択され得る。例えば、密着性の観点からは、塗装される物品の表面にポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる場合、樹脂としてウレタン系樹脂またはポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。例えば、密着性の観点からは、塗装される物品の表面にアクリルを用いる場合、樹脂としてアクリル系樹脂を用いることが好ましい。塗装される物品の表面の材料に応じて、水性組成物中の樹脂を適切に選択することは当業者には容易である。
【0056】
本発明が達成される範囲内であれば、1種類の樹脂を単独で使用してもよく、2種以上の樹脂を混合してもよい。
【0057】
本発明の塗料が用いられる用途に依存して、樹脂は、塗膜を形成した際に、有色であっても無色であってもよく、透明であっても不透明であってもよい。もちろん、塗膜の厚さによって着色程度および透明度は変動する。透明な塗膜を形成するための塗料の場合には、単独で厚さ約400nmの塗膜を形成したときに全光線透過率が約50%以上である樹脂が好ましく、約60%以上である樹脂がより好ましく、約70%以上である樹脂がより好ましく、約80%以上である樹脂がより好ましく、約90%以上である樹脂がより好ましく、約95%以上である樹脂がより好ましい。
【0058】
本発明での使用に適切な樹脂は通常、市販品として入手可能である。本発明では、これらの樹脂が水などの媒体に分散した状態の製品として販売されているものを使用し得る。
【0059】
ウレタン系樹脂の分散液は、例えば、ハイドランHW171(大日本インキ化学工業株式会社製)、ハイドランAP−40N(大日本インキ化学工業株式会社製)等として入手可能である。
【0060】
アクリル系樹脂の分散液は、例えば、ボンコートHY364(大日本インキ化学工業株式会社製)、ネオクリルXK−12(DSM社製)等として入手可能である。
【0061】
アクリルシリコン系樹脂の分散液は、例えば、カネビノールKD4(日本NSC株式会社製)等として入手可能である。
【0062】
ポリエステル系樹脂の分散液は、例えばバイロナールMD1245(東洋紡績株式会社製)等として入手可能である。
【0063】
ポリオレフィン系樹脂は、種々の名称で入手可能である。環境安全性の観点からは、ポリオレフィン系樹脂の中でも、塩素化されていないポリオレフィン系樹脂が好ましい。本明細書中では、塩素化されていないポリオレフィン系樹脂を非塩素化ポリオレフィン系樹脂ともいう。非塩素化ポリオレフィン系樹脂の分散液は、例えば、アローベースSB1010(ユニチカ株式会社製)等として入手可能である。
【0064】
(4.カーボンナノチューブ)
カーボンナノチューブ(本明細書中以下、CNTともいう)とは、炭素の同素体であり、複数の炭素原子が結合して筒状に並んだものをいう。カーボンナノチューブとしては、任意のカーボンナノチューブを用いることができる。カーボンナノチューブの例としては、単層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブ、およびこれらがコイル状になったものが挙げられる。単層カーボンナノチューブは、グラファイト状炭素原子が一重で並んでいるものであり、多層カーボンナノチューブは、グラファイト状炭素原子が2層以上同心円状に重なったものである。本発明で用いられるカーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブでも単層カーボンナノチューブでもよいが、より好ましくは単層カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブの片側が閉じた形をしたカーボンナノホーン、その頭部に穴があいたコップ型のナノカーボン物質、両側に穴があいたカーボンナノチューブなども用いることができる。
【0065】
カーボンナノチューブは、任意の直径(すなわち、外径)のものであり得る。カーボンナノチューブの直径は好ましくは約0.4ナノメートル以上であり、さらに好ましくは約0.5ナノメートル以上であり、さらに好ましくは約0.6ナノメートル以上であり、さらに好ましくは約1.0ナノメートル以上であり、最も好ましくは約1.2ナノメートル以上である。カーボンナノチューブの直径は好ましくは約100ナノメートル以下であり、より好ましくは約60ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約50ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約40ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約30ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約20ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約10ナノメートル以下であり、さらに好ましくは5ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約4ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約3ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約2ナノメートル以下であり、最も好ましくは約1.5ナノメートル以下である。
【0066】
特に、単層カーボンナノチューブの場合、その直径は好ましくは約0.4ナノメートル以上であり、さらに好ましくは約0.5ナノメートル以上であり、さらに好ましくは約0.6ナノメートル以上であり、さらに好ましくは約1.0ナノメートル以上であり、最も好ましくは約1.2ナノメートル以上である。単層カーボンナノチューブの場合、その直径は好ましくは約5ナノメートル以下であり、より好ましくは約4ナノメートル以下であり、より好ましくは約3ナノメートル以下であり、より好ましくは約2ナノメートル以下であり、最も好ましくは約1.5ナノメートル以下である。
【0067】
特に、多層カーボンナノチューブの場合、その直径は好ましくは約1ナノメートル以上であり、より好ましくは約2ナノメートル以上であり、より好ましくは約3ナノメートル以上であり、より好ましくは約4ナノメートル以上であり、より好ましくは約5ナノメートル以上であり、より好ましくは約10ナノメートル以上であり、より好ましくは約20ナノメートル以上であり、より好ましくは約30ナノメートル以上であり、より好ましくは約40ナノメートル以上であり、最も好ましくは約60ナノメートル以上である。多層カーボンナノチューブの場合、その直径は好ましくは約100ナノメートル以下であり、より好ましくは約60ナノメートル以下であり、より好ましくは約40ナノメートル以下であり、より好ましくは約30ナノメートル以下であり、より好ましくは約20ナノメートル以下であり、最も好ましくは約10ナノメートル以下である。本明細書中で、多層ナノチューブについて直径という場合、最も外側のカーボンナノチューブの直径をいう。
【0068】
カーボンナノチューブは、任意の長さ(すなわち、軸方向長さ)のものであり得る。カーボンナノチューブの長さは、好ましくは約0.6マイクロメートル以上であり、より好ましくは約1マイクロメートル以上であり、さらに好ましくは約2マイクロメートル以上であり、最も好ましくは約3マイクロメートル以上である。カーボンナノチューブの長さは、好ましくは約1000マイクロメートル以下であり、より好ましくは約500マイクロメートル以下であり、より好ましくは約200マイクロメートル以下であり、より好ましくは約100マイクロメートル以下であり、より好ましくは約50マイクロメートル以下であり、より好ましくは約20マイクロメートル以下であり、より好ましくは約15マイクロメートル以下であり、さらに好ましくは約10マイクロメートル以下であり、最も好ましくは約5マイクロメートル以下である。
【0069】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、市販のものであっても、当該分野で公知の任意の方法によって製造されてもよい。カーボンナノチューブは例えば、シンセンナノテクポート社(Shenzhen Nanotech Port Co.,Ltd.)、CARBON NANOTECHNOLOGIES INC.、SES RESEARCH、昭和電工社などから販売されている。
【0070】
カーボンナノチューブの製造方法の例としては、二酸化炭素の接触水素還元法、アーク放電法(例えば、C.Journetら、Nature(ロンドン),388(1997),756を参照のこと)、レーザー蒸発法(例えば、A.G.Rinzlerら、Appl.Phys.A,1998,67,29を参照のこと)、CVD法、気相成長法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法(例えば、P.Nikolaevら、Chem.Phys.Lett.,1999,313,91を参照のこと)などが挙げられる。
【0071】
カーボンナノチューブは、洗浄、遠心分離、ろ過、酸化、クロマトグラフィーなどによって精製されたものであっても、未精製のものであってもよい。精製されたものであることが好ましい。用いられるカーボンナノチューブの純度は、任意であり得るが、好ましくは約5%以上、より好ましくは約10%以上、さらに好ましくは約20%以上、さらに好ましくは約30%以上、さらに好ましくは約40%以上、さらに好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上である。カーボンナノチューブの純度が高いほど、特有の機能が発現されやすい。なお、本明細書中でカーボンナノチューブの純度という場合、特定の分子量の1種類のカーボンナノチューブとしての純度ではなく、カーボンナノチューブ全体としての純度をいう。すなわち、カーボンナノチューブ粉末がAという特定の分子量のカーボンナノチューブ30重量%と、Bという特定の分子量のカーボンナノチューブ70重量%とからなっている場合、この粉末の純度は100%である。もちろん、用いられるカーボンナノチューブは、特定の直径、特定の長さ、特定の構造(単層か多層か)などについて選択されたものであってもよい。
【0072】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミルなどのボール型混練装置等を用いて粉砕したもの、または化学的処理もしくは物理的処理によって短く切断されたものであってもよい。
【0073】
カーボンナノチューブは導電性に優れているので、水性組成物への添加量が比較的少量であっても、所望の導電性を有しつつ、透明性が顕著に優れた透明コーティングを形成できる導電性コーティング用水性組成物が得られる。水性組成物中でカーボンナノチューブは1本ずつ分離した状態で分散していてもよいし、または複数本が束になった状態で分散していてもよい。1本ずつ分離した状態で分散していることが好ましい。カーボンナノチューブの代わりにチューブ形態を有しない単なる導電性カーボン等の従来の導電性材料を用いると、所望の導電性を得るためには添加量がカーボンナノチューブと比較すると多くなるため、形成されるコーティングの透明性が低下する。それゆえ、従来の導電性材料を使用することは好ましくない。
【0074】
(5.媒体)
本明細書中では、用語「媒体」とは、他の物質(例えば、カーボンナノチューブ、樹脂、水溶性キシラン)を分散または溶解する液体成分をいう。
【0075】
本発明の水性組成物に用いられる媒体としては、水溶性キシランを溶解できる媒体が挙げられる。水性組成物に用いられる媒体は、樹脂を分散または溶解する媒体である。媒体は、樹脂以外の物質(例えば、水溶性キシラン、カーボンナノチューブなど)を溶解していても分散していてもよい。媒体は好ましくは、水または水と混和性の任意の有機溶媒であり、最も好ましくは水である。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、γ−ブチルラクトン、プロピレンカーボネート、スルホラン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルムおよびジクロロエタンが挙げられる。
【0076】
水と有機溶媒とを混合する場合、媒体全体のうちの水の割合は、混合する前の水の容積と有機溶媒の容積との合計の、約60体積%以上であることが好ましく、約70体積%以上であることが好ましく、約80体積%以上であることが好ましく、約90体積%以上であることが好ましく、約95体積%以上であることが最も好ましい。水と混合される有機溶媒は、1種類であっても2種類以上であってもよい。環境への影響および人体への影響などを考慮すると、媒体は水であるかまたは主に水からなることが好ましい。用語「主に水からなる」とは、媒体の約80重量%以上が水であることをいう。なお、用語「水系媒体」とは、水を主成分とする媒体をいう。用語「主成分とする」とは、媒体全体のうちの水の割合が約50重量%以上であることをいう。
【0077】
(6.他の材料)
水性組成物の分散安定性を阻害しない限り、本発明の水性組成物は、必要に応じて、塗面調整剤(レベリング剤、消泡剤など)、染料、着色料、充填剤、水溶性キシラン以外の分散剤、滑り性向上剤、帯電防止剤、可塑剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤などの公知の各種物質をさらに含み得る。
【0078】
充填材としては、エマルジョン型塗料に従来使用されていた任意の充填材が使用可能である。例えば、珪砂、珪石粉、珪藻土、クレー、タルクなどが使用され得る。
【0079】
充填材を用いる場合、充填材の配合量は特に限定されないが、水性組成物の固形分100重量部に対して、好ましくは、10重量部以上であり、より好ましくは、30重量部以上であり、さらに好ましくは、50重量部以上である。また、好ましくは、400重量部以下であり、より好ましくは、300重量部以下であり、さらに好ましくは、200重量部以下である。添加量が少なすぎる場合には、添加効果が得られにくい。添加量が多すぎる場合には、粘度が高くなりすぎて取り扱いにくくなりやすい。
【0080】
本発明の組成物には、必要に応じて、水溶性キシラン以外の分散剤を添加することができる。分散剤の種類としては、樹脂の種類および充填材の種類に応じて任意の公知のものが使用可能である。従来から水性塗料に用いられていた各種分散剤が好ましく使用可能である。一般的には、いわゆる界面活性剤として知られているものを分散剤として使用することができる。例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などの各種の界面活性剤が使用可能である。
【0081】
水溶性キシラン以外の分散剤を用いる場合、その配合量は特に限定されないが、水溶性組成物の固形分100重量部に対して、好ましくは、0.01重量部以上であり、より好ましくは、0.1重量部以上であり、さらに好ましくは、0.5重量部以上である。また、好ましくは、20重量部以下であり、より好ましくは、10重量部以下であり、さらに好ましくは、5重量部以下である。添加量が少なすぎる場合には、水性組成物が不安定になりやすい。添加量が多すぎる場合には、粘度が低くなりすぎる場合がある。
【0082】
(7.導電性コーティング用水性組成物の製造方法)
本発明の水性組成物は、当業者に公知の手順および機器を用いて製造され得る。
【0083】
本発明の水性組成物は、水系媒体中で、水溶性キシラン、樹脂およびカーボンナノチューブを混合することにより得られる。
【0084】
1つの実施形態では、本発明の水性組成物は、水系媒体中に水溶性キシランおよびカーボンナノチューブを含有する水溶液または分散液と、水系媒体中に樹脂を含有する水溶液または分散液とを混合する工程を包含する方法によって製造可能である。水系媒体中に水溶性キシランおよびカーボンナノチューブを含有する液体は、水溶液であっても分散液であってもよい。水溶液であることが好ましい。水系媒体中に樹脂を含有する液体は、水溶液であっても分散液であってもよい。
【0085】
本発明の水性組成物は、例えば、水系媒体に水溶性キシランおよびカーボンナノチューブを添加して溶液を得る工程、水系媒体中に樹脂を添加して分散液を得る工程、この溶液と分散液とを混合して水性組成物を得る工程を包含する方法によって製造され得る。
【0086】
1つの実施形態では、本発明の水性組成物は、水系媒体中に水溶性キシランおよびカーボンナノチューブを含有する混合物に超音波を投射して溶液を得る工程、水系媒体中に樹脂を添加して分散液を得る工程、ならびにこの溶液とこの分散液とを混合する工程を包含する方法によって製造可能である。
【0087】
簡便な方法としては、例えば、市販の水性塗料中に水溶性キシランおよびカーボンナノチューブを添加してカーボンナノチューブを溶解または分散させてもよい。
【0088】
水系媒体中に水溶性キシランおよびカーボンナノチューブを含む溶液を得る工程においては、この溶液中にカーボンナノチューブを均一に溶解させることが好ましい。
【0089】
カーボンナノチューブを均一に溶解させた溶液の作製方法の一例について説明する。
【0090】
水系媒体に水溶性キシランを添加して、水溶性キシラン溶液を作製し得る。水溶性キシラン溶液中の水溶性キシランの濃度は、水溶性キシランが溶解し得る限り、そして後の工程で添加される樹脂の水系分散液または水溶液に含まれる水を考慮して、最終的に得られる導電性コーティング用水性組成物での濃度が好適な範囲内になる限り、任意に設定され得る。後の工程で添加される樹脂の水系分散液または水溶液に含まれる水を考慮して、最終的に得られる導電性コーティング用水性組成物での濃度が好適な範囲内になるように水溶液中の水溶性キシランの濃度を設定することは、カーボンナノチューブの分散安定性の観点から好ましい。添加する水溶性キシランの量は、得られる溶液中の水溶性キシランの濃度が、好ましくは約0.05重量%以上であり、より好ましくは約0.1重量%以上、より好ましくは約0.2重量%以上である。溶液中の水溶性キシランの濃度は、好ましくは約5重量%以下であり、好ましくは約2重量%以下であり、好ましくは約1.5重量%以下であり、さらに好ましくは約0.8重量%以下である。例えば、約1重量%以下の濃度範囲となる量であることが好ましい。水溶性キシランの濃度が高すぎると、溶解するカーボンナノチューブの量が減少する場合がある。水溶性キシランの濃度が低すぎると、溶解するカーボンナノチューブの量が少なすぎる場合がある。
【0091】
水溶性キシラン以外の材料(例えば、他の分散剤)を添加する場合、水溶性キシランと同時またはその前後に、水溶性キシランと同様の手順で添加することができる。
【0092】
次いで、水溶性キシランを含む溶液に、カーボンナノチューブを添加して混合物を得る。添加するカーボンナノチューブは、粉末の形態であることが好ましい。添加されるカーボンナノチューブの量は、本発明の方法によって溶解可能なカーボンナノチューブの量を超える量であればよく、任意に設定され得る。添加されるカーボンナノチューブの量は、例えば、溶液100重量部に対して約0.1重量部以上、約0.2重量部以上、約0.5重量部以上、約1重量部以上、または約5重量部以上であり得る。添加されるカーボンナノチューブの量は、例えば、溶液100重量部に対して約10重量部以下、約7.5重量部以下、約5重量部以下、約3重量部以下、または約1重量部以下であり得る。
【0093】
あるいは、水溶性キシランとカーボンナノチューブとを予め混合した後、これに媒体を添加することによって混合物を得てもよい。また、他の機械的手段によって充分に混合してもよい。
【0094】
次いで、得られた混合物に超音波を投射することにより該カーボンナノチューブを溶解および分散させる。超音波を投射する方法は、水溶性キシラン溶液にカーボンナノチューブを均一に溶解させ得る方法である限り、その超音波の投射方法、周波数、時間などの条件は特に限定されるものではない。超音波投射が可能な超音波発振機としては、例えば、UH600(SMT株式会社製)、RUS−600(株式会社日本精機製作所製)等が使用可能であるがこれらに限定されない。超音波を投射する際の温度および圧力も、水溶性キシランおよびカーボンナノチューブを含む溶液または分散液が、液体状態を保つ条件であればよい。例えば、水溶性キシランおよびカーボンナノチューブを含む溶液または分散液をガラス容器に入れ、バス型ソニケーターを使用して、室温で超音波を投射することが行われる。例えば、超音波発振機における定格出力は、超音波発振機の単位底面積当たり約0.1ワット/cm以上が好ましく、約0.2ワット/cm以上がより好ましく、約0.3ワット/cm以上がより好ましく、約10ワット/cm以上がより好ましく、約50ワット/cm以上がより好ましく、約100ワット/cm以上が最も好ましい。超音波発振機における定格出力は、超音波発振機の単位底面積当たり約1500ワット/cm以下が好ましく、約750ワット/cm以下がより好ましく、約500ワット/cm以下がより好ましく、約300ワット/cm以下が最も好ましい。発振周波数は20から50KHzの範囲で使用することが好ましい。振幅は、約20μm以上であることが好ましく、約30μm以上であることが最も好ましい。振幅は、約40μm以下であることが好ましい。また、超音波投射処理の時間は約1分間〜約3時間が好ましく、より好ましくは約5分間〜約30分間である。超音波を投射する際またはその前後に、ボルテックスミキサー、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリットミキサーなどの撹拌装置を用いてもよい。混合物の温度は、溶解させる物質が分解または変質せず、溶媒が揮発しすぎない温度であれば任意の温度であり得る。カーボンナノチューブは非常に耐熱性が強いので、混合物の温度は、例えば、約5℃以上であり、好ましくは約10℃以上であり、さらに好ましくは約15℃以上であり、さらに好ましくは約20℃以上であり、最も好ましくは約25℃以上である。混合物の温度は、例えば、約100℃以下であり、好ましくは約90℃以下であり、さらに好ましくは約80℃以下であり、さらに好ましくは約70℃以下であり、さらに好ましくは約60℃以下であり、さらに好ましくは約50℃以下であり、最も好ましくは約40℃以下である。
【0095】
超音波の投射後、この溶液中の未溶解のカーボンナノチューブを含む固形物をろ過、遠心分離などにより取り除くことが好ましい。超音波を投射後の溶液から、未溶解の固形物を取り除く方法は、フィルターによるろ過、遠心分離など、溶解したカーボンナノチューブと未溶解の固形物とを分離できる限りにおいて特に限定されるものではない。フィルターによるろ過の場合、溶解したカーボンナノチューブは通過し、未溶解の固形物は通過しない孔径を有するフィルターを使用する。好ましくは、孔径1μm〜数百μm程度のフィルターを用いる。遠心分離の場合、溶解したカーボンナノチューブが上清に残り、未溶解の固形物が沈澱に分かれる条件を選択する。好ましくは、800〜4,000×g、5〜30分間と同等の遠心力をかけることにより分離する。このようにして、カーボンナノチューブが均質に溶解している溶液が得られる。
【0096】
この溶液中には、カーボンナノチューブが溶解している。用語「カーボンナノチューブが溶解している」とは、カーボンナノチューブを含む液体を、20℃にて2,200×gで10分間遠心分離した後にその液体全体にカーボンナノチューブが依然として分布しており、カーボンナノチューブによる液体の呈色の低下、沈澱などが認められないことをいう。溶液中では、カーボンナノチューブは、ほぼ単一の分子として溶解している。
【0097】
この溶液中には、カーボンナノチューブが安定して溶解している。用語「カーボンナノチューブが安定して溶解している」とは、カーボンナノチューブの溶液を室温(好ましくは約20℃)に少なくとも3日間放置した場合に、カーボンナノチューブによる液体の呈色の低下、沈澱などが認められないことをいう。この溶液は、好ましくは約1週間、より好ましくは約2週間、さらに好ましくは約3週間、最も好ましくは約4週間放置した後でも、難溶性または不溶性の物質による液体の呈色の低下、沈澱などが認められない。
【0098】
カーボンナノチューブが溶液中に均質に溶解していることは、カーボンナノチューブ溶液中のカーボンナノチューブを遠心分離などにより回収し、溶媒で洗浄して過剰に存在する水溶性キシランを除いた後、原子間力顕微鏡を用いて確認する。
【0099】
溶液中に溶解または分散しているカーボンナノチューブの量は、例えば、70,000×g、15分間遠心分離してカーボンナノチューブを回収し、重量を測定することにより測定することができる。あるいは、文献「Chem.Commun.」誌、P193(2001)に記載されるように、カーボンナノチューブの濃度は、500nmでの吸光度と極めて良好な相関があり、水溶性キシランはこの波長での吸収はほとんどない。それゆえ、カーボンナノチューブの濃度は、500nm付近での吸収を有する何らかの他の物質を含む場合以外は、溶液の500nmでの吸光度を測定することにより容易に決定される。
【0100】
溶液中のカーボンナノチューブの濃度は、カーボンナノチューブが溶解および分散可能である限り、任意に設定され得る。溶液中のカーボンナノチューブの濃度は、好ましくは約0.1g/L(約0.01重量%)以上であり、より好ましくは約0.5g/L(約0.05重量%)以上であり、さらに好ましくは約1g/L(約0.1重量%)以上であり、さらに好ましくは約2g/L(約0.2重量%)以上であり、さらに好ましくは約3g/L(約0.3重量%)以上であり、さらに好ましくは約4g/L(約0.4重量%)以上である。カーボンナノチューブが溶解し得る限り、本発明の溶液中に含まれるカーボンナノチューブの濃度に上限はないが、通常、約20g/L(約2重量%)以下、約10g/L(約1重量%)以下、約9g/L(約0.9重量%)以下または約8g/L(約0.8重量%)以下である。
【0101】
このようにして得られた、カーボンナノチューブが均質に分散または溶解している溶液または分散液に、樹脂が添加され、混合されることにより、本発明の水性組成物が製造される。樹脂の添加は、通常の手段によって行われ得る。例えば、樹脂は、水系分散液または水溶液の形態で添加され得る。樹脂の添加は通常、カーボンナノチューブが均質に溶解または分散している溶液または分散液を攪拌しながら行われる。樹脂の全量を添加した後も、水性組成物中に樹脂が均一に分布するまで攪拌を継続することが好ましい。樹脂以外の材料を添加する場合、樹脂と同時またはその前後に、樹脂と同様の手順で添加することができる。
【0102】
得られた水性組成物は、所望により遠心分離に供されて、上清が分離されて、この上清が水性組成物として使用され得る。水性組成物を遠心分離に供することが好ましい。遠心分離をする場合、溶解したカーボンナノチューブおよび樹脂が上清に残り、未溶解の固形物が沈澱に分かれる条件を選択する。好ましくは、約800〜4,000×g、約5〜30分間と同等の遠心力をかけることにより分離する。
【0103】
(8.導電性コーティング用水性組成物の用途)
本発明の導電性コーティング用水性組成物は、そのままで、または他の希釈剤と混合して、塗液として使用され得る。
【0104】
(9.導電性コーティング)
本発明の水性組成物または本発明の水性組成物を任意の割合で希釈した塗液を基材上に塗布し、乾燥することにより、導電性コーティングが形成される。導電性コーティングは、好ましくは透明である。透明な導電性コーティングは、導電性透明コーティング被膜または導電性透明被膜ともいわれ得る。
【0105】
形成される導電性コーティングは、導電性に優れている。コーティングの導電性は一般に表面抵抗率ρs(Ω/□またはΩ/sq.)によって表される。表面抵抗率とは、試験片の表面に沿って流れる電流と平行方向の電位頻度を、表面の単位幅当たりの電流で除した数値をいう。表面抵抗率は、各辺1cmの正方形の相対する辺を電極とする二つの電極間の表面抵抗に等しい。表面抵抗率は、試験片の厚さによって変化する。表面抵抗率は、JIS K7194に従って測定され得る。本明細書では、表面抵抗率として、ロレスターEP(三菱化学株式会社製)により測定された値を用いている。
【0106】
導電性コーティングは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に厚さ1.0μmになるように形成された場合、表面抵抗率が約1.0×1011Ω/□以下であることが好ましく、約1.0×1010Ω/□以下であることがより好ましく、約1.0×10Ω/□以下であることがより好ましく、約1.0×10Ω/□以下であることがより好ましく、約1.0×10Ω/□以下であることがより好ましく、約1.0×10Ω/□以下であることがより好ましく、約1.0×10Ω/□以下であることがより好ましく、約1.0×10Ω/□以下であることがより好ましく、約1.0×10Ω/□以下であることがより好ましく、約1.0×10Ω/□以下であることが最も好ましい。導電性コーティングの表面抵抗率に特に下限はないが、例えば、約1.0Ω/□以上、約5.0Ω/□以上、約1.0×10Ω/□以上、約5.0×10Ω/□以上などであり得る。
【0107】
特定の実施形態では、形成される導電性コーティングは透明性に優れている。この実施形態では、形成される導電性コーティングは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に厚さ0.5μmになるように形成された場合、上記の好適な表面抵抗率を有し、かつ、全光線透過率が好ましく約60%以上であり、ヘイズが約15%以下である。
【0108】
全光線透過率とは、試験片の平行入射光束に対する全透過光束の割合をいう。全光線透過率は、散乱光も含めた透過光の割合である。全光線透過率は、積分球を用いた装置で測定され得るJIS K 7361に基づく値である。本明細書では、全光線透過率として、ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業株式会社製)により測定された値を用いている。
【0109】
形成される導電性コーティングが、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に厚さ0.5μmになるように形成された場合、全光線透過率は、約60%以上であることが好ましく、約65%以上であることがより好ましく、約75%以上であることがより好ましく、約80%以上であることが最も好ましい。
【0110】
ヘイズとは、試験片を通過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光から0.044rad(2.5°)以上それた透過光の百分率をいう。つまり、ヘイズは、散乱光も含めた透過光に対する散乱光の割合であり、曇りの度合いを表す。ヘイズは、積分球を用いた装置で測定され得るJIS K 7136に基づく値である。本明細書では、ヘイズとして、全光線透過率と同様ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業株式会社製)により測定された値を用いている。
【0111】
形成される導電性コーティングが、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に厚さ0.5μmになるように形成された場合、ヘイズは、約15%以下であることが好ましく、約10%以下であることがより好ましく、約5%以下であることがより好ましく、約3%以下であることが最も好ましい。
【0112】
特定の実施形態では、形成された導電性透明コーティングは導電性および透明性に優れており、例えば、PETフィルム上に形成された導電性透明コーティングの膜厚が1.5μm以下のときで、以下の物性値を達成する:
表面抵抗率1.0×1011Ω/□以下、全光線透過率60%以上(好ましくは70%以上)、およびヘイズ15%以下(好ましくは5%以下)。
【0113】
上記物性値は、PETフィルム(東洋紡績株式会社製;コスモシャインA4100 全光線透過率90.1%、ヘイズ0.9、および厚み125μm)基板上に形成されたクリヤー塗膜(透明被膜)を基板ごと測定して達成されることが好ましい。
【0114】
導電性コーティングの強度は、水性組成物中におけるカーボンナノチューブに対する樹脂の含有量を前記範囲内で大きく設定することによって、向上させることができる。
【0115】
本発明の水性組成物が塗装される物品は、任意の材料で構成され得る。このような物品の材料は、無機物でも有機物でもよく、例えば、プラスチック、ガラス、金属、セメントなどから選択され得る。好ましくは、この物品は、透明であることが好ましい。このような物品は、好ましくはフィルム状、板状などである。
【実施例】
【0116】
以下、「部」は「重量部」を意味するものとする。
【0117】
(調製例1:水溶性キシラン水溶液の調製)
木材パルプより製造された市販粉末セルロース(日本製紙ケミカル KCフロック)800gに、水20Lを加え、室温で30分間攪拌した。この溶液を濾紙、0.45μmフィルター、0.2μmフィルターにより順次ろ過し、ろ液を水溶性キシラン溶液として回収した。フェノール硫酸法によって測定したところ、こうして得られた溶液中には、水溶性キシランが約0.45mg/mL含まれていた。この溶液を乾燥することにより、約9gのキシラン粉末が得られた。
【0118】
得られた水溶性キシランの分子量をゲルろ過−多角度光散乱法で測定した。測定は、ゲルろ過カラムShodex SB802MおよびSB806M、カラム温度40℃、溶離液0.1M硝酸ナトリウム、流速1mL/minで行った。検出器は、示差屈折計 Shodex RI−71(昭和電工製)、多角度光散乱検出器 DAWN−DSP(Wyatt Technology社製)を使用した。測定の結果、得られた水溶性キシランの重量平均分子量は6,100であり、数平均分子量は7,500であった。
【0119】
得られた水溶性キシラン(調製例1)および市販のグルクロノキシラン(Institute of Chemistry, Slovak Academy of Sciences製、数平均分子量18,000、キシロース残基:4−O−メチル−D−グルクロン酸残基=10:1;アセチル化なし;ブナ由来)のH−NMR分析を行った。H−NMR分析は、試料を濃度5.0重量%で重水に溶解し、80℃で測定した。結果を図1Aおよび図1Bに示す。図1Aは、調製例1で得られた水溶性キシランの結果を示し、図1Bは、市販のグルクロノキシランの結果を示す。調製例1の水溶性キシランについて検出されたピークのケミカルシフト値が、市販のグルクロノキシランについて検出されたピークのケミカルシフト値と一致したことから、市販粉末セルロース中に含まれている水溶性キシランは、グルクロノキシランであり、アセチル化されていないことが分かった。図1Aにおいて、5.2ppm付近のピークは、4−O−メチル−D−グルクロン酸残基の1位炭素に結合した水素原子のピークを、4.6ppm付近のダブレットのピークは、4−O−メチル−D−グルクロン酸が結合しているキシロース残基の1位炭素に結合した水素原子のピークを、4.4ppm付近のダブレットのピークは、キシロース残基の1位炭素に結合した水素原子のピークをそれぞれ示す。そのため、(5.2ppm付近のピーク面積):(4.6ppm付近のダブレットのピーク面積)+(4.4ppm付近のダブレットのピーク面積)を求めることにより、水溶性キシランを構成する4−O−メチル−D−グルクロン酸残基とキシロース残基のモル比を求めることができる。図1Aよりこれら面積比を測定したところ、市販セルロースから得られた水溶性キシランは、キシロース残基:4−O−メチル−D−グルクロン酸残基=14:1であることが分かった。
【0120】
また、この水溶性キシランを2.5Mトリフルオロ酢酸中、100℃で6時間加熱することにより加水分解し、生じた単糖類をHPLC(カラム:Dionex社製CarboPac PA−1、溶離液:水、ポストカラム溶液:300mM NaOH、検出器:Dionex社製 PED−II)により確認した。その結果、アラビノースがほとんど検出されなかった(全糖量の0.2%以下)ことから、調製例1で得られた水溶性キシランは、実質的にアラビノースを含んでいないことが分かった。
【0121】
<実験例A>
(実施例1:カーボンナノチューブ溶液の作製)
95.0部の水に、分散剤である水溶性キシラン粉末(上記調製例1で調製したもの)2.0部、ネオペレックスG−65(ペースト;純度65%;花王株式会社製)1.0部を加えて50℃のウォーターバスで溶解させて溶液を得た。この溶液に2.0部のL.SWNT(純度90%以上;単層カーボンナノチューブ;直径2nm以下;長さ5〜15μm;シンセンナノテクポート製)を加えて混合液を得た。この混合液に超音波分散機(UH600;SMT株式会社製)により出力ゲージ5、冷却水温度10℃で60分間、連続的に超音波を投射し、カーボンナノチューブを溶解させてカーボンナノチューブ水溶液を得た。
【0122】
(実施例2および比較例1〜4:カーボンナノチューブ溶液の作製)
実施例2および比較例1〜4は、分散剤の種類を表1に記載のように変更したこと、各種成分の使用量を表1に記載のように変更したこと以外、実施例1と同様の方法により、カーボンナノチューブ溶液を調製した。比較例1、2、4については、溶解性および分散性が悪く、分散時にカーボンナノチューブの凝集が解れず、均一に分散できなかったため、評価のためのコーティングが形成できなかった。
【0123】
(溶解安定性および分散安定性の評価)
実施例1、2および比較例1〜4の調製直後の溶液の一部を水で500倍に希釈し、溶解安定性および分散性を以下の基準に従って目視により評価した:
○:凝集が全く観察されなかった;
△:凝集が僅かに観察されたが実用上問題なかった;
×:凝集が観察され実用上問題があった。
【0124】
【表1】

カーボンナノチューブを水に溶解し、溶液を調製する場合、分散剤として水溶性キシランを用いると他の分散剤よりも高濃度にカーボンナノチューブを分散、溶解できることは明らかである。
【0125】
<実験例B>
(実施例3:水性組成物の調製)
実施例1で調製した水溶液20.0部をディスパー攪拌機により周速1.6m/sで攪拌しながら当該水溶液に水67.4部を添加し、次いでアクリル系樹脂の水系分散液(ネオクリルXK−12;樹脂固形分45%;DSM社製)4.4部を添加した。
【0126】
続いてエタノール8.0部、レベリング剤(BYK348;液体、純度100%;ビックケミー社製)0.2部を添加し、更に5分間撹拌した後、遠心分離機(H−200E;コクサン株式会社製)800gで5分間遠心を行い、上清を得た。上清を水性組成物として用いた。なお、この遠心は、エタノールおよびレベリング剤を添加した後に混合物(すなわち、塗料)中に混入した夾雑物および塗料調製時のショックにより生成される凝集物などを取り除き、塗付して形成される塗膜のヘイズ、透明性等の塗膜外観をなるべく向上させるために行われた。遠心によって、沈澱はほとんど生じず、その量は測定可能でなかった。そのため、水性組成物中に含まれる各成分の含有量は、配合量とほぼ同じであるとみなされる。
【0127】
(実施例4〜6および比較例5:水性組成物の調製)
実施例4〜6、比較例5は分散液の種類を表2に記載のように変更したこと、各種成分の使用量を表2に記載のように変更したこと以外、実施例3と同様の方法により、水性組成物を調製した。これらの実施例および比較例においても、遠心によって、沈澱はほとんど生じず、その量は測定可能でなかった。そのため、水性組成物中に含まれる各成分の含有量は、配合量とほぼ同じであるとみなされる。
【0128】
(分散安定性、表面抵抗率、全光線透過率およびヘイズの評価)
・分散安定性
実施例3〜6および比較例5の調製直後の水性組成物の一部を水で500倍に希釈し、分散性を以下の基準に従って目視により評価した:
○:凝集が全く観察されなかった;
△:凝集が僅かに観察されたが実用上問題なかった;
×:凝集が観察され実用上問題があった。
【0129】
調製直後の水性組成物をバーコーターNo.3を用い、PETフィルム(東洋紡績株式会社製;125μmフィルム)に塗布した後、100℃で60秒加熱乾燥し、コーティングを得た。当該コーティングを、以下の評価項目について評価した。なお、PETフィルム単独の全光線透過率は90.1%、ヘイズは0.9である。
【0130】
・表面抵抗率
表面抵抗率を、ロレスターEP(三菱化学株式会社製)により測定した。
【0131】
・全光線透過率およびヘイズ
全光線透過率およびヘイズを、ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業株式会社製)により測定した。
【0132】
評価結果を膜厚と共に表2に示した。膜厚は下記式に基づいて算出した値である。
【0133】
【数1】

【0134】
【表2】

<実験例C>
(実施例7:水性組成物の調製)
77.6部の水に水溶性キシロース粉末(調製例1で調製したもの)0.4部を溶解させた溶液に0.4部のCTube100(純度93%以上;多層カーボンナノチューブ;直径10〜50nm;長さ0.5〜100μm;CNT社製)を加えて混合液を得た。この混合液に超音波分散機(UH600;SMT株式会社製)により出力ゲージ5、冷却水温度10℃で30分間、連続的に超音波を投射し、カーボンナノチューブを溶解させた。その後、この水溶液をディスパー攪拌機により周速1.6m/sで攪拌しながら当該水溶液にポリエステル系樹脂の水系分散液(バイロナールMD1245;東洋紡績株式会社製)13.4部を添加した。続いてエタノール8.0部、レベリング剤(BYK348;ビックケミー社製)0.2部を添加し、更に5分間撹拌した後、遠心分離機(H−200E;コクサン株式会社製)800×gで5分間遠心を行い、上清を得た。上清を水性組成物として用いた。なお、この遠心は、エタノールおよびレベリング剤を添加した後に混合物(すなわち、塗料)中に混入した夾雑物および塗料調製時のショックにより生成される凝集物などを取り除き、塗付して形成される塗膜のヘイズ、透明性等の塗膜外観をなるべく向上させるために行われた。遠心によって、沈澱はほとんど生じず、その量は測定可能でなかった。そのため、水性組成物中に含まれる各成分の含有量は、配合量とほぼ同じであるとみなされる。
【0135】
(実施例8〜10:水性組成物の調製)
実施例8〜10は樹脂を表3に記載のように変更したこと、各種成分の使用量を表3に記載のように変更したこと以外、実施例7と同様の方法により、水性組成物を調製した。
【0136】
(分散安定性、表面抵抗、全光線透過率、ヘイズ、および剥離性の評価)
・分散安定性、表面抵抗、全光線透過率、ヘイズ
実施例Bの評価方法におけるコーティングの形成方法と同様の方法により、PETフィルムにコーティングを形成した。水性組成物の分散安定性、コーティングの表面抵抗、全光線透過率、ヘイズについては、実験例Bと同様の方法により測定した。
【0137】
・塗膜強度
塗膜強度は摩擦試験機(スガ試験機株式会社製)を使用し、荷重200g、綿布3号にて100回擦過を行い、目視による評価および擦過後の表面抵抗を測定した。
【0138】
[目視による評価基準]
○:コーティング表面は傷つくが、剥離はない;
△:10%未満のコーティング剥離;
×:10%以上のコーティング剥離。
【0139】
【表3】

カーボンナノチューブに対する樹脂固形分の比率が低くなるとコーティングの強度が低下するが本発明の効果(優れた透明性及び導電性)を得られることが明らかである。
【0140】
<実験例D>
(実施例11および比較例6〜8:水性組成物の調製)
実験例11および比較例6〜8は、分散剤の種類と樹脂を表4に記載のように変更したこと、超音波投射時間を表5に記載のように変更したこと以外、実施例7と同様の方法により水性組成物を調製した。
【0141】
(評価)
実施例Bの評価方法におけるコーティングの形成方法と同様の方法により、PETフィルムにコーティングを形成した。水性組成物の分散性、コーティングの表面抵抗率、全光線透過率、ヘイズについては、実験例Bと同様の方法により測定した。
【0142】
【表4】

【0143】
【表5】

水溶性キシロースを用いると、他の分散剤より分散性に優れ、分散時間の短縮ができることから、生産性を向上することができる。
【0144】
<実験例E:保存性試験>
実施例3で得られた調製直後の水性組成物を密閉した容器に移し、温度23℃および湿度50%の環境下で1週間、2週間、4週間貯蔵した。
【0145】
(分散安定性、表面抵抗率、全光線透過率およびヘイズの評価)
・分散安定性貯蔵後の水性組成物の分散安定性を評価したこと以外、実験例Bにおける分散安定性と同様の方法により評価を行った。
【0146】
・表面抵抗率、全光線透過率およびヘイズ
貯蔵後の水性組成物を用いたこと以外、実験例Bの評価方法におけるコーティングの形成方法と同様の方法により、PETフィルム上にコーティングを形成した。コーティングの表面抵抗率、全光線透過率およびヘイズを実験例Bと同様の方法により測定した。
【0147】
【表6】

経時変化によって分散安定性の悪化も、導電性および透明性の低下も見られないことが明らかである。従って、本発明の導電性コーティング用水性組成物は、商業的に非常に有用である。
【0148】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の導電性コーティング用水性組成物は、電子部品分野やクリーンルーム内の帯電防止材として有用な導電性透明コーティング(導電性透明被膜)を形成するためのコーティング材に適している。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1A】図1Aは、調製例1で得られた水溶性キシランのH−NMR分析の結果を示すスペクトルデータである。図1Aの測定条件は以下の通りであった:測定装置;日本電子社製JNM−AL400; 測定周波数400MHz;測定温度 80 ℃;溶媒 DO。
【図1B】図1Bは、市販のグルクロノキシランのH−NMR分析の結果を示すスペクトルデータである。図1Bの測定条件は以下の通りであった:測定装置;日本電子社製JNM−AL400; 測定周波数400MHz;測定温度 80 ℃;溶媒 DO。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒体中に水溶性キシラン、樹脂およびカーボンナノチューブを含む、導電性コーティング用水性組成物。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブである、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブである、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項4】
前記水溶性キシランの主鎖の数平均重合度が6以上5000以下である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項5】
前記水溶性キシランが、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と、アラビノース残基と4−O−メチルグルクロン酸残基とからなる、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項6】
前記水溶性キシランにおいて、アラビノース残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が20〜100の割合である、請求項5に記載の水性組成物。
【請求項7】
前記水溶性キシランが、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と4−O−メチルグルクロン酸残基とからなる、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項8】
前記水溶性キシランにおいて、4−O−メチルグルクロン酸残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が1〜20の割合である、請求項7に記載の水性組成物。
【請求項9】
前記水溶性キシランの数平均分子量が7,000以上100万以下である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項10】
前記水溶性キシランが、木本性植物由来のキシランである、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項11】
前記水溶性キシランが、広葉樹由来のキシランである、請求項8に記載の水性組成物。
【請求項12】
前記水系媒体が水である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項13】
カーボンナノチューブの濃度が50mg/L以上である、請求項11に記載の水性組成物。
【請求項14】
カーボンナノチューブの濃度が1g/L以上である、請求項11に記載の水性組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2007−217684(P2007−217684A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10854(P2007−10854)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度 独立行政法人科学技術振興機構 革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の規定を受けるもの)」
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】