説明

導電性複合繊維

【課題】 導電性複合繊維の複合形態を最適化することにより、繊維表面での導電性能が高く、かつ製糸工程や高次工程での工程通過性に優れた導電性繊維を提供する。
【解決手段】 導電性カーボンブラックを15〜50%含有する熱可塑性樹脂Aと、繊維形成性ポリエステル系熱可塑性樹脂Bを接合してなる導電性複合繊維の単繊維横断面において、成分Aと成分Bの接合面曲線DEが成分Aに向かって凸であり、その接合面曲線の最小曲線半径rと単糸繊維半径Rの比、r/Rが0.6以下であり、繊維横断面外周における成分Aが占める周長が全周長の2〜40%であることを特徴とする導電性複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性複合繊維に関するものであり、詳しくは繊維表面での導電性能が高く、かつ製糸工程や製織工程での工程通過性および、実使用時の耐久性に優れた導電性複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系熱可塑性樹脂からなる合成繊維は広く衣料用のみならず、産業用分野にまで利用されている。しかしながら、これらの合成繊維は電気抵抗が著しく高く、静電気を帯びやすいという致命的な欠点を有し、衣類においては脱着時の不快感、裾のまとわりつき、汚れの付着等の問題があり、特に作業衣として用いる場合は可燃ガスへの引火の危険性や、精密機器類の破壊の問題がある。これら静電気による欠点を排除すべく、これまで種々の方法が提案されている。
【0003】
従来から除電性能の優れた繊維としての導電性繊維については、種々の提案がなされており、例えば繊維表面に金属メッキを施して導電性を付与せしめたものや、導電性カーボンブラックを分散せしめた樹脂類を繊維表面にコートすることによって導電性被覆層を形成せしめたもの等がある。しかし、これらは製造工程が複雑化して技術的に困難な方法によって得られたものであったり、導電性繊維を実用に供するため準備段階、例えば製織編のための精練工程での薬品処理や実際の使用における摩耗や繰り返し洗濯といった外的な作用によって導電性が容易に低下し、実用の域を脱してしまうという問題があった。
【0004】
他の導電性繊維として、スチール繊維の様な金属繊維が除電性能の優れたものとして知られているが、金属繊維はコストが高く、しかも一般の有機素材とはなじみ難く、紡績性不良となったり、製織・染色仕上げ工程でのトラブルの原因となったり、着用時の洗濯による断線・脱落が生じやすく、さらには通電性に基づく感電・スパークの問題、布帛の溶融トラブル等の原因となっていた。
【0005】
また、導電性カーボンブラックを均一分散させたポリマー単体より導電性繊維をえる方法が提案されているが、この導電性繊維はカーボンブラックを多量に含有するために繊維の製造が難しく、且つ繊維物性が著しく低下するという問題があった。これらの問題を解決せんとする提案として、芯鞘複合タイプ複合繊維の芯成分ポリマーに導電性カーボンブラックを含有させ、それを通常の繊維形成性ポリマーからなる鞘で包み込もうという方法である(特許文献1参照)。この場合、繊維性能を保つため芯部を非導電性の鞘が厚く包囲しているため、十分な導電性が得られない。
【0006】
上記の問題を解決するため、カーボンブラックを含有した導電層成分が繊維表面の一部に露出した導電性複合繊維が数々提案されている(特許文献2、3、4、5参照)。これらの導電性繊維は繊維表面に導電層が露出しているため、優れた除電性能を発揮するが、製糸・製織工程における毛羽、ガイド類との擦過による導電層成分の剥離、ガイド類の磨耗等、種々の問題がある。
【0007】
例えば特許文献2に記載されている導電性繊維は、導電成分を繊維表面の2〜20%の割合で露出せしめ、かつ繊維横断面における導電成分の繊維表面露出長に対し、非導電成分との接合距離が3倍以上とすることにより、優れた導電性能と、耐薬品性、耐久性が得られる。しかしながら、例図に示された如き繊維断面形態では実質繊維内に含有せしめる導電成分量が多くなるため、繊維強度が低下し、製糸工程・製織工程での毛羽・糸切れ、実使用時における破断とそれに伴う導電性能の低下を引き起こすという問題がある。
【特許文献1】特開昭55−1337号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2003−278031号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2001−49532号公報(請求項1)
【特許文献4】特開2003−105634号公報(請求項1)
【特許文献5】特開平9−279416号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は導電性複合繊維の複合形態を最適化することにより上記課題を解決し、繊維表面での導電性能が高く、かつ製糸工程や高次工程での工程通過性に優れた導電性繊維を提供するためにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
導電性カーボンブラックを15〜50%含有する熱可塑性樹脂Aと、繊維形成性熱可塑性ポリエステル系樹脂Bを接合してなる導電性複合繊維の単繊維横断面において、成分Aと成分Bの接合面曲線DEが成分Aに向かって凸であり、その接合面曲線の最小曲線半径rと単繊維半径Rの比、r/Rが0.6以下であり、繊維横断面外周における成分Aが占める周長が全周長の15〜40%であることを特徴とした導電性複合繊維を得ることにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明により繊維表面での導電性能が高く、かつ製糸工程や高次工程での工程通過性に優れた導電性繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明における導電性カーボンブラックを含有する熱可塑性樹脂Aとしては、特に限定するものではないが、カーボンブラックの分散性や熱可塑性樹脂Bとの接合性等の面から、ポリエチレンに代表されるポリオレフィン系熱可塑性樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、およびそれらの共重合体等のポリエステル系熱可塑性樹脂、あるいは、ナイロン6やナイロン66、ナイロン10、ナイロン12、およびそれらの共重合体等のポリアミド系熱可塑性樹脂が好ましく用いることができる。また、熱可塑性樹脂Aには、導電性能を損なわない範囲内であれば耐熱剤や流動化剤等を添加してもよい。
【0013】
本発明における導電性カーボンブラックを含有する熱可塑性樹脂Aにおける導電性カーボンブラックの含有量は15〜50重量%の範囲でる必要がある。導電性カーボンブラックの含有量が15重量%より少ない場合には十分な除電性能は発揮されない。一方、50重量%を超える場合では、ポリマー流動性が著しく低下して製糸性が極端に悪化する。より好ましくは20〜40重量%である。
【0014】
本発明における繊維形成性熱可塑性樹脂Bはポリエステル系樹脂である必要がある。導電性繊維の主たる用途の1つに防塵衣が挙げられるが、導電性繊維を構成する主たる樹脂成分が、例えばN6に代表されるポリアミドである場合、雰囲気湿度の変化により繊維径が変化するため、布帛目開きの大きさが変化し、濾過性能が劣るものとなるため、ほこりが通過しやすく、防塵衣としての用途に用いることのできないものとなる。
【0015】
本発明に用いられるポリエステル系熱可塑性樹脂Bとしてはポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンフタレート等が挙げられるが、中でも前者のテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素原子数2〜6のアルキレングリコール成分、即ちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、及びヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のグリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルを対象とする。かかるポリエステルは任意の方法で製造されたものでよく、例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステル及び/またはその低重合体を生成させ、ついでこの生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで縮重合反応させることで容易に製造される。なお、このポリエステルはそのテレフタル酸成分の一部を他の二官能基カルボン酸成分で置き換えてもよい。かかるカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルキシエンタンカルボン酸、β−オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸の如き二官能性脂肪族カルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き二官能性脂環族カルボン酸等を挙げることができる。また、上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分と置き換えてもよく、かかるグリコール成分としてはシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、2,2−ビス〔3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)フェニル〕プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。更に上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマーを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸等の鎖分岐剤を少割合使用したものであってもよい。この他、本発明のポリエステルは通常のポリエステルと同様に酸化チタン等の顔料のほか、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤が添加されていても勿論よい。
【0016】
本発明の導電性繊維は繊維表面に表面に成分Aが露出している必要がある。成分Aが繊維表面に露出していない場合、繊維表面は絶縁体となるため、表面での導電性は不十分なものとなるため、本発明の対象にはならない。また、導電性繊維横断面(図1)において成分Aと成分Bの接合面曲線DEが成分Aに向かって凸であることが必要である。導電成分を繊維表面に露出させた導電性複合繊維においては、繊維横断面における導電成分が繊維表面に露出している長さに対し、導電成分と非導電成分の接合距離を大きくすることが、成分同士の剥離を抑制するために有効であることが公知である。しかしながら、例えば図2の如く、導電性繊維横断面における成分Aの形状が成分A内側に向かって凸ではなく、成分A外側に広がっている球状形態の場合、本発明のように導電成分A内側に向かって凸のものと同一露出距離・同一接合距離として比較すると、成分間の剥離は抑制されるものの、実質繊維内に含有させる導電成分量が多くなり、繊維強度が低下し、製糸工程・製織工程での糸切れ、毛羽を誘発させるばかりか、実使用時の破断により導電性能低下を引き起こす恐れがある。また本発明の導電性複合繊維の繊維横断面における成分Aと成分Bの接合面曲線の最小曲線半径rと単繊維半径Rとの比r/Rが0.6以下であることが必要である。r/Rが0.6を超える値となると、接合面曲線が直線に近づき、接合面距離が小さくなるため、製糸工程・製織工程での擦過により導電成分が剥離し易くなるという問題がある。さらに、r/Rが0.5以下であれば、擦過に対する耐久性はより好ましいものとなる。
【0017】
本発明の導電性繊維の繊維横断面周長における成分Aの占める長さは、全周長の2〜40%とする必要がある。成分Aの占める長さが全周長の2%未満の場合、繊維表面における電気抵抗値が増大し、実質十分な導電性能が得られないという問題がある。また、成分Aの占める長さが全周長の40%を超える場合は、製糸工程や高次工程でのガイド類との磨耗が生じるばかりか、成分Aが剥離し易くなるという問題がある。より好ましくは5〜30%の範囲である。
【0018】
本発明の導電性複合繊維の横断面における導電成分Aの分割数は少なくとも2点以上に分割されているのが好ましい。分割数が2点以上であれば、繊維表面においても帯電体と導電成分が接触するため優れた導電性能が得られるため好ましい。製糸安定性の観点から、より好ましくは2〜4点である。
【0019】
本発明の複合繊維におけるにおける成分Aの配合量は繊維全体に対し3〜30重量%が好ましい。A成分配合量が3重量%以上になると、導電性能が向上し、30重量%以下であれば製糸性良く本発明の導電性複合繊維が得られる。より好ましくは5〜15重量%である。
【0020】
本発明の導電性複合繊維の破断強度は2.5cN/dtex以上であることが好ましい。導電性複合繊維の破断強度が2.5cN/dtex以上であれば、製糸工程・製織工程での糸切れ・毛羽の発生が抑制され、効率良く生産できるため好ましい。より好ましくは2.7cN/dtex以上、4.0cN/dtex以下である。また、本発明の導電性複合繊維の単繊維繊度は1.0dtex以上とすると、製糸工程や製織工程での単糸切れが発生し難くなるため好ましい。より好ましくは4.0dtex以上25dtex以下である。
【0021】
本発明の導電性複合繊維は、通常の複合繊維の製造方法をそのまま用いることができ、特に限定するものではなく、複合紡糸した未延伸糸を一旦巻き取った後に加熱延伸する方法を採用しても良く、複合紡糸した未延伸糸を一旦巻き取ることなく、加熱延伸する直接紡糸延伸法を採用してもよい。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を詳細に説明する。尚、実施例中の評価は以下の評価方法に従った。
1.繊度(dtex)
浅野機械製作(株)製検尺機を用い、得られたマルチフィラメントを100mサンプリングして重量を測定し、10000mに換算した重量値を総繊度とし、総繊度をフィラメント数で割った値を単繊維繊度とした。
2.破断強度(cN/dtex)
TOYO BALDWIN社製TENSILON/UTM−III−100を使用し、試料長20cm、引張り速度20cm/分の測定条件でフィラメント破断点における強度を測定した。
3.布帛表面抵抗値(Ω)
ZHI SHENG INDUSTRIAL社製SURFACE RESISTANCE CHECKER SRM−100を用い後述する実施例で得られた布帛の表面電気抵抗を測定し、10以下を合格とした。
4.製糸性
後述する実施例の方法で導電性複合繊維を得るに当たり、チップ原料1000kgから得られた導電性複合繊維の収率が100%以下85%以上を○、85%未満〜70%以上を△、70%未満を×とし、○および△を合格とした。
5.高次工程通過性
後述する実施例の方法で導電性複合繊維から布帛を得るにあたり、導電性複合繊維のガイドおよび糸道での毛羽、糸切れ発生頻度(導電性繊維1kg当たり)が5回未満を○とし、6〜10回を△、11回以上を×とし、○および△を合格とした。
6.総合評価
布帛抵抗値、製糸性、高次工程通過性の中で、一つでも不合格な項目がある場合を×、製糸性・高次工程通過性のいずれか/両方が△であり、布帛抵抗値が合格な場合を△、製糸性・高次工程通過性の両方が○であり、布帛抵抗値が合格な場合を○とし、○および△を合格とした。
【0023】
実施例1
固有粘度0.78のPETチップ(成分B)と導電性カーボンブラックが35重量%となるよう常法にて溶融混錬したN6チップ(成分A)をそれぞれプレッシャメルターにて溶融押出しし、成分Aの分割数が2、繊維横断面外周における成分Aの占有率が25%、繊維横断面における導電成分Aと非導電成分Bの接合面が内側に向かって凸であり、r/Rが0.4となる複合紡糸口金より紡糸した。紡糸した糸条は空冷し、紡糸油剤を付与した後、1500m/分の速度で巻き取り、導電性複合繊維の未延伸糸を得た。得られた未延伸糸は表面温度90℃のホットローラーにて加熱した後、2.7倍の延伸倍率を付与しつつ、表面温度180℃のホットプレート上を通過させた後、ボビン状に巻き取り、28dtex3フィラメントの導電性複合繊維を得た。製糸性は収率90%で、問題なく生産できるレベルであった。
【0024】
得られた導電性複合繊維はダウンツイスターにて、33dtex12フィラメントのポリエステル繊維と300T/mの条件で合撚した。得られた合撚糸はタテ・ヨコ共に84dtex72フィラメントのポリエステル繊維に対して80本に1本の間隔でウォータージェットルーム製織機を用い、タテ30本/cm、ヨコ20本/cmのツイル布帛をとした。高次工程通過性としては、糸切れ発生頻度は3回であり、問題なく生産可能なレベルであった。得られた布帛の表面電気抵抗値は10Ωであり、良好な除電性能を有していた。
【0025】
実施例2
成分Aの分割数が1となるような複合紡糸口金を用い、繊維全体に対するA成分配合量を5%とした以外は、実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。
【0026】
成分Aの分割数が1とすることにより繊維横断面における点対称性が失われ、複合口金より紡出された糸条が曲がり、口金面に接触することに起因した糸切れが発生したものの、
収率は84%であり、生産可能なレベルであった。高次工程通過性としては糸切れ発生頻度2回であり、問題なく生産可能であった。また、得られた布帛の表面電気抵抗値は10Ωであり、十分な除電性能を有していた。
【0027】
実施例3
成分Bを固有粘度0.48のPETとした以外、実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。
【0028】
成分Bとして固有粘度が低いPETを用いたため、強度が低下したことに伴う、製糸工程・高次工程での毛羽発生があったものの、製糸工程の収率82%、高次工程での糸切れ発生頻度8回であり、いずれも生産可能のレベルであった。得られた布帛の表面電気抵抗値は10であり、良好な除電性能を有していた。
【0029】
実施例4
得られる導電性複合繊維が28dtex9フィラメントとなる複合紡糸口金を用いた以外は実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。
【0030】
単糸繊維繊度が細くなったことにより、延伸工程での毛羽が発生したものの、収率84%であり、生産可能なレベルであった。高次工程通過性としては、ダウンツイスターの糸道での毛羽発生があったものの糸切れ発生頻度6回であり、生産可能なレベルであった。また、得られた布帛の表面電気抵抗値は10であり、十分な除電性能を有していた。
【0031】
実施例5
繊維全体に対するA成分配合量を2%とした以外は実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。製糸性としては収率96%、高次工程通過性は糸切れ発生頻度2回であり、いずれも問題なく生産可能なレベルであった。得られた布帛の表面電気抵抗値は10であり、若干抵抗値が高めであったものの、実使用上十分な除電性能をを有していた。
【0032】
実施例6
繊維全体に対するA成分配合量を35%とした以外は実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。A成分配合量の増加に起因する延伸時の毛羽・糸切れ、合撚時の糸道での毛羽・糸切れがあったものの、製糸性としては収率84%、高次通過性としては糸切れ発生頻度8回であり、いずれも生産可能なレベルであった。得られた布帛の表面電気抵抗値は10であり、良好な除電性能を有していた。
【0033】
実施例7
成分Aのカーボンブラック含有量を25%に変更した以外は実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。製糸性としては収率91%・高次通過性として糸切れ頻度3回であり、いずれも問題なく生産可能なレベルであった。得られた布帛の表面電気抵抗値は10であり、実用上十分な除電性能を有していた。
【0034】
実施例8
成分Aのカーボンブラック含有量を40%に変更した以外は実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。カーボンブラック含有量増加に起因する紡糸・延伸糸切れ発生したものの、収率としては79%であり、生産可能なレベルであった。高次通過性としては糸切れ頻度4回であり、問題なく生産可能であった。得られた布帛の表面電気抵抗値は10であり、良好な除電性能を有していた。
【0035】
実施例9
r/Rが0.6となるような紡糸口金を使用した以外は実施例1と同様の方法で導電性複合繊維を得た。製糸工程では延伸糸切れが発生したが、収率82%であり、生産可能なレベルにあった。また、高次加工では、糸道や筬羽によって導電成分が剥離し、糸切れ頻度8回となったが、生産可能なレベルであった。得られた布帛の表面電気抵抗値は10であり、良好な除電性能を有していた。
【0036】
実施例10
繊維断面における成分Aの分割数が4となるような紡糸口金を使用した以外は実施例1と同様の方法で導電性複合繊維を得た。製糸工程での収率90%、高次加工での糸切れ発生頻度4回であり、いずれも問題なく生産可能なレベルであった。得られた布帛の表面電気抵抗値は10であり、良好な除電性能を有していた。
【0037】
比較例1
成分Aチップ中のカーボンブラック含有量を10%とした以外は実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。製糸性・高次工程通過性は良好であったものの、布帛の表面電気抵抗値は1010であり、除電効果は不十分であった。
【0038】
比較例2
成分Aチップ中のカーボンブラック含有量を60%とした以外は実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。カーボンブラック含有量が高いため、成分Aは著しく曳糸性が低下し、紡糸時にて糸切れが多発し、満足に導電性複合繊維を採取できなかった。
【0039】
比較例3
図2の如く、得られる導電繊維の繊維横断面おける成分Aと成分Bの接合曲線が、成分Bに向かって凸となる複合紡糸口金を用い、繊維全体成分Aの配合量を43%とした以外、実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。繊維横断面外周における成分Aの占有率を実施例1と同等にするためには、繊維全体に対するA成分の配合量を多くせねばならず、結果として、製糸工程では収率64%、高次工程での糸切れ発生頻度24回と、いずれも生産できるレベルになかった。
【0040】
比較例4
得られる導電性複合繊維横断面におけるA成分とB成分の接合曲線の最小曲線半径と単糸繊維半径Rの比、r/Rが1.0となるような複合紡糸口金を使用した以外、実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。
【0041】
製糸工程では、延伸時に成分Aの剥離が発生し、収率は81%であった。高次工程では、ダウンツイスターの糸道での成分Aの剥離による糸切れが多発し、糸切れ発生頻度12回と、生産不可能なレベルであった。
【0042】
比較例5
得られる導電性複合繊維の横断面外周における成分Aの占有割合が1%となるような複合紡糸口金を使用し、繊維全体に対する成分Aの配合量を5%とした以外、実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。
【0043】
製糸工程での収率92%、高次工程での糸切れ発生頻度3回と、いずれも生産可能なレベルであったが、得られた布帛の表面電気抵抗値は1010であり、除電性能が不十分であった。
【0044】
比較例6
得られる導電性複合繊維の横断面外周における成分Aの占有割合が50%となるような複合紡糸口金を使用し、繊維全体に対する成分Aの配合量を13%とした以外、実施例1と同様の方法で導電性複合繊維と布帛を得た。
【0045】
製糸工程での収率は83%であり、生産可能なレベルであったものの、高次工程にて成分Aの剥離による糸切れが多発し、発生頻度12回と生産不可能なレベルであった。
以上の実施例を表1に、比較例を表2にそれぞれまとめた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態を示す、導電性複合繊維の横断面模式図
【図2】比較例3で得られた導電性複合繊維の単繊維横断面模式図
【図3】本発明導電性複合繊維の単繊維横断面の一例
【図4】本発明導電性複合繊維の単繊維横断面の一例
【図5】本発明導電性複合繊維の単繊維横断面の一例
【符号の説明】
【0049】
1:成分A
2:成分B
D:導電性複合繊維横断面における成分Aと成分Bの接合曲線と繊維表面の接点
E:導電性複合繊維横断面における成分Aと成分Bの接合曲線の頂点
r:導電性複合繊維横断面における成分Aと成分Bの接合曲線の最小曲線半径
R:導電性複合繊維の単繊維直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性カーボンブラックを15〜50重量%含有する熱可塑性樹脂Aと、繊維形成性ポリエステル系熱可塑性樹脂Bを接合してなる導電性複合繊維の単繊維横断面において、成分Aと成分Bの接合面曲線DEが成分Aに向かって凸であり、その接合面曲線の最小曲線半径rと単繊維半径Rの比、r/Rが0.6以下であり、繊維横断面外周における成分Aが占める周長が全周長の2〜40%であることを特徴とする導電性複合繊維。
【請求項2】
導電性カーボンブラックを含有する熱可塑性樹脂Aが導電性繊維全重量の3〜30重量%であることを特徴とする請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項3】
単繊維繊度が1.0dtex以上、破断強度が2.5cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性複合繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−274502(P2006−274502A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97278(P2005−97278)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】