説明

導電性高分子電解コンデンサの製造方法

【課題】陽極酸化能力に優れた、すなわち低LCのみならず高耐電圧の両特性を有した焼結型電極を有する固体電解コンデンサを得られる製造方法を提供する。
【解決手段】次の(1)〜(4)工程を含み、(2)工程および/または(4)工程がイオン液体存在下で行なわれる、固体電解コンデンサの製造方法:(1)タンタルまたはニオブ粉末を焼結して作製された陽極表面に誘電体酸化膜を形成する工程、(2)前記誘電体皮膜上に導電性高分子モノマーのin situ重合により電解質を形成する工程、(3)形成された電解質を洗浄する工程、(4)洗浄後の電解質に導電性高分子分散液を充填する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を用いた導電性高分子電解コンデンサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タンタルまたはニオブを陽極に用いた固体電解コンデンサは、携帯電話などの小型電子機器に多く用いられており、市場を拡大しつつある。
【0003】
固体電解コンデンサとは、電解質に二酸化マンガン、あるいはポリピロール、ポリチオフェン誘導体等の導電性高分子を用いたコンデンサである。中でも導電性高分子を電解質に用いた固体電解コンデンサは、その電気伝導度(すなわち電子伝導性)がはるかに高いために内部インピーダンスを低減する事ができ、優れた特性を発揮する。一般的な導電性高分子固体電解コンデンサの製造方法として、タンタルなどからなる弁金属を粉末成型しリードを備えて素子を形成し、該弁金属表面(微孔の表面を含む)に化成処理を行って誘電体酸化皮膜を形成して焼結体を得て、弁金属および誘電体膜からなる焼結体とリードから陽極は構成される。前記誘電体酸化被膜上に導電性高分子およびグラファイト層からなる陰極層が形成され、陰極層に導電性ペーストを塗布して、陰極端子と陰極層を接続し、素子から引き出された陽極リードに陽極端子を接続し、外装樹脂で外装を施し、エージング処理を施してタンタル固体電解コンデンサを得ている。陰極層の形成方法としては、前記誘電体酸化皮膜上に密接して導電性高分子を形成し、洗浄を行った後、グラファイト粉末含有懸濁溶液に浸漬して導電性高分子上にグラファイト層を形成し、その上に銀導電層を形成している。
【0004】
従来技術による固体電解コンデンサの製造方法は、化成により誘電体酸化皮膜を形成した後、in situ重合(化学重合法や電解重合法)により導電性高分子を形成し洗浄を行い、グラファイトペースト、銀ペーストを塗布し乾燥した後エージング処理を施してコンデンサを完成させているが、焼結体のエッジ部分は導電性高分子が充填されにくく、また洗浄により充填が不十分になり、それゆえ塗布したペーストが酸化皮膜にまで浸透してしまい、その結果、漏れ電流(以下LCと略す)の増大や耐電圧の低下を招くという問題がある。
【0005】
このLCの増大という問題を解決するために、導電性高分子の粒子を含む溶液や分散液を電解質充填後の最外層として用いることで、良好に焼結体のエッジ部分を被覆し、十分に導電性高分子を充填できることから、低LCを有する固体電解コンデンサが実現できるという技術が報告されている(特許文献1、2)。しかしながら、耐電圧の低下という課題解決への効果には着目しておらず、この問題は未解決のままである。
【0006】
一方、LCの増大および耐電圧の低下という問題を解決するために、イオン液体と導電性高分子からなる電解質が開発されている(特許文献3)。これは、イオン液体が優れた弁金属の陽極酸化作用を有し、例えばアルミニウムの酸化膜の欠陥を修復できる事を発見して成されたもので、この発明により高い耐電圧特性および低LCを有する固体電解コンデンサが実現できる。しかしながら、特許文献3に記載のイオン液体とその手法をタンタルなどの焼結体に適用しても、十分な耐電圧向上とLC特性に優れるコンデンサが得られないという課題が未だある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−295184号公報
【特許文献2】特開2007−27767号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/012599号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、陽極酸化能力に優れた、すなわち低LCのみならず高耐電圧の両特性を有した焼結型電極を有する固体電解コンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記に鑑み鋭意検討を行った結果、タンタルまたはニオブを陽極に使用した固体電解コンデンサの製法において、陽極の誘電体皮膜上に導電性高分子モノマーのin situ重合により電解質を形成する工程、および、形成された電解質に導電性高分子分散液を充填させる工程を実施するにあたり、これらのいずれか一方の工程または両工程でイオン液体を存在させると、高い耐電圧特性、優れたLC特性を有する固体電解コンデンサが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1] 次の(1)〜(4)工程を含み、(2)工程および/または(4)工程がイオン液体存在下で行なわれる、固体電解コンデンサの製造方法:
(1)タンタルまたはニオブ粉末を焼結して作製された陽極表面に誘電体酸化膜を形成する工程、
(2)前記誘電体皮膜上に導電性高分子モノマーのin situ重合により電解質を形成する工程、
(3)形成された電解質を洗浄する工程、
(4)洗浄後の電解質に導電性高分子分散液を充填する工程、
[2] イオン液体のアニオン成分が、ギ酸アニオン、および、一般式(1);
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、保護又は無保護の水酸基、保護又は無保護のアミノ基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC1〜C20のアルキル基,直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC2〜C20のアルケニル基,直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC2〜C20のアルキニル基,C6〜C20のアリール基,C4〜C20のヘテロアリール基,C7〜C20のアラルキル基,C4〜C20のヘテロアラルキル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよく、また一緒になって環を形成してもよい。上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基およびヘテロアラルキル基は水素原子が置換されていてもよい。)で表されるカルボキシレートアニオンからなる群の中から選択される少なくとも1種である、上記[1]に記載の固体電解コンデンサの製造方法、
[3] in situ重合が化学重合および/または電解重合である、上記[1]または[2]に記載の電解コンデンサの製造方法、
[4] 導電性高分子モノマーが、チオフェン、チオフェン誘導体、ピロール、ピロール誘導体、アニリンおよびアニリン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法、
[5] 導電性高分子分散液が、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール、ポリピロール誘導体、ポリアニリン、および、ポリアニリン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法、
[6] 上記[1]〜[5]に記載の固体電解コンデンサの製造方法で製造される固体電解コンデンサ、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、高耐圧と低LCの両特性を有する優れたタンタルまたはニオブ固体電解コンデンサを得る事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、(2)工程および/または(4)工程をイオン液体存在下で実施する。本発明に用いるイオン液体(以下、「ILs」と略すことがある)は、常温溶融塩ともいわれ、イオンのみから構成されているにもかかわらず常温で液体であるものを指し、イミダゾリウムなどのカチオンと適当なアニオンの組み合わせで構成される。
【0015】
本発明において用いられるILsは、非ハロゲン系アニオンを有するイオン液体等が挙げられる。中でも陽極酸化能力がより優れているという観点から、アニオン成分がカルボキシレートアニオンであるイオン液体が好ましい。
【0016】
カルボキシレートアニオンとしては、ギ酸アニオン、および一般式(1);
【0017】
【化2】

【0018】
で表されるカルボキシレートアニオンが挙げられる。
【0019】
前記式(1)で表されるカルボキシレートアニオンは後述するカチオンと対になってILsを形成する。
【0020】
前記式(1)においてR1およびR2は、それぞれ独立に水素原子、保護または無保護の水酸基、保護または無保護のアミノ基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC1〜C20のアルキル基、直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC2〜C20のアルケニル基、直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC2〜C20のアルキニル基、C6〜C20のアリール基、C4〜C20のヘテロアリール基、C7〜C20のアラルキル基、C4〜C20のヘテロアラルキル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよく、また一緒になって環を形成してもよい。上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基およびヘテロアラルキル基は水素原子が置換されていてもよい。ここで置換基としては、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0021】
直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC1〜C20のアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、などを挙げることができ、またこれらのアルキル基の水素原子が任意の数だけフッ素原子で置換されたもの、例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。
【0022】
直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC2〜C20のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、スチリル基、イソプロペニル基、シクロプロペニル基、ブテニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。
【0023】
直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC2〜C20のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、フェニルエチニル基、シクロプロピルエチニル基、ブチニル基、ペンチニル基、シクロブチルエチニル基、ヘキシニル基などが挙げられる。
【0024】
6〜C20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、テルフェニル基などが挙げられる。
【0025】
4〜C20のヘテロアリール基としては、例えば、ピロリニル基、ピリジル基、キノリル基、イミダゾリル基、フリル基、インドリル基、チエニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基などが挙げられる。
【0026】
7〜C20のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ナフチルメチル基、アントラセニルメチル基などが挙げられる。
【0027】
4〜C20のヘテロアラルキル基としては、ピリジルメチル基、キノリルメチル基、インドリルメチル基、フルフリル基、チエニルメチル基などが挙げられる。
【0028】
1とR2が一緒になって環を形成していてもよく、シクロヘキシル基、フェニル基などが例示される。
【0029】
1または/およびR2が水酸基またはアミノ基である場合には、水酸基およびアミノ基は保護されていても無保護でもよく、保護されている場合には保護基は特に制限されるものではないが、例えば一般的な保護基を使用すればよく、例えば、「PROTECTIVE GROUPS in ORGANIC SYNTHESIS THIRD EDITION」(17ページおよび494ページ WILEY−INTERSCIENCE)記載のものが挙げられ、具体例として、水酸基が保護されている場合には各種エーテルとする方法、各種エステルとする方法、各種スルホン酸エステルとする方法、各種炭酸エステルとする方法が挙げられ、アミノ基が保護されている場合には各種アミドとする方法、各種イミドとする方法、各種カルバメートとする方法が挙げられる。
【0030】
これらのILsは単独で用いてもよいし、二種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。また分子内に不斉点を有する場合には、光学活性体であってもよいし、ラセミ体でもよい。陽極酸化能力および入手の容易さの観点からは、R1およびR2は少なくとも片方が水素原子または水酸基であることが好ましい。R1またはR2が水素原子または水酸基である場合に、もう片方がメチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基などであることも好ましい。R1およびR2の少なくとも片方が水酸基である場合には、保護されていても無保護でもよいが、一般に無保護のほうが高い陽極酸化能力を示し好ましい。
【0031】
1とR2が一緒になってシクロヘキシル基、フェニル基を形成しているものも好ましい例として挙げられる。
【0032】
ILsのカチオン成分としては、アンモニウムおよびその誘導体、イミダゾリウムおよびその誘導体、ピリジニウムおよびその誘導体、ピロリジニウムおよびその誘導体、ピロリニウムおよびその誘導体、ピラジニウムおよびその誘導体、ピリミジニウムおよびその誘導体、トリアゾニウムおよびその誘導体、トリアジニウムおよびその誘導体、トリアジンおよびその誘導体、キノリニウムおよびその誘導体、イソキノリニウムおよびその誘導体、インドリニウムおよびその誘導体、キノキサリニウムおよびその誘導体、ピペラジニウムおよびその誘導体、オキサゾリニウムおよびその誘導体、チアゾリニウムおよびその誘導体、モルフォリニウムおよびその誘導体、ピペラジンおよびその誘導体が挙げられる。得られるイオン液体が比較的低い粘度を示すことから、イミダゾリウム誘導体が好ましく、イミダゾリウム誘導体としてはジエチルイミダゾリウム、エチルブチルイミダゾリウム、ジメチルイミダゾリウムが好ましく、特に好ましくはエチルメチルイミダゾリウム、メチルブチルイミダゾリウムである。
【0033】
本発明のILsは、上記のアニオンと上記のカチオンとを組み合わせた物質であり、公知の方法で合成する事ができる。具体的には、アニオン交換法、酸エステル法、中和法等の方法を用いることができる。
【0034】
次に、本発明の(2)工程において用いられる導電性高分子モノマーについて説明する。導電性高分子モノマーは、特に制限されるものではないが、例えばチオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、アニリンまたはその誘導体などが挙げられる。
【0035】
チオフェン誘導体としては、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−アルキルチオフェン(アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基など)、フルオロフェニルチオフェン、アリルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−クロロチオフェン、3−アセチルチオフェンなどが挙げられる。
【0036】
ピロール誘導体としては、3−メチルピロール、1−(ジメチルアミノ)ピロールなどが挙げられ。
【0037】
アニリン誘導体としては、o−トルイジン、m−トルイジン、1,3−ベンゼンジアミン、1,2−ベンゼンジアミン、2−アミノフェノール、3−アミノフェノール、2−フルオロアニリン、3−フルオロアニリン、2−エチニルアニリン、3−エチニルアニリン、2−アミノベンゾニトリル、3−アミノベンゾニトリル、3−ビニルアニリン、2,3−ジメチルアニリン、3,5−ジメチルアニリン、2,5−ジメチルアニリン、2−(アミノメチル)アニリン、4−メチル−1,2−ベンゼンジアミン、2−メチル−1,3−ベンゼンジアミン、4−メチル−1,3−ベンゼンジアミン、2−メトキシアニリン、3−メトキシアニリン、2,3−ジアミノフェノール、5−フルオロ−2−メチルアニリン、2−フルオロ−5−メチルアニリン、3−フルオロ−2−メチルアニリン、2−クロロアニリンなどが挙げられる。
【0038】
得られる導電性高分子の導電性が高く、かつ空気中で安定であることからチオフェン誘導体またはピロールが好ましく、3,4−エチレンジオキシチオフェンまたはピロールがより好ましい。
【0039】
導電性高分子モノマーは一種のみを使用してもよいし、二種類以上用いても良い。
【0040】
本発明の(4)工程において用いられる導電性高分子分散液について説明する。導電性高分子分散液には、少なくとも陽イオン形態の導電性高分子、対アニオン、および溶媒が含まれる。
【0041】
上記の導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール、ポリピロール誘導体、ポリアニリン、ポリアニリン誘導体などが挙げられる。ここでいう誘導体は、任意の置換基を有するモノマーから得られたポリマー、および、ポリマー中の任意の位置に任意の置換基を有するポリマーを含む。ポリチオフェン誘導体を挙げれば、前者の具体例としては、3位にヘキシル基を有する3−ヘキシルチオフェンより得られたポリ(3−ヘキシルチオフェン)や、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのポリ(チオフェン誘導体)である。また、後者の具体例としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の末端をポリエチレングリコールでキャップしたポリマーなどが挙げられる。ポリピロール誘導体およびポリアニリン誘導体における、ピロール誘導体およびアニリン誘導体としては、上述した導電性高分子モノマーのピロール誘導体およびアニリン誘導体と同様のものが挙げられる。ここで「置換基」とは、反応に悪影響を与えない限り特に限定されるものではなく、具体的には、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0042】
導電性高分子分散液中での安定性からポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンまたはポリピロールまたはポリアニリンが好ましい。
【0043】
導電性高分子分散液には、導電性高分子を一種のみを使用してもよく、二種類以上用いても良い。(2)工程において用いられた導電性高分子モノマーから重合された導電性高分子と同じ種類でも異なっていてもどちらでも良い。
【0044】
導電性高分子分散液に含まれる導電性高分子は固体粒子として溶媒に分散しており、その粒径は特に制限されるものではないが1μm以下が好ましい。粒径が大きすぎるとコンデンサに適用したとき焼結体の粒間に充填されにくくなるためである。
【0045】
分散している導電性高分子の濃度は、限定されるものではないが、濃度が低すぎると効果が発現しないため、溶媒100重量部に対して1重量部以上が好ましい。
【0046】
対アニオンは、導電性高分子の正電荷を補うために、対の陰イオンとして必要であり、導電性高分子に対するドーパントとしても機能する。対アニオンは、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸のアニオンが挙げられる。また、これらのポリカルボン酸およびスルホン酸は、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸と、他の重合性モノマー、例えばアクリル酸エステルおよびスチレンとのコポリマーでも良い。対アニオンの濃度は、効果発現の観点から溶媒100重量部に対して0.5重量部以上が好ましい。
【0047】
溶媒は、導電性高分子および対アニオンを分散するために用い、水および/または有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、非プロトン性溶媒またはプロトン性溶媒のどちらでも良い。例えばアルコール系、エーテル系、二トリル系、ケトン系、アミド系、カーボネート系、エステル系、ラクトン系、硫黄含有溶剤、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素系溶媒が挙げられ、これらの溶媒を二種以上用いてもよい。
【0048】
(4)工程において用いられる導電性高分子分散液は、下記の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては界面活性剤や架橋剤、結合剤等が挙げられ、これらを単独で用いても良いし、二種以上添加してもよい。推測ではあるが、添加剤を含むことで焼結体への密着性が向上し、LC特性をより向上させる効果があると考えられる。添加剤は、特に限定されるものではないが、はんだリフローに耐えられるほどの耐熱性があるほうが好ましい。界面活性剤としては、例えばイオン性や非イオン界面活性剤等が挙げられ、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチレート、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸アミド、ポリメタクリル酸アミド、スチレン/アクリル酸エステル、酢酸ビニル/アクリル酸エステル、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、メラミン/ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース、ポリビニルアセテート、ポリカーボネート、ポリビチルブチラール、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルクロリド、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテル、ポリエステル等が挙げられる。架橋剤としては、例えば、メラミン化合物、マスクドイソシアネート、官能性シランおよびその加水分解物、エポキシシラン、例えば、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、テトラエトキシシラン、ポリアクリレートまたはポリオレフィン分散物等が挙げられる。
【0049】
本発明においては、(4)工程はイオン液体存在下で実施されることがある。具体的には、イオン液体を含有する導電性高分子分散液を用いる態様が挙げられ、この場合導電性高分子分散液にILsを溶解させることが好ましい。ILsの陽極酸化能力により低LCのみならず高耐電圧を有するコンデンサを得ることができるからである。ILsの濃度は、導電性高分子分散液とILsの合計100wt%において0.01wt%〜95wt%が好ましく、より好ましくは0.05wt%〜20wt%、さらに好ましくは0.01wt%〜10wt%、最も好ましくは0.05wt%〜5wt%の範囲である。0.01wt%以下の場合、ILsの添加効果が見られない場合がある。ILsの濃度は(4)工程で形成される導電性高分子膜の機械的、あるいは電気的性質に影響を与え一般に10wt%以上のILsが添加されると機械的強度や電気的な特性が悪くなり最外装電解質層としての効果が低くなる場合がある。
【0050】
導電性高分子分散液は、前記溶媒に少なくとも導電性高分子および対アニオンをそれぞれの濃度で添加し、1分〜96時間撹拌することで作製される。ILsおよび/または添加剤を添加する場合には、導電性高分子および対アニオンを添加するのと同時に添加しても良いし、導電性高分子分散液を作製後、さらに添加しても良い。
【0051】
本発明の固体電解コンデンサは、弁金属を粉末成形し、電気化学的方法により弁金属上に誘電体酸化皮膜を形成し、導電性高分子モノマーを用いてin situ重合によって皮膜上に電解質を形成し洗浄した後、電解質上に分散液を充填して得られたコンデンサ素子に陰極とリードを接続しエージング処理を施して製造される。
【0052】
本発明の工程(1)タンタルまたはニオブ粉末を焼結して作製された陽極表面に誘電体酸化膜を形成する工程について説明する。本発明の固体電解コンデンサの陽極としては、弁金属および誘電体膜からなる焼結体と、リードから構成される。タンタルまたはニオブからなる弁金属を粉末成型してリードを備えた素子を用い、該弁金属の表面に陽極酸化等の化成処理によって形成された酸化皮膜からなる誘電体膜を組合せて焼結体を形成する。上記の陽極酸化は、弁金属を例えばリン酸水溶液等に浸漬して電圧を印加し、化成処理することにより行うことができる。
【0053】
次に本発明における工程(2)の電解質形成方法について説明する。
【0054】
本発明においては、(2)工程をイオン液体存在下で実施することがある。すなわち、イオン液体の存在下で、(1)工程で得られた誘電体皮膜上に導電性高分子モノマーのin situ重合を行う。ここで、in situ重合には、化学重合と電解重合がある。
【0055】
化学重合とは、適当な酸化剤の存在下で、原料の導電性高分子モノマーを酸化重合することで合成する方法である。
【0056】
酸化剤としては、例えばパラトルエンスルホン酸第二鉄、ナフタレンスルホン酸第二鉄、n−ブチルナフタレンスルホン酸第二鉄、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸第二鉄などの鉄塩、過硫酸塩、過酸化水素、ジアゾニウム塩、ハロゲン及びハロゲン化物、あるいは銅、マンガン等の遷移金属塩が使用できる。化学重合により合成された導電性高分子は、酸化剤のアニオンがドーパントとして重合過程でポリマー中に取り込まれることにより、一段階の反応で導電性を有するポリマーを得る事ができることから、ドーパントとしての移動度の高いパラトルエンスルホン酸イオンを含むパラトルエンスルホン酸第二鉄を酸化剤として用いることが好ましい。
【0057】
化学重合には溶媒を使用してもよい。溶媒としては公知のもので良く、特に限定されるものではないが、例えばメタノール、エタノール、n−ブタノール、2−プロパノール、アセトン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、THF、DMF、アセトニトリル、DMSO、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ヘキサン、トルエン、クロロホルムなどが挙げられ、特に好ましくはn−ブタノールである。これら溶媒は一種のみを使用してよいし、二種以上を使用してもよい。
【0058】
ILsおよび導電性高分子モノマーを含む溶液を用いて化学重合を行う場合、形成された電解質中にILsが存在し、その結果誘電体酸化皮膜近傍の該ILsの陽極酸化能力により高耐圧化という効果が発現すると推定される。該重合の場合、導電性高分子モノマー及びILsを含む溶液に酸化剤を加えた後、誘電体皮膜を形成した焼結体を浸漬させても良いし、あるいは誘電体皮膜を形成した焼結体に導電性高分子モノマー及びILsを含有する溶液を含浸させた後、酸化剤を含浸させても良い。これらの場合には溶媒を加えて粘度、濃度を適宜調整しても良い。
【0059】
重合条件は公知の重合条件で良く、温度範囲は−100℃〜200℃で、特に好ましくは−30℃〜150℃である。重合時間は、1分〜120時間であり、特に好ましくは1分〜1440分間である。上記の化学重合の重合液を焼結体に含浸させる工程において、十分に焼結体に電解質が充填される点から数回繰り返すことが好ましい。
【0060】
次に、電解重合について説明する。電解重合とは、導電性高分子モノマーを溶媒に溶解し、陽極酸化することにより導電性高分子モノマーを脱水素重合する方法である。電解重合は、例えば、ピロールモノマーを支持電解質と共に溶媒に溶解し、陽極酸化する事により脱水素重合する方法で、陽極上に導電性高分子であるポリピロールを析出させることができる。一般的に、ポリマーの酸化還元電位はモノマーに比べて低いため、重合過程でさらにポリマー骨格の酸化が進み、それに伴って支持電解質のアニオンがドーパントとしてポリマー中に取り込まれる。電解重合においては、こうしたメカニズムにより、後でドーパントを加えなくても、導電性を有するポリマーが得られるという利点がある。したがって、電解重合はILsを含む溶液で行うことが好ましく、形成された電解質中にILsが存在することで、誘電体酸化皮膜近傍のILsの陽極酸化能力により高耐圧を有するコンデンサが得られると推定される。電解重合で導電性高分子を合成する場合には、弁金属上の酸化皮膜が誘電体なので、その誘電体上にあらかじめ導電性の皮膜を形成して導電化しておき、給電電源から電流または電圧を印加して電解重合を行う。この様な目的で用いられる導電性被膜としては化学重合により合成された導電性高分子や熱分解二酸化マンガンなどを用いる事ができる。
【0061】
電解重合の後に化学重合を用いても良く、また、化学重合の後に電解重合を用いても良い。
【0062】
ILsは、イオン伝導性はあるが電子伝導性は有さないため、電解質においては絶縁体として振舞う。したがって、(2)工程をイオン液体存在下で行なう場合、あまりに多くのILsを添加するとインピーダンス特性が悪化してしまう傾向があるため、添加されるILsの総量は導電性高分子モノマーに対して1モル当量以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.01モル当量以上0.8モル当量以下である事、最も好ましくは0.05モル当量以上0.5モル当量以下である。
【0063】
本発明における(3)工程、すなわち形成された電解質を洗浄する工程について説明する。(3)工程は、上記(2)工程で得られた電解質を水および/または有機溶媒で洗浄する工程を指す。ここで言う洗浄とは、特に限られないが、攪拌させてある水および/または有機溶媒中に、室温〜80℃の間で1分間〜1時間浸漬させておくことが好ましい。使用する有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、アルコール系、エーテル系、二トリル系、ケトン系、アミド系、カーボネート系、エステル系、ラクトン系、硫黄含有溶剤、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素系溶媒が挙げられ、これらの溶媒を一種のみを使用してもよいし、二種以上を用いてもよい。洗浄効果の観点からアルコール系を用いることが好ましく、特に好ましくはメタノール、エタノール、n−ブタノールである。
【0064】
(3)工程では、(2)工程で得られた電解質を水および/または有機溶媒で洗浄することで電解質中に取り込まれていた導電性高分子モノマーおよび/または酸化剤の成分が溶出し、重合していない未反応のモノマーや酸化剤成分を洗い流すことで、インピーダンス特性および耐圧特性を悪化させる成分を除去できる。(2)工程でイオン液体が添加される場合、イオン液体の一部はこの洗浄工程で溶出するが、通常の洗浄ではイオン液体をすべて溶出させる事は不可能である。(2)工程における添加量の10%〜60%程度のイオン液体は電解質中に残存すると考えられる。残存するイオン液体はコンデンサ特性の向上に寄与できる。
【0065】
(3)工程後には、再化成処理を行うことが好ましい。再化成処理とは、工程(2)の電解質形成時のストレスにより生じた誘電体酸化皮膜の劣化や欠陥を修復し、LCを低下させる目的で行い、化成処理と同じ溶液中に電解質を浸漬させ一定電圧を一定時間印加する工程を指す。条件は特に限られないが、化成電圧の0.5〜0.95倍の電圧を1分〜24時間印加することが好ましく、溶液の例としてはリン酸水溶液が挙げられる。また、再化成処理後は該処理で用いた溶液を洗い流すために、洗浄を行うことが好ましく、特に限られないが、攪拌させてある水および/または有機溶媒中に1分間〜1時間浸漬させておくことが好ましい。有機溶媒としては、特に限られないが、アルコール系、エーテル系、二トリル系、ケトン系、アミド系、カーボネート系、エステル系、ラクトン系、硫黄含有溶剤、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素系溶媒が挙げられ、これらの溶媒を一種のみを使用してもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0066】
緻密な電解質を形成できる点から、(2)工程、(3)工程および再化成処理は繰り返し行うことが好ましい。
【0067】
次に(4)工程、すなわち導電性高分子分散液の充填工程について説明する。(4)工程は、焼結体のエッジ部分を導電性高分子および対アニオンで被覆し十分に充填することでLCの増大を抑制するために行う工程である。
【0068】
(4)工程は従来公知の方法で適用され、充填方法としては、例えばスピン塗布や含浸(浸漬)などが挙げられ、十分に充填する点から数回繰り返すことが好ましい。含浸して繰り返し充填を行う場合、最初の工程で、焼結体の高さ半分の位置まで浸漬させ乾燥後、次に最初よりは深く浸漬させ乾燥を行う。これらの作業を1回以上繰り返すことで、十分に被覆することができると推定される。
【0069】
充填後は、洗浄を行った後乾燥を行うが、洗浄は行っても行わなくてもどちらでも良い。洗浄は、水および/または有機溶媒で洗浄する工程を指す。ここで言う洗浄とは、特に限られないが、攪拌させてある水および/または有機溶媒中に、室温〜80℃の間で1分間〜1時間浸漬させておくことが好ましい。使用する有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、アルコール系、エーテル系、二トリル系、ケトン系、アミド系、カーボネート系、エステル系、ラクトン系、硫黄含有溶剤、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素系溶媒が挙げられ、これらの溶媒を一種のみを使用してもよいし、二種以上を用いてもよい。洗浄効果の観点からアルコール系を用いることが好ましく、特に好ましくはメタノール、エタノール、n−ブタノールである。乾燥条件は、特に限られないが、室温〜180℃の間で1分間〜24時間加熱する。あるいは熱風または熱放射により加熱することにより、促進することができる。乾燥では、溶媒が好ましくは除去されるが、一部残っていても良い。使用する結合剤や架橋剤に依存して、更なる処理、例えば加熱または光による硬化または架橋を行うこともできる。
【0070】
(4)工程の作業を繰り返し行うことは、より密に焼結体を被覆できることから好ましく、その結果より低LCのコンデンサを得られる。
【0071】
本発明は、(2)工程および/または(4)工程をイオン液体存在下で行なう。すなわち、(2)工程および(4)工程の少なくともいずれか一工程でILsを適用する必要がある。(2)工程または(4)工程のいずれかの工程でILsを添加することによって前述のとおり耐電圧向上という効果が発現する。好ましくは、(2)工程と(4)工程の両工程でILsを適用する。両工程でILsを適用すると、両工程での効果がともに発現し、その結果耐電圧はより向上するものと推定される。
【0072】
本発明の固体電解コンデンサの陰極としては例えばカーボンペースト及び銀ペースト等が従来公知の方法で形成され得る。コンデンサ素子及び陰極はそれぞれリードに接続される。前記コンデンサ素子表面にカーボンペースト、銀ペースト等の導電性ペーストにより導電性塗膜を形成し、リードを接続する。
【0073】
その後樹脂モールドまたは外装ケースにより外装し、さらにエージング処理を施して固体電解コンデンサが形成され得る。エージング処理とは、LC低減の目的で行う工程であり、条件は特に限られないが、1分〜24時間、室温〜180℃の間で定格電圧を印加する。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0075】
<陽極>
工程(1)として、陽極リードを備え、弁金属にタンタルを用いた50000CV/gの素子を用い、60℃のリン酸水溶液中、20Vの電圧を24時間印加させて化成処理を施し、誘電体酸化皮膜を形成させて焼結体を得て、陽極とした。
【0076】
<ILs>
最初に、実施例として用いたILsの合成法または入手先について述べる。
【0077】
・[BMIm][MA](1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム マンデレート)
【0078】
【化3】

【0079】
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムハイドロジェンカーボネート 50%水溶液(5000mg、12.48mmol)を0℃に冷却した。その後、マンデル酸(1899mg、12.48mmol)の水溶液をゆっくり滴下し、室温で1時間攪拌した。反応溶液をそのまま濃縮して溶媒を減圧下留去し、得られた残渣にジクロロメタンを加え、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去することで、目的化合物を薄褐色の油状物として3622.3mg得た。(収率100%)
1H NMR(CDCl3、300MHz)δ0.93(t、3H)、1.29−1.34(m、2H)、1.74−1.79(m、2H)、3.84(s、3H)、4.10(t、2H)、4.92(s、1H)、7.04(s、1H)、7.14−7.26(m、1H)、7.23−7.26(m、3H)、7.54(d、2H)、10.74(s、1H)
・[EMIm][LA](1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ラクテート、アルドリッチ社製)
【0080】
【化4】

【0081】
・[EMIm][AC](1−エチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート、アルドリッチ社製)
【0082】
【化5】

【0083】
<導電性高分子分散液>
ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸水性分散液(シグマアルドリッチ社製高導電率コーティングタイプ 分散物濃度1.3〜1.7wt%)90部にEDOT2部、DMSO 4部、ポリビニルアルコール4部を添加し1時間撹拌し作製した。
【0084】
<LC>
装置に北斗電工社製「HA−3001A」を用い、エージング処理前後に6.3V印加し続け、印加開始から5分後の値を用いた。一般的にLCは、エージング処理後のLCを言い、本実施例においてもエージング処理後のLCを示す。
【0085】
<耐電圧測定>
耐電圧(V)を、100mV/秒の速度で電圧を上昇させて測定した。装置には、アドバンテスト社製の型番「TR6143」を用い、耐電圧値は、100mAの電流が流れたときの電圧値と定義した。
【0086】
(実施例1)
(2)工程の化学重合の重合液および(4)工程に用いる導電性高分子分散液に、ILsとして[BMIm][MA]を適用することでタンタル固体電解コンデンサの作製を行った。
【0087】
すなわち、前記陽極を用いて、(2)工程として3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、EDOTと略す。H.C.Starck−V TECH社製)の化学重合によって導電性高分子を形成し、(4)工程として上記導電性高分子分散液を適用することでタンタル固体電解コンデンサの作製を行った。
【0088】
(2)工程の化学重合の重合液は、EDOT、酸化剤としてはパラトルエンスルホン酸鉄(40wt%1−ブタノール溶液)、[BMIm][MA]をモル比でEDOT:酸化剤:ILs=1:1:0.1の配合割合で混合し調製した。
【0089】
この重合液をよく乾燥したビーカーで混合させ、次にその重合液中に陽極を浸漬し引き上げ後26℃で1時間加熱処理を行った。この処理を3回繰り返した後、50℃で3時間さらに加熱処理を行いエタノールで洗浄し、リン酸水溶液で6.3Vで5分間再化成し水洗を5分間行った後、120℃で30分間乾燥を行った。以上の重合液の浸漬から乾燥までの工程を6回繰り返し、電解質を形成した。
【0090】
次に(4)工程の充填工程として、0.1wt%の[BMIm][MA]を含む導電性高分子分散液を作製した。具体的には[BMIm][MA]を上記導電性高分子分散液に添加し10分間撹拌した後、電解質が形成された陽極をイオン液体が添加された導電性高分子分散液に浸漬し、引き上げ後120℃で30分加熱乾燥を行った。該工程を3回行った。
【0091】
その後グラファイトペースト、銀ペーストと銅箔を塗布・乾燥を行い、6.3V、105℃で1時間エージング処理を施した。こうして得られたコンデンサを試料とし、耐電圧の測定を行った。
【0092】
得られたコンデンサの特性を表1に示す。
【0093】
(実施例2)
(2)工程の化学重合の重合液において、[BMIm][MA]をモル比でEDOT:酸化剤:ILs=1:1:0.3の配合割合で混合した以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0094】
得られた結果を表1に示す。
【0095】
(実施例3)
(4)工程において、0.2wt%の[BMIm][MA]を含む導電性高分子分散液を用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0096】
得られた結果を表1に示す。
【0097】
(実施例4〜6)
ILsを表1に示した種類とした以外は実施例1と同様にして実験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0098】
(実施例7)
(4)工程の分散液にILsを用いず、(1)工程に用いたILsの種類を変更した以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0099】
すなわち、ILsとして[EMIm][AC]を用い、モル比でEDOT:酸化剤:ILs=1:1:0.1の配合割合で混合し、(1)工程の化学重合の重合液を調製した。
【0100】
この重合溶液をよく乾燥したビーカーで混合させ、次にその重合液中に陽極を浸漬し、引き上げ後26℃で1時間加熱処理を行った。同じ処理を3回繰り返した後、50℃で3時間さらに加熱処理を行い、エタノールで洗浄し6.3Vで5分間再化成し水洗を5分間行った後、120℃で30分間乾燥を行った。以上の重合液の浸漬から乾燥までの工程を6回繰り返し、電解質を形成した。
【0101】
次に(4)工程の充填工程として、導電性高分子分散液に電解質が形成された陽極を浸漬し、引き上げ後120℃で30分加熱乾燥をいった。該工程を3回行った。
【0102】
その後グラファイトペースト、銀ペーストと銅箔を塗布・乾燥を行い、6.3V、105℃で1時間エージング処理を施した。こうして得られたコンデンサを試料とし、耐電圧の測定を行った。
【0103】
得られたコンデンサの特性を表1に示す。
【0104】
(実施例8)
(2)工程にILsを用いず、(4)工程として0.1wt%の[EMIm][AC]を含む導電性高分子分散液を用いた以外は、実施例1と同様に実験を行った。
【0105】
得られた結果を表1に示す。
【0106】
(比較例1)
(2)工程および(4)工程のどちらの工程においてもILsを用いないようにした以外は、実施例1と同様に実験を行った。
【0107】
得られた結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
実施例1〜8において示したILsを含有していることによって、いずれも比較例よりも、耐電圧が高くなることがわかる。特に実施例1〜6のように、(2)工程および(4)工程ともにILsを適用することによって、耐電圧はさらに向上し、耐電圧特性の優れたコンデンサが得られることがわかる。
【0110】
一方、比較例1に示したようにILsを全く含まない場合、耐電圧は非常に低くなることがわかる。
【0111】
LCに関して、実施例は比較例1のようなILsを全く含まない場合と同等以上の特性が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(1)〜(4)工程を含み、
(2)工程および/または(4)工程がイオン液体存在下で行なわれる、固体電解コンデンサの製造方法。
(1)タンタルまたはニオブ粉末を焼結して作製された陽極表面に誘電体酸化膜を形成する工程、
(2)前記誘電体皮膜上に導電性高分子モノマーのin situ重合により電解質を形成する工程、
(3)形成された電解質を洗浄する工程、
(4)洗浄後の電解質に導電性高分子分散液を充填する工程。
【請求項2】
イオン液体のアニオン成分が、ギ酸アニオン、および、一般式(1);
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、保護又は無保護の水酸基、保護又は無保護のアミノ基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC1〜C20のアルキル基,直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC2〜C20のアルケニル基,直鎖または分岐もしくは環を形成していてもよいC2〜C20のアルキニル基,C6〜C20のアリール基,C4〜C20のヘテロアリール基,C7〜C20のアラルキル基,C4〜C20のヘテロアラルキル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよく、また一緒になって環を形成してもよい。前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基およびヘテロアラルキル基は水素原子が置換されていてもよい。)で表されるカルボキシレートアニオンからなる群の中から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
in situ重合が化学重合および/または電解重合である、請求項1または2に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
導電性高分子モノマーが、チオフェン、チオフェン誘導体、ピロール、ピロール誘導体、アニリンおよびアニリン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
導電性高分子分散液が、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール、ポリピロール誘導体、ポリアニリン、および、ポリアニリン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の固体電解コンデンサの製造方法で製造される固体電解コンデンサ。

【公開番号】特開2011−9569(P2011−9569A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152807(P2009−152807)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)