説明

導電性及び熱伝導性組成物

【課題】優れた導電性及び熱伝導性、並びに、面内均一性を有する透明性を有し、基板への密着性及び耐久性が高く、バインダー表面に導電性繊維が突出することなく平滑性に優れた導電性組成物の提供。
【解決手段】導電性繊維、導電性微粒子、及びバインダーを少なくとも有する導電性組成物であって、前記導電性繊維及び前記導電性微粒子の体積(A)と、前記導電性組成物の体積から前記導電性繊維及び前記導電性微粒子の体積(A)を除いた体積(B)との体積比(A/B)が、1/150〜1/10である導電性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性及び熱伝導性を有する導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、電子ペーパー、フレキシブルディスプレイ用電極、フレキシブルディスプレイ用帯電防止、太陽電池用電極などの種々の分野において、導電性及び熱伝導性のために導電性繊維のネットワークによる電子伝達が注目されている。導電性及び熱伝導性の繊維は、塗布によって面に平行に並ぶのでネットワークを組みやすく、面に対して横方向の導電性及び熱伝導性は取り易いが、面に対して縦方向の導電性及び熱伝導性は取りにくいことが欠点である。そこで、面に対して縦方向の導電性及び熱伝導性を取るためには、バインダーなどの固形分を少なくし、ネットワークをバインダーから外に出す必要があった。しかしその場合には、バインダーが少なくなるために膜の強度が落ちる上に、ネットワークがバインダーから飛び出すことにより平滑性が悪化するという問題があった。
【0003】
例えば、特許文献1には、導電性微粒子を用いた導電材料として、極細導電繊維の一部をバインダー樹脂層の表面に出すことにより導電性を得る技術が開示されている。しかし、バインダー樹脂層から極細導電繊維を出すことは、バインダー樹脂層表面に凹凸が生じるため、極細導電繊維の塗布面に垂直な方向に電場をかけた場合に、飛び出した極細導電繊維に電荷の集中が生じ、破損の原因となることが問題であった。
【0004】
また、特許文献2には、金属ナノロッドと共に導電性酸化物粉末を含有させることにより導電性の塗布物を作製する技術が開示されている。しかし、特許文献2の実施例(No.A16及びA17)にも示されている通り、バインダーを必要以上に加えることによって導電性が示されなくなることが問題であった。
【0005】
また、これとは反対に、導電性及び熱伝導性を得るために導電性繊維に加えるバインダー量を少なくすると、導電性及び熱伝導性が得られるようになる代わりに、バインダーによって保たれている膜質の劣化が起こり、基板との密着性や耐久性などが悪化することが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3903159号
【特許文献2】特開2005−38625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れた導電性及び熱伝導性、並びに、面内均一性を有する透明性を有し、基板への密着性及び耐久性が高く、バインダー表面に導電性繊維が突出することなく平滑性に優れた導電性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、導電性組成物中のバインダーの量を増加させることで、基板への密着性及び耐久性が向上し、バインダー表面に導電性繊維が突出することなく平滑性に優れるため、電荷の集中が生じないこと、また、前記導電性組成物に、導電性及び熱伝導性の微粒子を含有させることで、バインダーの量を増加させても優れた導電性及び熱伝導性が得られること、更に、前記導電性組成物は、導電性繊維の面内均一性を有し、透明性に優れることを知見し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 導電性繊維、導電性微粒子、及びバインダーを少なくとも有する導電性組成物であって、前記導電性繊維及び前記導電性微粒子の体積(A)と、前記導電性組成物の体積から前記導電性繊維及び前記導電性微粒子の体積(A)を除いた体積(B)との体積比(A/B)が、1/150〜1/10であることを特徴とする導電性組成物である。
<2> 導電性繊維が、金属及びカーボンの少なくともいずれかで形成される前記<1>に記載の導電性組成物である。
<3> 導電性繊維が、ナノワイヤー及びナノチューブの少なくともいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載の導電性組成物である。
<4> 導電性繊維が、金属ナノワイヤー、金属ナノチューブ、及びカーボンナノチューブの少なくともいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載の導電性組成物である。
<5> 導電性繊維が、銀ナノワイヤー、金ナノワイヤー、銅ナノワイヤー、及びこれらの合金の少なくともいずれかである前記<1>から<4>のいずれかに記載の導電性組成物である。
<6> 金属ナノワイヤーの短軸長さが200nm以下であり、かつ長軸長さが1μm以上である前記<4>から<5>のいずれかに記載の導電性組成物である。
<7> 金属ナノチューブの短軸長さが80nm以下であり、かつ長軸長さが2μm以上である前記<4>に記載の導電性組成物である。
<8> 導電性微粒子が、金属微粒子、酸化物微粒子、及び窒化物微粒子の少なくともいずれかである前記<1>から<7>のいずれかに記載の導電性組成物である。
<9> 酸化物微粒子が、錫をドープした酸化インジウム(ITO)及びアンチモンをドープした酸化錫(ATO)の少なくともいずれかである前記<8>に記載の導電性組成物である。
<10> 導電性微粒子が、銀微粒子、金微粒子、酸化チタン微粒子、酸化錫微粒子、酸化インジウム錫微粒子、及び酸化アンチモンをドープした錫微粒子の少なくともいずれかである前記<1>から<9>のいずれかに記載の導電性組成物である。
<11> 導電性粒子の平均粒径が5nm〜500nmである前記<1>から<10>のいずれかに記載の導電性組成物である。
<12> 導電性繊維の体積(C)と、導電性微粒子の体積(D)との体積比(C/D)が、1/50〜1/1である前記<1>から<11>のいずれかに記載の導電性組成物である。
<13> 導電性微粒子の体積(D)と、バインダーの体積(E)との体積比(D/E)が、1/120〜1/5である前記<1>から<12>のいずれかに記載の導電性組成物である。
<14> 導電性繊維のアスペクト比が10以上である前記<1>から<13>のいずれかに記載の導電性組成物である。
<15> 前記<1>から<14>のいずれかに記載の導電性組成物を有することを特徴とする水分散物である。
<16> 前記<1>から<15>のいずれかに記載の導電性組成物を有することを特徴とする透明導電体である。
<17> 前記<16>に記載の透明導電体を有することを特徴とするタッチパネルである。
<18> 前記<16>に記載の透明導電体を有することを特徴とする集積型太陽電池である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れた導電性及び熱伝導性、並びに、面内均一性を有する透明性を有し、基板への密着性及び耐久性が高く、バインダー表面に導電性繊維が突出することなく平滑性に優れた導電性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(導電性組成物)
本発明の導電性組成物は、導電性繊維、導電性微粒子、及びバインダーを有し、必要に応じて、更にその他の構成を有する。
ここで、本発明において、導電性繊維及び導電性微粒子を合わせて「導電性物質」と称することがある。
【0012】
<導電性繊維>
前記導電性繊維は、導電性及び熱伝導性を有する繊維状の構造体である。
前記導電性繊維の材料としては、導電性及び熱伝導性を有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属及びカーボンの少なくともいずれかであることが好ましい。
前記導電性繊維の形状としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ナノワイヤー及びナノチューブの少なくともいずれかであることが好ましい。ここで、本発明において、前記ナノワイヤーは中実の導電性繊維を意味し、前記ナノチューブは中空の導電性繊維を意味する。
なお、前記導電性繊維が中空のナノチューブなどである場合の体積としては、本発明においては、ナノチューブの外形の体積を意味し、中空部分の体積もナノチューブの体積に含まれるものとする。
これらの中でも、前記導電性繊維は、金属ナノワイヤー、金属ナノチューブ、及びカーボンナノチューブの少なくともいずれかであることが特に好ましい。
【0013】
<<金属ナノワイヤー>>
−金属−
前記金属ナノワイヤーの材料としては、特に制限はなく、いかなる金属であってもよく、1種の金属を単独で使用してもよく、2種以上の金属を併用してもよく、合金として用いることも可能である。
前記金属としては、長周期律表(IUPAC1991)の第4周期、第5周期、及び第6周期からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、第2族〜第14族から選ばれる少なくとも1種の金属がより好ましく、第2族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、及び第14族から選ばれる少なくとも1種の金属が更に好ましく、主成分として含むことが特に好ましい。
【0014】
前記金属は、具体的には銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、マンガン、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンテル、チタン、ビスマス、アンチモン、鉛、又はこれらの合金などが挙げられる。これらの中でも、銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウム又はこれらの合金が好ましく、銀、金、銅、及びこれらの合金が、導電性及び熱伝導性に優れる点でより好ましい。
【0015】
−形状−
前記金属ナノワイヤーの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円柱状、直方体状、断面が多角形となる柱状など任意の形状をとることができるが、高い透明性が必要とされる用途では、円柱状や断面の多角形の角が丸まっている断面形状であることが好ましい。
前記金属ナノワイヤーの断面形状は、基材上に金属ナノワイヤー水分散液を塗布し、断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより調べることができる。
【0016】
−直径及び長さ−
前記金属ナノワイヤーの直径(短軸長さ)は、200nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、35nm以下が更に好ましい。
なお、前記金属ナノワイヤーの直径が小さすぎると耐酸化性が悪化し、耐久性が悪くなることがあるため、直径は5nm以上であることが好ましい。前記直径が200nmを超えると、金属ナノワイヤー起因の散乱が生じるためか、十分な透明性を得ることができないことがある。
前記金属ナノワイヤーの長さ(長軸長さ)は、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましい。なお、前記金属ナノワイヤーの長軸の長さが長すぎると金属ナノワイヤー製造時に絡まるためか、製造過程で凝集物が生じてしまうことがあるため、前記長軸の長さは、1mm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。前記長軸長さが、0.1μm未満であると、密なネットワークを形成することが難しいためか、十分な導電性及び熱電導性を得ることができないことがある。
【0017】
−製造方法−
前記金属ナノワイヤーの製造方法としては、特に制限はなく、いかなる方法で製造してもよいが、以下のようにハロゲン化合物と分散剤とを溶解した溶媒中で金属イオンを還元することによって製造することが好ましい。
【0018】
前記溶媒としては、親水性溶媒が好ましく、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコール類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン等のケトン類、などが挙げられる。
加熱温度は、250℃以下が好ましく、20℃以上200℃以下がより好ましく、30℃以上180℃以下が更に好ましく、40℃以上170℃以下が特に好ましい。必要であれば、金属ナノワイヤー形成過程で温度を変更してもよく、途中での温度変更は、金属ナノワイヤーの核形成の制御や再核発生の抑制、選択成長の促進による単分散性向上の効果があることがある。
前記加熱温度が250℃を超えると、金属ナノワイヤーの断面の角が急峻になるためか、塗布膜評価での透過率が低くなることがある。また、前記加熱温度が低くなる程、核形成確率が下がり金属ナノワイヤーが長くなりすぎたためか、金属ナノワイヤーが絡みやすく、分散安定性が悪くなることがある。この傾向は20℃以下で顕著となる。
【0019】
前記加熱の際には還元剤を添加して行うことが好ましい。該還元剤としては、特に制限はなく、通常使用されるものの中から適宜選択することができ、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素金属塩;水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムカリウム、水素化アルミニウムセシウム、水素化アルミニウムベリリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム等の水素化アルミニウム塩;亜硫酸ナトリウム、ヒドラジン化合物、デキストリン、ハイドロキノン、ヒドロキシルアミン、クエン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩等;ジエチルアミノエタノール、エタノールアミン、プロパノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノプロパノール等のアルカノールアミン;プロピルアミン、ブチルアミン、ジプロピレンアミン、エチレンジアミン、トリエチレンペンタミン等の脂肪族アミン;ピペリジン、ピロリジン、Nメチルピロリジン、モルホリン等のヘテロ環式アミン;アニリン、N−メチルアニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジン等の芳香族アミン;ベンジルアミン、キシレンジアミン、N−メチルベンジルアミン等のアラルキルアミン;メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール;エチレングリコール、グルタチオン、有機酸類(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等)、還元糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラフィノース、スタキオース等)、糖アルコール類(ソルビトール等)などが挙げられる。これらの中でも、還元糖類、その誘導体としての糖アルコール類、エチレングリコールが特に好ましい。
【0020】
前記還元剤種によっては、機能として分散剤、溶媒としても働く場合があり、同様に好ましく用いることができる。
前記還元剤の添加のタイミングとしては、分散剤の添加前でも添加後でもよく、ハロゲン化合物あるいはハロゲン化金属微粒子の添加前でも添加後でもよい。
【0021】
前記金属ナノワイヤー製造の際には、分散剤と、ハロゲン化合物又はハロゲン化金属微粒子とを添加して行うことが好ましい。
分散剤と、ハロゲン化合物との添加のタイミングとしては、還元剤の添加前でも添加後でもよく、金属イオンあるいはハロゲン化金属微粒子の添加前でも添加後でもよいが、単分散性のよりよい金属ナノワイヤーを得るためには、核形成及び成長を制御できるためか、ハロゲン化合物の添加を2段階以上に分けることが好ましい。
【0022】
前記分散剤を添加する段階としては、金属ナノワイヤーの核となる金属粒子を調製する前に添加し、分散ポリマー存在下で添加してもよいし、金属粒子調製後に分散状態の制御のために添加してもよい。分散剤の添加を2段階以上に分けるときには、その量は必要とする金属ナノワイヤーの長さにより変更する必要がある。これは核となる金属粒子量の制御による金属ナノワイヤーの長さに起因しているためと考えられる。
【0023】
前記分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アミノ基含有化合物、チオール基含有化合物、スルフィド基含有化合物、アミノ酸又はその誘導体、ペプチド化合物、多糖類、多糖類由来の天然高分子、合成高分子、又はこれらに由来するゲル等の高分子類、などが挙げられる。
【0024】
前記高分子類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、保護コロイド性のあるポリマーでゼラチン、ポリビニルアルコール(P−3)、メチルセルロース、ヒドロキシプルピルセルロース、ポリアルキレンアミン、ポリアクリル酸の部分アルキルエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン共重合体、などが挙げられる。
前記分散剤として使用可能な構造については、例えば、「顔料の事典」(伊藤征司郎編、株式会社朝倉書院発行、2000年)の記載を参照できる。
使用する分散剤の種類によって得られる金属ナノワイヤーの形状を変化させることができる。
【0025】
前記ハロゲン化合物としては、臭素、塩素、ヨウ素を含有する化合物であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウムなどのアルカリハライドや下記の分散剤と併用できる物質が好ましい。ハロゲン化合物の添加タイミングは、分散剤の添加前でも添加後でもよく、還元剤の添加前でも添加後でもよい。
ハロゲン化合物種によっては、分散剤として機能するものがありうるが、同様に好ましく用いることができる。
【0026】
前記ハロゲン化合物の代替としてハロゲン化銀微粒子を使用してもよいし、ハロゲン化合物とハロゲン化銀微粒子を共に使用してもよい。
【0027】
前記分散剤と、ハロゲン化合物あるいはハロゲン化銀微粒子とは、同一物質で併用してもよい。分散剤と、ハロゲン化合物とを併用した化合物としては、例えば、アミノ基と臭化物イオンを含むHTAB(ヘキサデシル−トリメチルアンモニウムブロミド)、アミノ基と塩化物イオンを含むHTAC(ヘキサデシル−トリメチルアンモニウムクロライド)、などが挙げられる。
【0028】
前記脱塩処理は、金属ナノワイヤーを形成した後、限外ろ過、透析、ゲルろ過、デカンテーション、遠心分離などの手法により行うことができる。
【0029】
<<金属ナノチューブ>>
−金属−
前記金属ナノチューブの材料としては、特に制限はなく、いかなる金属であってもよく、例えば、前記した金属ナノワイヤーの材料などを使用することができる。
【0030】
−形状−
前記金属ナノチューブの形状としては、単層であってもよく、多層であってもよいが、単層が、導電性及び熱伝導性に優れる点で好ましい。
【0031】
−直径、長さ、厚み−
前記金属ナノチューブの厚み(外径と内径との差)としては、30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下が更に好ましい。
なお、前記金属ナノチューブの厚みが薄すぎると耐酸化性が悪化し、耐久性が悪くなることがあるため、直径は3nm以上であることが好ましい。前記直径が80nmを超えると、金属ナノチューブ起因の散乱が生じることがある。
また、前記金属ナノチューブの長さ(長軸長さ)は、2μm以上が好ましい。
前記金属ナノチューブは中空であり、その中空率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30%〜500%が好ましく、50%〜300%がより好ましく、80%〜200%が更に好ましい。
【0032】
−製造方法−
前記金属ナノチューブの製造方法としては、特に制限はなく、いかなる方法で製造してもよく、例えば、米国出願公開2005/0056118号公報等の公知の方法などを用いることができる。
【0033】
<<カーボンナノチューブ>>
−形状−
前記カーボンナノチューブ(CNT)は、グラファイト状炭素原子面(グラフェンシート)が、単層あるいは多層の同軸管状になった物質である。単層のCNTはシングルウォールナノチューブ(SWNT)、多層のCNTはマルチウォールナノチューブ(MWNT)と呼ばれ、特に、2層のCNTはダブルウォールナノチューブ(DWNT)とも呼ばれる。本発明の導電性繊維において、前記CNTは、単層であってもよく、多層であってもよいが、単層が、導電性及び熱伝導性に優れる点で好ましい。
【0034】
−金属性CNTの分離−
前記単層のCNTは、理論上、1/3の金属性のCNTと、2/3の半導体性のCNTとを含むが、金属製のCNTのみを分離することもできる。前記単層のCTNとしては、分離した金属製のCNTのみを用いる事が、透明性及び導電性の観点でより好ましい。
前記金属性CNTを分離する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アガロースゲル法、過酸化水素による分解等の既知の方法などが挙げられる。
【0035】
−製造方法−
前記カーボンナノチューブの製造方法としては、特に制限はなく、いかなる方法で製造してもよく、例えば、二酸化炭素の接触水素還元、アーク放電法、レーザー蒸発法、熱CVD法、プラズマCVD法、気相成長法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法等の公知の手段を用いることができる。
また、これらの方法で得られたカーボンナノチューブは、洗浄、遠心分子、ろ過、酸化、クロマトグラフ等の方法により、副生成物や触媒金属等の残留物を除去することが、高純度化されたカーボンナノチューブを得ることができる点で好ましい。
【0036】
これらの中でも、前記導電性繊維は、銀ナノワイヤー、金ナノワイヤー、銅ナノワイヤー、及びこれらの合金の少なくともいずれかであることが、導電性及び熱伝導性に優れる点で好ましい。
【0037】
<<アスペクト比>>
本発明において、前記導電性繊維のアスペクト比としては、10以上であることが好ましい。前記アスペクト比は、繊維状の物質の長辺と短辺との比(長さ/直径の比率)である。
前記アスペクト比の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子顕微鏡等により測定する方法などが挙げられる。
前記導電性繊維のアスペクト比を電子顕微鏡で測定する場合、前記導電性繊維のアスペクト比が高い場合には、前記導電性繊維の1つ1つのアスペクト比について正確に測定することは難しいが、前記導電性繊維のアスペクト比が10以上であるかどうかは、電子顕微鏡の1視野で確認できればよい。また、前記導電性繊維の長さと直径とを各々別に測定する事によって、前記導電性繊維全体のアスペクト比を見積もることができる。
なお、前記導電性繊維がチューブ状の場合には、前記アスペクト比を算出するための直径としては、該チューブの外径を用いる。
【0038】
前記導電性繊維のアスペクト比としては、10以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜1,000,000がより好ましく、100〜1,000,000が更に好ましい。前記アスペクト比が10未満であると、前記導電性繊維によるネットワーク形成なされず導電性が十分取れない点で好ましくない。また前記アスペクト比が1,000,000を超えると、導電性繊維形成時やその後の取り扱いにおいて、成膜前に導電性繊維が絡まり凝集するため、安定な液が得られないため好ましくない。
【0039】
<<適切導電性繊維比率>>
本発明においては、アスペクト比が10以上である金属ナノワイヤー、金属ナノチューブ、及びカーボンナノチューブの少なくともいずれかの含有量が、全導電性物質中に体積比で、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、75%以上が更に好ましい。これらの導電性繊維の割合を、以下、「適切導電性繊維比率」と称することがある。
前記適切導電性繊維比率が、50%未満であると、導電性に寄与する導電性物質が減少するためか導電性が低下してしまうことがあり、同時に密なネットワークを形成できないために電圧集中が生じるためか、耐久性が低下してしまうことがある。また、導電性繊維以外の形状の粒子は、導電性に大きく寄与しない上に吸収を持つため好ましくない。特に金属の場合で、球形などのプラズモン吸収が強い場合には透明度を悪化してしまうことがある。
【0040】
ここで、前記適切導電性繊維比率は、例えば、導電性繊維が銀ナノワイヤーである場合には、銀ナノワイヤー水分散液をろ過して、銀ナノワイヤーと、それ以外の粒子とを分離し、ICP発光分析装置を用いてろ紙に残っているAg量と、ろ紙を透過したAg量とを各々測定することで、適切導電性繊維比率を求めることができる。ろ紙に残っている導電性繊維をTEMで観察し、300個の導電性繊維の直径を観察し、その分布を調べることにより、直径が200nm以下であり、かつ長さが1μm以上である導電性繊維であることを確認する。なお、ろ紙は、TEM像で直径が200nm以下であり、かつ長さが1μm以上である導電性繊維以外の粒子の最長軸を計測し、その最長軸の2倍以上であり、かつ導電性繊維の長軸の最短長以下の径のものを用いることが好ましい。
【0041】
ここで、前記導電性繊維の直径及び長軸長さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や光学顕微鏡を用い、TEM像や光学顕微鏡像を観察することにより求めることができ、本発明においては、導電性繊維の直径及び長軸の長さは、透過型電子顕微鏡(TEM)により300個の導電性繊維を観察し、その平均値から求めたものである。
【0042】
<<配設比率、配設量>>
前記導電性組成物中の前記導電性繊維の配設比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記導電性繊維の体積(C)と、後述する導電性微粒子の体積(D)との体積比(C/D)が、1/50〜1/1が好ましく、1/30〜1/1がより好ましく、1/15〜1/1が更に好ましい。
前記導電性繊維と、導電性微粒子との体積比が1/50未満であると、導電性や熱伝導性が不十分となることがあり、1/1を超えると、膜質の低下や微粒子の散乱による透明性の低下が起こることがある。
【0043】
前記導電性繊維の配設量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1g/m〜10g/mが好ましく、0.2g/m〜1g/mがより好ましい。
前記導電性繊維を配する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塗布する方法、散布する方法、インクジェット等により滴下する方法、印刷等によって写し取る方法などが挙げられる。
【0044】
<導電性微粒子>
前記導電性微粒子は、導電性及び熱伝導性を有する微粒子である。前記導電性微粒子は、前記導電性繊維のネットワーク形成を容易にし、前記導電性繊維が前記バインダーから突出することなく、前記導電性組成物に導電性を付与することができる。
前記導電性微粒子としては、導電性及び熱伝導性を有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属微粒子、酸化物微粒子、及び窒化物微粒子の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0045】
<<金属微粒子>>
−金属−
前記金属としては、特に制限はなく、いかなる金属であってもよく、例えば、前記した導電性繊維に用いた金属などが挙げられる。
【0046】
−製造方法−
前記金属微粒子の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属塩の還元により製造する方法などが挙げられる。
【0047】
<<酸化物微粒子>>
前記酸化物微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ゲルマニウム、酸化ガリウム、酸化アンチモン等の金属酸化物微粒子;錫をドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化錫(ATO)、亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO)、フッ素をドープした酸化錫(FTO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)等の透明導電性金属酸化物微粒子、などが挙げられる。前記酸化物微粒子は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
<<窒化物微粒子>>
前記窒化物微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、窒化チタン、窒化ガリウム、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、窒化バナジウムなどが挙げられる。前記窒化物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
これらの中でも、前記導電性微粒子は、銀微粒子、金微粒子、酸化チタン微粒子、酸化錫微粒子、酸化インジウム錫微粒子、及びアンチモンをドープした錫微粒子の少なくともいずれかであることが、導電性及び熱伝導性に優れる点で好ましい。
【0050】
<<平均粒径>>
前記導電性微粒子の平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5nm〜500nmが好ましく、10nm〜300nmがより好ましく、8nm〜300nmが更に好ましい。前記平均粒径が5nmより小さいと、安定性に劣ることがあり、500nmを超えると、十分な透明性が得られないことがある。
前記導電性微粒子の平均粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や光学顕微鏡を用い、TEM像や光学顕微鏡像を観察することにより求めることができ、本発明においては、導電性微粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により300個の導電性微粒子を観察し、その平均値から求めたものである。
【0051】
<<配設比率、配設量>>
前記導電性微粒子は、後述するバインダーに混合して使用してもよく、バインダー上に配した2層構造としてもよい。
前記導電性組成物中の前記導電性微粒子の配設比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記導電性微粒子の体積(D)と、前記バインダーの体積(E)との体積比(D/E)が、1/120〜1/5が好ましく、1/30〜1/10が更に好ましい。
前記導電性微粒子と、バインダーとの体積比が1/120未満であると、導電性、熱伝導性が悪化することがあり、1/5を超えると、膜質の悪化が起こることがある。
【0052】
前記導電性微粒子の配設量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01g/m〜0.9g/mが好ましく、0.02g/m〜0.5g/mが、導電性及び熱導電性に優れる点でより好ましい。
前記バインダーを配する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塗布する方法、散布する方法などが挙げられる。
【0053】
<バインダー>
前記バインダーとしては、線状有機高分子重合体であって、分子(好ましくは、アクリル系共重合体、スチレン系共重合体を主鎖とする分子)中に少なくとも1つのアルカリ可溶性を促進する基(例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基など)を有するアルカリ可溶性樹脂の中から適宜選択することができる。
これらの中でも、有機溶剤に可溶で弱アルカリ水溶液により現像可能なものが好ましく、また、酸解離性基を有し、酸の作用により酸解離性基が解離した時にアルカリ可溶となるものが特に好ましい。
ここで、前記酸解離性基とは、酸の存在下で解離することが可能な官能基を表す。
【0054】
−製造方法−
前記バインダーの製造には、例えば、公知のラジカル重合法による方法を適用することができる。前記ラジカル重合法でアルカリ可溶性樹脂を製造する際の温度、圧力、ラジカル開始剤の種類及びその量、溶媒の種類等々の重合条件は、当業者において容易に設定可能であり、実験的に条件を定めることができる。
【0055】
前記線状有機高分子重合体としては、側鎖にカルボン酸を有するポリマーが好ましい。
前記側鎖にカルボン酸を有するポリマーとしては、例えば、特開昭59−44615号、特公昭54−34327号、特公昭58−12577号、特公昭54−25957号、特開昭59−53836号、特開昭59−71048号の各公報に記載されているような、メタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体等、並びに側鎖にカルボン酸を有する酸性セルロース誘導体、水酸基を有するポリマーに酸無水物を付加させたもの等であり、更に側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する高分子重合体も好ましいものとして挙げられる。
【0056】
これらの中でも、ベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸共重合体、ベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸/他のモノマーからなる多元共重合体が特に好ましい。
更に、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する高分子重合体や(メタ)アクリル酸/グリシジル(メタ)アクリレート/他のモノマーからなる多元共重合体も有用なものとして挙げられる。該ポリマーは任意の量で混合して用いることができる。
【0057】
上記以外にも、特開平7−140654号公報に記載の、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート/ポリスチレンマクロモノマー/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート/ポリメチルメタクリレートマクロモノマー/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート/ポリスチレンマクロモノマー/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート/ポリスチレンマクロモノマー/ベンジルメタクレート/メタクリル酸共重合体、などが挙げられる。
【0058】
前記アルカリ可溶性樹脂における具体的な構成単位としては、(メタ)アクリル酸と、該(メタ)アクリル酸と共重合可能な他の単量体とが好適である。
【0059】
前記(メタ)アクリル酸と共重合可能な他の単量体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、ビニル化合物、などが挙げられる。これらは、アルキル基及びアリール基の水素原子は、置換基で置換されていてもよい。
前記アルキル(メタ)アクリレート又はアリール(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
前記ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、グリシジルメタクリレート、アクリロニトリル、ビニルアセテート、N−ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ポリスチレンマクロモノマー、ポリメチルメタクリレートマクロモノマー、CH=CR、CH=C(R)(COOR)〔ただし、Rは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数6〜10の芳香族炭化水素環を表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜12のアラルキル基を表す。〕、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記バインダーの質量平均分子量は、アルカリ溶解速度、膜物性等の点から、1,000〜500,000が好ましく、3,000〜300,000がより好ましく、5,000〜200,000が更に好ましい。
ここで、前記質量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて求めることができる。
【0062】
<<配設比率、配設量>>
前記導電性組成物中の、前記バインダーの配設比率としては、前記した導電性微粒子との体積比(D/E)が好ましく用いられる。
【0063】
前記バインダーの配設量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001g/m〜10g/mが好ましく、0.01g/m〜1g/mがより好ましく、0.02g/m〜0.8g/mが更に好ましい。前記バインダーの配設量が、0.001g/m未満であると、前記導電性繊維が表面に突出し、十分な平滑性が得られないことや、膜質の劣化が起こり、基板との密着性や耐久性が悪化することなどがあり、10g/mを超えると、十分な導電性及び熱電導性を得られないことがある。
【0064】
<その他の構成>
前記その他の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、硫化防止剤、金属腐食防止剤、粘度調整剤、防腐剤等の各種の添加剤などが挙げられる。
【0065】
前記金属腐食防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、チオール類、アゾール類などが好適である。
前記アゾール類としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾテトラゾール、(2−ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸、などが挙げられる。
前記チオール類としては、アルカンチオール類、フッ化アルカンチオール類が挙げられ、例えば、ドデカンチオール、テトラデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、フルオロデカンチオール及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、並びにアミン塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。該金属腐食防止剤を含有することで、一段と優れた防錆効果を発揮することができる。前記金属腐食防止剤は前記導電性組成物を溶媒に溶解した中に、適した溶媒で溶解した状態、又は粉末で添加するか、後述する透明導電体を作製後に、これを金属腐食防止剤浴に浸すことで付与することができる。
【0066】
<導電性物質の配設比率>
前記導電性物質(導電性繊維及び前記導電性微粒子)の体積(A)と、前記導電性組成物の体積から前記導電性物質の体積(A)を除いた体積(B)との体積比(A/B)は、1/150〜1/10である。
また、前記体積比は、1/100〜1/10が好ましく、1/50〜1/10がより好ましい。前記体積比が、1/150未満であると、十分な導電性及び熱電導性を得られないことがあり、1/10を超えると、前記導電性繊維が表面に突出し、十分な平滑性が得られないことや、膜質の劣化が起こり、基板との密着性や耐久性が悪化することなどがある。
【0067】
<用途>
本発明の導電性組成物は、例えば、タッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、電子ペーパー、フレキシブルディスプレイ用電極、フレキシブルディスプレイ用帯電防止、太陽電池用電極、その他の各種デバイスなどに幅広く適用される。
【0068】
(水性分散物)
本発明の水性分散物は、分散溶媒中に前記導電性組成物を含有し、必要に応じて更にその他の成分を含有してなる。
【0069】
<<含有量>>
前記導電性組成物の前記水性分散物における含有量は、0.1質量%〜99質量%が好ましく、0.3質量%〜95質量%がより好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、製造時、乾燥工程における負荷が多大となり、99質量%を超えると、粒子の凝集が起こりやすくなることがある。
この場合、長軸長さが10μm以上の導電性繊維を0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上含有することが、より少ない塗布量で導電性を高くすることができ、透明性との両立の観点で特に好ましい。
【0070】
<<溶媒>>
前記水性分散物における分散溶媒としては、主として水が用いられ、水と混和する有機溶媒を50容量%以下の割合で併用することができる。
前記有機溶媒としては、例えば、沸点が50℃〜250℃、より好ましくは55℃〜200℃のアルコール系化合物が好適に用いられる。このようなアルコール系化合物を併用することにより、塗布工程での塗り付け良化、乾燥負荷の低減をすることができる。
前記アルコール系化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1−エトキシ−2−プロパノール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−ジメチルアミノイソプロパノール、などが挙げられ、好ましくはエタノール、エチレングリコールである。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
<<電気伝導度、粘度>>
前記水性分散物は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ハロゲン化物イオン等の無機イオンを含まないことが好ましい。
前記水性分散物の電気伝導度は1mS/cm以下が好ましく、0.1mS/cm以下がより好ましく、0.05mS/cm以下が更に好ましい。
前記水性分散物の20℃における粘度は、0.5mPa・s〜100mPa・sが好ましく、1mPa・s〜50mPa・sがより好ましい。
【0072】
<<その他の成分>>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、重合性化合物、酸化防止剤、硫化防止剤、腐食防止剤、粘度調整剤、防腐剤等の各種の添加剤などが挙げられる。
【0073】
前記腐食防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、アゾール類が好適である。該アゾール類としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾテトラゾール、(2−ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、並びにアミン塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。該腐食防止剤を含有することで、一段と優れた防錆効果を発揮することができる。前記腐食防止剤は直接水分散物中に、適した溶媒で溶解した状態、又は粉末で添加するか、後述する透明導電体を作製後に、これを腐食防止剤浴に浸すことで付与することができる。
【0074】
前記水性分散物は、インクジェットプリンター用水性インク及びディスペンサー用水性インクにも好ましく用いることができる。
インクジェットプリンターによる画像形成用途において、水性分散物を塗設する基板としては、例えば、紙、コート紙、表面に親水性ポリマーなどを塗設したPETフイルム、などが挙げられる。
【0075】
<用途>
本発明の水性分散物は、例えば、タッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、電子ペーパー、フレキシブルディスプレイ用電極、フレキシブルディスプレイ用帯電防止、太陽電池用電極、その他の各種デバイスなどに幅広く適用される。
【0076】
(透明導電体)
本発明の透明導電体は、前記水性分散物により形成される透明導電層を有する。
前記透明導電体の製造方法は、前記水性分散物を、基板上へ塗設し、乾燥する。
以下、前記透明導電体の製造方法の説明を通じて、本発明の透明導電体の詳細についても明らかにする。
【0077】
<基板>
前記水性分散物を塗設する基板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、透明導電体用基板には、以下のものが挙げられるが、これらの中でも、製造適性、軽量性、可撓性、光学性(偏光性)などの点からポリマーフィルムが好ましく、PETフィルム、TACフィルム、PENフィルムが特に好ましい。
(1)石英ガラス、無アルカリガラス、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、サファイア等のガラス
(2)ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、PET、PEN、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン、スチレン系樹脂、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂
(3)エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂
【0078】
前記基板材料としては、所望により併用してもよい。用途に応じてこれらの基板材料から適宜選択して、フィルム状等の可撓性基板、又は剛性のある基板とすることができる。
前記基板の形状としては、円盤状、カード状、シート状等のいずれの形状であってもよい。また、三次元的に積層されたものでもよい。更に基板のプリント配線を行う箇所にアスペクト比が1以上の細孔、細溝を有していてもよく、これらの中に、インクジェットプリンター又はディスペンサーにより前記水性分散物を吐出することもできる。
【0079】
前記基板の表面は親水化処理を施すことが好ましい。また、前記基板表面に親水性ポリマーを塗設したものが好ましい。これらにより前記水性分散物の基板への塗布性及び密着性が良化する。
【0080】
<親水化処理>
前記親水化処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬品処理、機械的粗面化処理、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理、などが挙げられる。これらの親水化処理により表面の表面張力を30dyne/cm以上にすることが好ましい。
【0081】
<親水性ポリマーの塗設>
前記基板表面に塗設する親水性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼラチン、ゼラチン誘導体、ガゼイン、寒天、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、デキストラン、などが挙げられる。
前記親水性ポリマー層の層厚(乾燥時)は、0.001μm〜100μmが好ましく、0.005μm〜20μmがより好ましい。
前記親水性ポリマー層の層厚が0.001μm未満であると、ポリマーの塗布量が少ないため、膜質の劣化や表面の凹凸による電圧の集中による故障を招くことがあり、100μmを超えると、ポリマー塗布量が多いため、導電性の悪化を招くことがある。
前記親水性ポリマー層には、硬膜剤を添加して膜強度を高めることが好ましい。前記硬膜剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド等のアルデヒド化合物;ジアセチル、シクロペンタンジオン等のケトン化合物;ジビニルスルホン等のビニルスルホン化合物;2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン等のトリアジン化合物;米国特許第3,103,437号明細書等に記載のイソシアネート化合物、などが挙げられる。
【0082】
前記親水性ポリマー層は、上記化合物を水等の溶媒に溶解乃至分散させて塗布液を調製し、得られた塗布液をスピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート、バーコート、ダイコート等の塗布法を利用して親水化処理した基板表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。前記乾燥温度は120℃以下が好ましく、30℃〜100℃がより好ましく、40℃〜80℃が更に好ましい。
更に、基板と上記親水性ポリマー層の間に、密着性の改善を目的として必要により下引き層を形成してもよい。
【0083】
本発明においては、透明導電体を形成後に、腐食防止剤浴に通すことも好ましく行うことができ、これにより、更に優れた腐食防止効果を得ることができる。
【0084】
<導電性>
前記透明導電体の表面抵抗(導電性)としては、特に制限はなく、前記導電性組成物における導電性繊維の種類などに応じて適宜選択することができるが、10Ω/□以下が好ましく、10Ω/□以下がより好ましく、10Ω/□以下が更に好ましい。
前記表面抵抗は、例えば、Loresta−GP MCP−T600(三菱化学株式会社製)などを用いて測定することができる。
【0085】
<熱伝導率>
前記透明導電体の熱伝導率としては、特に制限はなく、前記導電性組成物における導電性繊維の種類などに応じて適宜選択することができるが、1W/mK以上が好ましく、3W/mK以上がより好ましく、5W/mK以上が更に好ましい。
前記熱伝導率は、例えば、サーモウエーブアナライザー(ベテル社製)などを用いて測定することができる。
【0086】
<透過率>
前記透明導電体の全光線透過率としては、特に制限はなく、前記導電性組成物における導電性繊維の種類などに応じて適宜選択することができるが、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましい。
【0087】
<用途>
本発明の透明導電体は、例えば、タッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、電子ペーパー、フレキシブルディスプレイ用電極、フレキシブルディスプレイ用帯電防止、太陽電池用電極、その他の各種デバイスなどに幅広く適用される。
【実施例】
【0088】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に何ら限定されるものではない。
以下の例において、導電性繊維の直径及び長軸長さ、導電性繊維直径の変動係数、及び適切導電性繊維比率(以下、「適切ワイヤー比率」と称することがある。)は、以下のようにして測定した。
【0089】
<導電性繊維の直径及び長軸長さ>
透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製、JEM−2000FX)を用い、300個の導電性繊維を観察し、その平均値から導電性繊維の短軸長さ(直径)及び長軸長さ求めた。
【0090】
<導電性繊維直径の変動係数>
透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製、JEM−2000FX)を用い、300個の導電性繊維を観察し、その平均値から導電性繊維の直径を計測し、その標準偏差と平均値を計算することにより変動係数を求めた。
【0091】
<適切ワイヤー比率>
各銀ナノワイヤーの水分散物をろ過して銀ナノワイヤーとそれ以外の粒子とを分離し、ICP発光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS−8000)を用いてろ紙に残っている銀量と、ろ紙を透過した銀量とを各々測定し、ワイヤーの全導電性物質中の金属量(質量%)を求めた。
なお、適切ワイヤー比率を求める際の適切なワイヤーの分離は、メンブレンフィルター(Millipore社製、FALP 02500、孔径1.0μm)を用いて行った。
【0092】
(調製例1)
−添加液Aの調製−
硝酸銀粉末0.51gを純水50mLに溶解した。その後、1Nのアンモニア水を透明になるまで添加した。次いで、全量が100mLになるように純水を添加した。
【0093】
(調製例2)
−添加液Gの調製−
グルコース粉末0.5gを140mLの純水で溶解して、添加液Gを調製した。
【0094】
(調製例3)
−添加液Hの調製−
HTAB(ヘキサデシル−トリメチルアンモニウムブロミド)粉末0.5gを27.5mLの純水で溶解して、添加液Hを調製した。
【0095】
(製造例1)
−銀ナノワイヤー水分散物(1)の調製−
純水410mLを三口フラスコ内に入れ、20℃にて攪拌しながら、添加液Hを75.3mLと、添加液Gを206mLとをロートにて添加した(1段目)。この液に、206mLの添加液Aを流量2.0mL/分間、攪拌回転数800rpmで添加した(2段目)。その10分間後、添加液Hを82.5mL添加した。次いで、3℃/分間で内温65℃まで昇温した。次いで、攪拌回転数を200rpmに落とし、3時間加熱した。
得られた水分散物を冷却した後、限外濾過モジュールSIP1013(旭化成株式会社製、分画分子量6,000)、マグネットポンプ及びステンレスカップをシリコーン製チューブで接続し、限外濾過装置とした。
上記銀分散液(水溶液)をステンレスカップに入れ、ポンプを稼動させて限外濾過を行った。モジュールからの濾液が50mLになった時点で、ステンレスカップに950mLの蒸留水を加え、洗浄を行った。上記の洗浄を伝導度が50μS/cm以下になるまで繰り返した後、濃縮を行い、銀ナノワイヤー分散物(1)を得た。
得られた銀ナノ粒子の平均短軸長さ(直径)、平均長軸長さ、直径の変動係数、適切ワイヤー比率を表1に示す。
【0096】
(製造例2)
−銀ナノワイヤー分散物(2)の調製−
製造例1において、1段目で添加するHTABの添加量を82.5mLから60mLに変更した以外は、銀ナノワイヤー分散物(1)の調製と同様の方法で、銀ナノワイヤー分散液(2)を得た。
得られた銀ナノ粒子の平均短軸長さ(直径)、平均長軸長さ、直径の変動係数、適切ワイヤー比率を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
(実施例1〜6、比較例1〜6:銀ナノワイヤーによる導電性組成物の作製)
<透明導電体の製造>
製造例1の銀ナノワイヤー(AgNW)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)(石原産業株式会社製、商品名 SN100P)、及びポリマー(バインダー)を、それぞれ表2−1に示す体積比となるように調製し、実施例1〜6及び比較例1〜6(試料番号1〜12)の導電性組成物を得た。
PETを基板として用い、下引き層の表面に8W/m・分間のコロナ放電処理を施し、ヒドロキシエチルセルロースを親水性ポリマー層として、前記導電性組成物を銀量が0.03g/mになるよう塗設し、透明導電体を得た。この時、液の粘度が5cpになるように水の量を調整し、それに合わせて塗設量を調整した。実施例6における試料12は、比較例2における試料2を用い、更に、上層にATO及びバインダーを積層し、2層になるように塗布を行った。その際、ATOの塗設量は0.03g/mとし、ATOと、バインダーとが、質量比で1/3となるように調整した。
ここで、表2−1において、A〜Eは、下記に示す体積を表す。
A=導電性繊維(AgNW)+導電性微粒子(ATO)
B=導電性組成物−A
C=導電性繊維(Ag)
D=導電性微粒子(ATO)
E=バインダー
ここで、AgNWの比重は10.5であり、ATOの比重は6.44であり、バインダーの比重は1.2である。
【0099】
<塗布物の表面抵抗(導電性)の評価>
導電性の評価は、Loresta−GP MCP−T600(三菱化学株式会社製)を用い、表面抵抗(Ω/□)を測定することにより行った。
表面抵抗(Ω/□)の値が、10以下を良好と判断した。
【0100】
<熱伝導率の評価>
熱伝導率の評価は、サーモウエーブアナライザー(ベテル社製)により測定した。
熱伝導率の値が、1W/mK以上を良好と判断した。
【0101】
<透明性の評価>
透明性の評価は、日立分光光度計U3300により全光透過率換算により測定した。
【0102】
<膜質の評価>
膜質の評価は、JIS−K5600に従い、テープ試験により行った。
膜質の評価基準は以下の通りである。
〔評価基準〕
×:全面積の10%以上の明らかな剥がれが認められる
○:ほとんど剥がれが認められない
◎:全く剥がれが認められない
【0103】
<中心線平均粗さ(Ra)の評価>
中心線平均粗さ(Ra)は、セイコーインスツルメント社製 走査プローブ顕微鏡A670により測定した。
中心線平均粗さ(Ra)は、10nm以下を良好と判断した。
【0104】
【表2−1】

【0105】
【表2−2】

【0106】
表2−1及び表2−2より、体積比を高くした場合、導電性物質として、ATO粒子を添加せず銀ナノワイヤーのみとし、銀ナノワイヤーに対するバインダーの体積比(A/B)を増加させていくと、膜質は向上したが、導電性は非常に悪化した(比較例1〜3)。また、導電性物質として、銀ナノワイヤー及びATO粒子を用い、前記導電性物質(AgNW+ATO)に対するバインダーの体積比(A/B)を増加させていくと、膜質に優れるものの、導電性及び熱伝導性は低下した(比較例5〜6及び実施例1〜2)。これは、特許第3903159号にあるように、バインダー量が多いことにより表面の凹凸が少なく、表面抵抗が取れていないためと考えられる。これに対して本発明の導電性組成物を塗布した透明導電体は、表面凹凸が少ないにも関わらず表面導電率が達成されている(実施例1〜6)。これはATO粒子が銀ナノワイヤーのネットワーク面から表面への導通を取っているためと考えられる。この時、膜質の悪化は認められなかった。これらの結果より、ATO粒子の添加によって、膜質を悪化させる事なく導電性と平滑性の両立した導電性組成物、及び該導電性組成物を塗布した透明導電体を得ることができた。
【0107】
(実施例7〜12、比較例7〜12:CIGS太陽電池(サブストレート型)の製作)
<光電変換素子の作製>
ソーダライムガラス基板上に直流マグネトロンスパッタ法により膜厚500nm程度のモリブデン電極、真空蒸着法により膜厚約2.5μmのカルコパイライト系半導体材料であるCu(In0.6Ga0.4)Se薄膜、溶液析出法により膜厚約50nmの硫化カドミニウム薄膜、MOCVDにより膜厚約50nmの酸化亜鉛薄膜を形成し、その上に実施例1〜6及び比較例1〜6(表2−1)における試料番号1〜12の導電性組成物を、それぞれAg塗設量として0.1g/mになるように塗布し、塗布後150℃で加熱することにより光電変換素子をそれぞれの導電性組成物につき合計10個作製した。
作製した太陽電池について、AM1.5、100mW/cmの疑似太陽光を連続3,000時間照射することで太陽電池特性(変換効率)を測定した結果を表3に示す。
【0108】
【表3】

表3において、「−」は抵抗が高く、最初から測定不能であったことを示す。
【0109】
表3より、試料番号6〜7及び9〜12の導電性組成物を塗布した電池素子については3,000時間後に10個全てに発電が認められた(実施例7〜12)。一方、試料番号1〜5及び8の導電性組成物(比較例7〜12)を塗布した電池素子は、発電が認められた数が少なく、更に、発電量が当初の1/10以下になる電池素子が認められた。これは、表面の凹凸によって電流が集中する点が存在し、その点のみが発熱することによって電池素子の寿命が短くなったものと考えられる。
【0110】
(実施例13〜14、比較例13〜18:カーボンナノチューブによる導電性組成物の作製)
<塗布液の作製>
50mL容器にカーボンナノチューブ(名城アーク社製)80mg、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製)280mg、水40mLを加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製ソニファイアー)処理を1時間行った。この分散液について、16,000g、1時間、遠心分離を行うことで精製し、上澄みを回収した。調製したカーボンナノチューブのアスペクト比は1、00以上であった。前記カーボンナノチューブ、酸化インジウムスズ(三菱マテリアル電子化成製、商品名ITO)、及びヒドロキシエチルセルロース(バインダー)を、それぞれ表4の体積比となるように調製し、実施例13〜14及び比較例13〜18(試料番号13〜20)の導電性組成物を得た。
【0111】
<塗布膜の作製>
得られた導電性組成物を、PETフイルム上にバーコーターで塗布し、乾燥機にて100℃で乾燥させた。乾燥後、5分間水洗し、再び乾燥機にて乾燥させた。
塗布物の表面抵抗(導電性)、膜質、中心線平均粗さ(Ra)、及び透明性の評価は、実施例1〜6、比較例1〜6と同様の方法で行った。結果を表4−1及び表4−2に示す。
【0112】
【表4−1】

【0113】
【表4−2】

【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の導電性組成物は、優れた導電性及び熱伝導性、及び面内均一性を有する透明性を有し、基板への密着性及び耐久性が高く、バインダー表面に導電性繊維が突出することなく平滑性に優れているため、例えば、タッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、電子ペーパー、フレキシブルディスプレイ用電極、フレキシブルディスプレイ用帯電防止、太陽電池用電極、その他の各種デバイスなどに幅広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維、導電性微粒子、及びバインダーを少なくとも有する導電性組成物であって、前記導電性繊維及び前記導電性微粒子の体積(A)と、前記導電性組成物の体積から前記導電性繊維及び前記導電性微粒子の体積(A)を除いた体積(B)との体積比(A/B)が、1/150〜1/10であることを特徴とする導電性組成物。
【請求項2】
導電性繊維が、金属及びカーボンの少なくともいずれかで形成される請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
導電性繊維が、ナノワイヤー及びナノチューブの少なくともいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の導電性組成物。
【請求項4】
導電性微粒子が、金属微粒子、酸化物微粒子、及び窒化物微粒子の少なくともいずれかである請求項1から3のいずれかに記載の導電性組成物。
【請求項5】
導電性繊維の体積(C)と、導電性微粒子の体積(D)との体積比(C/D)が、1/50〜1/1である請求項1から4のいずれかに記載の導電性組成物。
【請求項6】
導電性微粒子の体積(D)と、バインダーの体積(E)との体積比(D/E)が、1/120〜1/5である請求項1から5のいずれかに記載の導電性組成物。
【請求項7】
導電性繊維のアスペクト比が10以上である請求項1から6のいずれかに記載の導電性組成物。