説明

導電性支持体の再生方法及び再生した導電性支持体を利用した電子写真感光体

【課題】 電子写真感光体の製造工程で発生した不良製品や市場から回収された使用済み製品のセレン膜を簡易かつ確実に剥離すると共に、剥離した後の再生導電性支持体に再びセレンを蒸着して製品として利用することができる再生方法を提供するものである。
【解決手段】 表面にセレン膜が形成されてなる導電性支持体の再生方法において、前記導電性支持体を加熱してセレン膜にクラックを生じさせるクラック発生工程と、クラックが生じたセレン膜にレーザ光を照射してセレン膜を剥離するセレン膜剥離工程と、セレン膜が剥離された導電性支持体を濃硝酸溶液中に浸漬して、導電性支持体の表面に残っているセレン膜の一部を溶解除去するセレン膜溶解工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザプリンタや複写機などに用いられる電子写真感光体に関するものであり、特にセレンやセレン合金などの無機系感光層が表面に形成された導電性支持体の再生方法及び再生された導電性支持体を利用した電子写真感光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性支持体の表面に感光層が形成された電子写真感光体を使用したレーザプリンタや複写機の普及は近年著しいものがあり、その普及増大に伴なって廃棄される感光体の量も増加している。特にセレンあるいはセレン砒素などのセレン合金を使用した感光体の廃棄は環境への影響も大きいため、使用済み感光体を市場から回収することが望まれている。
【0003】
回収が必要な製品は、市場から回収される使用済み製品だけでなく、アルミ合金などの導電性支持体の表面にセレン膜などの感光層を蒸着する際の不良製品なども含まれる。これらの不良製品や使用済み製品は、廃棄又は再利用する場合でも回収した後に導電性支持体の表面から感光層を剥離する必要があり、その剥離方法として従来から様々な処理方法が知られている。
【0004】
例えば、液体窒素を使用して温度差による熱膨張率の差を利用した剥離方法(特許文献1)、溶剤を用いる方法(特許文献2)、感光体を真空中で加熱してセレンを蒸発させる方法(特許文献3)、酸によりセレンを剥離させる方法(特許文献4)又は高圧温水の噴射によりセレンを剥離する方法(特許文献5)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49−128831号公報
【特許文献2】特開昭50−087651号公報
【特許文献3】特開昭58−027149号公報
【特許文献4】特開昭62−018563号公報
【特許文献5】特開昭59−018104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の剥離方法では感光層を剥離した後の導電性支持体をそのまま再利用に供することができず、導電性支持体の表面に再切削、再研削等の処理を加える必要があった。例えば、特許文献1に記載の剥離方法では、感光層の製造条件の違い、あるいは使用履歴の違いにより剥離できるものとできないものとが発生していた。また、特許文献2に記載の剥離方法では、一例として水の場合であるが、100℃近い温度では大部分を剥離できるが、感光層の薄い部分では剥離できないものがあり、また、導電性支持体の表面を変質させるおそれがあった。さらに、特許文献3に記載の剥離方法では、感光体の温度を200℃以上に保持しないとセレン合金が蒸発しないが、200℃以上にすると導電性支持体が変形してしまう問題があった。また、特許文献4に記載の剥離方法では、酸のみによる処理のために処理時間が長くなり処理液の寿命が短く、量産性が問題であった。そして、特許文献5に記載の剥離方法では、導電性支持体に高圧水を噴射した場合、感光層が剥離する状態まで噴射圧力を上げると導電性支持体の表面が荒れてしまい、その状態のままで再利用することは困難であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電子写真感光体の製造工程で発生した不良製品や市場から回収された使用済み製品からセレン膜を簡易かつ確実に剥離すると共に、剥離した後の導電性支持体をそのまま再生利用に供することができるような導電性支持体の再生方法を提供するものである。セレン膜にはセレンだけでなくセレン砒素などのセレン合金からなる膜も含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明に係る導電性支持体の再生方法は、表面にセレン膜が形成されてなる導電性支持体の再生方法において、前記セレン膜にレーザ光を照射することでセレン膜を剥離することを特徴とする。
【0009】
さらに、具体的な再生方法は、導電性支持体を加熱してセレン膜にクラックを生じさせるクラック発生工程と、クラックが生じたセレン膜にレーザ光を照射してセレン膜を剥離するセレン膜剥離工程と、セレン膜が剥離された導電性支持体を濃硝酸溶液中に浸漬して、導電性支持体の表面に残っているセレン膜の一部を溶解除去するセレン膜溶解工程と、を備える。
【0010】
また、本発明に係る電子写真感光体は、上記の工程を経て再生された導電性支持体を利用することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セレン膜を簡易に且つ確実に剥離することができる。また、セレン膜が剥離された後の導電性支持体の表面を再切削、再研削することなく、そのまま電子写真感光体に再生利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る導電性支持体の再生方法を示す工程図である。
【図2】導電性支持体の表面に形成されたセレン膜にレーザ光を照射して剥離する場合の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る導電性支持体の再生方法を詳細に説明する。図1は本発明に係る再生方法の具体的な工程を示したものである。この再生方法は、アルミ合金などからなる導電性支持体の表面に形成されたセレン膜にクラックを生じさせるクラック発生工程と、クラックが生じて剥がれ易くなったセレン膜に向けてレーザ光を照射し、セレン膜を導電性支持体の表面から剥離するセレン膜剥離工程と、セレン膜を剥離した後の導電性支持体を濃硝酸溶液中に浸漬して、導電性支持体の表面に僅かに残っているセレン膜を溶解除去するセレン膜溶解工程と、セレン膜が完全に除去された導電性支持体の表面を純水で洗浄する洗浄工程と、洗浄した後の導電性支持体を乾燥する乾燥工程とを備えるものである。
【0014】
先ず、回収された使用済みの電子写真感光体から両端のホルダなどが外された導電性支持体をクラック発生工程に移送する。このクラック発生工程では、140〜180℃に保たれた電熱炉が用意され、この中に前記導電性支持体を入れて加熱処理する。加熱時間は導電性支持体のサイズなどによっても異なるが、おおよそ30〜50分間が望ましい。導電性支持体は加熱されることで無定形セレン又はセレン合金が金属セレン又はセレン合金に変化し、それに伴なって体積変化を起こして、表面に無数の細かいクラックが発生する。加熱温度が重要であり、140℃より低いとクラックが十分に発生せず、また180℃より高いと導電性支持体に悪影響を及ぼすおそれがある。電熱炉を用いることで導電性支持体が均一に加熱されるメリットがあり、さらに電熱炉の中で導電性支持体を回転させながら加熱することで、全体がより一層均一に加熱される。このように導電性支持体を加熱することで、セレン膜全体に亘って無数のクラックが生じる。なお、加熱手段が電熱炉に限定されないことは勿論である。
【0015】
次に、セレン膜全体にクラックが生じた導電性支持体を電熱炉から取り出し、セレン膜剥離工程に移す。このセレン膜剥離工程では、導電性支持体の表面にレーザ光を照射することでセレン膜を剥離する。セレン膜全体が均一に剥離されるように、例えば図2に示すような治具1が用いられる。この治具1は、ドラムセット台2に導電性支持体3の両端を回転可能に支持する一対の軸受4と、この軸受4にカップリング5を介して回転力を付与する駆動モータ6とを設けたものである。この治具1にセットされた導電性支持体3の上方にレーザ発振装置7を配置し、このレーザ発振装置7又はドラムセット台2を水平方向に一定速度で移動させながらレーザ光8を照射することで、導電性支持体3の表面全体のセレン膜9を均一に剥離することができる。レーザの種類としては、固体レーザとして一般的なYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザを使用できるが、これに限られないことは勿論である。
【0016】
クラック発生工程において、セレン膜全体に無数のクラックが生じているため、レーザ光を照射したときにその衝撃によってセレン膜が容易に剥がれ落ちる。特にYAGレーザを用いて周波数が5〜9KHzのレーザ光を照射することで、導電性支持体の表面全体に亘ってセレン膜が容易に且つきれいに剥がれ落ち、導電性支持体のきれいなアルミ合金面が現われる。セレン膜剥離工程では照射されるレーザ光の周波数が重要であり、周波数が5〜9KHzのYAGレーザの照射が好ましい。周波数が9KHzより大きいと剥離が不十分となり、一方周波数が5KHzより小さいと導電性支持体の表面に悪影響を及ぼすおそれがある。なお、レーザ光の照射時間は導電性支持体のサイズに応じて適宜選択される。
【0017】
上記のセレン膜剥離工程におけるレーザ光の照射によって導電性支持体の表面からセレン膜がほとんど剥離されてしまうが、導電性支持体の両端付近でセレン膜が僅かに残る場合がある。そこで、次のセレン膜溶解工程では、セレン膜剥離工程を経た後の導電性支持体を濃硝酸溶液中に浸漬し、その表面に僅かに残っているセレン膜を溶解して除去する。この工程では40〜50℃に温めた濃硝酸溶液中に導電性支持体を2〜4分浸漬させることで、導電性支持体の表面に僅かに残る感光層がきれいに溶解除去される。濃硝酸溶液中への浸漬時間が長くなると導電性支持体の表面が荒れたりムラが出るおそれがあり、また濃硝酸の寿命も短くなってしまうが、本発明のように導電性支持体の表面に僅かに残っている感光層を取り除くだけであれば、2〜4分浸漬させるだけで十分であり、上記のような不具合を生じることはない。なお、セレン膜が濃硝酸によって溶解される時の主反応は以下の通りである。
2Se+9HNO→Se(OH)NO+8NO+4H
【0018】
前記濃硝酸溶液から取り出された導電性支持体は、その表面から感光層がきれいに除去された状態にある。次に、この導電性支持体を純水によって十分に洗浄し、導電性支持体の表面から濃硝酸の残液をきれいに洗い流す。その後、導電性支持体を乾燥炉内で又は温風などによって十分に乾燥させて再生工程を終了する。
【0019】
このようにして、クラック発生工程から乾燥工程までを終了した再生導電性支持体は、表面を再切削、再研削することなく、そのままの状態で新製品の電子写真感光体を製造するのと同じ製造ラインに移送され、その表面に再びセレン又はセレン合金を蒸着することができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことは勿論である。
【0021】
実施例1
耐用限度まで使用され、セレン合金が感光層として形成された電子写真感光体のアルミ合金からなる導電性支持体(外形260mmΦ,長さ430mm)を150℃に保った電熱炉(型式DFR―60,株式会社二葉化学製)に40分間保持する(クラック発生工程)。電熱炉より取り出した導電性支持体を図2に示した治具1にセットする。この導電性支持体を回転速度60(rpm)で回転させながら、スキャン速度0.5(mm/秒)で走査している導電性支持体の表面に、レーザ発振装置7(型式YAGレーザSL114,日本電気株式会社製)から電流値が18.5A、周波数が7KHzのレーザ光8を照射してセレン膜を剥離した(セレン膜剥離工程)。この状態でほとんどのセレン合金が表面から剥離された導電性支持体を45℃の濃硝酸溶液中に3分間浸漬させた(セレン膜溶解工程)。濃硝酸溶液から取り出した後、60℃の純水で洗浄し(洗浄工程)、その後風乾した(乾燥工程)。このようにして得られた再生導電性支持体に下記の条件でセレンを蒸着した。
蒸着条件:圧力1×10−4torr以下、セレン加熱温度350℃、再生導電性支持体温度80℃において、膜厚60μmのセレン感光層を得た。
【0022】
実施例2
実施例1において、クラック発生工程の処理条件を140℃,30分に替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0023】
実施例3
実施例1において、クラック発生工程の処理条件を180℃,50分に替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0024】
実施例4
実施例1において、セレン膜剥離工程の処理条件に関して、YAGレーザの周波数を9KHzに替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0025】
実施例5
実施例1において、セレン膜剥離工程の処理条件に関して、YAGレーザの周波数を5KHzに替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0026】
実施例6
実施例1において、セレン膜溶解工程の処理条件を40℃に替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0027】
実施例7
実施例1において、セレン膜溶解工程の処理条件を50℃に替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0028】
比較例1
実施例1において、クラック発生工程の処理条件を200℃,20分に替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0029】
比較例2
実施例1において、クラック発生工程の処理条件を100℃,60分に替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0030】
比較例3
実施例1において、セレン膜剥離工程の処理条件に関して、YAGレーザの周波数を10KHzに替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0031】
比較例4
実施例1において、セレン膜剥離工程の処理条件に関して、YAGレーザの周波数を4KHzに替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0032】
比較例5
実施例1において、セレン膜溶解工程の処理条件を30℃に替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0033】
比較例6
実施例1において、セレン膜溶解工程の処理条件を60℃に替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0034】
比較例7
実施例1において、クラック発生工程及びセレン膜剥離工程の処理を行なわず、セレン膜溶解工程の処理時間を10分に替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0035】
比較例8
実施例1において、クラック発生工程及びセレン膜剥離工程の処理を行なわず、セレン膜溶解工程の処理時間を30分に替えた以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離して再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0036】
比較例9
実施例1において、クラック発生工程及びセレン膜溶解工程の処理を行なわず、セレン膜剥離工程の処理条件に関して、YAGレーザの周波数を12KHzに替えた以外は実施例1と同様にして再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0037】
比較例10
実施例1において、クラック発生工程及びセレン膜溶解工程の処理を行なわず、セレン膜剥離工程の処理条件に関して、YAGレーザの周波数を3KHzに替えた以外は実施例1と同様にして再生導電性支持体を得、その上にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0038】
比較例11
実施例1において、洗浄工程及び乾燥工程の処理を行なわない以外は実施例1と同様にしてセレン膜を剥離し、再生導電性支持体を得た後その表面にセレンを蒸着して電子写真感光体を作製した。
【0039】
上記実施例1〜7及び比較例1〜11について、以下の項目を評価した。
【0040】
変形についての評価
導電性支持体の表面からセレン膜を剥離した後の再生導電性支持体の変形の程度(円筒度)を真円度測定器(型式タリロッド290RSU,テーラーボブソン株式会社製)を用いて測定した。円筒度のクリア基準を20μm以下とした。但し、セレン膜が残存した再生導電性支持体は測定対象外とした。
【0041】
セレン膜の残存状態の評価
導電性支持体の表面からセレン膜を剥離した後の再生導電性支持体について、その表面にセレンが何%残存しているかを目視で評価し、セレンが残存しない場合は「なし」、残存する場合は再生導電性支持体の全表面積に対するセレン残存面積を「%」で示した。
【0042】
再生導電性支持体の表面の荒れ評価
表面にセレン膜が形成されている導電性支持体と、セレン膜を剥離した後の再生導電性支持体の表面を目視で比較した。変化がないものを○、荒れが観察されたものを×とした。
【0043】
再生導電性支持体の表面の汚れ評価
目視で評価した。セレン膜剥離後の再生導電性支持体の表面を目視で観察して汚れのないものを○、汚れがあるものを×とした。但し、セレン膜が残存しているものは評価対象外とした。
【0044】
上記実施例1〜7及び比較例1〜11についての評価結果を表1に示す。
【表1】

【0045】
次に、上記表1について考察する。まず、クラック発生工程に注目すると、比較例1から明らかなように、加熱温度が200℃と高すぎる場合には再生導電性支持体が変形してしまう。一方、比較例2のように、加熱温度が100℃と低く、加熱時間が60分の場合には感光層であるセレンの金属化が進まず、次の工程であるセレン膜剥離工程及びセレン膜溶解工程を実施例1〜3と同じ条件で処理したとしてもセレンをきれいに剥離することができず、再生導電性支持体の表面に残存してしまった。
【0046】
次に、セレン膜剥離工程に注目すると、比較例3に示すように、YAGレーザの周波数が10KHzと大きい場合にはセレン膜をきれいに剥離することができず、一方、比較例4に示すように、YAGレーザの周波数が4KHzと小さい場合にはセレン膜はきれいに剥離できるものの、再生導電性支持体の表面が荒れてしまった。
【0047】
さらに、セレン膜溶解工程に注目すると、比較例5に示すように、濃硝酸溶液の温度が30℃と低すぎる場合には、セレン膜剥離工程において再生導電性支持体の端部付近に残っていた膜厚の薄いセレン膜を溶解除去することができず、そのまま残存してしまう。一方、比較例6に示すように、濃硝酸溶液の温度が60℃と高すぎる場合には表面が荒れる傾向にあった。
【0048】
さらにまた、純水工程と乾燥工程の処理を行なわない比較例11では、再生導電性支持体の表面に汚れが発生し、電子写真感光体の支持体として使用することが困難であった。また、セレン膜溶解工程の処理のみを行なった比較例7,8の場合には、浸漬時間が30分以内ではセレン膜を完全に溶解除去するのは困難であった。また、セレン膜剥離工程の処理のみを行なった比較例9,10の場合には、YAGレーザの周波数が12KHzでも導電性支持体の端部付近の膜厚の薄いセレン膜を剥離するのは困難であり、また、再生導電性支持体の表面も荒れてしまった。YAGレーザの周波数を3KHzにすることで膜厚の薄いセレン膜を剥離できるものの、再生導電性支持体の表面はさらに荒れてしまった。
【0049】
以上考察したように、実施例1〜7で示されたクラック発生工程(処理条件:加熱温度140〜180℃、加熱時間30〜50分)と、セレン膜剥離工程(処理条件:YAGレーザの周波数が5〜9KHz)と、セレン膜溶解工程(処理条件:溶液温度40〜50℃、浸漬時間3分)を終了し、さらに洗浄工程と乾燥工程を経ることにより、使用済み等の電子写真感光体から良好な再生導電性支持体を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にセレン膜が形成されてなる導電性支持体の再生方法において、前記セレン膜にレーザ光を照射することでセレン膜を剥離することを特徴とする導電性支持体の再生方法。
【請求項2】
表面にセレン膜が形成されてなる導電性支持体の再生方法において、前記導電性支持体を加熱してセレン膜にクラックを生じさせるクラック発生工程と、クラックが生じたセレン膜にレーザ光を照射してセレン膜を剥離するセレン膜剥離工程と、セレン膜が剥離された導電性支持体を濃硝酸溶液中に浸漬して、導電性支持体の表面に残っているセレン膜の一部を溶解除去するセレン膜溶解工程と、を備えることを特徴とする導電性支持体の再生方法。
【請求項3】
前記クラック発生工程において、導電性支持体が140〜180℃で30〜50分間加熱される請求項2に記載の導電性支持体の再生方法。
【請求項4】
前記導電性支持体の加熱が電熱炉内で行なわれる請求項2又は3に記載の導電性支持体の再生方法。
【請求項5】
前記セレン膜剥離工程において、クラックが生じたセレン膜に向けて周波数が5〜9KHzのレーザ光を照射する請求項1に記載の導電性支持体の再生方法。
【請求項6】
セレン膜の一部を溶解除去するセレン膜溶解工程において、セレン膜が剥離された導電性支持体を40〜50℃の濃硝酸溶液中に2〜4分浸漬する請求項1に記載の導電性支持体の再生方法。
【請求項7】
前記セレン膜溶解工程の後に、導電性支持体の洗浄工程と乾燥工程とが付加される請求項1に記載の導電性支持体の再生方法。
【請求項8】
前記請求項1又は2の工程を経ることにより再生された電子写真感光体。

【図1】
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【図2】
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