説明

小便器洗浄装置

【課題】小便器のボール面における水滴落下と、人体接近と、を識別して誤検知による洗浄をなくし、洗浄水の削減を向上できる小便器洗浄装置を提供することを目的とする。
【解決手段】小便器の前方に向けて電波を送受信し、人体の接近を検出するドップラーセンサと、前記ドップラーセンサから出力された検知信号に基づいて人体の接近の有無を判定し前記小便器に洗浄水を供給する給水バルブを開閉制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記検知信号に変化が生じ始めて第1の閾値を超えたとき、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号の振幅が所定の範囲を超えている場合に、人体が接近したと判定することを特徴とする小便器洗浄装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、小便器洗浄装置に関し、具体的には小便器の自動洗浄を行う小便器洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波センサを使用し、人体接近の検出を行う便器洗浄システムがある(特許文献1)。特許文献1に記載された便器洗浄システムによれば、封水の揺れにより生じるドップラー信号の周波数帯域を除去した信号を用いて、近づいてくる人の検知を行っているので、封水の揺れによる誤検知を防止することができる。
【0003】
しかしながら、マイクロ波センサが便器の裏面に設置された小便器において、便器洗浄後に、小便器のボール面に付着して残った水滴が、マイクロ波センサの検出範囲内のボール面を伝って落下すると、小便器洗浄装置は、人体が接近したと誤検出するおそれがある。これは、水滴落下によるマイクロ波センサのドップラー信号の周波数帯域が、人体接近によるドップラー信号の周波数帯域に近いためである。あるいは、ボール面に付着して残った水滴がマイクロ波センサに近いため、ドップラー信号の出力レベルが大きく、人体接近による出力レベルに相当するためである。
【0004】
このように、人体接近によるドップラー信号の周波数帯域と、水滴落下や封水揺れなどによるドップラー信号の周波数帯域と、は一部重複する。そのため、周波数の識別により水滴落下や封水揺れなどによるドップラー信号を除外すると、人体接近によるドップラー信号の一部も除外されてしまう。これにより、人体の動き方によっては、人体接近を検出することができないおそれがある。
【0005】
また、出力信号の振幅値である出力レベルを比較するために、0レベルよりも大きな出力レベルである第1の出力レベルを設定し、出力信号が第1のレベル以上になったときに、それ以前の所定時間における出力信号がノイズレベルであったとき、人体の存在有りとは判断しないように設定された人体検知装置がある(特許文献2)。特許文献2に記載された人体検知装置によれば、人体の接近では、接近に応じて出力信号が徐々に増大するのに対して、水滴では出力信号が突然大きくなるため、出力信号が出力されていない状態、すなわちノイズレベルが所定時間以上続き、その後に第1の出力レベル以上になることにより、人体の検知ではないと判断することによって、誤検知を回避することができる。
【0006】
しかしながら、出力信号が第1のレベル以上になった以前の所定時間については、記載されていない。この所定時間の設定によっては、誤検知を回避することができないおそれがある。そのため、この所定時間に関しては、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−330672号公報
【特許文献2】特開2005−283448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、小便器のボール面における水滴落下と、人体接近と、を識別して誤検知による洗浄をなくし、洗浄水の削減を向上できる小便器洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、小便器の前方に向けて電波を送受信し、人体の接近を検出するドップラーセンサと、前記ドップラーセンサから出力された検知信号に基づいて人体の接近の有無を判定し前記小便器に洗浄水を供給する給水バルブを開閉制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記検知信号に変化が生じ始めて第1の閾値を超えたとき、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号の振幅が所定の範囲を超えている場合に、人体が接近したと判定することを特徴とする小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、水滴落下と人体接近とを識別して誤検知による洗浄をなくし、洗浄水の削減を向上させることができる。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記変化が生じ始める時間は、前記小便器のボール面に沿って流れる水滴を想定し、前記流れる水滴が前記ドップラーセンサの検知範囲内に入り前記検知信号に変化が生じ始める時間であることを特徴とする小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、小便器のボール面に沿って流れる水滴を想定し、変化が生じ始める時間を決定するため、水滴自身と人体検出とを明確に判断できる。そのため、水滴落下と人体接近とを識別して誤検知による洗浄をなくすことができる。
【0011】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、前記制御部は、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号の振幅が前記所定の範囲を超えていないと判断した場合には、前記人体の接近の有無の判定を所定時間のあいだ実行しないことを特徴とする小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、水滴検出手段が水滴であることを判断した後であっても、水滴落下と人体接近との誤検知を防止することができる。
【0012】
また、第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記制御部は、前記検知信号から所定の周波数の信号を抽出し、前記抽出した信号の分散値に前記第1の閾値を超える変化が生じたか否かを判断することを特徴とする小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、ドップラー信号の分散値は、ドップラー信号の振幅値よりも顕著に現れ、より安定的に推移するため、被検知体がドップラーセンサに接近したか否かの判断は、より容易になる。
【0013】
また、第5の発明は、第4の発明において、前記制御部は、前記分散値が前記第1の閾値を超えた場合には、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号の振幅を参照し、前記参照した振幅が第2の閾値以上である場合には、人体が接近したと判定することを特徴とする小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、ドップラー信号の分散値が第1の閾値以上になっただけでは、人体が小便器に接近したとは判断せず、その前のドップラー信号の振幅値を読み取り、その読み取った振幅値が第2の閾値以上である場合に人体が小便器に接近したと判定する。そのため、水滴落下と人体接近とを識別して誤検知による洗浄をなくし、洗浄水の削減を向上させることができる。
【0014】
また、第6の発明は、第5の発明において、前記制御部は、前記検知信号の振幅を記憶する振幅値記憶手段と、前記検知信号の分散値が前記第1の閾値を超えた場合に、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号の振幅を前記振幅値記憶手段から読み取り、前記振幅値記憶手段から読み取った振幅の積算処理を行う振幅値積算手段と、を有し、前記制御部は、前記振幅値積算手段が出力する積算値が前記第2の閾値以上である場合に前記人体が接近したと判定することを特徴とする小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、人体接近によるドップラー信号の振幅値の積算値と、水滴落下によるドップラー信号の振幅値の積算値と、をより明確に識別することができる。そのため、水滴落下と人体接近とを識別して誤検知による洗浄をなくし、洗浄水の削減を向上させることができる。
【0015】
また、第7の発明は、第1〜第6のいずれか1つの発明において、前記制御部は、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号のうちで、第3の閾値を超える振幅を有する前記検知信号を除外して前記判定を実行することを特徴とする小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、ドップラー信号の分散値は第1の閾値以上にはならないが、ドップラー信号の振幅値が積算されると、その積算値が第2の閾値以上となるようなノイズを除外することができる。そのため、水滴落下と人体接近とを識別して誤検知による洗浄をなくし、洗浄水の削減を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の態様によれば、小便器のボール面における水滴落下と、人体接近と、を識別して誤検知による洗浄をなくし、洗浄水の削減を向上できる小便器洗浄装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態にかかる小便器洗浄装置を表す側面模式図である。
【図2】本実施形態の小便器を表す側面模式図である。
【図3】ドップラーセンサの検出方向を説明するための側面模式図である。
【図4】水滴落下および人体接近によるドップラー信号と、判定のタイミングと、を例示する模式図である。
【図5】水滴がボール面を伝って落下する状態を表す側面模式図である。
【図6】人体が小便器に接近する状態を表す側面模式図である。
【図7】本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成を例示するブロック図である。
【図8】本実施形態の判定手段の動作を例示するフローチャートである。
【図9】本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成の具体例を例示するブロック図である。
【図10】本具体例の水滴検出手段の構成を例示するブロック図である。
【図11】水滴落下および人体接近によるドップラー信号と、分散値の判定のタイミングと、を例示する模式図である。
【図12】人体接近によるドップラー信号と、そのドップラー信号の分散値と、の一例を表すグラフ図である。
【図13】水滴落下によるドップラー信号と、そのドップラー信号の分散値と、の一例を表すグラフ図である。
【図14】分散値および積算値を用いた場合の判定動作を具体例を表すフローチャートである。
【図15】ドップラー信号にノイズが生じた場合の判定動作を説明するための模式図である。
【図16】水滴落下であると判定した後の処理を説明するための模式図である。
【図17】水滴検出手段が検出を行う所定時間帯の具体例を表す模式図である。
【図18】ドップラー信号の振幅の積算方法の具体例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる小便器洗浄装置を表す側面模式図である。
【0019】
図1に表した小便器洗浄装置は、男性用の小便器100に付設され、人体および尿流を検出するマイクロ波ドップラーセンサ(以下、単に「ドップラーセンサ」という)200と、小便器洗浄を制御する制御部300と、を備える。
【0020】
小便器100は、ボール部110を有する。ボール部110の上部には、洗浄水をボール部110へ吐水する給水部120が設けられ、ボール部110の下部には、洗浄水を一時的に貯留するトラップ部130が設けられている。トラップ部130に貯留された水(封水)は、排水路側からボール部110側に悪臭や害虫類が進入することを防止している。そして、トラップ部130に貯留された水は、給水部120から吐水された洗浄水の水量に応じて、排水口140から排水路へ適宜排出される。
【0021】
ドップラーセンサ200は、小便器100の裏面(後方)側、すなわちボール部110とは反対側に設置されている。ドップラーセンサ200は、マイクロ波あるいはミリ波などの高周波の電波を放射(送信)し、放射した電波の被検知体からの反射波を受信して、被検知体の有無を検知し、その検知信号を出力する高電波センサである。このドップラーセンサ200は、図1に表した検出範囲201のように、小便器100の前方に立った使用者(人体)510や、使用者510からの排尿の尿流などを検出する。なお、ドップラーセンサ200については、後に詳述する。
【0022】
制御部300は、ドップラーセンサ200から出力された検知信号(ドップラー信号)に基づいて、給水路の途上に設けられた給水バルブ400を駆動させる。給水部120と給水バルブ400とは、給水路によって連結されている。給水バルブ400が開放されている場合には、水は給水路の内部を通り、給水部120から吐水される。一方、給水バルブ400が閉止されている場合には、水が給水部120から吐水されることはない。なお、本願明細書において「水」という場合には、「湯」も含むものとする。
【0023】
図2は、本実施形態の小便器を表す側面模式図である。なお、図2(a)は、小便器の全体を表す側面模式図であり、図2(b)は、ドップラーセンサの近傍を拡大して眺めた拡大模式図である。
また、図3は、ドップラーセンサの検出方向を説明するための側面模式図である。なお、図3(a)は、ドップラーセンサがボール面に対して傾斜して設置された場合を例示する側面模式図であり、図3(b)は、ドップラーセンサがボール面に並行して設置された場合を例示する側面模式図である。
【0024】
ドップラーセンサ200は、図2および図3に表したように、小便器100の裏面側に設置され、その検出範囲201が前方および下方を向くように、ボール面111に対して傾斜して設置されている。また、小便器100のボール面111に付着して残った水滴520がある場合には、その水滴520は、図2(b)に表した矢印のように、ドップラーセンサ200の近傍のボール面111を伝って落下する。
【0025】
ここで、ドップラーセンサ200の電波放射方向(最大指向方向)は、図3(a)に表したように、水滴520の落下方向に対して傾斜している。そして、放射された電波は水滴520に反射され、ドップラーセンサ200は、この反射された電波(反射波)を受信する。このとき、ドップラーセンサ200は、電波放射方向と並行する水滴落下速度成分から得られるドップラー信号(検知信号)を主として 制御部300に出力する。つまり、電波放射方向と直交する水滴落下速度成分から得られるドップラー信号は、非常に小さな信号となる。
【0026】
但し、ドップラーセンサ200は、一定領域(検出範囲201)に電波を放射している。そのため、例えば図3(b)に表したように、ドップラーセンサ200は、ボール面111に並行して設置された場合であっても、方向Bと並行する水滴落下速度成分から得られるドップラー信号を制御部300に出力できる。これは、図3(b)に表した矢印Bだけに限定されず、例えば矢印Cについても同様である。すなわち、ドップラーセンサ200は、図3(a)や図3(b)に表したような設置形態に限定されず、ボール面111を伝って落下する水滴520に反射された電波を受信して、ドップラー信号を制御部300に出力できる。
【0027】
このとき、水滴520がボール面111を伝って落下したことによるドップラー信号の周波数帯域は、人体510が接近したことによるドップラー信号の周波数帯域に近い。また、ボール面111を伝って落下する水滴520は、ドップラーセンサ200の近くを通過するため、ドップラー信号の出力レベルが大きく、人体接近によるドップラー信号の出力レベルに相当する場合がある。そのため、小便器100のボール面111に付着して残った水滴520が、ドップラーセンサ200の検出範囲201内のボール面111を伝って落下すると、小便器洗浄装置は、人体510が接近したと誤検出するおそれがある。そこで、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、水滴落下と人体接近とを識別して、誤検知による洗浄を防止することができる。以下、水滴落下と人体接近との識別に関して、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図4は、水滴落下および人体接近によるドップラー信号と、判定のタイミングと、を例示する模式図である。
また、図5は、水滴がボール面を伝って落下する状態を表す側面模式図である。
また、図6は、人体が小便器に接近する状態を表す側面模式図である。
なお、図4に表したドップラー信号において、横軸は時間を表しており、縦軸は電圧を表している。
【0029】
人体510が小便器100に接近する場合、ドップラーセンサ200から出力されるドップラー信号の振幅値は、図4に表したように、徐々に大きくなる。これは、人体510が小便器100に接近する場合には、その人体510は徐々にドップラーセンサ200の検出範囲201に入ってくるためである。また、人体510が小便器100の前方ではなく側方から検出範囲201に入ってくる場合であっても、ドップラーセンサ200と人体510との距離が遠いため、ドップラー信号の振幅は、図4に表したように、徐々に大きくなる。
【0030】
そして、人体510が、図6に表した人体aの位置に存在すると、すなわち人体510がドップラーセンサ200の検出範囲201に入ると、ドップラーセンサ200から出力されるドップラー信号の振幅値は、変化し始める。続いて、人体510が、小便器100に近接した位置に近づくにつれて、ドップラー信号の振幅値は大きくなり、人体510が図6に表した人体bの位置に到達すると、ドップラー信号の振幅値は第1の閾値を超える。さらに人体510が小便器100に近接した位置に近づくにつれて、ドップラー信号の振幅値はさらに大きくなる。
【0031】
これに対して、水滴520がボール面111を伝って落下する場合、ドップラーセンサ200から出力されるドップラー信号の振幅は、図4に表したように、人体接近の場合と比較すると、急に大きくなる。これは、人体接近の場合と比較すると、ドップラーセンサ200と水滴520との距離が近く、その水滴520がドップラーセンサ200の検出範囲201に急に入ってくるためである。また、ドップラーセンサ200と水滴520との距離が近いため、ドップラー信号の振幅は、人体接近によるドップラー信号の振幅に相当する場合がある。
【0032】
水滴520が、図5に表した水滴aの位置に伝ってくると、すなわち水滴520がドップラーセンサ200の検出範囲201に入ってくると、ドップラーセンサ200から出力されるドップラー信号の振幅は、変化し始める。続いて、水滴520が図5に表した水滴bの位置に伝ってくると、ドップラーセンサ200から出力されるドップラー信号の振幅は、第1の閾値を超える場合がある(タイミングt1)。なお、水滴520が、図5に表した水滴cの位置に伝ってくると、すなわち水滴520がドップラーセンサ200の検出範囲201から外れると、ドップラーセンサ200から出力されるドップラー信号の振幅は、ほとんど変化しなくなる。
【0033】
そこで、本実施形態にかかる小便器洗浄装置の制御部300は、ドップラーセンサ200からのドップラー信号が第1の閾値を超えても(例えば、ドップラー信号の振幅が所定閾値以上になっても)、それに基づいて人体510が小便器100に接近したとは判定しない。ドップラーセンサ200からのドップラー信号が第1の閾値を超える(例えば、ドップラー信号の振幅が所定閾値以上になる)と、制御部300は、その変化が生じ始める時間より前のドップラー信号を参照する。ここで、本願明細書において「変化が生じ始める時間」とは、小便器100のボール面111に沿って流れる水滴520を想定し、その流れる水滴520が、ドップラーセンサ200の検出範囲内に入りドップラーセンサ200からのドップラー信号に変化が生じ始める時間である。つまり、例えば、図4に表したように、タイミングt1において、ドップラーセンサ200からのドップラー信号の振幅が所定閾値以上になると、小便器洗浄装置は、タイミングt1よりも前に遡った所定時間T1の間のドップラー信号を読み取る。
【0034】
そして、所定時間T1の間のドップラー信号の振幅が、他の所定閾値以上であれば、小便器洗浄装置は、人体510が小便器100に接近したと判定する。すなわち、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、ドップラーセンサ200からのドップラー信号の振幅が所定閾値以上になった場合であって、そのタイミングt1よりも前に遡った所定時間T1の間のドップラー信号の振幅が他の所定閾値以上である場合に、人体510が小便器100に接近したと判定する。
【0035】
一方、所定時間T1の間のドップラー信号の振幅が、他の所定閾値よりも小さい場合は、制御部300は、水滴520を検知したものと判定し、人体510が小便器100に接近したとは判定しない。すなわち、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、ドップラーセンサ200からのドップラー信号の振幅が所定閾値以上になった場合であって、そのタイミングt1よりも前に遡った所定時間T1の間のドップラー信号の振幅が他の所定閾値よりも小さい場合には、人体510が小便器100に接近したとは判定しない。
【0036】
なお、所定時間T1は、これだけに限定されず、例えば所定時間T1からさらに遡った所定時間T2であってもよい。また、タイミングt1における判定では、ドップラー信号の振幅による判定だけに限定されず、例えば、所定時間の間におけるドップラー信号の振幅の変動を表す分散値などを用いて判定してもよい。つまり、分散値が所定値を超えた場合も、検知信号に第1の閾値を超えた変化が生じたものと判定することができる。さらに、タイミングt1よりも前に遡った所定時間T1や所定時間T2における判定では、ドップラー信号の振幅による判定だけに限定されず、例えば、所定時間T1や所定時間T2の間におけるドップラー信号の振幅の平均値や積算値などを用いて判定してもよい。
【0037】
このように、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、人体接近によるドップラー信号の特性と、水滴落下によるドップラー信号の特性と、の差異に基づいて、人体接近と水滴落下とを識別する。すなわち、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、ドップラー信号の振幅が所定閾値以上になっただけでは、人体510が小便器100に接近したとは判定せず、その変化が生じ始める時間より前のドップラー信号を読み取り、所定時間の間のドップラー信号の振幅が他の所定閾値以上の場合に人体510が小便器100に接近したと判定する。そのため、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、水滴落下と人体接近とを識別して誤検知による洗浄をなくし、洗浄水の削減を向上できる。
【0038】
図7は、本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成を例示するブロック図である。
また、図8は、本実施形態の判定手段の動作を例示するフローチャートである。
【0039】
本実施形態のドップラーセンサ200は、送信手段210と、受信手段220と、差分検出手段230と、を有する。送信手段210からは、高周波、マイクロ波あるいはミリ波などの10kHz〜100GHzの周波数帯の電波が放射される。人体510や水滴520からの反射波は、受信手段220に入力される。
【0040】
このような送受信形態を電波を用いて行うことにより、光電センサ(赤外線センサ)等のように非常に狭い指向性を持ったセンサでは検知困難な被検知体に関しても検知可能となる。そのため、小便器洗浄装置の近傍にて電波を用いることにより、形状や色、材質に関係なく検知を行うことが可能となり、被検知体の検知精度を向上させることが可能となる。
【0041】
送信波の一部と受信波とは、差分検出手段230にそれぞれ入力されて合成され、ドップラー効果が反映された出力信号が出力される。つまり、差分検出手段230は、送信波の一部と受信波との周波数の差分をとり、ドップラー信号を出力する。差分検出手段230から出力されたドップラー信号は、制御部300に出力される。
【0042】
差分検出手段230から出力されたドップラー信号は、周波数の低いベースラインに周波数の高い信号が重畳した波形を有する。高周波数成分には、ドップラー効果に関する情報が含まれる。すなわち、人体510や水滴520などの被検知体が移動すると、ドップラー効果によって反射波の波長がシフトする。ドップラー周波数ΔF(Hz)は、下記の式(1)により表すことができる。

ΔF=Fs−Fb=2×Fs×v/c ・・・式(1)

但し、Fs:送信周波数(Hz)
Fb:反射周波数(Hz)
v:物体の移動速度(m/s)
c:光速(=300×106m/s)
【0043】
ドップラーセンサ200に対して被検知体が相対的に移動すると、式(1)で表されるように、その速度vに比例した周波数ΔFを含む出力信号を得ることができる。出力信号は周波数スペクトラムを有し、スペクトラムのピークに対応するピーク周波数と移動体の速度vとの間には相関関係がある。従って、ドップラー周波数ΔFを測定することにより速度vを求めることができる。
【0044】
一方、制御部300は、受信出力手段310と、人体検出手段320と、を有する。また、人体検出手段320は、周波数フィルタ321と、判定手段323と、を有する。差分検出手段230から出力されたドップラー信号は、受信出力手段310により受信された後、周波数フィルタ321に出力される。そして、そのドップラー信号の高周波成分は、周波数フィルタ321において取り除かれ、人体接近に対応する人体検出周波数信号が抽出される。この際のフィルタリング周波数は、適宜変更することができる。
【0045】
周波数フィルタ321において高周波成分が取り除かれ、人体接近に対応する人体検出周波数が抽出されたドップラー信号は、判定手段323に出力される。判定手段323は、図8に表したフローチャートのような動作により、人体接近と水滴落下とを識別し判定する。そして、判定手段323は、その判定結果に基づいて給水バルブ400を開閉する。
【0046】
ここで、図8に表した判定手段323の動作について説明する。まず、判定手段323は、人体検出処理を開始すると(ステップS101)、周波数フィルタ321からのドップラー信号の振幅が第1の閾値以上であるか否かを判断する(ステップS103)。周波数フィルタ321からのドップラー信号の振幅が第1の閾値未満である場合には(ステップS103:No)、ステップS103の動作を繰り返す。一方、周波数フィルタ321からのドップラー信号の振幅が第1の閾値以上である場合には(ステップS103:Yes)、ドップラー信号の振幅が第1の閾値以上になる前の振幅が第2の閾値以上であるか否かを判断する(ステップS105)。
【0047】
ドップラー信号の振幅が第1の閾値以上になる前の振幅が第2の閾値未満である場合には(ステップS105:No)、ステップS103の動作を繰り返す。一方、ドップラー信号の振幅が第1の閾値以上になる前の振幅が第2の閾値以上である場合には(ステップS105:Yes)、人体510が小便器100に接近したと判定し(ステップS107)、人体検出処理を終了する(ステップS109)。
【0048】
次に、本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成の具体例について説明する。
図9は、本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成の具体例を例示するブロック図である。
また、図10は、本具体例の水滴検出手段の構成を例示するブロック図である。
【0049】
本具体例の人体検出手段320は、周波数フィルタ321と、人体検出閾値判定部325と、水滴検出手段330と、を有する。つまり、図7に表した判定手段323が、人体検出閾値判定部325と、水滴検出手段330と、を有することに相当する。その他の構成については、図7に表した小便器洗浄装置の構成と同様である。
【0050】
本具体例の小便器洗浄装置では、周波数フィルタ321において高周波成分が取り除かれたドップラー信号は、人体検出閾値判定部325に出力される。人体検出閾値判定部325は、周波数フィルタ321からのドップラー信号が所定閾値以上であるか否かを判定する。そして、周波数フィルタ321からのドップラー信号が所定閾値以上である場合には、そのドップラー信号を水滴検出手段330に出力する。つまり、周波数フィルタ321からのドップラー信号が所定閾値以上であることだけでは、制御部300は給水バルブ400を開放しない。
【0051】
水滴検出手段330は、図10に表したように、振幅記憶手段331と、振幅積算手段333と、水滴検出閾値判定部335と、を有し、人体検出閾値判定部325からのドップラー信号が水滴落下によるものであるか否かを判定する。より具体的には、振幅積算手段333は、人体検出閾値判定部325からのドップラー信号の振幅を所定時間だけ記憶できる。
【0052】
また、振幅積算手段333は、振幅記憶手段331に記憶された所定時間の間の振幅を積算できる。振幅の積算方法は、例えば図18に関して後述するように、ドップラー信号のピークとピークとの差分、すなわちドップラー信号の複数の波形におけるそれぞれの極大値と極小値との差分を積算する方法などが挙げられる。
【0053】
水滴検出閾値判定部335は、このようにして算出された振幅の積算値に基づいて、水滴落下であるか否かを判定する。そして、振幅の積算値が所定閾値以上である場合には、水滴検出閾値判定部335は、人体510が小便器100に接近したと判定し、給水バルブ400を開放する。一方、振幅の積算値が所定閾値未満である場合には、水滴検出閾値判定部335は、水滴520がボール面111を伝って落下したと判定し、給水バルブ400を開放しない。
【0054】
なお、本具体例では、振幅記憶手段331はドップラー信号の振幅を記憶し、振幅積算手段333は振幅記憶手段331に記憶された所定時間の間の振幅を積算する場合を例に挙げて説明したが、これだけに限定されない。例えば、振幅記憶手段331は、振幅積算手段333により算出された振幅の積算値を記憶してもよい。そうすれば、水滴検出閾値判定部335は、振幅記憶手段331に記憶された振幅の積算値に基づいて、水滴落下であるか否かを判定できる。
【0055】
本具体例によれば、周波数フィルタ321からのドップラー信号が所定閾値以上であって、振幅の積算値が所定閾値以上である場合に、水滴検出閾値判定部335は、人体510が小便器100に接近したと判定し、給水バルブ400を開放する。このように、制御部300あるいは水滴検出閾値判定部335は、ドップラー信号の振幅による判定だけに限定されず、所定時間におけるドップラー信号の振幅の積算値を用いて判定してもよい。以下、本具体例の小便器洗浄装置のように、所定時間におけるドップラー信号の振幅の積算値を用いて水滴落下を判定する場合を例に挙げて説明する。
【0056】
図11は、水滴落下および人体接近によるドップラー信号と、分散値の判定のタイミングと、を例示する模式図である。
また、図12は、人体接近によるドップラー信号と、そのドップラー信号の分散値と、の一例を表すグラフ図である。
また、図13は、水滴落下によるドップラー信号と、そのドップラー信号の分散値と、の一例を表すグラフ図である。
なお、図11〜図13に表したドップラー信号および分散値において、横軸は時間をそれぞれ表しており、縦軸は電圧をそれぞれ表している。
【0057】
図4に関して前述したように、人体510や水滴520などの被検知体がドップラーセンサ200に接近したか否かの判定は、所定時間の間におけるドップラー信号の振幅の変動を表す分散値などを用いて判定してもよい。つまり、図9に表した人体検出閾値判定部325は、所定時間の間におけるドップラー信号の振幅の変動を表す分散値などを用いて判定してもよい。
【0058】
なお、ドップラー信号の分散値は、次式により表すことができる。

【数1】

【0059】
人体接近によるドップラー信号に基づいて、式(2)により算出された分散値は、図12に表した如くである。これによれば、人体接近によるドップラー信号の分散値は、人体510が小便器100に接近し、ドップラー信号の振幅の変動が大きくなるにつれて大きくなる。また、水滴落下によるドップラー信号に基づいて、式(2)により算出された分散値は、人体接近の場合と同様に、水滴520がボール面111を伝って落下し、ドップラー信号の振幅の変動が大きくなるにつれて大きくなる。
【0060】
図12および図13に表したように、ドップラー信号の分散値は、ドップラー信号の振幅よりも顕著に現れ、より安定的に推移する。そのため、ドップラー信号の分散値を用いると、人体510や水滴520などの被検知体がドップラーセンサ200に接近したか否かの判定は、より容易になる。そこで、以下、人体510や水滴520などの被検知体がドップラーセンサ200に接近したか否かの判定をドップラー信号の分散値を用いて判定する場合を例に挙げて説明する。
【0061】
図11に戻って説明を続けると、本実施形態の小便器洗浄装置は、ドップラー信号の分散値が所定閾値以上になっても、それに基づいて人体510が小便器100に接近したとは判定しない。ドップラー信号の分散値が所定閾値以上になると、小便器洗浄装置は、その変化が生じ始める時間より前のドップラー信号を読み取る。すなわち、図11に表したように、タイミングt2において、ドップラー信号の分散値が所定閾値以上になると、小便器洗浄装置は、タイミングt2よりも前に遡った所定時間T3の間のドップラー信号を読み取る。
【0062】
そして、所定時間T3の間のドップラー信号の振幅の積算値が、所定閾値以上であれば、小便器洗浄装置は、人体510が小便器100に接近したと判定する。すなわち、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、ドップラーセンサ200からのドップラー信号の分散値が所定閾値以上になった場合であって、そのタイミングt2よりも前に遡った所定時間T3の間のドップラー信号の振幅の積算値が所定閾値以上である場合に、人体510が小便器100に接近したと判定する。次に、この動作の具体例について、図面を参照しつつ説明する。
【0063】
図14は、分散値および積算値を用いた場合の判定動作を具体例を表すフローチャートである。
また、図15は、ドップラー信号にノイズが生じた場合の判定動作を説明するための模式図である。
また、図16は、水滴落下であると判定した後の処理を説明するための模式図である。 なお、図15および図16に表したドップラー信号において、横軸は時間を表しており、縦軸は電圧を表している。
【0064】
まず、人体検出手段320は、人体検出処理を開始すると(ステップS201)、式(2)により算出されたドップラー信号の分散値が閾値A(第1の閾値)以上であるか否かを判断する(ステップS203)。その分散値が閾値A以上である場合には(ステップS203:Yes)、分散値が閾値A以上になる前の所定時間帯の振幅を検出する(ステップS205)。なお、分散値が閾値A以上になる前の所定時間帯の振幅は、例えば、図10に表した振幅記憶手段331などに記憶されている。また、図14に表した所定時間帯とは、例えば、図4に表した所定時間T1、T2や図11に表した所定時間T3の時間帯などである。
【0065】
続いて、水滴検出手段330は、所定時間帯の振幅が閾値B(第3の閾値)より小さいか否かを判断する(ステップS207)。このステップS207に関しては、図15を参照しつつ後に詳述する。所定時間帯の振幅が閾値Bより小さい場合には(ステップS207:Yes)、水滴検出手段330は、その振幅を積算値へ加算する。なお、積算値への加算は、例えば、図10に表した振幅積算手段333などにより行われる。続いて、所定時間帯の振幅の検出が終了したか否かを判断し(ステップS211)、終了していない場合には(ステップS211:No)、ステップS205、ステップS207、ステップS209、およびステップS211を繰り返し行う。
【0066】
一方、所定時間帯の振幅の検出が終了した場合には(ステップS211:Yes)、水滴検出手段330は、振幅の積算値が閾値C(第2の閾値)以上であるか否かを判断する(ステップS215)。振幅の積算値が閾値C以上である場合には(ステップS215:Yes)、水滴検出手段330は、水滴落下ではなく人体接近であると判定する(ステップS217)。つまり、水滴520がボール面111を伝って落下したのではなく、人体510が小便器100に接近したと判定する。その後、人体検出処理を終了する(ステップS223)。
【0067】
一方、振幅の積算値が閾値Cよりも小さい場合には、水滴検出手段330は、人体510が小便器100に接近したのではなく、水滴520がボール面111を伝って落下したと判定する。続いて、所定時間T(秒)だけ待機した後(ステップS221)、人体検出処理を終了する(ステップS223)。このステップS221に関しては、図16を参照しつつ後に詳述する。
【0068】
ここで、ステップS207に関して、図15を参照しつつ説明する。
ドップラーセンサ200は、水滴520以外のノイズを受ける場合がある。このノイズは、図15に表したように、分散値が閾値A以上になる前の所定時間帯(ステップS205参照)に生ずる場合もある。ノイズがステップS205における所定時間帯に生ずる場合に、そのノイズによるドップラー信号の分散値は閾値A以上にはならないが、他のノイズによるドップラー信号の振幅と積算されると、その積算値が閾値C以上となるおそれがある。
【0069】
ノイズによるドップラー信号の振幅の積算値が閾値C以上になると(ステップS215:Yes)、水滴検出手段330は、前述したように、人体510が小便器100に接近したと判定する。そこで、水滴検出手段330は、所定時間帯の振幅が閾値B(第3の閾値)より小さいか否かを判断する(ステップS207)。
【0070】
より具体的に説明すると、水滴520以外のノイズによるドップラー信号の特性の1つとして、図15に表したように、ノイズによるドップラー信号の振幅は人体接近によるドップラー信号の振幅よりも大きいことが挙げられる。つまり、水滴520以外のノイズによるドップラー信号の振幅は、人体510が小便器100に接近している途中の振幅よりも大きい。そのため、ステップS207において、所定時間帯の振幅が閾値Bより小さいか否かを判断することにより、水滴検出手段330は、水滴520以外のノイズを除外することができる。
【0071】
所定時間帯の振幅が閾値B以上である場合には(ステップS207:No)、水滴検出手段330は、その振幅を積算値へ加算しない(ステップS213)。そして、水滴検出手段330は、人体510が小便器100に接近したのではなく、ノイズが生じたと判定する(ステップS219)。続いて、所定時間T(秒)だけ待機した後(ステップS221)、人体検出処理を終了する(ステップS223)。
【0072】
ここで、ステップS221に関して、図16を参照しつつ説明する。
ステップS219において、水滴520がボール面111を伝って落下したと水滴検出手段330が判定した後であっても、水滴520はドップラーセンサ200の近傍のボール面111を伝って落下する場合がある。そのため、図16に表したように、水滴520が流れ落ちるまで、ドップラー信号の振幅は変動する場合がある。
【0073】
そこで、水滴検出手段330が水滴落下であると判定した後において、水滴落下と人体接近とを誤検知することをより確実に防止するために、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、水滴検出手段330が水滴落下であると判定した後では人体検出処理を所定時間だけ停止(待機)させる。この停止(待機)時間は、水滴520がドップラーセンサ200の検出範囲201外に流れ落ちるまでの想定時間である。これによれば、人体検出処理が行われないため、水滴落下と人体接近とを誤検知することはない。そのため、水滴520がボール面111を伝って落下したと水滴検出手段330が判定した後であっても、水滴落下と人体接近と誤検知を防止することができる。
【0074】
図17は、水滴検出手段が検出を行う所定時間帯の具体例を表す模式図である。
なお、図17に表したドップラー信号において、横軸は時間を表しており、縦軸は電圧を表している。
本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、例えば図14に表した判定動作のように、ドップラー信号の分散値が閾値A以上である場合には(ステップS203:Yes)、分散値が閾値A以上になる前の所定時間帯の振幅を検出する(ステップS205)。
【0075】
ここで、図17に表したように、タイミングt6において、ドップラー信号の分散値が所定閾値以上になったとする。このとき、本具体例の人体検出手段320は、人体接近によるドップラー信号が現れたタイミングt3から水滴落下によるドップラー信号が現れる前のタイミングt4までの間の所定時間T6の振幅を読み取る。すなわち、所定時間T6は、変化が生じ始める時間(タイミングt5)よりも前に遡った所定時間T4と、変化が生じ始める時間(タイミングt5)よりも前に遡った所定時間T5と、の差分時間に相当する。そして、水滴検出手段330は、その所定時間T6の間の振幅を積算する。
【0076】
所定時間T5は、水滴落下によるドップラー信号の特性から導き出され、制御部300の記憶手段などに予め記憶されている。水滴落下によるドップラー信号は、図13に表したグラフ図のように、人体接近の場合よりも急激に大きくなる特性を有する。そのため、所定時間T5は、所定時間T4よりも小さく、水滴落下によるドップラー信号の特性から導き出される。したがって、本具体例の人体検出手段320は、水滴落下によるドップラー信号が現れる前のタイミングt4を認識できる。
【0077】
タイミングt3からタイミングt4までの間の所定時間T6では、図17に表したように、人体接近によるドップラー信号の振幅は徐々に大きくなり変動しているが、一方で、水滴落下によるドップラー信号の振幅は大きくならず略一定に推移している。そのため、所定時間T6の間においては、人体接近によるドップラー信号の振幅の積算値と、水滴落下によるドップラー信号の振幅の積算値と、をより明確に識別することができる。したがって、本具体例の小便器洗浄装置は、水滴落下と人体接近とをより明確に識別し、誤検知を防止することができる。
【0078】
図18は、ドップラー信号の振幅の積算方法の具体例を説明するための模式図である。なお、図18に表したドップラー信号において、横軸は時間を表しており、縦軸は電圧を表している。
本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、例えば図14に表した判定動作のように、ドップラー信号の分散値が閾値A以上である場合には(ステップS203:Yes)、分散値が閾値A以上になる前の所定時間帯の振幅を検出する(ステップS205)。
【0079】
このとき、水滴検出手段330は、振幅記憶手段331などに記憶された所定時間の間の振幅を積算して、水滴落下と人体接近とを判定できる。本具体例のドップラー信号の振幅の積算方法は、ドップラー信号のピークとピークとの差分、すなわちドップラー信号の複数の波形におけるそれぞれの極大値と極小値との差分を積算する方法である。
【0080】
より具体的に説明すると、ドップラーセンサ200からのドップラー信号は、図18に表したように、振幅が変動し、複数の波形が連続した信号を有する。そして、ピークP1とピークP2との差分、ピークP3とピークP4との差分、およびピークP5とピークP6との差分を積算する。例えば、ピークP1とピークP2との差分が50(mV)であり、ピークP3とピークP4との差分が15(mV)であり、およびピークP5とピークP6との差分が90(mV)であるとすると、ドップラー信号の振幅の積算値は、155(mV)となる。
【0081】
本具体例のように、所定時間の間におけるドップラー信号のピークとピークとの差分を積算すると、その積算値は、単なる振幅や振幅の平均値よりも大きな値となるため、人体接近によるドップラー信号と水滴落下によるドップラー信号とをより明確に識別することができる。つまり、人体接近によるドップラー信号の振幅の積算値と、水滴落下によるドップラー信号の振幅の積算値と、の間には、より大きな差異が生ずる。また、図17に表した所定時間T6の振幅を読み取れば、人体接近によるドップラー信号の振幅の積算値と、水滴落下によるドップラー信号の振幅の積算値と、の間には、さらに大きな差異が生ずる。そのため、本具体例の小便器洗浄装置は、水滴落下と人体接近とをより明確に識別し、誤検知を防止することができる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態によれば、ドップラー信号の振幅が所定閾値以上になっただけでは、人体510が小便器100に接近したとは判定せず、その変化が生じ始める時間より前のドップラー信号を読み取り、所定時間の間のドップラー信号の振幅が他の所定閾値以上の場合に人体510が小便器100に接近したと判定する。このとき、ドップラー信号の振幅ではなく、その振幅から算出される分散値や積算値などを用いて判定してもよい。これによれば、水滴落下と人体接近とを識別して誤検知による洗浄をなくし、洗浄水の削減を向上させることができる。
【0083】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、小便器100などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などやドップラーセンサ200の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0084】
100 小便器、 110 ボール部、 111 ボール面、 120 給水部、 130 トラップ部、 140 排水口、 200 ドップラーセンサ、 201 検出範囲、 210 送信手段、 220 受信手段、 230 差分検出手段、 300 制御部、 310 受信出力手段、 320 人体検出手段、 321 周波数フィルタ、 323 判定手段、 325 人体検出閾値判定部、 330 水滴検出手段、 331 振幅記憶手段、 333 振幅積算手段、 335 水滴検出閾値判定部、 400 給水バルブ、 510 使用者(人体)、 520 水滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小便器の前方に向けて電波を送受信し、人体の接近を検出するドップラーセンサと、
前記ドップラーセンサから出力された検知信号に基づいて人体の接近の有無を判定し前記小便器に洗浄水を供給する給水バルブを開閉制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記検知信号に変化が生じ始めて第1の閾値を超えたとき、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号の振幅が所定の範囲を超えている場合に、人体が接近したと判定することを特徴とする小便器洗浄装置。
【請求項2】
前記変化が生じ始める時間は、前記小便器のボール面に沿って流れる水滴を想定し、前記流れる水滴が前記ドップラーセンサの検知範囲内に入り前記検知信号に変化が生じ始める時間であることを特徴とする請求項1記載の小便器洗浄装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号の振幅が前記所定の範囲を超えていないと判断した場合には、前記人体の接近の有無の判定を所定時間のあいだ実行しないことを特徴とする請求項1または2に記載の小便器洗浄装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記検知信号から所定の周波数の信号を抽出し、前記抽出した信号の分散値に前記第1の閾値を超える変化が生じたか否かを判断することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の小便器洗浄装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記分散値が前記第1の閾値を超えた場合には、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号の振幅を参照し、前記参照した振幅が第2の閾値以上である場合には、人体が接近したと判定することを特徴とする請求項4記載の小便器洗浄装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記検知信号の振幅を記憶する振幅値記憶手段と、
前記検知信号の分散値が前記第1の閾値を超えた場合に、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号の振幅を前記振幅値記憶手段から読み取り、前記振幅値記憶手段から読み取った振幅の積算処理を行う振幅値積算手段と、
を有し、
前記制御部は、前記振幅値積算手段が出力する積算値が前記第2の閾値以上である場合に前記人体が接近したと判定することを特徴とする請求項5記載の小便器洗浄装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記変化が生じ始める時間より前の前記検知信号のうちで、第3の閾値を超える振幅を有する前記検知信号を除外して前記判定を実行することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の小便器洗浄装置。

【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−185229(P2010−185229A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30393(P2009−30393)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】