説明

小児向け多目的容器

【課題】 上面が開口する角形容器形状のパルプモールド成形体からなり、全体が均一に圧縮されて角部近傍の強度が高く、外形や内外表面形状等の設計形状が忠実に再現されることにより、知育・教育分野において、安全に使用可能な小児向けの多目的な容器を提供する。
【解決手段】 上面が開口する角形容器形状の本体部C1と、本体部C1の上端開口縁部から外方へ張り出すフランジ形状の把持部C2を備えており、かつ本体部C1と把持部C2とが、いずれも剛性体にて構成される一対の雄型と雌型の間に、含水状態のパルプ系繊維集合体を挟んで加圧圧縮することにより一体的に成形された硬質パルプモールド成形体からなる小児向け多目的容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上面が開口する角形容器形状を有し、小児向け知育玩具、学習用具、教材等の収納用、保管用、整理用、栽培用といった知育教育分野の幅広い用途に使用可能な多目的の収容容器、特に、パルプ繊維等を主原料とする硬質パルプモールド成形体により成形された小児向け多目的容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
幼児向け知育玩具や遊具、児童・生徒向け学習用具や器具、教材等、小児の身の回りの物品には、原料や形状の安全性、扱いやすさ、保管性等が重要な選択基準となっている。一方、これら小児向け物品に付属する容器、あるいは整理、保管するための玩具箱、整理箱等にも、同様の安全性が要求され、さらに物品の収納、持ち運びに耐える強度と耐久性が要求される。
【0003】
従来、かかる用途に使用される容器には、例えば段ボールや厚紙を組み立てた箱状体や折箱、プラスチックの一体成形品が用いられている。このうち、紙製の箱状体は、上面が開口する長方形等の角形容器形状では、十分な強度や耐久性が得られないために、容量が小さいものに限られ、積み重ねにも向かない。折箱の表面に布地等を貼り付けたものは、表面の補強または外観の向上が可能であり、また、蓋付きまたは引き出し式の形状としたものは、積み重ねが可能となるが、組み立て、加工工程数が増え、製作に手間がかかる。
【0004】
また、プラスチックの一体成形品としては、例えば、特許文献1に、有底四角箱状の容器の一例が開示されている。合成樹脂材料を金型内に射出、硬化させることによって得られる特許文献1の容器は、成形が容易であり、側壁に上下に積み重ねるスタッキングや入れ子式に重ねて収納するネスティングが可能な形状とすることができる。ただし、プラスチックの一体成形品は、落下や衝突により割れや破損が生じやすく、破片による怪我のおそれがある。強度を高めるために肉厚とすることもできるが、その分重量増となり、小児向けとしては持ち運びや取り扱い性が低下する。また、玩具等を投げたり振り回したりする幼児には、紙製のものと比べると安全面で難がある。
【0005】
さらに、合成樹脂材料は、資源枯渇が問題となりつつある原油由来の材料であり、廃棄や焼却が環境に与える影響が大きいことから、小児向け製品、特に知育教育用途に適しているとはいえない。
【特許文献1】特開2002−249136号公報
【0006】
これに対し、天然系原料を使用した成形体として、パルプモールド成形体が知られている。パルプモールド成形体は、パルプ繊維を主として含有することから、安全性が高く、小児向け製品に適している。また、燃焼時に有害ガスを発生しないので、合成樹脂材料に比べて環境への負荷が小さい。ただし、従来の製造方法では、角形容器形状の成形体とすることが難しく、通常は、柔軟性やクッション性を利用した緩衝材や包装材、使い捨て容器等への利用がほとんどであった。そこで、製造方法を改良して所望の容器形状の成形体を得ることが期待される。
【0007】
従来のパルプモールド成形体を製造する方法として、湿式パルプモールド法が知られている。この方法は、パルプ繊維を含むスラリーに成形体形状に応じた抄紙型を浸漬して、その表面にパルプ繊維を堆積させ、得られた含水状態の成形体を、脱水・乾燥させてパルプモールド成形体とするものである。脱水・乾燥工程では、通常、一対の雌型と雄型からなる成形型を用い、加圧圧縮して、水分を排出するのと同時に、成形型の表面形状を転写する。このような製造方法は、例えば、特許文献2ないし4に記載されている。
【特許文献2】特開2002−146700号公報
【特許文献3】特許第3144551号公報
【特許文献4】特開2003−306899号公報
【0008】
特許文献2の方法は、シリコーンゴム等の弾性変形可能な材料からなる凸型を抄紙型として用い、その外表面にパルプ層を形成する。これを成形用の雄型として、成形体に対応する形状とした雌型の凹部内に挿通し、パルプ層の底部を凹部の底部に当接させる。次いで、凸型を押圧変形させて、凹部の隙間を埋めるようにすると、両者の間に挟まれたパルプ層が圧縮、脱水される。
【0009】
特許文献3の方法は、抄紙型を、拡縮可能なコアと追従変形可能なコア収容体にて構成し、コアを拡大した状態で外表面にパルプ層を形成する。次いで、コアを縮小してパルプ層を所定の大きさまで縮小させた状態で雌型の凹部内に装填し、コアを拡張させて雌型の凹部内面に押圧、脱水する。コアの拡張は、コア内に収容したエアシリンダを作動し、さらにコアの周囲を被覆する弾性変形可能な材料よりなる中子に、加圧流体を供給して膨張させることにより行うことができる。
【0010】
特許文献4の方法は、部位によって密度の異なるパルプモールド成形体を製造する方法で、抄紙型を用いてパルプを堆積させた中間成形体を形成し、次いで、中間成形体を、一対の型体にて構成される乾燥型内に装填して乾燥させる際に、中間成形体の中空部内に、エア流入により膨張可能な中空チューブよりなる膨張体を配置する。これを型締めして、膨張体を膨張させると乾燥型との間で低密度に圧縮されたパルプモールド成形体が得られる。また、乾燥体を構成する型体の一方に貫通穴を設けてプレスコアブロックを嵌挿し、他方の型体との間でパルプモールド成形体の一部を高密度に圧縮する。低密度に圧縮された部分は、例えば、吸音性を有する中空の外殻部として、高密度に圧縮された部分は、例えば、剛性を有する取付部として利用される。
【0011】
また、従来のパルプモールド成形体を用いた角形形状の製品例が、例えば、特許文献5ないし7に開示されている。特許文献5は、パルプモールド成形した角形容器状の本体と筒状の蓋を互いの外周フランジ部で嵌合させた紙製容器であり、フランジ部をプレス加工して平滑にしている。特許文献6は、紙を主材料とする角形容器状の簡易容器で、ほぼ平面状をなす部分を板紙にて構成するとともに、コーナやフランジ部分をパルプモールド成形により形成している。特許文献7は、小物入れ等に使用される収納容器であり、下方開口する箱状の上蓋と上方開口する下蓋を連結し、上壁と下壁に互いに係合可能な凹凸を形成して上下に積み重ね可能としている。
【特許文献5】特開2006−62737号公報
【特許文献6】特開2001−315749号公報
【特許文献7】特開2000−142700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、従来のパルプモールド成形体の製造方法を応用して、特に上面が開口する角形形状の容器を成形すると、エッジ部やフランジ部に十分な強度が得られず、耐久性が低下する問題が発生した。これは、例えば、特許文献2に開示された製造方法では、含水繊維集合体を押圧する凸型をゴム材料等の弾性体で構成しているために、雌型の凹部を成形体形状に応じた角形形状とした場合、凹部隅々まで押圧力を付与することができないからで、全体を均一に圧縮することができない。このため、肉厚が不均一となって、強度が部分的に低下しやすく、容器体としての機能が制約される上、内外表面の平滑性、転写性が悪化し、良好な外観が得られない。
【0013】
特許文献3の方法も、拡縮可能なコアの周囲を弾性材料よりなる中子が覆い、膨張して成形体を押圧する点で同様であり、特許文献1と同様の問題が生じる。また、コア内にエアシリンダやエア供給機構、さらに中子への加圧流体供給機構等を設置する必要があり、構成が複雑でコストが上昇しやすい。特許文献4の方法は、型内にプレスコアブロックを嵌挿して押圧することにより、部分的に高密度な中実部を形成することができるが、筒状の外殻部の形成には、特許文献2、3と同様の膨張体を使用しており、低密度の圧縮体しか得られない。
【0014】
このように、従来の製造方法では、成形型の雄型凸部が弾性変形して含水繊維集合体を圧縮するため、含水繊維集合体の内面全体に押圧力を均一に付与できず、均一な肉厚の成形体が得られない。特に角部を有する形状において、設計形状に沿うエッジ形状が得られず、強度も低下するため、用途が大きな制約を受ける。また、得られる成形体の内外表面は、雄型凸部の外表面と雌型凹部の内表面形状が転写された形状となるが、押圧力が小さい部位では、鮮明な形状が得られず、あるいは平滑面とならずに外観が損なわれる欠点があった。
【0015】
これに対して、特許文献5の容器は、パルプモールド成形体を二重構造とした上、互いの外周フランジ部をプレス加工して平滑にすることで、所望の寸法としているが、プレス工程が別途必要で、製作に手間がかかる。また、他の部分は平滑面とならず強度も不十分である。特許文献6は、パルプモールド成形品は十分な強度が得られず、板紙のプレス加工ではコーナ部で外観が悪化するために、コーナ部と平面部にそれぞれ違う材料を用いているが、パルプモールド成形によるコーナ部の強度が不十分であり、製作工程も複雑となる。特許文献7は、上下に積み重ねるために蓋付きとする必要があり、ヒンジで連結する用途が小物入れ等に制限される。
【0016】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、上面が開口する角形容器形状のパルプモールド成形体からなり、しかも、全体が均一に圧縮されて角部近傍の強度が高く、外形や内外表面形状等の設計形状が忠実に再現されることにより、知育・教育分野において、安全に使用可能な小児向けの多目的な容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願請求項1の発明は、小児向けの用途において多目的に用いられる容器であって、上面が開口する角形容器形状の本体部と、該本体部の上端開口縁部から外方へ張り出すフランジ形状の把持部を備えており、かつ上記本体部と上記把持部とが、いずれも剛性体にて構成される一対の雄型と雌型の間に、含水状態のパルプ系繊維集合体を挟んで加圧圧縮することにより一体的に成形された硬質パルプモールド成形体からなる小児向け多目的容器であることを特徴としている。
【0018】
剛性体からなる雄型と雌型にて含水状態のパルプ系繊維集合体を加圧圧縮して得られる硬質パルプモールド成形体は、天然系繊維を主体とする軽量かつ安全な成形体で、プラスチックのように破損によるおそれがないので、小児向けに多目的で使用可能な容器となる。また、従来のパルプモールド成形体より高強度で、任意形状の外観の良好な容器とすることができる上、クレヨンや絵の具を塗ることができ、廃棄や焼却による環境への影響が小さいといった、優れた利点を有する。
【0019】
本願請求項2の発明において、上記本体部は、上記上端開口縁部に一体的に形成されるフランジ形状の支持面を有しており、底面外周縁部が上記支持面上に支持されることにより、複数の上記本体部を上下に積み重ねてスタッキングが可能な形状に成形されている。
【0020】
硬質パルプモールド成形体は、内外表面を任意形状に成形できるので、本体部にスタッキングのための支持面を一体成形することができ、高強度であるため、スタッキング状態で使用しても変形等を生じにくい。
【0021】
本願請求項3の発明では、上記本体部は、側壁面の複数箇所に内方または外方に突出する凸部を有し、かつ上記本体部が180°回転した時にこれら複数の凸部の突出方向が反転する凹凸断面形状であり、使用時には複数の上記本体部の一方を180°回転させた状態で上下に積み重ね、上記側壁面の内方に突出する凸部上面を上記支持面としてスタッキングする一方、非使用時には複数の上記本体部を同じ向きに重ねて収納するネスティングが可能な形状に成形されている。
【0022】
硬質パルプモールド成形体は、内外表面を任意形状に成形できるので、本体部をスタッキングに加えてネスティング可能な形状とすることができ、高強度であるため、スタッキング・ネスティングによる変形等を生じにくく、省スペースで幅広い用途に使用可能となる。
【0023】
本願請求項4の発明において、上記雄型は、上記硬質パルプモールド成形体の内表面形状に対応する外表面形状の剛性体からなる拡縮可能な凸部を有し、上記雌型は、上記硬質パルプモールド成形体の外表面形状に対応する内表面形状の剛性体からなる凹部を有しており、該凹部に上記含水状態のパルプ系繊維集合体を配置し、縮小状態の上記凸部を内挿して拡大させることにより加圧圧縮する。
【0024】
雄型が拡縮可能に形成されているので、パルプ系繊維集合体の表面を損なうことなく、容易に全体を均一圧縮して、エッジ部やフランジ部といった角部を有する外形や、内外表面形状等の設計形状を忠実に再現し、高密度で高強度なパルプモールド成形体を得ることができる。
【0025】
本願請求項5の発明は、上記含水状態のパルプ系繊維集合体は、木材パルプまたは非木材パルプを含む原料繊維を、抄紙型を用いて抄紙することにより、硬質パルプモールド成形体に対応する概略形状としたものである。
【0026】
具体的には、予め抄紙型を用いた抄紙工程により所定の含水状態とされた繊維集合体を、脱水・乾燥することで、容易に硬質パルプモールド成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用した小児向け多目的容器Cの具体的形状を示す第1実施形態である。図1(a)は、多目的容器Cの把持部C1を上側として配置した平面図であり、上面が開口する直方体容器形状の硬質パルプモールド成形体にて構成されている。図1(b)、(c)は多目的容器Cの長手方向であるIb−Ib 線断面図、短手方向であるIc−Ic線断面図を示し、図1(d)は、多目的容器Cの底面C3を上側として配置した平面図である。
【0028】
本実施形態において、小児向け多目的容器Cは、略直方形の断面形状を有する本体部C1と、本体部C1の開口部C11周りに形成されたフランジ形状の把持部C2を備えている。把持部C2は、本体部C1の上端縁部から外方へ張り出すように形成され、小児が持ち運びやすいように、全周囲に渡って所定幅で形成されている。また、把持部C2となるフランジの外周縁部よりやや内側に、上面側が凹陥し下面側に突出する溝形状の環状リブC21を設けており、持ち運びの際に手で把持し易くしている。
【0029】
本体部C1は、外形が深さ方向に概略一定の長方形で、四辺を接続する角部はやや丸みを有している。本体部C1の角筒状の側壁は、裾広がりとなるよう僅かにテーパを有するとともに、底面C3近傍に段付部C4を形成して底面C2の外形を開口部C11より小さくしている。これにより、複数の多目的容器Cを上下に積み重ねて、上方の本体部C1底部を下方の本体部C1開口部C11に嵌合させ、段付部C4下面側の環状面を把持部C2上面に載置させることで保持して、スタッキング状態で使用または保管することが可能となる。この時、段付部C4が載置される把持部C2の上面が、段付部C4を支持する支持面C22となる。また、本体部C1の底面C3には、外表面全体に滑り止めとなる格子状の凸部C31が形成される。一方、本体部C1の底面C3内表面と、側壁内外表面は、外観良好で内部に物が収容しやすい平滑な面に形成されている。
【0030】
本実施形態では、把持部C2となる一定幅のフランジ部を開口部C11の全周囲に形成しており、また、把持部C2には環状リブC21が設けられているので、開口部11周りの強度が向上し、持ち運ぶ際の変形等を抑制することができる。ただし、用途や大きさによっては、必ずしも全周囲に把持部C2を設ける必要はなく、例えばフランジ部を一定幅とせず、対向する二辺に幅広のフランジ部を設けて把持部C2とすることもできる。また、把持部C2に設ける溝形状のリブC21の本数や形成位置も適宜設定することができる。
【0031】
本発明では、多目的容器Cを構成する本体部C1と把持部C2とが、一体的に成形された硬質パルプモールド成形体からなる。硬質パルプモールド成形体は、いずれも剛性体にて構成される一対の雄型と雌型の間に、含水状態のパルプ系繊維集合体を挟んで加圧することにより、全体が高密度に圧縮された成形体であり、通常のパルプモールド成形体より硬質で高強度となる。また、表面が平滑面となり、あるいは表面形状を精密に転写することができ、エッジ部や段部といった角部が良好に形成される。具体的には、雄型は、硬質パルプモールド成形体の内表面形状に対応する外表面形状の剛性体からなる拡縮可能な凸部を有し、雌型は、硬質パルプモールド成形体の外表面形状に対応する内表面形状の剛性体からなる凹部を有して、該凹部に含水状態のパルプ系繊維集合体を配置し、縮小状態の凸部を内挿して拡大させることにより加圧圧縮する。
【0032】
次に、硬質パルプモールド成形体を製造するため具体的な方法について説明する。
図2は、本実施形態において使用される一対の成形型のうち、雄型である乾燥コア1の構造を示す図であり、図3〜図5は、雄型の凸部を形成する型本体である乾燥コア本体2の詳細構造を示す図である。図6は、この乾燥コア1と雌型5からなる成形型を使用して硬質パルプモールド成形体4を製造する方法を示す概略図である。剛性体からなる一対の成形型は、特に、上面に開口部を有する角形容器状、箱形形状の成形体をパルプモールド成形するのに適しており、一例として、本実施形態の多目的容器C形状に対応する、上端開口縁にフランジ部43を有する直方体容器状の硬質パルプモールド成形体4の製造方法を示す。
【0033】
本発明において、硬質パルプモールド成形体の製造方法は、抄紙型を用いて所定の概略形状とした含水状態のパルプ系繊維集合体(以下、適宜含水繊維集合体と略称する)40を得る抄紙工程と、図2の成形型を用いて脱水・乾燥させ、所定の最終形状とする脱水・乾燥工程を備える。硬質パルプモールド成形体4は、パルプ繊維を主として含有する天然系原料繊維からなり、木材系パルプ繊維の他、非木材系パルプ繊維を使用することもできる。また、これらパルプ繊維に、その他繊維を適宜配合した原料繊維を用いることもできる。これら繊維の繊維長や繊維径、配合割合等は任意に選択可能であり、原料繊維に、公知の各種添加剤、例えば撥水剤、難燃剤等を添加して、硬質パルプモールド成形体4の用途に応じた特性を付与することもできる。
【0034】
抄紙工程では、これら原料繊維および必要に応じて添加剤を含むパルプスラリーを調製し、通常公知の抄紙型を浸漬させて、パルプ層を堆積させた含水繊維集合体を得る。抄紙型は、例えば網状体からなり、硬質パルプモールド成形体4の概略形状に応じた角形容器形状を有して、その表面に所定厚のパルプ層を堆積させることができる。網状体の網目はパルプスラリー中の水分を通過させて原料繊維を堆積可能に調整されており、通常は真空ポンプ等を用いて水分を吸引することにより、予備脱水を行って、製造しようとする硬質パルプモールド成形体4に対応する概略形状の含水繊維集合体40を形成する。
【0035】
脱水・乾燥工程では、抄紙型から取り外した含水繊維集合体40を、硬質パルプモールド成形体4の外表面形状に対応する内表面形状の凹部51を有する雌型5と、硬質パルプモールド成形体4の内表面形状に対応する外表面形状を有する乾燥コア1との間に配置し、厚み方向に圧縮しながら、含水繊維集合体に含まれる水分を排出させる。この手順を、図6の(i)〜(v)に示す各工程に沿って順次説明する。
【0036】
図6の(i)の工程において、剛性体からなる雌型5に設けた凹部51内には、抄紙工程で得られた含水繊維集合体40が配置される。含水繊維集合体40は、本実施形態では上面が開口する直方体容器状であり、その上端縁から外方へ張り出すフランジ部を有する概略形状となるように成形されている。この状態では、含水繊維集合体40の外表面は、雌型5の凹部51内表面52には密着しておらず、両者の間に空隙が形成されていてもよい。雌型5を構成する剛性体材料としては、例えば金属、プラスチック等が挙げられる。
【0037】
次いで、図6の(ii)〜(iii)の工程において、含水繊維集合体40内に乾燥コア1が挿置される。本発明で使用する乾燥コア1は、型本体となる拡縮可能な容器状の乾燥コア本体2と、乾燥コア本体2の内部に収容可能な中子3にて構成されている。乾燥コア本体2は、上部開口から中子3が内部へ圧入されるのに伴い外方へ拡大し、最大拡大時にその内面に中子3が密着すると同時に、その外表面23にて形成される凸部が、含水繊維集合体40に密着して圧縮力を付与する。本発明において、乾燥コア1の乾燥コア本体2および中子は、いずれも金属、プラスチック等の剛性体材料にて構成されている。
【0038】
図2〜4に、乾燥コア1の具体的構成例を示す。図2は、拡縮機構を有する乾燥コア本体2が縮小している状態を示す縦断面図で、上面が開口する空洞部21は、内表面22が内方へ傾斜する傾斜面となっており、上方ほど開口面積が広くなる形状となっている。中子3は空洞部21にほぼ沿う形状のブロック体で、外表面31が内表面22に対応する傾斜面となり、下方ほど外形が縮小する形状を有する。乾燥コア本体2が縮小している状態では、中子3の下端面32と空洞部21の上部開口が同等の大きさとなっている。
【0039】
図3(a)は、乾燥コア本体2が拡大した状態を示す縦断面図で、図3(b)に示す平面図のIIIa−IIIa線断面である。図3(a)において、乾燥コア本体2は、最大拡大時の外形が、製造しようとする所望の硬質パルプモールド成形体4の内形に対応した形状となるように構成されており、複数の分割片からなるフランジ付き側面拡縮部11と底板12、側面拡縮部11のフランジ部13上面に位置する摺動ガイド板14を備えている。乾燥コア本体2の底板12および側面拡縮部11を構成する分割片は、それぞれ金属、プラスチック等の剛性体材料よりなる。
【0040】
図3(b)に示すように、フランジ付き側面拡縮部11は、長方形の開口形状を有し、その四辺の中央部にそれぞれ位置する略台形断面形状の楔形ブロックよりなるフランジ付き中央拡縮部2Aと、その四つのコーナー部をそれぞれ含む略L字形状のブロックよりなるフランジ付きコーナー拡縮部2Bとに分割されている。中央拡縮部2Aは、空洞部21側に幅広の面が外側に幅狭の面が位置するように、隣り合う2つのコーナー拡縮部2B間に配置され、分割片となるこれら合計8個の側面ブロックを組み合わせて、全体が厚肉角筒状のフランジ付き側面拡縮部11を構成する。コーナー拡縮部2Bの両側端面は、隣接する中央拡縮部2Aの側端面に沿う形状のテーパ面で、隣り合う2つのコーナー拡縮部2B間に外側へ向けて幅狭となる空間部を形成し、該空間部内に中央拡縮部2Aが密着配置される。
【0041】
図4は乾燥コア本体2の分解斜視図である。図示するように、底板12は厚肉の平板で長方形の外形を有し、外周縁部121が外方へ向けて下り傾斜する傾斜面となっている。底板12上に載置されるフランジ付き側面拡縮部11は、外周縁部121と接触する底部接面111を、外周縁部121に対応する傾斜面として(図2、図3(a)参照)、外周縁部121上を底部接面111が、面接触を維持しながら内外方向にスライド可能なスロープが形成されている。
【0042】
なお、剛性体からなる側面拡縮部11の中央拡縮部2Aとコーナー拡縮部2B、底板12とが密接しながら摺動する構成であることから、拡大・縮小時の剛性体間の摩擦を軽減するため、および脱水・乾燥工程後にパルプモールド成形体を取り出す際の乾燥コア1との引き剥がしを容易にするために、剛性体からなる各部材表面には、予めフッ素樹脂コーティング等を施して、摺動性の良好な材料からなるコーティング層を形成しておくことが望ましい。剛性体からなる雌型5、乾燥コア本体2内を摺動する中子3等も、同様に摺動性の良好な材料からなるコーティング層を形成しておくとよい。
【0043】
フランジ付き側面拡縮部11のフランジ部13には、複数のボルト穴131が形成される。本実施形態では、中央拡縮部2Aのフランジ部13には、中央の1箇所にボルト穴131を形成し、コーナー拡縮部2Bのフランジ部13には、角部と両端部の3箇所に、それぞれボルト穴131を形成している。フランジ部13上面に載置される摺動ガイド板14には、ボルト穴131に対応する位置に摺動ガイド穴15が設けられ、摺動部連結ボルト16を、摺動ガイド穴15を介してボルト穴131に螺結することにより、フランジ付き側面拡縮部11と摺動ガイド板14とが連結される。同時に、フランジ付き側面拡縮部11を構成するフランジ付き中央拡縮部2Aとフランジ付きコーナー拡縮部2Bとが、互いに連結される。
【0044】
図3(b)に示すように、摺動ガイド板14は拡大時のフランジ部13と略同一形状のフレーム状平板であり、摺動ガイド穴15は、拡縮方向を長軸方向とする楕円形状である。摺動部連結ボルト16は、中央拡縮部2Aの中央の1箇所に対応して摺動部連結ボルト16aが、コーナー拡縮部2Bの角部と両端部の3箇所に対応して摺動部連結ボルト16b、16c、16dが、それぞれ設けられる。図示の拡大時において、これら摺動部連結ボルト16a、16b、16c、16dは、摺動ガイド穴15の最外方位置にある。
【0045】
上記構成の乾燥コア1を用いることにより、上記図6の(ii)〜(iii)工程における、含水繊維集合体40の脱水・乾燥を効果的に行うことができる。これは、図5(a)、(b)に示すように、乾燥コア本体2のフランジ付き側面拡縮部11が縮小、拡大自在な剛性体で構成されていることによる。図5(a)は図2のVa−Va線断面に相当し、摺動部連結ボルト16が摺動ガイド穴15の最内側に位置して、フランジ付き側面拡縮部11は、中央拡縮部2Aがコーナー拡縮部2Bより内側に突出している。この時、中央拡縮部2Aの側面113がコーナー拡縮部2Bの側面112に対して内方にスライドし、乾燥コア本体2は最小まで縮小している。
【0046】
図6の(ii)工程では、雌型5の凹部51に内挿されている容器状の含水繊維集合体40の内側に、乾燥コア本体2を縮小させた状態で挿通配置する。中子3を空洞部21に押し込む前の図示の状態では、中子3は底部が乾燥コア本体2のフランジ面近傍にあり、フランジ付き側面拡縮部11の中央拡縮部2Aが空洞部21内方へ突出している。それに伴い、コーナー拡縮部2Bも空洞部21側に摺動しているので、乾燥コア本体2は、長軸方向、短軸方向ともに所望の成形体形状より小さくなっている。
【0047】
したがって、縮小状態の乾燥コア1を含水繊維集合体40に挿入する際に、含水繊維集合体40の内表面に乾燥コア本体2が密着することはない。ここで、前段の抄紙工程で堆積させたパルプ層からなる含水繊維集合体40は、最終成形体形状よりも厚く、表面が平滑でないため、剛性体からなる雄型を用いた場合には、挿入時の接触や摩擦が懸念されるが、本実施形態では上述したように雄型となる乾燥コア1が拡縮可能に構成されているので、含水繊維集合体40との接触を回避して損傷を防止することができる。
【0048】
次に、図6の(iii)工程において、乾燥コア本体2の空洞部21に配した中子3を、乾燥コア本体2のフランジ面から底方向に押し込む。すると、側面拡縮部11の中央拡縮部2A内周面に対して中子3の外表面が摺動しながら、これを外方へ押し拡げ、さらに中央拡縮部2Aがコーナー拡縮部2Bを押し拡げる。摺動ガイド穴15に案内されて、側面拡縮部11が所定位置まで外方に拡がり、中子3が底部12に当接すると、図5(b)の最大拡大状態となる。
【0049】
図5(b)は図3(a)のVb−Vb線断面に相当し、側面拡縮部11の中央拡縮部2A内外表面が、コーナー拡縮部2Bの内外表面と同一平面となるまで外方へスライドすると、中央拡縮部2Aの側面113がコーナー拡縮部2Bの側面112と一致して、摺動部連結ボルト16は摺動ガイド穴15の最外側位置となる。また、側面拡縮部11の底部接面111が、底板12の外周縁部121上をスライドし同一平面を形成する。この時、側面拡縮部11と底板12が一体化した凸部を形成し、その外表面23が、形成しようとする硬質パルプモールド成形体4の内表面形状と一致する。
【0050】
この過程で、徐々に拡張する乾燥コア本体2が含水繊維集合体40を雌型5の凹部51内表面52に押圧し、両者の間に挟まれた含水繊維集合体40の全体を均一に圧縮して内部の水分を排出させる。乾燥コア本体2は、側面拡縮部11と底板12とが別体となっており、また側面拡縮部11は複数の拡縮部2A、2Bに分割されているので、それら部材間に形成される間隙を介して空洞部21側と含水繊維集合体40側とが通気可能である。また、雌型5にその壁面を貫通する複数のスリットや通気孔を形成しておくことで、雌型5の凹部51側と外部とを通気可能とすることができる。したがって、含水繊維集合体40から蒸発する水分は、乾燥コア本体2または雌型5を介して外部へ良好に排出され、脱水が促進される。
【0051】
(ii)、(iii)工程は、好適には、成形型を構成する雌型5と乾燥コア1の一方または両方に図示しないヒータ機構を設け、所定温度に加熱した状態で実施することが望ましい。ここでは、例えば雌型5をヒータ機構にて所定温度に昇温維持可能とし、所定時間保持することによって、含水繊維集合体40全体を均一に加熱し、乾燥を促進される。これにより、含水繊維集合体40の内表面には、乾燥コア本体2拡大時の外表面23形状が転写され、外表面には、雌型5の凹部51内表面52形状が転写されて、所望の硬質パルプモールド成形体4形状とすることができる。
【0052】
図6の(iv)工程は、上記(ii)〜(iii)工程とは逆の手順で、乾燥コア1を取り出す。まず押圧を緩めて中子3を乾燥コア本体2の空洞部21底面からフランジ方向へ移動させると、乾燥コア本体2の側面拡縮部11が再び縮小する。この縮小した状態の乾燥コア1は、雌型5の凹部51内表面52に押圧されている硬質パルプモールド成形体4より小さく、容易に取り外しができる。しかる後に、図6の(v)工程にて、所望の形状が付与された硬質パルプモールド成形体4を雌型5から取り外し、外部へ取り出す。
【0053】
このようにして得られた硬質パルプモールド成形体4は、全体が均一かつ高密度に圧縮された直方体容器形状の成形体となる。上記製造方法では、含水繊維集合体40を加圧圧縮する一対の型が剛性体からなり、雌型5の凹部51と乾燥コア1の凸部(乾燥コア本体2の最大拡大時の外表面)の間に含水繊維集合体40を挟持して、その内外から均等に押圧力を付与することができるので、底面42から側面41へ立ち上がるエッジ部や、上端外周縁に張り出すフランジ部43を、押圧ムラなく成形し、かつ内外表面に所望の形状を鮮明に転写することができる。
【0054】
したがって、硬質パルプモールド成形体4の内外表面が、図1に示した本実施形態の多目的容器Cに対応する形状となるように、雌型5の凹部51内表面および乾燥コア1の凸部外表面形状を、多目的容器Cの本体部C1と把持部C2の内外表面形状に応じた平滑面ないし凹凸形状としておくことで、本体部C1と把持部C2とを一体的に成形し、かつ表面形状に優れた硬質な成形体を得ることができる。すなわち、本体部C1の段付部C4、底面C3の格子状の凸部C31や、把持部C2のリブC21等が鮮明に転写され、また、本体部C1と把持部C2を接続するエッジ部やコーナー部を、圧縮ムラや肉厚ムラなく形成して、平滑性、外観・美観を向上させることができる。
【0055】
図7(a)は、本実施形態の小児向け多目的容器Cを複数用い、スタッキングした状態を示す図である。本実施形態の多目的容器Cは、高密度に圧縮されて強度が向上しており、寸法精度に優れるため、図7(b)に示すように、多目的容器Cの上端開口縁部において、本体部C1の内側壁と把持部C2の支持面C22との接続部C5がなす角度をほぼ直角となる。このため、上下に積み重ねた時に上方の多目的容器Cが下方の多目的容器Cに密着し、支持面22上に安定して支持され、スタッキングが確実となるので、把持部21の一部に荷重がかかって変形が生じたり、がたつきを生じたりすることがない。
【0056】
この時、図7(b)に示すように、本体部C1の外側壁から把持部C2の背面側C22への接続部C23を曲面状として、多目的容器Cの上端開口縁部が他の部位より厚肉となる構成とすると、把持部C2を把持した時の内容物荷重による多目的容器C全体の変形、あるいはスタッキングされた時の支持面C22を構成する把持部C2の変形を防止する効果が高くなり、より好ましい。
【0057】
図8は、本発明を適用した小児向け多目的容器Cの第2実施形態である。図8(a)は、多目的容器Cの把持部C1を上側とし、底面C3を下側として配置した平面図であり、上面が開口する直方体容器形状の硬質パルプモールド成形体にて構成されている。図8(b)は、複数の多目的容器Cをスタッキングした状態を示す概略図、図8(c)は把持部C2近傍の設計形状(代表例)を示す概略断面図である。
【0058】
本実施形態の小児向け多目的容器Cは、積み重ねて使用するスタッキングに加えて、使用しない時には重ねて収納するネスティングが可能な形状となっている。このため、図8(a)に示すように、本体部C1の内外側壁が平面ではなく、交互に内方または外方に突出または凹陥する凹凸形状としてあある。ここでは、対向する2つの短辺(図の左右の2辺)は左右対称な凹凸形状で、図の上方半部が内方に突出する凸状壁C12、下方半部が外方へ凹陥する凹状壁C13となっている。また、対向する2つの長辺(図の上下の2辺)は凹凸を上下で反転させた形状で、上辺は中央の凸状壁C12の左右に凹状壁C13が位置し、下辺は中央の凹状壁C13の左右に凸状壁C12が位置している。なお、ここでいう凸状壁C12、凹状壁C13は、本体部C1開口部C11内から見た内側壁の凹凸形状であって、これに追従した形状の外側壁側から見た凹凸形状は逆となる。
【0059】
本体部C1の開口部C11は、側壁の凹凸形状に応じた凹凸を有する開口形状を有し、この開口縁部から外方へ突出して把持部C2となるフランジ部は、外形が一定で幅が側面の凹凸に応じて拡縮する形状となっている。図8(c)に示すように、ここでは把持部C2のうち、凸状壁C12に続く幅広の部位をA部、凹状壁C13に続く幅狭の部位をB部とする。この時、同一形状の多目的容器Cを同じ向きに重ねたネスティング状態から、水平方向に180°回転させると、幅広のA部上にB部に対応する凹状壁C13が支持されて図8(b)のスタッキング状態とすることができる。
【0060】
なお、図8(c)において、幅広のA部、幅狭のB部は、部位により表面形状が若干異なるが、スタッキング時に同等の機能を有する部位としてまとめて示す。ここでは、A部の代表例として、長辺中央部から内方に突出する部位を、一方、B部の代表例には、短辺から外方に突出する部位を選択した。把持部C2のA部は、内方に突出する幅広の部位で、スタッキング時に上側に位置する多目的容器Cの底部を当接保持する機能を有し、B部はその他の幅狭の部位である。
【0061】
本実施形態では、把持部C2に第1実施形態のような環状リブC21を設けておらず、図8(c)に示すように、把持部C2の外周縁部を略L字状の屈曲形状として持ち手としている。スタッキングした状態で上方の多目的容器Cを支持する支持面C22の幅や、略L字状の屈曲部の幅や高さ等は、適宜設定することができる。また、本体部C1の側壁を上方へ向けて広がるように僅かなテーパを付けると、保管時や搬送時のネスティングが容易になる。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
実施形態1の構成の小児向け多目的容器Cを、上記図2〜図4に示した成形型を用いて、実際に製作した。多目的容器Cの設計寸法は、開口部C11の長さ290mm、幅165mm、深さ90mmとし、把持部C2の幅25mm、肉厚1mmとした。成形型の雌型5の凹部51は、多目的容器Cの外形に応じた大きさとし、その内表面は、把持部C2のリブC21、底面C3の段付部C4、格子状の凸部C31に対応する形状に加工されている。また、乾燥コア1の乾燥コア本体2は、拡大時の外形を開口部C11に応じた大きさとし、拡大時の乾燥コア本体2の外表面を、把持部C2のリブC21、底面C3の段付部C4に対応する形状に加工してある。
【0063】
この雌型5の凹部51内に、公知の抄紙型を用いて予め多目的容器Cと同等の概略形状とした含水率70%の含水繊維集合体40を内挿し、さらに含水繊維集合体40内に縮小状態とした乾燥コア本体2を挿通位置させた。その後、乾燥コア本体2の空洞部21に中子3を挿入し、約30kNの加圧によって底方向へ摺動させながら底板12に当接するまで押し込んで、側面拡縮部11を最大拡大状態まで拡張させた。この時、雌型5は、約180℃に加熱してあり、この状態で約5分間保持することにより、含水繊維集合体40の脱水・乾燥を行った。
【0064】
その後、乾燥コア本体2内の中子3を上方に摺動させて、側面拡縮部11を縮小状態に戻し、乾燥コア1を取り外した。続いて雌型5の凹部51内表面52から硬質パルプモールド成形体4を剥がして外部に取り出して、実施形態1の小児向け多目的容器Cとした。得られた多目的容器Cは、開口部C11の長さ約290mm、幅約165mm、深さ約90mm、把持部C2の幅約25mm、肉厚約1mm、密度0.7g/ccであり、ほぼ設計寸法通りの形状であった。また、内外表面は平滑で、全体が均一に圧縮されており、角部に圧縮ムラや変形等は見られず、底面C3の凸部C31、把持部C2のリブC21の形状も鮮明に転写されて、良好な外観が得られた。
【0065】
(実施例2、比較例1)
実施形態2の構成の小児向け多目的容器Cを、上記図2〜図4に示した成形型を用いて、実際に製作した。多目的容器Cの設計寸法は、開口部C11の長さ290mm、幅165mm、深さ90mmとし、把持部C2は凸状壁C12で幅30mm、凹状壁C13で約20mm、肉厚約1mmとした。成形型の雌型5の凹部51内表面52形状、乾燥コア1の乾燥コア本体2外表面23形状(拡大時)を、実施形態2の多目的容器Cの寸法、内外形状に応じて加工した以外は、実施例1と同様の方法で、含水繊維集合体40の脱水・乾燥を行った。
【0066】
その後、成形型から硬質パルプモールド成形体4を外部に取り出し、実施例2の小児向け多目的容器Cとした。得られた多目的容器Cは、図8のフランジ部C1形状、および内外表面の形状が鮮明に転写されて、ほぼ設計寸法通りの形状であった。
【0067】
次に、比較のため、従来のパルプモールド成形方法を用いて、図8の小児向け多目的容器Cの形状を有するパルプモールド成形体を製作した。成形型は、雌型には凹部が本発明の雌型5の凹部51と同じ構成・形状のものを使用し、雄型には凸部がゴム弾性体からなるものを使用した。雄型の凸部は、外表面がフランジ付き紙製コンテナCの内表面形状に対応する形状となるように、設計寸法よりやや小さく形成されている。
【0068】
実施例1と同様にして、雌型の凹部内に含水繊維集合体を内挿した後、雄型の凸部をその内部に挿通し、加圧することにより雄型の凸部を外方へ拡張させ、含水繊維集合体に密着させた。その後、実施例1と同様の条件で所定時間保持し、脱水・乾燥を行って比較例1の小児向け多目的容器Cを得た。得られた多目的容器Cは、全体が均質に圧縮されておらず、角部、フランジ部の形状に難があった。
【0069】
実施例2と比較例1の多目的容器Cについて、把持部C2のA部、B部近傍の切断断面を観察し、図8(c)の設計形状に対するずれを調べた。図9(a)に、実施例2の把持部C2のA部、B部近傍における切断断面を設計形状と比較した結果を、図9(b)に、比較例1の把持部C2のA部、B部近傍における切断断面を設計形状と比較した結果を、それぞれ示す。また、図10(a)、(b)と図10(c)、(d)に、実施例2と比較例1のフランジ部C1のA部、B部近傍における切断断面の状態および表面の状態をそれぞれ示した。
【0070】
図9(a)、(b)を比較して明らかなように、実施例2の小児向け多目的容器Cは、把持部C2外周縁部の傾斜面がやや肉厚となった以外は、ほぼ設計形状通りであるのに対し、比較例1の多目的容器Cは、肉厚ムラが大きい。特に、幅広のA部において、本体部C1の内側壁で上端開口縁部の肉厚が不足し、垂直かつ平坦な面となっていない。把持部C2の支持面C22となる上面は、上端開口縁部側が盛り上がっており、段差が形成されて外観を損ねている。このため本体部C1内側壁と把持部C2の支持面C22とが丸みを帯びて接続され、エッジ部が形成されない。幅広のB部は、本体部C1内側壁はほほ垂直面となっているものの、把持部C2は支持面C22上面が凹状となって肉厚ムラが大きく、水平かつ平坦な面となっていない。
【0071】
比較例1において、肉厚が不均一になるのは、その部位の加圧圧縮が不十分であることを示している。その結果、肉厚ムラが生じた部分の強度が低下し、持ち運びをする際の許容最大荷重、スタッキング時の許容最大荷重を引き下げることになる。この結果は、図10(a)、(b)と図10(c)、(d)の各断面・表面性状を比較しても明らかで、比較例1のフランジ付き紙製コンテナCは、肉厚が大きい部分の圧縮不足で密度が低く、表面が粗く毛羽立ちも見られる。これに対し、実施例2のフランジ付き紙製コンテナCは、全体が均一に圧縮されて硬質であり、表面の平滑性が高いため、美観を大きく向上させている。
【0072】
これらの差異により、スタッキングを実施した時に、実施例2の小児向け多目的容器Cは、図11に示す通り、上下の連結部にガタツキを生じることなく、安定したスタッキング状態とすることができた。また、ネスティング状態においても、把持部C2が平行に重なり、出し入れがスムーズで形状が一致していることがわかる。これに対し、比較例1では、上下の多目的容器Cの間に、不必要な隙間が形成されて不安定であり、コンテナ搬送時等に横揺れが大きくなる懸念がある。また、比較例1では、把持部C2の上面に凸状部が生じていることにより、スタッキング状態にある時、上下のフランジ付き紙製コンテナCの接触が、面接触ではなく点接触となり、縦方向においても不安定となった。また、フランジ上面全体に不規則な突起があるために、フランジ部C1を把持する動作に対して邪魔になり、外観を重視する製品用途への使用が制限される。
【0073】
さらに、実施例2で得られた小児向け多目的容器C(長さ約290mm、幅約165mm、深さ約90mm、把持部C2の幅約20〜30mm、肉厚約1mm、密度0.7g/cc)単体としての負荷テストを行った。収容する内容物の重量を徐々に増加させて本体部C1、把持部C2の形状変化を観察したところ、25kgまで多目的容器Cの変形もなく、手で良好に持ち運びができた。把持部C2の支持面C22への負荷テストでは、75kgの荷重に対して変形が生じず、内容物を含む重量が75kgになるまで複数の多目的容器Cをスタッキングすることができた。
【0074】
次いで、実施例2で得られた小児向け多目的容器Cと、一般の用具入れとして使用されるスチロール製、フランジ無しポリプロピレン製、フランジ付ポリプロピレン製の角形形状の容器について、安全性を比較するために落下試験を行った。落下試験は、1.5mの高さからコンクリートの床に容器の角が当たるように落として、それぞれの容器の損傷程度を観察した。その結果、スチロール製のものは、容器が空でもひび割れが生じた。他の容器には、損傷は見られなかった。
【0075】
そこで、容器内に1.5kgの重りを緩衝材でくるんだ状態で固定し、同様の落下試験を行ったところ、フランジ無しポリプロピレン製のものにひび割れが生じた。フランジ付ポリプロピレン製のものは、多くの破片が飛散した。これに対し、実施例2の小児向け多目的容器Cは、角に皺ができたものの、ちぎれることはなく、落下による内容物、容器そのものの破損、破材の飛散による危険はないことが確認された。また、実施例2の小児向け多目的容器Cは、同等容量の他のプラスチック製容器(約350g)に比べて、半分以下の重量(約150g)で、軽量であった。
【0076】
以上のように、本発明による小児向け多目的容器Cは、全体が均一に圧縮された高密度の硬質パルプモールド成形体からなり、天然系繊維を主体とするので軽量で安全性に優れ、プラスチック製品のような割れや破損が生じにくいので、破片等で負傷するおそれがない。また、把持部を有することにより幼児でも持ち運びが容易にでき、硬質で平滑な表面を有するので外観に優れ、クレヨンや絵の具を塗ることもできる。また、従来のパルプモールド成形体に比べて強度が向上し、設計形状通りの細部構造を有するので、内容物に応じた任意の形状とすることができ、使用時にはスタッキング、非使用時や搬送時はネスティングにより省スペース化ができる。さらに、紙として廃棄することができ、有害なガスを発生しないので、環境に優しい製品となる。
【0077】
よって、小児を対象とする多目的な用途、例えば、知育玩具および遊具入れ、学習用具および器具の整理箱、各種教材の保管箱、教材に附属して使用される容器等、収納用、保管用、整理用、栽培用といった知育教育分野の幅広い用途に使用されて、美観・外観、取り扱い性、耐久性等に優れた従来にない高品質な容器を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態における小児向け多目的容器の平面図であり、(b)、(c)はそれぞれ(a)のIb−Ib線断面図、Ic−Ic線断面図である。
【図2】本発明において使用する雄型としての乾燥コアが縮小した状態を示す縦断面図である。
【図3】(a)は乾燥コアが拡大した状態を示す縦断面図で、(b)のIII a−IIIa 線断面図、(b)は乾燥コアの正面図である。
【図4】乾燥コアの分解斜視図である。
【図5】(a)は乾燥コアが縮小した状態を示す横断面図で、図2のVa−Va線断面図、(b)は乾燥コアが縮小した状態を示す横断面図で、図3(a)のVb−Vb線断面図である。
【図6】本発明のパルプモールド成形体の製造方法を説明するための各工程を示す成形型およびパルプモールド成形体の模式的断面図である。
【図7】(a)は第1実施形態の小児向け多目的容器を複数スタッキングした状態を示す模式的断面図、(b)はVIIb部の部分拡大図である。
【図8】(a)は本発明の第2実施形態における小児向け多目的容器の平面図であり、(b)はスタッキング状態を示す概略図、(c)はフランジ部近傍の設計形状(代表例)を示す概略断面図である。
【図9】(a)は実施例2で製作した多目的容器の把持部のA部、B部近傍における切断断面を設計形状と比較した結果、(b)は、比較例1で製作した多目的容器の把持部のA部、B部近傍における切断断面を設計形状と比較した結果を示す概略断面図である。
【図10】(a)、(b)は実施例2で製作した多目的容器の把持部のA部、B部近傍における切断断面および表面の状態を示す部分拡大断面図、(c)、(d)は比較例1で製作した多目的容器の把持部のA部、B部近傍における切断断面および表面の状態を示す部分拡大断面図である。
【図11】実施例2で製作した多目的容器を複数スタッキングした状態、および複数をネスティングさせた状態を示す全体斜視図である。
【符号の説明】
【0079】
C 小児向け多目的容器
C1 本体部
C11 開口部
C12 凸状壁
C13 凹状壁
C2 把持部
C21 環状リブ
C22 支持面
C3 底面
C31 凸部
C4 段付き部
1 乾燥コア(雄型)
11 側面拡縮部
12 底板
13 フランジ部
14 摺動ガイド板
15 摺動ガイド穴
16 摺動部連結ボルト16
2 乾燥コア本体
21 空洞部
22 内表面
23 外表面
3 中子
4 パルプモールド成形体
40 含水成型体
41 側面
42 底面
43 フランジ部
5 雌型
51 凹部
52 内表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小児向けの用途において多目的に用いられる容器であって、上面が開口する角形容器形状の本体部と、該本体部の上端開口縁部から外方へ張り出すフランジ形状の把持部を備えており、かつ上記本体部と上記把持部とが、いずれも剛性体にて構成される一対の雄型と雌型の間に、含水状態のパルプ系繊維集合体を挟んで加圧圧縮することにより一体的に成形された硬質パルプモールド成形体からなることを特徴とする小児向け多目的容器。
【請求項2】
上記本体部は、上記上端開口縁部に一体的に形成されるフランジ形状の支持面を有しており、底面外周縁部が上記支持面上に支持されることにより、複数の上記本体部を上下に積み重ねてスタッキングが可能な形状に成形されている請求項1記載の小児向け多目的容器。
【請求項3】
上記本体部は、側壁面の複数箇所に内方または外方に突出する凸部を有し、かつ上記本体部が180°回転した時にこれら複数の凸部の突出方向が反転する凹凸断面形状であり、使用時には複数の上記本体部の一方を180°回転させた状態で上下に積み重ね、上記側壁面の内方に突出する凸部上面を上記支持面としてスタッキングする一方、非使用時には複数の上記本体部を同じ向きに重ねて収納するネスティングが可能な形状に成形されている請求項2記載の小児向け多目的容器。
【請求項4】
上記雄型は、上記硬質パルプモールド成形体の内表面形状に対応する外表面形状の剛性体からなる拡縮可能な凸部を有し、上記雌型は、上記硬質パルプモールド成形体の外表面形状に対応する内表面形状の剛性体からなる凹部を有しており、該凹部に上記含水状態のパルプ系繊維集合体を配置し、縮小状態の上記凸部を内挿して拡大させることにより加圧圧縮する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の小児向け多目的容器。
【請求項5】
上記含水状態のパルプ系繊維集合体は、木材パルプまたは非木材パルプを含む原料繊維を、抄紙型を用いて抄紙することにより、硬質パルプモールド成形体に対応する概略形状としたものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の小児向け多目的容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−83521(P2010−83521A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253975(P2008−253975)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】