説明

小便器洗浄装置

【課題】封水の揺れを検出する封水検出手段を設けることなく、封水の揺れによる人体誤検出を防止する小便器洗浄装置を提供すること。
【解決手段】小便器洗浄装置Aにおいて、洗浄水を溜めて臭気の上昇を防ぐ封水1cを形成するトラップ1aのボール部1b側の開口部1dに目皿8を配置し、この目皿8に、封水1cの揺れによるドップラ信号24の出力レベルを、人体検出の周波数範囲内では人体検出の閾値レベルよりも小さくするマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を備えさせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小便器洗浄装置に関する。特に、トラップのボール部側の開口部に設けられる目皿と、トラップに洗浄水を溜めて臭気の上昇を防ぐ封水とを備えた小便器に設置されたドップラセンサから出力されるドップラ信号から人体の動きに相当する周波数成分を検出することで人体検出を行い給水バルブを制御する小便器洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロ波を用いたドップラセンサ(以下、「マイクロ波ドップラセンサ」と呼ぶ。)により人体や尿流を検出し、小便器のボール部内を洗浄する小便器洗浄装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
マイクロ波ドップラセンサは、マイクロ波を送信し、送信したマイクロ波の周波数と、移動体(人体又は尿)によって反射したマイクロ波の周波数の差分周波数を有するドップラ信号の周波数から、その移動体の動きを検出するものである。すなわち、マイクロ波ドップラセンサは、センサから送信するマイクロ波の周波数と、センサから送信したマイクロ波が人体などの移動体によって反射してセンサにより受信される信号の周波数との差分信号から移動体の動きを表す信号であるドップラ信号を生成する。そして、小便器洗浄装置の制御部は、このドップラ信号により移動体の動きを判別して、小便器のボール部内の洗浄を行う。
【0004】
この種の小便器洗浄装置は、陶器を透過するマイクロ波を使用しているので、赤外線によって人体検出などを行う小便器洗浄装置に比べ、センサの送受信部を小便器の外観面の内側に隠蔽することができる点で有効である。換言すると、マイクロ波が陶器を透過することができるという特性を利用して、マイクロ波ドップラセンサを小便器の内側に隠すことができるため、小便器洗浄装置の美観を向上させることができるのである。
【0005】
しかし、マイクロ波ドップラセンサが、下水管内の水圧変動に伴う小便器のトラップ内の封水の揺れと人体の動きとをそれぞれドップラ信号の周波数から検出し小便器洗浄装置の制御部に出力することから、制御部は、封水の揺れか人体の動きかを判別することができない場合がある。
【0006】
つまり、封水の揺れ検出の周波数範囲が約0〜15Hzであり、人体検出の周波数範囲が約0〜40Hzであるために、検出の周波数範囲が一部重なることとなり、その封水の揺れによってマイクロ波ドップラセンサから出力されるドップラ信号が、人体検出の検出感度以上の強さであれば、制御部が封水の揺れか人体の動きかを検出することができない。その結果、小便器洗浄装置は、実際には人体でないにもかかわらず封水の揺れを人体として検出して給水バルブが開弁し、小便器に無駄な洗浄水を供給する場合がある。
【0007】
このため、例えば特許文献1に記載の小便器洗浄装置においては、人体が接近して静止しその後放尿する行為に着目し、放尿の有りの場合、その人体検出は平常と判断し、その人体検出感度を学習することによって、最適な人体検出感度を設定している。
【0008】
また、特許文献2に記載の小便器洗浄装置では、移動体の検出方向を2つのマイクロ波ドップラセンサを用いて分けて設定したり、1つのマイクロ波ドップラセンサで送信電波の位相差を可変し位相差を切り替えることによって電波の送信方向を変更し、人体と封水の揺れとを識別している。
【特許文献1】特開2006−214156号公報
【特許文献2】特開2005−290796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、ドップラセンサの送信方向を固定して使用する場合、封水の揺れと人体の動きのドップラ信号の周波数が重なることから、ソフトウェア処理により人体検出レベルの閾値を学習させ封水の揺れと人体の動きを区別したり、ドップラセンサの送信方向を切替えて人体検出と封水の揺れを区別したりしていた。
【0010】
本発明は、ドップラセンサの送信方向を切替えることなく、しかも、ソフトウェア処理により人体検出レベルの閾値を学習させることなく、封水の揺れと人体の動きを区別することができ人体誤検出を防止し無駄な洗浄水を低減する小便器洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、請求項1に係る本発明では、ボール部の下方にトラップを有する小便器と、前記トラップのボール部側の開口部に設けられる目皿と、前記小便器へ洗浄水を供給する給水バルブと、マイクロ波により前記ボール部内及び小便器前方の移動体の動きを検出しその検出周波数に応じたドップラ信号を出力するドップラセンサと、前記ドップラ信号の周波数及びその出力レベルにより人体検出を行って前記給水バルブの開閉制御を行う制御部とを備えた小便器洗浄装置において、前記小便器の前記トラップには前記洗浄水を溜めて臭気の上昇を防ぐ封水を形成するとともに、前記目皿は、前記封水の揺れによる前記ドップラ信号の出力レベルを、前記人体検出の周波数範囲内では前記人体検出の閾値レベルよりも小さくするマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に係る本発明では、請求項1に記載の小便器洗浄装置において、前記目皿の上面部は前記マイクロ波減衰特性又は前記マイクロ波遮断特性を有する遮断部材で構成されるとともに、前記上面部には洗浄水を前記トラップへ排出する孔部が設けられ、前記孔部の径は前記ドップラセンサが送信するマイクロ波の1/2波長以下としたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に係る本発明では、請求項1に記載の小便器洗浄装置において、前記目皿は、前記マイクロ波減衰特性又は前記マイクロ波遮断特性を有する遮断部材で構成されるとともに、下面に中空部分を形成した筒状の垂下部を備えており、前記筒状の垂下部の側壁面には洗浄水を前記トラップへ排出する孔部が設けられ、前記孔部は前記小便器のボール面よりも上方に位置するように設定されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に係る本発明では、請求項2又は請求項3に記載の小便器洗浄装置において、前記目皿は、前記遮断部材は前記マイクロ波減衰特性を有する厚さの陶器で形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に係る本発明では、請求項2又は請求項3に記載の小便器洗浄装置において、前記目皿は、前記遮断部材は金属材料を混入した樹脂部材又は金属材料をインサート成形した樹脂部材で構成して前記マイクロ波遮断特性を持たせたことを特徴とする小便器洗浄装置。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の本発明によれば、封水の揺れによるドップラ信号の出力レベルを人体検出の周波数範囲内では人体検出の閾値レベルよりも小さくするマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を有する目皿を備えたので、封水の揺れによる影響を排除することができる。その結果、小便器洗浄装置において、ドップラセンサの送信電波の方向を変えることなく、人体検出の閾値レベルより封水の揺れによるドップラ信号の出力レベルを小さくすることができるので、小便器洗浄装置の制御部の人体判断アルゴリズムが簡便にでき、確実に人体と封水の揺れとを区別できる。その結果、人体誤検出を防止することができ無駄な洗浄水を低減できる。
【0017】
請求項2記載の本発明によれば、請求項1に記載の小便器洗浄装置において、目皿の上面部に洗浄水をトラップへ排出する孔部を設け、この孔部の径をドップラセンサが送信するマイクロ波の1/2波長以下としたので、マイクロ波がこの孔部を介して封水表面に到達してしまうことを抑制し、小便器の封水の揺れの影響をなくし人体検出が正確に検出できる。その結果、目皿の上面部に孔部を設けることにより排尿後に行う小便器の洗浄に用いる洗浄水の排水能力を確保させ水はねを低減しつつも、封水の揺れによる影響を排除して誤検知による洗浄を防止することができる。
【0018】
請求項3記載の本発明によれば、請求項1に記載の小便器洗浄装置において、目皿の下面に中空部分を形成した筒状の垂下部を備えており、この筒状の垂下部の側壁面には洗浄水をトラップへ排出する孔部が設けられ、この孔部は小便器のボール面よりも上方に位置するように設定されていることから、マイクロ波がこの孔部を介して封水表面に到達してしまうことを抑制し、小便器の封水の影響をなくし人体検出が正確に検出できる。その結果、デザイン上、目皿の上面部に孔部を設けることができない場合でも、排水能力を確保させ水はねを低減しつつも、封水の揺れによる影響を排除して誤検知による洗浄を防止することができる。
【0019】
請求項4記載の本発明によれば、請求項2又は請求項3に記載の小便器洗浄装置において、目皿は上記マイクロ波減衰特性を有する厚さの陶器で形成されていることから、ドップラセンサが送信するマイクロ波が目皿の孔部以外の部分を透過して封水表面へ到達するのを抑制することができる。また、小便器を目皿と同質の陶器で形成することで、便器洗浄剤に対しても耐食性も強く、火のついたタバコに対して不燃性である等の利点があり耐久性も同等にできる。
【0020】
請求項5記載の本発明によれば、請求項2又は請求項3に記載の小便器洗浄装置において、目皿に金属材料を混入した樹脂部材又は金属材料をインサート成形した樹脂部材で構成してマイクロ波遮断特性を持たせたので、マイクロ波が目皿の孔部以外の部分を透過して封水表面に到達してしまうことを抑制し、小便器の封水の影響をなくし人体検出が正確に検出できる。しかも、目皿を樹脂部材で構成したので、軽量化を図ることが可能となり、耐衝撃性も向上するので、小便器の掃除等で取り外したりする場合も破損しにくくなりメンテナンスが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[1.小便器洗浄装置の概要]
本発明の実施形態に係る小便器洗浄装置は、ボール部の下方にトラップを有する小便器と、トラップのボール部側の開口部に設けられる目皿と、小便器へ洗浄水を供給する給水バルブと、マイクロ波によりボール部内及び小便器前方の移動体の動きを検出しその検出周波数に応じたドップラ信号を出力するドップラセンサと、ドップラ信号の周波数及びその出力レベルにより人体検出を行って給水バルブの開閉制御を行う制御部とを備えている。
【0022】
ドップラセンサは、送信波としてマイクロ波を送信する送信手段と、その反射波を受信する受信手段と、送信手段から送信するマイクロ波の周波数と、送信手段から送信したマイクロ波が人体や尿流などの移動体によって反射して受信手段により受信される信号の周波数との差分信号から移動体の動きを表す信号であるドップラ信号を生成する差分検出手段とを備えている。
【0023】
ここで、人体の動きは、約0〜40Hzのドップラ信号として出力されることから、制御部は、約0〜40Hzの周波数でかつ人体検出判断値以上のドップラ信号がドップラセンサから所定期間以上出力されたときに、人体検出を行って給水バルブの開閉制御を行う。
【0024】
一方、本実施形態に係る小便器洗浄装置は、小便器のトラップには洗浄水を溜めて臭気の上昇を防ぐ封水を形成している。この封水が下水管内の水圧変動などにより揺らぎ(封水の揺れ)を生じることがある。この封水の揺れは、約0〜15Hzのドップラ信号としてドップラセンサから出力される恐れがあることから、目皿に工夫をすることによって、封水の揺れの影響を抑制するようにしている。
【0025】
すなわち、本実施形態にかかる目皿は、封水の揺れによるドップラ信号の出力レベルを、人体検出の周波数範囲(約0〜40Hz)内において人体検出の閾値レベルである人体検出判断値よりも小さくするマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を備えている。
【0026】
この目皿は、洗浄水をトラップへ排出する孔部とそれ以外の本体部とから構成され、孔部と本体部とは共にマイクロ波を減衰又は遮断する特性を有する。その結果、ドップラセンサの送信波の方向を変えることなく、人体検出の閾値レベルより封水の揺れによるドップラ信号の出力レベルを小さくすることができるので、小便器洗浄装置の制御部の人体判断アルゴリズムが簡便にでき、確実に人体と封水の揺れとを区別できる。
【0027】
孔部をドップラセンサと対向する位置、すなわち目皿の上面部に設ける場合、孔部の径はドップラセンサが送信するマイクロ波の1/2波長以下とすることで、この孔部からのマイクロ波の進入を抑制することができる。その結果、小便器の封水の揺れの影響をなくし人体検出が正確に検出でき、排尿後に行う小便器の洗浄に用いる洗浄水の排水能力を確保させ水はねを低減しつつも、封水の揺れによる影響を排除して誤検知による洗浄を防止することができる。また、孔部を目皿の上面に設けない場合、すなわち孔部を目皿の側面方向に設ける場合、例えば、目皿の上面部でマイクロ波を遮断するように構成することで、デザイン上、目皿の上面に孔部を設けることができない場合でも、十分な排水能力を確保できる。
【0028】
すなわち、目皿の本体部は、封水の揺れによるドップラ信号の出力レベルを、人体検出の周波数範囲内において人体検出の閾値レベルである人体検出判断値よりも小さくするマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を備えた遮断部材を採用する。
【0029】
このような遮断部材として、上記マイクロ波減衰特性を有する厚さの陶器、金属材料を混入した樹脂部材又は金属材料をインサート成形した樹脂部材などを用いる事ができる。陶器を用いることにより便器洗浄剤に対しての耐食性も強く、火のついたタバコに対して不燃性である等の利点があり耐久性も同等にできる。また、樹脂部材を用いることにより、軽量化を図ることができ、耐衝撃性も向上するので、小便器の掃除等で取り外したりする場合も破損しにくくなりメンテナンスが容易になる。
【0030】
[2.小便器洗浄装置の具体的構成]
以下に、本発明の一実施形態の構成について図面を参照しながらさらに具体的に説明する。
【0031】
[2.1.小便器洗浄装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態にかかる小便器洗浄装置Aの構成を示す模式図である。小便器洗浄装置Aは、ボール部1bの下方にトラップ1aを有する小便器1と、その小便器1の上部に設けられたドップラセンサ2と、ドップラセンサ2の上部に設けられたコントローラ3と、このコントローラ3からの制御により小便器1のボール部1b内に後述の洗浄水吐出口5から洗浄水を給水する給水部4と、給水部4から供給される洗浄水を吐出する洗浄水吐出口5と、小便器1の下部に設けられ、トラップ1aと連接する排水口7と、トラップ1aのボール部1b側の開口部1dに設けられた目皿8と、により構成されている。なお、この図1においては、用を足す人間が人体10として、尿流11と共に模式的に示している。
【0032】
ドップラセンサ2とコントローラ3は、図1に示すように、小便器1上部の内側に収納されている。なお、マイクロ波は陶器を透過するために、小便器1上部の内側にドップラセンサ2を収納しても人体10の動きや尿流11の検出が可能である。このように、外側から見えないようにドップラセンサ2とコントローラ3とを小便器1上部の内側に収納することにより、小便器洗浄装置Aの外観がシンプルになり、小便器洗浄装置Aは意匠的に美観が向上する。
【0033】
ここで、小便器1の底部には、排水口7との間にトラップ1aが形成されており、このトラップ1aでは、洗浄水を溜めて臭気の上昇や害虫などの侵入を防ぐ封水1cが形成される。
【0034】
図1に示すように、ドップラセンサ2の検出範囲9は、人体10や尿流11を検出するために、ボール部1b内及び小便器1前方に向けて設定されており、トラップ1aがその方向に含まれることになる。トラップ1aがドップラセンサ2の検出範囲9に含まれると、上述したようにトラップ1a内の封水の揺れによる問題が発生する。
【0035】
そこで、目皿8の構成を、トラップ1a内の封水の揺れによってドップラセンサ2から出力されるドップラ信号のレベルを、少なくとも人体検出の周波数範囲内では人体検出の閾値レベルよりも小さくするマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を持たせた構成とすることにより、封水の揺れの問題を解決している。なお、目皿8は、本発明の要旨であり、その具体例については、後述することとする。
【0036】
[2.2.小便器洗浄装置の動作]
次に、小便器洗浄装置Aの動作を具体的に説明する。図2は、ドップラセンサ2とコントローラ3による移動体の検出に関する構成とその検出結果により洗浄水を小便器に供給する動作を示したブロック図である。
【0037】
ドップラセンサ2は、図2に示すように、例えば10.525GHzの正弦波信号を生成する発振手段20と、この発振手段20から出力される正弦波信号をマイクロ波として送信する送信手段21と、同マイクロ波の反射波を受信して電気信号に変換する受信手段22と、発振手段20から出力される正弦波信号と受信手段22から出力される電気信号とをミキシングしてフィルタリングすることにより、移動体の動きを表すドップラ信号24を出力する差分検出手段23とから構成されている。このドップラ信号24はその信号周波数が検出した移動体の速度を表し、その信号振幅レベルが移動体の大きさや距離を表す。
【0038】
コントローラ3は、図2に示すように、第1周波数フィルター30と、第2周波数フィルター31と、制御部32と、より構成される。
【0039】
第1周波数フィルター30は、ドップラセンサ2から出力されるドップラ信号24のうち人体検出の周波数範囲である約0〜40Hzの信号を通過させるフィルターである。また、第2周波数フィルター31は、ドップラセンサ2から出力されるドップラ信号24のうち尿流検出の周波数範囲である約80〜180Hzの信号を通過させるフィルターである。
【0040】
制御部32は、ドップラセンサ2により生成されたドップラ信号24の振幅レベルに基づいて小便器1と人体10との接近又は離反を検出する人体検出手段30cとドップラセンサ2により生成されたドップラ信号24の振幅レベルに基づいて、尿流11を検出する尿流検出手段31cとより構成されている。
【0041】
すなわち、ドップラセンサ2から出力されるドップラ信号24は、第1周波数フィルター30によって人体検出の周波数範囲(約0〜40Hz)以外の周波数が除去されることから、第1周波数フィルター30から人体検出出力30aとして出力されるドップラ信号24の振幅レベルが予め設定した人体検出判断値30b以上であるときに、人体検出(人体10の接近や離反の検出)を行う。
【0042】
また、ドップラセンサ2から出力されるドップラ信号24は、第2周波数フィルター31によって尿流検出の周波数範囲(約80〜180Hz)以外の周波数が除去されることから、第2周波数フィルター31から尿流検出出力31aとして出力されるドップラ信号24の振幅レベルが予め設定した尿流検出判断値31b以上であるときに、尿流検出を行う。
【0043】
そして、制御部32は、人体検出手段30cや尿流検出手段31cによる判断結果に基づいて、給水バルブ40を制御して洗浄水吐出口5から小便器1に洗浄水を吐水してボール部1b内の洗浄を行う。例えば、人体10の接近を人体検出手段30cにより検出したとき給水部4を制御して少量の洗浄水を小便器1へ供給してボール部1bをプレ洗浄し、その後尿流検出及び人体離反検出をしたときに給水部4を制御して所定量の洗浄水を小便器1へ供給してボール部1bを本洗浄する。
【0044】
以上のように小便器洗浄装置Aでは、ドップラセンサ2から出力されるドップラ信号24の周波数及び振幅レベルに応じて人体検出及び尿流検出を行うようにしており、さらに、以下において詳述する目皿8によって、トラップ1aの封水1cの揺れを人体10と誤検出することを防止しており、これにより本実施形態における小便器洗浄装置Aでは、ドップラセンサ2の送信電波の方向を変えることなく、人体検出判断値30bに比べ封水1cの揺れによるドップラ信号の出力レベルを小さくすることができるので、小便器洗浄装置Aの制御部32の人体判断アルゴリズム(図示しない)が簡便にでき、確実に人体10と封水1cの揺れとを区別できる。
【0045】
[2.3.目皿の構成]
次に、具体的に本発明の要旨である目皿8の具体例について説明する。
【0046】
本発明の要旨は、前述のように構成された小便器洗浄装置Aにおいて、ドップラセンサ2が封水1cの揺れと人体10の動きとをそれぞれドップラ信号24として制御部32に出力することから、制御部32は、封水1cの揺れを誤って人体10と検出することがあり、そのために目皿8に工夫を施したことにある。
【0047】
つまり、目皿8を工夫しなければ、ドップラセンサ2の出力するドップラ信号24において、人体検出の周波数範囲(約0〜40Hz)と封水の揺れ検出の周波数範囲(約0〜15Hz)とに一部重なる範囲(約0〜15Hz)があるために、コントローラ3内の制御部32が、封水1cの揺れを人体10の動きとして誤検出することから、小便器洗浄装置Aにおいて工夫が施された目皿8を設けているのである。
【0048】
目皿8の一具体例を図3に示す。同図に示す目皿8は、その上面部84がマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を有する遮断部材である所定の厚さHを有する陶器で構成されるとともに、目皿8の上面部84には洗浄水を排出する孔部81が設けられ、この孔部81の径がドップラセンサ2の送信するマイクロ波の1/2波長以下とした構成となっている。
【0049】
つまり、目皿8の上面部84に排水用の孔部81を設けることによって、排水能力を確保すると共に、その孔部81の孔径をドップラセンサ2が送信するマイクロ波の1/2波長以下にすることによって、ドップラセンサ2が送信したマイクロ波が封水表面に到達しない、或いは到達しにくくして、ドップラセンサ2から出力されるドップラ信号24に封水1cの揺れによる信号を含まない、或いは含んでいても人体検出のレベルである人体検出判断値30b以下にする。
【0050】
また、孔部81を除く部分は、マイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を有する遮断部材で所定の厚さHを有する陶器で構成されることによって、ドップラセンサ2が送信したマイクロ波が封水表面に到達しない、或いは到達しにくくして、ドップラセンサ2から出力されるドップラ信号24に封水1cの揺れによる信号を含まない、或いは含んでいても人体検出のレベルである人体検出判断値30b以下にする。
【0051】
このように目皿8を構成することにより、小便器洗浄装置Aは、人体検出を正確にすることができると同時に排水機能を確保することができる。また、目皿8は、小便器1と同質の材料である陶器で形成することにより、便器洗浄剤に対しても耐食性も強く、火のついたタバコに対して不燃性である等の利点があり耐久性も同等にできる。
【0052】
また、孔部81の形状は、図4(a)と図4(b)に示すように、孔部81の孔径がドップラセンサ2から送信されるマイクロ波の1/2波長以下であれば、例えば円形だけでなく、多角形であっても構わない。
【0053】
(孔部81について)
以下に、目皿8に設けられた孔部81の孔径について説明する。
【0054】
本発明者らは、ドップラセンサ2が送信するマイクロ波の波長を28mmとして、目皿8の上面部84に穿設された排水用の孔部81の孔径と封水1cの揺れ検出との関係について実験を行った。
【0055】
結果は、以下の表1に示された通りである。
【0056】
【表1】

【0057】
図5と図6は、孔部81の孔径と封水1cの揺れ検出との関係を示したものである。図5の(a)〜(d)は、各孔径の目皿モデルを示したものであり、孔部81の総面積をできるだけ等しくするために、各目皿モデルごとに孔部81の個数を調整している。また、図6は、縦軸には所定の封水の揺れによってドップラセンサ2から出力されるドップラ信号24(以下、「封水信号」とする。)を、横軸には孔部81の孔径をそれぞれ規定している。なお、ここでは、人体検出判断値30bは1.0(V)としている。
【0058】
表1及び図6に示された実験結果から、孔部81の孔径は、ドップラセンサ2が送信するマイクロ波の1/2波長以下になると、封水信号の振幅レベルが人体検出判断値30b(1(V))以下となり、人体検出手段30cでは封水1cの揺れによる人体誤検出が行われないとの知見を得ることができた。
【0059】
次に、目皿8に設けられた孔部81の個数について説明する。本発明者らは、ドップラセンサ2が送信するマイクロ波の波長を28mmとして、目皿8の上面部84に穿設された排水用の孔部81の個数と封水1cの揺れ検出との関係についても実験を行った。
【0060】
結果は、以下の表2に示された通りである。
【0061】
【表2】

【0062】
図7と図8は、孔部81の個数と封水1cの揺れ検出との関係を示したものである。図7の(a)〜(d)は、孔径を7mmに固定し、孔部81の個数を4、8、12、16とした際の各目皿モデルを示したものである。また、図8の縦軸には封水信号の振幅レベルを、横軸には孔部81の個数をそれぞれ規定している。
【0063】
表2及び図8に示された実験結果から、孔部81の個数は、封水1cの揺れ検出には関係がないことがわかる。つまり、目皿8は、孔部81の孔径をドップラセンサ2が送信するマイクロ波の1/2波長以下にすれば、孔部81の個数に関係なくマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を有することがわかる。
【0064】
以上のことから、ドップラセンサ2が送信するマイクロ波の1/2波長以下であれば、孔部81の孔径や個数には関係なく、孔部81の排水能力を考慮し、また、目皿8が設けられる小便器洗浄装置Aの使用条件や使用環境を踏まえて、目皿8の孔部81の孔径や個数を最適に決定することができる。
【0065】
(孔部81以外の本体部について)
次に、孔部81以外の目皿8の本体部に関し、マイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を有する遮断部材として、所定の厚さHを有する陶器を採用した目皿8について説明する。
【0066】
本発明者らは、目皿8の所定の厚さHと封水1cの揺れ検出との関係についても実験を行った。図9は、目皿8の厚さHと封水1cの揺れ検出との関係を示したものである。図9の縦軸には封水信号の振幅レベルを、横軸には目皿8の厚さHをそれぞれ規定している。なお、ここでは、人体検出判断値30bは1.0(V)としている。
【0067】
図9に示すように、目皿8の厚さHが10mmから次第に厚くなると、ドップラセンサ2は、封水1cの揺れの影響を次第に検出しなくなり、目皿8の厚さHが20mm以上になると、封水信号の振幅レベルが人体検出判断値30b(1(V))以下となり、人体検出手段30cにより人体検出が行われないとの知見を得ることができた。
【0068】
このことから、目皿8の厚さHを例えば20mmとすることにより、小便器洗浄装置Aにおいて封水1cの揺れを検出しなくなり、人体検出を正確にすることができる。また、目皿8の厚さHは、必要以上に厚くする必要がない。
【0069】
なお、目皿8を陶器で構成するのではなく、孔部81を除く部分を樹脂部材中に金属材料80が存在する遮断部材で構成することでマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を持たせるようにすることもできる。
【0070】
つまり、目皿8は、図10(a)に示すように、マイクロ波遮断特性を持つように遮断部材が金属材料80を混入した樹脂部材で構成したり、図10(b)に示すように金属材料80をインサート成形した樹脂部材で構成されることによって、ドップラセンサ2が送信したマイクロ波が樹脂部材中の金属材料80の影響でマイクロ波が反射され、封水表面に到達しない、或いは到達しにくくして、ドップラセンサ2から出力されるドップラ信号24に封水1cの揺れによる信号を含まない、或いは含んでいても人体検出のレベルである人体検出判断値30b以下にする。
【0071】
このように目皿8を構成することにより、小便器洗浄装置Aは、人体検出を正確にすることができると同時に、軽量化を図ることができる。しかも、金属材料80は樹脂材料に封入することにより、金属材料80の酸化を防止することができる。また、耐衝撃性も向上するので、小便器1の掃除等で取り外したりする場合も破損しにくくなりメンテナンスが容易になる。
【0072】
(その他の構成)
上述においては、孔部81を除く部分をマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を有する遮断部材(例えば、所定の厚さHを有する陶器や金属材料80を混入した樹脂部材)で構成し、孔部81を目皿8の上面部に形成することとしたが、目皿8の側面部に孔部81を設けるようにしてもよい。
【0073】
例えば、図11と図12とに示すように、目皿8の下面に中空部分85を形成した筒状の垂下部82を備えており、この筒状の垂下部82の側壁面83には洗浄水をトラップ1aへ排出する孔部81が設けられ、この孔部81は小便器1のボール部1b面よりも上方に位置するように設定する。
【0074】
このように孔部81をドップラセンサ2と対向する方向に略直交する位置、すなわち目皿8の側面方向に設けることで、孔部81からのマイクロ波の進入を抑制することができる。なお、目皿8の側面部に形成する孔部81の径をドップラセンサ2が送信するマイクロ波の1/2波長以下とすることで、さらにマイクロ波の進入を抑制する効果を高めることができる。その結果、デザイン上、目皿8の上面部84に孔部81を設けることができない場合でも、排水能力を確保させ水はねを低減しつつも、封水1cの揺れによる影響を排除して誤検知による洗浄を防止することができる。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成を示した図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるドップラセンサによる移動体の検出に関する構成及び洗浄水の供給動作を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる上面部に孔部があり、所定の厚さを有する目皿を示した図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる目皿の孔部の形状を示した図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる目皿の各孔径の目皿モデルを示した図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる目皿の孔部の孔径と封水の揺れ検出との関係を示したグラフである。
【図7】本発明の一実施形態にかかる目皿の孔部の個数を4、8、12、16とした際の各目皿モデルを示した図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる目皿の孔部の個数と封水の揺れ検出との関係を示したグラフである。
【図9】本発明の一実施形態にかかる目皿の厚さと封水の揺れ検出との関係を示したグラフである。
【図10】本発明の一実施形態にかかる上面部に孔部があり、樹脂部材に金属材料を含む目皿を示した図である。
【図11】本発明の一実施形態にかかる側壁面に孔部があり、所定の厚さを有する目皿を示した図である。
【図12】本発明の一実施形態にかかる側壁面に孔部があり、樹脂部材に金属材料を含む目皿を示した図である。
【符号の説明】
【0077】
A 小便器洗浄装置
H 厚さ
1 小便器
1a トラップ
1b ボール部
1c 封水
1d 開口部
2 ドップラセンサ
3 コントローラ
4 給水部
5 洗浄水吐出口
7 排水口
8 目皿
9 検出範囲
10 人体
11 尿流
20 発振手段
21 送信手段
22 受信手段
23 差分検出手段
24 ドップラ信号
30 第1周波数フィルター
30a 人体検出出力
30b 人体検出判断値
30c 人体検出手段
31 第2周波数フィルター
31a 尿流検出出力
31b 尿流検出判断値
31c 尿流検出手段
32 制御部
40 給水バルブ
80 金属材料
81 孔部
82 垂下部
83 側面部
84 上面部
85 中空部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボール部の下方にトラップを有する小便器と、前記トラップのボール部側の開口部に設けられる目皿と、前記小便器へ洗浄水を供給する給水バルブと、マイクロ波により前記ボール部内及び小便器前方の移動体の動きを検出しその検出周波数に応じたドップラ信号を出力するドップラセンサと、前記ドップラ信号の周波数及びその出力レベルにより人体検出を行って前記給水バルブの開閉制御を行う制御部とを備えた小便器洗浄装置において、
前記小便器の前記トラップには前記洗浄水を溜めて臭気の上昇を防ぐ封水を形成するとともに、前記目皿は、前記封水の揺れによる前記ドップラ信号の出力レベルを、前記人体検出の周波数範囲内では前記人体検出の閾値レベルよりも小さくするマイクロ波減衰特性又はマイクロ波遮断特性を備えたことを特徴とする小便器洗浄装置。
【請求項2】
請求項1に記載の小便器洗浄装置において、
前記目皿の上面部は前記マイクロ波減衰特性又は前記マイクロ波遮断特性を有する遮断部材で構成されるとともに、前記上面部には洗浄水を前記トラップへ排出する孔部が設けられ、前記孔部の径は前記ドップラセンサが送信するマイクロ波の1/2波長以下としたことを特徴とする小便器洗浄装置。
【請求項3】
請求項1に記載の小便器洗浄装置において、
前記目皿は、前記マイクロ波減衰特性又は前記マイクロ波遮断特性を有する遮断部材で構成されるとともに、下面に中空部分を形成した筒状の垂下部を備えており、前記筒状の垂下部の側壁面には洗浄水を前記トラップへ排出する孔部が設けられ、前記孔部は前記小便器のボール面よりも上方に位置するように設定されていることを特徴とする小便器洗浄装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の小便器洗浄装置において、
前記目皿は、前記遮断部材は前記マイクロ波減衰特性を有する厚さの陶器で形成されていることを特徴とする小便器洗浄装置。
【請求項5】
請求項2又は請求項3に記載の小便器洗浄装置において、
前記目皿は、前記遮断部材は金属材料を混入した樹脂部材又は金属材料をインサート成形した樹脂部材で構成して前記マイクロ波遮断特性を持たせたことを特徴とする小便器洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−299357(P2009−299357A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155279(P2008−155279)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】