説明

導電紙及びその製造方法

【課題】金属化率をほぼ100%とすることで、1〜1000MHzの範囲の周波数で30〜60dBの範囲の優れたシールド特性、耐熱性を有すると共に、優れた加工性を有し、また、低廉な価格で製品化できる導電紙及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】 本願発明の導電紙は、無電解金属めっきにより金属被覆される木材パルプと、金属被覆されない木材パルプを混合抄紙して形成されて成り、上記両木材パルプの全重量に対する上記金属被覆される木材パルプの重量比が53〜93%の範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、導電紙及びその製造方法に関し、詳細には、無電解金属めっきにより金属で被覆された木材パルプを含む導電紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の導電紙として、金属繊維によるもの、炭素繊維、カーボンブラックを天然パルプと混合させて抄紙したもの(特許文献1参照)、ポリエステル繊維にめっきを施しパルプと混抄したもの(特許文献2参照)等が提案されている。金属繊維による導電紙は、電磁波遮蔽性には優れているが加工性が悪く、重いという欠点がある。上記の混合させて抄紙したものは、電気抵抗が高いために電磁波シールド紙として使用するには不適切である。また、上記ポリエステル繊維にめっきを施しパルプと混抄したものは、耐熱性が悪いために用途に制限があるという欠点がある。以上のような従来の導電紙では、加工性が悪く、電気抵抗が高く、耐熱性が悪いという問題を有していた。
【0003】
その問題を解決するものとして、金属めっきにより金属で被覆された繊維から成る導電紙が提案されている。例えば、金属めっきされたパラ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維パルプを含有するバインダーと共に抄紙した布帛である電磁波遮蔽材が提案されている(特許文献3参照)。無電解金属めっきにより金属で被覆されたセルロース繊維であり、その繊維の直径が0.005μm〜5μm、繊維の長さが0.1μm〜10000μmである繊維導電体が提案されている(特許文献4参照)。その繊維導電体は、被着体上に塗布したペーストを100℃〜600℃で焼成する工程を経ることで、シート抵抗が10Ω/cm以下であり、400nm〜800nmの波長を有する光線の透過率が90%以上である特性を得ることで、液晶パネルに主に採用されるものである。
また、耐熱性に優れたろ紙に無電解ニッケルめっきを施した電磁波シールド紙が提案されており、その電磁波シールド紙は、KEC法を用いたシールド特性の実験データによれば、市販シールドシートと同程度の効果が得られることが報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
更に、無電解めっきによってニッケル皮膜を施した導電性ポリエステル繊維(Ni-PET)と,針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)とを紙料として抄造した導電紙が報告されている(非特許文献2参照)。ニッケルめっきポリエステル繊維は、図2の走査型電顕写真に見られるように、その繊維表面に金属が粒状に付着しており、表面が均一な状態でないことから個々のフィラーの導電性は自ら違っており、そして、その被膜の厚さは約0.5μmである。そのことから,微細な導電性フィラーについては,それらが集合した状態における電気的特性を評価する必要があるとして、上記紙料として抄造した導電紙について、金属化率、Ni-PET含有率並びにシールド特性値等が表3に示されている。これらのNi-PETは、ニッケル皮膜の厚さ約0.5μm、皮膜を含む繊維の径約15μm、金属化率(ニッケル重量/金属化ポリエステル繊維全体の重量)はいずれも約40%と同じであり、繊維の長さが異なるだけで、個々の単一なNi-PETフィラーは全て同程度の導電性を有すると見なせる旨が報告されている。表3によればNi-PET含有量70%では、1000MHzで13.1〜23.8dBの範囲の値を示している。
【0005】
なお、電磁波シールド効果の理論式として知られているシェルクノフの効果が以下に示す式(4)〜(7)で計算できることが報告されている(非特許文献2参照)。ここで、A、R、Bはそれぞれ、減衰損、反射損、多重反射補正項であり、電子シールド材の厚さt、表皮効果の深さδ、波動インピーダンスと電磁シールド材の特性インピーダンスとの比Kから、以下のように表されることが示されている。電磁波シールド材内部の減衰損Aは、(5)式のように表すことができ、電磁波シールド材の厚さtが減衰損Aに比例しているので、電磁波シールド材の厚さを厚くすることにより、シールド効果が上がることが示されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭58−49968号公報
【特許文献2】特公昭59−47500号公報
【特許文献3】特開2009−135526号公報
【特許文献4】特開2009−263825号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「EMC News Letter No.18」、高松聡裕、竹村昌太、平成20年度 産技研EMC 東京都立産業技術センター 多摩支所、平成20年11月
【非特許文献2】「電子情報通信学会論文誌」、長尾泰司 他2名、No.12、pp804−812、1994年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3のパラ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維パルプは、高価であることからそれらを用いた導電紙も高価なものとなり、低価格の導電紙を製品化するには採用し難いものである。特許文献4の繊維導電体は、主に液晶パネルに採用する繊維導電体であり、光線の透過率が90%以上を必要とするために100℃〜600℃で焼成する工程を必要とするもので、一般的な導電紙を作製する技術と異なるものであり、そのために、シート抵抗が10Ω/cm以下と小さく採用できる技術ではない。そして、上記ろ紙に無電解ニッケルめっきを施した電磁波シールド紙は、シールド特性に優れ、また、耐熱性にも優れているが、カニゼン法を用いてろ紙に無電解ニッケルめっきを施すことで、ニッケルめっきされたろ紙の表層部分にだけめっきされるために、その表層部分のめっきが脱落しやすく、また、ろ紙としての柔軟性を喪失してしまい加工性の不良なものとなり、製品化できるものではない。
【0009】
更に、Ni-PETとNBKPとを紙料として抄造した繊維導電体は、金属化率が約40%であることが起因して、シールド特性がNi-PET含有量70%、1000MHzで13.1〜23.8dBの範囲の値を示すが、導電紙は一般的にその特性が1〜1000MHzの範囲の周波数で30〜60dBの範囲のものが好ましいことから、上記起因である金属化率を約40%からほぼ100%にすると共に、1000MHzで30〜60dBの範囲のものが希求されている。
それ故に、本願発明の課題は、上記従来技術の問題点に鑑み、金属化率をほぼ100%とすることで、1〜1000MHzの範囲の周波数で30〜60dBの範囲の優れたシールド特性、耐熱性を有すると共に、優れた加工性を有し、また、低廉な価格で製品化できる導電紙及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本願発明を完成したものである。すなわち本願発明は、以下の通りのものである。
請求項1に係る導電紙は、無電解金属めっきにより金属被覆される木材パルプと、金属被覆されない木材パルプを混合抄紙して形成されて成り、上記両木材パルプの全重量に対する上記金属被覆される木材パルプの重量比が53〜93%の範囲にあることを特徴とする。
請求項2に係る導電紙は、前記金属被覆された木材パルプのめっき膜厚が1.0〜3.5μmの範囲にあることを特徴とする。
請求項3に係る導電紙は、前記金属被覆される木材パルプの金属が銅、ニッケル、コバルト、錫又はこれらの合金であることを特徴とする。
請求項4に係る導電紙は、前記金属被覆される木材パルプ又はされていない木材パルプが、天然木材パルプ又は使用済み木材パルプであることを特徴とする。
請求項5に係る導電紙は、前記導電紙の30〜60dBの範囲の電解シールドが1〜1000MHzの範囲の周波数であることを特徴とする。
請求項6に係る導電紙は、前記導電紙の体積抵抗率が0.5〜4.0の範囲にあることを特徴とする。
請求項7に係る導電紙製造方法は、無電解金属めっきにより金属で被覆された木材パルプを含有する導電紙を製造する導電紙製造方法であって、木材のチップからパルプを離解してそれを分散させて絶乾の状態に乾燥させる第一の工程と、上記乾燥させたパルプをセンシタイザ処理して、水洗いして絶乾の状態に乾燥させる第二の工程と、上記乾燥させたパルプをアクチベータ処理して絶乾の状態に乾燥させる第三の工程と、上記乾燥させたパルプをめっき処理して水洗いし、上記第一の工程で分散させたパルプを上記水洗いしたパルプに混合して抄紙し、加熱及び加圧して乾燥させて導電紙とする第四の工程からなり、上記第一、第二及び第三の工程の最後に、処理した木材パルプを絶乾の状態に乾燥することを特徴とする。
請求項8に係る導電紙製造方法は、前記第一、第二及び第三の工程における乾燥が、分散処理後、センシタイザ処理後及びアクチベータ処理後の次の処理を残留した処理液で妨げられるのを未然に防止することを特徴とする。
請求項9に係る導電紙製造方法は、前記第四の工程のめっき処理温度が45〜75℃の範囲で行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願発明の導電紙は、木材パルプを原料としているので低廉な価格で製品化できる。また、金属被覆されない木材パルプを混合抄紙して形成されているので、優れた加工性、耐熱性を有している。そして、木材パルプは金属化率がほぼ100%である特性を有することで、金属被覆される木材パルプの重量比が53〜93%の範囲にあれば、必要枚数の導電紙を重ねることで1〜1000MHzの範囲の周波数で30〜60dBの範囲の優れたシールド特性を容易に得ることができる。
また、本願発明の導電紙製造方法は、分散処理後、センシタイザ処理後及びアクチベータ処理後に乾燥処理を行うことで、センシタイザ処理液及びアクチベータ処理液が木材パルプから飛散するので、次の処理が残留した処理液で妨げられるのを未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】針葉樹のチップからパルプを離解する第一の工程から、無電解ニッケルめっき処理をして導電紙を作製する第四の工程までの流れを示す製造工程の概略図である。
【図2】導電紙のニッケル被膜されたパルプを電子顕微鏡で1000倍に拡大した断面図である。
【図3】55mm×55mmの直方体の導電紙の平面図である。
【図4】めっき処理温度が75℃の実施例3のめっき膜厚と抵抗の関係を2次多項式の近似曲線で示したグラフである。
【図5】各実施例のめっき時間と抵抗の関係を2次多項式の近似曲線で示したグラフである。
【図6】めっき時間と抵抗の関係を理論値に基づき2次多項式の近似曲線で示したものである。
【図7】めっき時間と抵抗の関係を実験値に基づき2次多項式の近似曲線で示したものである。
【図8】重量比が53、75、85及び93%の実施例1の導電紙の、周波数(MHz)と電解シールド(dB)の値をプロットして作成されたグラフである。
【図9】牛乳パックのパルプをめっき処理したものと、処理しないものを混合抄紙した導電紙、そして、牛乳パックのパルプをめっき処理したものと、処理しない新聞紙パルプを混合抄紙したもの導電紙が周波数(MHz)と電解シールド(dB)の値をプロットして作成されたグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本願発明の実施形態について詳細に説明する。
本願発明の導電紙に用いられる木材パルプとしては、針葉樹又は広葉樹の何れでも良いが繊維が長く緻密である針葉樹が好ましい。また、使用済み木材パルプ(例えば、新聞紙や牛乳パック等)を用いることもできる。
本願発明の導電紙は、無電解金属めっきにより金属被覆される木材パルプと、金属被覆されない木材パルプの全重量に対する金属被覆される木材パルプの重量比が53〜93%の範囲にあることを特徴とするもので、上記重量比が53%未満以下であると、導電紙の1〜1000MHzの範囲の周波数における電解シールドが30dB以下となりシールド効果が得られなくなり、また、上記重量比が93%未満以上であると、混合抄紙して乾燥したときに導電紙の木材パルプがその表面から剥離し易くなるおそれがあるので、上記重量比が53〜93%の範囲にあることが好ましい。上記導電紙に優れた加工性を付与するには、上記重量比が60〜85の範囲にあることが好ましい。
そして、上記重量比が53〜93%の範囲の導電紙は、その厚さを調整することで30〜60dBの範囲の電解シールドが1〜1000MHzの範囲の周波数で効果を奏するが、上記優れた加工性を付与するには、上記重量比が50〜85の範囲の導電紙が好ましい。
【0014】
上記木材パルプを被覆する金属は、銅、ニッケル、コバルト、錫又はこれらの合金を用いるが、好ましくはシールド効果、経済性を考慮すると銅、ニッケルが好ましいが、銅および銅合金は、大気中で露あるいは大気汚染などで変色するため、ニッケルがより好ましい。
その上記金属被覆された木材パルプのめっき膜厚は、無電解金属めっきを行うめっき処理温度に、また、めっき処理時間に比例して増加する。上記めっき処理温度は45〜75℃の範囲であり、上記めっき処理時間は1〜10分である。めっき処理時間が1分であれば、めっき処理温度が45℃、60℃又は75℃であっても、木材パルプ表面全体を金属が被覆した状態、即ち金属化率がほぼ100%で、めっき膜厚は1.0μmの厚さが得られる。また、めっき処理温度が75℃で、めっき処理時間が10分であれば、めっき膜厚は3.5μmの厚さが得られる。
金属被覆された木材パルプの金属化率がほぼ100%である理由は、センシタイザにより木材パルプの表面処理が確実に行われることにより、木材パルプ表面と触媒であるパラジウムに親和性が備わり、めっき処理を行うことにより、木材パルプ表層にニッケル皮膜が均一に形成できる。さらに、ニッケルが触媒となりめっき処理がなされることから、反応が進むことにより金属化率が100%に近づく。
【0015】
次に、本願発明の導電紙を製造する導電紙製造方法を説明する。
本願発明の導電紙製造方法は、木材のチップから繊維を取り出してそれを分散させてパルプにして乾燥させる第一の工程と、上記乾燥させたパルプをセンシタイザ処理して、水洗いして乾燥させる第二の工程と、上記乾燥させたパルプをアクチベータ処理して乾燥させる第三の工程と、上記乾燥させたパルプをめっき処理して水洗いし、上記第一の工程で分散させたパルプを上記水洗いしたパルプに混合して抄紙し、加熱及び加圧して乾燥させて導電紙とする第四の工程からなり、上記第一、第二及び第三の工程の最後に、処理した木材パルプを絶乾の状態に乾燥することを特徴とするものである。
センシタイザ処理後及びアクチベータ処理後に乾燥処理を行うことで、センシタイザ処理液及びアクチベータ処理液が木材パルプから飛散するので、次の処理が残留した処理液で妨げられるのを未然に防止できる。
なお、本願発明の「木材パルプ」は、原料の観点からみて天然木材パルプを意味しており、使用済み木材パルプを含むものとして用いており、製法の観点からみて機械パルプを意味している。
【0016】
(実施例)
(実施例1)
最初に実施例1の導電紙の製造方法を詳細に説明し、その後に導電紙の構造を説明する。実施例1の導電紙の製造方法は以下に示す第一〜第四の四つの工程から構成されており、木材パルプの具体例として針葉樹パルプを示して、図1を参照しながら上記第一〜第四の四つの工程を説明する。
図1は針葉樹のチップからパルプを離解する第一の工程から、無電解ニッケルめっき処理をして導電紙を作製する第四の工程までの流れを示す製造工程の概略図である。
なお、実施例1の導電紙の製造方法は、第4工程の無電解ニッケルめっき処理の温度が45℃であり、実施例2の温度が60℃であり、実施例3の温度が75℃である点が相違するだけで、他の処理は同じであるので、実施例1の導電紙の製造方法だけを説明して他の製造方法は省略する。
1.第一の工程
図1の「1.パルプの離解」を説明する。離解機に針葉樹のチップを設置してパルプを離解した。離解の方法はJIS P 8220を、叩解はJIS P8221-2(PFIミル法)にそれぞれ準じて行っており、30.0gのチップを2Lの水に浸して、離解機に設置して行った。離解機のプロペラの回転数は10000回転/時間である。難解したパルプの水溶液を濾紙により濾過して、パルプの水を脱水するためにブフナーを使用した。この離解したパルプを105℃に設定した乾燥機に配置して絶乾の状態にした。
【0017】
2.センシタイザ処理
図1の「2.センシタイザ処理」を説明する。300mLビーカーにおいて、5倍希釈のピンクシューマ液を300mLに調整し、室温、攬伴子による撹伴(回転速度1200rpm)を行いながら、溶液中にパルプ0.2gを入れて、難解しながらセンシタイザ処理を実施した。液に処理している時間は20分間である。メッシュでパルプのピンクシューマ液を切り、300mLの水にパルプを浸して、10分間、攬挫(回転速度1200rpm)しながら水洗を実施した。温度は室温である。メッシュでパルプの水を脱水させて105℃に設定した乾燥機で乾燥させて、絶乾伏態まで乾燥させた。
3.アクチベータ処理
図1の「3.アクチベータ処理」を説明する。300mLビーカーにおいて、10倍希釈のレッドシューマ液を300mLに調整し、室温、攬律子による撹律(回転速度1200rpm)を行いながら、溶液中にパルプ0.2gを入れて、離解しながらアクチベータ処理を実施した。液に処理している時間は10分間である。メッシュでパルプの水を脱水して、105℃に設定した乾燥機で乾燥させて、絶乾状態まで乾燥させた。
【0018】
4.無電解ニッケルめっき処理
図1の「4.無電解ニッケルめっき処理」を説明する。1Lビーカーにおいて、10倍希釈のブルーシューマ液を900mLに調整し、加温浴温を45℃に設定)、撹拌子による撹伴(回転速度1200rpm)を行いながら、溶液中にパルプ0.2gを入れて、離解しながらめっき処理を実施した。めっきの反応が終了するまでめっきを行った。メッシュでパルプのブルーシューマ液を切り、300mLの水にパルプを浸して、1分間、攬挫(回転速度1200rpm)しながら水洗を実施した。温度は室温である。水を5回代えて水洗を実施した。パルプは表面がめっきされているので、水中で分散状態となった。ここに金属被覆されない木材パルプを混合し、10分間攪拌(回転速度1200rpm)した。次に、55mm×55mmの直方体の筒に、片方に濾紙を敷いてビーカーの中に入れ、めっきしたパルプを500mLの水に混入させた液を筒に入れて、筒を持ち上げることにより、抄紙した。55mm×55mmの紙が形成された。紙力増強は、水に10%のコーンスターチを溶かし、そこにジグとメッシュで挟んだ紙を液に潜らせることで行った。この紙を熱プレス機で圧力1MPa、温度105℃で3分間押し当てることによりプレスを実施して導電紙を作製した。
【0019】
上記導電紙の製造方法は、第一、第二及び第三の工程の最後に、処理した木材パルプを絶乾の状態に乾燥することを特徴とする。もし、分散処理後、センシタイザ処理後及びアクチベータ処理後に乾燥処理をいれずにめっき処理を行うとすると、木材パルプにめっきが開始されない状態が発生する。これは、木材チップから木材パルプが一本ずつに離解されているため、木材パルプの処理液と関与する表面積が大きいこと、また木材パルプが水素結合しやすく親水性に富むため、処理液が結合し易いこと、そのことにより、処理液が木材パルプに残留しやすく、次の処理工程の溶液に浸した時に次の処理が進まないこととなるので、次の処理が妨げられるのを防止するために木材パルプを絶乾の状態に乾燥する必要がある。
【0020】
得られた導電紙の厚さは0.3mmである。そして、図2は、その導電紙のニッケル被膜されたパルプを電子顕微鏡で1000倍に拡大した断面図であり、木材パルプ表面全体をニッケルが被覆した状態で、めっき膜厚は1.0μmの厚さが得られる。木材パルプ0.2gに対してニッケルが約5gめっきされており、上記金属化率がほぼ100%であり、被膜の厚さは1.0μmである。この図2は、木材パルプの表面がニッケルでほぼ均一の厚さで完全に被覆されていることを示している。図3は、得られた55mm×55mmの直方体の導電紙の平面図である。この導電紙は、薄ねずみ色で柔軟性があり電磁波シールドを付与する如何なる対象物に対して、加工性に優れている。
【0021】
図4は、実施例1〜3のめっき時間1、2、5、及び10分と、その各時間のめっき膜厚の関係を示した近似一次方程式である。実施例1〜3のめっき膜厚の値は、試料数をN=10としてその算術平均で求めた。めっき時間が1分であれば、各実施例は0.1μmのめっき膜厚を示し、めっき処理温度が75℃で、めっき処理時間が10分であれば、めっき膜厚は3.5μmの厚さを示した。
図5は、各実施例のめっき時間と抵抗の関係を2次多項式の近似曲線で示したグラフである。めっき時間が5分以上であると抵抗が10Ωに漸減していくことが分かる。
【0022】
図6は、めっき膜厚と抵抗の関係を理論値に基づき2次多項式の近似曲線で示したグラフである。図7は、めっき膜厚と抵抗の関係を実験値に基づき2次多項式の近似曲線で示したグラフである。図6の理論値のグラフと、図7の実験値のグラフが近似していることが分かる。
【0023】
次に、導電紙の体積抵抗率を4端針法の抵抗率計で測定した。その測定結果を表1に示す。
導電紙としては実施例1の導電紙を用いて測定した。上記重量比が53、75、85及び93%を用いたものと、そして、使用済み木材パルプとして牛乳パックをめっき処理したものと、処理しないものを混合抄紙したものと、また、処理しない新聞紙を混合抄紙したものを導電紙として作製した。表1から分かるように、導電紙の体積抵抗率が0.5〜4.0の範囲にあり、そして、重量比と体積比の関係は、重量比が53%に対して体積比が20%であり、重量比が75%に対して体積比が40%であり、重量比が85%に対して体積比が60%であり、重量比が93%に対して体積比が80%である。
【0024】
【表1】

【0025】
図8は、上記重量比が53、75、85及び93%の実施例1の4種類の導電紙に関して、x軸に示す対数目盛の周波数(MHz)と電解シールド(dB)の値をプロットして作成されたグラフである。重量比93%の導電紙は、1〜1000MHzの範囲の周波数に対して、電解シールドが30〜60dBの範囲の値を示していることが分かる。一方、重量比が、53、75及び85%の導電紙は、1000MHz近傍の周波数に対して、電解シールドが18dB付近の値を示していることが分かる。
非特許文献2は、電磁波シールド材の厚さを厚くすることにより、シールド効果が上がることが示されているように、上記53、75及び85%の導電紙の厚さは0.3mmであるから、シェルクノフの効果が示す式に基づいて12dB増やして30dBにするには、4倍の厚さである1.2mmとすれば30dBとなる。
【0026】
図9は、牛乳パックのパルプをめっき処理したものと、処理しないものを混合抄紙した導電紙、そして、牛乳パックのパルプをめっき処理したものと、処理しない新聞紙のパルプを混合抄紙した導電紙の周波数(MHz)と電解シールド(dB)の値をプロットして作成されたグラフである。
上記牛乳パックのパルプをめっき処理したものと、処理しないものを混合抄紙した導電紙は、1〜1000MHzの範囲の周波数に対して、電解シールドが30〜60dBの範囲の値を示していることが分かる。一方、牛乳パックのパルプをめっき処理したものと、処理しない新聞紙のパルプを混合抄紙した導電紙は、1000MHz近傍の周波数に対して、電解シールドが19dB付近の値を示していることが分かる。この導電紙を上記シェルクノフの効果が示す式に基づいて12dB増やして30dBにするには、4倍の厚さである1.2mmとすれば30dBとなる。
【0027】
以上述べたように、本願発明の導電紙は、木材パルプを原料としているので低廉な価格で製品化でき、また、金属被覆されない木材パルプを混合抄紙して形成されているので、優れた加工性、耐熱性を有している。そして、木材パルプは金属化率がほぼ100%である特性を有することで、金属被覆される木材パルプの重量比が53〜93%の範囲にあれば、必要枚数の導電紙を重ねることで1〜1000MHzの範囲の周波数で30〜60dBの範囲の優れたシールド特性を容易に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解金属めっきにより金属被覆される木材パルプと、金属被覆されない木材パルプを混合抄紙して形成されて成り、上記両木材パルプの全重量に対する上記金属被覆される木材パルプの重量比が53〜93%の範囲にあることを特徴とする導電紙。
【請求項2】
前記金属被覆された木材パルプのめっき膜厚が1.0〜3.5μmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の導電紙。
【請求項3】
前記金属被覆される木材パルプの金属が銅、ニッケル、コバルト、錫又はこれらの合金であることを特徴とする請求項2に記載の導電紙。
【請求項4】
前記金属被覆される木材パルプ又はされていない木材パルプが、天然木材パルプ又は使用済み木材パルプであることを特徴とする請求項2又は3に記載の導電紙。
【請求項5】
前記導電紙の30〜60dBの範囲の電解シールドが1〜1000MHzの範囲の周波数であることを特徴とする請求項1に記載の導電紙。
【請求項6】
前記導電紙の体積抵抗率が0.5〜4.0の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の導電紙。
【請求項7】
無電解金属めっきにより金属で被覆された木材パルプを含有する導電紙を製造する導電紙製造方法であって、
木材のチップからパルプを離解してそれを分散させて絶乾の状態に乾燥させる第一の工程と、
上記乾燥させたパルプをセンシタイザ処理して、水洗いして絶乾の状態に乾燥させる第二の工程と、
上記乾燥させたパルプをアクチベータ処理して絶乾の状態に乾燥させる第三の工程と、
上記乾燥させたパルプをめっき処理して水洗いし、上記第一の工程で分散させたパルプを上記水洗いしたパルプに混合して抄紙し、加熱及び加圧して乾燥させて導電紙とする第四の工程からなり、
上記第一、第二及び第三の工程の最後に、処理した木材パルプを絶乾の状態に乾燥することを特徴とする導電紙製造方法。
【請求項8】
前記第一、第二及び第三の工程における乾燥は、分散処理後、センシタイザ処理後及びアクチベータ処理後の次の処理が残留した処理液で妨げられるのを未然に防止することを特徴とする請求項6に記載の導電紙の作製方法。
【請求項9】
前記第四の工程のめっき処理温度が45〜75℃の範囲で行われることを特徴とする請求項7に記載の導電紙の作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−57261(P2012−57261A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198628(P2010−198628)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】