説明

導電性モノフィラメントおよび工業用織物

【課題】長期間の使用によって擦過や摩耗を受けた場合においても、極めて安定した導電性能を維持し得る導電性モノフィラメントおよびこの導電性モノフィラメントを構成素材に使用した工業用織物を提供する。
【解決手段】芯鞘複合構造を有するモノフィラメント1であって、このモノフィラメントは、芯部非導電層2とそれを覆う鞘部導電層3とからなり、モノフィラメントの長さ方向に直交する断面において、芯部非導電層の内側に向かって鞘部導電層の一部が凸状に突き出た補助導電部4を有する導電性モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の導電性モノフィラメントと比較し、使用による擦過や摩耗を受けた場合においても、極めて安定した導電性能を維持し得る導電性芯鞘構造モノフィラメントおよび導電性モノフィラメントを使用した工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂モノフィラメントは、抄紙機に装着される織物である抄紙ワイヤー、抄紙プレスフェルトおよび抄紙ドライヤーカンバスなどの抄紙用織物、コンベアベルトや脱水ベルトなどのベルト用織物、および各種フィルター用織物など、多くの工業用織物の構成素材などとして使用されてきた。
【0003】
しかしながら、合成樹脂モノフィラメントは、導電性が極めて低いため、静電気が帯電しやすいことに起因して、種々の不具合を来すなどの問題が指摘されていた。
【0004】
例えば、ポリエチレンテレフタレートを構成素材とするモノフィラメントを抄紙機に装着される抄紙ドライヤーキャンバス、搬送用ベルト、不織布製造時に使用される乾燥および搬送用ベルトなどの工業用織物に用いると、使用中に発生する静電気が織物に蓄積し、製品への粉塵の付着や、放電火花による引火・爆発などの危険性を招き、操業に支障をきたすという問題を有していた。
【0005】
これら問題の解決手段として、帯電防止剤を含有するか、または繊維の外層を導電性金属で覆った導電性モノフィラメントが工業用織物の構成素材として用いられてきているが、近年では抄紙機の生産性を高める目的で、抄紙機の高速化が進んでいることから、より高度な帯電防止性能ばかりか、帯電性防止効果の長期に渡る性能維持などの特性が求められるようになっており、従来から様々な提案が行われてきている。
【0006】
例えば、導電性繊維の形状として、導電性熱可塑性成分と繊維形成性成分からなる導電性複合繊維を混用した繊維複合体であって、導電性複合繊維がカーボンブラックを含有する熱可塑性重合体からなり比抵抗10Ω・cm以下であって、導電性熱可塑性成分が繊維表面の50%以上を被覆し、かつ繊維長軸方向に連続した構造を有するものであることを特徴とする繊維複合体(例えば、特許文献1参照)が提案されている。しかしながら、本技術で得られる導電性繊維は、優れた導電性能を持つものの、製織時にガイド類との擦過によって導電性成分を含む鞘部分が摩耗・剥離しやすいため、導電性能が長期間維持できないという問題があった。
【0007】
また、導電性カーボンブラックを15〜50%含有する熱可塑性樹脂からなる鞘部分と繊維形成性ポリエステル系熱可塑性樹脂からなる芯部分を接合してなる導電性繊維の単繊維横断面において、鞘部分と芯部分の接合面曲線が鞘部分に向かって凸であり、その接合面曲線の最小曲線半径rと単糸繊維半径Rの比、r/Rが0.6以下であり、繊維断面周における鞘部分を占める周長が全周長の2〜40%であることを特徴とする導電性複合繊維(例えば、特許文献2参照)が提案されており、本技術によれば導電ポリマー層が擦過や繰り返し使用に対して優れた耐久性を保ち、かつ帯電性防止効果の長期に渡る性能維持が可能である導電性繊維となっている。しかしながら、本技術は、マルチフィラメントとしての技術であり、モノフィラメントに応用した場合には、十分な導電性能が得られないばかりか、擦過や摩耗に対しての耐久性に乏しく、十分な効果が得られないという問題があった。
【0008】
さらに、導電性カーボンブラックを15〜50%含有する熱可塑性ポリアミドからなる導電ポリマー層と繊維形成性ポリアミドからなる保護ポリマー層とが複合され、かつ導電ポリマー層が繊維面に露出し、その表面露出部が1フィラメントあたり3以上であり、かつその1個の繊維断面周長方向の露出距離をL(μm)、1フィラメントの繊維断面周長をL(μm)としたとき、式1≦L≦L/10及び100V印加時の電気抵抗値R(Ω/cm・f)としたとき、式logR=6.3〜11.9の両式を満足し、かつ保護ポリマー層が繊維断面周長の60%以上を占有し、繊維全体重量の50重量%以上97重量%以下で形成していることを特徴とする導電性複合繊維(例えば、特許文献3参照)が提案されている。しかしながら、本技術は繊維直径の細いマルチフィラメントでは有効であるが、繊維直径の太いモノフィラメントでは、導電性成分を含まない保護ポリマー層が厚くなることから表面の電気抵抗値が高くなり、導電性能が実用の域に達しないという問題があった。
【特許文献1】再公表2002−075030号公報
【特許文献2】特開2006−274502号公報
【特許文献3】特開2001−49532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のような状況を鑑み、本発明は、従来技術における問題を解決すべく検討した結果達成されたものである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、導電性を有する鞘部導電層が使用によって擦過や摩耗をした場合であっても、導電性能が著しく低下することなく、極めて安定した導電性能を長期に渡って維持することを可能とする芯鞘構造の導電性モノフィラメントおよびこれを用いた工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、芯鞘複合構造を有するモノフィラメントであって、芯部非導電層とそれを覆う鞘部導電層からなり、モノフィラメントの長さ方向に直交する断面において、芯部非導電層の内側に向かって鞘部導電層の一部が凸状に突き出た補助導電部を有する導電性モノフィラメントが提供される。
【0012】
なお、本発明の導電性モノフィラメントにおいては、
芯部非導電層の内側に向かって鞘部導電層の一部が凸状に突き出た補助導電部を少なくとも2個以上有すること、
補助導電部を含む鞘部導電層と非導電成分からなる芯部面積比が1:95〜50:50の範囲であること、
モノフィラメントの両端に電極を繋いで印加し、測定されるモノフィラメントの抵抗値(Ω)÷抵抗値測定値時の電極間距離(cm)で表した体積固有抵抗値が1×10Ω/cm以下であること、
JIS−1095−9.10.2B法に準じて行った強制摩耗試験において、強制摩耗試験前後の導電性モノフィラメントの体積固有抵抗値をそれぞれA(Ω/cm)およびB(Ω/cm)した場合のB÷Ax100で示される導電性保持率が50%以上であること、
がより好ましい条件として挙げられる。
【0013】
また、本発明の工業用織物は、上記導電性モノフィラメントを緯糸および/または経糸
の少なくとも一部に用いたことを特徴とし、本発明の導電性モノフィラメントを実際の工業用織物として使用した場合、導電性モノフィラメントが擦過や摩耗を受けた際においても、極めて安定した導電性能を長期にわたって維持し得るなどの優れた効果を発揮する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長期の使用においても優れた導電性能を維持し続け、静電気の発生による種々の不具合を来すことのない工業用織物の構成素材として好適な導電性モノフィラメントが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の導電性モノフィラメントの一例を示す繊維軸方向に垂直な断面図、図2は同じく他の一例を示す断面図である。
【0017】
なお、図1および2において、1は本発明の導電性モノフィラメントの断面全体図、2は芯部非導電層、3は鞘部導電層、4は補助導電部を示す。
【0018】
図1に示したとおり、本発明の導電性モノフィラメント1は、芯部非導電層2と、それを覆う鞘部導電層3からなり、モノフィラメントの長さ方向に直交する断面において、芯部非導電層2の内側に向かって鞘部導電層3の一部が凸状に突き出た補助導電部4を持つ芯鞘複合構造を有している。
【0019】
ここで、本発明の導電性モノフィラメントが摩耗や擦過によって鞘部導電層3が削れた場合において、補助導電部4がモノフィラメント表層へ露出する。しかるにこの時、鞘部導電層3が擦過や摩耗により削り取られてしまい、芯部非導電層2が露出する状態となるが、補助導電部4が残るために導電性能の低下が抑制される。
【0020】
すなわち、従来の導電性モノフィラメントは、鞘部導電層が摩耗した場合、鞘部導電層に剥離や亀裂が生じ、導電性能の低下を来す問題があったが、本発明の導電性モノフィラメントは、鞘部導電層3が摩耗した状態であっても、補助導電部4が残るために優れた導電性能を長期に渡って維持する効果を発現することができるのである。
【0021】
なお、本発明の導電性モノフィラメントは、芯部非導電層の内側に向かって凸状に突き出た補助導電部を少なくとも2個以上有する場合、さらに好ましい効果の発現が期待できる。ここで、補助導電部はモノフィラメントの長さ方向に連続して存在することが、好ましい条件として挙げられる。
【0022】
また補助導電部の個数としては、2個以上であれば特に制限はないが、好ましくは3個から16個、さらに好ましくは4個から8個の補助導電部を有する場合、特に所望とする効果の発現が期待できる。
【0023】
すなわち、例えば補助導電部の個数が1〜3個と少ない場合、導電性モノフィラメントの物理的強度を高く保つ上では好ましいが、逆に鞘部導電層が擦過などにより摩耗や剥離をした際の高い導電性能を長期に渡って維持させる上では、多くの補助導電部を有することが所望とする導電性能を効果的に持続させるために肝要である。このため、本発明の導電性モノフィラメントにおいては、その導電性モノフィラメントを使用する工業用製品に求められる導電性能や物理的な強度特性などを勘案した上で、必要とされる導電性能を効果的に維持させるために、所望の範囲で補助導電部を必要とする個数だけ設けることが可能である。
【0024】
なお、本発明の導電性モノフィラメントにおける補助導電部4の形状は、鞘部導電層3の一部が芯部非導電層2の内側に向かって凸状に突出していれば特に制限はなく、例えば図1の略三角形や図2の略半円形などのように形成することにより、所望とする効果の発現を期待することができる。
【0025】
また、本発明の導電性モノフィラメントは、補助導電部を含む鞘部導電層:芯部非導電層で示す面積比を5:95〜50:50とすることが望ましいが、より好ましくは10:90〜35:65、さらには15:85〜30:70の範囲とした場合、特に優れた効果を発揮する。つまり、本発明の導電性モノフィラメントにおいて、補助導電部を含む鞘部導電層の面積が大きい場合は、導電成分をより多く含む導電性モノフィラメントとなるため、導電性能を向上させる上で好ましい効果が発揮される。一方、導電成分を含まない芯部非導電層の面積が大きい場合は、物理的な強度を高く維持できる効果が得られる。したがって、導電性能と物理的強度のバランスを好適に保つ上で、鞘部導電層:芯部非導電層で示す面積比は上記のとおりとすることが望ましい。
【0026】
なお、本発明の導電性モノフィラメント断面の重心を通る線分の長さで表される直径は、用途によって適宜選択できるが、0.05mmから2.5mmの範囲とすることが好ましい。また、必要強度は使用目的によって異なるが、概ね2.0cN/dtex以上である場合、さらに好ましい効果が期待できる。
【0027】
本発明の導電性モノフィラメントの導電性能は、補助導電部を含む鞘部導電層に使用されている導電成分やその使用濃度、芯鞘比率、さらには補助導電部の個数によって異なるが、抵抗値(Ω)÷抵抗値測定値時の電極間距離(cm)で表した体積固有抵抗値が1x10Ω/cm以下、さらには1x10Ω/cm以下であることが好ましい。
【0028】
すなわち、導電性モノフィラメントの電気抵抗値が1x10Ω/cm以下であれば帯電防止材としての機能を有し、さらに電気抵抗値が1x10Ω/cm以下であれば帯電防止材として極めて優れた性能を発揮することができる。
【0029】
また、JIS−1095−9.10.2B法に準じて行った強制摩耗試験において、強制摩耗試験前後の導電性モノフィラメントの体積固有抵抗値をそれぞれA(Ω/cm)およびB(Ω/cm)した場合のB÷Ax100で示される導電性保持率が50%以上であることが好ましい。すなわち、本発明の導電性モノフィラメントは強制的に強制摩耗試験を行った場合、補助導電部がモノフィラメント表面に露出して十分な導電性を維持することが可能であることから、導電性保持率が50%以上であれば、帯電防止材として必要な導電性能を持ち、かつ長期間の導電性能の維持が期待できる。
【0030】
本発明の導電性モノフィラメントの形状については、特に制限はなく、繊維軸方向に垂直な断面形状が、楕円形、正方形、長方形、六角形、多角形などであっても、同様に安定した導電性能が得られる。
【0031】
ここで、本発明の導電性モノフィラメントを構成する素材については、特に制限はなく、芯部非導電層を構成するポリマー樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、6/66共重合などのポリアミド樹脂またはその共重合体、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTという)、ポリエチレンナフタレート(以下、PENという)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、などのポリエステル類またはその重合体、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体などのフッ素樹脂類、ポリカーボネート類、ポリフェニレンスルファイド(以下、PPSという)、ポリスルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアリルエーテルニトリル、液晶ポリエステルなどが挙げられる。
【0032】
さらに、上記PET及びPBTは、そのジカルボン酸成分であるテレフタル酸の一部を、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸およびスルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよく、またグリコール成分であるエチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールの一部を、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。また、これらを単独成分として使っても良いし、複数成分のブレンド物として使っても良い。
【0033】
一方、鞘部導電層を形成する導電性ポリマー樹脂組成物としては、導電性カーボンブラックを高濃度にブレンドしたものが使用されるが、その主成分となるポリマー樹脂については、芯部非導電層を形成するポリマー樹脂として例示したものと同様の樹脂を用いることができる。
【0034】
また、鞘部導電層および補助導電部を形成する上で、使用するポリマー樹脂組成物には導電性カーボンブラックを6〜40重量%含有するものを使用することができ、このポリマー樹脂組成物を使用した場合は、導電性カーボンブラックが高濃度含有しているため、鞘部導電層および補助導電部が占める体積が小さくても優れた導電性を発揮することができ、さらに真円性や線径斑の優れたフィラメントが得られる。
【0035】
しかし、導電性カーボンブラックの含有量がそれ以下の場合は十分な導電性が得られず、逆に、それ以上の場合はポリマー樹脂組成物の流動性が著しく低下するため、鞘部導電層にクラックが発生し易くなる。
【0036】
なお、鞘部導電層に含有される導電性カーボンブラックとしては、高導電性を有するものであれば特に制限はないが、なかでもDBP給油量(9g法)が340ml/100g以上のファーネス系カーボンブラックの使用が望ましい。このようなファーネス系カーボンブラックとしては、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック”(商標)ECや、“ケッチェンブラック”(商標)EC600JDが知られている。なおカーボンブラックとしては、DBP給油量が340ml/100g以下のアセチレンブラックも知られているが、これは上記“ケッチェンブラック”(商標)ECなどと比べて導電性が低いため、アセチレンブラックの使用により満足する導電性を得るためには、例えば“ケッチェンブラック”(商標)ECの約3倍の添加量が必要になり、導電層ポリマーの流動性が低下する傾向が生じやすい。
【0037】
また、本発明の導電性モノフィラメントは、目的とする特性を疎外しない範囲であれば、さらなる特性を付加する目的で、種々の添加物を制限なくポリマー樹脂やポリマー樹脂組成物中に含有することができ、例えば、耐摩耗性向上を目的にアイオノマー樹脂やシリコーン樹脂を鞘部導電層中に0.1〜0.5重量%添加することも可能である。
【0038】
本発明の導電性モノフィラメントの製造方法には、なんら特殊な方法を必要とせず、例えばエクストルーダー型等の複合溶融紡糸機と所望の複合紡糸口金を用いて溶融押出する製造方法など、公知の芯鞘複合紡糸方法により製造することができる。
【0039】
かくして得られる本発明の導電性モノフィラメントは、工業用資材としての十分な物理的強度を兼ね備えるとともに、帯電防止材として必要とされる導電性能を十分に有し、さらには鞘部導電層が摩耗した場合でも、極めて安定した導電性能を持続的に具備するため、各種の工業用織物における帯電防止材として極めて優れた効果を発揮し、これら工業用織物の経糸および/または緯糸として好適に利用し得るものである。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の導電性モノフィラメントの実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
なお、上記及び下記に記載する鞘部導電層と芯部非導電層の面積比、体積固有抵抗値、強制摩耗試験は、次の方法で評価を行ったものである。
【0042】
[鞘部導電層と芯部非導電層の面積比]
導電性モノフィラメントの繊維軸方向に対し垂直方向に切り出した断面観察サンプルをKEYENCE製デジタルマイクロスコープVHX−100Fにて観察し、本デジタルマイクロスコープの面積測定ツールを用いて、導電性モノフィラメントの鞘部導電層(補助導電層を含む)の面積および芯部非導電層の面積を計測し、その面積比を百分率で求めた。
【0043】
[体積固有抵抗値]
モノフィラメント試料5cmの両端をクリンプ(電極)で把持し、印加して糸の抵抗値を測定し、下記の計算式により抵抗値を求めた。なお、クリンプで把持したモノフィラメント試料の電極間距離は4cm、測定時の環境条件は温度20℃、湿度65%の下で行い、抵抗値は東亜電波工業(株)製の極超絶縁計SM−10型を使用して測定した。
体積固有抵抗値(Ω/cm)=測定抵抗値(Ω)÷電極間距離(cm)
【0044】
[強制摩耗試験]
JIS L−1095−9.10.2B法に準じて、固定されたφ1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の上に接触させた導電性モノフィラメントを前記摩擦子の左右各55度角度で斜め下に設けたフリーローラー2個(ローラー間距離100mm)の下に掛け、別の1個のフリーローラーの上を介して、導電性モノフィラメントの一端に0.22cN/dtexの荷重をかけてセットし、その後、速度120往復/分、往復ストローク長25mmの条件で導電性モノフィラメントを摩擦子に300回接触させて摩耗させた。
【0045】
[導電性保持率]
強制摩耗試験前の導電性モノフィラメントの体積固有抵抗値をA、強制摩耗試験後の導電性モノフィラメントの体積固有抵抗値をBとし、下記の計算式により導電性保持率を求めた。
導電性保持率(%)=B÷Ax100
【0046】
なお、本発明の実施例中で導電性モノフィラメントの製造に使用した原料は、特に記されない限り次のものを使用した。
【0047】
1.ポリエステルペレット
公知の溶融重縮合と固相重縮合とによって製造した極限粘度0.94、末端カルボキシル基濃度15当量/10gの乾燥したPETペレット(以下、PETペレットと略称する)。
【0048】
2.カーボンブラック含有PETマスターバッチペレット
極限粘度が0.67のPETチップにカーボンブラックであるケッチェンブラックEC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製品)を11重量%含有したPETペレット。
【0049】
[実施例1]
芯部非導電層にPETペレット、鞘部導電層および補助導電層にカーボンブラックを含有するPETマスターバッチペレットを表1に記載の複合面積比になるように、それぞれのペレットを各々の1軸エクストルーダーに連続供給した。
【0050】
各々のエクストルーダー内において各ペレットを約290℃で溶融混練した後、ギヤポンプを介して複合紡糸パック内のそれぞれの濾過層を通して口金吐出孔直前で合流させ、円形断面糸用紡糸口金より紡出した。その後紡出されたモノフィラメントは70℃の湯浴中で冷却固化され、引き続きトータル5.5倍に延伸し、さらに熱セットされて、直径0.5mm、芯部非導電層:鞘部導電層=67:33、かつ補助導電部が6つの円形断面形状の導電性モノフィラメントを得た。得られた導電性モノフィラメントの体積固有抵抗値、強制摩耗後の体積固有抵抗値、導電性保持率の評価結果を表1に示す。
【0051】
[実施例2〜6]
芯部非導電層と鞘部導電層の面積比、補助導電部の数を変えたこと以外は実施例1と同じ製造方法で導電性モノフィラメントを得た。得られた各導電性モノフィラメントの体積固有抵抗値、強制摩耗後の体積固有抵抗値、導電性保持率の評価結果を表1に示す。
【0052】
[比較例1〜2]
補助導電層を持たない芯鞘複合構造の導電性モノフィラメントとしたこと以外は実施例1と同じ製造方法で導電性モノフィラメントを得た。得られた各導電性モノフィラメントの体積固有抵抗値、強制摩耗後の体積固有抵抗値、導電性保持率の評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果から明らかなように、本発明の導電性モノフィラメントは、鞘部導電層が摩耗した場合においても、補助導電部が残っているために極めて安定した導電性能を保つことが分かる。
【0055】
一方、補助導電部を持たない導電性モノフィラメント(比較例1、比較例2)は、本発明の導電性モノフィラメントに比べて強制摩耗試験後の導電性保持率が低く、導電性能の耐久性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の導電性モノフィラメントは、従来の導電性モノフィラメントに比べ長期の使用においても優れた導電性能を維持し続けるため、この導電性モノフィラメントを工業用織物の構成素材とした場合、長期間に渡って帯電防止効果を維持する工業用織物を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の導電性モノフィラメントの一例を繊維軸方向に垂直切断した際に現れる断面図である。
【図2】本発明の導電性モノフィラメントの他の一例を繊維軸方向に垂直切断した際に現れる断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 導電性モノフィラメント
2 芯部非導電層
3 鞘部導電層
4 補助導電部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘複合構造を有するモノフィラメントであって、このモノフィラメントは、芯部非導電層とそれを覆う鞘部導電層とからなり、モノフィラメントの長さ方向に直交する断面において、芯部非導電層の内側に向かって鞘部導電層の一部が凸状に突き出た補助導電部を有することを特徴とする導電性モノフィラメント。
【請求項2】
前記芯部非導電層の内側に向かって鞘部導電層の一部が凸状に突き出た補助導電部を少なくとも2個以上有することを特徴とする請求項1に記載の導電性モノフィラメント。
【請求項3】
前記補助導電部を含む鞘部導電層と芯部非導電層の面積比が5:95〜50:50の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性モノフィラメント。
【請求項4】
前記モノフィラメントの両端に電極を繋いで印加し、測定されるモノフィラメントの抵抗値(Ω)÷抵抗値測定値時の電極間距離(cm)で表した体積固有抵抗値が1×10Ω/cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性モノフィラメント。
【請求項5】
JIS−1095−9.10.2B法に準じて行った強制摩耗試験において、強制摩耗試験前後の導電性モノフィラメントの体積固有抵抗値をそれぞれA(Ω/cm)およびB(Ω/cm)した場合のB÷Ax100で示される導電性保持率が50%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性モノフィラメント。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性モノフィラメントを少なくとも経糸および/または緯糸の一部に使用したことを特徴とする工業用織物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−144265(P2009−144265A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320319(P2007−320319)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】