説明

導電性重合体の製造方法

【構成】 一般式(I)
【化1】


で表される化合物を重合させて、前記化合物の1,3−位が酸化された構造単位を繰返し単位として含むことを特徴とする主鎖がπ電子共役構造を有する導電性重合体の製造方法。
【効果】 本発明の製造方法により、スルホン酸基を有する導電性重合体が容易に製造でき、該重合体として、ホモポリマーだけでなく、π共役系主鎖骨格を構成する共重合体組成を制御して容易に共重合体を製造することができる。また、重合体がスルホン酸基を有することから自己ドーピング機能を持った電導度の安定な重合体を与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、溶媒に対して高い溶解度を有し極めて安定な導電性重合体およびその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、電気、電子工業の分野において、加工性要求度の高い電極、センサー、エレクトロニクス表示素子、非線形光学素子、光電変換素子、帯電防止剤ほか、各種導電材料あるいは光学材料として用いるのに特に適した導電性重合体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】π電子共役系の発達した導電性重合体は、導電性のみならず金属/半導体転移における化学的あるいは物理的状態変化などの特異な物性のために工業的に注目され、多くの用途を目指した研究がなされてきた。縮合ヘテロ多環式化合物のうち、π共役構造がキノイド構造を有するイソチアナフテン、ベンゾ[c]フラン、ナフト[2,3−c]チオフェンなどは極めて反応性が高く、単離するために特別の工夫を要する化合物であることが知られている(Journal of Organic Chemistry誌、36巻、3932頁、1971年及びRecl. Trav. Chim. Pays-Bas誌、87巻、1006頁、1968年)。
【0003】これらのうち、ヘテロ二環式導電性重合体であるイソチアナフテン構造を有する重合体は、Journal of Organic Chemistry誌、49巻、3382頁、1984年等に電気化学的重合法及び化学的酸化重合法と共に特徴が開示されており、エネルギーギャップ(Eg)が1.1eVと極めて小さく安定な導電状態を示すことが知られている。しかしながら、製造されたポリイソチアナフテンが不溶不融であるために、加工性が制限される欠点があった。そのため、アルキル基あるいはアルコキシ基を繰返し構造単位中に導入することにより、有機溶媒に可溶とする方法が特開平2−242816号等に開示されている。
【0004】スルホン酸基を有しない1,3−ジヒドロイソチアナフテンの酸化的化学重合法については、例えば、特開昭63−118323号公報及びUSP4789748号公報)にそれぞれ製造方法が示されている。
【0005】また繰返し構造単位のイソチアナフテニレン骨格に電子吸引性基や電子供与性基を導入すると、半導体としての電子状態に影響を与えることをBredasらは計算結果によって報告している(Journal of Chemical Physics 誌、85巻(8)、4673頁、1986年)。また、関連する例としては、ハロゲンを置換基とした重合体(特開昭63−307604号)や、電子吸引性基を置換基とする重合体を列挙した公報(特開平2−252727号)もあるが、その製造方法について具体的な開示はされていない。また、ヘテロ三環式導電性重合体であるナフト[2,3−c]チオフェン構造を有する重合体は、Synthetic Metals誌、35巻、263頁、1990年に製造方法が報告されている。
【0006】しかしながら、何れも本発明に関するスルホン酸置換基を有する縮合ヘテロ多環式重合体についての特性に関し何ら記載されておらず、その製造方法についても具体的な開示はない。
【0007】一方、スルホン酸のようなブレンステッド酸基をポリマ−主鎖に直接またはスペーサーを介して間接的に共有結合させることにより得られる水溶性の自己ドープ型のπ電子共役系ポリマーは、外来ドーパントの寄与なしに長期間にわたって安定な導電状態を示す点で注目されてきた。
【0008】具体的な例として、例えばアルカンスルホン酸基を有するポリチオフェン誘導体(F.Wudlら Journal of American Chemical Society 誌、109巻、1858頁、1987年や E.E.HavingaらPolymer Bulletin誌、18巻、277頁、1987年)、Aldissi のポリチオフェン誘導体やポリピロ−ル誘導体(米国特許4880508号)、ポリアニリンの芳香環に置換基としてアルカンスルホン酸基やアルキルカルボン酸基を有する重合体(特開昭63−39916号)、ピロールのN位にプロパンスルホン酸基が置換した重合体(Journal of Chemical Society 、Chemical Communication誌、621頁、1987年)、N位にプロパンスルホン酸基が置換したポリアニリン誘導体(Journal of Chemical Society 、Chemical Communication誌、180頁、1990年やSynthetic Metals誌、31巻、369頁、1989年)、芳香環に直接スルホン酸基が置換したポリアニリン誘導体(Journal of American Chemical Society誌、112巻、2800頁、1990年)、N位にアルカンスルホン酸基が置換したポリカルバゾール誘導体(USP5,130,412号公報)などが製造法と共に開示されている。また、特開平2−189333号公報には、アルカンスルホン酸基を有するチオフェン誘導体モノマーの酸化的化学重合法が開示されている。
【0009】しかしながら、上記の何れの製造法も、本発明に係わるスルホン酸基を有する縮合ヘテロ多環式化合物の化学的重合反応に関しては具体的に開示していない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、スルホン酸基を有する縮合ヘテロ多環式化合物を原料として重合させることにより、スルホン酸基を有する縮合ヘテロ多環式化合物構造を含む導電性重合体の製造方法を提供することにある。また、本発明は、スルホン酸基を有する縮合ヘテロ多環式化合物を原料として、単独、もしくは他の芳香族化合物及び/または複素環化合物及び/またはπ電子共役構造を形成し得る化合物と共に重合させることにより、スルホン酸基を有する縮合ヘテロ多環式化合物構造を含む導電性重合体の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は 一般式(I)
【化5】


(式中、置換基R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 はそれぞれ独立にH、または炭素数1乃至20の、望ましくは1乃至12の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和の、アルキル、アルコキシまたはアルキルエステル基、SO3-M、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。但し、R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 からなる置換基群には、SO3-Mが同時に2つ以上含まれることはない。R1 、R2 、R3 、R4 またはR5 の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に、少なくとも1つ以上の3乃至7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を少なくとも1つ以上形成してもよい。R1 、R2 、R3 、R4及びR5 のアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基またはそれらによって形成される環状炭化水素鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ等の結合を任意に含んでもよい。X1 、X2 、X3 及びX4 はそれぞれ独立にHまたはハロゲンを表わす。MはH+ 、またはNa+ 、Li+ 、K+ 等のアルカリ金属イオン、またはNH4+、NH(CH3)3+、N(CH3)4+、NH(C25)3+、N(C65)4+、PH4+、P(CH3)4+、P(C65)4+、AsH4+、As(CH3)4+、As(C65)4+等のごときVb族元素の非置換型または炭素数1乃至30、望ましくは1乃至20、更に望ましくは1乃至12の、アルキル置換型または炭素数6乃至30、望ましくは6乃至20、更に望ましくは6乃至16のアリール置換型カチオンを表わす。kはジヒドロチオフェン環と置換基R1 乃至R3 を有するベンゼン環に囲まれた縮合環の数を表し、0乃至3の整数値である。式中の縮合環には、窒素またはN−オキシドを任意に含んでもよい。)で表わされる化合物を重合させて、下記一般式(II)
【化6】


(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、M及びkは前記と同じ。)で表わされる構造単位の少なくとも1つを繰返し単位として含む導電性重合体を製造する方法を提供する。
【0012】また、同様に前記一般式(I)(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、X1、X2 、X3 、X4 、M及びkは前記と同じ。)で表わされる構造の化合物を、単独で、または他の芳香族化合物及び/または複素環式化合物及び/またはπ電子共役構造を形成し得る化合物と共に重合させて、下記一般式(III)
【化7】


(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、M及びkは一般式(I)と同じ。Arはスルホン酸基を有しないπ電子共役系繰返し単位を表わす。m及びnは共重合体中のそれぞれの繰返し単位のモル分率を示す。従ってm、nはブロック共重合体を示すために用いられているものではない。)で表わされる化学構造を含むことを特徴とする導電性重合体を製造する方法を提供するものである。
【0013】また、同様に前記一般式(I)(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、X1、X2 、X3 、X4 及びMは前記と同じ。kは0である。)で表わされる化合物を、単独で、または他の芳香族化合物及び/または複素環式化合物及び/またはπ電子共役構造を形成し得る化合物と共に重合させて、下記一般式(VI)
【化8】


(式中、R1 、R2 、R3 及びMは一般式(I)と同じ。Arはスルホン酸基を有しないπ電子共役系繰返し単位を表わす。m及びnは共重合体中のそれぞれの繰返し単位のモル分率を示す。従ってm、nはブロック共重合体を示すために用いられているものではない。)で表わされる化学構造を含むことを特徴とする導電性重合体を製造する方法を提供するものである。
【0014】一般式(I)で示される構造の縮合ヘテロ多環式化合物は、一般式(I)においてジヒドロチオフェン環と置換基R1 乃至R3 を有するベンゼン環に囲まれた縮合環の数を表わすkが0乃至3の範囲の整数で表わされる化合物であり、一般式(I)の縮合環には窒素またはN−オキシドを任意に含んでもよい。窒素またはN−オキシドを含む化合物の例としては、チエノ[3,4−b]キノキサリン、チエノ[3,4−b]キノキサリン−4,9−ジオキド等が挙げられる。R1、R2 、R3 、R4 またはR5 の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に、少なくとも1つ以上の3乃至7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を少なくとも1つ以上形成してもよい。R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 のアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基またはそれらによって形成される環状炭化水素鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ等の結合を任意に含んでもよい。
【0015】一般式(I)で示される構造の具体的な縮合ヘテロ多環式化合物の基本骨格の例として、1,3−ジヒドロイソチアナフテン(一般式(I)の式中のkが0、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジクロロイソチアナフテン(一般式(I)の式中のkが0、X1 及びX3 がCl、X2 及びX4 がHである化合物)、1,1,3,3−テトラクロロイソチアナフテン(一般式(I)の式中のkが0、X12 、X3 及びX4 がClである化合物)、1,3−ジヒドロナフト[1,2−c]チオフェン(一般式(I)のkが1、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]チオフェン(一般式(I)のkが1、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジクロロナフト[2,3−c]チオフェン(一般式(I)のkが1、X1 及びX3 がCl、X2 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジヒドロアントラ[1,2−c]チオフェン(一般式(I)のkが2、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジヒドロアントラ[2,3−c]チオフェン(一般式(I)のkが2、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジヒドロフェナントラ[1,2−c]チオフェン(一般式(I)のkが2、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジヒドロフェナントラ[2,3−c]チオフェン(一般式(I)のkが2、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジヒドロフェナントラ[3,4−c]チオフェン(一般式(I)のkが2、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジヒドロフェナントラ[9,10−c]チオフェン(一般式(I)のkが2、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジヒドロナフタセノ[1,2−c]チオフェン(一般式(I)のkが3、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)、1,3−ジヒドロナフタセノ[2,3−c]チオフェン(一般式(I)のkが3、X1 、X2 、X3 及びX4 がHである化合物)等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】また、置換基R1 、R2 、R3 、R4 またはR5 の炭化水素鎖が互いに任意の位置で結合して3乃至7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成した例としては、1,3−ジヒドロペリロ[c]チオフェン、1,3−ジヒドロアセナフト[c]チオフェン構造等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、前記一般式(I)で示される構造の、縮合環に窒素等を含んだ縮合ヘテロ環式化合物の例としては、下記の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化9】


【0017】本発明において、ひとつの好ましい基本骨格の例として、1,3−ジヒドロイソチアナフテン構造を有する一般式(IV)
【化10】


(式中、置換基R1 、R2 及びR3 はそれぞれ独立にH、または炭素数1乃至20の、望ましくは炭素数1乃至12の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和の、アルキル、アルコキシまたはアルキルエステル基、SO3-M、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。但し、R1、R2 及びR3 からなる置換基群には、SO3-Mが同時に2つ以上含まれることはない。R1 、R2 またはR3 の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に、少なくとも1つ以上の3乃至7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を少なくとも1つ以上形成してもよい。R1 、R2 及びR3 のアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基またはそれらによって形成される環状炭化水素鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ等の結合を任意に含んでもよい。X1 、X2 、X3 及びX4 はそれぞれ独立にHまたはハロゲンを表わす。MはH+ 、またはNa+ 、Li+ 、K+ 等のアルカリ金属イオン、またはNH4+、NH(CH3)3+、N(CH3)4+、NH(C25)3+、N(C65)4+、PH4+、P(CH3)4+、P(C65)4+、AsH4+、As(CH3)4+、As(C65)4+等のごときVb族元素の非置換型または炭素数1乃至30、望ましくは炭素数1乃至20、さらに望ましくは炭素数1乃至12のアルキル置換型または炭素数6乃至30、望ましくは6乃至20、さらに望ましくは6乃至16のアリール置換型カチオンを表わす。)で表わされる化合物や、1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]チオフェン構造を有する一般式(VII)
【化11】


(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、X1 、X2 、X3 、X4 及びMは一般式(I)と同じ。)で表わされる化合物を挙げることができる。
【0018】本発明の一般式(I)、(II)、(III)または(VII)における置換基R1 、R2 、R3 、R4 、またはR5 として有用な例、あるいは一般式(IV)または(VI)における置換基R1 、R2 またはR3 として有用な例としては、水素、ハロゲン、SO3-M、飽和アルキル基、不飽和アルキル基、飽和アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、飽和アルキルエステル基、不飽和アルキルエステル基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。これらの置換基を更に詳しく例示すれば、ハロゲンとしては塩素、臭素、フッ素、よう素等、飽和、不飽和アルキルまたはアルキルエステル基の炭化水素鎖としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、テトラデシル、メトキシエチル、エトキシエチル、(2−メトキシ)エチル、アセトニル、ビニル、1−メチルエテニル、2−メチルエテニル、クロトニル、アリル、フェニル、トシル、キシリル、フェナシル等が挙げられる。アルコキシ基としてはメトキシ、エトキシ、(2−メトキシ)エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、ドデシルオキシ等の基が挙げられる。さらに、上記以外に置換基の例として、メチルアミノ、エチルアミノ、ジフェニルアミノ、アニリノ等のアミノ基、トリフルオロメチル、クロロフェニル、アセトアミド等の基が挙げられる。
【0019】本発明の一般式(I)、(IV)または(VII)において、置換基X1 、X2 、X3 、またはX4 として有用な例としては、水素、F、Cl、Br、Iが挙げられる。
【0020】一般式(IV)で表わされる化合物の例を更に詳しく例示すれば、例えば、1,3−ジヒドロイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジクロロイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジブロモイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,1,3,3−テトラクロロイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6−メトキシイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジクロロ−6−メトキシイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6−ブトキシイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6−デシルオキシイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6−メトキシカルボニルイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−4,7−ジメトキシイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロイソチアナフテン−5,6−ジスルホン酸、1,3−ジブロモ−4,7−ジメトキシイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−5,6−ジオキシメチレンイソチアナフテン−4−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6−ニトロイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6−ブロモイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6−シアノイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6−アミノイソチアナフテン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6−トリフルオロメチルイソチアナフテン−5−スルホン酸等及びかかるスルホン酸誘導体のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】また、一般式(VII)で表わされる化合物の例を更に詳しく例示すれば、例えば、1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]チオフェン−5−スルホン酸、1,3−ジクロロナフト[2,3−c]チオフェン−5−スルホン酸、1,3−ジブロモナフト[2,3−c]チオフェン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]チオフェン−6−スルホン酸、1,1,3,3−テトラクロロナフト[2,3−c]チオフェン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−7−メトキシナフト[2,3−c]チオフェン−6−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−5,7−ジメトキシナフト[2,3−c]チオフェン−6−スルホン酸、1,3−ジブロモ−5,7−ジメトキシナフト[2,3−c]チオフェン−6−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6,7−ジオキシメチレンナフト[2,3−c]チオフェン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−8−メトキシカルボニルナフト[2,3−c]チオフェン−6−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−7−ニトロナフト[2,3−c]チオフェン−5−スルホン酸、7−ブロモ−1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]チオフェン−5−スルホン酸、7−シアノ−1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]チオフェン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−7−メチルナフト[2,3−c]チオフェン−6−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−6,7−ジメチルナフト[2,3−c]チオフェン−5−スルホン酸、1,3−ジヒドロ−7−トリフルオロメチルナフト[2,3−c]チオフェン−5−スルホン酸等及びかかるスルホン酸誘導体のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】一般式(I)、(IV)または(VII)で表わされる化合物,一般式(II)で表わされる構造単位の少なくとも1つを繰返し単位として含む導電性重合体及び一般式(III)または(VI)で表わされる構造を含む導電性共重合体において、スルホン酸イオンの対カチオンとして、H+ またはNa+ 、Li+ 、K+ 等のアルカリ金属イオンまたはNH4+、NH(CH3)3+、N(CH3)4+、NH(C25)3+、N(C65)4+、PH4+、P(CH3)4+、P(C65)4+、AsH4+、As(CH3)4+、As(C65)4+等のごときVb族元素の非置換型または炭素数1乃至30、望ましくは炭素数1乃至20、さらに望ましくは炭素数1乃至12のアルキル置換型または炭素数6乃至30、望ましくは炭素数6乃至20、さらに望ましくは炭素数6乃至16のアリール置換型カチオンが用いられる。また、これらの一般式において、Mとして前記カチオンのうち異なる複数のカチオンが共存していてもよい。特定のカチオンに変換するには、通常のイオン交換樹脂や透析膜を通して任意のカチオンにイオン交換することができる。
【0023】一般式(I)、(IV)および(VII)において、X1 、X2 、X3 及びX4 は、それぞれ独立に水素、またはハロゲンを表わす。ハロゲンとしては、Cl、Br、Iが好ましく、Cl、Brが特に好ましい。
【0024】一般式(II)、(III)、または(VI)で表わされる化学構造を含む、主鎖がπ電子共役構造を有する導電性重合体において、Mで表わされるカチオンがH+ の場合、水溶液中において外来のドーパントがなくても自己ドーピング状態を示し、特に高濃度ではゲル状態を示すこともある。また、Mで表わされるカチオンを変えることにより、種々の溶媒に対する溶解性や溶媒親和性などを変えることができる。
【0025】本発明の一般式(III)で表わされる化学構造を含む導電性共重合体は、前記一般式(II)で表わされる構造単位の少なくとも1つを繰返し単位として含みかつ重合体の主鎖構造に他のπ電子共役構造系を繰返し単位として含む共重合体であり、かかるπ電子共役構造系繰返し単位としては、ビニレン、芳香族構造及び複素ヘテロ環構造が挙げられる。更に、かかる芳香族構造及び複素ヘテロ環構造としては、例えばイソチアナフテニレン、イソベンゾフリレン、イソベンゾインドリレン、イソベンゾセレニレン、イソベンゾテルリレン、チエニレン、ピロリレン、フリレン、セレニレン、テルリレン、イミノフェニレン、フェニレン構造等が挙げられる。また、これらの骨格構造が複数含まれていてもよい。また、前記π電子共役構造系の繰返し単位には重合を阻害しない置換基が置換されていてもよい。例えば、好ましい置換基としては、前記置換基R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 の具体例で示したものと同じものが挙げられる。
【0026】一般式(III)で表わされる化学構造を含む導電性共重合体において、前述のようにm及びnは共重合体中のそれぞれの繰返し単位のモル分率を示す。従って一般式(III)においてm、nはブロック共重合体を示すために用いられているものではない。前記共重合体の組成モル分率(m:n、但しm+n=1)としては、前記化学式(II)で表わされる構造単位からなる繰返し単位のモル分率であるmが0.05から0.95の範囲であることが望ましい。mは0.2から0.9の範囲が望ましく、0.4から0.9の範囲が更に望ましい。mの割合が大きくなるに従い、水溶性の特性が強く現れる。
【0027】一般式(II)で表わされる構造単位の少なくとも1つを繰返し単位として含む重合体及び一般式(III)または(VI)で表わされる化学構造を含む共重合体の分子量は、1000〜500000、好ましくは10000〜100000の範囲である。
【0028】次に、一般式(I)、(IV)もしくは(VII)で表わされる化学構造を有する化合物、または該化合物と他の芳香族化合物及び/または複素ヘテロ環式化合物及び/またはπ電子共役構造を形成し得る化合物とを単独重合または共重合させることにより一般式(II)で表わされる化学構造を含む導電性重合体または(III)もしくは(VI)で表わされる構造を含む導電性共重合体を製造する方法について説明する。
【0029】一般式(I)、(IV)もしくは(VII)で表わされる化学構造を有する化合物は、単独または他のπ電子共役構造の芳香族化合物及び/または複素ヘテロ環式化合物及び/またはπ電子共役構造を形成し得る化合物の共存下で、加温下、常温もしくは低温で、酸化剤を作用することによって重合させることができ、一般式(II)の化学構造を含む重合体、あるいは一般式(III)もしくは(VI)で表わされる化学構造を含む共重合体を極めて効率よく製造することができる。
【0030】特に、一般式(I)、(IV)もしくは(VII)で表わされる化学構造を有する化合物の重合反応を、スルホン酸基が脱離しやすい高温下で行わせた場合、一般式(III)もしくは(VI)で表わされる化学構造を含む共重合体が得られる。
【0031】重合反応における酸化的脱水素反応を起こさせる酸化剤としては、一般に硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸等のスルホン化剤、オゾン、パーオキサイド、過酸、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン、テトラクロロ−1,2−ベンゾキノン、テトラクロロー1,4−ベンゾキノン、テトラシアノ−1,4−ベンゾキノン等のキノン類、よう素、臭素等のハロゲン類、無水塩化アルミニウム/塩化第一銅、無水塩化第二鉄及びバナジウム系、マンガン系、ニッケル系等の金属錯体を用いた酸素酸化剤等、及びこれら複数の酸化剤の組合せが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0032】酸化剤の使用量は、一般式(I)、(IV)もしくは(VII)で表わされる化学構造を有する化合物や酸化剤の種類によって異なるので一概には決められないが、一般には該化合物の1.1倍等量から20倍等量の範囲で用いるのが望ましく、2倍から5倍等量の範囲が更に望ましい。
【0033】本製造法に用いられる一般式(I)、(IV)もしくは(VII)で表わされる化学構造を有する化合物の濃度は、その化合物の種類や反応スケールまたは溶媒等の化合物の種類や存否によって異なるが、一般には10-3から10モル/リットルの範囲が望ましく、10-2から1モル/リットルの範囲が更に望ましい。
【0034】また反応温度は、各々の反応方法によって定められるもので、特に限定できるものではないが一般には−70℃から250℃の温度範囲が望ましく、更に好ましくは0℃から150℃の温度範囲で行われることが望ましい。また、化学構造によって限定できるものではないが、一般式(I)、(IV)もしくは(VII)で示される化学構造の化合物を単独で用いて、前記一般式(III)もしくは(VI)で表わされる化学構造を含む共重合体を製造する場合は、好ましくは70℃以上の温度が望ましい。
【0035】反応時間は、反応方法及び反応温度、反応圧力あるいは化合物の化学構造等によって異なるので一概には規定できないが、通常は0.01時間から240時間が望ましく、0.1時間から24時間の範囲が更に望ましい。反応圧力は、常圧で行われることが好ましいが、10-5気圧から100気圧下で行うことができ、1気圧から10気圧の範囲で行うことが更に望ましい。重合体繰返し単位のスルホン酸基による置換率(重合体中の全繰返し単位に対するスルホン酸基を有する繰返し単位のモル分率)は、重合反応中に反応温度を上昇させることにより減少させることができ、例えば、重合反応中に反応温度を上昇させて60℃から150℃の範囲の温度に10分間から20時間、望ましくは80℃から120℃の範囲の温度に30分間から10時間保つことにより、該置換率を減少させることができる。
【0036】必要に応じて、用いられる反応溶媒は、反応温度や反応時間、または用いられる酸化剤や化合物の化学構造によって異なるので一概には規定できないが、化合物及び酸化剤を溶解し、かつ重合反応を阻害しないならば、如何なる溶媒であっても良い。例えば具体的には水、硫酸、発煙硫酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、無水酢酸、あるいはテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の極性溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルム、塩化メチレン等の非芳香族性の塩素系溶媒等が用いられる。さらにはこれらの混合溶媒を用いることもできる。
【0037】上述の製造方法により得られた一般式(II)で表わされる構造単位の少なくとも1つを繰返し単位として含む重合体や、あるいは一般式(III)もしくは(VI)で表わされる化学構造を含む共重合体は、溶媒に対して高い溶解性を示し、特にスルホン酸基の寄与により水溶性も併せ持つ。そして、この特性から限外ろ過、透析及び/またはイオン交換操作によって単離精製する事ができる。さらに一般式(II)の化学構造を含む重合体や一般式(III)もしくは(VI)で表わされる共重合体が反応溶媒から析出物として得られる場合には、ろ過、再沈澱及び/または溶媒分別法等によって単離精製を行なうことができる。
【0038】一般式(I)、(IV)もしくは(VII)で表わされる化合物と、他のπ電子共役構造の芳香族化合物及び/または複素ヘテロ環式化合物、または反応後にπ電子共役構造を形成できる化合物とを共存させ、あるいは順次追添によって重合させることで、一般式(III)もしくは(VI)で表わされる化学構造を含む共重合体が製造される。ここで用いられる芳香族化合物や複素ヘテロ環式化合物としては、イソチアナフテン、イソベンゾフラン、イソベンゾインドリン、イソベンゾセレナフェン、イソベンゾテレナフェン、チオフェン、ピロール、フラン、セレノフェン、テルロフェン、アニリン、ベンゼン、ナフト[2,3−c]チオフェン、アントラ[2,3−c]チオフェン、ナフタセノ[2,3−c]チオフェン、ペンタセノ[2,3−c]チオフェン、ペリロ[2,3−c]チオフェン、アセナフト[2,3−c]チオフェン及びそれらの各種置換基を有する誘導体が挙げられる。ここで好ましい置換基としては、前記置換基R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 で示したものと同じものが挙げられる。反応後に共役構造を形成できる化合物としては、上記イソチアナフテン、5−アルコキシ−イソチアナフテン、5,6−ジアルコキシ−イソチアナフテン、ナフト[2,3−c]チオフェン、アントラ[2,3−c]チオフェン、ナフタセノ[2,3−c]チオフェン、ペンタセノ[2,3−c]チオフェン、ペリロ[2,3−c]チオフェン、アセナフト[2,3−c]チオフェンの1,3−ジヒドロ体、1,3−ジハロゲノ体、1,1,3,3−テトラハロゲノ体及び2−オキサイド体等が挙げられる。また、縮合環に窒素等を含んだ、1,3−ジヒドロチエノ[c]ピリジン、1,3−ジヒドロチエノ[c]ピラジン、1,3−ジヒドロチエノ[c]ピリダジン、1,3−ジヒドロチエノ[c]キノキサリンが用いられる。なかでも、好適にはチオフェン、イソチアナフテン、ピロ−ル、アニリン及びナフト[c]チオフェン構造を形成できる化合物を用いることができる。
【0039】本発明にもとづく、共重合体を製造する方法において、一般式(I)、(IV)もしくは(VII)で表わされる化合物と、芳香族化合物あるいは複素環化合物や共役構造を形成できる化合物との仕込割合をかえることによって、一般式(III)もしくは(VI)で表わされる化学構造を含む重合体中のスルホン酸基の含有率(重合体繰返し単位のスルホン酸基による置換率)をきわめて簡便に制御できる。また、共重合させる芳香族化合物、複素環化合物あるいは共役構造を形成できる化合物の種類や割合を変えることにより、一般式(III)もしくは(VI)で表わされる化学構造を含む重合体の物性を容易に制御できる。
【0040】本発明の前記一般式(I)、(IV)あるいは(VII)で表わされる化学構造の化合物を重合して得られる水あるいは有機溶媒可溶性導電性重合体は、公知の導電性重合体、例えばポリチオフェン誘導体(特開平2−242816号)と比較すると、半導体としてのエネルギーギャップが小さく、低いドーピングレベルで高い導電性を示すことからその導電状態が極めて安定であるという特徴を持つ。また、置換基のスルホン酸基の影響から自己ドーピング状態が容易に発現する。
【0041】
【作用】本発明においては、スルホン酸基を有する、一般式(I)で表わされる縮合ヘテロ多環式化合物に酸化剤を作用させることにより、一般式(II)あるいは一般式(III)で表される化学構造を含む導電性重合体が極めて効率よく製造できることに基づくものである。これまで、イソチアナフテンやナフト[c]チオフェンのようなπ電子共役系の縮合ヘテロ多環式化合物は、非常に反応性が高く、それ故に製造上の取扱が難しかった。しかしながら、本発明の一般式(I)で表わされるスルホン酸基を有する1,3−ジヒドロヘテロ多環式化合物は、極めて安定であり、該化合物製造における単位操作において容易に取り扱うことができる。すなわち、本発明により、スルホン酸基置換の1,3−ジヒドロ構造の縮合ヘテロ多環式化合物をモノマーとして用いた重合によりスルホン酸基を有する導電性高分子及び共重合体が製造できるものである。
【0042】
【実施例】以下実施例によって、本発明をさらに詳しく説明する。しかし、本発明の技術的範囲をこれらの実施例によって限定されるものでない。
(実施例1)
一般式(I)におけるkが0である一般式(IV)で表わされる化合物の製造方法<R1 =R2 =R3 =H、X1 =X2 =X3 =X4 =H、M=Na+ >20℃以下に冷却した4mlの発煙硫酸(20%SO3 )に、公知な1,3−ジヒドロイソチアナフテン1gを撹拌しながらゆっくりと加え、室温下で4時間撹拌した。反応混合物を氷水150ml中に注ぎ入れ、塩化ナトリウム20gを加えて1,3−ジヒドロイソチアナフテン−5−スルホン酸ナトリウムを塩析させ、遠心分離機により単離した。真空乾燥して灰色粉末の化合物を850mg得た。
【0043】(実施例2)
一般式(II)におけるkが0である下記一般式(V)
【化12】


で表わされる化学構造を含む重合体の製造方法<R1 =R2 =R3 =H、M=H+ >5.5gの塩化第2鉄を過酸化水素水(30%)1mlと水10mlの混合した系に実施例1と同様の方法で製造した1,3−ジヒドロイソチアナフテン−5−スルホン酸ナトリウム1gを撹拌しながらゆっくりと加えた。室温下で1日撹拌を続けたところ粘調な黒色反応液が得られた。反応混合物を真空乾燥した後、100mlのアセトン中に投入し、沈澱した重合物を遠心分離機により分離した。乾燥後、重合体を0.1N NaOH水溶液700mlに溶解し、遠心分離により不溶物を除去、さらに1μmの濾過膜に通して不純物を除去した。さらに、H形のイオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B)を用いてNa+ イオンをH+ へと変換した。水溶液から水を留去し、真空乾燥して青色ポリマー0.2gを得た。重合体繰返し単位のスルホン酸基による置換率をアルカリによる中和滴定で求めたところ、スルホン酸置換体組成がほぼ100モル%(モル分率で1.0)の重合体であった。分子量は、GPC測定から数平均分子量が18000であった(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算)。
【0044】(実施例3)
一般式(III)におけるkが0である一般式(VI)で表わされる化学構造を含む重合体の製造方法<R1 =R2 =R3 =H、M=Na+ 、m=0.8、n=0.2、Ar=1,3−イソチアナフテニレン>10℃以下に保持した硫酸25ml中に実施例1と同様の方法で製造した1,3−ジヒドロイソチアナフテン−5−スルホン酸ナトリウム1gを撹拌しながらゆっくりと加えた。そして室温下1時間撹拌すると、反応液は赤紫色を呈した。さらに、80℃で2時間加熱した後、得られた黒色の反応混合物を60mlの0.1N NaOH/MeOH中に投入した。析出した重合物を遠心分離機により単離し、水100mlに溶解して透析膜を通して不純物の硫酸ナトリウムを除去した。水溶液から水を留去した後、真空乾燥して青色ポリマー0.3gを得た。得られた重合体の可視近赤外吸収スペクトルを図1に示す。元素分析結果は次の通り。
計算値(C8323 Na)0.8 (C84 S)0.2 );C:44.27,H:2.96,S:26.59,Na:8.48,測定値;C:44.52,H:3.23,S:26.41,Na:8.92。
次に、重合体繰返し単位のスルホン酸基による置換率を測定するために、得られた重合物0.2gを水に溶かしてH形イオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B)でNa+ 体からH+ 体へと変換した。水溶液から水を留去し、真空乾燥して青色ポリマー120mgを得た。このポリマーは、中和滴定により求めた該置換率が、平均モル分率で0.8の共重合体であった。これは、重合反応中に一部のスルホン酸基が脱離して共重合体を与えたものである。
【0045】(実施例4)
一般式(III)におけるkが0である一般式(VI)の化学構造で表わされる重合体の製造方法<R1 =R2 =R3 =H、M=H+ 、m=0.6、n=0.4、Ar=1,3−イソチアナフテニレン>10℃以下に保持した5mlの硫酸に、実施例1と同様の方法で製造した1,3−ジヒドロイソチアナフテン−5−スルホン酸ナトリウム 0.7g、および1,3−ジヒドロイソチアナフテン0.28gを撹拌しながらゆっくりと加えた。室温下で1時間撹拌を続けたところ反応液は紫色を呈し、その後90℃で3時間加熱すると反応液は黒色に変化した。反応混合物を60mlの0.1NのNaOH/MeOH中に投入し、沈澱した重合物を遠心分離機により分離した。重合体を水100mlに溶解し透析膜に通して不純物の硫酸ナトリウムを除去した。さらに、H形イオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B)を用いてNa+イオンをH+ へと変換した。水溶液から水を留去し、真空乾燥して青色ポリマー0.5gを得た。得られたポリマーの可視近赤外吸収スペクトルを図2に示す。このポリマーは、中和滴定により求めた重合体繰返し単位のスルホン酸基による置換率が、平均モル分率で0.6の共重合体であった。
【0046】(実施例5)
一般式(I)におけるkが1である一般式(VII)で表わされる化合物の製造方法<R1 =R2 =R3 =R4 =R5 =H、X1 =X2 =X3 =X4 =H、M=Na+ >実施例1の1,3−ジヒドロイソチアナフテンの代わりに、公知の1,3−ナフト[2,3−c]チオフェンを1g使用し、同様にスルホン化反応を施して灰色粉末の1,3−ナフト[2,3−c]チオフェンスルホン酸ナトリウム化合物420mgを得た。
【0047】(実施例6)
一般式(II)におけるkが1である下記一般式(VIII)
【化13】


で表わされる化学構造を含む重合体の製造方法<R1 =R2 =R3 =R4 =R5=H、M=NH4+>実施例2の方法に準じ、1,3−ジヒドロイソチアナフテンの代わりにモノマ−として、実施例5の方法に従って製造した1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]チオフェン−6−スルホン酸ナトリウム700mgを用いた。実施例2と同様に重合、及び後処理を経て酸形の重合物200mgを得た。重合体繰返し単位のスルホン酸基による置換率はほぼ100%であった。この重合物を水に溶かしてアンモニウム水を過剰に入れ、減圧留去してアンモニウム塩の重合体を得た。重合体を再度水に溶かして、可視近赤外吸収スペクトルを測定した(図3)。
【0048】(実施例7)
一般式(I)におけるkが0である一般式(IV)で表わされる化合物の製造方法〈R1 =R2 =R3 =H、X1 =X2 =X3 =X4 =H、M=(CH33(N+ n−C817)〉精製水100mlに、1,3−ジヒドロイソチアナフテン−5−スルホン酸ナトリウム3g(12.7ミリモル)を20℃に保ちながら溶解させ、この系にn−オクチルトリメチルアンモニウムブロミド(東京化成(株)製)3.20g(12.7ミリモル)を撹拌しながら加えた。30分後にクロロホルムで3回抽出(20ml×3回)後、無水硫酸ナトリウムでクロロホルム層を乾燥、減圧留去してイオンコンプレックス体のオイル状半固体を取得した(得量4.35g、収率89%)。得られたポリマーは、クロロホルム、トルエン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン及びジメチルホルムアミドに可溶であった。
【0049】(実施例8)
一般式(I)におけるkが0であり、X1 及びX3 がClであり、X2 及びX4 がHである化合物を経由して、一般式(II)におけるkが0で表わされる一般式(V)で表される化学構造を含む重合体の製造方法〈R1 =R2 =R3 =H、M=Na+ 〉実施例7において得られたイオンコンプレックス体(4.35g)に、乾燥したクロロホルム20mlを加え、N−クロロサクシンイミド(NCS)を3.17g(23.7ミリモル)加えた。この時、1,3−ジクロロイソチアナフテン−5−スルホン酸アンモニウム塩は系内に精製するが、単離することなく、2時間加熱還流すると黒青色の溶液が得られた。冷却後、反応液から不溶物を除き、有機層を減圧乾燥し、次いで0.1N NaOHを200ml加えて水溶性のッポリマー溶液を得た。この溶液を、更に、酸型イオン交換カラムに通すことにより、酸型のポリマー水溶液を得た(pH1.8)。この溶液の可視近赤外吸収スペクトルは、図2と同じドープした曲線を与えた。
【0050】(実施例9)硝子板を支持体として、その表面に実施例4に記載の方法で製造した導電性重合体の10重量%水溶液を塗布し乾燥した。更に真空乾燥した後、硝子板より剥離させ厚さ約30μmの自立膜を得た。この自立膜の室温における電気伝導度(4端子測定系)はσ=5×10-2S/cmであった。この自立膜の空気中室温下における電気伝導度の値は3ヶ月後も安定に維持されていた。
【0051】(実施例10)
一般式(I)におけるkが0である一般式(IV)で表わされる化合物の製造方法〈R1 =C1021O−、R2 =R3 =H、X1 =X2 =X3 =X4 =H、M=Na+ 〉2mlの発煙硫酸(20%SO3 )を含む硫酸溶液8mlを20℃以下に冷却し、公知な5−デシルオキシ−1,3−ジヒドロイソチアナフテン500mgを撹拌しながらゆっくりと加え、室温下で3時間撹拌した。反応混合物を氷水100ml中に注ぎ入れ、塩化ナトリウム14gを加えて、5−デシルオキシ−1,3−ジヒドロイソチアナフテン−6−スルホン酸ナトリウムを塩析させ、遠心分離機により分離した。真空乾燥して、180mgの灰色粉末状化合物を得た。
【0052】(実施例11)
一般式(II)におけるkが0である前記一般式(V)で表わされる重合体の製造方法〈R1 =C1021O−、R2 =R3 =H、M=H+ 〉600mgの塩化第二鉄と100mgの5−デシルオキシ−1,3−ジヒドロイソチアナフテン−6−スルホン酸の混合物に1mlの水をゆっくり加え、室温下で30分間撹拌したところ、粘調な黒色反応物が得られた。反応混合物を10mlのアセトン中に注ぎ込み、析出した重合物を遠心分離機により分離した。乾燥後重合物を100mlの0.1N−NaOH水溶液に溶解させ、不溶物を1μmのフィルター膜で除去した。重合体を含んだアルカリ水溶液を、1N−HClを加えて酸性化し、H型の重合体に変換した。水溶液をクロロホルムで3回抽出し、クロロホルムを留去して55mgの重合体を得た。
【0053】(実施例12)硝子板を支持体として、その表面に実施例2に記載の方法で製造した水溶性導電性高分子を1重量%含む水溶液をスピンコーター(室温下、回転数1000rpm)を用いて塗布し、約0.05μm(デクタク式触針法で測定)の薄膜を形成した。この薄膜と硝子板との密着性は良好であり、表面抵抗は約7.6×105 Ω/□であった。また500nmの可視光の透過率は96%であった。このように、該重合体は、極めて透明性の優れた導電膜を与えた。同様にスピンコーターの回転数を変えて薄膜を作製し、得られた特性を表1に示す。
【0054】
【表1】


【0055】
【発明の効果】本発明の製造法で製造された導電性重合体は、水溶性及び/または有機溶媒可溶性であり加工性の優れた高い導電性重合体である。そのため精密な加工が要求される電極、センサー、エレクトロニクス表示素子、非線形光学素子、光学変換素子、帯電防止材など各種導電材料あるいは光学材料として有用なものである。また、本発明の製造法によって、ホモポリマーだけでなく、π共役系主鎖骨格を構成する共重合体組成を制御して容易に共重合体を製造することができる。また、重合体がスルホン酸基を有することから自己ドーピング機能を持った電導度の安定な重合体を与えることができる。さらには、原料として用いられるスルホン酸置換基を有する多環複素ヘテロ系化合物はきわめて安定な化合物であり、穏和な条件で高い導電性を有する重合体を効率よく製造するのに特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3で得た重合体の可視近赤外吸収スペクトルである。
【図2】実施例4で得た重合体の可視近赤外吸収スペクトルである。
【図3】実施例6で得た重合体の可視近赤外吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式(I)
【化1】


(式中、置換基R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 はそれぞれ独立にH、または炭素数1乃至20の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和の、アルキル、アルコキシまたはアルキルエステル基、SO3-M、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。但し、R1 、R2 、R3 、R4及びR5 からなる置換基群には、SO3-Mが同時に2つ以上含まれることはない。R1 、R2 、R3 、R4 またはR5 の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に、少なくとも1つ以上の3乃至7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を少なくとも1つ以上形成してもよい。R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 のアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基またはそれらによって形成される環状炭化水素鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ等の結合を任意に含んでもよい。X1 、X2 、X3 及びX4はそれぞれ独立にHまたはハロゲンを表わす。MはH+ 、またはNa+ 、Li+、K+ 等のアルカリ金属イオン、またはNH4+、NH(CH3)3+、N(CH3)4+、NH(C25)3+、N(C65)4+、PH4+、P(CH3)4+、P(C65)4+、AsH4+、As(CH3)4+、As(C65)4+等のごときVb族元素の非置換型または炭素数1乃至30のアルキル置換型または炭素数6乃至30のアリール置換型カチオンを表わす。kはジヒドロチオフェン環と置換基R1 乃至R3 を有するベンゼン環に囲まれた縮合環の数を表し、0乃至3の整数値である。式中の縮合環には、窒素またはN−オキシドを任意に含んでもよい。)で表わされる化合物を重合させて、下記一般式(II)
【化2】


(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、M及びkは前記と同じ。)で表わされる構造単位の少なくとも1つを繰返し単位として含むことを特徴とする導電性重合体の製造方法。
【請求項2】 請求項1において、一般式(I)で表わされる化合物を、単独で、または他の芳香族化合物及び/または複素環式化合物及び/またはπ電子共役構造を形成し得る化合物と共に重合させて、下記一般式(III)
【化3】


(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、M及びkは一般式(I)と同じ。Arはスルホン酸基を有しないπ電子共役系繰返し単位を表わす。m及びnは共重合体中のそれぞれの繰返し単位のモル分率を示す。従ってm、nはブロック共重合体を示すために用いられているものではない。)で表わされる化学構造を含むことを特徴とする請求項1記載の導電性重合体の製造方法。
【請求項3】 請求項1において、kが0である一般式(II)で表わされる構造単位の少なくとも1つを繰返し単位として含むことを特徴とする導電性重合体の製造方法。
【請求項4】 請求項1において、kが0である一般式(I)で表わされる化合物を、単独で、または他の芳香族化合物及び/または複素環式化合物及び/またはπ電子共役構造を形成し得る化合物と共に重合させて、下記一般式(VI)
【化4】


(式中、R1 、R2 、R3 及びMは一般式(I)と同じ。Arはスルホン酸基を有しないπ電子共役系繰返し単位を表わす。m及びnは共重合体中のそれぞれの繰返し単位のモル分率を示す。従ってm、nはブロック共重合体を示すために用いられているものではない。)で表わされる化学構造を含むことを特徴とする請求項1記載の導電性重合体の製造方法。
【請求項5】 請求項1において、kが1である一般式(II)で表わされる構造単位の少なくとも1つを繰返し単位として含むことを特徴とする導電性重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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