説明

導電性重合体の製造方法

【目的】 1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン構造を含む重合体から、あるいは加工性、成形性に優れた前躯体ポリマーから温和な条件で高い導電性を有する重合体または樹脂複合成形体の製造。
【構成】 一般式(I)
【化1】


(式中、R1 及びR2 ;Hまたはアルキル基、アルコキシ基等の置換基)で表される化学構造を含む重合体にスルホン化剤を作用させて導電性重合体とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、極めて安定で、水に対して高い溶解度を有する新規導電性重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、電気、電子工業の分野において、加工性に関して要求度の高い電極、センサー、エレクトロニクス表示素子、非線形光学素子、光電変換素子、帯電防止剤他、各種導電材料あるいは光学材料として用いるのに特に適した新規水溶性導電性重合体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】π電子共役系の発達したポリマーは、導電性のみならず金属/半導体転移における状態変化などの特異な物性のために工業的に注目され、多くの用途を目指した研究がなされてきた。中でも、ブレンステッド酸基をポリマー主鎖に直接、またはスペーサーを介して間接的に共有結合させることにより得られる水溶性自己ドープ型共役系ポリマーは、外来ドーパントの寄与なしに長期間にわたって安定な導電状態を示す点で特に注目されてきた。
【0003】具体的な先行例として、例えばF.WudlらやE.E.Havingaらのアルカンスルホン酸基を有するポリチオフェン誘導体(Journal ofAmerican Chemical Society誌、109巻1858頁、1987年;Polymer Bulletin誌、18巻277頁、1987年)、Aldissiのポリチオフェン誘導体やポリピロール誘導体(米国特許4880508号)、ポリアニリンの芳香環に置換基としてカルボン酸基を共有結合させた重合体(特許公表公報平1−500835号)、ピロールのN位にプロパンスルホン酸基が置換した重合体(Journal of Chemical Society,Chemical Communication誌、621頁、1987年)、N位にプロパンスルホン酸基が置換したポリアニリン重合体(Journal of Chemical Society, Chemical Communication誌、180頁、1990年;Synthetic Metals誌、31巻369頁、1989年)、芳香環に直接スルホン酸基が置換したポリアニリン誘導体(Journal of American Chemical Society誌,112巻2800頁、1990年)などがこれまで製造法と共に開示されている。
【0004】一方、二環式系導電性重合体、例えばイソチアナフテン構造を有する重合体は、Journal of Organic Chemistry誌,49巻,3382頁、1984年;等に製造法と共に開示されており、エネルギーギャップ(Eg)が1.1eVと極めて小さく、安定な導電状態を示すことが知られている。しかしながらポリイソチアナフテンは不溶不融であり成形加工性が極めて悪い。そのため、アルキル基あるいはアルコキシ基を導入することにより、有機溶媒に可溶とする方法が特開平2−242816号等に開示されている。
【0005】また繰り返し構造単位のイソチアナフテニレン骨格に電子吸引性基や電子供与性基を導入すると、半導体としての電子状態に影響を与えることをBredasらは計算結果によって報告している(Journal of ChemicalPhysics誌,85巻(8),4673頁、1986年)。また関連する例としては、ハロゲンを置換基とする重合体(特開昭63−307604号)や、電子吸引性基を置換基とする重合体を列挙した公報(特開平2−252727号)もあるが、何れも本発明に関する重合体についての特性に関しなんら記載されておらず、その製造方法についても具体的な開示はない。
【0006】一方、1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン構造を有する重合体からポリイソチアナフテンを製造する方法としては、電気化学的な酸化的脱水素反応による方法(特開昭63−307604号)、塩化スルフリルとの気相反応による酸化的反応(Synthetic Metals誌、31巻395頁1989年)及びN−クロルサクシンイミド(NCS)との反応(Synthetic Metals誌、47巻367頁1992年)による製造法がこれまでに知られている。これらの先行技術には、ポリ(1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン)が有機溶媒に可溶な重合物であるとの利点を活かして、不溶不融のポリイソチアナフテンフィルム等の成形体製造法が記載されている。
【0007】しかしながら、製造されたポリイソチアナフテンが不溶不融であるために、加工性が制限される欠点があった。また、高分子反応においてポリイソチアナフテンが不溶不融であるために発煙硫酸等のスルホン化剤を作用しても、それだけでは反応は内部まで充分進行せず、水溶性のπ電子共役系重合体を製造することはできなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン構造を含む重合体からスルホン化剤を作用させることにより、スルホン酸基が置換したイソチアナフテニレン構造を含む水溶性の導電性重合体を簡便に提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は一般式(I)
【化5】


(式中、R1 及びR2 はそれぞれ独立にH、または炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基またはアルコキシ基、ハロゲン、ニトロ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基、置換フェニル基を表す。R1 、R2 のアルキル基またはアルコキシ基には、カルボニル、エーテル、アミド結合を任意に含んでも良い。)で表される化学構造を含む重合体に、スルホン化剤を作用させることにより、下記一般式(II)
【化6】


(式中、R1 、R2 は前記と同じであり、MはH+ もしくはNa+ 、Li+ 、K+ 等のアルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンもしくはアルキル置換した第4級アンモニウムイオン等のカチオンを表す。mは0.2〜2の範囲である。)で表される化学構造を含む重合体を製造することを特徴とする導電性重合体の製造方法に関する。
【0010】また一般式(I)
【化7】


(式中、R1 、R2 は前記と同じ)で表される化学構造を含む重合体または該重合体と他の樹脂との複合物成形体にスルホン化剤を作用させることにより、一般式(II)
【化8】


(式中、R1 、R2 、M及びmは前記と同じ)で表される化学構造を含む重合体または該重合体と他の樹脂との複合物成形体を製造することを特徴とする導電性重合体成形物の製造方法に関する。
【0011】本発明の製造方法は、前述したように例えば、公知のポリ(1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン)構造を含む重合体にスルホン化剤または酸化剤の存在下スルホン化剤を反応させることにより、実用的な水溶性導電性重合体を提供することにある。このスルホン化剤を用いる製造方法は、主鎖がπ電子非共役系の重合物を酸化的脱水素反応とスルホン化置換反応の2つの反応を起こさせることによって、水溶性導電性重合体を与える新規な製造法である。
【0012】従って、前躯体からの成形及び従来困難であった他の樹脂との複合化を可能にする。
【0013】一般式(I)で表される重合体として、例えばR1 =R2 =Hのポリ(1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン)は、公知の方法、例えばA.J.Heegerらによる特開昭61−17581号に記載の方法で容易に製造することができる。
【0014】一般式(I)に表される置換基R1 及びR2 は、スルホン化反応及び酸化的脱水素反応を阻害しない置換基であれば何でもよく、例えばそれぞれ独立にH、または直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、ハロゲン、ニトロ基、脂肪族あるいは芳香族などで置換された1級、2級または3級アミノ基、トリクロロメチル等のトリハロメチル基、フェニル基、置換フェニル基等から選ばれる。上記炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基の鎖中には、カルボニル、エーテル、アミド結合を含有しても良い。
【0015】ここでR1 及びR2 として有用な例としては、水素、アルキル基、アルコキシ基が挙げられる。これらの置換基を更に詳しく例示すれば、アルキル基としてはメチル、エチル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、メトキシエチル、エトキシエチル、アセトニル、フェナシルなど、アルコキシ基としてはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、オクチルオキシ、ドデシルオキシなどの基が挙げられる。
【0016】またR1 及びR2 として上記以外に置換基の例としてメチルアミノ、エチルアミノ、ジフェニルアミノ、アニリノなどのアミノ基、トリフルオロメチル基、フェニル基、トシル基、キシリル基、アセトアミド基などのアシルアミド基等が挙げられる。
【0017】一般式(I)で表される化学構造を含む前躯体ポリマーは、1000以上の分子量を示す高分子である。
【0018】一般式(I)で表される重合体をスルホン化剤を、スルホン化剤の種類によって、好ましくは酸化剤の共存下に反応させることによって、一般式(II)で表される化学構造を含む重合体が製造される。
【0019】具体的には、一般式(I)で表される重合物に対して、酸化能を有するスルホン化剤または酸化剤と併用してこれを用いた場合、同一反応液中でスルホン化置換反応及び酸化的脱水素反応が起こり、一般式(II)で表される化学構造を含む重合体が得られる。
【0020】この製造方法において用いられるスルホン化剤としては、一般に硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸等が挙げられ、中でも発煙硫酸、三酸化硫黄が好ましい。また複数のスルホン化剤を混合して用いても良い。
【0021】スルホン化剤の使用量は、一般式(I)で表される化学構造を含む重合体やスルホン化剤の種類によって異なるので一概には決められないが、一般には重合体中に含まれる一般式(I)で表される化学構造1等量に対し1.1倍等量から20倍等量の範囲で用いるのが望ましい。
【0022】また、前記スルホン化剤は他の酸化剤または酸化的脱水素剤、例えばオゾン、パーオキサイド、過酸、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン、テトラクロロ−1,2−ベンゾキノン、テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン、テトラシアノ−1,4−ベンゾキノン等のキノン類、ヨウ素、臭素等のハロゲン類、無水塩化アルミニウム/塩化第一銅、無水塩化第二鉄及びバナジウム系、マンガン系、ニッケル系などの金属錯体触媒を用いた酸素酸化剤等及びこれらの組み合わせ等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0023】これらを用いるときは、反応温度の低下、反応時間の短縮、収率の向上などが期待できるので、酸化力の弱いスルホン化剤を使用するときに有用である。
【0024】本製造法に用いられる一般式(I)で表される化学構造を含む重合体の濃度は、その重合体の種類や反応スケールまたは他の溶媒の種類によって異なるが、一般には10-2〜10kg/リットルの範囲が望ましい。
【0025】また反応温度は、それぞれの反応方法によって定められるもので、特に限定できるものではないが、一般には−80℃から250℃の温度範囲が望ましく、特に−30℃〜150℃の温度範囲で行われることが望ましい。反応時間は、反応方法及び反応温度、反応圧力あるいは重合体の化学構造等によって異なるので一概には規定できないが、通常は0.01時間から240時間が望ましい。反応圧力は、常圧で行われることが好ましいが、10-5気圧から100気圧下で行うことができる。
【0026】スルホン化反応および酸化的脱水素反応は全体をスルホン化および酸化的脱水素する時は、スルホン化剤または反応溶媒を用いて溶解した溶液反応であることが必要であり、表面だけで良いときは気相、無溶媒、または貪溶媒中で行うことができる。必要に応じて本発明の製造法で用いられる反応溶媒は、反応温度や反応時間、または用いられるスルホン化剤や重合体の化学構造によって異なるので一概には規定できないが、重合物及びスルホン化剤を溶解し、かつ酸化的脱水素反応やスルホン化置換反応を阻害しないならば、どのような溶媒であっても良い。例えば、具体的には水、硫酸、発煙硫酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、無水酢酸、あるいはテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の極性溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルム、塩化メチレン等の非芳香族性の塩素系溶媒等が用いられる。更にはこれらの混合溶媒を用いることもできる。
【0027】スルホン化反応の副反応として公知のスルホン結合を有する不溶性のポリマー(副生成物)の生成を抑制するため、反応を阻害しない範囲で公知のスルホン抑制剤、例えば脂肪酸、有機過酸、酸無水物、ピリジン、酢酸またはケトン等を0.01〜50重量%添加しても良い。
【0028】上述の製造方法により得られた一般式(II)で表される化学構造を含む重合体は、水に対して高い溶解性を示し、限外濾過、透析及び/またはイオン交換操作によって単離精製することができる。更に一般式(II)で表される重合体が反応溶媒から析出物として得られる場合には、濾過、再沈殿及び/または溶媒分別法等によって単離精製を行うことができる。
【0029】本発明の製造法で製造される一般式(II)に表される化学構造を含む重合体において、式中スルホン酸基の置換率を示すmは0.2から2の範囲であり、特に0.4から1.3の範囲が好ましい。
【0030】MはH+ 、Na+ 、Li+ ,K+ 等のアルカリ金属イオンや、NH4+、N(CH34+、N(C654+、PH4+、P(CH34+、P(C654+、AsH4+、As(CH34+,As(C654+等のVb族元素のアルキル置換、またはアリール置換型カチオンが用いられる。特定カチオンに変換するには、通常のイオン交換樹脂でイオン交換することにより任意のカチオンに変換することができる。
【0031】一般式(II)の式中MがH+ の場合、水溶液中では外来のドーパントがなくても自己ドーピング状態を示し、特に高濃度ではゲル状態を示すこともあるなど、Mを変えることにより種々の溶媒に対する溶解性や溶媒親和性を変えることができる。
【0032】また成形体であってその表面が一般式(II)で表される化学構造を含む重合体成形体または他の樹脂との複合体となっている表面が導電性成形体は、一般式(I)の1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン構造を含む重合体の成形体または該重合体と他の樹脂との複合体からなる成形体から製造することができる。
【0033】この場合、一般式(I)の化学構造を含む重合体の成形体または該重合体と他の樹脂との複合体をスルホン化剤とまたは酸化剤の共存下、液固反応もしくは気固反応で反応させる。即ち、一般式(I)の構造を含む重合体が有機溶媒に可溶な化合物であっても、一般式(I)で表される化学構造を含む重合物成形体または該重合体と他の樹脂との複合体成形体を成形体の形状を崩さず、一般式(II)で表される化学構造を表面に有する重合体を表面に有する成形体の製造ができる。
【0034】一般式(II)で表される化学構造を含む重合物からなる種々の成形体は、一般式(I)の構造を含む重合体の有機溶媒に対する溶解性の利点を活かして、同様にフィルム(例えばスピンキャスト法)、線状成形物、あるいは棒状、板状、シート状、その他の固体の成形体を一般の高分子工業で行われる成形、製膜方法で容易に製造することができる。
【0035】一般式(I)で表される化学構造を含む重合物と他の樹脂との複合体は一般式(I)の構造を含む重合体の有機溶媒に対する溶解性の利点を生かして複合化する。この際、溶媒が共通または混合可能な樹脂なら何でもよく、例えば低密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル等を用い、溶液状態において他の樹脂と溶解もしくは混合し、その溶液から任意組成比を有する成形体を形成することもできる。通常使用する樹脂の割合は、本重合体に対し10〜500%の範囲が好ましい。また、このとき用いられる溶媒としては、トリクロロエチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の極性溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒など、双方の化合物を溶解もしくは高い親和性を示すものであれば何でも良い。二成分以上の混合溶媒系でも良い。
【0036】このようにして製造された成形体、特に樹脂表面に存在する一般式(I)はスルホン化剤の作用により一般式(II)式で表される化学構造を含む重合体に変換され、無色から黒青色になる。この方法により形成した成形体は極めて安定な導電状態を維持する。
【0037】本発明の一般式(II)で表される化学構造を含む水溶性導電性重合体は、公知の水溶性導電性重合体、例えばポリチオフェン誘導体(特開平2−242816号)と比較すると、半導体としてのエネルギーギャップが約1.1eVと小さく、低いドーピングレベルで高い導電性を示し、その導電状態が極めて安定に得られるという特徴を持つ。そのため、特にドーピング時には可視光の吸光度が小さくなるため、安定性に優れた透明導電体としても期待できる。
【0038】
【作用】本発明においては、一般式(I)で表される二環複素環式の重合体にスルホン化剤を作用させて、一般式(II)で表される化学構造を含む新規な水溶性導電性重合体が得られたことに基づくものであり、スルホン化剤の種類によっては好ましくは他の酸化的脱水素剤の共存下にスルホン化置換反応と酸化的な脱水素反応を同時に行わせる特殊な反応によって初めて得られたものである。
【0039】
【実施例】以下、実施例によって、本発明を更に詳しく説明する。しかし、本発明の技術的範囲をこれらの実施例によって限定されるものでない。
(実施例1)
一般式(II)で表される重合体の製造方法<R1 =R2 =H、M=Na+ >室温下、ポリ(1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン)500mgに発煙硫酸(20% SO3 )4mlを撹拌しながら加えた。直ちに反応液は濃青色を呈した。室温下3日撹拌した後、反応混合物を100mlの0.1N NaOH/メタノール中に投入し、沈降した重合物を遠心分離した。重合物を水100mlに溶解し透析膜を通して不純物の硫酸ナトリウムを除去した。水溶液から水を留去し、真空乾燥してNa型の濃青色ポリマー172mgを得た(収率34%)。得られたポリマーの紫外可視スペクトルを図1に示す。GPCにより測定した分子量分布を図2に示す。赤外線吸収スペクトルを図3R>3に示す。
元素分析値(%)[C8323 Na]
理論値:C;41.02%,H;1.29%,S;27.38%,Na;9.82%実測値:C;41.47%,H;1.41%,S;27.81%,Na;9.58%
【0040】(実施例2)
一般式(II)で表される重合体の製造方法<R1 =R2 =H、M=H+ >実施例1と同様の方法で製造した反応混合物200mgを約500mlの水に溶解し、塩酸でpHを1.9に調整し限外濾過によって精製、濃縮した後、溶媒留去、真空乾燥により黒色ポリマー150mgを得た。得られたポリマーの水溶液の紫外可視スペクトルを図4に示す。次にNaOHを加えpH8付近に調整すると、溶液中のポリマーは図1に示される紫外可視スペクトルに戻った。本製造法で得られた重合物の電導度を四端子法で測定した結果、1S/cmであった。
【0041】(実施例3)
一般式(II)で表される重合体の製造方法<R1 =R2 =H、M=Li+ >実施例2と同様の方法で製造した黒色ポリマー600mgを水150mlに溶解し、Li型のイオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B)でイオン交換処理することによってLi型重合物水溶液を得た。水を蒸発させると濃青色ポリマー605mgを得た。得られたポリマーの紫外可視スペクトルは実施例1で得られたものと同等であり、赤外線吸収スペクトルは図5に示した。
元素分析値(%)[C8323 Li]
理論値:C;44.04%,H;1.39%,S;29.39%,Li;3.18%実測値:C;44.59%,H;1.62%,S;28.96%,Li;2.90%
【0042】(実施例4)
一般式(II)で表される重合体の製造方法<R1 =R2 =H、M=Na+ >室温下、ポリ(1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン)500mgを1mlの過酢酸溶液(新実験化学講座 17巻 酸化と還元I−2 741頁 に記載の方法で調製した。)に5℃以下で溶かした。更に5℃以下に冷却しながら発煙硫酸(20% SO3 )2mlを撹拌しながら加えた。直ちに反応液は濃青色を呈した。室温下1日撹拌した後、反応混合物を100mlの0.1N NaOH/メタノールに投入し、沈降した重合物を遠心分離した。重合物を水100mlに溶解し、透析膜を通して不純物の硫酸ナトリウムを除去した。水溶液から水を留去し、真空乾燥してNa型の濃青色ポリマー195mgを得た。得られたポリマーの紫外可視スペクトルと赤外線吸収スペクトルは、実施例1で得られたものと同様であった。
【0043】(実施例5)
一般式(II)で表される重合体の製造方法<R1 =H、R2 =O(CH29CH3 、M=Na+ >特開平2−242816号公報に記載の方法で製造したポリ(5−デシルオキシ−1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン)500mgを撹拌しながら、発煙硫酸(20% SO3 )4.0mlをゆっくりと加えた。直ちに反応液は濃青色を呈した。反応混合物を100mlの0.5N NaOH/メタノールに沈降させ、遠心分離により分離した。固体を水100mlに溶かし、透析により過剰の硫酸ナトリウムを除去した後、溶媒留去、真空乾燥して黒色ポリマー120mgを得た。得られたポリマーの紫外可視スペクトルは、実施例1で得られたものと同様であった。
【0044】(実施例6)
一般式(II)で表される重合体の製造方法<R1 =R2 =H、M=Na+ >室温下、ポリ(1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン)500mgを1mlの氷酢酸に溶かした液に発煙硫酸(20% SO3 含有)4mlを撹拌しながら加えた。ただちに反応液は濃青色を呈した。室温下3日撹拌した後、反応混合物を100mlの0.1N NaOH/メタノール中に投入し、沈降した重合物を遠心分離した。重合物を水100mlに溶解し透析膜を通して不純物の硫酸ナトリウムを除去した。水溶液から水を留去し真空乾燥してNa型の濃青色ポリマー201mgを得た。得られたポリマーの紫外可視スペクトルと赤外線吸収スペクトルは、実施例1で得られたものと同様であった。
【0045】(実施例7)
一般式(II)で表される重合体<R1 =R2 =H、M=H+ >を含む導電性樹脂成形体の製造方法100mlのナスフラスコにトリクロロエチレンを10mlとり、これに加温しながら低密度ポリエチレン900mgとポリ(1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン)100mgを溶解させた。この混合溶液を並ガラス基板(6cm角)上にスピンコートで成膜し減圧乾燥して透明フィルムを作製した。次にフィルムを剥離した後、室温下発煙硫酸(20% SO3 )4ml中に投入し、3日間放置した。フィルムは白色透明から淡黒灰色に変わった。フィルムを水洗し風乾した結果、しなやかな複合フィルムを合成した。得られた複合ポリマーの紫外可視スペクトルを図6に示した。複合フィルムの電気伝導度を四端子法で測定した結果、3X10-2S/cmであった。
【0046】(実施例8)
一般式(II)で表される重合体<R1 =R2 =H、M=H+ >を含む導電性樹脂成形体の製造方法100mlのナスフラスコにTHFを15mlとり、これに加温しながらポリ塩化ビニル1gとポリ(1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン)500mgを溶かした。この混合溶液を並ガラス基板(6cm角)上にスピンコートで成膜し減圧乾燥して白色のフィルムを作製した。剥離したフィルムを室温下、発煙硫酸(20% SO3 )4ml中に投入し、10時間後取り出した。淡黒灰色のフィルムを水洗し風乾した。得られた複合ポリマーの紫外可視スペクトルを図7に示した。
【0047】(実施例9)
一般式(II)で表される重合体<R1 =R2 =H、M=H+ >を含む導電性樹脂成形体の製造方法100mlのナスフラスコにトリクロロエチレンを10mlとり、これに加温しながら低密度ポリエチレン900mgとポリ(1,3−ジヒドロイソチアナフテニレン)100mgを溶解させた。この混合溶液を並ガラス基板(6cm角)上にスピンコートで成膜し減圧乾燥して透明フィルムを作製した。ガラス基板から剥離したフィルム表面に水を噴霧した後、三酸化硫黄500mgの入った密閉容器に40℃で30日間保存した。フィルムは白色透明から淡黒灰色にかわった。フィルムを水洗し風乾した結果、しなやかな複合フィルムを合成した。得られた複合ポリマーの紫外可視スペクトルを図8に示した。
【0048】
【発明の効果】本発明の製造法で製造された導電性重合体は、水溶性であって、加工性の優れた高い導電性重合体であり、そのため精密な加工の要求される電極、センサー、エレクトロニクス表示素子、非線形光学素子、光学変換素子、帯電防止材など各種導電材料あるいは光学材料として有用なものである。また、本発明に製造法の特徴は原料に加工、成形性に優れた前躯体ポリマーを用い、温和な条件で高い導電性を有する重合体及び樹脂成形体、樹脂複合成形体を製造するのに特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得た重合体の紫外可視スペクトルである。
【図2】実施例1で得た重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフである。
【図3】実施例1で得た重合体の赤外線吸収スペクトルである。
【図4】実施例2で得た重合体の紫外可視スペクトルである。
【図5】実施例3で得た重合体の赤外線吸収スペクトルである。
【図6】実施例7で得た重合体の紫外可視スペクトルである。
【図7】実施例8で得た重合体の紫外可視スペクトルである。
【図8】実施例9で得た重合体の紫外可視スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式(I)
【化1】


(式中、R1 及びR2 はそれぞれ独立にH、または炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基またはアルコキシ基、ハロゲン、ニトロ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基、置換フェニル基を表す。R1 、R2 のアルキル基またはアルコキシ基には、カルボニル、エーテル、アミド結合を任意に含んでも良い。)で表される化学構造を含む重合体にスルホン化剤を作用させることにより、下記一般式(II)
【化2】


(式中、R1 、R2 は前記と同じであり、MはH+ もしくはNa+ 、Li+ 、K+ 等のアルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンもしくはアルキル置換した第4級アンモニウムイオン等のカチオンを表す。mは0.2〜2の範囲である。)で表される化学構造を含む重合体を製造することを特徴とする導電性重合体の製造方法。
【請求項2】 一般式(I)
【化3】


(式中、R1 、R2 は前記と同じ)で表される化学構造を含む重合体または該重合体と他の樹脂との複合物成形体にスルホン化剤を作用させることにより、一般式(II)
【化4】


(式中、R1 、R2 、M及びmは前記と同じ)で表される化学構造を含む重合体または該重合体と他の樹脂との複合物成形体を製造することを特徴とする導電性重合体成形物の製造方法。
【請求項3】 重合体にスルホン化剤を作用させるに際し、酸化剤の共存下に行う請求項1または2記載の導電性重合体または導電性重合体成形物の製造方法。

【図1】
image rotate


【図3】
image rotate


【図2】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【公開番号】特開平6−256516
【公開日】平成6年(1994)9月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−73021
【出願日】平成5年(1993)3月8日
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)