説明

小麦粉加工食品の製造法

【課題】 製造時に1次加熱として調理・殺菌工程を伴い、喫食時に加熱調理される調理済み冷凍食品において、2回目以降の加熱調理によってはじめて、ふっくらとして口当たりが良く、とろみのある食感が効率よく付与されるたこ焼き・お好み焼きなどの小麦粉加工食品の製造法を提供すること。
【解決手段】 製造時に1次加熱として調理・殺菌工程を伴い、喫食時に加熱調理される調理済み冷凍食品であって、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン飽和脂肪酸モノエステルを使用した油中水型乳化油脂組成物を1次加熱前の小麦粉含有生地100重量部に対して2〜20重量部含有する小麦粉加工食品の製造法に従って、小麦粉加工食品を製造すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化油脂組成物を用いたたこ焼き・お好み焼きなどの小麦粉加工食品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
たこ焼き・お好み焼きは、従来縁日などで加熱調理されたものをすぐに喫食する食品であったため、保存されることはなく食味や食感の低下は問題となることはなかった。しかしながら最近は、物流が発達したため加熱調理後に一旦冷凍保存され、その後電子レンジなどで再加熱されることが頻繁に行われるようになり、冷凍食品の定番アイテムとして定着してきた。その結果、これまで問題とならなかった冷凍、解凍、再加熱による水分減少、品質低下といった問題が生じている。即ち、生地中の澱粉質の老化による粉っぽさの発現、とろみのある食感が低下して硬化、歯切れの悪い食感に変化、といった問題などが生じている。そこで、このような問題を解決すべく小麦粉の種類、澱粉類の併用、配合の調整、工程の改良などいろいろな検討、提案がなされてきた。例えば、平均粒子径が20μm以下の微粉末が平均粒子径20μm以上のコアとなる粉末に付着している粉末を含有させる方法(特許文献1)、小麦粉、油脂及びアセチル化澱粉を含有させる方法(特許文献2)などが開示されている。しかしながらこれらの方法においても、まだ満足できるものは得られていない。
【特許文献1】特開2003−24019号公報
【特許文献2】特開2003−52341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、製造時に1次加熱として調理・殺菌工程を伴い、喫食時に加熱調理される調理済み冷凍食品において、2回目以降の加熱調理によってはじめて、ふっくらとして口当たりが良く、とろみのある食感が効率よく付与されるたこ焼き・お好み焼きなどの小麦粉加工食品の製造法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、たこ焼きやお好み焼き等の調理済み冷凍食品において、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン飽和脂肪酸モノエステルを使用した油中水型乳化油脂組成物を1次加熱前の生地に対して特定量練り込むことで、喫食時の加熱調理により前記乳化油脂組成物が解乳化して、ふっくらとして口当たりが良く、とろみのある食感を効率よく付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明の第一は、製造時に1次加熱として調理・殺菌工程を伴い、喫食時に加熱調理される調理済み冷凍小麦粉加工食品であって、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン飽和脂肪酸モノエステルを使用した油中水型乳化油脂組成物を1次加熱前の小麦粉含有生地中の小麦粉100重量部に対して2〜20重量部含有する調理済み冷凍小麦粉加工食品に関する。好ましい実施態様は、油中水型乳化油脂組成物が、30〜70重量%の油相と70〜30重量%の水相からなることを特徴とする上記記載の調理済み冷凍小麦粉加工食品に関する。本発明の第二は、製造時に1次加熱として調理・殺菌工程を伴い、喫食時に加熱調理される調理済み冷凍食品であって、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン飽和脂肪酸モノエステルを使用した油中水型乳化油脂組成物を1次加熱前の小麦粉含有生地100重量部に対して2〜20重量部含有する小麦粉加工食品の製造法に関する。好ましい実施態様は、油中水型乳化油脂組成物が、30〜70重量%の油相と70〜30重量%の水相からなることを特徴とする上記記載の小麦粉加工食品の製造法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、製造時に1次加熱として調理・殺菌工程を伴い、喫食時に加熱調理される調理済み冷凍食品において、2回目以降の加熱調理によってはじめて、ふっくらとして口当たりが良く、とろみのある食感が効率よく付与されるたこ焼き・お好み焼きなどの小麦粉加工食品の製造法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の小麦粉加工食品の製造法は、製造時に1次加熱として調理・殺菌工程を伴い、喫食時に加熱調理される調理済み冷凍食品が対象で、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン飽和脂肪酸モノエステルを使用した油中水型乳化油脂組成物を1次加熱前の小麦粉含有生地中の小麦粉100重量部に対して好ましくは2〜20重量部含有する小麦粉加工食品の製造法である。
【0008】
本発明の小麦粉加工食品とは、小麦粉を主たる原料としてなる生地中に、野菜、海産物、畜肉などの具材を加えてから焼成してなる食品のことであり、例えばたこ焼き、お好み焼き、ネギ焼き、チヂミなどが挙げられる。そして本発明の小麦粉加工食品は、所定の配合、通常の方法で生地を作製した後焼成し、冷凍され流通に供される。そして、喫食前に電子レンジやオーブンなどで加熱された後に食される。
【0009】
本発明において冷凍食品とは、製造時に1次加熱として調理・殺菌工程、言い換えれば冷凍前の調理・殺菌工程を伴い、そのまま包装後に流通され、その後喫食時に加熱調理される調理・殺菌済み冷凍食品のことである。
【0010】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、食用油脂や乳化剤を主に含有する油相と、水や風味素材を主に含有する水相とからなる。油相の含有量は、油中水型乳化油脂組成物全体中30〜70重量%が好ましく、水相の含有量は、油中水型乳化油脂組成物全体中70〜30重量%が好ましい。さらに好ましい範囲は40〜60重量%である。油相が30重量%より少ないと、水相が多すぎるため乳化油脂組成物自体の油中水型乳化が不安定となる場合がある。一方、70重量%より多いと水相が少なくなり、たこ焼き、お好み焼きへのとろみのある食感付与など、本発明の効果が満足に発揮できなくなる場合がある。また、水相としては70〜30重量%が好ましい。さらに好ましい範囲は60〜40重量%である。水相が70重量%より多いと、水相が多すぎるため乳化油脂組成物自体の油中水型乳化が不安定となる場合がある。一方、30重量%より少ないと油相が多くなり、小麦粉加工食品へのとろみのある食感付与など、本発明の効果が満足に発揮できなくなる場合がある。
【0011】
本発明の油中水型乳化油脂組成物に使用できる食用油脂は、食用に適するものであれば特に限定されないが、例えば、コーン油、あまに油、桐油、サフラワー油、芥子油、向日葵油、綿実油、菜種油、大豆油、辛子油、米糠油、胡麻油、玉蜀黍油、落花生油、オリーブ油、椿油、茶油、椰子油、パーム油、パーム核油、カカオ脂、シア脂等の植物油脂や、魚油、牛脂、豚脂、乳脂等の動物油脂が挙げられ、また、それらの硬化油、エステル交換油、分別油等から目的に応じて適宜選択し、それらを少なくとも1種使用することができる。
【0012】
本発明の油中水型乳化油脂組成物の油相に好適に使用できる乳化剤は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びグリセリン飽和脂肪酸モノエステルの併用である。
【0013】
前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルについては、ポリグリセリン系の乳化剤であって、主としてヒマシ油を原料とする縮合リシノレイン酸とポリグリセリンとのエステル化により得ることができる。かかるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量は、乳化油脂組成物全体中、0.1〜1重量%が好ましく、より好ましい範囲は0.2〜0.8重量%である。使用量が0.1重量%より少ないと乳化油脂組成物自体の乳化が満足に得られない場合がある。一方、1重量%より多いと、乳化油脂組成物自体の乳化が強固になりすぎ、解乳化が起こりにくくなるだけでなく、乳化剤特有の悪い風味が小麦粉加工食品に影響する場合がある。
【0014】
また前記グリセリン飽和脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸は、炭素数16〜22の飽和脂肪酸であることが好ましい。かかるグリセリン飽和脂肪酸モノエステルの使用量は、油中水型乳化油脂組成物全体中、0.02〜0.5重量%が好ましく、より好ましい範囲は0.05〜0.2重量%である。使用量が0.02重量%より少ないと乳化物の解乳化が満足に得られず、またたこ焼き、お好み焼きが粉っぽくなるなど食味、食感が低下する場合がある。一方、0.5重量%より多いと、乳化油脂組成物自体の乳化安定性が悪化するほか、乳化剤特有の悪い風味が小麦粉加工食品に影響する場合がある。
【0015】
本発明においては上記のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン飽和脂肪酸モノエステルに加えて、さらに解乳化の制御を効率よく行うため、あるいは乳化油脂組成物自体の乳化安定性を向上するため、グリセリン不飽和脂肪酸モノエステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸モノエステル、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム(CSL)等の乳化剤を併用することができる。
【0016】
本発明の小麦粉加工食品の製造法においては、添加された油中水型乳化油脂組成物が1次加熱時には油脂として振る舞うため、鉄板への焦げ付きを防止するなど副次効果も期待できる。また、2次加熱以降にはじめて、解乳化を起こして水相部が遊離するため、保存中に効率良く水分を保つだけでなく、例えば水相部分にわさび、しょうがなどの揮発しやすい風味素材やかつおだし、醤油、チーズなどの呈味性の強い素材を閉じこめておき、喫食時に効率よくこれらの風味をたこ焼き、お好み焼きに付与することも可能である。
【0017】
なお、本発明に用いる油中水型乳化油脂組成物中には、本発明の効果を大きく損ねない限り、該油中水型乳化油脂組成物を安定化させるためのデキストリン類、澱粉類、キサンタンガム、グアーガム等の増粘多糖類、商品性をさらに向上するための糖類、呈味材、調味料、エキス類、香辛料、小麦蛋白、大豆蛋白等を使用しても何ら問題ない。また、発明の効果を大きく損ねない限り、商品の保水性を高めたり、風味、食感を改良するため、セルロース及びその誘導体、ポリデキストロース、小麦ふすま、大豆繊維等の食物繊維、エタノール、プロピレングリコール等のアルコール類、しらこ蛋白、ポリリジン等の保存料も使用することもできる。さらに、香料、着色料、酸化防止剤等も適宜使用することができる。なお、前記油中水型乳化油脂組成物を安定化させるための材料、商品の保水性を高めたり、風味、食感を改良するための材料、香料、着色料、酸化防止剤等は、通常食用に用いるものであれば制限無く使用できる。
【0018】
本発明の小麦粉加工食品生地に添加される油中水型乳化油脂組成物は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、油脂中に乳化剤を加え、70℃に加熱、溶解したものを油相とする。一方、水に必要に応じ調味料などの風味素材を加え、70℃に加熱して殺菌し、水相とする。油相中に水相を徐々に加えて油中水型に乳化した後冷却して油中水型乳化油脂組成物を得る。このようにして得られた油中水型乳化油脂組成物は、小麦粉加工食品の種類あるいは期待する本発明の効果の度合いによっても異なるが、加熱前の生地中の小麦粉100重量部に対して好ましくは2〜20重量部、より好ましくは5〜15重量部の割合で使用することができる。その際、該油中水型乳化油脂組成物は、生地に練り込んでも良いし、トッピングのように載せても良い。何れにしても、分散度合いは高くても低くても良い。練り込んで使用する場合は、油中水型乳化油脂組成物が固体状の場合は湯煎などによりペースト状もしくは液状にしてから混合する方が生地中に分散させ易く好ましい。乳化油脂組成物が液状の場合は、そのまま生地中に分散させれば良い。また、生地への練り込み方については、生地中に添加して十分混合する方法が一般的であるが、例えばたこ焼きの場合、一旦たこなどの具材に絡めておいてから、たこと一緒に生地の中心部に落とす方法でも特に問題はない。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0020】
<たこ焼きの食感評価>
実施例・比較例で得られたたこ焼きについて、ポリ袋に入れて密封して1ヶ月間冷凍保存した後、電子レンジにて解凍した時の食感を評価した。評価は、熟練した10人のパネラーにたこ焼きを食べて官能評価してもらい、その評価結果を集約した。食感の評価基準は以下の通り。
(なめらかさ)
◎:口の中での広がりがよく、舌触りが良好、○:口の中での広がりがよい、△:ややざらつきを感じる、×:舌触りがざらつき、口の中で広がらない。
(とろみ感)
◎:適度な粘度があり、舌への絡みがよい、○:舌への絡みがよい、△:やや粘度が低く、とろみ感が足らない、×:粘度が低すぎてとろみ感がない。
【0021】
(実施例1〜5、比較例1、2) 乳化油脂組成物の作製
表1の配合に従い、油中水型乳化油脂組成物を作製した。即ち、油脂中に乳化剤を加え、70℃に加熱、溶解したものを油相とした。一方、水に必要に応じ調味料などの風味素材を加え、70℃に加熱して殺菌し、水相とする。油相中に水相を徐々に加えて油中水型に乳化した後冷却して油中水型乳化油脂組成物を得た。
【0022】
【表1】

【0023】
(実施例6〜15、比較例3〜6) たこ焼きの作製
薄力粉100部に、水300部、全卵30部、粉末だし2部、醤油5部、砂糖2部、食塩2部、表1に示した乳化油脂組成物5部あるいは10部を加え、攪拌、混合して生地を調製した。この生地を180℃に加熱したたこ焼き器に流し込み、そこにたこのぶつ切り、天かす、きざみねぎ、紅しょうがを加えて焼成し、たこ焼き器に接した部分が焼けてきたら竹串を使用して生地を反転させた。さらに全体に熱が通るまで焼成し、たこ焼きを得た。食感について評価した結果を表2にまとめた。
【0024】
【表2】

【0025】
評価結果から明らかなように、本発明の乳化油脂組成物を用いたたこ焼きは、2回目以降の加熱調理によって、ふっくらとして口当たりが良く、なめらかで、とろみのある食感が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造時に1次加熱として調理・殺菌工程を伴い、喫食時に加熱調理される調理済み冷凍小麦粉加工食品であって、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン飽和脂肪酸モノエステルを使用した油中水型乳化油脂組成物を1次加熱前の小麦粉含有生地中の小麦粉100重量部に対して2〜20重量部含有する調理済み冷凍小麦粉加工食品。
【請求項2】
油中水型乳化油脂組成物が、30〜70重量%の油相と70〜30重量%の水相からなることを特徴とする請求項1記載の調理済み冷凍小麦粉加工食品。
【請求項3】
製造時に1次加熱として調理・殺菌工程を伴い、喫食時に加熱調理される調理済み冷凍食品であって、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン飽和脂肪酸モノエステルを使用した油中水型乳化油脂組成物を1次加熱前の小麦粉含有生地100重量部に対して2〜20重量部含有する小麦粉加工食品の製造法。
【請求項4】
油中水型乳化油脂組成物が、30〜70重量%の油相と70〜30重量%の水相からなることを特徴とする請求項2記載の小麦粉加工食品の製造法。

【公開番号】特開2009−213429(P2009−213429A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62393(P2008−62393)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】