説明

導電性被覆共役ポリマー及びその製造方法

【課題】
電荷移動度の大きな導電性被覆共役ポリマーを提供する。
【解決手段】
本発明の導電性被覆共役ポリマーは、複数の有機環状化合物で被覆されたπ共役構造を有する導電性被覆共役ポリマーであって、前記π共役構造がフェニレンエチニレンユニットである導電性被覆共役ポリマーである。そして、本発明の導電性被覆共役ポリマーは、従来より知られている導電性ポリロタキサンに比べ大きな電荷移動度による優れた導電性を有しており、分子素子を構成する有機半導体への適用が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の有機環状化合物で被覆されたπ共役構造を有する導電性被覆共役ポリマーに関する。更には、複数の有機環状化合物で被覆されたπ共役構造を有する導電性被覆共役ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の有機環状化合物で被覆されたπ共役構造を有する導電性被覆共役ポリマーのひとつとして、特許文献1に示される有機重合体が知られているが、特許文献1には、導電性を示すデータは、全く示されていない。
特許文献1の代表的な導電性被覆共役ポリマーの導電性を示すデータは、非特許文献1として、特許文献1の発明者を含む著者により論文発表がなされており、そこには、導電性を示すデータとして、電荷移動度が0.5cm2/Vsであることが示されているが、このポリマーは、鎖状構造が直鎖構造をとっているため、分子素子を構成する有機半導体として使用するには十分な導電性が得られていない。
また、非特許文献2には、ポリピロールが鎖状構造をとるポリマーの導電性を示すデータとして、電荷移動度が0.9cm2/Vsであることが示されている。
しかし、これらの先行技術に示されている導電性では、分子素子を構成する有機半導体として使用するには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008/069274号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Terao, J. et al. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 18046
【非特許文献2】Sugiyasu, K. et al. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 14754
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情に鑑み、より電荷移動度の大きな導電性被覆共役ポリマーを提供することを目的とする。すなわち、従来の導電性ポリマーよりは、ワンオーダー高い電荷移動度を有する導電性被覆共役ポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために検討を行った結果、従来、イオン性官能基を有さないフェニレンエチニレンユニットが直鎖状でπ共役構造とることが、電荷移動度を高めると考えられていたのに対して、鎖状構造にメタ結合を導入することにより、これまでになかった電荷移動度を有する導電性被覆共役ポリマーを見出し、以下に示す発明を完成するに至った。
【0007】
〔1〕複数の有機環状化合物で被覆されたπ共役構造を有する導電性被覆共役ポリマーであって、前記π共役構造がフェニレンエチニレンユニットであり、下記構造式(1)及び構造式(2)を構造単位として、又は下記構造式(1)及び/又は構造式(2)及びメタジエチニレンフェニレン鎖を構造単位として有することを特徴とする導電性被覆共役ポリマー。
【化1】

〔2〕導電性被覆共役ポリマーが下記構造式(3)又は構造式(4)で示されることを特徴とする前記〔1〕に記載の導電性被覆共役ポリマー。
【化3】

上記式中、nは2から20の整数であり、より好ましくは3から12の整数である。
【化4】

上記式中、nは2から20の整数であり、より好ましくは3から12の整数である。
〔3〕前記有機環状化合物が、シクロデキストリン誘導体であり、前記シクロデキストリン誘導体の1つの−CH2OHが−CH2O−の形で鎖状構造中のフェニレン基と結合していることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の導電性被覆共役ポリマー。
〔4〕前記シクロデキストリン誘導体が、下記化学式(5)で表されるα−シクロデキストリン誘導体(Rは、H又はアルキル基)であることを特徴とする前記〔3〕に記載の導電性被覆共役ポリマー。
【化5】

〔5〕前記構造式(1)と前記構造式(2)を有するモノマーを共重合すること、又は、前記構造式(1)若しくは前記構造式(2)を有するモノマーとm−ジハライドベンゼン若しくはm−ジエチニルベンゼンを共重合すること、を特徴とする前記〔1〕に記載の導電性被覆共役ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電性被覆共役ポリマーは、フェニレン鎖の一部がメタ位による架橋構造を導入する事により、メタ架橋部に挟まれた部分のフェニレンエチレンユニットのエネルギーレベルのズレが少なくなり、各ユニット間でのポッピングによるエネルギーロスが少なくなり、高い電荷移動度の確保が可能となり、結果として高い導電性を確保することが可能になった。
そのことにより、本発明の導電性被覆共役ポリマーは、従来より知られている導電性ポリロタキサンに比べ大きな電荷移動度による優れた導電性を有しており、分子素子を構成する有機半導体への適用が可能である。
【0009】
また、本発明の導電性被覆共役ポリマーの製造方法は、重合反応に有機溶媒を用いたとしても、非包接体の状態に戻ることなく重合反応を行うことができ、重合反応を進行させやすく、重合度の制御が容易になる等水溶液中ではなかった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、構造式(1)、(2)を有するモノマーの前駆物質の合成法を示す図である。
【0011】
【図2】図2は、構造式(1’)の合成法を示す図である。
【0012】
【図3】図3は、構造式(2’)の合成法を示す図である。
【0013】
【図4】図4は、構造式(3’’)のポリマーの合成法を示す図である。
【0014】
【図5】図5は、構造式(4’)のポリマーの合成法を示す図である。
【0015】
【図6】図6は、構造式(8)のポリマーの合成法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の導電性被覆共役ポリマーは、複数の有機環状化合物で被覆されたπ共役構造を有する導電性被覆共役ポリマーであって、前記π共役構造がフェニレンエチニレンユニットであり、擬ロタキサン構造を有する自己包接錯体2分子をベンゼン環を介して結合した前記構造式(1)及び構造式(2)を構造単位として、又は前記構造式(1)及び/又は構造式(2)及びメタジエチニレンフェニレン鎖を構造単位として有している。
【0017】
前記構造式(1)〜(4)に示す有機環状化合物は、有機溶媒に可溶でπ共役分子と溶媒水溶液中(例えば、メタノール水溶液)で親水疎水相互作用により分子内自己包接するものであれば特にこだわらないが、通常は、シクロデキストリン誘導体、環状ポリエーテル誘導体、環状ポリシロキサン誘導体等から選ばれ、鎖状構造中のフェニレン基とエーテル結合により結合されている。
【0018】
前記の有機環状化合物の中でも、αシクロデキストリン誘導体は、π電子共役構造を持たず、有機環状化合物として好ましく、更に、完全メチル化αシクロデキストリン(PM α−CD)がより好ましい。
【0019】
シクロデキストリン誘導体が、有機環状化合物である場合には、シクロデキストリンの1つの−CH2OHが−CH2O−の形で鎖状構造中のフェニレン基と結合している。
【0020】
前記構造式(1)及び構造式(2)を構造単位とする本発明の導電性被覆共役ポリマーは、構造式(1)及び構造式(2)の構造単位を1以上のエチニレン鎖でもって結合した導電性被覆共役ポリマーとして得ることができる。構造式(1)及び構造式(2)の構造単位の比率及び前記エチニレン鎖の数を制御することにより各種の前記構造式(1)及び構造式(2)を構造単位とする本発明の導電性被覆共役ポリマーの生成が可能である。
【0021】
構造式(1)を有するモノマー及び構造式(2)を有するモノマーを1:1で重合させた導電性被覆共役ポリマーとしては、下記構造式(6)に示すものがあげられる。
【化6】

【0022】
前記構造式(1)及び/又は構造式(2)及びメタジエチニレンフェニレン鎖を構造単位とする本発明の導電性被覆共役ポリマーは、構造式(1)及び/又は構造式(2)の構造単位をメタジエチニレンフェニレン鎖でもって結合したメタジエチニレンフェニレン鎖を含む導電性被覆共役ポリマーとして得ることができる。
【0023】
前記メタジエチニレンフェニレン鎖を含む導電性被覆共役ポリマーは、(a)構造式(1)を有するモノマーをメタジエチニレンフェニレン鎖でもって重合させたもの、(b)構造式(2)を有するモノマーをメタジエチニレンフェニレン鎖でもって重合させたもの、(c)構造式(1)を有するモノマー及び構造式(2)を有するモノマーをメタジエチニレンフェニレン鎖でもって重合させたものに大別することができる。
【0024】
前記(a)〜(c)の導電性被覆共役ポリマーは、構造式(1)及び/又は構造式(2)の構造単位の比率及びメタジエチニレンフェニレン鎖の数を制御することにより各種の導電性被覆共役ポリマーの生成が可能である。
【0025】
構造式(1)を有するモノマーとメタジエチニレンフェニレン鎖が1:1になるように重合させた導電性被覆共役ポリマーとしては、下記構造式(3)に示すものがあげられる。
【化3】

構造式(1)を有するモノマーのモル比がメタジエチニレンフェニレン鎖に対してm(mは2以上の整数)になるように重合させた導電性被覆共役ポリマーとしては、下記構造式(3’)に示すものがあげられる。
【化31】

【0026】
また、構造式(2)を有するモノマーとメタジエチニレンフェニレン鎖が1:1になるように重合させた導電性被覆共役ポリマーとしては、下記構造式(4)に示すものがあげられる。
【化4】

【0027】
次に、本発明の導電性被覆共役ポリマーの製造方法について説明する。
【0028】
本発明の導電性被覆共役ポリマーは、前記構造式(1)と前記構造式(2)を有するモノマーを共重合すること、又は、前記構造式(1)若しくは前記構造式(2)を有するモノマーとm−ジハライドベンゼン若しくはm−ジエチニルベンゼンを共重合することにより製造することができる。
【0029】
本発明の導電性被覆共役ポリマーの製造方法は、前記構造式(1)と前記構造式(2)を有するモノマーを使用して重合反応させることを特徴としている。前記構造式(1)と前記構造式(2)を有するモノマーは、擬ロタキサン構造を有する自己包接錯体2分子をベンゼン環を介して結合させているため包接構造を維持することができる特徴を有する被覆型π共役モノマーである。
【0030】
そのため、重合反応に有機溶媒を用いたとしても、非包接体の状態に戻ることなく重合反応を行うことができるという効果を発揮することができる。
また、有機溶媒中で反応させることにより、重合反応を進行させやすく、重合度の制御が容易になる等水溶液中ではなかった効果もある。(その他の利点があれば追加してください。)
【0031】
まず、構造式(1)及び構造式(2)を構造単位とする本発明の導電性被覆共役ポリマーは、両端がエチニル基である構造式(1)又は構造式(2)を有するモノマーを両端がハロゲン基である構造式(1)又は構造式(2)を有するモノマーを共重合することによって、又は、一端がエチニル基で他端がハロゲン基をある構造式(1)及び構造式(2)を有するモノマーを共重合することによって製造することができる。
【0032】
上記の場合、構造式(1)を有するモノマーと構造式(2)を有するモノマーのモル比を制御することで、鎖状部分の直線性に変化をもたせた各種の導電性被覆共役ポリマーを製造することが可能である。
【0033】
次に、構造式(1)及び/又は構造式(2)及びメタジエチニレンフェニレン鎖を構造単位とする本発明の導電性被覆共役ポリマーは、両端がエチニル基である構造式(1)及び/又は構造式(2)を有するモノマーとm−ジハライドベンゼンを共重合することによって、又は、両端がハロゲン基である構造式(1)及び/又は構造式(2)を有するモノマーとm−ジエチニルベンゼンを両端がハロゲン基である構造式(1)又は構造式(2)を有するモノマーを共重合することによって、製造することができる。
【0034】
構造式(1)又は構造式(2)を有するモノマーは、既知の擬ロタキサン前駆物質(下記化合物(7))に1,4−ジヨードベンゼン又は1,3−ジヨードベンゼンを反応させることによって、製造することができる。
【化7】

【0035】
詳しくは、擬ロタキサン前駆物質(前記化合物(7))をメタノール−水混合溶媒中で、分子内自己包接させ、自己包接錯体2分子と1,4−ジヨードベンゼン又は1,3−ジヨードベンゼンとのクロスカップリング反応により製造することができる。
【0036】
製造された構造式(1)又は構造式(2)を有するモノマーは、両端がアセトアミド基として残るが、このアセトアミド基を、ハロゲン基(好ましくは、ヨード基)又はエチニル基に置換することによって、本発明の原料となる構造式(1)又は構造式(2)を有するモノマーとすることができる。
【0037】
以下、本発明の実施形態を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0038】
〔構造式(1)又は構造式(2)を有するモノマーの前駆物資の合成〕
図1に実施例で用いたモノマー前駆物質の合成方法を示す。
アルゴン置換した50ml 二口ナスフラスコに、5−Acetoamide−2−iodo phenol(1.67mmol),PM α−CD(1.52mmol),KCO(15.2mmol)を加え、脱水DMF10mlに溶解させ、100℃で16時間撹拌した。その後、炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出をし、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製をし、収率98%でヨウ素化PM α−CD誘導体を得た。
【0039】
続いて、アルゴン置換した50ml二口ナスフラスコに、前述のヨウ素化PM α−CD誘導体(0.67mmol)を加え、ジイソプロピルアミン5mlに溶解させた。ジエチニルベンゼン誘導体(0.74mmol),Pd(PPh (0.00268mmol), CuI(0.0134mmol)を加え、45℃で16時間撹拌した。溶媒を留去した後、酢酸エチルで抽出をし、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、収率94%で[(4−エチニルフェニル)エチニル]トリメチルシリル化PM α−CD誘導体を得た。
【0040】
続いて、50mlナスフラスコに(4−エチニルフェニル)エチニル]トリメチルシリル化PM α−CD誘導体(0.448mmol)を加え、メタノール20mlに溶解させた。1M−KCO2.5ml(2.24mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。溶媒を留去した後、酢酸エチルで抽出をし、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製をし、収率95%でモノマー前駆物質であるエチニルトラン結合PM α−CD誘導体(7’)を得た。((7’)は、構造式(7)の有機環状化合物がPM α−CDである物質。)
【0041】
〔構造式(1)を有するモノマーの合成〕
【0042】
図2に実施例で用いた構造式(1)を有するモノマーの合成方法を示した。
100mlナスフラスコ中で、モノマー前駆物質であるエチニルトラン結合PM α−CD誘導体(7’)(0.85mmol)とメタノール/水=30ml:30mlを混合した。60℃で1時間反応後室温まで冷却した。系内をアルゴン置換し、1,4−ヨードベンゼン(0.425mmol),Pd(OAc)(0.18mmol),TXPTS(0.085mmol),CuI(0.0043mmol),炭酸ナトリウム(6.8mmol),トリエチルアミン3mlを加えた。室温で48時間撹拌した。酢酸エチルを加えて希釈し、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製をし、収率82%で末端にアセトアミド基を有する被覆モノマー(1’)を得た。((1’)は、構造式(1)の有機環状化合物がPM α−CDで、両末端にアセトアミド基が置換した物質。)
【0043】
MALDI-TOF MS(CHCA): m/z 3033 ([M+Na]+,
C148H212N2O62Na, cald 3034 ); 1H
NMR(400 MHz, CDCl3) : δH = 8.25 (d, J =8.2 Hz, 4H, ArH), 7.61 (d, J =8.2 Hz,
4H, ArH), 7.45-7.36 (m, 6H, ArH), 7.21 (s, 2H, NH), 5.10-4.96 (m, 12H, CD-H1),
4.87-2.83 (m, 174H, CD-H,OCH3), 2.22 (s, 6H, CH3CO); 13C
NMR (400MHz, CDCl3, r.t.): δc = 168.585, 162.453, 140.744, 139.643, 133.511-131.183(several peaks
overlapped), 123.212, 122.848, 113.891, 112.540, 111.563,
100.651-99.913(several peaks overlapped), 98.323, 93.418, 90.591,
83.607-80.781(several peaks overlapped), 83.783-81.167(several peaks
overlapped), 71.709-70.233(several peaks overlapped), 62.148,
59.321-57.606(several peaks overlapped); Anal. Calcd for C148H212N2O62・2H2O: C, 58.33; H, 7.14; N, 0.92; O, 33.60 %; Found: C,
57.01; H, 7.18; N, 0.87; O, 33.80 %.
【0044】
〔構造式(2)を有するモノマーの合成〕
図3に実施例で用いた構造式(2)を有するモノマーの合成方法を示した。
50mlナスフラスコ中で、モノマー前駆物質であるエチニルトラン結合PM α−CD誘導体(7’)(0.48mmol)とメタノール/水=15ml:15mlを混合した。65℃で1時間反応後室温まで冷却した。系内をアルゴン置換し、1,3−ヨードベンゼン(0.24mmol),Pd(OAc)(0.24mmol),TXPTS(0.096mmol),CuI(0.0024mmol),炭酸ナトリウム(3.84mmol),トリエチルアミン3mlを加えた。室温で24時間撹拌した。酢酸エチルを加えて希釈し、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製をし、収率82%で末端にアセトアミド基を有する被覆モノマー(2’)を得た。((2’)は、構造式(2)の有機環状化合物がPM α−CDで、両末端にアセトアミド基が置換した物質。)
【0045】
MALDI-TOF MS(CHCA): m/z 3033 ([M+Na]+,
C148H212N2O62Na, cald 3034 ); 1H
NMR(400 MHz, CDCl3) : δH = 8.05 (d, J =8.2 Hz, 4H, ArH), 7.62-7.61 (m, 5H, ArH),
7.45-7.35 (m, 9H, ArH), 5.01-4.96 (m, 12H, CD-H1), 4.87-2.83 (m, 174H,
CD-H,OCH3), 2.22 (s, 6H, CH3CO); 13C NMR
(400MHz, CDCl3, r.t.): δc = 162.58, 139.77, 133.76-131.31 (several peaks overlapped), 123.46,
122.85, 113.90, 112.54, 111.56, 101.88-98.22 (several peaks overlapped),
93.418, 90.23, 83.97-80.91 (several peaks overlapped), 72.57-69.87 (several
peaks overlapped), 62.02, 59.45-57.48 (several peaks overlapped); Anal. Calcd
for C148H212N2O62・2H2O: C, 58.33; H, 7.14; N, 0.92; O, 33.60 %; Found: C,
58.05; H, 7.02; N, 0.98; O, 33.21 %.
【0046】
(実施例1)
図4に実施例1で用いた構造式(3)を有するメタ架橋被覆ポリマーの合成方法を示した。
1Lナスフラスコに、テトラヒドロフラン100mlと1M−HCl水溶液500mlを入れ、被覆モノマー(1’) (0.332mmol)を加えた。 系内を窒素置換し、40℃で24時間撹拌した。酢酸エチルで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウムおよび飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製をし、収率70%で末端のアセトアミド基が加水分解されたアミン誘導体を得た。
【0047】
MALDI-TOF MS: (m/z) 2949 ([M+Na]+,
C144H208N2O60Na, calcd. 2950); 1H
NMR (400MHz, CDCl3, r.t.): δH = 8.01 (d, J
= 8.2 Hz, 4H, ArH), 7.60 (d, J = 8.2 Hz, 4H, ArH), 7.44 (s, 4H,
ArH), 7.22 (d, J = 8.2 Hz, 2H, ArH), 6.44 (m, 4H, ArH), 5.10-4.96 (m,
12H, CD-H1), 4.87-2.85 (d, 178H, NH, CD-H, OCH3); 13C
NMR (400MHz, CDCl3, r.t.): δc = 163.367,
160.560, 148.795, 148.393, 134.194, 132.077-131.158(several peaks overlapped),
124.384, 123.206, 122.976, 122.775, 109.870, 107.983, 107.523, 105.367,
102.618, 100.721-98.000(several peaks overlapped),
83.783-81.167(several peaks overlapped), 72.095-70.083(several peaks
overlapped), 61.767, 59.018-57.351(several peaks overlapped); Anal. Calcd for C144H208N2O60・2H2O:
C, 58.37; H, 7.21; N, 0.95; O, 33.48 %; Found: C, 58.01; H, 7.18; N, 0.87; O,
33.82 %.
【0048】
50mlナスフラスコに、前述の両末端アミン誘導体(0.102mmol)と20%硫酸20mlを入れ、0〜5℃に冷却した。この溶液を、NaNO(0.306mmol)を水0.5mlに溶解して0〜5℃に冷却した中に滴下した。反応液を0〜5℃で1時間撹拌した後、KI(1.00mmol)溶液中に加え、室温で1時間撹拌した。酢酸エチルを加えて希釈し、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製をし、収率60%で両末端ヨウ化誘導体を得た。
【0049】
MALDI-TOF MS: (m/z) 3172 ([M+Na]+,
C144H204I2O60Na, calcd. 3172); 1H
NMR (400MHz, CDCl3, r.t.): δH = 8.07 (d, J
= 8.3 Hz, 4H, ArH), 7.62 (d, J = 8.3 Hz, 4H, ArH), 7.54 (s, 2H, ArH),
7.50 (d, J = 8.6 Hz, 2H, ArH), 7.44 (s, 2H, ArH), 7.24 (d, J =
8.3 Hz, 2H, ArH), 5.09-4.96 (m, 12H, CD-H1), 4.82-2.90 (m, 174H,
CD-H, OCH3); 13C NMR (400MHz, CDCl3, r.t.): δc = 163.367,
132.077-131.158(several peaks overlapped), 124.384, 123.206, 122.976,
100.721-98.000(several peaks overlapped), 83.783-81.167(several peaks
overlapped), 72.095-70.083(several peaks overlapped), 61.767,
59.018-57.351(several peaks overlapped); Anal. Calcd for C144H204I2O60・H2O:
C, 54.61; H, 6.56; I, 8.01; O, 30.82 %; Found: C, 53.98; H, 7.02; O, 31.94 %.
【0050】
次に、30mlのナスフラスコに、両末端ヨウ化誘導体(9.53μmol)と1,3−ジエチルベンゼン(9.53μmol),Pd(PPh (1.91μmol)を入れ、ピペリジンに溶解した。 室温で24時間撹拌した後、酢酸エチルを加えて希釈し、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。分取用薄相クロマトグラフィーにより精製をし、メタ架橋被覆ポリマー(3’’)を得た。((3’’)は、構造式(3)の有機環状化合物がPM α−CDであるポリマー。)
【0051】
1H NMR (400MHz, CDCl3,
r.t.): δH = 8.18-8.02 (br, ArH), 7.74-7.58
(br, ArH), 7.57-7.38 (br, ArH), 5.18-4.93 (m, CD-H1), 4.90-2.80 (m,
CD-H, OCH3).
【0052】
(実施例2)
図5に実施例2で用いた構造式(4)を有するメタ−メタ架橋被覆ポリマーの合成方法を示した。
500mlナスフラスコに、テトラヒドロフラン40mlと1M−HCl水溶液200mlを入れ、被覆モノマー(2’) (0.10mmol)を加えた。 系内を窒素置換し、40℃で24時間撹拌した。酢酸エチルで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウムおよび飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製をし、収率68%で末端のアセトアミド基が加水分解されたアミン誘導体を得た。
【0053】
MALDI-TOF MS: (m/z) 2949 ([M+Na]+,
C144H208N2O60Na, calcd. 2950); 1H
NMR (400MHz, CDCl3, r.t.): δH = 7.95 (d, J = 8.2 Hz, 4H, ArH), 7.53-7.51 (m, 5H,
ArH), 7.38-7.14 (m, 9H, ArH), 6.37 (m, 4H, ArH), 5.04-4.90 (m, 12H, CD-H1),
4.86-2.78 (d, 178H, NH, CD-H, OCH3); 13C NMR (400MHz,
CDCl3, r.t.): δc = 1638.92, 154.33, 139.74, 139.37, 137.78, 136.80, 134.10,
128.95-128.34 (several peaks overlapped), 115.47, 113.63, 111.05, 106.63-105.41
(several peaks overlapped), 103.69, 97.19, 95.35-93.73 (several peaks
overlapped), 89.71-86.40 (several peaks overlapped), 78.06-75.49 (several peaks
overlapped), 67.88-66.90 (several peaks overlapped), 64.69-62.61 (several peaks
overlapped); Anal. Calcd for C144H208N2O60・3H2O: C, 58.01; H, 7.24; N, 0.94; O, 33.81 %; Found: C,
58.11; H, 7.02; N, 0.94; O, 33.88 %.
【0054】
20mlナスフラスコに、前述の両末端アミン誘導体(0.0684mmol)と20%硫酸10mlを入れ、0〜5℃に冷却した。この溶液を、NaNO(0.202mmol)を水0.5mlに溶解して0〜5℃に冷却した中に滴下した。反応液を0〜5℃で1時間撹拌した後、KI(0.682mmol)溶液中に加え、室温で1時間撹拌した。酢酸エチルを加えて希釈し、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製をし、収率71%で両末端ヨウ化誘導体を得た。
【0055】
MALDI-TOF MS: (m/z) 3172 ([M+Na]+,
C144H204I2O60Na, calcd. 3172); 1H
NMR (400MHz, CDCl3, r.t.):δH = 8.06 (d, J = 8.3 Hz, 4H, ArH), 7.62-7.61 (m, 5H, ArH),
7.54-7.35 (m, 9H, ArH), 5.09-4.95 (m, 12H, CD-H1), 4.81-2.89 (m,
174H, CD-H, OCH3); 13C NMR (400MHz, CDCl3,
r.t.): δc = 159.51,
132.07-131.15(several peaks overlapped), 124.38, 123.20, 122.97, 100.53-99.3
(several peaks overlapped), 82.01-81.03 (several peaks overlapped), 72.1-71.5
(several peaks overlapped), 62.06, 60.55, 59.08-57.86 (several peaks
overlapped); Anal. Calcd for C144H208I2O60・3H2O: C, 54.00; H, 6.61; I, 7.92; O, 31.47 %; Found: C,
53.59; H, 7.45; O, 30.99 %.
【0056】
次に、アルゴン置換した20mlのナスフラスコに、両末端ヨウ化誘導体(0.048mmol)を入れ、ジイソプロピルアミン1ml,テトラヒドロフラン5mlを加えた。Trimethylsilylacetylene(0.144mmol),Pd(PPhCl(0.0051mmol),CuI(0.0010mmol)を入れ、室温で5時間撹拌した。反応液はセライトろ過し、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製をし、収率66%で両末端TMS誘導体を得た。
【0057】
MALDI-TOF MS: (m/z) 3111 ([M+Na]+,
C154H222O60Si2Na, calcd. 3111).
【0058】
次に、20mlのナスフラスコに、両末端TMS誘導体(0.032mmol)を入れ、テトラヒドロフラン5mlを加えた。TBAFテトラヒドロフラン溶液を添加し、室温で30分撹拌した。反応液にメタノール5mlを加え、溶媒を留去した。分取用薄層クロマトグラフィーにより精製をし、収率62%でトリメチルシリル基が脱保護された、両末端エチニル誘導体(メタ架橋被覆型π共役モノマー)を得た。
【0059】
MALDI-TOF MS: (m/z) 2967 ([M+Na]+,
C148H206O60Na, calcd. 2968); 1H NMR
(400MHz, CDCl3, r.t.): δH = 8.05 (d, J = 8.3 Hz, 4H, ArH), 7.63-7.61 (m, 5H,
ArH), 7.48-7.35 (m, 9H, ArH), 5.01-4.96 (m, 12H, CD-H1),
4.80-2.87 (m, 174H, CD-H, OCH3); 13C NMR (400MHz, CDCl3,
r.t.): δc = 167.03,
139.42, 138.69-134.08 (several peaks overlapped), 132.40, 130.98, 129.45,
128.71, 127.67, 122.94, 106.19, 106.19-103.53 (several peaks overlapped),
100.70, 95.75, 94.80, 93.72, 89.31-85.22 (several peaks overlapped),
77.80-75.73 (several peaks overlapped), 67.35, 63.00-562.01 (several peaks
overlapped); Anal. Calcd for C148H206O60・H2O: C, 59.99; H, 7.08; O, 32.94 %; Found: C, 60.17; H,
7.30; O, 33.32 %
【0060】
次に、20mlのナスフラスコに、両末端エチニル誘導体(0.012mmol)と1,3−ジヨードベンゼン(0.012mmol),Pd(dba) (0.0024mmol),PPh (0.0048mmol),CuI(0.6μmol)を入れ、テトラヒドロフラン2.5mlに溶解した。トリエチルアミン0.5mlを添加し、アルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した後、酢酸エチルを加えて希釈し、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。分取用薄層クロマトグラフィーにより精製をし、メタ−メタ架橋被覆ポリマー(4’)を得た。((4’)は、構造式(4)の有機環状化合物がPM α−CDであるポリマー。)
【0061】
1H NMR (400MHz, CDCl3, r.t.): δHδH = 8.05 (br, ArH),
7.63-7.61 (br, ArH), 7.55-7.44 (br, ArH), 7.30 (br, ArH), 5.01-4.96 (m, CD-H1),
4.80-2.87 (m, CD-H, OCH3).
【0062】
(比較例1)
【化8】

【0063】
図6に比較例1で用いた被覆ポリマー(8)の合成方法を示した。
両末端ヨウ化誘導体の合成までは、実施例1に同じ。
引き続き、20mlのナスフラスコに、両末端ヨウ化誘導体(6.67μmol)と1,4−ジエチニルベンゼン(6.67μmol),Pd(PPh (1.33μmol)を入れ、ピペリジン2mlに溶解した。 室温で24時間撹拌した後、酢酸エチルを加えて希釈し、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。分取用薄相クロマトグラフィーにより精製をし、被覆ポリマー(8)を得た。
【0064】
1H NMR (400MHz, CDCl3, r.t.): δH = 8.13-7.88 (br, ArH), 7.68-7.23
(br, ArH), 5.16-4.83 (m, CD-H1), 4.70-2.81 (m, CD-H, OCH3).
【0065】
〔TRMC-TAS法による分子内電荷移動度測定〕
メタ架橋被覆ポリマーに関してTRMC−TAS法により固体状態での分子内電荷移動度の測定を行った。(TRMC−TAS法は、文献:Proceedings of the 1st Annual Meeting of Particle Accelerator Meeting in Japan (August 4−6,2004,Funabashi Japan)に発表されている手法で、電極作製することなくバルク体、液体中の電荷移動度を測定できる。)
TRMC−TAS測定から求められる伝導度と電荷分離効率φの値を用いて分子内電荷移動度の値を求めた。
【0066】
その結果、メタ架橋することによりパラ架橋被覆ポリマー(8)の移動度の値0.7cm2/Vsより飛躍的に向上し、メタ架橋被覆ポリマー(3’’)が3.0cm2/Vs、メタ−メタ架橋被覆ポリマー(4’)2.1cm2/Vsとなった。
これは、現在報告されている共役ポリマー類の分子内電荷移動度としては最も高い値である。
【0067】
TMRC測定:時間分解誘電吸収測定(Time−Resolved Microwave Conductivity)。電極作製することなくバルク固体、液体中で伝導度を測定可能。
TAS:光過渡吸収分光(Transient Absorption Spektroscopy)。活性種の電子準位を調べる方法。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の導電性被覆共役ポリマーは、従来より知られている導電性ポリロタキサンに比べ大きな電荷移動度による優れた導電性を有しており、分子素子を構成する有機半導体への適用が可能である。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の有機環状化合物で被覆されたπ共役構造を有する導電性被覆共役ポリマーであって、前記π共役構造がフェニレンエチニレンユニットであり、下記構造式(1)及び構造式(2)を構造単位として、又は下記構造式(1)及び/又は構造式(2)及びメタジエチニレンフェニレン鎖を構造単位として有することを特徴とする導電性被覆共役ポリマー。
【化1】

【請求項2】
導電性被覆共役ポリマーが下記構造式(3)又は構造式(4)で示されることを特徴とする請求項1に記載の導電性被覆共役ポリマー。
【化3】

上記式中、nは2から20の整数であり、より好ましくは3から12の整数である。
【化4】

上記式中、nは2から20の整数であり、より好ましくは3から12の整数である。
【請求項3】
前記有機環状化合物が、シクロデキストリン誘導体であり、前記シクロデキストリン誘導体の1つの−CH2OHが−CH2O−の形で鎖状構造中のフェニレン基と結合していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性被覆共役ポリマー。
【請求項4】
前記シクロデキストリン誘導体が、下記化学式(5)で表されるα−シクロデキストリン誘導体(Rは、H又はアルキル基)であることを特徴とする請求項3に記載の導電性被覆共役ポリマー。
【化5】

【請求項5】
前記構造式(1)と前記構造式(2)を有するモノマーを共重合すること、又は、前記構造式(1)若しくは前記構造式(2)を有するモノマーとm−ジハライドベンゼン若しくはm−ジエチニルベンゼンを共重合すること、を特徴とする請求項1に記載の導電性被覆共役ポリマーの製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−91738(P2013−91738A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235505(P2011−235505)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】