説明

小脳性振戦を制御するための電気信号による迷走神経刺激

【課題】電気パルス信号による脳神経の刺激に関し、詳しくはプログラム可能な電気パルス発生器と上記電気パルス発生器に接続された少なくとも1つの電極とを具備した、特に多発性硬化症が関連する小脳性振戦を軽減するための神経刺激システムを提供する。
【解決手段】電気パルス発生器10は、外部コンピュータシステム160を使用して信号周波数が30Hz以下、特に15Hz以下、電流の大きさが3mA以下、好ましくは2mA以下、更に好ましく1mA以下、刺激信号のオン時間対オフ時間の比が約2:1から約1:2の範囲内、刺激信号のオン時間及びオフ時間が約10秒から約5分の範囲内、パルス幅が50μ秒から500μ秒の範囲内の電気信号を発生させるようにプログラミングされる。小脳性振戦を制御するために迷走神経に電気信号を印加するため、電気パルス発生器に接続された少なくとも1つの電極を用意して神経刺激システムが構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気パルス信号による脳神経の刺激に関するものである。詳述するならば、本発明は、小脳性振戦、特に多発性硬化症と関連がある小脳性振戦の制御を改善するために迷走神経に適用できる、迷走神経の電気刺激のためのシステムの構成及びそのようなシステムのための電気パルス発生器の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(以下、「MS」と称する場合もある)で苦しんでいる患者は、幅広い多様な症状を示す。例えば、ポウザー基準(Poser criteria)によりMSと診断された患者は、身体的及び意図的な非持続性又は持続性の小脳性振戦(以下、「CT」と称する場合もある)を典型的に示す。
【0003】
従来は、MSで苦しんでいる患者は、例えば抗生物質又はポリペプチドのような薬又は生物学的に活性な化合物で薬理学的に治療されている。典型的な薬理学的治療は、インターフェロンβ−1b及びβ−1aを含む。更に、数サイクルのイムノグロブリンを投与することもできる。抗痙攣剤、例えばプリミドンは、脳の神経インパルスを制御することによって、CTを軽減できる。急性の再発の場合、コルチコステロイドが使用される。
【0004】
しかし、薬理学的治療は、望ましくない副作用を結果的に生じる場合もあるだけでなくて、また、しばしば十分な成功をもたらしていないことも判明している。
【0005】
脳の様々な領域に影響を及ぼしている脳神経に対する直接的な電気刺激を使用して、癲癇/癲癇発作、摂食障害及び鬱病を含む様々な疾患の患者を治療することに成功している。ここに引用して本明細書に組み入れる下記の特許文献1に開示されている神経サイバネティック人工装置は、電気パルス信号を迷走神経に印加することによる癲癇発作の制御に成功した。
【特許文献1】米国特許第4,702,254号
【0006】
しかし、迷走神経は、異なる大きさの数十万本の神経繊維(軸索)からなり、それら神経繊維は、一般にA神経繊維、B神経繊維及びC神経繊維と分類されており、A神経繊維及びB神経繊維は、C神経繊維とは対照的に髄鞘を有している。これら神経繊維の中には、信号を脳へ伝達する軸索(求心性神経)及び反対の方向に信号を伝達する神経繊維(遠心性神経)がある。A神経繊維、B神経繊維及びC神経繊維は、例えば、電気刺激閾値及び電気的な伝達速度において違う。また、A神経繊維、B神経繊維又はC神経繊維であるかどうかに拘わりなく、一般に一方向のみに信号を伝達する。左又は右の迷走神経枝のような脳神経幹の電気刺激が、典型的には活動電位を発生させ、その活動電位は、異なるタイプの神経繊維(A神経繊維、B神経繊維及びC神経繊維)の間で脳へ及び脳から伝達される。一般に、迷走神経刺激の影響が、孤束核を介して脳内の求心性神経複合体終端の主要なサイトに伝達されることが示唆されている。その脳内の求心性神経複合体終端の主要なサイトは小脳に左右相称に突出している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脳神経刺激がいくつかの運動障害、例えば癲癇発作に対する適切な治療である可能性があるとの認識にもかかわらず、全てではなくとも多くの脳神経のための詳細な神経経路が未知のままであることにより、どのような状態又は障害のための効能も予測が不可能である。更に、この種の神経経路が知られていたとしても、問題の特定の障害に影響を及ぼす特定の神経経路を活性化する正確な刺激パラメータは容易に予測することはできない。
【0008】
従って、特定の種類の神経繊維の、そして、特定の神経経路の電気刺激弁別、即ち神経サイバネティックのスペクトル弁別に対して、相当な研究心がかき立てられている。
【0009】
特定の状態の治療のための神経刺激の複雑さにもかかわらず、本発明の目的は、MSが関連する小脳性振戦(運動失調)を軽減するための方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、請求項1に記載のシステムによって達成される。請求項1によるならば、本発明は、小脳性振戦、特に多発性硬化症と関連がある小脳性振戦を軽減する神経刺激システムを提供する。その神経刺激システムは、プログラム可能な電気パルス発生器と、そのプログラム可能な電気パルス発生器に接続された少なくとも1つの電極とを具備しており、上記プログラム可能な電気パルス発生器は、以下のパラメータを有する電気信号を発生させるようにプログラミングされる:
信号周波数が30Hz以下、好ましくは15Hz以下、
電流の大きさが3mA以下、好ましくは2mA以下、更に好ましく1mA以下、
刺激信号オン時間対刺激信号オフ時間の比が、約2:1から約1:2の範囲内、好ましくは約1:1、
オン時間及びオフ時間が約10秒から約5分の範囲内、好ましくは約30秒から約60秒の範囲内、
パルス幅が約50マイクロ秒から500マイクロ秒の範囲内、好ましくは約200マイクロ秒から300マイクロ秒の範囲内。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の神経刺激システムは、外部電気パルス発生器又は埋め込み式パルス発生器を具備することができ、埋め込み式パルス発生器が好ましい。埋め込み式パルス発生器は、例えば体内埋め込みに適しているチタンのような生体適合材料のシェル又はケース内に収められた電気回路と電池とを具備することができ、そのシェル又はケースは、リード線に接続するための1つ以上のコネクタを有する。
【0012】
電磁誘導結合及び無線信号結合も利用可能であるが、パルス発生器は1つ以上のリード線を介して電極に直接に接続することが好ましい。又、好ましい実施例において、電極リード線は、電気パルス発生器の電気回路から皮下に形成されたルートを介して例えば患者の頚部へ延びて、患者の頚部で少なくとも1つの電極を患者の迷走神経に結合することができる。そして、少なくとも1つの電極は、患者の迷走神経に結合された双極電極対からなる刺激電極組立体を具備することが好ましい。
【0013】
図1は、患者の迷走神経100を刺激するための従来の神経刺激システムを図解する。電気パルス発生器10は、図2に示すように、本体30を有しており、その本体30は、ケース又はシェル27と、リード線60と接続するための1つ以上のコネクタ50を有するヘッダー40とを具備している。ペースメーカーのパルス発生器の埋め込み方法と同様に、電気パルス発生器10は、埋め込み外科医によって点線90で示すように患者胸部の皮膚の下に形成されたポケット又は空洞内に埋め込められる。図3に示すように、電極対72及び74を具備していることが好ましい刺激用の神経電極組立体70は、絶縁された導電性リード線組立体60の先端に電気的に接続されている。その導電性リード線組立体60は、一対のリードワイヤを具備していることが好ましく、電極対の各電極毎に1本のリードワイヤを有する。リード線組立体60の各リードワイヤは、その基部でケース27のコネクタ50に結合されている。一方、神経電極組立体70は、患者の頚部の迷走神経100に外科的に結合されている。
【0014】
神経電極組立体70は、ここに引用して本明細書に組み入れる下記の特許文献2に開示されているような双極刺激電極対から構成されることが好ましい。しかし、当業者には、本発明において多くの電極が使用可能であることは理解されるであろう。下記の特許文献2に開示されているように、2つのスパイラル状電極を、迷走神経の周りに巻きつけることがこのましく、神経電極組立体70は、ここに引用して本明細書に組み入れる下記の特許文献3に開示されているように、スパイラル状固着具76によって迷走神経100に固定することが好ましい。リード線組立体60は、周囲の組織への縫合結合によって、胸や首の動きで撓むことができるように固定されている。なお、適切なスパイラル状電極は、米国テキサス州ヒューストンのCyberonics Inc.からModel 302リード線として入手可能である。
【特許文献2】米国特許第4,573,481号
【特許文献3】米国特許第4,979,511号
【0015】
しかし、本発明は、少なくとも1つの電極が迷走神経に直接接触しない実施例も含むものである。また、電極は、図1に示すように、左の迷走神経に結合することが好ましい。しかし、別の実施例においては、電極を右の迷走神経に結合したり、左右両方の迷走神経に結合することもできる。
【0016】
本発明の発明者は、上記のようにプログラミングされた本発明のシステムが多発性硬化症(MS)患者の小脳性振戦(CT)の制御を改善する手段となることを驚きと共に発見した。しかし、本発明のシステムの正確なメカニズム及び本発明のシステムにより得られる肯定的な結果の理由はまだわからない。
【0017】
(好ましくは図1に示すように埋め込まれている)電気パルス発生器10と無線通信(即ち無線周波数通信)する図1に示すような外部ワンド170を介して、電気パルス発生器10をプログラミングするための外部コンピュータシステム160のような外部プログラミング・システムを使用して、電流振幅、パルス幅、パルス周波数、信号オン時間及び信号オフ時間のようなプログラム可能なパラメータで特徴づけられる治療用電気信号を発生するように電気パルス発生器をプログラミングすることができる。その外部プログラミング・システムは、無線送受信器と、コンピュータ、例えばヘルスケア・プロバイダによって操作可能なハンドヘルド・コンピュータとを具備することができる。最近確立した医療用インプラント通信サービス(MICS)バンドにおいて402MHz〜405MHzで動作する通信システムが適切である。但し、他の通信プロトコルを使用している先行技術システムも広く一般的に使用されている。
【0018】
MSと関連があるCTの制御の場合においては、プログラム可能なパラメータのための好適なパラメータ範囲は、信号周波数が30Hz以下、好ましくは15Hz以下、更に好ましくは約10Hzであり、電流の大きさが3mA以下、好ましくは2mA以下、更に好ましく1mA以下であり、信号オン時間対信号オフ時間の比が、約1:2から約2:1の範囲内、好ましくは約1:1であり、信号オン時間及び信号オフ時間が、約10秒から約5分の範囲内であり、パルス幅が約50マイクロ秒から約500マイクロ秒の範囲内、好ましくは約200マイクロ秒から約300マイクロ秒の範囲内であると実験的に決定できた。
【0019】
上記したパラメータは、(癲癇の場合に比べて)比較的に低い周波数で、高いデューティ比(信号オン時間対信号オフ時間に比が高い)の刺激方法であることを示している。1つの実施例においては、パルス幅は、約200マイクロ秒から約300マイクロ秒の間にあるように、すなわち、A神経繊維及びB神経繊維を主に刺激するために使用される比較的狭いパルス幅の値と、比較的高い刺激閾値を示すC神経繊維を刺激するために典型的に必要なパルス幅の値との間にあるように、選択される。
【0020】
本発明のために適切な刺激パラメータとは対照的に、癲癇発作を制御するための迷走神経刺激パラメータは典型的には、信号周波数が20Hzから30Hzで、信号オン時間対信号オフ時間の比が約1:10(信号オン時間が約30秒、信号オフ時間が約5分)で、電流大きさが1.5mAより大きく、パルス幅が300マイクロ秒から400マイクロ秒の間である。
【0021】
電気パルス発生器によって発生される電気信号は、従来技術において知られている電気パルス発生器によって容易に発生することができ且つ好ましくは患者の迷走神経に対して求心性及び/又は遠心性の活動電位を誘起するのに十分である波形を有するパルス状電気信号である。
【0022】
1つの実施例によれば、本発明のシステムは、脳波を検出して少なくとも1つの第1のセンサ信号に電気パルス発生器に出力して、多発性硬化症と関連がある小脳性振戦の開始又は前兆を感知するように構成された脳波センサを具備することができる。そして、電気パルス発生器は、その少なくとも1つのセンサ信号に基づいて電気信号を発生するように構成される。
【0023】
或いは又は上記に加えて、本発明のシステムは、振戦(震え)センサ、例えば、低周波(約4Hz)の震えを測定するために皮膚に取り付けられるセンサを具備することもできる。そのセンサは、プログラム可能な電気パルス発生器に接続され、且つ、多発性硬化症によって生じる震えを検出して少なくとも1つの第2のセンサ信号を発生しその第2のセンサ信号をプログラム可能な電気パルス発生器に送信するように構成される。そして、そのプログラム可能な電気パルス発生器は、その少なくとも1つの第2のセンサ信号に基づいて電気信号を発生するように構成される。
【0024】
或いは又は上記に加えて、本発明のシステムは、プログラム可能な電気パルス発生器に接続された筋肉センサを具備することができる。その筋肉センサは、筋肉の活動、特に自発的な筋肉の活動を検出して、少なくとも1つの第3のセンサ信号を発生し、その少なくとも1つの第3のセンサ信号を電気パルス発生器に送るように構成される。そして、その電気パルス発生器は、その少なくとも1つのセンサ信号に基づいて電気信号を発生するように構成される。
【0025】
上述した実施例によれば、患者の脳神経への治療用電気信号の供給は、1つ以上のセンサ信号に応答して行う。このような刺激方法は、一般に「パッシブ型」刺激方法と呼ばれているオン/オフサイクルだけに従う刺激方法に対して、「アクティブ式」刺激方法としばしば称される。或る実施例において、1つ以上のセンサ信号がMSと関連したCTの前兆状態又は開始又は激化を示す場合だけ、システムは患者の迷走神経に電気信号を送ることができる。震えセンサは上皮に取り付けることができて、例えば、4Hzまで周波数を有する低周波の意図振戦に特有な皮膚の振動を検出できる。しかし、他の実施例において、電気信号は、「アクティブ式」刺激方法及び「パッシブ型」刺激方法の両方において送ることができる。
【0026】
本発明のシステムは、CTを治療するために電気パルス信号を脳神経に印加するための電極対を好ましくは具備する。そして、その電極対は、第1の電極と第2の電極とを具備し、その第1の電極が、第2の電極に対して負の電位を有することが好ましく、具体的には、カソードとアノードとを有し、カソードは、アノードにより患者の脳により近く配置され、すなわち、カソードは、脳の近くに配置され、アノードは、カソードと比較して脳から遠位に配置される。
【0027】
上記した目的は更に、多発性硬化症と関連がある小脳性振戦を軽減するための神経刺激システムを構成する以下のような方法を提供することによって達成される。本方法は、
プログラム可能な電気パルス発生器を用意し、
電気信号を発生させるように上記プログラム可能な電気パルス発生器をプログラミングし、
上記プログラム可能な電気パルス発生器に接続した少なくとも1つの電極を用意して、上記プログラム可能な電気パルス発生器が発生した上記電気信号を、脳神経、特に迷走神経に加えて、小脳性振戦を制御する。
【0028】
神経刺激システムを構成する上記方法によって、人々は、小脳性振戦、特に多発性硬化症と関連する震えを改善乃至は除去する手段を獲得することができる。
【0029】
神経刺激システムは、連続的に、又は周期的に、又は間欠的に、及び/又は明確に規定された強さ、周波数その他を伴う患者の要求に応じて、容易に印加できるパルス波形信号として電気信号が発生されるように構成されることが好ましい。
【0030】
従って、電気信号の印加は、慢性症状治療のために、又は急性症状治療のために、又はそれら両方のために、行うことができる。或る実施例では、本発明のシステムは、治療の第1のすなわち急性症状治療期間の間に印加される急性症状治療信号と、第2のすなわち慢性症状治療期間の間に印加される慢性症状治療信号とを発生することができる。患者は、磁石のようなマニュアル手段によって、急性治療用アルゴリズムを起動して、CT震えの制御を改良するための緊急関与することもできる。
【0031】
本発明の方法の実施例によれば、プログラム可能な電気パルス発生器は、パルス周波数、電流の大きさ、パルス幅、刺激オン時間及び刺激オフ時間の内の1つ以上を含むプログラム可能なパラメータをセットすることによって、プログラミングされる。
【0032】
好ましくは、多発性硬化症と関連がある小脳性振戦の場においては、プログラム可能なパラメータは、信号周波数が30Hz以下、好ましくは15Hz以下、更に好ましくは約10Hzであり、電流の大きさが3mA以下、好ましくは2mA以下、更に好ましく1mA以下であり、信号オン時間対信号オフ時間の比が、約1:2から約2:1の範囲内、好ましくは約1:1であり、具体的には信号オン時間が約60秒で信号オフ時間が約60秒であり、パルス幅が約50マイクロ秒から約500マイクロ秒の範囲内、好ましくは約200マイクロ秒から約300マイクロ秒の範囲内にあるように選択される。
【0033】
神経刺激システムを構成するための本発明の方法は、カソード及びアノードからなっている電極対を使うことができる。
【0034】
更に、本発明の方法は、具体的には患者の脳波を検出して電気パルス発生器に少なくとも1つのセンサ信号を送ることによって、多発性硬化症と関連がある小脳性振戦の存在、開始又は前兆を検出するように構成されたセンサ手段を設けることができ、電気パルス発生器は、そのセンサ信号に応答して、プログラミングされたパラメータにより規定された治療用電気信号を発生する。
【0035】
更に、本発明の方法は、特に多発性硬化症によって生じた小脳性振戦特の開始又は開始の前兆を検出するように構成された筋肉センサを使用することができ、その筋肉センサは、自発的な筋肉の活動を検出して、少なくとも1つの第3のセンサ信号を電気パルス発生器に送るように構成され、そして、その電気パルス発生器は、その少なくとも1つのセンサ信号に基づいて電気信号を発生するように構成される。
【0036】
本発明の上記した目的は、神経刺激システムを構成するためのプログラム可能な電気パルス発生器を使用することによって達成される。それは、電気パルス発生器によって発生された電気信号を、小脳性振戦を制御するために脳神経、好ましくは迷走神経に印加するための少なくとも1つの電極を具備している。
【0037】
このような使用は、多発性硬化症を患っている患者に小脳性振戦が現われている場合に特に適切である。電気信号は、周期的に、連続的に、間欠的に、及び/又は患者の要求により、印加することができるパルス波形信号から成ることが好ましい。
【0038】
神経刺激システムを構成するために使われるパルス発生器は、発生させる電気信号を多くのプログラム可能なパラメータによって規定するようにプログラム可能であることが好ましい。そのプログラム可能なパラメータは、信号の電流の大きさ、信号周波数、パルス幅並びに刺激オン時間(神経を刺激するための信号生成の時間)及び刺激オフ時間(神経が刺激から回復するように信号生成をしない時間)を含む。好適なパラメータは、次のように指定することができる。電流の大きさは3mA以下、好ましくは2mA以下、更に好ましく1mA以下以下の値にプログラミングできる。刺激信号オン時間対刺激信号オフ時間の比が、約1:2から約2:1の範囲内、好ましくは約1:1にプログラミングでき、その場合、信号オン時間及び信号オフ時間が、約10秒から約5分の範囲内に、好ましくは約60秒にプログラミングする。信号周波数は、30Hz以下、好ましくは15Hz以下、更に好ましくは約10Hzにプログラミングできる。パルス幅は、約50マイクロ秒から約500マイクロ秒の範囲内、好ましくは約200マイクロ秒から約300マイクロ秒の範囲内にプログラミングできる。
【0039】
電気信号は、第1の電極及び第2の電極によって加えることができる。その場合、第1の電極は、第2の電極に対して負の電位を有し、第1の電極は、脳の近くに当てられ、第2電極は、第1の電極と比較して脳から遠位に当てられる。
【0040】
神経刺激システムを構成するためのプログラム可能な電気パルス発生器の使用の他の実施例によれば、そのシステムは、具体的には多発性硬化症によって生じる小脳性振戦の開始又は開始の前兆を検出するように構成されたセンサ手段を具備することができ、そのセンサ手段は、脳波を検出して少なくとも1つのセンサ信号を電気パルス発生器に出力し、その電気パルス発生器は、その少なくとも1つのセンサ信号に基づいて電気信号を発生するように構成されている。
【0041】
特に、本発明のシステムは、多発性硬化症と関連がある小脳性振戦の開始又は前兆を検出するように構成された筋肉センサを具備することができ、その筋肉センサは、自発的な筋肉の活動を検出して、少なくとも1つの筋肉センサ信号を電気パルス発生器に送るように構成され、そして、その電気パルス発生器は、その少なくとも1つの筋肉センサ信号に基づいて電気信号を発生するように構成される。
【0042】
更に、本発明は、電流の大きさが3mA以下、好ましくは2mA以下、更に好ましく1mA以下で、刺激信号オン時間対刺激信号オフ時間の比が、約1:2から約2:1の範囲内、好ましくは約1:1で、信号オン時間及び信号オフ時間が、約10秒から約5分の範囲内、好ましくはそれぞれ約60秒で、信号周波数が、30Hz以下、好ましくは15Hz以下、更に好ましくは約10Hzで、パルス幅が、約50マイクロ秒から約500マイクロ秒の範囲内、好ましくは約200マイクロ秒から約300マイクロ秒の範囲内の電気信号を発生するようにプログラム可能な電気パルス発生器を制御するためのコンピュータで実行可能な命令を含む1つ以上のコンピュータが読み取れる媒体を有するコンピュータプログラム製品を提供する。
【0043】
典型的な実施例によれば、患者の迷走神経を刺激するための神経刺激システムは、生体環境からパルス発生器の電気回路を保護するための生体適合材料のシェル又はケースが設けられた電気パルス発生器を具備する。ケースは、ポリウレタンのような生体適合材料で作られるヘッダーを有し、リード線に接続する複数のコネクタを有する。電気パルス発生器は、患者の胸部又は腋窩領域に埋め込むことが好ましい。
【0044】
電極対を有する刺激用神経電極組立体は、(電極対の各電極毎に1本のリード線の)一対のリード線を有する絶縁された導電性リード線組立体の先端に電気的に接続している。各リード線は、その基端でコネクタの1つに取り付けられる。電極組立体は患者の頚部の左迷走神経に結合することが好ましく、カソードは脳の近くに配置され、アノードは、カソードと比較して脳から遠位に配置される。電極組立体は、上記した特許文献2(米国特許第4,573,481号)に記載されている電極対のような双極刺激電極対からなる。
【0045】
特定の実施例において、二つのスパイラル状電極が各々迷走神経に巻きつけられ、そして、電極組立体は固着具によって迷走神経に固定される。その電極組立体は、神経の形に適合しており、神経との大きな刺激接触面積を可能にして、低刺激閾値を実現する。
【0046】
1つの実施例では、電極組立体70は、例えば白金、イリジウム又は白金‐イリジウム合金のようなの導電性材料の2つの電極リボンを有する。それら電極リボンは、2つのら旋状電極72及び74のエラストマ本体の内側面に別々に結合される。
【0047】
リード線組立体60は、2つの導電性要素を有する2つの別々のリード線を有することが好ましく、それら2つの導電性要素は、導電性の電極リボン72及び74の対応する1つにそれぞれ結合されている、各ループのエラストマ本体部分は、シリコンゴムからなり、電極のない第3のループ76が、電極組立体70のための固着具として機能する。
【0048】
電気パルス発生器は、電流の大きさ、パルス幅、パルス周波数、刺激期間のオン時間及び非刺激期間のオフ時間を含む様々なプログラム可能なパラメータに従うパルス波形として、電気信号を発生する。
【実施例】
【0049】
具体的な実施例において、神経刺激システムを構成するために使われる電気パルス発生器のプログラム可能なパラメータは、次のように設定した。電流が1mA、刺激オン時間が62秒、刺激オフ時間が60秒、信号周波数が10Hz、そしてパルス幅が250マイクロ秒であった。
【0050】
癲癇のための迷走神経刺激治療と比較して、上記のパラメータは、低周波で高いデューティ比の刺激であることを表している。使用した電流強度は、全く悪影響を示さなかった。
【非特許文献1】(Klockgether T, Ludtke R, Kramer B, et al., The natural history of degenerative ataxia: a retrospective study in 466 patients, Brain, vol. 121, pp. 589-600, 1998)
【0051】
このような具体的な神経刺激システムを、所謂Klockgether-Rating-Scale (上記の非特許文献1を参照)に従って32/40と診断された持続性CTを患っている患者に足して適用した。この診断は、拮抗運動反復不全、意図振戦、運動障害性構音障害、上肢及び下肢の運動失調、歩行及び姿勢を評価する五点評価システムに基づく。軽症の障害は1点と評価され、最大の障害は5点と評価される。
【0052】
3ヵ月後及び6ヵ月後には、Klockgether-Rating-Scale診断は、それぞれ28/40及び24/40となった。
【0053】
電気刺激によって、MSと関連があるCTに対して影響を与えて制御する正確なメカニズムがまだ判っていないが、オン時間とオフ時間が時間的にほぼ均等な比較的に高いデューティ比で比較的低い周波数での電気刺激の印加により、小脳性振戦の重大な要因と広くみなされる下オリーブの病的に変わってしまった律動性を遮断しているのではないかと推測できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】患者の体に埋め込まれて描かれている、患者の迷走神経を刺激するために使用するに適した埋め込み可能な神経刺激システムと、外部のプログラミング装置との概略図である。
【図2】リード線と電極の組立体に神経刺激装置を接続するためのヘッダーと電気コネクタとを図示する、本発明発明での使用に適した埋め込み可能なパルス発生器を図解する。
【図3】患者の迷走神経に取り付けられる、本発明での使用に適したリード線と電極の組立体を図解する。
【符号の説明】
【0055】
10 電気パルス発生器
27 電気パルス発生器のケース
30 電気パルス発生器の本体
40 ヘッダー
50 リード線組立体に接続するための電気パルス発生器の電気コネクタ
60 リード線組立体
70 電極組立体
72 電極(カソード)
74 電極(アノード)
76 電極組立体の緊迫開放固定具
80 生体組織にリード線を固定するための縫合接続部分
90 患者の体に外科的に形成されたポケット又は空洞
100 迷走神経
160 電気パルス発生器をプログラミングするための外部コンピュータシステム
170 電気パルス発生器と無線通信する外部ワンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラム可能な電気パルス発生器と、上記プログラム可能な電気パルス発生器に接続された少なくとも1つの電極とを具備する、特に多発性硬化症が関連する小脳性振戦を軽減するための神経刺激システムであって、
上記プログラム可能な電気パルス発生器は、次のパラメータを有する電気信号を発生させるようにプログラミングされている、神経刺激システム:
信号周波数が30Hz以下、特に15Hz以下、
電流の大きさが3mA以下、特に1mA以下、
刺激信号のオン時間対オフ時間の比が、約2:1から約1:2の範囲内、
刺激信号のオン時間及びオフ時間が、約10秒から約5分の範囲内、
パルス幅が、50マイクロ秒から500マイクロ秒の範囲内。
【請求項2】
脳波を検出して、上記電気パルス発生器に少なくとも1つの第1のセンサ信号を出力することによって、多発性硬化症と関連がある小脳性振戦の存在、開始又は前兆を検出するように構成された脳波センサ手段を更に具備しており、上記電気パルス発生器は、上記少なくとも1つの第1のセンサ信号に基づいて上記電気信号を発生するように構成されている、請求項1に記載の神経刺激システム。
【請求項3】
上記プログラム可能な電気パルス発生器に接続されており、多発性硬化症と関連した震えを検出して上記電気パルス発生器に少なくとも1つの第2のセンサ信号を出力するように構成されている震えセンサを更に具備しており、上記電気パルス発生器は、上記少なくとも1つの第2のセンサ信号に基づいて上記電気信号を発生するように構成されている、請求項1又は2に記載の神経刺激システム。
【請求項4】
上記プログラム可能な電気パルス発生器に接続されており、筋肉の活動、特に自発的な筋肉の活動を検出して、少なくとも1つの第3のセンサ信号を発生し、上記電気パルス発生器に上記少なくとも1つの第3のセンサ信号を出力するように構成されている筋肉センサを更に具備しており、上記電気パルス発生器は、上記少なくとも1つの第3のセンサ信号に基づいて上記電気信号を発生するように構成されている、請求項1から3の何れか1項に記載の神経刺激システム。
【請求項5】
第1の電極及び第2電極を更に具備しており、上記第1の電極が上記第2電極に対して負の電位を有する、請求項1から4の何れか1項に記載の神経刺激システム。
【請求項6】
多発性硬化症と関連がある小脳性振戦を軽減するため神経刺激システムを構成するための方法であって、
プログラム可能な電気パルス発生器を用意し、
電気信号を発生させるように上記プログラム可能な電気パルス発生器をプログラミングし、
小脳性振戦を制御するために脳神経、具体的には迷走神経に、上記電気パルス発生器によって発生された電気信号を印加するための、上記プログラム可能な電気パルス発生器に接続された少なくとも1つの電極を用意する
方法。
【請求項7】
上記小脳性振戦は多発性硬化症と関連する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記電気信号はパルス波形の信号である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
上記電気信号は、連続的に又は周期的に又は間欠的に及び/又は患者の要求に応じて印加される、請求項6から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
上記プログラム可能な電気パルス発生器は、パルス幅及び/又は電流の大きさ及び/又はパルス周波数及び/又は刺激オン時間及び/又は刺激オフ時間からなるプログラム可能なパラメータによってプログラミングされる、請求項6から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
以下のプログラム可能なパラメータは以下のように選択される、請求項10に記載の方法:
電流の大きさが3mA以下、特に1mA以下、
刺激信号のオン時間対オフ時間の比が、約2:1から約1:2の範囲内、
刺激信号のオン時間及びオフ時間が、約10秒から約5分の範囲内、
信号周波数が30Hz以下、
パルス幅が50マイクロ秒から500マイクロ秒の範囲内。
【請求項12】
上記神経刺激システムは、第1の電極及び第2電極を更に具備しており、上記第1の電極が上記第2電極に対して負の電位を有する、請求項6から11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
脳波を検出して、上記電気パルス発生器に少なくとも1つのセンサ信号を出力することによって、特に多発性硬化症と関連がある小脳性振戦の存在、開始又は前兆を検出するように構成されたセンサ手段を更に用意し、上記電気パルス発生器は、上記少なくとも1つのセンサ信号に基づいて上記電気信号を発生するように構成されている、請求項6から12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
自発的な筋肉の活動を検出して上記電気パルス発生器に少なくとも1つの筋肉センサ信号を出力することによって、特に多発性硬化症と関連がある小脳性振戦の存在、開始又は前兆を検出するように構成された筋肉センサを更に用意し、上記電気パルス発生器は、上記少なくとも1つの筋肉センサ信号に基づいて上記電気信号を発生するように構成されている、請求項1から13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
小脳性振戦を制御するために脳神経、具体的には迷走神経に少なくとも1つの電極を介して、プログラム可能な電気パルス発生器によって発生された電気信号を印加するために上記少なくとも1つの電極を具備する、神経刺激システムを構成するための上記プログラム可能な電気パルス発生器の使用。
【請求項16】
上記小脳性振戦は多発性硬化症と関連する、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
上記電気信号はパルス波形の信号である、請求項15又は16に記載の使用。
【請求項18】
上記電気信号は、連続的に又は周期的に又は間欠的に及び/又は患者の要求に応じて印加される、請求項15から17の何れか1項に記載の使用。
【請求項19】
上記プログラム可能な電気パルス発生器は、パルス幅及び/又は電流の大きさ及び/又はパルス周波数及び/又は刺激オン時間及び/又は刺激オフ時間からなるプログラム可能なパラメータによってプログラミングされる、請求項15から18の何れか1項に記載の使用。
【請求項20】
以下のプログラム可能なパラメータは以下のように選択される、請求項19に記載の使用:
電流の大きさが3mA以下、特に1mA以下、
刺激信号のオン時間対オフ時間の比が、約2:1から約1:2の範囲内、
刺激信号のオン時間及びオフ時間が、約10秒から約5分の範囲内、
信号周波数が30Hz以下、
パルス幅が50マイクロ秒から500マイクロ秒の範囲内。
【請求項21】
上記電気信号は、第1の電極及び第2電極によって印加され、上記第1の電極が上記第2電極に対して負の電位を有し、上記第1の電極が脳の近くに配置され、上記第2電極が、上記第1の電極と比較して脳から遠位に配置される、請求項15から20の何れか1項に記載の使用。
【請求項22】
上記神経刺激システムは、脳波を検出して、上記電気パルス発生器に少なくとも1つのセンサ信号を出力することによって、特に多発性硬化症と関連がある小脳性振戦の存在、開始又は前兆を検出するように構成されたセンサ手段を更に具備しており、上記電気パルス発生器は、上記少なくとも1つのセンサ信号に基づいて上記電気信号を発生するように構成されている、請求項15から21の何れか1項に記載の使用。
【請求項23】
上記神経刺激システムは、筋肉の活動、特に自発的な筋肉の活動を検出して上記電気パルス発生器に少なくとも1つの筋肉センサ信号を出力することによって、特に多発性硬化症と関連がある小脳性振戦の開始又は前兆を検出するように構成された筋肉センサを更に具備しており、上記電気パルス発生器は、上記少なくとも1つの筋肉センサ信号に基づいて上記電気信号を発生するように構成されている、請求項15から22の何れか1項に記載の使用。
【請求項24】
電流の大きさが2mA以下、特に1mA以下、
刺激信号のオン時間対オフ時間の比が、約2:1から約1:2の範囲内、
刺激信号のオン時間及びオフ時間が、約10秒から約5分の範囲内、
信号周波数が30Hz以下、
パルス幅が50マイクロ秒から500マイクロ秒の範囲内
の電気信号を発生するようにプログラム可能な電気パルス発生器を制御するためのコンピュータで実行可能な命令を含む、1つ以上のコンピュータが読み取れる媒体を有するコンピュータプログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−21225(P2007−21225A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198224(P2006−198224)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(596013970)サイベロニクス,インク. (2)
【Fターム(参考)】