説明

導電性物質被覆繊維

【課題】本発明は、特に被覆された導電性物質が剥離しにくい導電性物質被覆繊維を提供するものである。
【解決手段】表面が導電性物質で被覆された繊維であって、この繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維であることを特徴とする導電性物質被覆繊維。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性物質で被覆された繊維に関し、特に被覆された導電性物質が剥離しにくい繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アラミド繊維等の繊維表面を導電性物質で被覆することにより補強効果と帯電防止効果を付与することが記載されており、被覆された導電性物質、例えば金属メッキ層の剥離が少ないことが開示されているが、例えば金属メッキされたアラミド繊維を、撚糸、組み紐、製織等の後加工を施すと、金属メッキ層の剥離が問題となることがあり、さらに金属メッキ層が剥離しにくいものが要求されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−121296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる要求に応えた導電性物質被覆繊維に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)表面が導電性物質で被覆された繊維であって、この繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維(以下、「ポリケトン繊維」という。)であることを特徴とする導電性物質被覆繊維。
【化1】

【発明の効果】
【0006】
本発明は、特に被覆された導電性物質が剥離しにくい導電性物質被覆繊維を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の態様について以下に具体的に説明する。
本発明の導電性物質被覆繊繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の95モル%以上、好ましくは98モル%以上、特に99.6モル%以上が、上記式(1)で示されるものであり、5モル%未満の範囲で、上記式(1)以外の繰り返し単位、例えば、下記式(2)に示すもの等を含有していても良い。
【化2】

但し式中、Rは、エチレン以外の炭素数1〜30の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等の基であり、Rの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Rは二種以上であってもよく、例えば、プロピレン基と1−フェニルエチレン基が混在していてもよい。
【0008】
ポリケトンの固有粘度[η]は、好ましくは1dl/g以上、20dl/g以下、より好ましくは2dl/g以上、15dl/g以下、特に好ましくは4dl/g以上、10dl/g以下である。
尚、固有粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
【数1】

式中のt及びTは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子(株)社製)及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。Cは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール100ml中のポリケトンの質量(g)である。
ポリケトンには、必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含有させてもよい。
【0009】
次にポリケトン繊維の好ましい特性として、引張強度は、5cN/dtex以上、より好ましくは10cN/dtex以上、特に好ましくは15cN/dtex以上で、30cN/dtex以下であり、引張伸度は、3%以上、8%以下、より好ましくは3.5%以上、7%以下、特に好ましくは4%以上、6%以下であり、引張弾性率は、100cN/dtex以上、より好ましくは200cN/dtex以上、特に好ましくは300cN/dtex以上で、1000cN/dtex以下である。
ポリケトン繊維の形態は、長繊維でも短繊維でもよく、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、扁平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
【0010】
ポリケトン繊維の単糸繊度は、トウやマルチフィラメント糸では0.01〜10dtex、より好ましくは0.1〜3dtex、特に好ましくは0.5〜3dtex、モノフィラメント糸では、10〜100000dtexである。
又、ポリケトン繊維の総繊度は10〜100000dtex、より好ましくは30〜50000dtexである。
ポリケトン繊維は、希望に応じて各種の糸条形態で用いることができるものであり、例えば、リング紡績やオープンエンド紡績等公知の紡績手段によって得られる紡績糸、無撚糸や有撚糸(片撚糸、諸撚糸等)、仮撚加工糸〔ピン、フィリクション、ニップベルト等の仮撚加工糸、部分配向未延伸糸(POY)の延伸仮撚加工糸及び先撚仮撚加工糸(先撚同方向仮撚や先撚異方向仮撚)並びにこれらの1ヒーター又は2ヒーター仮撚加工糸を含む〕、仮撚方向と同方向又は異方向に追撚した仮撚加工糸、流体噴射加工糸、押し込み加工、ニットデニット加工等の嵩高加工糸がある。
尚、有撚糸の好ましい次の式で示される撚係数Kは、1000〜30000である。
K=Y×D0.5
但し、Yは撚数(T/m)、Dは撚糸前の糸の総繊度(dtex)
【0011】
本発明は、かかるポリケトン繊維の表面が導電性物質で被覆されていることに特徴を有する。
導電性物質を被覆する方法としては、金、銀、銅、錫、ニッケル、鉛、亜鉛、アルミニウム等の金属をメッキよる方法(化学メッキ、電気メッキ)が好ましいが、金属をスパッタリングや蒸着する方法、カーボンブラック混入樹脂や接着剤を繊維に含浸したり、繊維にコーティングしたりする等により表面に膜を作る方法、ポリアセチレンやポリピロール等の導電性高分子で表面に膜を作る方法が挙げられる。
例えば、ポリケトン繊維を化学メッキするには、繊維をチーズ状にソフトワインドした後、メッキ金属が付着しやすいように前処理後、チーズ状のまま無電解金属イオン水溶液中で20〜40℃の条件下、5〜30分処理する。又、繊維を前処理後、無電解金属イオン水溶液中を連続的に走行させてメッキする方法もある。
尚、ポリケトン繊維を撚糸や組み紐、編織物や不織布等所望する繊維形態に加工した後、メッキ加工等の手段により導電性物質を被覆してもよい。さらに、必要に応じて導電性物質を被覆した後、擦過防止等の目的でフッ素系樹脂、シリコン系樹脂等により樹脂被覆してもよい。
【0012】
導電性物質が被覆されたポリケトン繊維は、導電性物質が被覆されたポリケトン繊維以外の繊維、導電性物質が被覆されていないポリケトン繊維やポリケトン繊維以外の繊維と混用して用いてもよい。
混用するポリケトン繊維以外の繊維としては、例えば、綿、羊毛等の天然繊維、レーヨン繊維、ライオセル繊維等のセルロース繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート並びにこれらの共重合ポリエステルやコンジュゲート等の複合紡糸繊維等)、ポリアミド繊維(ナイロン6、66等)、ポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維、アラミド繊維(パラ系、メタ系)、ポリビニルアルコール繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、金属繊維等公知の各種繊維と混用して用いても良い。
【0013】
混用手段は、糸条段階での混用として、例えば、混紡、複合紡績(コアヤーン、サイロスパンやサイロフィル等)、交撚(双糸、諸撚糸、三子等)、交絡混繊(低収縮糸や高収縮糸との異収縮混繊糸等)、カバリング(シングル、ダブル)、複合仮撚(同時仮撚、伸度差仮撚、位相差仮撚等)や2フィード流体噴射加工(フィード差有並びに無)等の複合嵩高加工等が挙げられる。
この際、導電性物質が被覆されたポリケトン繊維と混用する繊維(導電性物質が被覆されたポリケトン繊維以外の繊維、導電性物質が被覆されていないポリケトン繊維やポリケトン繊維以外の繊維)は、鞘芯構造を形成させてもよく(混用後に熱処理等を加えて鞘芯構造を形成させても良い)、例えば導電性物質が被覆されたポリケトン繊維を芯成分又は鞘成分に、他の繊維を他方の成分としてもよい。
【0014】
又、布帛段階の混用として、単純な交編織に加えて、例えば、織物では経糸及び/又は緯糸において1〜数本交互で混用したり、立体編物(丸編いわゆるダンボールニットや横編、経編がある)や立体織物において表面糸、裏面糸、連結糸の少なくとも一部又は全てに用いて混用する方法があり、例えば導電性物質が被覆されたポリケトン繊維を表面糸及び/又は裏面糸に、他の繊維、例えばクッション性付与を目的にポリトリメチレンテレフタレート繊維やナイロン繊維を連結糸としてもよい。さらには、糸条段階と布帛段階の混用を組み合わせても良い。
尚、例えば屋外で強い紫外線を受けることによってポリケトン繊維の引張強度等の低下が懸念される時は、繊維や布帛の形態で紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の一種又は二種以上の組み合わせがある。)及び/又は紫外線遮蔽剤(例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム等の微粒子があり、平均粒径は0.01〜0.6μmが好ましい。)を含有させてもよい。
含有させる方法としては、例えば、繊維や布帛に紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤を含有した樹脂を付与又は被覆する方法があり、紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤の含有量は、樹脂の質量に対して0.001〜10質量%が好ましい。
【実施例】
【0015】
本発明を実施例などに基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)引張強度、引張伸度、引張弾性率
JIS−L−1013に準じて測定する。
サンプル長:20cm、引張速度:20cm/分で測定し、20回測定した時の平均値を求める。
(2)剥離テスト
平面摩耗試験機を用い、直径40mmのステンレス棒に10gの荷重をつるした状態で試料が接するように取り付け、50回回転して試料を摩耗した後、金属メッキ層の剥離状態を観察し下記基準にて評価した。
○;金属メッキ層の剥離がなく、美麗な表面状態。
△;金属メッキ層の剥離が見られる。
×;金属メッキ層の剥離が激しい。
【0016】
[実施例1]
1670dtex/1250fのポリケトン繊維(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)に銅の化学メッキを行った。得られた繊維の銅の付着量は、20重量%であった。
得られた繊維の剥離テストは○と優れたものであった。
[比較例1]
実施例1において、ポリケトン繊維に代えて1670dtex/964fのパラ系アラミド繊維マルチフィラメント糸(引張強度20cN/dtex、引張伸度4.5%、引張弾性率500cN/dtex)を用いて銅の化学メッキを行った。得られた繊維の銅の付着量は、21重量%であった。
得られた繊維の剥離テストは△と実施例1に対比して劣ったものであった。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、特に被覆された導電性物質が剥離しにくい繊維を提供するものであり、例えば、FRP、FRTP、FRC等の繊維補強複合体の補強繊維に用いることにより、補強効果に加えて帯電防止効果や電磁波シールド性等を付与することができる。
又、パチンコ球等の研磨部材、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の定着装置に用いられる離型剤塗布クリーニングローラーに植毛することにより、研磨や汚れ対策に加えて帯電防止効果を付与できる。さらに、ニッケル等の金属メッキしたものは、耐切創性に優れた(魚の歯によるかみ切り防止)釣り糸として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が導電性物質で被覆された繊維であって、この繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維であることを特徴とする導電性物質被覆繊維。
【化1】


【公開番号】特開2008−196086(P2008−196086A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34267(P2007−34267)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/高性能ポリケトン繊維の工業化基盤技術の開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】