説明

導電性繊維

【課題】 技術の導電剤を添加することにより起こる、ポリマーの流動性不良や製糸性不良、繊維強度低下などの問題点を解消し、あるいは不十分であった導電性能をより高め、繊維長手方向における導電斑が極めて小さく、繊維表面における高い導電性を有する導電性繊維を提供することにある。さらには、ブラシ加工してレーザープリンターに組み込んだ際に、単糸間の太さ斑が少ないことから均一な導電性であるため、均一で鮮明な画像を得ることができる導電性繊維を提供することにある。
【解決手段】 9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合成分とした芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤を含有してなる樹脂組成物が、少なくとも導電層の一部を形成して成ることを特徴とする導電性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維特有の賦型性、しなやかさや強度、高い耐摩耗性を有するとともに、従来の金属メッキ繊維に匹敵する高い導電性と導電安定性とを具備した導電性繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維の高機能化においては様々な機能性付与が検討され、導電性もその1つとして重要視されている。この導電性を有する繊維(以後、導電性繊維)は、例えば、クリーンルーム用の衣料用繊維やカーペットへの混繊用繊維として用いられる他、近年では、各種装置内に組み込まれる部品用に使用される繊維として、静電気を除去する目的や装置内で電荷を付与する目的等で使用されている。
【0003】
特にIT分野においては、電子情報機器、特に携帯電話などの無線端末の普及により、日常的な環境においても電磁波の暴露量が増加し、健康への影響が懸念されていることから、導電性繊維は電磁波遮蔽素材としても利用されている。このように導電性繊維は、衣料用途だけでなく各種産業用などの幅広い分野で用いられており、需要の高まりと共に、更なる高性能化が進められている。
【0004】
この導電性繊維の技術開発については多くの繊維形成材料での検討が行われている。例えば、ポリオレフィンやポリアミドあるいはポリエステルについて数多くの検討がなされており、中でも特に耐熱性に優れたポリエステルについて精力的に検討がなされている。しかしながら、比較的容易に入手可能な導電剤であるカーボンブラック(以後、CBと記載する。)や白色金属酸化物粒子をポリエステルに適用した導電性繊維については、これら導電剤の多量添加時に、ポリエステルの大幅な粘度上昇による流動性不良や導電剤の分散性不良による導電性能低下などの問題が起こり易くなる。
【0005】
これらの課題を解決する方法として、例えばベースポリマーである芳香族ポリエステルに脂肪族ポリエステルが溶融混合されてなる混合ポリマーや、ブロックコポリマーにCBを添加してなる導電性繊維の技術が開示されている(特許文献1あるいは2参照)。これら技術においては、脂肪族ポリエステルを混練することによって、柔軟性あるいはストレッチ性を付与することを目的としており、確かに導電性に優れる繊維が得られるものの、脂肪族ポリエステル由来の物理物性の劣性(低強度や脆さ)や脂肪族ポリエステル界面での耐摩耗性の低さ(界面剥離や削れ)が現れやすいことから、防塵衣など強度や耐摩耗性を必要とする用途、あるいは電子機器など極度に削れカスを嫌う用途においては適用が困難であった。
【0006】
また、共重合成分を導入してポリエステルを改質し、導電性粒子の混入量増加や導電性粒子含有時の製糸性向上を図った技術が開示されている(特許文献3参照)。該技術においては、結晶化速度の大きいポリブチレンテレフタレート(以後、PBTと記載する)に共重合成分を導入、非晶化させることでPBT自体の結晶性を低下して導電性粒子を含有せしめた際の混和性を向上させることで、ホモPBT対比で曳糸性が向上するものの、イソフタル酸あるいはアジピン酸を共重合したPBTのCBとの本質的な親和性は、ホモPBTポリマーと大きく変わらないため、繊維長手方向の導電性斑の改善効果は小さいものであった。
【0007】
一方、導電剤を多量に含有しても製糸性が良好で導電性に優れた、ポリエステル繊維の技術を提案している(特許文献4参照)。この提案においては、トリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステル(以後、PTT系ポリマーと記載する)を、導電剤を含有するベースポリマーとしたものであり、従来汎用的に用いられてきたエチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステル(以後、PET系ポリマーと記載する)やブチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステル(以後、PBT系ポリマーと記載する)と比較して、導電剤を多量に含有させた際の曳糸性が優れ、また、得られた繊維の導電性(導電性が高い、あるいは繊維長手方向の導電性斑が小さい)も優れている。
【0008】
しかしながら、この提案によっても、やはり製糸性不良が起こったり繊維物性低下が見られたりすることがある。繊維長手方向の均質な導電性という観点でより付加価値の高い導電性繊維を形成するために、導電剤との親和性を考慮した、ポリマー設計が望まれていた。
【0009】
また、フルオレン系組成物として、添加剤の分散性に優れ、少量の配合量で添加剤の機能を発現できるフルオレン系組成物の提案がされている(特許文献5参照)。ただ、この提案は、添加物の分散性は向上するが、本発明の目的一つである導電性の向上に関する提案はされていない。さらに、導電性繊維の繊維長手方向の導電性斑の改善効果は小さいものであった。
【特許文献1】特開昭51−90345号公報(特許請求の範囲、実施例第1表)
【特許文献2】特開昭56−85423号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2004−44071号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献4】特開2007−191843号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献5】特開2004−339499号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の導電剤を添加することにより起こる、ポリマーの流動性不良や製糸性不良、繊維強度低下などの問題点を解消し、あるいは不十分であった導電性能をより高め、繊維長手方向における導電斑が極めて小さく、繊維表面における高い導電性を有する導電性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記問題を解決するために以下の構成を採用するものである。
【0012】
(1)9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合成分とした芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤を含有してなる樹脂組成物が、少なくとも導電層の一部を形成して成ることを特徴とする導電性繊維。
【0013】
(2)導電剤がカーボンブラックであり、かつ式1に示す導電指標が60〜220、ジブチルフタレート吸収量が50〜180[cm/100g]であるカーボンブラックであることを特徴とする(1)に記載の導電性繊維。
式1 導電指標(無次元)=√{(比表面積[m/g])×(ジブチルフタレート吸収量[cm/100g])}
(3)導電剤がカーボンナノチューブまたは気相成長炭素繊維(VGCF)であることを特徴とする(1)に記載の導電性繊維。
【0014】
(4)9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合成分とした芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤としてカーボンブラックが15〜50重量%含有してなる導電性樹脂組成物(A)を鞘成分とし、導電剤の含有率が0〜10重量%であるポリエステルからなる低導電性の組成物(B)を芯成分とした芯鞘複合構造であることを特徴とする(1)または(2)に記載の導電性繊維。
【0015】
(5)9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合成分とした芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤としてカーボンナノチューブまたは気相成長炭素繊維(VGCF)が0.1〜20重量%含有してなる導電性樹脂組成物(A)を鞘成分とし、導電剤の含有率が0〜10重量%であるポリエステルからなる低導電性の組成物(B)を芯成分とした芯鞘複合構造であることを特徴とする(3)に記載の導電性繊維。
【0016】
(6)平均抵抗率が1.0×108.0[Ω/cm]以下で、繊維長手方向10mあたりの抵抗率変動係数CVが0.1以下、マルチフィラメント横断面中の単糸の繊維横断面CVが0.1以下であるであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の導電性繊維。
【発明の効果】
【0017】
本発明の導電性繊維は、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合成分とした芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤を含有してなる樹脂組成物が、少なくとも導電層の一部を形成して成る。
【0018】
該導電性繊維を用いることにより、導電剤との親和性を飛躍的に高められる。そのため、導電性繊維において、導電層にカーボンブラック(CB)が存在する場合、CB粒子間距離が縮まり凝集しやすいとされる20体積%以上の高濃度であってもCBの粒子の均一な微分散化が可能となり、導電層としての繊維長手方向の導電性斑を極めて小さくできる。
【0019】
また、CB粒子の凝集に由来する繊維欠陥が低減されるため、破断強度などの繊維物性も飛躍的に向上する。すなわち、CB高濃度下での高導電性、繊維長手方向の導電均一性、および繊維物性において、従来に比べ優れた性能を有する導電性繊維を得ることが可能となる。加えて、樹脂組成物を構成する樹脂が芳香族ポリエステルであることから、吸水性あるいは吸湿性が殆どないことから導電性の湿度依存性が極めて小さく、高湿度下から低湿度に至る、あらゆる温湿度環境での導電性が安定する。
【0020】
これらのことから、本発明の導電性繊維は、防塵衣などの衣料用途、建造物の壁材、屋内外のカーペットおよび車両内装材等の非衣料用途分野で静電気を逃がす必要のある素材として好適に用いられる。また、本発明の導電性繊維は、高い導電性および環境変化に対する導電性の安定性が必要とされる用途、特に電子写真装置等に用いられる各種繊維ブラシなどに好適に採用できる。
【0021】
また本発明の導電性繊維で、導電剤を含有した芳香族ポリエステル樹脂が繊維表面の少なくとも一部を形成している構成である場合、導電層としての繊維長手方向の導電性の斑が更に小さく、均一性の高い導電特性を示す。より好ましいとする構成として、繊維表面が全て該導電性を有するポリエステル樹脂組成物で覆われてなる場合には、繊維表面全体で導電性の斑が小さく、均一な導電性能を付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の導電性繊維は、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合成分とした芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤を含有してなる樹脂組成物が、少なくとも導電層の一部を形成している。
【0023】
従来の芳香族ポリエステルにCBを高濃度で含有させた場合、CBのストラクチャーが高度に発達してポリマーの伸長粘度が増大し、それに伴い紡糸線上での紡糸張力も高くなるため粘性破断や脆性破壊が生じやすくなり、曳糸性が著しく低下し、紡糸不可能となる場合が多く、繊維長手方向の導電斑が大きい導電性繊維しか得られなかった。それに対し、導電層に本発明の9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合した芳香族ポリエステルを用いることにより、曳糸性が飛躍的に向上し、繊維長手方向における均一性が高く、CBの分散斑が小さくなることを本発明者らは見出したのである。
【0024】
この原因は、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格の一部がフラーレン(C60)構造と近似していることから、CBのグラファイト構造との相互作用により、ポリマーとCBの親和性が高くなったためと推測している。
【0025】
一般に、汎用繊維に用いられている芳香族ポリエステルにCBを20〜30重量%添加すると、CBのストラクチャーが高度に発達してポリマーの伸長粘度が増大し、それに伴い紡糸線上での紡糸張力も高くなるため粘性破断や脆性破壊が生じやすくなる。そのため、糸切れや繊維長手方向に太細が生じて導電特性の均一性が極端に低下する。それに対し、本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物は、CBとの親和性が良いことにより、CB同士の凝集が阻害されCBを高濃度添加しても微分散化し、ポリマーの伸長粘度の増大を抑制することが可能となる。そのため、粘性破断や脆性破壊が起こりにくく、繊維長手方向にほとんど太細が生じず、均一性の高い導電繊維が得られるのである。
【0026】
また、本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成するジカルボン酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。
【0027】
また、本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物には、本発明の趣旨、すなわち高濃度でカーボンブラックを含有した場合の高い曳糸性を損ねない範囲で、他の成分が共重合されていてもよい。例えば、ジカルボン酸化合物としてイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、エイコサン2酸、およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができる。これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物における9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分の共重合量としては、全ジオール成分を100%として、100〜5モル%、好ましくは100〜30モル%、より好ましくは100〜40モル%である。共重合比率がこの範囲であれば、導電剤との親和性が高く、導電剤同士の凝集が阻害され導電剤を高濃度添加しても微分散化が可能となるため、良好な曳糸性を有する。
【0029】
9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分としては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−フェニル]フルオレン等の9,9−ビス(4−ヒドロキシC2−4アルコキシ−フェニル)フルオレン;9,9−ビス[3−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(3−ヒドロキシC2−4アルコキシ−フェニル)フルオレン;9,9−ビス[2−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(2−ヒドロキシC2−4アルコキシ−フェニル)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン等の9,9−ビス(4−ヒドロキシC2−4アルコキシ−C1−4アルキルフェニル)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン等の9,9−ビス(4−ヒドロキシC2−4アルコキシ−ジC1−4アルキルフェニル)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−アリールフェニル]フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−アラルキルフェニル]フルオレン等が挙げられる。特に9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]フルオレンが好ましい。また、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分は、末端基が脂肪族グリコールであるため、反応性が高く、溶融重合法に適している。従って、溶媒を使用せずにポリエステル系樹脂を製造できる。これらは、例えばフルオレンと、フェノキシC2−4アルコールとを反応させることにより製造できる(特開平11−349657号公報参照)。
【0031】
本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分以外のジオール成分として例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物は、固有粘度(IV)が0.50〜2.00であることが好ましい。より好ましくは0.65〜1.75である。この範囲の固有粘度にすることで、良好な曳糸性および繊維物性を得ることができる。
【0033】
本発明に用いられる導電剤としては、例えばカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネス法により得られるファーネスブラック、ケッチェン法により得られるケッチェンブラック、アセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどがある。また、その他の導電剤として、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)、グラファイト、炭素繊維(CF)がある。
【0034】
その中でも、導電性を有するファーネスブラックやアセチレンブラック、CNTを用いることがより好ましい。該導電性カーボンブラックの中でも、カーボンブラックの導電性能の基本的性質である粒子径(比表面積)、ストラクチャー、表面性状(粒子表面の化学的性質)の制御範囲が広いファーネスブラックが特に好ましい。
【0035】
該導電性カーボンブラックの導電性能は、比抵抗値として低いほどよく、5.0×10Ω・cm以下が好ましく、1.0×10−6〜5.0×10Ω・cmがより好ましい。また、本発明の繊維に含有させた場合に、繊維の力学特性を損ねることなく、導電回路としてのストラクチャーを形成させるために、該導電性カーボンブラックの一次粒子の平均粒径を1〜200nmの範囲とすることが好ましく、5〜80nmの範囲がより好ましい。
【0036】
またストラクチャーの大きさの指標であるジブチルフタレート(DBP)吸収量が50〜180cm/100gの範囲のものが好ましく、80〜175cm/100gのものがより好ましい。該DBP吸収量を上記範囲とすることで、曳糸性が良好で高い導電性を得ることができる。また、我々の検討において、比表面積とDBP吸収量の積の平方根を取った値がカーボンブラックの導電性と関係することがわかり、この値を導電指標とした。この導電指標が60〜220の範囲であることが好ましい。該導電指標を上記範囲とすることで、導電層の流動性を維持したまま、より高い導電性を得ることができる。なお、導電指標は以下の式で求めることができる。
導電指標(無次元)=√{(比表面積[m/g])×(DBP吸収量[cm/100g])}
導電剤としてCNTを用いる場合は、チューブの直径が50nm以下で高い導電性を示す。中でもチューブ直径が10nm以下のシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)が特に高い導電性を示すため、極少量の添加で導電パスを形成することが可能である。SWCNTやDWCNTは、特開2005−314204号公報や特開2005−314206号公報、特開2006−111458号公報などによって製造される。
【0037】
ここで、汎用の樹脂組成物、例えばポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ナイロン6やナイロン66では、CNTを僅か2%添加することで曳糸性が低下してしまうが、本発明の芳香族樹脂組成物は、CNTを20wt%添加しても繊維化が可能である。これは、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格とCNTのグラファイト構造の親和性が高いことにより、優れた分散性を呈するためであると考えている。
【0038】
また、本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤を含有させた樹脂組成物が、導電層の一部または全部を形成して導電性繊維となる。該導電性繊維は、繊維表面での導電性を高くするために、該導電層が繊維表面の少なくとも一部を形成することが出来る。繊維表面に導電層を露出させることで、繊維表面で導電パスが形成され、低電圧でも電子の受け渡しが速やかに行われる。また、接触効率をより向上させるために、繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率は、25%以上であることが好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0039】
また本発明の導電性繊維は、繊維表面での導電性を高くし、かつ安定した導電性を確保するために、非導電層を導電層で完全に被覆する構造(導電層の露出長の比率が100%)とすることが最も好ましい。そのためには、本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤を含有させた樹脂組成物からなる導電層(A)を鞘成分とし、導電剤の含有率が0〜10重量%であるポリエステルからなる低導電性の組成物(B)を芯成分とした芯鞘複合構造とすることが好ましい。
【0040】
本発明の導電性繊維の導電性能は、平均抵抗率が10Ω/cm以下であることが必要である。平均抵抗率は小さければ小さいほど導電性が高く、電気を流しやすいため、用途によっては高い導電性(低平均抵抗率)が要求される。本発明においては、最大限含有させることが可能な導電剤の量が50重量%であることから、平均抵抗率の下限としては10Ω/cmである。該平均抵抗率の範囲とすることで、導電性ブラシとしての除電性能あるいは帯電防止が可能となる導電レベルを充分到達することができる。
【0041】
一般的にOA機器用の導電性ブラシに導電性繊維を用いる際には10〜1012Ω/cmの範囲の平均抵抗率であることが好ましいことから、本発明の導電性繊維を導電性ブラシに用いる際には10〜10Ω/cmが好ましい範囲である。装置の特性および導電ブラシの役割に応じて最適な平均抵抗率の導電繊維を用いればよい。
【0042】
平均抵抗率は、導電剤の種類(主として導電特性)、導電剤の濃度、単繊維繊度、繊維横断面における導電層の露出長の比率、導電層の厚さなどで制御することが可能である。導電剤としてCBを用いて上記平均抵抗率を得るための導電層のCB含有量は15重量%〜50重量%が好ましく、20重量%〜35重量%がより好ましい。15重量%以上とすることで、カーボンストラクチャーの形成により導電性能が顕在化し、20重量%以上で急激に導電性能が向上する。また、導電層のCB含有量を50重量%以下とすることで良好な曳糸性が得られる。
【0043】
また、導電剤が、CNTまたはVGCFの場合には、その含有量は0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以上10重量%以上である。なお、CBによる導電性付与にあたっては、CBの連鎖構造であるストラクチャー、特に2次凝集体であるアグロメレート・ストラクチャーによる連鎖構造の形成が肝要である。高い導電性を得るためには、該ストラクチャーを破壊せずにポリマー中に分散させ、長い繋がりを保持しつつ高密度に存在させなくてはならない。この手段として、延伸又は仮撚加工工程において、未延伸糸の自然延伸比近傍で延伸することで、ストラクチャーの破壊を抑制しつつ、繊維長手方向へストラクチャーを引き伸ばすことが可能となる。
【0044】
また、熱処理温度を制御することによってもカーボンストラクチャーを制御することができる。熱処理温度を高くする、もしくは熱処理時間を長くすることにより、導電層におけるポリエステル成分の結晶化を促進させ、結晶部からのCBの排除によりストラクチャーの局在化および高密度化が進み、導電性が向上する。更には、緊張下で熱処理されることにより、繊維中の導電剤が繊維軸方向に再配列(配向)し、導電性が向上すると推測される。熱処理方法は、延伸時のホットロールや熱板、仮撚での1stヒーター及び2ndヒーター、未延伸糸や延伸糸のパッケージを乾燥機にてエージングする方法、ブラシや布帛にしてから熱処理してもよい。
【0045】
また、本発明の導電性繊維は、後述するような様々な用途で安定した導電性が確保されることが必要であり、そのため繊維長手方向10m当たりの抵抗率変動係数CVが、0.1以下であることが好ましく、0.07以下であることがより好ましい。該抵抗率変動係数CVは小さい値をとるほど、繊維長手方向の導電性の斑が小さいことを示す。前述の導電性繊維の平均抵抗率が1.0×10[Ω/cm]未満である場合には、該抵抗率変動係数CVが0.04以下であることが特に好ましい。また、該抵抗率変動係数CVは前述のとおり小さい値をとるほど好ましい。本発明の導電性繊維は、導電剤を多量に添加しても均一に分散するとともに、繊維形成性が飛躍的に向上したために繊維長手方向の線径斑(繊維の太さ斑)が極限的に小さくなっているため、これまででは達成できなかった抵抗率変動係数CVが0.01も達成している。
【0046】
なお、従来の導電性繊維は、長手方向の導電斑のみに着目しており、マルチフィラメントを構成する単繊維1本1本の間の太さ斑に関しては触れられていない。我々の検討において、導電性繊維の糸長手方向の導電斑が小さくなっても画像評価において印刷斑が完全には無くならないことが判明した。さらには、マルチフィラメントを構成する単繊維間での太さ斑が印刷斑の原因であることを突き止めた。該太さ斑と印刷斑との関係について検討した結果、マルチフィラメント横断面内の繊維径の標準偏差を繊維径の平均で除した値(繊維横断面CV)が評価指標として有効であり、この値を0.1以下とすることで印刷斑が低減でき、好ましい。より好ましくは0.08以下で、さらに好ましくは0.05以下である。繊維横断面CVが0.1を超えると単糸間での導電性のバラツキが生じ、画像評価における斑が発生する。
【0047】
本発明の導電性繊維は、温湿度変化、例示として、梅雨の時期のように湿った気候の場合であっても、冬季のように低温で乾燥した気候であっても導電性繊維の性能は変わらないことが好ましい。そこで該導電性繊維における中温中湿度(23℃相対湿度55%)での平均抵抗率X[Ω/cm]と、低温低湿度(10℃相対湿度15%)での平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(Z=Y/X)が、1≦Z≦5の範囲にあることが好ましく、1≦Z≦4の範囲にあることがより好ましく、1≦Z≦2の範囲にあることが特に好ましい。Y/Xは1に近い値をとるほど中温中湿度と低温低湿度との差が小さい、すなわち温度湿度依存性が小さく優れた繊維であるということになる。
【0048】
本発明の導電性繊維は、様々な用途で高い反発性と、繰り返し変形時の弾性回復性が要求される、あるいは後述する電子写真装置に組み込まれるブラシローラー用に用いて、繊維の反発力で着色剤を掻き落とす際に、掻き落とし性が良好であるという点で、初期引張弾性率が10cN/dtex以上であることが好ましく、15cN/dtex以上であることが特に好ましい。そして高いほど好ましいものの、分子構造的な点から高々300cN/dtex以下のものが好適に製造される。
【0049】
本発明の導電性繊維は、衣料用途や後述するブラシやブラシローラー用など様々な用途で形状あるいは特性を安定して満足するために、破断強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましく、1.3cN/dtex以上であることがより好ましく、2.0cN/dtex以上であることがさらに好ましい。
【0050】
通常、導電性の高い繊維を作製するべくCBを高濃度(例えば25重量%以上)で含有せしめた導電性繊維は、破断強度が低く(1.0cN/dtex未満)破断強度を高めることは困難であった。しかし本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物を用いることにより、CBが高濃度で含有されていても、破断強度の高い繊維が得られることを見出したのである。なお、破断強度は高いほど好ましいものの、本発明による限界強度は高々7cN/dtexである。
【0051】
本発明の導電性繊維は、沸騰水収縮率が0〜10%であることが好ましい。導電性ブラシとして用いる際、ブラシ加工過程や使用時の環境によっては高温にさらされる場合があり、加工前・後での寸法変化を極力小さくする必要がある。また、導電糸に寸法変化があると、繊維内部の導電剤も変化して導電性能が変わる。温度環境の変化に対して優れた安定性を有する導電糸を提供するために、沸騰水収縮率は5%以下であることがより好ましい。収縮率を小さくするための手段としては、延伸や仮撚時の熱処理温度や延伸倍率、リラックス率等、従来の手法が適用できる。
【0052】
また、本発明では鞘部が導電層であり、芯部が低導電性の繊維形成性ポリエステルである組成物(B)から成る芯鞘複合構造の繊維とすることが好ましい。導電層を鞘部とした芯鞘複合構造とすることで、繊維表面全体に導電層が露出するため糸長手方向の導電斑が抑えられ、例えば導電性ブラシとして用いた際に印刷斑を抑制することが可能になる。
【0053】
また、本発明の導電性繊維において、上記芯鞘複合構造の場合の芯部には、該導電層以外の低導電層が配置されてなる場合、低導電層は主たる成分として繊維形成性ポリエステルからなる。なお、ここでいう「導電層」及び「低導電層」とは、別々に用意した「導電成分」(カーボンブラック含有ポリマー)と「低導電成分」(カーボンブラック非含有ポリマー。1成分に限定されず、2成分以上であってもよい)から構成される複合繊維において、複合界面を境界として、導電成分からなる部分を「導電層」、低導電成分からなる部分を「低導電層」と呼ぶ。
【0054】
ここで繊維形成性ポリエステルとは、例えばジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができ、これらにかかるポリマーとしては、その主たる繰り返し構造単位がエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、プロピレンナフタレート、テトラメチレンナフタレートあるいはシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、であるポリエステル、あるいは芳香族ヒドロキシカルボン酸を主成分とする溶融液晶性を有する液晶ポリエステル、などが挙げられる。
【0055】
そして、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステル系ポリマーには、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の成分が共重合されていてもよく、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
また、ポリエステル系ポリマーの共重合成分としては、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
芯鞘複合繊維の鞘部を形成する導電層の平均厚さは0.7μm以上であることが好ましい。導電層が0.7μm以上の厚さを有することで、高い導電性能を得ることが可能になる。さらに該導電層が厚いほど、厚さ変化による平均抵抗率変化が小さくなる傾向があり、安定した導電性能を有する導電性繊維を提供することができる。したがって、該導電層の平均厚さは、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。なお、該導電層の平均厚さの上限値は特に規定されないが、導電性能は導電層の平均厚さが15μmでほぼ頭打ちするため、それ以上厚くする必要は特にない。
【0058】
芯鞘複合繊維の非導電層である芯部は、繊維横断面積の5〜85%を占有することが好ましい。該芯部は繊維の力学特性を高くするための補完的役割を担う。導電性繊維を用いて2次製品を製造する際の加工性を容易にし、生産性を高めるとともに、製品の耐久性を向上させるため、芯部の比率は少なくとも5%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。また、非導電層に剛直性の高いポリエチレンテレフタレートを用い、導電層と非導電層との比率を変えることで繊維の剛性を制御することも可能になる。一方、導電層である鞘部の比率は繊維の導電性能を担い、高い導電性を付与するために、鞘部の比率は少なくとも10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。
【0059】
本発明の導電性繊維は、長繊維(フィラメント)からなるマルチフィラメントであっても、短繊維(ステープル)からなる紡績糸であってもよい。短繊維の場合は用途に応じて所望の長さにすればよいが、紡績工程あるいは電気植毛加工などに用いる場合には、長さ0.05〜150mmであることが好ましく、0.1〜120mmであることがより好ましい。
【0060】
また、本発明の繊維の太さ、すなわち、単繊維直径に関しては、後述するような様々な用途に採用が可能であるという点で単繊維直径は50μm以下であることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましい。特にOA機器用の導電性ブラシに用いられる場合には、清掃性能、あるいは帯電性能が優れるという点で繊維直径は5〜25μmであることが特に好ましい。衣服の裏地や防塵衣など、あるいはその他各種衣類に用いられる場合では、5〜30μmであることが好ましい。また衣料用途以外の、車両内装材、建造物の壁材などの内装材、カーペットや床材など敷物などの非衣料用途に用いられる場合には、10〜50μmであることが好ましい。
【0061】
OA機器用の導電性ブラシのみならず、多様な用途、例えば除電シートや糸状発熱体(布帛含む)、帯電防止素材としてストッキング、タイツ、防塵衣などの衣料、または屋内外、車両内に敷くカーペットやマット、床材などの様々な製品において展開可能であり、所望の導電性が付与できる。
【0062】
また、本発明の導電性繊維からなる短繊維を、植毛体として繊維ブラシに用いることも好ましい用途例である。特に、棒状やプレート状の導電体に直接植設された繊維ブラシ構造体であることが好ましい。ここで用いる短繊維は、棒やプレート等の被植毛体に植設される際に、気体により短繊維を吹き付けてもよく、あるいは電気植毛加工を行ってもよいが、被植毛体の表面に概ね直立したものが効率よく得られることから、電気植毛加工により得ることが好ましい。このとき短繊維は、その50%以上が棒状物体の表面において10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に接着される。また本発明の導電性繊維からなる短繊維を少なくとも一部に用い、棒状物体に植設してなる前記導電性繊維ブラシローラーの繊維ブラシローラー自体の比抵抗値は10〜1011Ω・cmであることが好ましい。
【0063】
繊維ブラシ構造体の芯となる被植毛体の主たる材質は、用いられる用途あるいは目的に応じて適切なものを採用すればよく、金属、合成樹脂、天然樹脂、木材、鉱物などから単独で、もしくは複数種を組み合わせて選ばれるが、後述する電子写真装置に組み込む部材として用いる場合には、主として鉄や銅、SUS、その他導電性を有する金属材料からなることが好ましい。さらに該被植毛が金属である場合には、該金属の少なくとも一部もしくは必要とする部分の全面を中間層が覆い、その上に前記織物および/または編物および/または不織布が接着されるか、あるいは短繊維が接着して植設されることが好ましい。
【0064】
この中間層として用いられる素材は、主としてクッション性を被植毛体に付与する、あるいはブラシ状の繊維の弾性・剛性のみでは達成し得ない場合に補助的に弾性・剛性を担うものであり、後述される例えば清掃装置におけるトナー除去性能を向上せしめる。
【0065】
本発明の導電性繊維を少なくとも一部に用いてなる前述の織物、編物あるいは不織布は、基盤と接合して布帛複合体とすることができる。この場合、織物であればパイル織りあるいは処理により織物表面に起毛や糸端があるもの、また編物であればパイル状の繊維起毛があるもの、もしくは起毛処理してパイルあるいは糸端が編物表面にあるものが後述する導電性繊維ブラシローラーにおいて、より機能が高められるためあり好ましい。
【0066】
また、接着される基盤としては、該布帛複合体を組み込む装置や用いる接着剤に応じて適宜採用すればよいが、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物あるいは金属からなるフィルム、シート、紙、板、あるいは他の布帛などが好適に採用でき、あるいは各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に直接接着してもよい。ここで、特に前記接着剤との親和性を高めるために、親水化処理してなる合成もしくは天然樹脂、あるいは金属からなるシートが好ましい。そして該基盤が前記フィルム、シート、紙、板、布帛など表裏を形成している素材であれば、用途あるいは目的に応じてその表面および裏面に前述の織物、編物あるいは不織布を接着して布帛複合体とすることができる。該布帛複合体は、その使用方法あるいは用途として、別の基盤に貼り付けて用いてもよいし、あるいは例えば次に示す導電性を有するため導電性繊維ブラシとして用いることができる。
【0067】
本発明の導電性繊維からなる前記織物および/または編物および/または不織布は、少なくとも一部に用いられるかあるいは全部に用いて、導電性繊維ブラシを形成できる。特に形態が安定している点で織物を用いることが好ましい。ここで用いられる織物および/または編物および/または不織布は、被植毛体に接合して導電性繊維ブラシローラーを形成する際に、被植毛体の機能として必要とされる長さ(すなわち巻き幅)分だけカットしたものを一周で巻き付け接合してもよく、あるいは被植毛体の長さの数分の一〜数十分の一の長さの幅にスリット状にカットしたものを被植毛体にスパイラル状に巻き付けて接合してもよい。接合する際にはあらかじめ凹凸を被植毛体に付けるなどして嵌合してもよいが、確実に接合するという点では接着剤を用いて接着することが好適である。
【0068】
ここで用いられる接着剤は、用途あるいは目的に応じて、アクリル系、エステル系あるいはウレタン系など種々のものを採用でき、また必要に応じてカーボンブラックや金属などの導電性制御剤あるいは鉄、ニッケル、コバルト、モリブデンなどの金属あるいはこれら金属の酸化物あるいはこれらの混合物などの磁性制御剤などが添加されていてもよい。さらに織物および/または編物および/または不織布は接着される以前の段階で接着面に10〜1010Ω・cmの比抵抗値を有する導電処理剤もしくは導電性シートあるいは導電性膜などの素材を張り合わせてもよい。
【0069】
本発明の導電性繊維は、例えば、織物、編み物、不織布といった布帛とするほか、それらを用いた繊維ブラシ、衣料、敷物や、短繊維を用いた植毛体、あるいは電気を流すことが可能な配線物、などにおいて、少なくとも一部に用いてなる導電性繊維製品となすことができる。
【0070】
本発明の導電性繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシ製品、あるいはブラシローラーは、用いている本発明の導電性繊維の導電性に由来して、例えば電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材として好適に用いられる。
【0071】
ここで該清掃装置に用いられるブラシ製品、あるいはブラシローラーの導電性繊維の平均抵抗率は、1.0×10[Ω/cm]以上1.0×10[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に、かつ清掃装置の機構に応じて用いられる。清掃装置の中で該ブラシローラーは回転しながら、必要であれば電気を印可されながら、不要物(例えば電子写真装置の中であれば転写されなかった残存着色剤など)を捕捉して除去するのであるが、本発明の導電性繊維を用いた場合には前述のとおり、温度および湿度変化がある場合にも安定した導電性能を有する繊維であることから、この除去性能が格段に優れる。
【0072】
また、その他の使用方法としては前述のとおり、感光体にブラシローラーが直接接触して清掃する以外に、感光体を清掃する部材(前記のとおり、ブラシローラーの場合もあれば、あるいは従来技術であればブレード状の部材)を清掃するためのブラシローラーとして、すなわち清掃装置自体を清掃するもの、もしくは回収した不要トナーを別の場所に移送するためのブラシローラーとしても用いられる。また本発明の清掃装置にはブラシローラーを目的、効果、清掃の機構に応じて1本用いてもあるいは2本以上の複数本用いてもよい。
【0073】
本発明の導電性繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維ブラシ構造体は、本発明の導電性繊維の導電性に由来して、後述する電子写真装置の帯電装置に好適に組み込まれ使用される。該帯電装置に組み込まれる繊維ブラシ構造体の導電性繊維の平均抵抗率は、1.0×10[Ω/cm]以上1.0×10[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に用いられる。
【0074】
該繊維ブラシ構造体を用いてなる帯電装置の性能は、ブラシの導電性能、すなわち導電性繊維の性能に依存するが、本来の目的である感光体を均一に帯電できることはもとより電子写真装置内の環境変化、すなわち電子写真装置が稼働中徐々に変化する温度や湿度の変化、あるいは季節による温度、湿度変化に対してブラシの導電性は全く変化しないことが求められる。それに対して本発明の導電性繊維は、前述の環境変化に対して導電性は全く変化することがないため、感光体の帯電斑が起こりにくく、優れた帯電装置となる。加えて、該電子写真装置の感光体表面に、清掃が不十分なために残存したトナーがあった場合にも、該ブラシは清掃機能を兼ねることができるため、印刷時の汚染がない、もしくは殆どないという点でも優れている。
【0075】
さらには、電子写真装置を小型化する場合には、前記清掃装置および帯電装置を個別に設置することなく、清掃装置兼帯電装置として省スペース化を図ることも可能であるため、その点でも格段に優れている。また、該帯電装置中には、目的、機構に応じて前記繊維ブラシ構造体を1本あるいは2本以上の複数本用いてもよい。
【0076】
本発明の導電性繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維ブラシ構造体は、用いている本発明の導電性繊維の導電性に由来して、後述する電子写真装置に用いられうる除電装置に好適に組み込まれて用いられる。該除電装置に組み込まれる繊維ブラシ構造体に使用している導電性繊維の平均抵抗率は、1.0×10[Ω/cm]以上1.0×10[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に用いられる。
【0077】
特に後述する電子写真装置に用いる際には、繊維ブラシ構造体の導電性繊維が安定かつ斑のない除電効果を発現し、通常、除電装置のあとに配設される前記清掃装置での清掃効果をより高めることが可能であるほか、該電子写真装置を小型化する場合には該繊維ブラシ構造体を用いることで除電装置兼清掃装置として組み込むことができ格段に優れている。
【0078】
前記清掃装置および/または帯電装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置、具体的にはレーザービームモノクロプリンター、レーザービームカラープリンター、発光ダイオードを用いたモノクロあるいはカラープリンターモノクロ複写機、カラー複写機、モノクロまたはカラーファクシミリあるいは多機能型複合機、ワードプロセッサーなどを挙げることができるが、帯電した感光体にレーザーおよび/または発光ダイオードで潜像を描きトナーを用いて顕像化するメカニズムにより印刷を行う装置は、前述のとおり、本発明の導電性繊維を用いていることから、電子写真装置内の環境変化、特に温度や湿度変化によらず安定した清掃・帯電・除電性能を有し、得られた印刷物はモノクロの場合はもとより、複数種のトナーをかつ多量に用いるカラーの場合は特に美しいものとなるし、さらには電子写真装置の駆動速度をより高める、すなわち、単位時間あたりの印刷速度(枚数)を高めることが可能となる。また本発明の導電性繊維を用いてなる電子写真装置は、前述のとおり、さらなる小型化、省スペース化、省電力化を図ることができ、好ましい。
【0079】
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに制限されるものではない。なお実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
【実施例】
【0080】
A.繊度[dtex]および単繊維繊度[dtex]の測定
マルチフィラメントを長さ100mカセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量(g)を測定して得た値の100倍とし、同様に測定して得た3回の値の平均値を繊度とした。単繊維繊度は、前述の繊度をマルチフィラメントを構成する単繊維の本数で割った値を単繊維繊度[dtex]とした。
【0081】
紡績糸の単糸繊度は、JISL1015:1999(化学繊維ステープル試験方法)8.5.1の正量繊度(B法)に示される条件で測定した。
【0082】
B.繊維の残留伸度、破断強度、初期引張弾性率の測定
試料をオリエンテック(株)社製TENSILON UCT−100でJIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5.1に示される定速伸長形でつかみ間隔20cmの条件で測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。また、初期引張弾性率は8.10に示されるとおりに測定した。
【0083】
C.平均抵抗率[Ω/cm]および抵抗率変動係数CVの測定
中温中湿度(23℃相対湿度55%)で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。送糸ローラーと巻取ローラーからなる1対の鏡面ローラーで糸を走行させる際に、ローラー間に、東亜DKK(株)製絶縁抵抗計SM−8220に接続された2本の棒端子からなるプローブに走行糸が接するように設置した装置で、棒の太さφ2mm、棒端子間で接する糸の距離2.0cm、印可電圧100V、送糸速度1m/分、ローラー間の糸張力0.5cN/dtex、絶縁抵抗系でのサンプリングレート1秒で10mの長さ分、抵抗値を測定して、得られた抵抗値の平均[Ω]を棒端子間で接する糸の距離(2.0cm)で割った値を平均抵抗率P[Ω/cm]とした。また同時に得られた全ての抵抗値の標準偏差Qを算出したのち、PとQとの比から平均抵抗率変動係数CV(CV=Q/P)を算出した。
【0084】
D.中温中湿度(23℃相対湿度55%)と低温低湿度(10℃相対湿度15%)との平均抵抗率の比(温湿度変化Z)
中温中湿度についてはC.項の測定方法を採用し、また低温低湿度においてもC.項と同様に測定して平均抵抗率を求め、それぞれ得た平均抵抗率X,Yの比Z(Z=Y/X)を求めた。
【0085】
E.比抵抗値の測定方法
測定は前記中温中湿度で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。測定物が長さ100mm以上の繊維状のものである場合には、繊維束を1000dtexの束にして50mmの長さに切断し(この時、繊維端面は斜めにカットする)、端面に導電性ペーストを塗布してから電極を取り付けて500Vで測定した。また測定物が長さ100mm未満の繊維状物あるいは粉体状のものである場合は、長さ10cm、幅2cm、深さ1cmの、両端面に電極を有する絶縁体の箱形容器に、10MPaの圧力で充填して密封したのち500Vで測定して、単位体積当たりの比抵抗値[Ω・cm]に換算して求めた。ガット状のものについては、1回の測定において、直径D(0.2〜0.3cmの範囲の直径のもの)で長さ12cmのガットについて、テスターを用いてテスターの2本の端子を任意の10cmの間隔でガットに押しつけ、その抵抗値R[Ω]を測定し、(比抵抗値)=R×(D/2)×π/10の式から該ガットの比抵抗値を求めた。そして5本の異なるガットについて各々1回ずつ比抵抗値を測定し、5回の平均値をそのガットの比抵抗値とした。
【0086】
F.溶融粘度の測定
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、キャピラリー長10mm,キャピラリー内径1mmで、剪断速度12.16[1/秒]で測定した。測定温度は各々のポリマーの溶融紡糸温度(特に断り書きのない限り、PET系ポリエステルであれば290℃、PBT系ポリエステルであれば260℃)で測定した。そして5回測定した値の平均値を溶融粘度の測定値とした。なお測定時間については、試料の劣化を防ぐため5回の測定を30分以内で完了した。溶融粘度差については前述の剪断速度を1216[1/秒]として測定した。
【0087】
G.沸騰水収縮率
検尺機を用いて初荷重:(0.088×繊度(dtex))cNで、カセ長50cm、巻き数10回のカセを作り、規定の荷重を掛けた状態で試料長L1を測る。これを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中15分間処理し、1昼夜風乾した後、束の長さL2を測定して下式により沸騰水収縮率を算出した。なお、荷重は下式により求めたものを使用した。
沸騰水収縮率(%)=((L1−L2)/L1)×100
荷重(cN)=(繊度(dtex)/1.111)×0.1×0.9807×巻取回数×2
H.ガラス転移点(Tg)および融点(Tm)の測定
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−7)を用いて試料10mgで、昇温速度16℃/分で測定した。Tm、Tgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、約(Tm+20)℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。
【0088】
I.導電性カーボンブラックの平均粒径の確認
繊維または樹脂をエポキシ樹脂中に包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施し、ウルトラミクロトームにて切削して60nm〜100nmの厚さの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所製 H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率2万〜10万倍の任意の倍率で観察を行い、得られた写真を白黒にデジタル化した。該写真をコンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン5.0)において黒で見える導電性カーボンブラックを画像解析することによって平均粒径について確認した。平均粒径については写真上に存在する全ての導電性カーボンブラックの面積をそれぞれ計算し、該面積値から略円形と判断して計算した導電性カーボンブラックの直径の平均値によって算出した。
【0089】
J.固有粘度(IV)
オルソクロロフェノール(以下OCP)10ml中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下記式により求め、IVを算出した。25℃で測定した(固有粘度(IV))。
ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)
IV=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマーの溶液の粘度、η0:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、d:溶液の密度(g/cm)、t0:OCPの落下時間(秒)、d0:OCPの密度(g/cm
K.工程通過性
汚れと削れは工程内にあるセラミックスガイドを目視で観察し、以下に示す基準で3段階評価した。また、毛羽に関しては工程通過後の糸条を目視で観察し、以下に示す基準で3段階評価した。
(1)汚れ ○:無し、△:少々有り、×:汚れ多
(2)削れ ○:無し、△:少々有り、×:削れカス多
(3)毛羽 ○:無し、△:少々有り、×:断糸。
【0090】
L.曳糸性
総巻取量40kgにおいての曳糸性を、以下に示す基準で3段階評価した。
○:1回以下、△:2〜4回、×:5回以上
M.画像評価方法
導電性繊維を後述する実施例1に示すとおりにブラシ加工し、清掃装置に組み込んで配設したモノクロレーザープリンターにて、長時間連続印刷を行った。2万枚印刷後の画像評価を以下に示す基準で3段階評価した。
○:鮮明で均一な画像、△:少々異常放電跡有り、×:画像が不鮮明、スジ斑多。
【0091】
N.単繊維直径の測定
FEI Company社製 走査型電子顕微鏡(SEM) STRATA DB235を用いて、加速電圧2kVで、白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、繊維外径が全て視野に入る倍率(単繊維直径が25μm〜50μmであれば5千倍、15μm〜25μmであれば1万倍、5μm〜15μmであれば2万倍)で確認した。なおこの際、単繊維直径は少なくとも該測定を同一繊維において3cm以上の間隔をおいた任意の5点について観察、測定して得た平均値を単繊維直径とする。
【0092】
O.導電層の平均厚さ、芯鞘複合比率、繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率
繊維をエポキシ樹脂中に包埋したブロックを作製し、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくる。これを光学顕微鏡200倍で透過光にて観察・撮影し、得られた繊維横断面写真を、前述の三谷商事株式会社製WinROOFにて画像解析することで、導電層の厚さを求めた。なお、導電層の平均厚さは任意の5点について計測し、その平均値を求めた。また、芯鞘複合比率は導電層と非導電層の面積から比率を算出した。繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率は、繊維横断面における周長と導電層の露出長を計測して比率を算出した。なお、導電層の露出長の比率は、任意の5つの繊維横断面について計測し、その平均値を求めた。
【0093】
P.CB含有PFT中における導電性カーボンブラックの含有量
前述O.項で求めたCB含有PFTの割合から、CB含有PBT中における導電剤の含有量を算出した。溶媒に溶けないもしくは溶けにくい場合は、1Nの水酸化ナトリウム水溶液30℃で24時間撹拌して、遠心分離したのち、導電剤の量を秤量して求めた。
【0094】
Q.CBのDBP吸収量の測定
JIS K6217−4:2001の「DBP吸収量の求め方」に準じ、アブソープトメータを用いて測定した。
【0095】
R.CBの比表面積の測定
JIS K6217−2:2001の「比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」に準じて、自動比表面積測定装置を用いて測定した。
【0096】
S.繊維横断面CV
繊維横断面CVを算出する繊維のフィラメント24本をエポキシ樹脂中に包埋したブロックを、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくり、光学顕微鏡200倍で透過光で観察・撮影したのち、得られた繊維横断面写真について、前述三谷商事株式会社製WinROOFにおいて円相当径を画像解析することによって求めて、平均値、標準偏差を求め、以下の計算式にて繊維横断面CVを算出した。
(繊度断面CV)=(標準偏差)/(平均値)
合成例1
テレフタル酸(TPA)1.2mol%、エチレングリコール(EG)0.3mol%、9,9−ビス{4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル}フルオレン(BPEF)0.7mol%を原料とし通常の溶融重合で9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有する芳香族ポリエステル樹脂組成物(PFT)を得る。
【0097】
実施例1
固有粘度(IV)0.68、溶融粘度1600(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))、ガラス転移点(Tg)145℃の9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を70mol%共重合した芳香族ポリエステル樹脂組成物(以下PFT)を100℃、10時間真空乾燥した後、窒素雰囲気下で粉粒体とし、導電性カーボンブラックとしてキャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク社製ファーネスブラック(タイプVULCAN XC72、比抵抗0.45(Ω・cm)、平均粒径31nm、比表面積254m/g、DBP吸収量174cm/100g、以下「FCB1」と記載)を窒素雰囲気下で粉体同士を混合した。続いて東芝機械(株)製2軸エクストルーダTEM35B(軸径D:37mm、L/D:38.9)にて軸回転数:300rpm、混練温度:250℃、吐出量:15kg/hr、ベント:約2Torrにて溶融混練した。
【0098】
ここで、FCB1の濃度は混練終了後に得られるPFT/FCB1混練物に対して30重量%となるように調製した。混練した後、吐出されたガット状の樹脂組成物を15℃の水道水で冷却したのちカッターで切断して導電層用のペレット(以下、「PFT−CB」と記載)を得た。該ペレットの溶融粘度を測定したところ、1900(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))であった。
【0099】
上記PFT−CBを鞘成分とし、イソフタル酸を7モル%、2,2ビス(4−2(ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパンを4モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(融点228℃)を芯成分として、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機を用いて、それぞれ別々に溶融し、紡糸温度260℃で芯鞘複合紡糸用口金(吐出孔直径0.5mm/孔深度1.0mm)を用い、芯鞘複合比(芯/鞘:面積%)80/20となるように吐出した。吐出後の糸条は冷却チムニーによって0.5m/sの冷却風で冷却・固化され、口金下2mの位置で給油装置にて集束させながら油剤を付与し、交絡ノズルにて流体として圧縮空気を用い作動圧0.1MPaで予備交絡を施し、周速度1500m/分の第1ゴデットロール(GD)、および第2GDにて引き取り、285dtex、48フィラメントの芯鞘複合構造の未延伸糸を2kg巻いたチーズパッケージとした。なお、巻取機の周速度は1482m/分とした。
【0100】
また、油剤としては平滑剤として重量平均分子量2000のポリエーテルを70重量%、重量平均分子量6000のポリエーテルを8重量%、エーテルエステルを12重量%、ポリエーテル変性シリコーンを2重量%、オレイルザルコシン酸を3重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を5重量%調整し、さらにこの油剤を濃度15重量%になるように水系エマルジョンとして調整し、純油分として繊維に約1.5重量%付着させた。紡糸性は良好であり、未延伸糸40kgのサンプリングで糸切れは発生しなかった。得られた未延伸糸の断面は図1に示すとおりであった。
【0101】
そして得られたマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度341m/分、第1ローラーは80℃で送糸速度341m/分、第2ローラーは140℃で送糸速度800m/分、第3ローラーは室温で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、熱処理を施し、リラックス状態下で交絡ノズルにて流体として圧縮空気を用い作動圧0.3MPaで本交絡を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下に冷却した後に巻き取った。延伸中に断糸やローラーへの単糸巻き付きの問題は発生せず、巻き上がったボビン表面上の毛羽も無く、延伸性は優れていた。糸物性について表1に示す。
【0102】
また、得られた延伸糸の強度は3.6cN/dtexであり、残留伸度41%、初期引張抵抗度56cN/dtex、沸騰水収縮率4.1%、平均抵抗率104.6Ω/cm、平均抵抗率変動係数CV0.02、繊維横断面CV0.03、導電層の露出長比率100%、導電層の平均厚さは0.8μmであった。
【0103】
得られた延伸糸を用いて、織り密度140,000本/(2.54×2.54)cm[平方インチ]、パイル長さ6mmのパイル織物を作製して、パイルを起毛させて、更に1cm幅のスリット状にしたものをSUS304からなる金属棒状物体に巻き付けて、ブラシローラーを得た。得られたブラシローラーを清掃装置に組み込んで配設したモノクロレーザープリンターにて、長時間連続印刷(1分間あたり10枚印刷・排出)を行い、プリンター中の湿度変化と共に印刷性を確認したところ、印刷開始1000枚程度でプリンター中の相対湿度は初期の65%から33%まで低下し、さらに10000枚程度印刷した時点では27%まで低下したものの、印刷枚数が20000枚を越えた時点であっても印刷の鮮明性、トナー清掃性などは優れていた。
【0104】
また、ブラシローラー製作時の工程通過性は良好で、セラミックスガイド等での汚れ、削れは無く、毛羽の発生、断糸ない製品の品位も良好であった。
【0105】
繊維特性、評価結果等を表1に示す。
【0106】
実施例2〜5
実施例1において、表1のとおり導電性カーボンブラックの含有量(実施例2〜5)、を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0107】
導電性カーボンブラックの含有量が50重量%では紡糸時の糸切れが増えたが、問題のない範囲であり、10重量%、16重量%では画像評価で少々の極微細な斑が認められたが問題のない範囲であった。
【0108】
実施例6〜10
実施例1において、表1のとおり導電性カーボンブラックの種類を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。実施例6のカーボンブラックは電気化学工業株式会社製デンカブラック(粒状)(以下「ACB1」と記載)、実施例7では、電気化学工業株式会社製デンカブラック特殊プレス品HS−100(以下「ACB2」と記載)、実施例8では、電気化学工業株式会社製デンカブラック特殊プレス品HS−200(以下「ACB3」と記載)、実施例9では、デグサ社製「“Printex” L SQ」(以下「FCB2」と記載)、実施例10では、コロンビヤンカーボン社製ファーネスブラックRaven1190Ultra(以下「FCB3」と記載)とした。
【0109】
導電性カーボンブラックの種類をACB1、ACB2、ACB3、FCB2、FCB3いずれに変更しても平均抵抗率や平均抵抗率変動係数、繊維横断面CVも優れた値を示し、工程通過性も良好で画像評価においても何ら問題がなかった。
【0110】
実施例11〜13
実施例1において、表1のとおりに鞘成分の固有粘度(実施例11:IV0.50のPFT、実施例12:固有粘度1.75のPFT、実施例13:固有粘度0.40のPFT)とし、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0111】
鞘成分のPBT固有粘度が実施例11〜13のポリマーを使用するにあたって、高い導電性を示し、繊維長手方向で安定した平均抵抗率を示し、且つ繊維横断面CVが0.1以下であり太細の少ない繊維となった。
【0112】
実施例14
実施例1で用いたPFT−CBを芯成分ポリマーとし、鞘成分ポリマーとしてCB非含有PBTとした以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。導電性を担っているPFT−CBを芯成分としたことにより、画像評価で少々の極微細な斑が認められたが問題のない範囲であった。
【0113】
【表1】

【0114】
実施例15〜17
実施例1において、表2のとおりにPFTの共重合量を(実施例15:30mol%、実施例8:50mol%、実施例9:90mol%)とし、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0115】
共重合量を変更しても高い導電性を示し、繊維長手方向で安定した平均抵抗率を示し、且つ繊維横断面CVが0.1以下であり太細の少ない繊維となっており、何ら問題となるものではなかった。
【0116】
実施例18〜21
実施例1において、表2のとおりに導電性成分の比率を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0117】
導電性成分比率が10、50、65体積%では何ら問題がなかった。5体積%では、画像評価で少々の極微細な斑が認められたが問題のない範囲であった。
【0118】
比較例1
実施例1において、表2のとおりに鞘成分ポリマー種(IV0.67のPET)とした以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0119】
紡糸時の糸切れが多く製糸困難であった。
【0120】
実施例22
繊維横断面における導電層の露出長比率を25%として、部分露出型用複合口金を用いて実施例1と同様な繊度となるように吐出量を調整し、それ以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。得られた繊維の横断面は図1(b)に示すとおりであった。
【0121】
実施例23
繊維横断面における導電層の露出長比率を55%として、部分露出型用複合口金を用いて実施例1と同様な繊度となるように吐出量を調整し、それ以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。得られた繊維の横断面は図1(c)に示すとおりであった。
【0122】
実施例24
実施例1において、芯成分を用いずに鞘成分のみとし、単成分用口金を用いて実施例1と同様な繊度となるように吐出量を調整し、それ以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。得られた繊維の横断面は図1(d)に示すとおりであった。実施例1よりは繊維横断面CVが少し大きくなり、画像評価において多少スジや斑が見られたが、何ら問題となるものではなかった。
【0123】
実施例25
実施例1において、表2のとおり、導電成分のPFT−CBに用いる導電剤として、繊維径がφ5nmのDWCNTを80wt%以上含んでいるCNTを用いた以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0124】
実施例26
実施例1において、表2のとおり、導電成分のPFT−CBに用いる導電剤として、昭和電工社製「VGCF−S」をVGCFとして用いた以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0125】
実施例25、26は、導電剤を変更することで高い導電性を示し、繊維長手方向で安定した平均抵抗率を示し、且つ繊維横断面CVが0.1以下であり太細の少ない繊維となっており、何ら問題となるものではなかった。
【0126】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の導電性ポリエステル繊維の好ましい繊維横断面図である。
【図2】本発明の他の繊維横断面図である。
【符号の説明】
【0128】
1:導電性成分
2:非導電性成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合成分とした芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤を含有してなる樹脂組成物が、少なくとも導電層の一部を形成して成ることを特徴とする導電性繊維。
【請求項2】
導電剤がカーボンブラックであり、かつ式1に示す導電指標が60〜220、ジブチルフタレート吸収量が50〜180[cm/100g]であるカーボンブラックであることを特徴とする請求項1に記載の導電性繊維。
式1 導電指標(無次元)=√{(比表面積[m/g])×(ジブチルフタレート吸収量[cm/100g])}
【請求項3】
導電剤がカーボンナノチューブまたは気相成長炭素繊維(VGCF)であることを特徴とする請求項1に記載の導電性繊維。
【請求項4】
9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合成分とした芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤としてカーボンブラックが15〜50重量%含有してなる導電性樹脂組成物(A)を鞘成分とし、導電剤の含有率が0〜10重量%であるポリエステルからなる低導電性の組成物(B)を芯成分とした芯鞘複合構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性繊維。
【請求項5】
9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合成分とした芳香族ポリエステル樹脂組成物に導電剤としてカーボンナノチューブまたは気相成長炭素繊維(VGCF)が0.1〜20重量%含有してなる導電性樹脂組成物(A)を鞘成分とし、導電剤の含有率が0〜10重量%であるポリエステルからなる低導電性の組成物(B)を芯成分とした芯鞘複合構造であることを特徴とする請求項3に記載の導電性繊維。
【請求項6】
平均抵抗率が1.0×108.0[Ω/cm]以下で、繊維長手方向10mあたりの抵抗率変動係数CVが0.1以下、マルチフィラメント横断面中の単糸の繊維横断面CVが0.1以下であるであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−37664(P2010−37664A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198046(P2008−198046)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】