説明

小分子拡散を促進する新しい種類の治療法

本出願は、拡散促進化合物を含有する新規な組成物及び様々な疾患の治療におけるそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許仮出願第61/001,095号明細書の優先権を主張し、その全内容を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本出願は、新規な組成物、並びに、小分子拡散の促進及びインビボでの酸素の場合、組織の酸素化におけるそれらの使用に関する。この種の化合物は、拡散促進(diffusion inhancing)化合物と呼ばれる。
【背景技術】
【0003】
用語「コスモトロープ(kosmotrope)」(秩序メーカー)及び「カオトロープ(chaotrope)」(無秩序メーカー)は、元来、タンパク質及び細胞膜をそれぞれ安定化又は不安定化する溶質を意味した。より最近では、これらの用語はまた、水の構造化(秩序化)をそれぞれ増加又は減少させる、明らかに相関関係のある特性を有する化合物を指すために使用されている。一部の化合物(例えば、尿素)は、水などの水素結合環境において、化合物の濃度に応じて、コスモトロープ及びカオトロープとして作用し得る。
【0004】
水素結合の範囲及び強度のいずれも、コスモトロープによって変化し得る。水溶液において水素結合の量を増加させるコスモトロープの効果は、特に重要である。コスモトロープは、水溶液の水素結合にこのような変化をもたらすことによって、下に示される局所平衡を左にシフトさせ、(カオトロープは、局所平衡を右にシフトさせる)。
より密度の低い水⇔より密度の高い水
つまり、水溶液系にコスモトロープを添加すると、その水溶液系の密度が低下する。したがって、コスモトロープは、より多くの水素結合の形成を介して水の構造又は秩序を増加させることによって、溶液の密度を減少させる。
【0005】
現在、コスモトロープは、酵素などのタンパク質を安定化させるために使用されている。また、コスモトロープは、脂質の相挙動に影響を与えるとも言われている。いくつかの周知のコスモトロープは、プロリン、グリシンベタイン及びトレハロースである。Moelbert,S.ら、Biophysical Chemistry、112、45〜57頁、2004年も参照。ウェブサイトhttp://www.lsbu.ac.ukは、コスモトロープ及びカオトロープのよい参考である。
【0006】
Gainerら、Chem.Eng.Commun.15:323〜329頁、1982年は、クロセチンが比体積の水の増加を引き起こすことを示した。
【0007】
Gainerら、Ind.Engr.Chem.Research、33:2341〜2344頁、1994年は、溶液中の拡散性は、比体積の変化に比例することを示した。
【0008】
カロテノイドは、イソプレノイド単位からなる炭化水素の1種である。分子の骨格は、炭素−炭素共役二重結合及び一重結合からなり、ペンダント基を有することもできる。クロセチンなどのカロテノイド及びトランスクロセチン酸ナトリウム(TSC)は、水中の酸素拡散性を増加することが知られている。
【0009】
米国特許第6,060,511号明細書は、トランスクロセチン酸ナトリウム(TSC)及びその使用に関する。米国特許第6,060,511号明細書は、酸素拡散性の向上及び出血性ショックの治療など、TSCの様々な使用を包含する。
【0010】
米国特許出願公開第10/647,132号明細書は、二極性トランスカロテノイド塩(BTC)を製造する合成法及びそれらの使用法に関する。
【0011】
米国特許出願公開第11/361,054号明細書は、改良されたBTC合成法及びBTCの新規な使用に関する。
【0012】
米国特許仮出願第60/907,718号明細書は、前治療として及び末梢血管疾患の治療におけるような、二極性トランスカロテノイドの使用に関する。
【0013】
トランスクロセチン酸ナトリウム(TSC)は、水に溶解すると、水素結合の量を増加させる。Stennettら、J.Phys.Chem.B、110:18078〜18080頁、2006年。
【0014】
Okonkwoら、Neurosci Lett.352(2):97〜100頁、2003年において、著者らは、ラットの脳の酸素レベルを測定した。予測通り、ラットに100%酸素を吸入させると、脳の酸素レベルが増加した。予想外の結果は、100%酸素を吸入するラットにTSCを投与すると、脳の酸素レベルがさらに増加したことであった。100%酸素とTSCの組み合わせは、いずれか一方単独よりも高い効果をもたらした。酸素が欠乏している動物において、TSCは治療として使用し得る。Giassi,L.J.ら、J.Trauma、51:932〜938頁、2001年及びGainerら、Pulm.Pharmacol.&Therapeutics、18:213〜216頁、(2005年)。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、コスモトロープなどの拡散促進化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。
【0016】
本発明はまた、哺乳動物において酸素の拡散を促進する方法、出血性ショックを治療する方法又は低酸素状態を治療する方法を含む様々な治療方法であって、二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物の治療有効量を前記哺乳動物に投与するステップを含む治療方法に関する。
【0017】
本発明はまた、放射線療法及び/又は化学療法の補助として、治療有効量の拡散促進化合物を前記哺乳動物に投与するステップを含む、癌の治療方法に関する。
【0018】
本発明はまた、ヴェーゲナー肉芽腫など器官が充分な酸素を得ない疾患を二極性トランスカロテノイドを含む拡散促進化合物を用いて治療すること及びクロセチン以外の二極性トランスカロテノイドを含む拡散促進化合物を用いて関節炎を治療することに関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、組織の酸素化を促進することが有益である様々な障害を治療することにおける新規な組成物及びそれらの使用に関する。本明細書で使用されているように「拡散促進化合物」は、水溶液系中の小分子の移動速度を高める化合物である。拡散促進化合物は、水分子間の水素結合の範囲及び強度に影響を与えることによって、水の構造を増加することによって、水溶液系の比体積を増加する。
【0020】
血漿中の酸素の移動は、赤血球からの酸素の取り込み及び放出における制限又は制御ステップであると考えられている(Holland、RAB、Shibata,H.、Scheid,P、Piiper,J:Respiration Physiology、59:71〜91頁、1988年;Huxley、VH、Kutchai,H:J.Physiology、316:75〜83頁、1981年;Yamaguchi,K、Nguyen−Phu,P、Scheid,P、Piiper,J:J.Applied Physiology、58:1215〜1224頁、1985年)。したがって、酸素が体内組織に到達する速度を高めるためには、血漿中の酸素の移動を促進することが重要である。
【0021】
酸素は、特により細い血管(毛細血管)において、酸素濃度勾配並びに拡散係数(又は拡散性)と呼ばれる係数に依存する分子の拡散を介して血漿中を移動できる。この拡散係数は、血漿中の酸素のような他の分子の移動に対する血漿の基本抵抗を反映する。血漿の抵抗を減少させることが可能であるならば、酸素は血漿中をより速く移動し、これは拡散性の増加として反映されるであろう。これを行うための1つの方法は、拡散促進化合物によって血漿密度を減少させることである。
【0022】
通常、所定量の血漿に化合物を添加すると、密度(質量/容量)は増加する。したがって、別の物質を添加するときに、血漿の密度を減少させるためには、添加する化合物は液体の体積並びに溶液の質量も増加させなければならない。これは密度(質量/容量)の減少をもたらすであろう。比体積は、密度に反比例する。血漿の比体積(容量/質量)を増加させることは、その水分子の「構造」が変化させることを意味する。
【0023】
水の密度を減少させ、比体積を増加させる化合物は、コスモトロープである。コスモトロープは、下に示す平衡を左にシフトすると言われているが、カオトロープと呼ばれる化合物は平衡を右にシフトする。
より密度の低い水⇔より密度の高い水
【0024】
したがって、コスモトロープは、拡散促進化合物である。どのようにコスモトロープが作用して水の密度を減少させるかは、水素結合の増加を介して水の構造を増加することに介していると示唆されている。血漿は大部分が水であり、水分子は水素結合によって互いに結合している。
【0025】
用語「コスモトロープ」(秩序メーカー)及び「カオトロープ」(無秩序メーカー)はまた、タンパク質及び細胞膜をそれぞれ安定化又は不安定化した溶質を意味する。細胞中のタンパク質を安定化させる化合物及びイオンを分類するために使用される別の用語は、オスモライトである。多くの化学化合物がオスモライトの一覧及びコスモトロープの一覧の両方に含まれる。オスモライトは組織細胞の内部に集中していることが多い。
【0026】
本明細書に使用されているように、「拡散促進コスモトロープ」は、水の構造化(秩序化)を増加させ、血漿のような水溶液中の酸素の密度を減少させ、拡散性を増加させる能力を有するコスモトロープを意味する。
【0027】
水素結合の範囲及び強度のいずれも、コスモトロープによって変化させることができる。一部の化合物(例えば、尿素)は、水などの水素結合環境において、化合物の濃度に応じて、コスモトロープ及びカオトロープの両方として作用し得るものもある。より周知のコスモトロープのいくつかは、プロリン、グリシンベタイン及びトレハロースである。
【0028】
下記実施例に示されるように、コスモトロープは、水溶液中の溶質(グルコース及び酸素など)の拡散性を増加することが理解され得る。コスモトロープは、水分子間の水素結合を増加させ、よって、より密度の低い液体構造をもたらすので、コスモトロープは溶質の拡散性を増加させる。
【0029】
二極性トランスカロテノイド化合物も拡散促進化合物に含まれる。カロテノイドは、コスモトロープの標準一覧に見当たらない。しかし、カロテノイド、トランスクロセチン酸ナトリウム(TSC)は水の構造を促進し(Laidig,K.E.、Gainer,J.L.、Daggett,Valerie:Journal of the American Chemical Society、120:9394〜9395頁、1998年)、並びに水の水素結合を増加させ得る(Stennett,A.K.、Dempsey,G.L.、Gainer,J.L.:J.of Physical Chem.B、110:18078〜18080頁、2006年)ことが見い出された。トランスクロセチン酸ナトリウムはまた、酸素及びグルコースの両方の拡散性を増加させることが分かっている(Stennett,A.K.、Dempsey,G.L.、Gainer,J.L.:J.of Physical Chem.B、110:18078〜18080頁、2006年)。
【0030】
したがって、拡散促進化合物は、水の構造を増加させ、密度を減少させることによって、血漿などの水溶液中の拡散性を増加させることができる。これらの特性はこれらの化合物を治療法として機能させて組織の酸素化を高めることを可能にする。
【0031】
他の拡散促進化合物は、同じメカニズムによって、すなわち、水分子間の水素結合を増加することによって、密度を減少し、水の構造を変化させることによって、水溶液中の拡散を増加する。化合物が水の水素結合を増加するかどうかを測定する、認められた方法がある(Stennettら、J.Phys.Chem.B.、110、18078〜18080頁、2006年)。
【0032】
拡散促進化合物は、哺乳動物における組織の酸素化を高めるであろう。哺乳動物が酸素欠乏又は低酸素症である場合、拡散促進化合物の効果を観察するためには、濃縮酸素ガスは必要ではない。哺乳動物が低酸素を形成していない場合、濃縮酸素ガスに加えて拡散促進化合物を使用すると、濃縮酸素ガス単独で得られるよりも多くの酸素を組織に送達する。
【0033】
本発明の化合物及び組成物
以下の拡散促進化合物が、本発明の化合物に含まれる:
【0034】
トランスクロセチン酸ナトリウム(TSC)などの二極性トランスカロテノイド。米国特許出願公開第10/647,132号明細書及び米国特許出願公開第11/361,054号明細書に開示される化合物も参照し、それらの明細書全体を参照により本明細書に援用する。
【0035】
コスモトロープは、拡散の促進に有効である。本明細書に使用されているように、用語「コスモトロープ」は、水分子間の水素結合を増加することによって水の構造を増加させる化学化合物を意味する。本発明のコスモトロープの別の特徴は、治療的に有効な濃度で非毒性である。本発明のコスモトロープは、以下のものを含む:
トリメチルアミンN−オキシド
プロリン
エクトイン
トレハロース、マルトース及び他の水素結合を増加できる二糖類
グリシンベタイン
3−ジメチルスルホニオプロピオネート
特定濃度の尿素[尿素は他の濃度で反対のもの(カオトロープ)になり得る]
マルトース
グリセロール
高電荷密度の小イオン又は多価イオン(例えば、SO2−、HPO2−、Mg2+、Ca2+、Li、Na、OH、F、Cl
t−ブタノール
フルクトース
特定濃度のDMSO(ジメチルスルホキシド)(他の濃度でカオトロープである点においてDMSOは尿素のようである)
及びコスモトロープとしても機能する他の関連化合物。
【0036】
水溶液系において酸素の拡散を促進する他の化合物もまた有用である。上記化合物に加えて、当業者は、水分子間の水素結合の範囲及び強度に影響を与えることによって水の構造を増加することによって、比体積の水溶液系を増加する拡散促進化合物を同定するために、本明細書に記載され、当業者に知られているアッセイを使用することができる。
【0037】
本発明の化合物は、医薬品グレードであるように全て製造される。本発明の化合物は単独で投与できるが、医薬組成物の一部として投与することもできる。このような製剤は、当業者に知られている薬学的に許容される担体並びに他の治療薬(下記参照)を含むことができる。好都合なことに、製剤は、拡散性を向上させる本発明の化合物の能力を阻害する化合物を含まない。
【0038】
化合物は、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、グリコールなどの溶解性を増加することが知られている作用剤を用いて製剤化し得る。他の作用剤を加えて、拡散促進化合物を中和することができる。他の作用剤を加えて、オスモル濃度に影響を与えることができ、経口製剤に必要とされる作用剤を配合し得る。
【0039】
製剤は、便利には単位剤形、例えば錠剤及び徐放カプセルとすることができ、薬品業界で知られている方法によって調製し、投与し得る。製剤は、拡散促進化合物の即時放出又は徐放又は制御放出のためであり得る。例えば、国際公開第99/15150号パンフレットの制御放出製剤を参照し、その全体を本明細書に援用する。
【0040】
経口投与に適している本発明の製剤は、丸薬、カプセル、カシェ剤若しくは錠剤などの個別の単位として、粉末若しくは顆粒として又は溶液、懸濁液若しくはエマルションとすることができる。経口投与に適している製剤は、適切な基剤又は液体担体中で投与される薬用ドロップ、トローチ剤及び吸入ミストをさらに含む。皮膚に局所投与するための製剤は、活性薬剤及び薬学的に許容される担体を含む、軟膏、クリーム、ゲル及びペーストとして又は経皮貼布とすることができる。
【0041】
担体が固体である、経鼻投与に適している製剤は、鼻孔を介する急速吸入によって投与され得る特定サイズの粉末を含む。担体が液体である適切な製剤は、例えば鼻腔用スプレー又は点鼻薬として投与され得る。
【0042】
非経口投与に適している製剤は、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、活性薬剤の溶解性を向上させる化合物、製剤を対象とするレシピエントの血液と等張にする溶質及び、懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の無菌懸濁液を含有し得る、水性及び非水性の無菌注入液を含む。
【0043】
製剤は、単位用量又は複数回用量の容器、例えば密封アンプル及び密封バイアルとすることができ、凍結乾燥又は結晶化することができるが、ただし使用の直前に注入のために水などの無菌の液体担体の添加のみを要する。注入液及び懸濁液は、無菌の粉末、顆粒及び錠剤から調製され得る。
【0044】
本発明の化合物及び組成物の治療的使用及び投与方式
本発明の化合物及び組成物は、酸素の使用量が低下している状態の哺乳動物を治療することにおいて治療的使用を有する。
【0045】
使用は、共通に所有される米国特許第6,060,511号明細書、米国特許出願公開第10/647,132号明細書、米国特許出願公開第11/361,054号明細書及び米国特許仮出願第60/907,718号明細書に開示されているものを含み、各明細書はその全体を参照により本明細書に援用する。化合物は、以下の治療に有用である:
出血性ショック、呼吸器系疾患、喘息、肺気腫、ALI、ARDS、COPD
心疾患、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、高血圧、虚血、卒中、外傷性脳損傷、
アルツハイマー病、
関節炎、
貧血、(未熟児貧血、ファンコニ貧血、溶血性貧血、小赤血球性貧血、正色素性貧血、大赤血球性貧血、遺伝性球状赤血球症、鎌状赤血球貧血、温式自己免疫性溶血性貧血、寒冷凝集素溶血性貧血)、
慢性腎不全、高血圧、脳浮腫、乳頭腫、脊髄損傷
癌[i)外照射、γナイフ、小線源療法、トモセラピー及び陽子ビームを含み、分割、三次元原体照射、腔内放射線及び強度変調放射線治療(IMRT)を含む放射線療法、及び/又はii)テモゾリミドを含む化学療法の有利な補助として]、
糖尿病、糖尿病性網膜症、
末梢血管疾患/跛行、塞栓症、血栓、脊髄の狭窄/神経性跛行、
ヴェーゲナー肉芽腫など、器官が酸素を十分に得ない疾病
呼吸/労作が増加している/ストレスにさらされているときの生産力。
【0046】
本発明の化合物及び組成物はまた、前治療として又は上記疾病/状態の危険にある哺乳動物を治療するために有用である。
【0047】
以下の実施例によって証明されるように、拡散促進化合物は、組織の酸素化を増加し、よって酸素欠乏の疾病を治療するために使用できる。選択される拡散促進化合物の濃度/用量は、血漿の水分子間の水素結合を増加させて、拡散性を増加させる濃度である。この濃度は、当業者によって決定され得る。
【0048】
典型的には、拡散促進化合物は、経口、経鼻又は吸入、局所、非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、経皮及び骨内を含む)、膣内又は直腸内を含む、任意の適切な経路により投与される。好ましい投与経路は、状況に応じる。吸入経路は、拡散促進化合物が非常に急速に血流に入る必要のある緊急事態において、治療に有利である。したがって、製剤は、このような経路を介する投与に適しているものを含む(噴霧される液体又は粉末)。好ましい経路は、例えば患者の状態及び年齢で変わってもよいことが理解される。
【0049】
本発明の化合物及び組成物の適切な用量並びに投与方式は、所定の化合物の代謝及び治療される状態の重症度に応じる。「治療的に有効」である用量について、その用量は、所望の効果を有さなければならない、すなわち、拡散性を増加させなければならない。これらの拡散促進化合物のいずれかについて治療に必要な最小用量は、拡散性が増加する用量である。本発明の化合物の治療的に有効な用量は、治療される状態、状態の重症度、対処される各哺乳動物患体の段階及び個別の特徴並びに拡散促進効果のクリアランスに応じる。
【0050】
1つの実施形態において、2つ以上の拡散促進化合物が投与される。別の実施形態において、拡散促進化合物は、酸素と共に投与される。或いは、ヘモグロビン又はフッ化炭素と拡散促進化合物は一緒に提供され得る。さらなる実施形態において、拡散促進化合物は、エリスロポエチンなどの赤血球生成促進化合物と共に投与される。
【0051】
別の実施形態において、拡散促進化合物は、グルコース、CO2又はNOなど、酸素以外の他の生理的に重要な分子の拡散性を増加するために使用できる。
【0052】
非治療的使用
最後に、本発明の化合物は、体外の水溶液系、例えば微生物の発酵及び他の培養における拡散性を促進するために使用できる。
【0053】
以下の実施例は、本発明の化合物、組成物及び方法を説明するものであるが、限定するものではない。当業者にとって明らかである、他の適切な変更及び通常遭遇する様々な状態及びパラメータの改変は、本発明の精神と範囲以内である。
【実施例】
【0054】
実施例1 インビトロでのグルコース及び酸素の輸送の増加
水溶液中の拡散速度に対する3つのコスモトロープ(プロリン、ベタイン及びトレハロース)それぞれの効果を以下の方法で試験する。
【0055】
グルコースの拡散
上記コスモトロープの水溶液中のグルコースの拡散をマイクロ干渉法(Secor,R.M.、AIChE Journal、11:452〜456頁、1965年)を用いて測定した。
【0056】
この方法において、ウェッジを、アルミニウムなどの金属の部分コーティングをウェッジの内側に有する2つの顕微鏡スライドによって形成する。ウェッジを、顕微鏡ステージ上に配置し、ヘリウムネオンレーザーなどの相当な単色光源を用いて、下から光を当てる。光がウェッジを通過すると、アルミニウムの部分コーティングが相当な光を透過させ、一方、相当な光を反射する。これは干渉縞として知られている構成線及び破壊線を作り出す。次いで、干渉縞を顕微鏡によって拡大し、カメラで記録することができる。
【0057】
グルコースの分子は、グルコースの濃度勾配に沿って拡散する。溶液の屈折率はグルコースの濃度に関係しているので、所定の点での干渉縞は、時間と共に変化する。干渉縞パターンにおける時間挙動から、各時間増分の拡散係数又は拡散性を計算できる。これらの値はより長い時間で一定になり、その最終値を、その特定の水溶液におけるグルコースの拡散係数であるとみなす。
【0058】
水溶液が、約10μMの各コスモトロープを含有するように、3つのコスモトロープ(プロリン、ベタイン及びトレハロース)の水溶液を作った。例としてトレハロース溶液を用いて、次いで、これらの溶液のそれぞれを介してグルコースの拡散性を以下の方法で測定した。
【0059】
トレハロース溶液を2つの部分に分けた。トレハロース溶液の1つの部分のストリップをコーティングされたスライドの1つの上に配置した。一方のコーティングされたスライドの一端上にカバースリップを配置し、次いで、もう一方のコーティングされたスライドを上部に置くことによって、ウェッジを形成した。ウェッジを顕微鏡ステージに配置し、光源をつけた。カメラが生じた干渉縞パターンを記録した。
【0060】
その溶液のグルコース濃度が0.9モルになるように、グルコースをトレハロース溶液の2番目の部分に添加した。次いで、このトレハロース−グルコース溶液の滴を、シリンジを用いて、滴が、ウェッジにすでに存在するトレハロース溶液のストリップに触れるような方法で、ウェッジに導入した。2つの溶液が触れたとき、確実に混じらないようにするために注意し、混じった場合、溶液を廃棄して、工程をもう一度やり直した。
【0061】
2つの溶液が触れたときにストップウォッチを押した。干渉縞パターンの写真を次の数分にわたって何度も撮った。これらの写真を用いて、トレハロース溶液中のグルコースの拡散性を計算することが可能である。その計算方法は、Secor,R.M.、AIChE Journal、11:452〜456頁、1965年に提供されている。
【0062】
測定は25℃の温度で行い、純粋な蒸留水においてグルコースの拡散性を測定することによって装置を調整し、得られた値は(6.9±0.3)×10−6cm/秒であった。これは、CRC Handbookの値、6.7×10−6cm/秒に近接に対応する(CRC Handbook of Chemistry and Physics、D.R.Lide編、CRC Press、Boca Raton、FL、1998年、6〜181頁)。
【0063】
トレハロース及び他のコスモトロープを含有する溶液中のグルコースの拡散性の値は、純粋な水中のグルコースの値よりも大きかった。各コスモトロープによるグルコースの拡散性の増加率を以下のグラフに示す。

【0064】
前拡散測定も水中のTSCについて行い、TSCが、約30%のTSC濃度1μモル/リットルから約200μモル/リットルで水中のグルコースの拡散性を増加させることが見出された(Stennett,A.ら、J.Phys.Chem.B、110:18078〜18080頁、2006年)。
【0065】
酸素の拡散
さらに、TSC水溶液中の酸素の拡散性もグルコースの拡散研究と同じTSC濃度範囲にわたって測定した。酸素は気体なので、拡散性は、このような目的のために通常使用される装置で、異なる測定をしなければならなかった(Goldstick,T.K.博士の論文、University of California、Berkeley、CA、1966年、13〜28頁)。その実験において、電極を用いて経時的に液体層の反対の境界線で濃度を測定することによって、酸素の液体層の移動を決定し、拡散性を計算する。全ての測定を25℃で行い、TSCは、水中の酸素及びグルコース両方の拡散を同様のパーセンテージで増加することが見出された(Stennett,A.K.ら、J.Phys.Chem.B、110:18078〜18080頁、2006年)。
【0066】
これらのデータに基づいて、コスモトロープは水溶液中の溶質(グルコース及び酸素など)の拡散性を増加することが理解され得る。
【0067】
実施例2 インビボでの酸素輸送の増加
コスモトロープなどの拡散促進化合物は、インビボでの酸素輸送を増加させる。対象の実験において、正常無病ラットの皮膚を介した酸素の拡散を経皮的酸素モニタ(TCOM)を用いて測定した。対象の研究において、ラットは空気を吸い込み、次いで0に等しい時点で100%酸素を吸い込むように切り替えた。また、0時間に、ラットに生理食塩水(対照)、トレハロース、グリシンベタイン又はTSCを注入した(大腿静脈に静脈内で)。
【0068】
以下の3つのグラフは、トレハロース、TSC又はグリシンベタインが皮膚を通過する酸素輸送を増加させることを示す。これらの化合物の全ては、以下に示すようにTCOM測定値を平均増加(+標準誤差)上昇する。したがって、TSC、ベタイン及びトレハロースは、インビボでの酸素輸送を増加する。
【0069】

【0070】
開示された本発明から逸脱することなく、多くの変更及び追加が本化合物及び組成物の両方に、及び関連の方法になされ得ることが当業者には容易に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散促進化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項2】
単位用量の拡散促進化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項3】
拡散促進化合物が、トリメチルアミンN−オキシド、プロリン、エクトイン、トレハロース及び水素結合を増加する他の二糖類、グリシンベタイン、3−ジメチルスルホニオプロピオネート、尿素、マルトース、グリセロール、高電荷密度の小イオン又は多価イオン、t−ブタノール並びにDMSO(ジメチルスルホキシド)からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
拡散促進化合物が、トレハロース、グリシンベタイン及びプロリンからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
高電荷密度の小イオン又は多価イオンが、SO2−、HPO2−、Mg2+、Ca2+、Li、Na、OH、F及びClからなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
水溶液である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
薬学的に許容される担体が、シクロデキストリン、PEG及びグリコールからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
血漿中の酸素の拡散を増加するのに充分な量で、二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物を投与するステップを含む、哺乳動物における酸素の拡散を促進する方法。
【請求項9】
二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における出血性ショックを治療する方法。
【請求項10】
組織の酸素化を増加するのに十分な量で、二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における低酸素状態を治療する方法。
【請求項11】
二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における呼吸器系疾患、喘息、肺気腫、ALI、ARDS、COPDを治療する方法。
【請求項12】
二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における心血管疾患、心筋梗塞、高血圧、虚血又は卒中を治療する方法。
【請求項13】
二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における外傷性脳損傷又はアルツハイマー病を治療する方法。
【請求項14】
二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における貧血を治療する方法。
【請求項15】
二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における慢性腎不全を治療する方法。
【請求項16】
二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に放射線療法又は化学療法の前、間又は後に投与するステップを含む、哺乳動物における癌を治療する方法。
【請求項17】
二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における高血圧又は心筋梗塞を治療する方法。
【請求項18】
二極性トランスカロテノイド以外の拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における糖尿病、糖尿病性網膜症、末梢血管疾患/跛行又は脊髄の狭窄/神経性跛行を治療する方法。
【請求項19】
拡散促進化合物が、トリメチルアミンN−オキシド、プロリン、エクトイン、マルトース、トレハロース及び水素結合を増加する他の二糖類、グリシンベタイン、3−ジメチルスルホニオプロピオネート、尿素、グリセロール、高電荷密度の小イオン又は多価イオン、t−ブタノール並びにDMSO(ジメチルスルホキシド)からなる群から選択される、請求項8、9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
拡散促進化合物が、トレハロース、グリシンベタイン及びプロリンからなる群から選択される、請求項8、9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記投与が、経鼻、非経口、経皮、筋肉内の注入及び経口送達からなる群から選択される、請求項8、9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物におけるヴェーゲナー肉芽腫を治療する方法。
【請求項23】
放射線療法及び/又は化学療法の補助として、拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における癌を治療する方法。
【請求項24】
クロセチン以外の拡散促進化合物の治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における関節炎を治療する方法。
【請求項25】
拡散促進化合物が二極性トランスカロテノイドである、請求項22、23又は24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
拡散促進化合物がTSCである、請求項22、23又は24のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−502125(P2011−502125A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531078(P2010−531078)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【国際出願番号】PCT/US2008/012440
【国際公開番号】WO2009/058399
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(509281782)ディフュージョン・ファーマシューティカルズ・エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】