説明

導電性高分子膜の製造方法

【課題】導電性向上剤を用いることなく、導電性の高いπ共役系導電性高分子膜を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明のπ共役系導電性高分子膜の製造方法は、基材に、π共役系導電性高分子を含有するコーティング剤を付与する工程;該基材に付与された該コーティング剤を乾燥させる工程;および該乾燥後の基材を、10℃以上の温度でかつ70%以上の湿度を有する高湿度雰囲気下で処理、または30℃以上の温水中で処理する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、π共役系導電性高分子が付与された基材を、高湿度雰囲気下で処理または温水中で処理することによって、π共役系導電性高分子膜の導電性を向上させる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、包装フィルム、電子波シールド材、偏光フィルムなどの帯電を防止するために、π共役系導電性高分子膜を含むフィルムが好適に用いられている。さらに、タッチパネル、電子ペーパー、無機EL、有機ELなどの透明電極としても、π共役系導電性高分子膜の適用が開発されている。このようなπ共役系導電性高分子膜は、通常、π共役系導電性高分子を主成分とするコーティング剤を、基材にウェットコーティングして乾燥させることによって形成される。
【0003】
例えば、特許文献1は、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとからなる導電性高分子を主成分とする水系の帯電防止コーティング用組成物を記載している。引用文献1は、このコーティング用組成物をプラスチック基材に塗布することによって、密着性、透明性、導電性、耐溶剤性、および耐水性に優れた塗膜が形成されることを記載している。
【0004】
しかし、このような帯電防止コーティング用組成物は、一般的に、導電性向上剤として高沸点有機溶剤(N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールなど)を含む。このような導電性向上剤は、特許文献2または特許文献3に記載されている。高沸点有機溶剤を含むコーティング用組成物を用いて製膜すると、多量の高沸点有機溶剤が揮発物として発生し、環境に対して負荷をかけることになる。さらに、製品中に残留する高沸点有機溶剤が、アウトガス発生原因となる点も問題である。
【0005】
特許文献4は、ジカルボン酸を不揮発性の導電性向上剤として用い、π共役系導電性高分子膜の導電性を向上させることを記載している。しかし、導電性向上剤としてジカルボン酸を用いると、膜中でジカルボン酸が結晶化して目視で観察されるため、実用化という点では問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−60736号公報
【特許文献2】特開2003−253143号公報
【特許文献3】国際公開2004/106404号
【特許文献4】特開2007−119548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来の問題を解決し、導電性向上剤を用いることなく、導電性の高いπ共役系導電性高分子膜を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、π共役系導電性高分子が付与された基材を、高湿度雰囲気下で処理または温水中で処理することによって、π共役系導電性高分子膜の導電性を向上させることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、π共役系導電性高分子膜の製造方法を提供し、該方法は、基材に、π共役系導電性高分子を含有するコーティング剤を付与する工程;該基材に付与された該コーティング剤を乾燥させる工程;および該乾燥後の基材を、10℃以上の温度でかつ70%以上の湿度を有する高湿度雰囲気下で処理、または30℃以上の温水中で処理する工程を包含する。
【0010】
1つの実施態様では、上記高湿度雰囲気下での処理工程は、20℃以上の温度でかつ80%以上の湿度を有する高湿度雰囲気下で行われる。
【0011】
ある実施態様では、上記温水中での処理工程は、40℃以上の温水中で行われる。
【0012】
他の実施態様では、上記π共役系導電性高分子は、ポリチオフェン誘導体である。
【0013】
さらに他の実施態様では、上記ポリチオフェン誘導体が、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、導電性向上剤(高沸点有機溶剤)を用いることなく、導電性の高いπ共役系導電性高分子膜を製造し得る。さらに、本発明の方法で得られるπ共役系導電性高分子膜は、高沸点有機溶剤を用いないため、アウトガスが発生せず、環境に対する負荷も少ない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のπ共役系導電性高分子膜の製造方法(以下、本発明の製造方法と記載する場合がある)について、詳細に説明する。本発明の製造方法は、基材に、π共役系導電性高分子を含有するコーティング剤を付与する工程(付与工程);該基材に付与された該コーティング剤を乾燥させる工程(乾燥工程);および該乾燥後の基材を、10℃以上の温度でかつ70%以上の湿度を有する高湿度雰囲気下で処理、または30℃以上の温水中で処理する工程(処理工程)を包含する。
【0016】
本明細書において、「高湿度雰囲気下で処理」とは、10℃以上の温度でかつ70%以上の湿度を有する雰囲気下に暴露することをいい、例えば、10℃以上の温度でかつ70%以上の湿度に設定した恒温恒湿槽に静置することなどが挙げられる。
【0017】
さらに、本明細書において、「温水中で処理」とは、温水中に浸漬することをいう。
【0018】
(付与工程)
本発明の製造方法は、基材に、π共役系導電性高分子を含有するコーティング剤を付与する工程を包含する。
【0019】
本発明の製造方法に用いる基材は、特に限定されず、その材料、形状、構造、大きさなどは、目的に応じて適宜選択し得る。
【0020】
例えば、基材の材料としては、シリコンウェハー、ガラス板などの無機基材;ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの混合物、これらのポリマーの原料であるモノマーの組み合わせを構成単位とする共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体など)など;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)などのプラスチックシート(プラスチックフィルム)などが挙げられる。
【0021】
これらの材料は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、優れた透明性および可撓性を有する点で、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂またはポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂が好ましい。基材の形状としては、例えば、シート(フィルム)状、板状などが好適に挙げられる。
【0022】
本発明の製造方法に用いるコーティング剤は、π共役系導電性高分子を含有する。π共役系導電性高分子は特に限定されず、例えば、以下のモノマーを重合させて得られるポリマーが挙げられる。
【0023】
ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール、3−フェニルナフチルアミノピロールなどのピロール誘導体;アニリン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−メトキシアニリン、m−メトキシアニリン、p−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、m−エトキシアニリン、p−エトキシアニリン、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン、p−メチルアニリンなどのアニリン誘導体;チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどのチオフェン誘導体。
【0024】
これらのモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。単独で用いる場合は、ホモポリマーが得られ、2種以上を用いる場合は、ランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体が得られる。これらの中でも、ピロール、アニリン、チオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどが好ましく、3,4−エチレンジオキシチオフェンがより好ましい。
【0025】
本発明の製造方法に用いるコーティング剤は、必要に応じて、ドーパント、バインダー樹脂、塗布性向上剤など一般的にコーティング剤に含まれる成分を含有し得る。
【0026】
また、電導度を向上させるために導電性高分子層にドーパントを添加することが望ましい。ドーパントとしては、例えば、ヘキサフルオロリン、ヘキサフルオロヒ素、ヘキサフルオロアンチモン、テトラフルオロホウ素、過塩素酸などのハロゲン化物アニオン;ヨウ素、臭素、塩素などのハロゲンアニオン;メタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸などのアルキル基置換有機スルホン酸アニオン;カンファースルホン酸などの環状スルホン酸アニオン;ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸などのアルキル基置換または無置換のベンゼンモノあるいはジスルホン酸アニオン;2−ナフタレンスルホン酸、1,7−ナフタレンジスルホン酸などの1〜3個のスルホン酸基を有するアルキル基置換または無置換ナフタレンスルホン酸アニオン;アントラセンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アルキルビフェニルスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸などのアルキル基置換または無置換のビフェニルスルホン酸イオン;ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテル、スルホン化ポリエステル、スルホン化ポリイミド、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体などの高分子スルホン酸アニオンあるいは置換または無置換の芳香族スルホン酸アニオン;ビスサルチレートホウ素、ビスカテコレートホウ素などのホウ素化合物アニオン;モリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸などのヘテロポリ酸アニオンなどが挙げられる。これらのドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ドーパントの含有量は、π共役系導電性高分子1モルに対して0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、1〜7モルの範囲であることがより好ましい。ドーパントの含有量が0.1モル未満の場合、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、ドーパントを用いる効果が得られない。特に、ドーパントとしてポリアニオンを用いた場合、ポリアニオンの含有量が0.1モル未満になると、ドーパントを用いる効果が得られないだけではなく、溶媒への分散性および溶解性が低くなり、均一な分散液を得ることが困難になることがある。一方、ドーパントの含有量が10モルを超える場合、π共役系導電性高分子が占める割合が低くなり、十分な導電性が得られにくくなる。
【0028】
バインダー樹脂としては、溶剤に可溶な樹脂または溶剤に分散可能な樹脂が好ましい。例えば、バインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、このような樹脂としては、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
π共役系導電性高分子の微粒子を溶剤に分散した分散液または溶剤に溶解したコーティング剤を、基材上にコーティングし、乾燥して導電層(導電性高分子膜)を形成すると、π共役系導電性高分子微粒子同士が固く網目状に絡み合って、再び溶剤に溶解しなくなる。
【0030】
しかし、この導電層上に、さらに溶剤系のコーティング剤を付与する際、コーティング方式によっては物理的にπ共役系導電性高分子微粒子が脱落する場合がある。したがって、このような脱落を防止し得るため、導電性高分子微粒子の分散液に、有機溶媒に可溶なバインダー樹脂を混合するのが好ましい。
【0031】
導電層における導電性高分子とバインダー樹脂との比率は、好ましくは固形分比1:0〜1:20であり、より好ましくは1:0〜1:10である。
【0032】
塗布性向上剤は、組成物の各成分と溶剤とを混合して導電性コーティング剤を形成した場合に、これを基体表面に塗布するのを容易にする機能を有する。
【0033】
塗布性向上剤は特に限定されず、目的に応じて適宜選択し得る。例えば、水溶性アクリル系共重合物、シリコン変性水溶性アクリルポリマー、ポリエーテル変性水溶性ジメチルシロキサン、フッ素系変性ポリマーなどが挙げられ、これらの中でも、ポリエーテル変性水溶性ジメチルシロキサンが好ましい。塗布性向上剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
塗布性向上剤の含有量は特に限定されず、通常、コーティング剤中に好ましくは0.01質量%〜10質量%、より好ましくは0.1質量%〜1質量%の割合で含有される。
【0035】
溶剤は、π共役系導電性高分子などを分散または溶解させるために用いられる。本発明の製造方法で用いる溶剤は、導電性向上剤として用いられる高沸点有機溶剤とは異なり、沸点が高くても120〜130℃程度の溶剤である。このような溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられる。これらの中でも、水またはエタノールが好ましい。溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
溶剤の量は、π共役系導電性高分子などを溶解あるいは均一に分散させ、コーティング剤として基材に付与し得る量であればよい。通常、コーティング剤中の固形分濃度が好ましくは20質量%以下となるように溶剤が用いられ、より好ましくは0.1〜10質量%である。固形分濃度が0.1質量%未満の場合、基材への濡れ性が不足することがある。一方、固形分濃度が20質量%を超える場合、均一に付与するのが難しくなり、形成される導電層の外観に劣ることがある。さらに、コーティング剤の貯蔵安定性が悪くなる場合がある。
【0037】
組成物中に含有され得るその他の成分は、特に限定されず、当該分野で用いられる一般的な添加剤などの中から適宜選択して用い得る。例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、表面改質剤、脱泡剤、可塑剤、抗菌剤、界面活性剤、金属微粒子などが挙げられる。これらの成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明の製造方法において、基材にコーティング剤を付与する方法は、特に限定されず、例えば、塗布法、印刷法などが好適に挙げられる。
【0039】
塗布法としては、公知の方法の中から適宜選択し得、例えば、スピンコート法、ローラコート法、バーコート法、ディップコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、ニーダーコート法などが挙げられる。
【0040】
印刷法としては、公知の方法の中から適宜選択し得、例えば、スクリーン印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法などが挙げられる。
【0041】
付与されるコーティング剤の量は、目的に応じて適宜選択し得、特に限定されない。例えば、乾燥後の導電層の厚みが、好ましくは0.01μm〜10μm、より好ましくは0.1μm〜1μmとなるように付与される。
【0042】
(乾燥工程)
本発明の製造方法は、基材に付与されたコーティング剤を乾燥させる工程を包含する。乾燥は、通常の通風乾燥機、熱風乾燥機、赤外線乾燥機、ホットプレートなどの乾燥機などを用いて行われる。乾燥温度は適宜選択し得、例えば60℃〜150℃が好ましい。60℃未満の場合、溶剤が完全に留去できない恐れがあり、150℃を超える場合、基材の材質によっては耐久性に悪影響がある恐れがある。
【0043】
(処理工程)
本発明の製造方法は、乾燥後の基材を、10℃以上の温度でかつ70%以上の湿度を有する高湿度雰囲気下で処理、または30℃以上の温水中で処理する工程を包含する。
【0044】
高湿度雰囲気下で処理する場合、温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下であり得る。湿度は、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上であり得る。
【0045】
一方、温水中で処理する場合、水温は、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下であり得る。
【0046】
処理時間は、処理温度、高分子膜の用途、生産性などを考慮して適宜設定し得る。高湿度雰囲気下で処理する場合、処理時間は特に限定されないが、好ましくは1時間〜1000時間、より好ましくは1時間〜240時間であり得る。一方、温水中で処理する場合、処理時間は特に限定されないが、好ましくは1時間〜1000時間、より好ましくは1時間〜240時間であり得る。
【0047】
このように、乾燥後の基材を湿潤な環境下に暴露(処理)することによって、導電性向上剤を用いなくても、導電性の高いπ共役系導電性高分子膜が得られる。
【0048】
本発明の製造方法で得られる高分子膜の初期表面抵抗率は、特に限定されず、高分子膜の用途に応じて適宜選択し得る。表面抵抗率は、例えば、JIS K6911などに従って測定することができ、あるいは、市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することもできる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0050】
(調製例1:コーティング剤の調製)
10.4質量部のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(H.C.スタルク株式会社製:BaytronPH500、固形分1.2質量%)、2.7質量部のポリエステル樹脂水分散体(ナガセケムテックス株式会社製:ガブセンES−210、固形分25.0質量%)、4.2質量部のメラミン系架橋剤(住友化学株式会社製:SumitexResinM−3)、適量の水、適量の変性エタノール、少量の界面活性剤、および少量のレベリング剤を混合して1時間撹拌した。次いで、得られた混合物を400メッシュのSUS製の篩でろ過し、コーティング剤Aを調製した。
【0051】
(調製例2:コーティング剤の調製)
10.4質量部のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(H.C.スタルク株式会社製:BaytronP、固形分1.3質量%)、2.7質量部のポリエステル樹脂水分散体(ナガセケムテックス株式会社製:ガブセンES−210、固形分25.0質量%)、4.2質量部のメラミン系架橋剤(住友化学株式会社製:SumitexResinM−3)、適量の水、適量の変性エタノール、少量の界面活性剤、および少量のレベリング剤を混合して1時間撹拌した。次いで、得られた混合物を400メッシュのSUS製の篩でろ過し、コーティング剤Bを調製した。
【0052】
(実施例1)
基材(東レルミラーT60(東レ株式会社製:厚み188μm))上に、上記調製例1で得られたコーティング剤Aを、ワイヤーバーNo.8を用いてバーコート法により塗布した(ウエット膜厚12μm)。次いで、130℃で15分乾燥させることにより、基材上に導電層(膜厚0.12μm)を形成した。次いで、導電層の表面抵抗率を、JIS K6911に従い、三菱化学株式会社製ロレスタ−GP(MCP−T600)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0053】
次いで、この導電層が形成された基材を、温度が23℃でかつ湿度が85%の環境下に静置し、240時間後の導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例2)
温度が40℃でかつ湿度が100%の環境下に120時間静置したこと以外は、実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、120時間後の導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例3)
温度が60℃でかつ湿度が93%の環境下に静置したこと以外は、実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例4)
温度が80℃でかつ湿度が100%の環境下に120時間静置したこと以外は、実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、120時間後の導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例5)
温度が100℃でかつ湿度が100%の環境下に1時間静置したこと以外は、実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、1時間後の導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例6)
温度が120℃でかつ湿度が100%の環境下に1時間静置したこと以外は、実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、1時間後の導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例7)
温度が134℃でかつ湿度が100%の環境下に1時間静置したこと以外は、実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、1時間後の導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例8)
上記調製例2で得られたコーティング剤Bを用いたこと以外は、実施例5と同様の手順で基材上に導電層を形成し、導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例9)
上記調製例2で得られたコーティング剤Bを用いたこと以外は、実施例6と同様の手順で基材上に導電層を形成し、導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例10)
上記調製例2で得られたコーティング剤Bを用いたこと以外は、実施例7と同様の手順で基材上に導電層を形成し、導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
温度が5℃でかつ湿度が93%の環境下に静置したこと以外は、実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例2)
温度が23℃でかつ湿度が60%の環境下に静置したこと以外は、実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
(比較例3)
温度が40℃でかつ湿度が46%の環境下に静置したこと以外は、実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例4)
温度が80℃でかつ湿度が10%の環境下に静置したこと以外は、実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、導電層が形成された基材を、高湿度雰囲気下で処理(静置)することによって、膜の導電性が向上することがわかった。
【0069】
なお、高湿度雰囲気下処理後の表面抵抗率が、処理前の表面抵抗率の何倍であるかを、表面抵抗変化率として示した。この表面抵抗変化率の値が小さいほど、効率よく表面抵抗率を低下させていることがわかる。
【0070】
(実施例11)
実施例1と同様の手順で基材上に導電層を形成し、導電層の表面抵抗率を測定した。次いで、この導電層が形成された基材を、60℃の温水に24時間浸漬した。次いで、温水から基材を取り出し、乾燥後、導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
(実施例12)
80℃の熱水に1時間浸漬したこと以外は、実施例11と同様の手順で基材上に導電層を形成し、1時間後の導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0072】
(比較例5)
23℃の水に240時間浸漬したこと以外は、実施例11と同様の手順で基材上に導電層を形成し、240時間後の導電層の表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に示すように、導電層が形成された基材を、温水中で処理(浸漬)することによって、膜の導電性が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、導電性向上剤(高沸点有機溶剤)を用いることなく、導電性の高いπ共役系導電性高分子膜を製造し得る。さらに、本発明の方法で得られるπ共役系導電性高分子膜は、高沸点有機溶剤を用いないため、アウトガスが発生せず、環境に対する負荷も少ない。したがって、本発明の製造方法は、包装フィルム、電子波シールド材、偏光フィルムなどの帯電防止フィルム、タッチパネル、電子ペーパー、無機EL、有機ELなどの透明電極などの製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子膜の製造方法であって、
基材に、π共役系導電性高分子を含有するコーティング剤を付与する工程;
該基材に付与された該コーティング剤を乾燥させる工程;および
該乾燥後の基材を、10℃以上の温度でかつ70%以上の湿度を有する高湿度雰囲気下で処理、または30℃以上の温水中で処理する工程;
を包含する、方法。
【請求項2】
前記高湿度雰囲気下での処理工程が、20℃以上の温度でかつ80%以上の湿度を有する高湿度雰囲気下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記温水中での処理工程が、40℃以上の温水中で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記π共役系導電性高分子が、ポリチオフェン誘導体である、請求項1から3のいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリチオフェン誘導体が、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体である、請求項4に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−285588(P2010−285588A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142776(P2009−142776)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】